外伝その315『魔神皇帝!』


――こうして、歴代のプリキュアたちは、23世紀のアースノイドとスペースノイドの熾烈な争いにも自動的に巻き込まれた。リベリオンの背後にネオ・ジオンとティターンズ残党が控えているからで、特訓を終え、現地の旅館で一泊した一行は、女湯で黒江の鍛え上げられつつも、外見上は自分達と大差ない肉体を目にする事になった――

「うわぁ〜…。先輩、引き締まってますね」

「これでも体重は60kgオーバーだ。筋肉の分だよ」

「でも、のぞみ。あんただって、生前より筋肉質になってるわよ」

「素体になった子が鍛えてたおかげだよ。これで、りんちゃんと一緒にサッカーできるよ」

「フットサルだったんだけど、ま、似たようなもんか」

「でも、まさか1940年代に行って、戦争に参加するなんて思ってもみなかった。その割に、やたらとハイテクな気が」

「軍人はな。軍用ネットワークは異常発達したからな。インターネットの起源も、冷戦期の軍用ネットワークだ。ま、機動兵器が多種多様になってるから、覚える事も多いぞ」

「この頃は何が娯楽だったんですか」

「カードにビリヤード、音楽、映画だ。TVゲームがあるわけじゃないからな。モノポリーには馴染みないだろ?その代わりに、人生ゲームは持ってきてる」

「ああ、アメリカ発祥の。人生ゲームはやった事ありますけど、確かに馴染みないです」

りんのいう通り、のぞみやりんの世代になると、ボードゲームに馴染みが薄いため、ピンと来ないらしい。

「あれも元はアメリカだぜ。意外に多いのよな、アメリカ発祥のゲーム。風呂からあがったらやるか?TVもDVDも無い時代の暇つぶしはカード、ボード、音楽、模型作りだけだ」

「そういえば、マジンガーZとかグレートマジンガーって、なんで造られたんですか?」

ラブが質問する。実物があると分かったので、気になっているらしい。

「原作と同じだが、プロトタイプがあるのが違いだ。ガンダムにも試作が多かったが、マジンガーにもプロトがあった。その内の一体が進化して生まれたのが『マジンカイザー』だ。正確に言えば、グレートマジンガーもその内の一体だよ。ゴッドマジンガーの試作がグレートマジンガーって事だ。詳しい経緯は省くが、ZとGは同じ設計図から分かれた兄弟だ。未来世界じゃ、機械獣、戦闘獣、円盤獣、ベガ獣との死闘のさなかだし、そいつらも戦いに絡んでるんだぞ」

「なんか、ロボットアニメのスーパー系のテンプレですね」

「マジンガーはリアル風味強いがな。最近はゲッター線絡んだから、とんでも風味増えたけど」

「ゲッターエネルギーって、なんなんです?」

「神々が自分達の意に沿う進化を生命体が起こすように仕向ける過程で生み出したエネルギーだ。高濃度だと、機械だろうと進化を促す効用があるが、事故を起こすと厄介な事になるから、新エネルギーには選ばれなかった。未知の側面が多すぎたのも影響してるが。マジンガーのプロトが『カイザー』になるくらいだからな」

「あれ、ゲームだと、初代ゲッターが真ゲッターになったような」

「おいおい、ラブ。いつの頃だよ。ま、ゲームだと、そういう場合が多いけど。真ゲッターは普通にドラゴンの後継機だぞ。ま、ドラゴンも真ゲッタードラゴンになるけど」

「ややこしいですよぉ」

ゲッターはゲッターエネルギーで進化する場合が最も多い。旧ゲッターが真ゲッターになるほどに進化の度合いが高いのは事実である。エネルガーをマジンカイザーに変えてしまうので、エネルガーより後のマジンガーにゲッターエネルギーを浴びせる行為はグレートマジンガーになされ、Gカイザーとなった。しかし、GカイザーはZEROがどこかの世界で打倒していたため、マジンエンペラーGが新造されたのである。

「お前らに可能性を与えてくれるエネルギーでもある。グレートマジンガーを試しにグレートマジンカイザーに進化させてみたが、ZEROは無限に近いシミュレートで単純に純粋な光子力駆動のカイザー級のマジンガーを打倒する力を持った。しかし、ゲッターエネルギーが加われば、そのシミュレートは瓦解する」

「なんでですか?」

「ゲッターエネルギーは因果の因だからだ。奴が弄くれるのは『結果』だ。超合金ニューZとニューZαが破壊された世界を観測して起こすような。だが、ゲッターエネルギーが入れば、そのシミュレートそのものが無意味になる」

「つまり、自己進化で因果を超えるって事ですね」

「そうだ。ZEROそのものも所詮はマジンガーZという大木から分かれた枝。Zそのものの意志を継ぐ存在や、Zを超えるのが存在意義のマジンガーは根本的に出し抜けないのさ」

黒江は体を豪快に洗い流しつつ、一同に説明する。ラブが疑問に思った事を。マジンカイザーをたしかに、ZEROは倒せるようにはなったが、それは『純粋なマジンガー』として完成した場合の可能性である。ゲッターエネルギーを副動力に持つハイブリッドマシンとしてのマジンガーはZEROのシミュレート能力を凌駕する。そもそもの創造主の兜十蔵や兜剣造の意志も大いに関係するが、マジンカイザーが改装されたのは、そのハイブリッド性が理由であり、甲児が弓教授を口説き落とすのに苦労した点らしい。

「マジンガーZが変異したっていう『ZERO』って何なんですか?なんでプリキュアにまで」

「奴は自分以外の『英雄』を認めない。それで、お前らにまで手を出し始めたんだ。ゴッドマジンガーに一度は倒されたはずだが、また別次元のマジンガーを変異させて、魔法つかいプリキュアの世界を滅ぼした。奴が本気を出せば、武器一つで地球を貫く。そんなヤツに対抗できる存在は少ないからな。ただし、奴は純粋な『マジンガー』を観測できても、それ以外のものはハイブリッドでも観測できない。そこに勝機がある」


「地球を武器一つで貫く……。先輩はそれに?」

「何週かして、ようやく手に入れた。お前らは俺達と違い、『可能性』が最初からある。それをより大きくするための特訓だ。のび太やゴルゴのように、『無条件で生き延びられる』力はお前らにはないからな」

「確かに…」

「負ける因果もあるからな。ZEROはそこを突いてくる。負けが観測されていない『超プリキュア』形態を今後は基本にしろ。キュアレインボー形態がパワーアップ形態になる認識でいい」

「『小宇宙』を完全にモノにしろって事ですか?」

「や、小宇宙すら超えてみせろって事だ。あれを完全にモノにできれば、常に超形態になれる。変身の掛け声をトリガーにしての変身も任意にできるようになるぞ。お前らが『行く前』に試したようにな。のぞみ、ラブ」

「あ、あれを常態化!?」

「そうだ。そのくらいでなければ、ZEROには立ち向かえん」

「名乗る時に高笑いでもするとか?某マシンロボみたいに」

「できる場面限られるじゃないですか」

「別次元の自分にカッコつけはできるぞ」

「そこですか?」

りんがツッコむ。しかし、別次元にいく機会が今後に生じていくにつれて、プリキュア達は別次元の自分達との区別の意図を模索し始める。それはのぞみが後に、別次元の現役時代の自分達の前で能力差を見せつける行為に繋がるのである。

「それにキメる場所は自分で作れ、仮面ライダーやスーパー戦隊みたいにな」

「うーん。考えてみます!けってーい!」

「相変わらずね、アンタ…」

ようやく、現役時代のテンションに戻り始めたのぞみ。りんとラブはひとまず安堵するのであった。



――のぞみ、ラブ、りんが南洋島で一泊したのと同じ頃、北条響はのび太やことは、門矢士の助けを借り、キュアラブリー/愛乃めぐみ、無事が確認されているキュアフォーチュン/氷川いおなを呼び寄せる事になった。愛乃めぐみは声質がランカ・リーに酷似しているとの証言から、サウンドウェーブシステムの適合者としての期待もかかっている。バダンの手が伸びる前に確保する意味合いも含まれている。ことはもフェリーチェとして同行しての説得が試みられる事になった。のぞみたちが温泉でくつろいでいる頃、響、のび太、はーちゃんは二人の説得に赴いていたのだ――


「頼む、あたしらに力を貸してくれ!!これはプリキュアオールスターズ全体の問題なんだ!!」

「私からもお願いします!このままじゃ、全てのプリキュアの世界が危ないんです、めぐみさん、いおなさん!」

「ふ、二人とも、顔を上げて。二人に頭を下げられると、こっちが困っちゃうよ」

響はスライディング土下座を敢行し、フェリーチェも頭を下げる事態に、めぐみといおなは困惑する。

「しかし、あなた達が私達に、召集を急いでかけるほどの敵とはいったい?」

「敵はあたしらの転移に気づいている。そいつが来ちまえば、ぴかりが丘、いや、この世界全体が滅んじまうんだ!事は急を要するんだ!!」

「響ちゃん、奴が!」

「何、この世界の座標を特定しやがったのか!?」

のび太に促され、一同が空を見上げると、空に穴が開き、その姿を現す『マジンガーZERO』。その禍々しい姿は、どう見ても悪役のロボットそのものであり、マジンガーZであった面影はそのフォルム以外には残っていなかった。

『逃シハセヌ、小娘共……』

「てめぇ、わざわざ追って来やがったのか!マジンガーZERO!!」

『ソウダ……。ソコニイル小娘を始末シソコネタノハ我ノ失策……。コノ世界諸共ニ零に還シテクレル』

「光の…文字…」

「あのロボットは意志を持っているの……!?」

「そうはさせるかよ!!」

響は気合でスイートプリキュアの最強形態『クレッシェンド形態』に変身するが、ZEROは一笑に付す。地球を焼くZEROにとって、クレッシェンドプリキュア(スイートプリキュアの究極形態)などは塵芥も同然だからだ。

『ハハハ…。貴様ニ何ガデキル?ソノヨウナ力ナド、我ニハ無力ト言ウノニ』

「足止めくらいは出来るさ、ZERO。お前の好きにはさせないさ」

『野比ノビタカ…。イクラ貴様トハ言エ、小娘共ヲ守リナガラデハ、力ヲ発揮デキマイ』

「響さんっ!」

この光景を見ためぐみといおなも、事の重大さを悟り、プリキュアへ変身するものの、ZEROはのび太だけを敵と見なしている。ZEROは変身したラブリーとフォーチュンへの見せしめの意味も兼ねて、魔神パワーで極限まで強化した光子力ビームを放ち、ぴかりが丘の隣町を一瞬で消滅させる。そのビームは拡散メガ粒子砲の如く、前方のあらゆる方位に降り注いだ。のび太のバリアーポイント、フェリーチェの力でぴかりが丘への直撃は防いだものの、その隣町はあまりの高熱に、跡地は地殻がむき出しになって赤熱化する。

「そんな、街が一瞬で消えるなんて……」

「なんて力なの……」

「気をつけろ、君達!この世界のプリキュアが束になろうと、あいつには勝てない!僕たちがなんとしても……」

「ううん、私達も戦います!ハピネスチャージプリキュアは…!これ以上、負けるわけにはいかないんです!」

「やっぱりお前達、残りの連中は…!」

残りの二人はやはり、倒されていたか、捕虜になっていた。その事を悟り、メロディは怒りを顕にする。それは二人の後輩が目にしたことのないほどのモノだった。

『仲間ヲバダンニ処理サレテイタノガ、トサカニ来タヨウダナ』

「ZERO、てめぇぇえ――ッ!」

メロディは吠える。クレッシェンド形態での最大スピードで殴るものの、30m級かつ、超合金の強度をニューZα級に引き上げた状態のZEROには通じない。ある意味では、紅月カレンとしての激しさが表に出たと言えよう。

「メロディ!?」

ラブリーとフォーチュンが固まるほどの怒りの発露であったが、通じずにZEROはメロディを振り払う。それを見た二人のプリキュアもとっさに『ラブリービーム』と『フォーチュンスターバースト』の同時発射で援護するのだが、ZEROには傷一つ負わせる事すら叶わない。

「む、無傷……!?」 

さすがのキュアラブリーも顔を青くする。のび太が銃に弾を装填する一瞬の隙を突き、ZEROは四人のプリキュアにサザンクロスナイフを放つ。これは元のそれの原型がなく、光の矢が無数に追尾しながら追ってくるという恐ろしいもので、グレートマジンガーがグレートブースターを装備してでさえ、振り切れないほどの威力を持つ。

「まずい、サザンクロスナイフだ!!四人とも、散るんだ!!」

のび太のとっさの指示で散った四人は、必死にサザンクロスナイフを回避せんとする。思い思いの方向に散ったが、スーパー化したメロディでさえも、攻撃の回避に血眼になる光景は、事の深刻さを表している。


「うおおおおおおおぉぉぉ!?」

メロディは自然と声を張り上げながら、ありとあらゆる方向のマニューバーを試し、サザンクロスナイフの群れから逃れようと必死であった。


「あああああっ!?」

フェリーチェも必死の形相で、ひたすらに回避に専念している。よりスピードの遅く、通常形態の二人は、もはや顔面蒼白の状態であり、声も出せないほど必死に避ける。家屋に当たれば、一瞬で倒壊する威力を持つほどのサザンクロスナイフ。異能生存体であるのび太には当てられないのを知るZEROは、四人を甚振るように攻撃する。のび太が装填の終わった銃を撃ち、ナイフを攻撃で消すことで、ようやく脅威から逃れられた四人だが、それまでに街の一部が盛大に破壊されていた。

「ま、街が……!」

『遊んでるつもりか、ZERO!!』

『フフフ……。余興ヨ、小娘。コノ世界を零ニ還スマエノ余興…。オマエタチの可能性ヲ我ニ示シテミルノダナ』

意思表示に光の文字を空中に描いてみせるZERO。怒りを顕にしつつも、メロディが会話を交わすが、ZEROは傲慢不遜そのものの態度であり、メロディを煽っている。この世界のプリキュアは事前にバダンによってあらかた倒されたか、捕虜になったようで、援軍に来る気配はなく、自衛隊や在日米軍が動く様子もない。そのため、なし崩し的に戦線に加わったラブリーとフォーチュンのみが実質の戦力と言えた。

『四人同時に攻撃すれば、ひるませることくらいはっ!!』

メロディ達は目で合図しあい、至近距離から一斉に必殺技で攻撃をかけるが、ZEROは真正面から受け止める。メロディが最強形態であり、フェリーチェも加わっての攻撃でも足止めがせいぜいであり、強力なプリキュアが四人がかりでも歯がたたない事実は物理攻撃が効かない証明であった。


「クソ、自己修復機能を鈍らせることもできねぇのか!?」

「力が違いすぎる……!?」

「諦めないで、フォーチュン!何か手はあるはず…!」

『威勢ノイイ小娘ダ。超合金ノボディニ、ソノヨウナ攻撃ハ通用セヌと言ッタ…』

嫌に饒舌なマジンガーZERO。威圧で相手を黙らすことの多い彼にしては珍しいシーンである。のび太の攻撃しか有効打が与えられない状況。のび太の放つ特殊弾頭(+のび太の英霊としての能力)でダメージを初めて負うが、彼の攻撃しか有効打が与えられないというのは、プリキュア達には『地力の差』をまざまざと感じさせる。(足止めに成功している分、健闘はできているのだが)

「なんとかならないの!?」

「今の状況じゃ足止めがせいぜいだ!これ以上の武器をなにか撃たれたら、街が…いや、日本列島がお陀仏だ!!有効打がのび太の……友達の攻撃だけしかないんだぞ!」

「そんな!」

最強形態のキュアメロディをして、そう言わせるマジンガーZEROの強大さ。その一言に青ざめるキュアラブリー。おもむろに、ZEROの口にあたる部分が大きく開く。ルストハリケーンだ。富士山を抉り取る威力のそれを放たれれば、自分達は防げても、周りが消し飛ぶ。メロディもフェリーチェもその事を知っているため、打つ手がないという危機的状況であった。だが、思わぬところから、救いの神は来るもので、カーテンを開くように、空に空間の歪みが開き……。


『光子力ビィィ――ム!!』

黄色いビームがZEROに命中し、爆炎を挙げる。そして、いつの間にか、ZEROの前に立ち塞がる魔神がいた。ZEROがもっとも固執する魔神。魔神の皇帝、王の中の王、r魔神皇帝(マジンカイザー)。胸のZのエンブレムもあり、翼が悪魔チックでありながら、ヒロイックさも感じさせる。改修モデルであるので、胸の金色のモールドが無くなり、スクランダーが収納式になっている、手足の色が黒から青色への変更が特徴である。サイズも25m前後から、28mに大型化している(発見時は25mほどであった)。

『そこまでだぜ、ZERO!!』

『来オッタな、兜甲児……』

ZEROと対等の体躯とマッシブさを持つマジンカイザー。かつてのZの血族を根源に持ちつつ、ZEROが忌み嫌うグレートマジンガーと似た姿に進化したというのは、進化の方向性の皮肉を表している。だが、思わぬ事態には間に合わなかった。のび太が居た地点の近くにあった家屋の崩壊に巻き込まれてしまったのだ。

「のび太ぁ――っ!」

悲鳴をあげるフェリーチェ。それと同時に、頭の中の『理性』を繋ぎ止める何かが切れ、空中元素固定でショルダースライサーを作り、それを天に掲げる。完全に怒っており、その憤怒の表情は先輩のラブリーとフォーチュンが怯えるほどのものであった。

「フェリーチェ、お前……!」

『トールハンマーァァァ……ブレーカァァ――ッ!!』

メロディも驚きの攻撃。トールハンマーブレーカーである。原理としてはごく単純なものだが、元々が『神』であるフェリーチェの力がのび太への思いで増幅されており、ショルダースライサーの刀身には、いつの間にか、ゲッターエネルギーも漲っている。髑髏の魔神皇帝を彷彿とさせる雷系の技を放ったので、メロディは唖然とする。

「はあああああっ!!」

光子力とゲッターエネルギーが混合した必殺の雷撃。ZEROも驚愕するほどの威力を発揮した。ここでメロディが気づくが、温和なはずのフェリーチェの顔にゲッター線の紋章がハッキリと浮かび上がっており、のび太を傷つけられた怒りに空間に満ちたゲッターエネルギーが感応、フェリーチェに流れ込み、闘争本能を極限まで引き出していたのだ。

「そうか、のび太をやられた怒りがゲッターエネルギーの活性化を促したのか!?」

「うぉわあぁああああ――ッ!」

ゲッターエネルギーが流れ込んだ者はどんな温厚な者でも、生物として本来備わる闘争本能が引き出されるため、獣のように暴れまわる。かつてのなのはがそうであるように、持続時間には個人差があるが、目の前の敵を叩く。肉体の損傷など気にせずに。そして、ゲッターエネルギーのお約束と言える、幾何学的な空中機動と、戦いを愉しむ『獣のような雄叫びと不気味な笑み』。どこかの世界の流竜馬のような危険な状態であると言えよう。

『アアアぁぁぁッハハハ!! ヒャアアぁぁッハハハハァッ!!』

ゲッターエネルギーと感応し、なおかつ、直前に強い感情を抱いていた場合、それも増幅されるため、狂気に満ちた咆哮と笑い声を挙げつつ、徒手空拳でZEROを攻撃するフェリーチェ。温厚なフェリーチェでをそうさせるあたり、ゲッターエネルギーの威力が分かる。本位は生きる喜びを司るエネルギーでもあるが、闘争本能を引き出す副次効果のほうがよく知られている。フェリーチェ(ことは)の暴走は続くと思われたが、甲児が媒介になり、意識だけが先に目覚めていた『朝日奈みらい』が制止した。光子力による思念の増幅と言う奴だ。

『はーちゃん!!』

『みらい、みらいなの!?」

『ごめん。一人ぼっちにして。意識だけは目覚めてたから、この人の力を借りたの』

『イチかバチかだったけどね。ゲッターエネルギーに取り込まれかけてたから、急かされたよ』

思念のビジョンで甲児はみらいの傍らに立っていた。甲児は光子力に選ばれし者であり、遠い招来のZマジンガーでもあるため、その力の片鱗を行使したのだ。機能的には、カイザーパイルダーにZEROを解析して得られた機能があり、思念さえも送れるサイコフレームのような機能も備わっており、彼はそれを使ったのだ。

『はーちゃん、私はまだしばらくは動けないけど、心はずっと一緒だよ』

『みらいぃぃ〜……」

『ほら、泣かない。キュアフェリーチェでしょ?』

『だってぇ〜…』

『それと、君が慕う、のび太君は無事だ。彼は異能生存体、建物の倒壊くらいでは怪我も負わないよ」

甲児がここでフェリーチェに『異能生存体』の事を教える。従って、のび太は死ぬ事はないと。フェリーチェは安堵する。

『はーちゃん。いつか、のび太って人に会って話は聞きたいけど、みんな揃ったら、また……』

『う、うんっ!』

みらいは意識だけの存在となっているが、その力で戦いに介入し、フェリーチェを正気に戻した。そして、通常空間に戻ると。

「無茶言わないで下さいよ、甲児さん。…イテテ、左腕打ったかな?」

「のび太、大丈夫!?」

「左腕を打ったくらいさ。折れてはないよ。心配かけたね」

「よ、よがったぁ〜!」

感極まるフェリーチェ。口笛を鳴らし、のび太を茶化すメロディ。羨ましそうな表情のラブリー。

「あーあ、一張羅がドロドロかぁ…通信機もオシャカか、被害大きいなぁ、壊しても新しいの支給されるか微妙だし…」

「あたしがどうにかしてやるさ。ここは甲児に任せようぜ」

瓦礫を蹴飛ばして起き上がるのび太。とにかく、のび太が心配なフェリーチェ。ラブリーとフォーチュンを率いて、のび太のもとへやってきたらしいメロディ。なんとなく状況が分かったらしいキュアラブリー。『不埒な』といいつつも、羨ましそうなキュアフォーチュン。空手道場の孫娘であるいおなも女の子、フェリーチェ(はーちゃん)が羨ましいようだった。




『マジンカイザー、行くぞぉ!』

兜甲児はカイザーを操り、ZEROと本格的に戦闘を開始する。ZEROはカイザーのスペックが自分と互角な事を感じ取っており、初めてその場を動く。

『ターボスマッシャーパ――ンチ!!』

マジンカイザーの攻撃でZEROは初めて怯む。ターボスマッシャーパンチで顔面を強打され、追い打ちのギガントミサイルを撃ち込まれる。『魔神パワー』が常時、発動しているはずのZEROであるが、ゲッターエネルギーを補助動力とした場合のマジンカイザーの攻撃は無効化できず、相応のダメージを負う。

「凄い、凄いよ、あのロボット!いったいなに?メロディ」

「神を超え、悪魔を倒せるスーパーロボットだ」

「スーパーロボット?」

「別の世界で、人が科学の力で作った『機械仕掛けの神』だよ、ラブリー」

スーパーロボットの中でも、最高位に位置する性能のマジンカイザー。光子力とゲッター線を融合させる作用を持ち、陽子エネルギーに勝るとも劣らない出力を叩き出す『究極の光子力駆動のマジンガー』。一言で言い表すならば『デビルマシン』。マスメディアに『待っていたぜ、デビルマシン!』、『最後の切り札』と煽り文句がつけられているように、従来のマジンガーの究極に位置する。改修でさらなるポテンシャルを発揮するそれは、正しく『正義の魔神』であり、『Zの力を継ぐ者』なのだ。

『ここは俺とカイザーに任せろ!!』

甲児はそう宣言し、ZEROと取っ組み合いを始める。なんとも迷惑だが、フルパワーで世界が滅ぶクラスのスーパーロボットが戦闘を行うと、空間そのものにも影響が生ずるが、ついに、強化ブレストファイヤーとファイヤーブラスターのぶつかり合いが始まる。如何に空中で撃たれているとは言え、ブレストファイヤーの射線にある全ては消滅する。それを相殺するためのファイヤーブラスターである。素の出力はブラスターのほうが勝っており、ZEROは『強化』を重ねがけして対抗する。ZEROのブレストファイヤーはもはや惑星の地殻すら溶かす温度に上昇しており、核兵器の炸裂時に出る熱線よりも高い温度に達していたが、ファイヤーブラスターに抑え込まれ、相殺された。

『ルストトルネード!』

ハリケーンとトルネードがぶつかりあい、もはや、ハピネスチャージプリキュア世界は二大魔神の激突の檜舞台であった。

「……この世界が滅びないのを祈るしかねぇな…」

「め、メロディ!」

「ガタガタ言うな、フォーチュン。宇宙を征服出来るレベルのロボットの戦いだ。この町が無事なだけ儲けもんだ」

素体がシャーリーなので、生前よりサバサバしているキュアメロディ。マジンカイザーとZEROの戦闘をそう表現する。ZEROはハピネスチャージプリキュアの世界を消し飛ばすつもりであり、星を焼くつもりである。この時、キュアラブリーは、あまりに想像を絶する二大魔神の激突に言葉もなかった……。スーパーロボットを地で行く、カイザーとZEROの対決はハピネスチャージプリキュアの世界を震わし、大地が唸り、炎が上がる。『逃げ場はない』かのように。はたして誇り高き皇帝は悪魔を退けられるのであろうか。







――一方、連合軍は慰問専門部隊である、ルミナスウィッチーズをなんとか存続させたものの、大規模作戦時の運用に疑問符がついたこと、また、サウンドウェーブシステムへの適正調査の必要が生じた事、歌う音楽が戦場の鼓舞目的に適さない事を理由に、前線に投入される事はなかった。(異能を持ちながら、慰問専門にウィッチを置くことが無駄と見られた事、一人でも多くの戦闘要員が求められた事、戦闘要員が自前で慰問を行えてしまう事も要因であった)前線にいる64Fが純粋な戦闘部隊であるが故に、慰問専門部隊の存在意義に疑義が持たれてしまうのも皮肉であった。戦闘に向かないウィッチの受け皿として機能していた部隊であるので、現場の反対もあり、廃止だけはどうにか免れたが、最も必要な時に専門部隊が投入されなかったのである。その施策により、将兵の慰問が問題になった。そんなゴタゴタの最中の前線の扶桑軍兵士や自衛隊員の癒やしとなったのが、23世紀までの映画の上映、コミックなどの嗜好品、プリキュア出身者達のカラオケライブであった。このように、扶桑軍、ひいては連合軍は日本の左派による運用の阻害に苦労しており、講堂を事実上の士官食堂に供するほどであったし、下士官兵と士官の身分別に食堂を分けることにすら反対論が飛ぶし、食糧の優遇にさえ疑義が持たれてしまっている。日本もようやく事の重大さに気がついた層が歯止めをかけようとしているが、効果は薄かった。その流れで、国際交流部隊もどんどん縮小改編されている中、501は編成上で『航空軍』になった。黒江が責任者とされ、カールスラントとブリタニア色は薄められ、日本連邦空軍の一部隊といった体裁が強められるなど、連合軍内での日本連邦の発言力が強まっているのがわかる決定が次々と出された。国際交流部隊を一纏めにした理由は、501の武勇が有名だからであるとされ、501以外の部隊を見下しているという批判も大きかった。しかしながら、戦争には戦力集中の原則が存在する。精鋭の分散配置で南方の島々の制空権維持ができなかった戦争後期の記憶がある日本は、精鋭部隊をゴリ押しし、カールスラントやキングスユニオンの失笑を買っている。『単にナンバリングとタイトルが残っただけだ、集合したウィッチによる統合航空団で一番若いナンバーだしな。意味なんか無い』とは、当の黒江の談。結果的に人材の温存には役立ったし、副次的に国際的名誉も得られるため、問題を起こした元メンバーが本国で左遷されたりする程度の影響は残っている。また、なんだかんだで、幹部の半数以上はカールスラントの将校であるため、カールスラントは撃墜王の特産地という名著は守り抜いた。ロシア主導での記録の再調査という嫌がらせにも関わらず。扶桑はこの流れで、伝説を知る、事変世代を中心にするヒエラルキーの確立がされるのを中堅世代、とりわけ血気に逸る海軍の中堅層が恐れ、階層ができれば、上位になる古参との対立の構図ができあがっていくのである。それはGウィッチの市民権獲得に必要な争いであった。武子、坂本は割り切れずにいるが、黒江、黒田は『来るなら来い』と割り切っており、同じGウィッチでも、スタンスの違いが出た事件でもあった。

「古参の復帰と立場の明確化の口実を得る為に必要な争いというのは分かるが、同胞相手に剣を振るうのは気が進まん…。」

坂本はそう日誌に書き残し、坂本自身のスタンスは胸の内に秘め、黒江には明かさなかったという。黒江への気づかいであり、坂本に出来る精一杯の腹芸でもあった。

「剣なんか返して振れば良いだろう?小烏丸作りでもなきゃ峰打ちで切っちまう様な事もないだろ?それでも気が引けるってんなら古代ベルカ式の達人が居るだろ?習ってきて非殺傷設定すりゃ良い」

と、黒江に説得され、クーデター鎮圧に貢献するが、坂本は良くも悪くも昔気質であるための葛藤が見え隠れしていたという事だ。坂本は割り切れれば鬼神だが、仲間に優しすぎる嫌いもある。気弱であった頃の名残りであるともいい、そこが芳佳に似ていると言われる所以であった。



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