外伝その309『日本軍の残光』


――ウィッチの教育制度に世代差があるのは、ウィッチの寿命に個人差がある故のことだが、日本側には殆ど理解されなかった。陸軍の教育総監、海軍教育局長の更迭が取り沙汰される事態となった。扶桑の『ウィッチの寿命と一般軍人の年齢差考えたら必要以上に詰め込み出来んから、業務に合わせて教育してるんだ!』という説明は言い訳としか取られず、結局、『18歳から国家間戦争に従事する事ができる』(怪異相手であれば、16歳)という事が明文化された。その結果、精神的に『成人』として振る舞える『高年齢』のウィッチを優遇する措置が促進された。地球連邦軍の援助でウィッチ寿命の延長が可能になったのも重なり、再度の士官教育を受けた古参が今後のウィッチ組織の屋台骨になっていくのである――





――扶桑はそのことの明文化の兼ね合いで、緊急で古参の軍歴証明のため、従軍記章を扶桑海事変まで遡って作り、軍に残留していた経験者に陸海を問わずに授与した。黒江達はすでに地球連邦軍の『メカトピア戦役従軍記章』を授与されており、勲章と記章の略綬が豪華絢爛になった。古参を馬鹿にする傾向のあった中堅達はこの従軍記章の創設で政治的に追い詰められ始めた。現役世代への配慮で、『怪異駆除は監督者(成人のRウィッチ、Sウィッチ)が同行する場合に13歳以上(中学生)の訓練を一年以上受けて資格を取ったウィッチは実習として参加出来る』というのも後日に付け加えられたのだが、ウィッチは年功序列が薄かった故に、中堅が古参を馬鹿にする風潮があり、功績が教育と称して矮小化された黒江の場合はそれが顕著であった。黒江を寵愛する昭和天皇はその事に静かに怒り、扶桑海事変の従軍記章の創設が急ぎ、行われたというわけだ。(武子も、智子をスオムスに送るように推薦したと昭和天皇が知った際は皇居に前線から呼び出され、真意を問いただされていたので、その事は圭子にほろ酔いで冗談交じりに愚痴っているが)なぜ、扶桑海事変の従軍記章がこれまで無かったのか?理由は、事変中の功績を持つ部隊が旧第一戦隊/旧64戦隊に限られてしまうという反対論が強かったためだ。『出動記章』も結局は立ち消えになっていたので、従軍記章を古参を守るために緊急で作る事態に陥ったわけだ。古参と中堅層の世代間対立を押さえつけるには、古参の軍歴を公に証明する事。それが扶桑の取り得た最善の選択であった。それと同時に、Gウィッチの内、英霊/プリキュア出身者である事を示す記章も関係者が在籍中の各国軍で創設され、英霊/プリキュア勢はその記章を軍服に着用する事になった。英霊/プリキュアとして、大手を振って戦えるように、という措置であった。そのため、のぞみは錦としての軍歴を示す略綬の他にそれを着用するようになり、軍人になって間もないラブ、りん、いちか、あおいなどもその記章を着用する事になった。なんとも政治的だが、中堅がそれらのG/Sウィッチを守るための施策で自らの存在価値が薄れる事を恐れ、それを守るために、Gウィッチと対立することが扶桑皇国海軍航空隊冬の時代を招いてしまうのだった。――








――戦いそのものは第三幕に向かいつつあった。圭子がデューク東郷の仕事に帯同して不在であったが、その間の数日間で、状況はルシタニア(ポルトガル)攻略の方向に向かった。ティターンズは損失艦を出しまくりつつも損害はすぐにカバーしていた。リベリオンの工業力を背景に、どんどん補充を行い、戦闘で戦艦だけで七隻以上の損失を出していたが、43年の頭から建造していた新戦艦が就役し、損害をほぼカバーしているなど、扶桑もびっくりの状況になっていた。日本側が狂ったように海軍の近代化に驀進していたのは、その工業力を経験から恐れたからである。近代化はすでに駆逐艦の多くは護衛艦型になっていた領域であり、海援隊が困惑する事になったのも頷ける。後に実現するが、重巡洋艦の主砲は近代化でデモイン級の『Mk.16 55口径8インチ砲』のライセンス生産へ残存、新造を問わず移行し、残存艦の装甲強化も行われている。ダイ・アナザー・デイは既存装備の最後の花道という様相であり、陸海空を問わず、その体裁が強かった。その制空権確保を支えているのが日本からの旧軍と自衛隊の義勇兵であった。航空戦では、義勇兵らが事実上の屋台骨になっていた。名目上、航空ウィッチとして配属されたプリキュア達は形式上とは言え、黒江と懇意にしている旧軍人の老人たちが多く配属されている『第四戦隊』(ウィッチ達がいなくなった同隊を義勇兵の部隊として再編した)の協力のもと、航空兵としての教育を施していた。ちょうど、ミーナがいちかのケーキを批評するとした日の事である。――

――その日の午前六時の基地――

「この隼は古い機体だが、新兵でも扱える。形式上とは言え、航空兵としての教育を施すには最適である。改良しても、高速での動きが悪いゼロ戦と違って、高速でも動きは鈍らん。セスナ機の免許を取る感覚でいいが、尾輪式だから、扱いに気をつけるように」

プリキュア出身者を含むウィッチたちの前に駐機されている一式戦闘機三型甲。大戦末期の日本陸軍航空部隊を五式戦闘機と共に支えた名機である。講師を務める、元・日本陸軍の義勇兵達が古いと言うように、1940年代前半の初飛行(原型機)であるため、レシプロ戦闘機の世界で言うなら旧式である。しかし、四式戦闘機はウィッチ支援に特化していた事が仇になり、史実寄りの性能に改造する作業中、新鋭機の五式はエースパイロットに優先配備中であるため、実質的に隼三型が主力を占めていた。パイロット養成もしやすく、また、万一の時に備えた防弾板も装備されている。日本の技術供与で排気タービンが装備された個体も多く、零式が敵機との性能差で海上での主役になり得なかったのに対し、隼はより高性能の五式戦の普及までの繋ぎとは言え、主役を演じていたのである。そのため、プリキュア関係者の多くは防弾が薄い傾向が最終型でようやく改善された零戦ではなく、元から考慮されている『隼』で航空兵としての知識を学んだ。(64Fの中枢が陸軍飛行戦隊出身者であるのも大きいが)当時、旧式化を理由に、部品供給が一時的に止まった機体の中では数が比較的に多いため、ニコイチ整備で稼働率を保っていた。第二次世界大戦中の機体であるため、アナログの計器である。紫電改や烈風であっても、現地生産の都合でジェット機以外はコックピットがアナログ計器であるので、それなりに難度は高い。形式上であるが、操縦技術は持ったほうがいいという判断もあり、隼は飛行の基礎訓練に使用された。改修を重ねた三型は無理も効くため、重戦相手に渡り合えるポテンシャルがある『最強の軽戦闘機』である。

「形式上とは言え、貴様達はこの隼で飛行の基礎を覚える。万一の時は自衛戦闘もあり得る。それは覚悟するように。電探はないので、索敵は目視と感覚で行うように」

扶桑は電探を積める余裕がある新型機には積極的に積んでいるが、旧型機には積んでいない。機体重量など、色々な兼ね合いである。航法関連や通信機材は21世紀基準のものになっており、誘導などに使用されている。

「慣れた者は、我ら陸鷲のステイタスのキ44、キの100に乗ってみるといい。隼とはまた違うぞ」

彼は若返ってはいるが、黒江が2000年代に滞在中に弁護を担当していた弁護士(元)である。若き日に陸軍航空兵であり、若返る前は相当な高齢であった。黒江とその経緯から懇意であり、キ100(五式戦)、キ44(鍾馗)に搭乗経験があるとの談。

「隼は使いやすいのが良いところだ。新兵でも扱える。俺は満足しなかったから、乗り換えてるけどな」

「黒江さんのいう通り、隼は学校出たての小僧でも飛ばせる。論より証拠。搭乗!」

隼は扶桑での三型は降着装置の強化もなされているので、フォッケウルフから得られた知見が改良に生かされている。改良で旋回性能は下がっているものの、未だに一級で、ベアキャットをも圧倒する。もちろん、それに持ち込むには、訓練と経験が必要だが。黒江も教官役ということで先導機に搭乗し、飛んだ。意外な事に、のぞみは錦としての技能を活かし、すばやく乗り込んだので、りんとラブ、響を驚かせている。

「あれ、のぞみ。お前、普通に乗れるのな」

「わたしには、錦ちゃんの記憶あるんだよ?テスパイだったし、だいたいの機種は動かせるよ」

錦は47F(この世界では、44年の情勢の急変で独立中隊から実戦部隊に改組されている)の出身であったため、通常の戦闘機も乗りこなしていた。その技能が引き継がれたため、のぞみは『錦が乗った機種』限定だが、高い技能を持つ。

「と、言うことは天測航法も?」

「わたしのキャラじゃないけど、身についてるよ。先輩が出ていった後に入ったから、残ってた人たちに仕込まれたんだよね」

錦はキ44-Vのテストパイロットを務めていた。その嗜好がのぞみにも引き継がれたため、隼は嫌いらしい。重戦に乗ると、基本的にヒットエンドラン戦法を好むようになるが、黒江は格闘戦と双方を覚えて使い分けろと訓示を常々している。

「隼は最終型だと強化されてるけど、火力がね…」

「コクピットを狙えばいいだけの話だ。若いのは防弾されてるところを狙うから、だめなのだ」

「そそ。ガラスは防弾仕様でも、50口径は防げねぇしな」

黒江と彼はそんな愚痴を一蹴する。日本軍の至宝を謳われた者たちはそれを可能にしていたからだ。

「何気に、子供達の心を折りにきてません?先輩」

「いつも重戦に乗れるたぁ限らんぞ。軽戦闘機で高速重戦闘機を殺るには、工夫が必要だ」

黒江は実機の隼でP-47後期型を一蹴できる猛者である。義勇兵たちも、黒江の腕を、彼らが転戦した各戦線のトップエースに例えるほどの腕である。

「ジェットなんて、バードストライクが恐れられてるように、鳥一羽吸い込みゃ壊れる。P-80は恐れずに足りずだ。飛行機ってのは壊そうと思えば、いくらでも弱点はある。怖いのはその後の後退翼世代だ。追いつけんからな」

「そいつらは空自の連中に任せてありますが、F-84が出そうとか?」

「旭光の試作機が持ち出されたから、代打で作ってるって噂だ。敵も考えるもんだ」

史実での後期型であるF-84Fは戦闘爆撃機の黎明期を担った。それを造らせようとしているあたり、ティターンズの妥協が窺える。

「確か、サンダーストリークでしたっけ?サンダーバーズが昔に使ってたような」

「そうそう。ハン(F-100)は向こうで改良して採用されそうだし、センチュリーシリーズも直に現れるだろうな」

黒江は『彼』と予測を立て合う。実際、戦線でP-80が旭光に圧倒されている光景はお馴染みであるので、ティターンズはF-84Fを急いでいる。時代がかったレシプロ機は直にジェットに駆逐されるであろうことの表れでもある。

「では、栄光ですか?弟が空自にいて、乗ってましたが、ありゃ要撃専用では?」

「やりようはある。ロックの事例もあるし」

黒江はF-104Jをそう評する。黒江であれば、巴戦に持ち込んで、イーグルを落とせる。黒江はジェット時代の自衛隊の手練であった『ロック岩崎』を尊敬しているようだ。

「未来世界の赤いエースが言ってるが、機体の性能は戦力の決定的な差じゃない。ガキ共にはその事を教えるつもりだ」

「レシプロでも、ジェットコースターに乗り続けてるようなものですからね。体を慣らさないと」

「そうだな。後は異常事態への対処だな。変身して戦う時に空中戦になった時の異常事態にも使えるからな」

黒江は空間識失調に陥る事態をも想定している。自らが訓練生時代に空間識失調に陥ったからだろう。(黒江が『ボウズ』と赤松に気に入られるきっかけの事故であり、それもあって、赤松には頭が上がらない)

「いーか、お前ら。これからこうして、飛行機を飛ばすことで空中戦のキモってモンを叩き込んでやる。それと、実戦で必殺技はできるだけ使うなよ。セオリーを叩き込んでやるから、そこから強くなる方法を考えろ。はーちゃんにもやらせたからな、俺」

「ってことは、はーちゃんに格闘技を?」

「沖一也さん、仮面ライダースーパー1だが…やドモン・カッシュさんに頼み込んでな。10年以上の時間あったから、できたんだが」

ラブの疑問に返す。りんはそれを聞いて、はーちゃん(フェリーチェ)がローリング・サンダーをかませたのか。その謎が解けた。はーちゃん(ことは)は2000年からの10年以上の期間、黒江達による濃密な訓練を受けていた。そのため、はーちゃんはのぞみやラブのような武闘派に転じている。みらいとリコが聞けば、腰を抜かすだろう。

「セオリーを熟知すれば、戦場で生き残れる。貴様達はそれをよく叩き込んでおくように。格闘でも、空戦でもそれは変わらん」

彼はそう訓示し、プリキュア達に重要な事を教える。実際、プリキュアの必殺技も無敵ではなく、敵が外的な要因でパワーアップした場合、通常形態での最大技は破られている。仮面ライダー達も特訓や再改造、パワーアップを重ねてきたように、慢心は最大の敵だ。(ちなみに、智子が黒江に『間が抜けてる』と言われるのは、記憶の封印期に慢心するなど、基本的に黒江のように求道的でないためだ)

「のぞみ、りん。オールスターズの二番目の戦いの頃、プリキュア・レインボー・ローズ・エクスプロージョンを破られてたろ?」

「え、先輩!それも知ってたんですか!?」

「のぞみ、アニメになってるっていうんだから、バレてるって」

「ラブ、お前はボコボコにされてたろ」

「あの時は、敵がチートしてたせいですよぉ〜!」

オールスターズの戦いの初期、プリキュア5は通常形態での最高技を真っ向から破られ、フレッシュプリキュアも追い込まれている。(力が弱まったのと、敵が強化されたためであるが)黒江に言われて、ガビーンという表情をし、ギャグ的な返事を通信で返してきた。

「ラブ、お前。車は運転禁止な」

「えー!?」

「つぼみから苦情来てるぞ。スピード狂だろ、お前」

「覚えてたんだ、あの時の事〜…」

「そう言えば、ラブ。つぼみが愚痴ってたぞ。お前、ゴーカートを限界まで引っ張って、あいつを泣かせたそーだな?」

「うぅ。響ちゃんにも伝わってたなんて…」

ラブはハンドルを持つと、スピード狂になる気質である。その被害者が花咲つぼみであり、アリシア・テスタロッサとして連絡を入れた時、響(シャーリー)と黒江に愚痴った。それで二人は同情した。(最も、シャーリーもスピード狂だが…)

「せつなよりはましじゃない?あの子、乗り物ダメだし」

「えりかちゃんがビビってたなぁ、せつなの運転。それじゃ、何に乗れって言うんですかぁ!」

「あたしみたいに、バイクの免許取れよ。バイクなら抑制効くぜ?黒江さんのほうがおっそろしいぜ。マン島の常連だぜ」

「あ、シャーリー。2019年も都合つけとけ。ニーラーで出んぞ」

「へいへい」

黒江は北条響(シャーリー)とバイクチームを組んでおり、マン島レースの常連になっている。2019年では上位を目指しており、プロからも実力を評価されだしている。(最初は軍人の道楽と見なされたが、二人のレースへの姿勢が真摯である事から、スネ夫の弟『スネツグ』が惚れ、最近はスネツグがパトロンである)

「うーん。私も運転免許取れたら、入っていいですか?」

「いいぜ。大歓迎だ。同好会を開いてるんだが、メンバーが中々な」

「カーレースやオートレースにガチで出るほど入れ込むのは珍しいですからね。わたしもメンバーだよ。ル・マンで整備してからだけど」

そもそも、レースへの理解があるウィッチが少ないことから、同好会の規模は中々大きくならないが、ビューリングもオートバイ好きが高じてメンバー入りしているなど、意外に本格的である。仮面ライダー達がオブザーバーなので、オートバイ寄りだが、のび太が運営に関わっているので、カーレースにも参加している。また、ポルシェも参加しているので、ここ数年は注目のチームと評判である。(軍人でありながらも、本格的に取り組んでいることも注目の的になる)理由だ。

「うーん。帰ったら、オートバイの運転免許の講習受けようかな…」

「まぁ、つぼみをなかせちゃな。バイクで我慢しろ。取れない内は側車に乗せてやんから」

凹むラブと、慰める響(シャーリー)。実害が出ていてはしかたないことではある。ラブは車の運転を禁止されたため、この後はオートバイに走り、オートバイの運転免許を取得。以後は少しづつ特訓を受け、2020年代にマン島レースに出場し、ラブがスピード狂である事が知られ、オートバイ専門誌を賑わせたという。飛行講習は数時間ほど続き、皆、帰還後はみゆき(芳佳)といちかの作るスイーツに舌鼓を打ったという。なお、キ44乗りということで、ロスマンと川内がキ44(鍾馗)の講習では黒江の助手として参加、のぞみを含めた全員を模擬空戦で叩きのめしたという。また、ロスマンはバンカラ感全開の学ラン姿で参加したので、りんやラブから『ドイツ人のスケバン?』とツッコミが入ったのはいうまでもない。



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