外伝2『太平洋戦争編』
八十話『ヒンデンブルグ号の脅威』


――B世界に赴き、大暴れのヒンデンブルグ。その出自は1946年以降もナチスが健在な世界で完成され、バダンが使用しているものだ。元々がビスマルクの発展型なので、問題があった42以前と違い、装甲に『二重装甲』という新機軸を取り入れている。これは一枚板の装甲に限界を悟った同軍が取り入れたモノで、その世界の日本軍が紀伊型戦艦(超大和型戦艦)で追従するほどの衝撃を与えた。その二重装甲の耐弾性は砲撃戦で発揮され、ミッドチルダ沖海戦の第三次では大和型の50口径までの46cm砲18門の一斉砲撃を物ともせず、逆にFARMT形態の甲斐の垂直装甲をぶち抜き、大火災を起こさせたという実績を持つ。そのため、実質的に46cm世代が大和のみでのB世界艦隊では、ヒンデンブルグを止められるはずはなく、大和の護衛の戦艦達は次々と脱落していく。

「フッ、敵艦隊の中央を突破する。全艦、複縦陣を取れ」

ヒンデンブルグの艦長はレイブンズとの会話を楽しみつつも、ガトランティスのバルゼー張りの突撃戦法を指示する。水上艦ではネルソンタッチと言うべき戦法である。これはヒンデンブルグとH42型の防御力を押し出しての戦法であるが、戦艦による突撃は明らかに隙がある事を窺わせる。これに魚雷攻撃を敢行しようとする勇者がいない事に大いに憤慨し、思わず艦隊に怒鳴る黒江。

『ボケナスカボチャ共!テメーらの魚雷発射管はただの飾りか!?明らかに隙だらけだっつーの!』

黒江はいつもの調子で怒鳴るが、ここはB世界である。その事を失念していたため、B世界の面々を唖然とさせる。

「お、おい、黒江……」

『ご自慢の酸素魚雷をロングランスとか言って自慢ばっかしやがってるいつもの口ぶりはどーした!テメーらの魚雷発射管は屁も出ねーのか!?あぁん!?』

と、21世紀以降の若者的な口調でまくし立てたため、坂本Bもだが、ミーナも唖然とする。坂本が驚いた要因は口調で、黒江Bは態度が落ち着いているため、怒っても口調は硬く、女言葉も使うのだが、Aは完全にロンド・ベルの荒くれ者共に感化されているため、べらんべぇ口調である。実質的に別人である事の有意な証拠であるが、まくし立て方が荒すぎるので、坂本も驚いたのだ。

「み、美緒。大丈夫なの?」

「出たとこ勝負だな。黒江、こちらだとだいぶ大人しい性格なんだが、今、私達の目の前にいるあいつは……控えめに言って、『海兵隊に入れる』荒くれ者だしな……」

『華の二水戦の名前が泣いてるぞぉ、タマ○ン立たねぇ腰抜け共ぉ!』

黒江Aのまくし立てに思わず閉口するミーナ。完全に女子の言う台詞ではない。坂本が諌めようとする。

「黒江!口が過ぎるぞ!!」

「あんくらい言わにゃ動かんだろ、提督連中は!」

と、言い返す。実際、このまくし立てに参謀達は大いに血が上って沸騰しており、『誰だあれは!』と怒号が飛び交っている。偶々、水雷艦隊旗艦の『矢矧』に乗艦していた参謀の一人が扶桑海事変の最終決戦に従軍した者で、その声が『黒江綾香』のものである事に気づき、司令長官に進言する。

「なにィ!?しかし、そのウィッチは確か、前線にはもう出ていないはずではないのか?それに、なぜあんな西洋のアンティーク風の鎧なんぞ着込んでいる?」

と、至極当然の返しである。しかしながら、水雷戦隊がいらない子扱いされているB世界の水雷戦隊はウィッチらや空母閥から『お飾り』と揶揄されていて久しい。扶桑軍のみが水雷戦重視の設計を続けていると笑われてさえいた。その名誉の証明をしたい。その気持ちが司令官を決断させた。

『全艦、最大戦速!砲撃、雷撃用意!』

彼らは矢矧に追従できる扶桑艦のみを引き連れ、勇気ある追跡を開始する。これがB世界で史上初の艦隊戦での対艦雷撃であった。それはB世界では教本に書かれているだけの戦術だが、A世界では超甲巡、ひいては大和型戦艦までもが日常的に行う戦術である。そのため、A世界の面々とB世界の面々には落差が存在する。

「おっしゃ、やっと動き出したな、タコ共」

「中佐、無謀ですわ!相手は戦艦が6隻、巡洋艦と駆逐艦に一体何が……」

「バーロー!ウチの巡洋艦と駆逐艦はな、本来はこのために造られてるんだよ!これこそが名誉ある『第二水雷戦隊』だ!」

「し、しかし!」

「あれこそが本来、我々の海軍が目指していた姿なんだ。ペリーヌ。万が一の人間同士の戦争に備えて、な。それが役に立った。本来はこうなるはずだったのだ、海軍というのはな……」

「人間同士の戦争に戸惑うのなんて、久しぶりに見たよ。こっちじゃ、そうでないとやってられない時代だから」

「そうですねぇ。こっちじゃ、そうも言ってられませんからね」

「お主たちのように、例え、統合戦闘航空団におっても、覚悟が出来ている者とは限らん。黒田大尉。ここにおるそなた自身のようにの」

「あたし達はその事は責めませんよ。『通った道』ですからね。ただ、仲間がボコボコにされているのを黙って見過ごすような屑には成りたくないから」

黒田Aは年齢相応に大人となったところと、黒江達の影響で『義』に熱くなったところを窺わせる。普段から金の損得と向き合うようになったためか、人間関係には『心』を優先させるようになったとも言える。

「仲間は見捨てるな。そういう事よ。ペリーヌ、ハインリーケ」

智子が締める。A世界のペリーヌやハインリーケ自身が侮蔑する人種が正に、仲間を我が身可愛さで見捨てるような人種だからだ。ハインリーケもA世界では連邦軍のある兵士が送った、あるゲームキャラの『仮装』を好んで着るようになり、性格面でも義に篤い面を強め、黒江から授かった『天秤座の剣』(カリバーン)を帯刀するようになっている。数年ほど借りっぱなしなので、黒江は『そろそろ返してくれ』と催促しているとか。

「は、はい」

『各員へ。怪異の第三波だ』

「来たわね。各員は怪異を近づけさせないこと、艦隊はあたしと綾香でどうにかできる!」

アルカディア号からの知らせに、智子が指示を飛ばす。実際、黄金聖闘士はそのための集団であるので、二人で艦隊は抑えられる。階級は思い切り無視状態だが、先任であるのには変わりはないので、ミーナは了承する。

「その前にいいか、穴拭」

「何?」

「敵の戦艦、でかくないか?」

「ビスマルクの発展型だから。330mはあるわよ」

「でかくないか?」

「ドイツが48cm砲を積もうとすると、ああなるのよ。大和型は『最大限小さい』サイズでの18インチ砲艦だっていうの、理解しない馬鹿が介入者には多いのよね」

「お前、陸軍だった割には詳しいな」

「綾香の兄さんの友達に造船官がいてね。その人がよく愚痴ってるのよ。こっちの世界での事だけど」

――黒江の長兄の友人には、大学卒業後に海軍造船に進んだ者もいる。その友人に子供時代はよく遊んでもらい、成人後も『ツテ』の根源の一つになっている。(現在は造船少佐)大和型の設計時には新任の使いっ走りだったが、未来人の誹謗中傷に腹立たしい気持ちを吐露している。智子も居合わせた場では、『大和型はそもそも中速重防御で設計されたというのに、なぜ30ノット出なければ戦闘艦失格のように……』と愚痴っていた。大和型の設計当時は航空戦力が未知数の時代であり、その後の機関技術の向上で速力は当初より2ノット向上していたが、未来人からは『30ノット!!』と誹謗中傷され、FARMで地球連邦軍に一任せざるを得なかった事は悔しいらしい。また、信濃以降は船底を三重に強化する代わりに甲鈑を10cm厚みを減らす計画の事も愚痴っていた。史実でどれもが沈んだ事から、『もっと甲鈑を厚くしろ!』と新聞に書き立てられた事での混乱は甚だしく、FARMには殆ど扶桑は関わっていない。彼らの思惑がどうであれ、大和型の全艦が撃沈された歴史が存在する以上、防御力の強化は必須だった。だが、扶桑の造船技術の限界を極めた大和型を改良するというのは『無理難題』である。それが地球連邦軍に一任した理由である。それで出来上がったのが『同時代の兵器では沈みはしない怪物』で、播磨に至っては『核兵器でも無傷な化物』である。――

「こっちの世界には、あれに対抗できる『超大和型戦艦』が4隻あるんだけど、こっちには大和が一隻だけ。だから、アルカディア号に援軍要請出してもらったところ。それまで持たすわ」

「武蔵は艦橋壊して、使い物にならんしな。こっちじゃ三番艦と四番艦は空母改装対象になってるからな。もう一隻くらい戦艦増やすかも知れんな…」

「こういうことは今後はあるから、戦艦の増勢は仕方がないわ。ここじゃ金剛型は一部が退役して、大和型と入れ替わってるだろうし」

――B世界のその後の造船史に、ヒンデンブルグは多大な影響を残す。B世界では信濃と111号が空母に最終的に落ち着く(戦艦増勢論が息を吹き返すまでに、111号は空母としての船体になっていた)代わりに、A世界の超大和型戦艦を参考に、B世界流の超大和型戦艦を計画する。その数が4隻なのは、扶桑〜日向の代替であり、B世界もA世界の都合に巻き込まれた事の表れでもあった。この一連の建造ラッシュは『ヒンデンブルグショック』と呼称されるのだった――


――艦隊戦は、ヒンデンブルグの圧倒的な火力により、大和の僚艦らが次々と脱落していく。水雷戦隊の決死の突撃で進撃速度こそ緩められたものの、肝心要の打撃艦隊はズタボロで、リベリオン戦艦の不在もあり、大和以外では『ビスマルク』、『ティルピッツ』、『ウォースパイト』、『キングジョージX世』、『長門』のみが戦闘能力を保っていた。既にリットリオ級はヒンデンブルグに一蹴され、リシュリューは艦橋に直撃弾を喰らい、漂流している。その5隻のみが大和に付き従う存在となり、ヒンデンブルグの僚艦と打ち合っている。ヒンデンブルグはヒンデンブルグ級一番艦なので、まだ同型艦はない。建造中の『グローサー・クルフュルスト』の建造進捗率は30%である。いずれにしろ、ヒンデンブルグ単艦でも、『大和型二隻と同等以上』の戦力であり、大和と言えど、単艦では返り討ちにされる可能性の高い超大和型戦艦である。黒江達が残ったのも、大和の援護のためだ。

「艦隊はH39から狙うんだ!脱落させて、なんとか数を互角に持ち込め!援護するぞ!」

この時に乱入したH級は6隻。3隻の後期型を除くと、残りは前期型に分類されるH39型とH41型である。名前は調査中だが、ビスマルクの改善型であるのは確かだ。前期型までは『常識的なスペック』なので、大和以下の残存艦隊でも充分に勝てる。いつしか同航戦に移り変わり、それぞれに砲を指向させている。

「目標、敵5番艦!打ち方始め!!」

そのH39型に狙いが絞られ、砲弾が集中する。長門の41cm砲弾が艦の中央部に、ウォースパイトの主砲弾は第二主砲塔天蓋に当たり、弾かれる。続いて、大和の主砲弾が艦首に命中、同艦を揺るがせる。ビスマルクの主砲弾はバイタルパートに当たり、弾かれる。

「艦長、こちらの攻撃の半数は通じません!

「比較的小さい艦とは言え、本艦よりも巨大なのは伊達ではないと言うことか!敵弾に備え!」

「敵弾、来ます!」

「何かに掴まれ、当るぞ!」

「右舷の高角砲に命中、火災発生!!」

「消火、急げ!」

大和の杉田艦長は大和の防御力に自信を持っていたが、更なる巨大な相手に挑む事の辛さを思い出し、歯噛みする。

「ウォースパイト、被弾!」

ウォースパイトは奮戦していた。英旧式戦艦の中では、どこの世界でも武運に恵まれているらしく、A世界でも奮戦している。このB世界でも、大和の護衛を務める名誉を賜り、奮戦していた。

「こっちの豆鉄砲では効かんと言うことか。 主砲、弾種榴弾!上部構造物を焼くぞ!」

と、艦長が指示を飛ばした瞬間、ウォースパイトは大きく揺らいだ。グロースドイッチュラントの主砲弾が命中したのだ。命中箇所は第一主砲塔だ。

「艦長、第一砲塔の使用は不能です。今の攻撃で砲塔天蓋が歪み、砲身が折れたとの事です」

「第二砲塔はどうだ」

「行けます」

「よし、敵5番艦への砲撃続行!榴弾で焼くぞ!」

第一砲塔は使用不可だが、他は無傷であるため、H39への砲撃を続行した。オールドレディはどの世界でも強運らしい。だが、その分の不運はビスマルクに集中し、自身の後継者と言えるヒンデンブルグの主砲弾が艦橋に命中したと思えば、フリードリヒ・デア・グロッセの主砲弾が更に追い打ちをかけ、15000mからの砲弾がビスマルクの主砲塔に命中し、早くも戦闘能力に支障を来した。

「A砲塔、沈黙!!」

「くそ、我々の友軍にしか見えんような艦が敵だというので、砲術は怖気づいたか!……うわっ!?」

ビスマルクはもんどり打つように揺らぎ、火災が起こる。グロッセの砲弾は榴弾だったのだ。A世界と異なり、可燃性の塗料であった不運も重なり、ビスマルクは第一砲塔の周りを中心に火災を背負う格好となる。幸いにも、弾薬庫の誘爆は起きなかったが、火災が第二砲塔の照準に悪影響を生じさせ、艦橋が混乱に陥った事もあり、隙が生じた同艦は、蜂の巣にされる。

「ライン演習作戦じゃあるまいし、鉄血宰相殿はだらしがねぇな……。あれじゃ直すのも金かかんぞ……」

「設計が古いもの。だから第二次大戦型砲撃戦じゃ弱いのよね」

ビスマルクはボコボコに叩きのめされ、浮ける廃墟とも言うべき様相を呈した。二人もこれにはため息である。そして、発光信号で『ワレ、セントウゾッコウフカナリ。リダツス』と大和に知らされる。無線がやられたらしい。護衛艦は黒江がエクスカリバーで蹴散らすが、肝心要の艦はピンピンしている。そして、黒江が聖剣を主力艦に叩き込もうとしたその時だった。

「おっと、そこまでだ」

「ちっ!やっぱ、てめぇも神闘士の一人だったか!」

「俺は双子の弟と同じ星のもとに生まれ、ゼータ星アルコルの神闘衣を得た。では、見せてやろう。『シャドウ・バイキング・タイガー・クロウ!!』」

「!」

彼、ヒンデンブルグの艦長は意外にも、並の黄金聖闘士より強い実力を備えた神闘士であるようで、ゼータ星アルコルの神闘衣を纏って来た。これは神闘士でも高位の実力にないと纏えないものであり、彼が言及した双子の兄弟とともに、『ゼータ星のゴッドローブ』を纏っているとすると、かなりの実力者であるのは確かであろう。

(確か……星矢達から聞いた話だと、このゴッドローブはかなり強くないと纏えんはず。相当な実力を持つって事か)

黒江は技を受け止めるが、黄金聖衣に白煙を生じさせる威力に、遂に余裕を捨てる。

「ならば!!アトミック!!サンダァァボルト!」

アトミックサンダーボルトを放つ。聖闘士級同士の戦闘は技の応酬になりがちだが、実力がほぼ伯仲になると、格闘に発展する。それは貴重な機会でもある。アトミックサンダーボルトでダメージを与え、空中で殴り合いになる。

「おおおっ!!」

黒江は取っ組み合いになると、熊と格闘して、食料を争った経験があるために有利である。その経験から、ジーグブリーカーをかけて締め上げる。要するにベアハッグだが、黒江は鋼鉄ジーグに肖り、ジーグブリーカーと呼んでいる。

「この野郎!!ジーグブリーカー!!死ねぇ!!」

ご丁寧に『死ねぇ!』までセットで再現する。黒江Aは剣ではテクニックを駆使するが、取っ組み合いではパワー系になる。その表れがこれだ。彼は膝蹴りでジーグブリーカーを抜け出し、必殺技の通りに顔面に引っかき攻撃を食らわせる。これは効く。

「おわぁ!?ネコか、てめぇ!」

「タイガークロウと言ったろう?」

「ちぃ!ならば見せてやる!雷の極って奴を!!ライトニングテリオス!!」

ライトニングプラズマの最上位技『ライトニングテリオス』を叩き込む。凄まじい電撃が炸裂する。一瞬で100億の拳を叩き込むこの攻撃、破壊力という観点ではサンダーボルトブレーカーに匹敵する。そして、そこからのライトニングボルトである。黒江の攻撃は雷撃属性が多めである。彼の攻撃がスピードからの一撃なのに比べると、破壊力では優る。これは元々の職業柄、雷撃系を好む傾向があるのも関係している。

「ライトニングテリオスで倒れねぇタフさは褒めてやる。が、これで耐えられるか?ライトニングインプロージョン!!」

雷光爆縮と呼ぶべきその技は、ライトニングボルトの第二の発展形である。爆縮の名の通り、ライトニングボルトの100倍を誇るエネルギーを爆縮させる恐るべし技である。本来、使うべき獅子座の聖闘士として、その在任期間が10年ほどであったアイオリアは習得しておらず、黒江の纏う聖衣の記憶を智子の神としての能力で引き出して再現したのものだ。アイオロスは習得していたらしく、記憶に刻まれたその姿は彼のものである。当然、凄まじい爆縮が起こったため、大和すらも大いに揺るがせるほどの衝撃波を起こす。

「ぐおおおっ……これほどのエネルギーを操るとはな。サジタリアスになれたんじゃあないのかね?聖剣を宿していなければ」

「あいにくだが、私はカプリコーンを継いだが、サジタリアスでもあるんでな」

「ふ……それは遠い未来でのことだろう?」

「まあな」

黒江は後継者の翼にカプリコーンを譲った後、星矢の負傷や行方不明などでサジタリアスを、紫龍の負傷でライブラを纏う機会がある未来が待っているため、三つの守護星座を持つ。これは弟子のフェイトがレオ→アリエス→スコーピオンを渡り歩くのと共通している。

「んじゃ、味わってもらうぜ。射手座としての最大奥義!インフィニティィィブレイクぅぅ!!」

インフィニティブレイク。無数の光の矢で敵を貫く技である。黒江はアレンジを加えており、最後にライトニングテリオスを放つ。その破壊力はこの世のものとは思えぬもので、ゴッドローブを纏っていなければ、彼はたちまちに消し炭だ。

「さすがだな……ゴッドローブを纏っていなければ死んでいたぞ……」

「テメーは生身の人間なのか?」

「そうでなければ、神闘士にはなれんよ」

バダンは生身の人間の率が低いが、神闘士になるには異形の体になる必要はないので、小宇宙に目覚めれば、改造手術が免除される。生身で下手なサイボーグよりよほど強く、人間の限界も超えられるため、改造魔人や仮面ライダーなどの化物クラスを除けば、最強クラスであるため、上位の立場となれる。バダンも改造手術に泥酔していないと言うことだろう。彼はその小宇宙で下手な怪人より上の立場に登りつめ、アポロガイストやジェネラル・シャドウからも一目置かれる立場となった。そのタフさはインフィニティブレイクにも耐えきるほどだ。

「インフィニティブレイクで死なんたぁ、タフだな。テメー」

「ゴッドローブは壊れたがな。そろそろ本職に戻らせてもらうよ。この場で決着はつけるべきではない」

「確かにな。あんたの艦、珍しく三連装砲塔じゃないか。なんでだ?」

「戦訓で採用されたのだよ。それと、私は君達が思うような世界の住人ではない。私が元いた世界では、イギリスとの戦争に勝てたのでね」

「アシカ作戦でも成功させたか?」

「そうだ」

彼は『ナチスがイギリスを屈服させた世界が故郷である』事を示唆し、ヒンデンブルグに戻っていった。ヒンデンブルグの出自はそこにあるのかも知れない。


――B世界ウィッチ達は護衛が強すぎて、ほぼ蚊帳の外状態であった。マジンカイザーとマジンエンペラー、更にはロボットガールズが護衛についているので、ミーナ達は大した苦労もせず、撃墜数を増やしていた。

『ゲッタァァビッィィム!!』

『ザウゥルガイザー!!』

ゲッタービームとザウルガイザーの同時攻撃で怪異はどんどん落ちる。面白いように。大型はWマジンガーが武器を使えばいい話なため、そもそもドッグファイトに入る必要が無かった。つまるところ、護衛が強すぎるのである。

「あの、隊長、私たちは何をすれば?」

サーニャBが問いかけるが、ミーナBも返答に困る。なにせ、長距離の敵を複数、補足できる電探を持ち、戦艦を一瞬でスクラップにできる武器を持つ者達だらけであるので、自分達は何をすれば良いのか、分からない。

「あなた達は私達の撃ち漏らした敵を落としてください。目視監視は怠らないで」

「わ、分かりました。なんと呼べば?」

「ライガ。それが私の名です」

ライガはそれだけ言う。ライガの声色は、ペリーヌの僚友のアメリー・プランシャールに似ているが、感動屋のアメリーと違い、凛々しさを前面に押し出した雰囲気を持つ。そのため、ペリーヌはどこか懐かしさを感じた。

(この方、アメリーさんに似た声色をしておられますわ……。雰囲気は全く異なりますが、懐かしいですわね)

と、しみじみしている間は戦場にはない。501全体を狙って大出力ビームが放たれるが、これは芳佳が止める。すぐにマジンカイザーがTスマッシャーパンチで報復を行う。

「あなた達の力は神様みたいに凄いです。でも、私達だってウィッチです!戦えます!」

『その意気だぜ、芳佳ちゃん。その言葉を待ってたぜ』

「向こうの私によろしく言っておいてくださいね、えーと。兜甲児さん」

『おう。芳佳ちゃんはどこでも強い意志がある。それなら、奇跡も起こせる。昔の知り合いが『奇跡を起こしてみせる』って言ったらしいって聞いたが、そいつを思い出した』

『奇跡は起きるものじゃない、日々の努力の積み重ねや絆の力で、自らの意思で起こすものなんだ。向こうの君にも言ったが、それをよく覚えておけ、芳佳ちゃん。』

鉄也も言う。甲児は、かつての戦友のタカヤ・ノリコのようなひたむきさを芳佳に見たらしい。どこか懐かしさを感じたようであった。甲児は戦友と言える間柄だった『タカヤ・ノリコ』の帰還を待ちつつ、マジンカイザーで戦っている。そして。黒江が黄金聖闘士として戦う中、ウィッチとのハイブリットで戦闘を行う智子の姿があった。『炎と氷』。二つの相反する属性を操り、水瓶座の黄金聖衣を纏い、更に炎の翼を顕現させる。その姿は実に年頃の娘達の心をくすぐる。

「あれは!?」

『智子ちゃん、飛ばしてるな』

鉄也が言う。

「穴拭は炎と氷を操れるようになったからな。その手の趣向の奴には、ますますモテるようになったんだとか……。」

「あの人、去年に芳佳ちゃんがもらった人形のモデルになった人なんですよね?凛々しそうだけど、茶目っ気があって、真面目一辺倒でもないんですね……なんだか不思議です」

「あいつはそういうやつだ。特に向こうの世界ではな。黒江が変えたんだよ、穴拭を。黒江は人を引っ張る力を持っている。ここでは、人を導くのが上手い奴だったが、向こうでは宮藤と同質の性質を持っているようだ……。そして、穴拭もだ。ここでのあいつ自身より明朗快活で、よく笑う。それでいて、戦闘では修羅となる。あれがあの二人の恐ろしいところだ」

坂本は、黒江達の二面性をそう評する。戦闘では修羅となり、普段は明朗快活であるギャップ。しかも戦闘では情け容赦が殆どない事から、B世界の少女たちは薄ら寒い気持ちを感じるが、A世界はウィッチが『戦士』である事を純粋に求められる世界である。それを思えば、仕方がないのかも知れないと、リーネは考え、割り切った。


――ちなみに、この頃、ノリコ達より先に地球圏に帰還したユング・フロイトは地球星間連邦大統領選挙に出馬し、大統領になって、ノリコとカズミを迎えるつもりらしく、次期大統領選挙に出る気満々である。政治家に転身する気なのだ。ゴップの後援で出馬する予定なのと、軍出身になるので、ジョン・バウアーやゴップと同じ国防族になる。大物議員の後援がなければ、ユングは弱小候補であったが、国防族議員の超大物達が支援を表明したこと、ユング自身が連邦宇宙軍でも『宇宙戦闘の天才』と謳われたエースパイロットであり、トップ部隊の生き残りという箔がゴップのメディア戦略のもと、公表されたため、一転して有力候補となった。他の+要素は、ユングの出身地が、連邦時代では日陰者として誹りを受けてきた旧ロシア連邦であることであった。これまで、ロシア系大統領は反統合同盟のこともあり、出して来なかった地球連邦だが、ユングが大統領となれば、反統合同盟以来の屈辱を晴らせるという期待が旧ロシア系の人々にあったため、それを票田にする戦略を指示される――


――暗黒星団帝国との戦争終結直後――


「ユング君。君があの二人のために地球をより良くしたいというのが、大統領選挙に出る本当の理由だね?」

「ええ。閣下にはお話しなければならないと思っておりました」

ユングはこの時、現役軍人であった。階級はカズミに追いつき、中佐。立候補に当っては、大佐扱いで退役後に立候補する運びである。(退役受理の即日に立候補するつもりであった)ゴップも、生前のオオタ・コウイチロウ中佐の後援者であった関係で、ユングがその意志を引き継いで『グレートガンバスター』計画を発動させた際、その後援者となり、ガンバスターUを退ける形で軍に採用させた。かなりのコストがかかり、ガンバスターUを3機造れるほどの金額がかかったが、ワンオフ機として造った分、高性能化は達成されている。ガンバスターは初代機時点では少数生産機の予定だったが、それでも生産コストが当時の連邦軍には負担だったため、試作一号機のみで生産打ち止めとされた。が、それに見合う活躍を見せたため、簡易量産型のシズラーが造られた。その後継機種開発はガンバスターセカンドと言う名で試作されていたが、ユングが帰還後にグレートガンバスターをゴップとジョン・バウアーの後援で開発させた事で開発計画に混乱を招いた。が、グレートガンバスターは初代機の面影を色濃く残し、パワーも初代機が霞むほどと、異様な高コストを補って余る高性能を誇った。『初代機の面影を残す』デザインはプロパガンダにも最適と判断され、メカトピア戦争に前後する時期にロールアウト後に正式採用。当初計画を変更し、グレートガンバスターは第二世代型ガンバスターの地位に収まった。当然、予定パイロットはあの二人なため、ユングが私蔵している状態である。

「Gガンバスターはあの二人に与えるとして、シズラーの近代化も行なう必要はある。セカンドの設計を第二世代シズラーに流用させる」

「ええ。よろしくお願い致します」

暗黒星団帝国壊滅後、銀河殴り込み艦隊の帰還が進行したため、連邦軍は大破、中破状態のスーパー及びツインヱクセリヲン級を廃棄し、解体で得られた資材で、代替の『長門型戦艦』(波動エンジン搭載型第二世代主力戦艦)の建艦が進められていた。これは軍縮時代にヱクセリヲン級の整備ドックが殆ど廃棄されていたのも関係しており、再稼働しているドックの分を超える艦はモスボール保存か、解体の道を辿り、銀河殴り込み艦隊でそのまま維持されたのは、無傷であったエルトリウムとその護衛艦隊のみである。そこにエルトリウムの姉妹艦『アレクシオン』が編入されたため、新生連邦軍の象徴的位置づけでエルトリウム級は宣伝されている。同級は70キロメートルであり、23世紀時点の地球圏では最大の巨体を誇る。それはジオン系勢力からの反発を受けている。ジオンが造った最大の巨艦『ドロス改級/ミドロ』すらおもちゃ扱いの巨体、宇宙怪獣すら問題にしない戦闘能力から、ジオン系の勢力、特に旧ギレン派からは『悪しき連邦の大艦巨砲主義の象徴』と唾棄されている。エルトリウム級は運用でメリットが多いが、デメリットも膨大であるので地球連邦軍も維持費の捻出に苦労している。しかし、『宇宙怪獣にも屈しない人類の象徴』としての存在意義から、アレクシオンが造られ、最終的に二隻体制となった。実際にジオン残党にこの艦級は脅威と写り、何度もアレクシオンの建造中にはテロ攻撃が行われた。このように、宇宙軍に軍事予算の多くが振り分けられるのに反発する地上軍は、どういうわけか洋上戦艦を復活させている。『戦艦と言えば、宇宙軍』のイメージが濃い昨今の風潮に反発した地球連邦海軍は、『沿岸警備隊だろ?』というその身に染み付いたマイナスイメージを払拭せんと、『戦艦』を復活させた。一年戦争中に、最終時のアイオワ級戦艦をベースにしての試案のみが存在した設計を引っ張り出し、『ユトランド級戦艦』として建造している。連邦海軍の水上艦の火力では『水上に出てきた水陸両用MSを撃破出来ない』事が常態であったのも、戦艦の復活の大義名分とされた。その古い設計を再利用し、『ユトランド』、『レイテ』、『ペリリュー』の三隻が古戦場の名で建艦され、四番以降は刷新され、扶桑向けの『播磨型』の設計の内、艦橋などの上部構造物が宇宙軍の主力戦艦改級の流用となっている。なお、宇宙戦艦達が51cm砲を有し始めた時世なため、61cmという凄まじい大口径砲を積んでおり、重装甲で鳴らしたゾックをも一撃で粉砕するレベルである。


「海軍の連中が軍需産業に乗せられて、戦艦を作りおったよ。海上で戦えるジオンの船などは存在せんというのにな」

「確かに」

「今回の戦艦だが、一年戦争の時に50cm砲を積んだ試作艦が三隻存在しておる事が分かった。横流しされてなければいいがな」

「ティターンズに横流しが?」

「海軍はここ十数年の沿岸警備隊扱いに腹を立てておる。奴等なら平然とやりかねんよ」

「信じられません。まさか、そのような」

「欲しいのだよ。自らの役目を奪った形の宇宙軍へ当てつけになるような事実が」

――連邦海軍は一年戦争で大型艦の多くを開戦劈頭に喪失、以後は小型艦艇を中心に再建されたため、大型水上艦艇の存在が貴重になっていた。水陸両用MSの更新はできず、未だにアクアジムが現役の有様である。ティターンズシンパも陸海軍に多く、ティターンズ残党の援助への出処の多くは陸海軍である。ユングやゴップが呆れているのは、ティターンズ残党への『有志の援助』の出処が同じ連邦軍であり、宇宙軍に反発する陸海軍である事なのだ。実際、先の戦で本星軍で暗黒星団帝国に抵抗した部隊の多くは宇宙軍か空軍の部隊で、陸軍の殆どはパルチザンに非協力的であった。暗黒星団帝国戦前までは、旧エゥーゴが、暗黒星団帝国戦後は旧パルチザンが政府と軍の実権を握るのを快く思わない者が、扶桑への肩入れに憤慨し、21世紀の無知な左派を煽ったというのが、21世紀人を利用した23世紀過激派の暗躍だった。連邦軍が扶桑などの私的制裁などの事態収拾に自らも噛んだ理由は、旧ティターンズシンパやジオンシンパが21世紀人を『駒』として使い捨てにしていたからという、しょうもない理由であった――

「この新聞は扶桑の新聞だが、逮捕されたテロリストが現地軍への破壊工作を告白しておる。その中で誰かから『扶桑は軍国主義』と吹き込まれていたと言っておる。その黒幕が我々の身内にいた」

ゴップが執事に出させた扶桑の『経産新聞』。ゴップ家が出資したため、今では扶桑政府と連邦軍お抱えの新聞社である。この新聞社は坂本の騒動にも、坂本の名誉回復に尽力してくれた縁で、64Fとも太いパイプを持つ。その関係で扶桑皇国軍も同新聞社を優遇するようになり、1949年の段階では旭新聞に代わり、扶桑皇国軍のお抱え新聞となっている。ゴップは出資する事で、同新聞社に軍隊を礼賛させる記事を書かせ、ハワイ決戦を扶桑人が許容する空気の醸成を図っていた。ゴップは、『ジャブローのモグラ』とアニメでは描かれているが、実物はこうした策謀に長ける大人物であり、ロンド・ベルと飛行64Fなどの志ある者達の後援を行う鷹揚さを備える男なのだ。そうでなければ、あのユングが『閣下』と呼ぶわけがない。

「閣下はこれからどうなされるのです。

「飛行64F向けのガンダムタイプの捜索を行うことになっとる。先の戦で少なからず回収出来たが、RX-78-8だけは発見されておらんからな」

「ファーストガンダムタイプの最後の個体ですか?」

「うむ。これだけは謎のベールに包まれておるからな」

「確か、ジムのテストベッドにされた後はセカンドロットに改修されたはずでは?」

「そうなのだが、サードロットにされたという話もあってな」

RX-78はプロトタイプガンダムとして8機が造られた。その内、ファーストロットがG3まで、その後の実験機としての個体が三機。7号機の完成は戦後であるので、デラーズ紛争までの期間には完成したと思われる。8号機に関してはそれ以上の詳細が分からない。ティターンズにmkーUのテストベッドとして接収されたとも、基地の移動の際に消失したともされる。また、サードロットなる生産ロットの個体として再生されていたのでは?という話も残っている。そのため、最近の軍事マニアの間では垂涎ものの都市伝説扱いで、ネットで検索すると、マニアの仮想コンピュータグラフィックが大半を占める。ゴップの立場を以ても、プロトタイプガンダムとしての姿を捉えた写真の入手が限界だった。プロトタイプガンダムは製造数10数機分。テストに供されたのが8機であるのは分かっている。その内の実戦で活躍した2号機、後にそれぞれ別仕様に生まれ変わった3体。この中で終戦を無事に終えたのは5号機のみである。マドロックとペットネームが与えられた6号機は、パイロットの技能差がたたり、大破。修復はされたものの、汚名は払拭できず、戦後すぐに三菱へ払い下げされている。RX-78系では不出来な個体とされたのだろう。7号機や5号機が軍の管理下に置かれ続けたのとは対照的だが、事もあろうに、旧ザクのカスタマイズ機に負けたという戦歴はマドロックの余生に影響を与えた。(パイロットのエイガーも、ティターンズに一時在籍した事実から、地球至上主義者と見られ、グリプス戦役後に辺境の北極基地に教官として赴任させられ、この時代では、彼の年齢的にMSパイロットとしての『寿命』が近いため、退役間近とのこと)

「一年戦争では少なくない『ガンダム』が撃破された。歴代ガンダムの中では省み見られる事も少ない日陰者としてな。RX-78-6がそうだったように」

「ええ。歴代ガンダムの歴史で出てくるのは、RX-78-2、その次はMK-2とゼータ、ダブルゼータですからね」

「戦争を終結させる力をガンダムタイプは持つ。それを使いこなす者に巡り会えなければ、豚に真珠、猫に小判だ。マドロックなど、二回も撃破されている。ロクな戦果もなく、な」

「あれはパイロットの技能不足では」

「そうだ。ジオン残党がよく引き合いに出すのが、闇夜のフェンリル隊のマドロックと、サンダーボルト宙域でのフルアーマータイプだが、後者は活躍してから撃破されたが、マドロックは我が軍の恥だよ」

ジオン残党に広く知れ渡っているガンダムタイプ撃破の事例はパイロット技能差が左右して勝利をもたらした事が多い。マドロックはパイロット間の技能に甚だしい差があった。サンダーボルト宙域での事例は『サイコザク』という化物相手に相打ちに持ち込んでいる事から、後者の方がジオン残党に好まれている。ガンダムタイプは時代が進むと、その時代の最先端MSの体裁が濃いためと、配備先が当代最高レベルのエースパイロットに限られてくるため、マドロックのような事例は起きていない。彼らの事例はいつしか、連邦軍に『ガンダムタイプはエースパイロット専用機』とする暗黙のルールを設けさせた。リガ・リミティアのV系統を除き、それは守られていて、軍のガンダムタイプの大半がロンド・ベルに配備されるのも、そのためだ。軍のガンダムタイプ、あるいはそれに準じる機体を受領できるのは、原則として『熟練者が多く、多数との交戦が想定される部隊』のみとされているのも、撃破された場合の損失との兼ね合いだ。その兼ね合いで、高性能量産機が増加傾向にある。(ジェスタやグスタフ・カールなど)

「さて、執事に君に見せるモノは揃えさせておる。儂はそろそろ行かなくてはな」

「どこに行かれるので?」

「ベルファストだ。あそこからジーラインが持ち出されたらしいので、もしかしたら件のもそこにあるかもしれん」

ベルファスト。旧英国の港湾基地である。そこには戦後、機密兵器がかなり貯蔵されたらしいので、『戦災復興記念式典』の参加を名目に、現地に赴くのが目的だった。ジーラインが集積されていた以上、RX-78系もあるかも知れない。64Fの要請もあるため、なるべく早く見つけたいのが本音だった。(64Fは任務の性質が殆ど海兵隊化している都合、ガンダムタイプを欲している)

「予備のリストアップはさせているので?」

「一応、ゼータタイプとF91タイプをリストアップさせておいたが、オーソドックスなRX系を先方が欲しがっていてね」

ゴップは邸宅を後にしていく。RX系が64Fの注文なので、78系が確保出来ない場合は、93系(νガンダム系)を送るつもりだとも告げる。Z系を除くと、RX-178は払い下げ済み、RX-161『イグレイ』は所在不明(キリマンジャロにあるとも)である。ティターンズ系であるので、先手を打たれた可能性もある。そうなると、残りはRX-93系統である。それは最も高コスト(ファンネルを搭載しなくとも)になる。アムロ専用機に等しいので、νの追加建造は難しい。それは財政関係から不満が出るので、できれば、RX-161『イグレイ』の現存を祈ったゴップだった。机には、64Fからの要請が記されている書類が置かれていた。武子の字で(英語である)、『RX系のガンダムタイプを頼む』という内容で、武子としては、変形機構の複雑なゼータや合体機構のあるダブルゼータ系ではなく、RX系やF系のようなオーソドックスな機体が欲しいのが本音であろう。



――この頃の連邦政府、時空管理局の懸念材料が一つ存在する。『航空技術が発達しなかった』世界にバダンが一大空母戦力を持ち込み、制圧してしまわないか、である。空母機動部隊が一切存在しない世界に、第二次大戦後期レベル以上の空母機動部隊を持ち込めば、絶対的制海権を握れる。例えれば、黒江が友人に勧められて見始めた『はいふり』のような。空母が一切合切存在しない世界に、空母機動部隊一式が持ち込まれた場合、絶大な軍事力になる。ましてや21世紀レベル以上となれば、相手が対抗手段も練れないままに世界征服すら可能である。(特に、同作品のように、戦争に使わない目的で軍艦を転用していたり、陸軍が存在しない日本であれば、陸海空の連携が出来た軍隊であれば、制圧は容易である)それを懸念した連邦政府と時空管理局は、次元世界を探査し、バダンの魔の手が及んでいないか、調査を行っていた。連邦海軍の洋上戦艦復活は、政府のそのような世界の調査に用いる目的も兼ねていた。大口径の61cm砲を積んだのも、敵性勢力と見られた場合、その世界の如何な戦艦をも叩きのめし、撃退するためであった。その世界と思われる世界の調査任務には、連邦海軍の虎の子艦隊『第3艦隊』が駆り出されており、その旗艦を務めるユトランド級『ペリリュー』は全長は450m、幅は61cm砲の反動に耐えられるほど。原案ではモニター艦的運用が想定されたため、自艦の主砲に耐えられない程度の装甲であったが、建造中に相応の重装甲を与えられている。



――何度かの艦隊ごとの次元転移を行った結果、偶然にもその世界に転移した。が、その場所が余りにも悪すぎた。現地の艦隊の進路上に連邦海軍艦隊の全艦が転移してきたため、双方が慌てて回避を行う羽目となった。当然、連邦海軍は現地で用途不明に当たる艦種である航空母艦(攻撃型、対潜)、強襲揚陸艦も存在したので、現地の艦隊を戸惑わせた。連邦海軍はあらゆる事態を想定して、フル装備で転移しているので、どの空母には航空兵器がびっちりと並んでいるし、強襲揚陸艦の内部にはMSも控えている。連邦海軍は出方を伺う。ユトランド級の威容は全長で大和型の二倍以上に相当し、扶桑軍に提供した三笠と富士の能力アップグレード版に相当する。主砲も大和が霞む61cm砲。これを食らった場合、特別な改良がなされていない場合の大和を含めた如何な船のバイタルパートを撃ち貫き、キールを歪ませる。民間船であれば、10万トン級の客船が一発でへし折れる。(カール自走臼砲をカノン砲として船に乗せて撃つようなものである)それが三連装で三基。オーソドックスな配置である。砲弾の重量は有に3トンに達する。それをまともに喰らえば、長門型世代までの戦艦は一撃で弾薬庫までを貫通され、轟沈する。それ故、自分からの発砲は避けている。もちろん、大和型の主砲弾であろうと、61cm砲対応防御艦の装甲は貫けない。紀伊型戦艦と思しき艦を旗艦にした艦隊は狼狽えていたように、連邦海軍司令長官には見えた。大和型の二倍はあろうかという艦が巨砲を振りかざしている。それがその世界との『始まり』であった――


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