外伝2『太平洋戦争編』
九十七話『待っていたぜ、デビルマシン2』


――さて、黒江の成り代わりの事の説明が終わると、マジンガーの説明をしなければならないだろう。マジンガーは量産されるという点ではリアルロボットの、象徴的に扱われる点ではスーパーロボットのテンプレートを確立させた存在である。マジンガーはスーパーロボットの象徴として扱われるが、リアルロボットの要素も多分に含んでいる。神秘性も含んでいるため、あらゆる系統のスーパーロボットの元祖とも言える。その上位機に与えられるのが『皇帝』の名前である。そもそもがZの前身『エネルガーZ』がゲッターエネルギーで自己修復と超進化を遂げて生まれたのが元祖マジンカイザーであるので、科学一辺倒の頭だと理解に苦しむのは確実である。調Bと翼Bもそのクチであった。ゲッターエネルギーという進化を促す超エネルギーが起こした奇跡の産物。それがマジンカイザーである。それと同格の性能を備えるマシンが『魔神皇帝』のカテゴリになる。性能がグレートマジンガーと比べても格段に強力になるので、限られたパイロットしか乗れない。甲児や鉄也でも相応に鍛えないと制御が難しかったマシンだ。その説明映像が流される。今後の連携もありえるからだろう。始祖と言えるマジンガーZからグレートマジンガーの映像も入っている。

「これは?」

「今後のこともあるので、見せておくように言われてます」

調Bはそう答える。マジンガー系統のスーパーロボットを語るには、偉大なZとグレートは外せないからだ。Zあってのカイザー、グレートあってのエンペラーである。マジンガーZとグレートは同じ時期の親子の構想から派生していった兄弟機である複雑な関係もある。

「マジンガーZとグレートマジンガーは同じ構想から分かれた機体なのか?」

「グレートのほうが後発なんで、色々改良されてる以外はZの基本フォーマット通りですよ。それぞれの能力で差別化は図られていたそうですので」

「マジンガーZか。前に叔父様がアニメで見ていたが、実物が動いてるというのは現実感がないな」

「平行世界の神秘ってやつだろ?あたしらだって、他の世界じゃ『アニメ』で放送されてるっていうしよ」

「でも、なんだが実感がないなぁ。アニメで見たのが動いてるなんて」

「そんな事いうなら、私達だって同じですよ」

「うわぁ!?し、調ちゃん。それって」

「どこでもドアですよ。ちょうど休憩時間取れたんで、どこでもドアで前線から来たんですよ。ドラえもん君がスパイセットで様子はチェックしてくれてたんで」

調Aがどこでもドアでやってきた。ドラえもんから道具を借りているらしい。どこの世界でも、自分はツッコミ役なのかと嘆息である。マジンガーについては、自分の方が適任と判断したのか、説明役をBに代わって引き受ける。

「マジンガーZは現実的に説明しますと、『従来の機動兵器の概念を覆し単機で戦略的火力を扱える『スーパーロボット』という概念を生み出した機体に当たります。その能力はおおよそ、アメリカ海軍の空母戦闘群が戦闘でもたらすのと同等の破壊を一機で可能になったと例えられるもので、言うなら、戦闘機の機動力と戦艦の装甲と火力を持った戦車に近いんですよ」

「それじゃ、その弟に当たるグレートマジンガーって?」

「元は空戦型の構想がスタート地点で、正確に言えば定まった最終到達点のための礎となる試作機が当初のポジションです」

「それがどうして、実戦に使われたの?」

「設計の途中でZでも太刀打ちできない強さの敵の暗躍が分かって、設計を転換して実戦用に仕上げ直していったのが本当のところかな?翼の部分に衝撃が加わると、一瞬だけど全機能が停止する弱点があるんだ、グレートマジンガー」

「それでよく投入したわね」

「特定の部位にあたんないと、その現象は出ないし、ピンポイントで狙われるとは限らないからとりあえず据え置かれてたんだ。追加装備で補う方向になっていったし」

グレートマジンガーのオリジナルには、そのような最大の弱点が存在していた。スクランブルダッシュ周りの回路のデリケートさが仇となったので、科学要塞研究所との交流が始まり、グレートマジンガーの設計を見た弓教授がそれに気づき、現在も外付け装備に傾倒する理由となっている。この弱点は後で改良されたとは言え、弓教授がスクランダー方式に傾倒する要因となったので、兜剣造とそこで衝突しやすくなっている。

「で、グレートを基礎にして、最終到達点って言えるゴッドマジンガーが計画されたんだけど、技術不足やグレートマジンガー以上の装甲材がネックになっていて、そこで思い切ってエネルギーを反物質エネルギーに変えることになった」

「それまでは、なんてエネルギーで動いてたんだ?」

「光子力っていう日本の富士山麓でしか取れない元素から取れる光のエネルギーです。出力は原子力より上で無公害なんですけど、富士山麓しか鉱脈がないから、それまでのエネルギーを全面的に代替するには至らなかったエネルギーです。そこで、より出力が高くて、エンジンとしても、より整備性の良い陽子炉に変えて性能アップを狙ったんです」

「陽子炉?」

「反物質のエネルギーを動力にするエンジンです。反物質の制御や反物質を縮退させないでエネルギーに変える方式の開発に手間取って、予定より大幅に遅れたんですよ」

「確か、反物質は普通の物質と触れ合うと対消滅を起こすはずだが?」

「ええ。かの宇宙戦艦ヤマトが二番目に戦った宇宙人との戦いがそうであるように、その点が最大の難点でした。その実用化は困難を極めた。何せ、上手く制御しないとその場で核爆発ですからね」

「それをどうやって?」

「ミノフスキー物理学という、ガンダムの核融合炉を作る技術の応用で目処はたったんですが、問題は膨大なエネルギーに耐えられるだけの金属です。グレートマジンガーの超合金ニューZでも性能不足でした」

超合金ゴッドZの実用化はコロンブスの卵的な発想で、弓教授が超合金Zに陽子エネルギーを照射することで、超合金ZがニューZも問題外なほどの強度を持つ事を発見し、この金属を超合金ゴッドZと名付けた。その強度はニューZの20倍を超えており、鋼鉄換算ではとんでもない倍数になる。(ニューZで鋼鉄の5000倍の強度であるので)その開発は終わったものの、その頃にガトランティス戦役が切迫する前の左派全盛の時代を迎えていたので、補助金が削減されてしまい、その事もゴッドの開発遅延に繋がった。それが戻るのはミケーネ帝国にZが倒され、彗星帝国の本隊が太陽系に侵攻を始めた頃であったので、ゴッドの完成はメカトピア戦役にも間に合わずじまいであった。その合間に登場したのがマジンカイザーだった。

「結局、肝心のゴッドマジンガーの完成は遅れに遅れて、戦争が2つもその間に終わっていたんです。その間に発見されたのがマジンカイザーでした」

「発見?まるで化石が見つかったみたいな言い方だね、えーと…」

「同じ存在には違いないから、同じ呼び方でいいですよ、響さん。それで、これは光子力研究所が出来たときに封印される第7格納庫にあったマジンガーZのプロトタイプです」

「これは?」

「マジンガーZの更に前段階のプロトタイプ。エネルガーZと言って、マジンガーZの武器やバランス確認のために造られた中での後期型です」

「それがどうして問題に?」

「エネルガーの起動実験で事故が起こったそうです。多分、グレートマジンガーに載せる予定のエンジンが爆発したんでしょう。その事故から何年も封印されていたんですが、それがマジンカイザーに進化していたんです」

「えぇ!?進化!?」

「馬鹿な、無機物のロボットが自己進化を起こすなど!?」

「そこでゲッターロボの動力のゲッターエネルギーです。このエネルギーは何でもかんでも進化させる作用がありまして。ゲッターロボGが真ゲッタードラゴンになったように、エネルガーもマジンカイザーに生まれ変わっていました」

実際、高濃度ゲッターエネルギーを浴びるとゲッターロボGも真ゲッタードラゴンになる。遠未来ではゲッターエンペラーにまで達するので、ゲッターエネルギーは凄まじいの一言だ。

「これが……、こうなってたんです」

「ありえないデス!!どこからどう見ても別物じゃないデスか!?」

「ゲッターエネルギーはそれを可能にするんだよ、切ちゃん」

「うーん……調が二人もいると、変な気分デスゥ…」

「取り合えず、見た目や声、名前が同じでも可能性が分岐した後は別の人って考えるのが良いらしいから、そっくりさんだと思うか、双子の片割れくらいに考えてくれると良いんじゃないかな?」

「うーん。双子デスか」

「本来起こり得ないことだから、そう考えたほうがいいわよ、切歌」


エネルガーとカイザーは別物にしか見えないが、同一存在が進化して生まれた存在である。そのため、カイザーパイルダーはエネルガーのマシンパイルダーが変容、進化して生まれた機体と言えよう。こうして、カイザーは最強のマジンガーとして君臨する事になったが、甲児がマジンガーZEROの存在を示唆し始めた事でゴッドマジンガーが急がれ、甲児はカイザーのパワーアップも提案していたが、因果律兵器の存在を弓教授が信じなかった事で事実上は暗礁に乗り上げていたが、事態を憂慮した黒江が弓教授を説得した事で、ゴッドマジンガーの完成と並行して、カイザーの近代化改修を行ったというわけだ。弓教授は良くも悪くも堅実さが出やすい秀才タイプであり、そのため、マジンカイザーの改修型の投入は一歩出遅れたが、ゲッターエネルギーを入れた事でZEROにも対抗できるスペックを得ている。

「で、マジンカイザーは基本的にはこんな性能です」

――全長:28m、本体重量:39トン。装甲材:超合金ニューZα――

マジンカイザーの武器の威力とそのパワーが映し出されるが、おおよそマジンガーZをおもちゃ扱いできるほどのパワーがあるのが分かる。だが、制御に強い精神力がいるのが難点で、それを緩和すべく改修を重ねたのが、手足が青く、金のモールドがない姿でのマジンカイザーである。

「これと同等レベルの性能を持つ後発の機体、グレートマジンガーがベースですが、この二機が相当します」

GカイザーとマジンエンペラーGが映し出される。二機とも、グレートマジンガーのマジンカイザーというべき存在である。違うのは、Gカイザーは、あくまでオリジナルのグレートマジンガーがマジンカイザーの次元に進化した存在、マジンエンペラーはグレートマジンガーを設計ベースに、ゴッドで培った技術を更に昇華させて生み出された最新鋭のマジンガーである点だ。

「あのさ、どうして偶然生まれたのと、真っ当に発達した機体が似るんだ?」

「進化の道標になってるんでしょうね。マジンガーの場合は、マジンカイザーのフォルムが『最強のマジンガー』の形を一番よく表してるんですよ」

「お前にしちゃ頭が回る台詞だな」

「私は一応、実年齢は25くらいなんで」

「実年齢アピールすんなよ…」

「いや、こうしないと、区別つかないでしょう?それに私はリディアンに行ってる時間はまだ短いんですよ」

「そうか、向こうの私のわがままで、成り代わってた人が通っていてくれたんだよね?」

「かなり愚痴ってますよ。かなり強引に迫ってきたとか」

「うぅ。それは本当に謝っておいて〜……私自身が無理にお願いしたことだし…」

黒江に調が本来辿るべき道を歩んでもらうことは、本来なら無理強いさせられないものだ。だが、事情を聞いた響Aは、何かに取り憑かれたように、黒江へかなり強引に迫った。マリアが『個人的な〜』と前置きしていたのに、響はそれを義務のような口ぶりで迫った。これは流石に当事者の黒江のみならず、翼やクリスまでもが難色を示し、咎めるほどに強引だった。だが、トラウマにスイッチ(帰るべき居場所など)が入った響は止められず、諦めた黒江も渋々ながら了承した。これが黒江がなんとも複雑な生活を一年間続けていた理由である。響Bも流石に第三者として見る限りは、『倫理的にどうなのか』という考えに及ぶらしく、それを聞いた調Aは苦笑いするのだった。









――こちらは扶桑本国。1948年に入り、正式に『横空事件』の沙汰が下された。旧・海軍横須賀航空隊は組織が空軍に移行する前の1946年当時、当時に筑紫飛行機から預かっていた『震電』の試作一号機とその開発資産を、自らの将来を悲観した当時の若手ウィッチ達がクーデター鎮圧の報に絶望し、自主的に焼却してしまった事件で、これに海軍は顔面蒼白、開発を引き継ぐ空軍から猛抗議が加えられた。『震電の予備部品が用意できない』と、坂本Bに圭子が告げた理由はここにあり、震電の開発資産はその時に八割が失われていた。なんとか機体の外観だけは再現出来たが、肝心のマ43ル特の図面が失われた上、当時はジェットストライカーの開発こそが急務であり、既存のエンジンでは性能低下は確実である震電はレシプロ機としては死産に終わった。ジェットストライカーとしての再設計は困難を極めた。日本側の一部が開発頓挫を意図し、目標を当時のジェットストライカーの平均値となりつつあった時速1000キロ台ではなく、当時の宮藤理論では未知数だった超音速(マッハ2.3以上)を要求した事で暗礁に乗り上げたかに見えた。しかし、芳佳の夫であり、宮藤博士の愛弟子であった『大山技師』が前史での第二世代宮藤理論を引っさげて開発に参画した事で一気に進展した。彼が魔導アフターバーナーなどの開発者である幸運もあり、栄光のストライカー化は前史より遥かにスムーズに成功し、震電改二ストライカーの開発を現実化させた。彼は当然ながら、宮菱重工業の技師であるが、源田が送り込んだジョーカーである。従って、震電改二は『宮菱重工業の技術供与で筑柴飛行機が完成させた』という謳い文句がつくことになった。これを聞いた空自の高官は『マッハ2なんていらんよ。戦闘は亜音速か遷音速で行われるのだぞ?』と呆れたという。こうして機体/ストライカーが1948年度に完成の目処が立った事で余裕ができた国防省はクーデター軍に加わっていた罪で収監中の元横空ウィッチ達に沙汰を下した。懲役3年の執行猶予6年。事件の首謀者達であるため、日本連邦結成の恩赦の対象外であったのだ。また、収監の段階で勲章などの名誉は剥奪されており、階級は二階級降格扱いになっていた。彼女らは48年の段階で16歳と若かったが、クーデター軍の一員であったので家族から離縁され、事実上の孤立無援となってやさぐれていた。そこで軍部は『別人としての人生を送ることで前線に戻らないか』と司法取引を持ちかけた。今の状態では軍にも戻れないし、地位や名声も失われ、故郷にも居場所はない。だが、顔や声を変えて別人となる事で聖上へ禊ができるのなら、という事でクーデター事件の首謀者達は司法取引で別の人生を送る事になった。そのため、書類上は判決が出た段階で元の姿での階級と軍籍は剥奪され、別人として入隊した事になり、Gウィッチ達の能力で骨格まで作り変えられ、生物学的にも別人に変身させられ、その人物になりきる事での第二の人生を選んだと言える。こうして、横空事件は解決したのだが、48年に入る段階では、既存兵器の改善型や代替兵器の配備が進展しておらず、第一次配備の陽動に海軍が動かせられているのが現状だった。そのための海戦に大和と信濃を駆り出しているのも、日本向けのリップ・サービスである。戦艦の効果を実際に見せないと、財務官僚が納得しないのだ。ある意味では日本国民と扶桑国民共通の敵こそ、日本の財務官僚と言える。戦争中というのに、財政のことしか頭にないのである。膨大かつ格安で若い良質な労働力が得られたのに、だだ。日本連邦評議会でも自己主張が激しい財務省に頭を悩ます国防省の構図が当たり前で、総理が諌める事で増額している面が大きかった。彼らがいうには、『旧軍の兵器を処分すれば、財源が浮いて福祉に回せる』というもので、今すぐにはどうにもできない問題であった。また、戦線の要望もあり、航空兵器は生産が継続しているし、陸戦兵器も生産ラインを再稼働させている。結果として、戦線が塹壕戦に陥っているのは、旧軍式兵器を屑鉄と罵る日本の財務官僚や左派政治家であったりする。


――要約すると、『従来の兵器は役にたたないから生産中止!』→『発注取消!生産中止だ!』→『武器、兵器の補充止まりました!』『スコップでも何でも良いから、送ってこい!!それまで塹壕と銃剣で凌ぐぞ!!』→『どゆこと?』→『入れ換える武器用意する前に補給止めんな馬鹿モン!!』→『あんな1930年代の兵器が米軍相手に役に立つか!!』→『前線の状況見てから物を言え!』→『せ、1950年代水準の兵器作ってやるから……』という事である。要は扶桑財務担当のうっかりと、日本の財務担当と防衛省背広組の過剰な規格統一の考えが混乱の要因だった。いくらなんでも21世紀の自衛隊の現行水準の兵器への急激な切り替えは無理があるため、黎明期の自衛隊兵器への切り替えがベターとされたが、四式中戦車のパーツが余っていたので、61式戦車との共通率を上げた型を制作し、それを七式に対するローと位置づけていた。銃は米軍と自衛隊のストックを供与、弾も前線に空輸するなどの手段が取られ、港湾施設などの整備を日本側が担当するなどの措置が取られた。そのため、戦線の火力は急激に向上し、21世紀自衛隊よりも豊富ではないかと思わせるほどに豪華となった。旧軍兵士たちの練度に自衛隊兵器の火力が加われば鬼に金棒である。これは連邦宇宙軍も協力し、戦線の様相が塹壕戦から第二次世界大戦の流動的な状態に飛躍したのは、黒江達が海戦の真っ只中である頃だった。


――戦場――

「サンキュー、甲児さん。カイザー持って来てくれて」

「いつの時代も財布の紐を握られてる側ってのは弱いからな。お安い御用だぜ」

「日本の連中の言うことをこっちの財務官僚が真に受けたんで、おいそれストライカーも使えねえ。だから、次のスクランブルの時は自前で飛ばなきゃならねぇんだ」

「大変だなぁ。俺とカイザーを見せりゃ、連中もギャフンっていうぜ」

「ネットでさっきの戦闘の映像の反応見た?祭りになってるよ」

「本当かい?俺も有名人だしなぁ」

マジンカイザーの詳細は21世紀日本にも明かされており、ゲームと違い、完全版がオリジナルデザインのほうであると分かり、掲示板やSNSが大盛り上がりである様子がタブレットで見られた。オリジナルアニメ版の声の兜甲児がオリジナルデザインのマジンカイザーを操るというのは、マニア垂涎の的らしい。

「甲児さん、ジャッキー・チ○ンの吹き替えに声そっくりだから、ネタにされてますよ」

「ここはせめて、ウルトラ○ンタロウにして欲しいぜ。俺、あんな無茶なアクションしてねぇし」

「いや、地球産の鳥の怪獣につつかれて死んでなかったっけ?」

「うーん」

「あと、氷漬けとか」

「い、いやジュダ相手にコスモミラクル光線で勝てたし」

「マニアック過ぎ」

「で、どこでもドアを貸して、どこに行かせたんだい」

「ウチの基地に戻らせた。説明役させないとならんしさ。あいつらはまた別の世界の連中だから一から説明のし直しでさ」

「大変だな」

「私と調の身になってくれよ。響は私がねじ伏せなきゃならんかったし、切歌なんて、あいつが逆鱗断で倒したんだぜ?」

「ああ、あの子だろ?また戦闘になったのか?」

「あいつら、人の話聞かねえんだよ!誤解されてな。特に切歌なんて、別の世界の調に遭遇した事がないからって、偽物って言って、あいつを切れさせちまった。天魔降伏斬しかねなかったから、逆鱗断に抑えろと諌めたけど…」

「で?」

「やられた後は、ひたすら平謝りだったよ。切歌も驚いてたな。あいつ、AもBも思い込み強いのかねぇ」

黒江の言から、1948年には調Aは龍王破山剣・天魔降伏斬をモノにしたのがわかる。また、響は話し合いしようとしても、相手の地雷を狙ったように踏む癖は同じで、黒江も調Aも呆れている。切歌は響を諌められないため、それを調Aに叱られている。響Bはギアに備わっている推進機構を駆使し、馬乗りになった黒江を振り払い、切歌と挟み撃ちにしようとしたが、黒江がゼウスより授かった『天の鎖(エルキドゥ)』を発動し、二人を拘束した後に昏倒させている。これは黒江へのゼウスよりの1947年の『クリスマスプレゼント』だそうである。イグナイトモジュールの推進力で疾駆する響やマリア、翼をも身動きさせられなくするほどの拘束力を誇り、実際に響Bと切歌Bがそれぞれのバーニアをフル噴射した上で、力一杯に振り解こうとしても、虚しくバーニアの噴射炎が燃えるだけだった。攻撃能力もあり、際限なく絞っていく事で、ギアを損傷させるほどの力を持ち、事情を知る翼Bが止めに入らなければ、二人は腕をねじ切られかねなかった。イグナイトモジュールの瞬間的な高出力でも振り払えないということは、エクスドライブ状態や暴走状態でも容易に拘束できることでもある。ゼウスも太っ腹だが、ゲイ・ボルグは無理といい、ゲイ・ジャルグを渡すあたり、妙にケチるところもある。また、お年玉に北欧神話の『グラム』を渡さず、智子に与えたのは、『お前はエア持っとるからいいだろ?』との判断で、ぶーたれられている。Z神は『黒江は二振りも聖剣持っとるから、智子に与えんとバランス悪い』とし、グラムを与えた。なので、智子は大喜びである。

「智子もグラム、いや、あいつが持つとバルムンクになるかもな……を宿したからな。これであいつらの抑止力になるだろう」

黒江は甲児に言う。甲児も全てを悟っている。Z神がはるか未来の自分自身であることを。それ故か、苦笑いのような表情を見せた。

「でもよ、聖剣をポンポン貰えるってことはさ、英霊って見做されてるってことだろ?やったじゃん。数回も転生した甲斐があったな」

「先輩や後輩連中、同期にも睨まれたけどな。3年前の時なんて、ケイのやつが本性見せなきゃ、部隊がバラバラになりかねなかったぜ」

「でも、それで収まったろ?あのガンクレイジーを知ってれば、妬みよりも羨望の方が強くなるもんだぜ」

圭子は48年だと30代目前になるため、もはや転生後のガンクレイジーぶりを隠すことはなく、レヴィとしての態度が常態化している。その突き抜けぶりは、妬みよりもむしろ羨望を生むほどに清々しいもので、反発していた者の多くがシンパに転じている。

「聖剣くらいなら英霊でなくても条件次第で使えるぞ」

「どういうことだ?」

「フェイトが条件を満たして、エクスカリバーを撃ってるし、ガイちゃんもエア撃ってる。条件が揃えば可能だよ」

「お、何してるんだ?」

「なんだ、ケイか。弾丸を咥えながら甲板に上がるなよ。兵隊達がブルってんぞ」

この頃になると、圭子としての容姿のままでも、レヴィとしての服装やタトゥーをそのままにしていることも多いので、女性ファンのみならず、男性ファンも増加中である。特にこの時代では異例のタンクトップとホットパンツ姿であり、実家の家族からは『はしたない』と顰蹙を買っているとの事だが、506のリベリアン・ガールらからは大好評である。また、オートマチック拳銃を二丁というヒロイックなサイドアームもあり、この頃になると『憧れの姉御』として広報で取り上げられており、『日本連邦の誇るガンクレイジー女』というのが、最近の広報での謳い文句だ。黒江と智子がそれぞれの事情で広報にあまり出なくなったため、圭子と武子はよくプロパガンダに用いられている。圭子については、二つの国の軍籍を『本名』と『仮名』でそれぞれ保有しているため、現在の圭子の姿でのレヴィの態度は、その中間を取ったつもりとの事だが、転生を繰り返した反動により、レヴィ成分の方が多めだ。本人曰く、『行儀の良い母親役には飽き飽きしてるんだよ』との事である。そのため、今回の転生では、『扶桑皇国陸軍(現・空軍)の狂気』、『扶桑海七勇士切っての銃撃狂』という渾名を持つに至っている。

「ハッ、かってにブルらせときゃいーだろ。今回はこれで通してるんだしよ。兄貴達にゃ愚痴られたし、親父にゃ大目玉食らったけどな」

「なんて?」

「『もうすぐ30になろうっていう者がそんな態度でどうする!嫁入りしたらどうなのだ』だと」

圭子は今の振る舞いになってからはあまり実家に帰らなくなった。お見合い話から始まるからだ。この当時、圭子の年代で未婚だと、陰口を叩かれるのが当たり前であり、後世のような『生涯未婚でも生きられる』ような倫理観にはまだなっていない。日本の21世紀時点での倫理観はまだ浸透しておらず、そこも圭子には『鬱陶しく』思える点であった。

「親父のやつ、『悪いけど、軍って宗教に出家した尼とでも思ってくれない?』って言ったら泣きやがった。い〜だろーがよ。どうせ兄貴に澪ができるんだからよ」

「そりゃ無理だぜ。あいつが生まれるのは86年で、そこまで親父さん生きてねぇだろ」

圭子の孫でいいくらいの年齢差がある、義理の娘の澪。兄の子の一人が航空事故で亡くなった後に引き取る運命であるが、そこまでは圭子の両親は生きていない。末っ子の圭子が30間近であるため、両親はどんなに若くても、1890年代の生まれだ。長兄がこの当時には40代に入るか否かであるのもあり、圭子の母親はかなり高齢で圭子を産んだ事になる。黒江の長兄は15歳ほど末妹との差があるが、圭子も10歳以上は長兄と年齢が離れているため、生まれた時代が分かる。この『悪いけど、軍って宗教に出家した尼とでも思ってくれない?』という発言は、自分へのお見合い話を断つために言った以外に他意はない。どうせ武功で向こうのほうが寄りつかないのだから。実際、お見合いの破断理由は皮肉にも、圭子の燦然と輝く武功であるからだ。この時までに打ち立てた連敗記録は1940年代では間違い無しのギネスブック級である。徳川家、羽柴家、織田家の三大大名華族でさえも話を通した途端に破断になるのだから。織田宗家ですら『お嬢さんにはもっと相応しいお相手が…』と破断にしたため、事実上、圭子はお嫁に行けない事が確定した。皇室に行くには爵位がまだ低いとされたのもあり、織田宗家で無理なら、どこも無理である。そのため、南光太郎という内縁の夫を得る智子、城茂と事実婚に至る黒江のような関係を求めるようになり、やがて一文字隼人に急接近してゆく事になる。これはライダー達が前史の記憶を持つ事も大いに関係しており、三人の面倒を仮面ライダー達が分担した事も大きい。そのため、本郷猛は今回は三人の父親代わりを自負している。ライダー達がGウィッチ達と同じく、不滅の存在になっている故の選択とも言え、この事を聞いた仮面ライダーディケイド=門矢士は『次元世界の七不思議だな?』と評したとか。

「で、士さんから連絡があったって?」

「士さん曰く、ゴルゴム創世王が前史と同じく黒幕だ。次元震のな。で、その部下が平行世界のシャドームーンだそうだ。士さんを放逐して、大ショッカーを掌握していた」

「ああ、影月のほうか。そっちだと、RXにならなかった光太郎さんを倒した可能性だったな?」

「そうだ。強敵だぞ」

大ショッカー。ある次元で生まれた組織で、ショッカーが歴代の組織を束ねた場合の組織と言える存在で、仮面ライダーディケイドを生み出した存在である。彼らの最終目的は仮面ライダー一号=本郷猛と仮面ライダーBLACKRX=南光太郎の抹殺であった。しかし、その大ショッカーですらも、バダンの配下に過ぎず、ディケイドも平成ライダーの能力をコピーするため、その世界の世紀王候補に与えし力である事が判明した。そのため、仮面ライダーの精神的支柱である本郷猛と、最強の仮面ライダーであるBLACKRXの抹殺がバダンの目的であると言えよう。

「問題はまだまだってとこか」

「そういう事だ。で、どうする?今度、のび太の奴に西部開拓時代に旅行しに行こうとか誘われたぞ」

「いつののび太だ?」

「えーと。小6だな。大人のあいつは今、こっちで動いてるはずだし」

子供ののび太とは別に、結婚後の青年のび太は日本連邦で重要な裏稼業をしている。表向きは自然調査員だが、裏では諜報部員で、青年期になると端正な顔立ちとなり、ルックスもそれなりに整った事と、妻子持ちながら、大胆な任務遂行のやり口から、『和製007』の渾名を持つに至る。そのため、旅行などの誘いは原則として、ドラえもんがいる時期ののび太からとなる。調はドラえもんがいなくなった後も野比家に滞在し続けているため、ノビスケ誕生後は野比家の長女的な立ち位置にいると言っても過言ではない。これは個人的にのび太から離れたくなかったのも関係しており、切歌と一時疎遠になった時に、それに代わる拠り所として、のび太にすがっていた名残であるともいえる。従って、のび太が家庭を持った後も、野比家にいる事になる。(ある意味では、切歌への依存は解消された代わりに、のび太とドラえもんへ深い親愛を持つようになったと言える。本当の家族の愛を知らないが故、野比家の暖かな家庭に思慕を持つようになったという点では、基本的な傾向は変わらないが、愛のベクトルが家族愛に変わったという点では進歩したのだろう)また、この時点でも、のび太達との触れ合いで変化しつつあるため、以前はしなかったコミカルな表情も当たり前に出来るようになり、概ねはガイちゃんに近い性格に変化し始めていた。西沢と甲板でキャッチボールをしているのがその証明だった。

「あいつ、のび太んちに行かせたら、そのまま居着いちまったからな。まー、切歌があんな真似してたと分かれば当然かもな。私がエクスカリバー持ってなければお陀仏だぜ?」

「どうやら、仕事は終わったみたいだな?」

「…のようだな。ガイちゃんの影響だよ。ガイちゃんが『ジャイアンズに入ろーよ』って誘ってくれてな」

「多分、切歌の野郎がお前にイガリマを本気で向けたのに嫌気が差したんだろうさ」

圭子は調が野比家に居着いた理由を分析した。切歌がゾラへ行ったのも、自分のフロンティア事変、魔法少女事変での『罪』を清算したい故の修行でもあった。そのため、太平洋戦争には今のところは参加していない。調がデザリアム戦役が終わって、そのままウィッチ世界に滞在して参加したのとは対照的であった。ある意味では、師である黒江の少女らしさを受け継いだと言える存在になった事で、切歌への固執が消え失せたための『距離』とも言える。

「かもな。あの時のあいつは誤解で凝り固まっていたとは言え、完全に殺す気だった。それはあいつの最大のミスだった」

切歌との絆は取り戻せた調だが、切歌の黒江への行為だけは、どうしても許せるものではなく、切歌はその禊のために惑星ゾラへ修行しに行った。黒江も『相手が何なのか確かめもせずにいきなり殺意全開とかねーわ』と公言しており、切歌Aの背負った十字架は黒江への迷惑極まりない行為の数々であり、それが調との絆に冷水を浴びせたというのは、当事者の黒江自身が一番に知っている。黒江の存在は切歌には二重のショックであり、響が黒江に演技を半ば強要するほどに憔悴してしまった。黒江も自らの転移がこの事の引き金というのは自覚しているので、最終的には了承したので良かったが、翼Bが言ったように、その場での響はかなり咎められた。響の言うことは強要そのものであるが、『調の居場所』を守る事を大義名分に暴走する彼女は黒江でも止めることは不可能だった。後に親友の小日向未来に諌められ、正式に黒江が成り代わった後の途中で黒江に侘びたが、黒江からBも含めて『面倒っちい』とぼやかれる原因である。そのため、シンフォギア装者では、黒江は響と切歌を苦手にしている。思い込みで他人を殺しそうになる&人の話を聞いてない、切歌の百合要素が黒江には耐えられなかったためだ。

「途中の百合ぶりは参ったよ。智子の気持ちがようやくわかった」

ぼやく黒江。切歌はBであっても苦手と公言するのは、面倒を見ていた段階で、百合を連想させる行為の数々を行った(黒江はかなりそれを小日向未来に愚痴っている。未来は黒江に生命の危機を救われた事があり、その縁で親交を持った)事が尾を引いているのがわかる。(さすがの黒江もペアルックはかなり嫌がった)

「智子は転生前は夜逃げしたそーだからな。今はハルカのそれを『軍曹』の魄がかなりそれを抑えたから、だいぶ落ち着いたみて〜だが、切歌は予定外だもんな、お前」

「こっちの身になってくれって。『制服、ユニフォームの類いなら同じ物を着るのは問題無い、だが私服まで全く同じとか私服の意味無いじゃん!』って数週間めの時にキレかけたら、泣かれた。あれが一番困って、マリアと未来に泣きついたよ」

「災難だな」

「未来を助けた甲斐があったよ。響を止めてくれるからな。ちょうどノイズやら米軍に拉致られそうになってて、そこをお前の真似のガン=カタで助けたんだけど、後で調に怒られた」

「ほー?」

「そりゃお前の動きは真似出来てたし、銃を作れば問題なかったかんな。だから、調が帳尻合わせに苦労したんだよ」

「なるほどな。お前も色々災難だな」

「ったく、それは知ってるからこそ、あいつはガイちゃんやのび太にすがったんだろうよ」

空母に戻り、西沢に遊んでもらう調Aを遠目に見て、黒江は懐かしそうに言う。今となっては笑い話にも出来るが、当時は苦労を重ねたし、響には役を演ずることを半ば強要された。その記憶を共有したが故、のび太を心の拠り所にしだしたのだろうと。それは黒江と入れ替わり、精神的な成長を遂げた事とのバーターなのだろう。のび太も本来は一人っ子であったので、調をごく自然に受け入れ、かなり信任を置いているため、のび太は調の面倒を見ることで、潜在的に持っていた面倒見の良さを完全に目覚めさせたと言っていい。のび太への強い親愛が切歌の負い目にもなっているのは事実だ。黒江の言葉は、調が野比家に居着いた未来が確定した事を圭子に告げるためのものだろう。

「この写真を見てくれ」

「ん?これは?」

「2001年にのび太が小学校を卒業した時の記念写真だ。ドラミがスナップした一枚なんだけど」

「あ、調の野郎、シンフォギア姿でのび太の片腕に手を回してやがる。かなり入れ込んでやがる」

「こりゃ切歌が見たら泡吹くな。ゾッコンだ」

――圭子が微笑うほど、調はのび太にかなりゾッコンなのがわかる一枚であった。2001年という事は12歳当時の写真であろう。また、その一年後の2002年の夏休みの写真には、修行を終えた切歌が合流しており、のび太にくっつく調を引き剥がさんとする、コミカルな表情で写るイガリマのギア姿の切歌という構図の写真が存在する。のび太が高校を卒業し、一浪した2007年は、受験に失敗し、落ち込むのび太を励まそうとする二人の写真もある。翌年に補欠合格した際には、慌てるあまりに二人で迷子になり、偶々、同じ大学に通っていた出木杉英才に案内してもらうという一幕もある。のび太は入学後、出木杉に『あの子達は年の離れた妹のようなものだよ。僕は一人っ子だし、近いうちにドラえもんとの別れもくる。素直に嬉しかったよ』と、のび太らしい台詞で受け入れた理由を話している。こうして、月詠調は野比家という『家族』を手に入れ、Bとは明確に違うアイデンティティを持つのだった――



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