外伝その320『空翔るモノ』


――扶桑皇国とカールスラントは誤解もあって、思いっきり振り回された。その害が表れ、過激思想の日本人に暴行を受けて、大怪我を負うウィッチも扶桑本土で生じてしまう事件が起こり、ウィッチの厚遇への反対論がフェミニストから出される始末だった。また、ウィッチの服装も問題になったため、それに怒った一部のGウィッチは容姿を前世(あるいはそれ以前)でのプリキュアの変身者の姿にし、それで過ごすようになっている。のぞみの場合は人格の統合で、外見はのぞみになっているが、錦が鍛えた肉体は健在であるため、見かけと違い、相応に筋肉質であったりする――







――戦場は全体としては膠着状態であった。日本とドイツが廃棄させた兵器の代替物を送るのを渋った(ドイツは『送れない』と表明した。日本は秘匿兵器を出した)事もあり、苦戦であった。スーパーロボットは主に怪異や機械獣の排除に回され、リベリオン軍との戦闘にはあまり参加していない。膠着状態を打破するための攻勢であり、日本とドイツも失態の補償との兼ね合いで折れて承認した大攻勢である。F-86Hと陣風の配備はこのためでもある。(最多生産のF型では、機銃火力が不足したため、早々にモデルチェンジされた)黒江が出させた自衛隊超兵器群の存在も大きかった。それまでの間は戦場では英霊、ロボットガールズ、プリキュア、シンフォギアなどの存在が主に活躍している。当時の扶桑は史実の対米主戦派が次々と失脚していき、代わりに史実の非戦派が主導権を握りつつあり、史実のA級戦犯である者の中では、永野元・軍令部総長のみが比較的に立場を保った。(ただし、史実で『恐らく、九九%勝ち目はない。然し一%はやりようによっては負けないですむかもしれぬ』と漏らした事で猛批判を浴びたのには憤慨し、戦後日本人の『長いものには巻かれろ』精神を嘆いたという)――


――海軍料亭『小松』――

日本では、21世紀に火災で焼失した料亭「小松」だが、扶桑では健在であるため、海軍良識派と一部の保守派はここで極秘に会議を繰り返した。日本の政治家の軍事音痴ぶり、軍閥を馬鹿にできない派閥抗争に呆れ返っており、Y委員会が今は亡き明治の元老達に代わる者として振る舞うしかないという結論に達していた。また、艦政本部に燻る『大和型戦艦は移動司令部にするための設計だったのに…』という不満の処理も話し合われた。


「山本君、艦政本部を見てきたが、大和型戦艦で戦艦の基本を統一する決定に不満が出てきておる」

「大和型戦艦は元来、艦隊決戦の移動司令部兼移動砲台にするための重防御中速の戦艦ですからな」

「日本は何を恐れておるのだね」

「モンタナはもはや恐れていませんが、その後継ぎですよ。モンタナは我が軍の大和とは設計時期が異なりますが、水上艦としては侮れない出来です。そのため、播磨型以降は砲塔を増やし、火力面での増強を図りました」

「うむ。こちらの播磨と三笠を恐れ、その次は間違いなく、18インチ砲は積んでくるだろうね」

「こちらの欺瞞情報は伝わっていますかね」

「うむ。今、自由リベリオンのスパイ網を使い、敵情を探らせている。敵は上手いことにこちらの欺瞞を信じている」

「これでアラスカ級の借りは返せますな」

「うむ…。ブリタニアはどうですかな」

「キングス・ユニオンとして、艦隊の再建に勤しんでおる。修理が完了するのは最低でも半年後だろう。旧式を弾除けにしたはいいが、ブリタニアは疲弊している。」

「日本の動きは?」

「本土で開発を進めろと、革新政党が言ってきとる」

「東北や北海道の開発をしようにも、インフラ整備途上なのですがね。それに、南洋の再開発に金を注ぎ込んでいる以上、重要性の低い本土など二の次なのですが…」

「困ったものだ。今は平時ではないのだがな」

「前線部隊はルシタニアへの攻勢の準備中です。ですが、全体的に戦力不足です」

「いくら兵器の性能で上回っても、量が足りんのでは意味はない。海軍は沈めても沈めても、量が減らん。奴等は魔法でも使っているのか」

永野元・軍令部総長はリベリオンの物量に慄いている。リベリオンは既に戦艦を6隻以上失い、空母も補助空母中心に10隻を沈めている。日本の野党は扶桑軍の佐官級の参謀の更迭へ圧力をかけ、兵器も廃棄させたが、参謀がいないことでの不都合、前線部隊の砲火力、機甲戦力の低下を招き、キングスユニオンから、センチュリオンとコンカラーを緊急で現地部隊が購入する始末である。そのため、コンカラーは廃棄された九五式重戦車やオイ車の代替物、センチュリオンは三式中戦車チヌまでの代替と扱われ、扶桑軍も緊急で制式化した。現場では、自衛隊が緊急で取り扱いをレクチャーする事態にもなった。自衛隊もまさか、旧軍式の戦車をガラクタ扱いして廃棄する事態に陥るとは思ってもみなかったらしく、四式/五式系のラインが保守整備目的で保護されたのだけでも奇跡であった。しかし、ラインの改変で90ミリ砲を改良型で積むことになってしまい、混乱が起こったため、現地部隊がセンチュリオンとコンカラーを購入する事態になった。これは背広組の失態そのもので、黒江が電話で防衛装備庁に怒鳴り込む始末であった。

「黒江くんが大忙しなのは、防衛装備庁と防衛省の一部が無能なためと、理解していいかね?」

「連中は我々を精神論者と蔑みますが、まさか、105ミリ砲以上の砲を旋回砲塔を積む車両に積むなど、この時代では予想を超えていたことなのですがね」

「まったくだ。『中戦車にそこまでの火力が必要なのか』とも言えないと、参謀本部の技官達が嘆いておるよ」

永野元・軍令部総長の耳にも届くほど、陸軍機甲本部と参謀本部が激震している。戦車がどんどん重装備になり、朝鮮戦争の時点で90ミリ砲が積まれ、そこから10年で105ミリ砲に到達してしまうなど、想像を絶する事実であった。42年年頭の『旋回砲塔には75o砲が限度であろう』という技術への見識は吹っ飛んでしまった。現地でのこのようなやりとりが残酷な事実の証明であった。

『何処が巡航戦車の末裔なんだよ!この重戦車の!」

『いや、これでも軽量なんですけど……』

『え?』

『47トンくらいしかないし、他の国は60トン以上だし……』

『は……』

自衛隊新鋭の10式は数が少ないものの、なんとか持ち込めた数十両は使われ、自衛隊の21世紀前半を支えた名車と、後世でされている通りの実績は残している。扶桑軍の技官は10式のデモ走行と砲撃に肝を潰し、以後、自衛隊の車両をなぞるように強化をしていき、それをストライカーにスピンオフする道を選ぶ。当時、61式のコピーに成功し、74式のコピー(この時にはライセンス生産に移行)も試みている扶桑だが、内部に反対論があった。しかし、このデモンストレーションで一気に反対は萎み、インフラ交換を含めての更新が目指されることになる。


「海援隊の初代三笠と河内型の代替は海保から分捕った巡視船とのことだが、太平洋共和国が戦艦を欲しておる」

「クーデター軍に下る予定の戦艦を厄介払いにあげましょう。近江は不満分子も多い艦ですし」

「近江の代艦は?」

「ニューレインボープランで改造する予定の播磨型の能登を充てがいます」

「そうなると、コードネームは『ノ號』か?」

「本来の艦名に由来する『ト號』も検討しております」

「ラ級規格艦はどのくらい必要かね」

「フリードリヒ・デア・グローセやソビエツキー・ソユーズ、ガスコーニュを抑えるためにも、最低で五隻は必要不可欠です」

「敵はどの程度用意するのかね」

「数合わせにインペロを新造するでしょうな。リットリオ級は余ってますからな」

「量産する前に試作艦を作ると聞いたが」

「艦政本部はそれでてんてこ舞いなのです。向こう側での轟天計画で計画されたラ號の二番艦『轟天』。それを我々が新造します

「轟天?」

「はい。元は向こう側での1944年に提出されたラ號の計画諸元に予定されていた二番艦につけられるはずであった名です」

「ラ號の同型艦かね?」

「基本設計は流用しますが、メーサー砲と砲塔式の重力波砲(グラビティブラスト)を積みます」

「豪華だね」

「元からそのような予定諸元だったようでして」

「試作品とは言え、贅沢ではないのか」

「二番艦が改良される事はよくあるじゃないですか。その理屈で通します」

「艦政本部の反対論はどうか」

「試作だからこそ、試験装備を積めるのですよ、永野さん。ネルガル重工が売り込んできてますし、連中に運も売れる」

「試験次第で生産型に?」

「はい。機関は生産型では簡略化しますが、この艦はフル規格のラ級ですからな」


ラ號の二番艦。正式名は『豊葦原』であったともされるが、起工すら戦争に間に合わなかった。扶桑はその計画を引き継ぎ、ニューレインボープランの前段階の試作として誕生させるつもりであった。黒江がメーサー兵器やメカゴジラを見つけた時に発掘した資料に記されており、ノ號という検討コードネームは欺瞞で、『ト號』が既に内定していた。建造場所は南洋の秘密地下都市のドックであり、その隣では、既にイギリスの提供したG級からライオン級へ重力子炉心の移設工事が行われている。イギリスも行き場のないG級を提供し、余剰と判断され、予備役入りが確実視されたライオン級に炉心を移設し、波動エンジン艦に更に改造する準備中である。これは21世紀世界における過去のチャーチルの悲願であり、それが実現しようとしている。ライオンはキングス・ユニオンの保有枠のラ級の一隻になるのだ。

「キングス・ユニオン用の改装は開始しております。後は轟天のゴーサインを、私が大臣としての最後の仕事として計画を認可すれば、プランは開始します」

「日本にはいつ通達するのだ」

「少なくとも、轟天の建造が80%になってからです。連中は空母に傾倒しすぎてますからな」

「艦政本部が愚痴っておるよ。60000トンが中型?勘弁してくれと」

「仕方ありません。連中にとっての空母は大型原子力空母ですからな」

日本は10万トン級空母に傾倒する勢力と、現実的に65000トン級を作って経験を積むとする勢力が防衛省にいる。山本五十六も困っているが、21世紀の一線機を運用するには、100000トン級空母が必須であり、自主建造では困難を極める。そのため、タイコンデロガ級相当の空母とミッドウェイ級相当の空母を叩き台にして自主建造というのが採択されている。大鳳型の代替になる空母を1948年までに何隻用意できるか。扶桑は急いでいる。日本側は既に空母化されていると踏んでいた信濃が戦艦であるので、それに相当する空母をなんとしても用意させようとしている節がある。最も、信濃と甲斐は空母として改装が確実視され、予定諸元が用意されていたのに、建艦運動で空母化が破棄された上、工事の進捗率が予想以上に高かったので、そのまま完成されたのだが。

「信濃と甲斐を戦艦から外し、空母に改装しろという声も消えたよ」

「戦艦として完成した物を空母に作り直すなど、新造空母を用意したほうが安いですからな。それに紀伊の一件以降は戦艦が求められてますからな」

「ミッドウェイ級相当の空母はどうするのか?」

「改装される場合の設計図を日本に見せています。それを戦後型に直して新造でしょうな」

「やれやれ。これで大艦巨砲主義の誹りを受けないで済むかな」

「然り。外国の方がよほど大艦巨砲主義だ。チャーチル卿など、空母を犠牲にして、戦艦に傾斜しております」

「ヤマトショックと言われるのをご存知で?」

「現役の頃に聞き及んでおる。こっちからすれば、モンタナショックなのだがな…」

扶桑海軍の中枢にいる者は戦艦整備が息を吹き返すきっかけになった呉での一件を『K事件』と呼んでいる。元はといえば、紀伊の船体は黒江のサンダーボルトブレーカーで大炎上して大破した際に帯磁してしまい、電子装備や機関が不調に陥る癖をつけてしまっていた。M粒子で不調に輪がかかり、更に帯磁で船体が脆くなっている箇所にがあり、そこに最新理論の砲弾が当たった。それがフッドさながらの悲劇の真相だ。黒江が海軍保守派に嫌われた理由は紀伊の不調の原因になっていたからだ。

「K事件の原因になった黒江くんには悪いことをした。あの艦はワシのお気に入りだったのでな…」

「当時の技術では、帯磁はどうにかできるものではありませんでしたからな。彼女としても、堀井を止めるために必要な攻撃だったのはご理解ください」

黒江が海軍ウィッチからのいじめの標的になった理由は一つ。紀伊が竣工し、錬成中の時期にドックに逆戻りさせ、連合艦隊旗艦になるチャンスをフイにさせたからというものだが、言いがかりである。紀伊は旗艦になる予定はなく、既に大和型が起工されているので、大和型待ちだったのだ。紀伊型は圭子の暴露でダーティーなイメージがついており、その点でも、(紀伊は戦隊旗艦用の設備しかないという事情もあったが)連合艦隊旗艦の地位が宛てがわれる予定は無かった。大和型が持ち上げられたのは、艦娘・大和の顕現時の艦影が目撃された事、リバウ攻防戦での艦娘・大和と武蔵の華々しい登場と奮闘、大和の持つ清楚なイメージだからだ。また、移動司令部としての運用想定とは関係なしに、艦政本部は『扶桑戦艦の究極点』を想定しており、大和型はどの道、連合艦隊旗艦を約束されていた。『扶桑最後の戦艦』として。それに続く戦艦など、ペーパープランもいいところで、実現が予想外だったのだ。

「大和型戦艦を公にした途端に同規模の戦艦の建艦競争が起こり、今や、超大和型戦艦か……」

「戦艦亡き後の大国の戦争抑止力であるという、『核兵器』も大国がこぞって整備するようになったと言いますが、核で地球を汚すよりは、戦艦で殴り合いをしたほうが、よほどクリーンだと、私は考えます」

「確かにな。反応兵器は空間戦闘ならともかく、地球上で使うべき兵器ではない」

「日本が非核三原則を掲げている兼ね合いと説明しています。もっとも、最新型の次元兵器は核兵器ではないので、武器庫に置いてありますがね」

「抜け穴だね」

「彼らは熱核兵器を規制しているが、23世紀でも最新型である次元兵器は範疇外です。使うつもりはありませんが、怪異を封じ込めるために使用を検討しています」

「熱核兵器は怪異には決定打になり得ないからな。使う意義もないし、積極的に開発する意味もないからね」

「それにスーパーロボットを動員すれば、如何な怪異もねじ伏せますし、連中はゲッター線に弱い」

山本五十六と永野修身は怪異がゲッターエネルギーに特に脆弱であるという特徴を掴んでいた。理屈を超えているので、説明は不可能だが、ウィッチには良い影響を与えるゲッターエネルギーは、怪異に有害であるのが分かってきた。そのため、怪異はある一定以上の異能か、圧倒的な科学があれば、ウィッチでなくとも倒せる。だが、力でのゴリ押しであることには変わりないので、ウィッチそのものを能力向上させなくてはならない。

「今の時代、軍隊は冬の時代だ。任務を達成できるなら、必ずしも命令に従う必要はないと言うのを理解しとらんと外部に批判され、今度からは抗命権も明記され、宮藤くんのような存在が持て囃される。今の中堅のウィッチは古参のように割り切れておらん青二才だ。あの世代は扱いにくいよ」

「かつての我々がレイブンズを持て余したツケを払うだけですよ、永野さん。海軍は坂本くん達が絶頂期を終えるあたりから、陸軍との差別化を図ろうと躍起になっていた。だが、今は広報との矛盾だと責められ、連合軍全体で大量に佐官級の参謀が罷免されているのです。64Fに343空が受け継がれ、源田くんが司令部に収まるのがるのが、せめての救いですよ」

当時、連合軍全体で参謀が罷免されまくったため、黒江が兼任せねばならぬほどに前線での参謀が不足。自衛隊や米軍、英軍の佐官が急遽、前線での参謀任務につくようになっていた。黒江の負担も大きく、連合艦隊参謀までも兼任する羽目になっている。黒江が海自で本式の海軍軍人としての教育を受けていると通達した事で表立っての批判は消えたが、生え抜きの海軍ウィッチから『不気味』、『陸ガッパがいっちょまえに江田島で?生意気な!』という侮蔑意識は向けられている。だが、黒江があまりに『超人』であるため、表立っての反抗は危険とされ、部内の陰口に留まっている。山本が処理に困っているのはむしろ、そのことだ。

「レイブンズの事変のスコアを陸軍に全て公認させましたが、部内での反発が起きています」

「仕方あるまい。本来ならば、まだ陸の処理案件だが、連中は日本の粛清人事でてんやわんやだ。我々が代行せねばなるまい」

小松での会合は続く。レイブンズはこの頃はまだ陸軍の所属であるが、陸軍参謀本部が大規模な粛清人事で機能不全に陥っているため、海軍軍令部が実質的にレイブンズに纏わる事項の処理を担っている。その問題の原因と言える江藤は、その点で不況を各所で買っていたが、行った事は当時の新人育成での慣例であったし、江藤は他よりも部隊戦果を重視していた。それがずいぶんと後になって、鬼の首を取ったように非難されるのはたまったものではないだろうが、その責任は取らなくてはならない。当時に既に佐官であった者たちの責任問題。世代間対立の主因となった『伝説と公式記録の乖離』。江藤はちゃんと人事備考に未確認スコアの事は書いたつもりであった。一度目の引退前に。それが人事部のミスで未確認スコアが加えられておらず、江藤の復帰後の人事評価に悪影響が生じてしまった。正確には、三人の復帰後に501に送り込むに当たっての再調査でそれが出てきてしまった。人事部は既に全員が入れ替わっており、申し送りもされていなかった上に、しかも担当者は死亡済みであった。人事部のミスを誤魔化すために、江藤は人身御供にされたわけである。罪悪感があったか、懲罰的な降格の話は流れた。基本給の半分の自己返納と訓告という形で決着した。訓告の内容は『戦闘の詳細な評価としても技術的資料としても個々の戦闘の記録の詳細を記録する必要が有り、部隊としての戦果は個々の隊員の戦果の積み上げであって、その評価を正しく受ける為にも隊内部だけではなく上層部や作戦立案においての資料としても少なくとも個人単位での戦果、能力の共有の指標として撃墜、被撃墜の個人記録は正しく残すべきである』で、記録に残されるため、以後の江藤の将官への昇進の先延ばしという形では足枷となった。ただし、レイブンズを制御可能な者という点では現場で重用され、数十年後に苦労の甲斐あり、空軍総司令に抜擢される事になるのだった。







――この頃の扶桑本土では、仙台城などの用地を強引に転用させられなくされた(仙台城は司令部用地として取り壊し予定だったのが、政治の圧力で強引に中止され、責任者は左遷された)ため、空襲を避けるためもあり、重要な軍用工場などは各地で地下化され始めた。また、防空は数のないミサイル装備を補うため、五式15cm高射砲の改良型が開発中で、本土から配備予定である。(弾丸のVT信管化、連射性強化など)また『M1 120mm高射砲』も大量に購入された。防空網の異常な発達で、要撃ウィッチの必要性に疑義が出たが、ストライカーのジェット化で要撃戦闘機と同様の扱いで落ち着いた。インフラ整備もこの頃から『東京五輪』を大義名分に行われ、新幹線も44年度から工事が始まっている。本土は防空網強化に多額の予算が費やされ、インフラ整備と地下都市開発に狂奔していく。史実高度経済成長期同様のペースでインフラ整備が進められ、東京タワーも史実より段違いに早く、同じ場所に立てられる見込みであった。前線はそんな本土のてんやわんやを他所に、連日連夜の激闘であった。絶対的な人数不足であるため、海戦が控えていながらも、各地に駆り出される64Fの隊員。だが、敵もさるもの。彼女たちに対抗できるレベルの超人を送り込む事で、プリキュア達を抑え込むことに成功していた――


『南斗紅鶴拳・伝衝烈波!!』

キュアピーチとキュアルージュは南斗紅鶴拳の伝承者(これまた、史実における伝承者のユダにそっくりである)に苦戦を余儀なくされていた。気で起こす衝撃波を飛ばし、かまいたちのように斬り裂く『伝衝烈波』で遠距離から斬り刻まれ、流血の事態に陥っていた。必殺の『ファイヤーストライク』と『ラブサンシャイン・フレッシュ』は手刀でエネルギーを切り払われて効かず、またも一方的に攻められている。

「また……このパターンッ!?いったいどうなってるの、のび太くんの世界!?」

キュアエンジェル状態でありながら、またも圧倒される事態に陥るキュアピーチ。圧倒される事態が続いている事、南斗紅鶴拳伝承者が漫画の通りに、自己陶酔型のナルシストであったのもあり、怒り猛っていた。ルージュも肩口を斬られて流血しており、まさにプリキュアの力も絶対ではない証明であった。

「ハハハ……。その程度か、小娘共。そう、おれはこの世でだれよりも強く……、そして美しいのだ!!」

「このナルシストッ!!マンガのまんまのセリフなんて吐いてッ!!」

「やめなさい、ピーチ!!」

「うあああっ!!」

歴代のピンクの中では比較的に技巧派のピーチ。その一方で歴代のピンクにつきものの血気盛んな側面もあり、意外に敵の挑発に乗りやすい。ドリームも逆上すると、前後の見境が無くなるが、ピンクチームは根本的に『逆上すると、前後の見境が無くなる傾向が強い』と言える。

「愚か者めが…。我が南斗紅鶴拳は、おのれに立ち向かった者の血で身を染めた美しき鶴!!貴様程度に何ができる」

「アタシはプリキュアなんだ!あんたなんかに負けるわけにはいかないんだぁああああっ!!」

ピーチはすっかり逆上しており、ルージュの制止を聞かずに突撃する。相手は冷静に構え、気を高め、技の態勢に入る。ルージュは最悪の事態を想像し、目を瞑るが……。

「そこまでだ、ピーチ」

「あ、綾香さん」

血気に逸るピーチを黒江が視認し、空から降り立ち、制止する。

「ピーチ、ルージュ、大丈夫!?」

シャイニングドリームが黒江に続いて降り立ち、二人を介抱する。黒江は彼と対峙する。

「フッ…。噂のレイブンズとご対面できるとはな。だが、あいにく、俺も暇ではない」

「南斗紅鶴拳。ナルシストが伝承者になるってのは、漫画と同じようだな」

「おれはきさまの血で化粧がしてみたい。この世界最強を謳われる者を倒せば、この世界の全ては我々になびく」

「そうか。だが、伊達に最強を謳われてないぜ?」

「ぬ、その構え…、流派東方不敗!!」

「ほう?流派東方不敗はわかるようだな」

黒江はかつての東方不敗がよくやっていた構えを見せる。只者ではないと感じさせる威嚇には、流派東方不敗の正式な構えは重宝する。ドモンはしないが、東方不敗(シュウジ・クロス)は威嚇などで型を決めており、彼の生前のトレードマークのようなものであった。また、東方不敗はシュウジ・クロスと名乗っていた時代からドモンが自らを倒すまで、この型を決めている事が日常茶飯事であったので、型を決めるという事は、ある年代から上は東方不敗を連想させる。

「り、流派東方不敗……?」

「先輩が心得があるとか言ってた、のび太君の世界の最強の拳法。身につけたら、素手でザクが壊せるとか…」

「嘘でしょ……」

ルージュは絶句する。しかし、それは本当である。黒江は小宇宙に依存せず、気を練る事も可能であるなど、格闘技も極めている。聖闘士の多くは小宇宙に依存した戦力であるため、内乱の防止のため,全階級の聖闘士への小宇宙の剥奪権限を与えられた祭壇星座の聖闘士が教皇補佐になることで、内乱の抑止力になっていた面がある。だが、シオン達から更に先代の聖闘士の時代に内乱があり、それを生き残った者がシオンの先代教皇であったのだが、その代の戦乱で祭壇星座が戦死してしまい、また、小宇宙剥奪権限が内乱を招いたとし、その代の教皇が祭壇星座からその権限を剥奪した。以後、シオンの代に至るまで祭壇星座にその権限は復活せず、シオンがジャミールの出身で長寿であった事もあって、問題は放置され、ついにはサガの乱になってしまった。聖戦が勝利に終わった後、黄金聖闘士は全滅、白銀も事実上は鷲星座の魔鈴とシャイナのみであるという窮状なので、星矢達の昇任は内定していたが、いかんせん若すぎた。ゼウスから『平行世界からでもいいから、聖闘士になる若者を見つけよ』と神託を受けた沙織はその神託の通りに、黒江と智子、箒を黄金聖闘士にしたわけだ。聖闘士はおおっぴらに集められるモノではない。そして、生存率が低い(生存率は平均で数%)くせに、神と戦うという職業であるので、育成の費用対効果は低い。また、長い年月で失伝した技も多く、ゼウスがシオンを含む先代黄金を蘇生させたのも無理はないほどであった。星矢達の代は内乱が激しかったため、黄金聖闘士の全滅が起こった(通常は二人は生き残るのだが)ほどである。黒江達は素質があったのも事実だが、ゼウスの推薦枠でもあった。Z神が手を回し、自分の友人を娘の見守り要員として送り込んだと、ポセイドンから中傷されるなど過保護気味であった。実際、Z神の友人である『扶桑海七勇士』のうちの四人が直ちに黄金に叙任され、若松も後に蟹座に叙任されるなど、五人が黄金、一人が白銀にねじこまれた。その兼ね合いで、黒江は格闘技を極めつつ、黄金聖闘士であり、鎧戦士であるという多重属性である。これは智子も同様で、輝煌帝の鎧を纏える心を持ちつつ、水瓶座の黄金聖闘士である。従って、この時点のプリキュア達より遥かに上の次元にいることになる。

「フッ…。貴様と戦いたいところだが、そういうわけにもいかん。さらばだ」

衝撃波を地面に撃って目眩ましにし、彼は姿を消す。

「へっ、逃げ足が速い奴だ。しかし、先に行かせた筈だが?」

「面目ないです……。味方からSOSが来て…」

萎れるピーチ。力の差をまたも見せつけられたからだろう。力なく項垂れる。

「まぁいい。これで分かったろ。連中の隠し玉が。連中には生半可な攻撃は通じん。だが、これで味方の撤退の時間は稼げた。プリキュアに変身してるから、よほどの攻撃でもない限りは大ダメージは負わんと思うが、修行で基礎を上げるしかないぞ。それと、これで南斗の五聖拳の内の一つが明らかになった。南斗紅鶴拳はナルシストが伝承するって奴だ。帰ったら、処置してもらえ」

「はーい…」

「善戦したのは褒めてやる。帰るぞ」

こうして、明らかになっていくティターンズの切り札。しかし、作戦の中心であるはずの日本に明確な戦略目標がない上、扶桑の佐官級、尉官級の参謀の多くが史実の行いを理由に更迭されたために、前線を将官が直接指揮する羽目に陥り、実質的に作戦指揮能力がある者のみが戦功を挙げる事態になっていた。自衛隊の幹部自衛官がその場で扶桑軍部隊をまとめあげる事も増加中である。それの是正のため、幹部自衛官の増員が図られ、参謀職に付き始めているし、自衛隊の兵卒の充足を扶桑兵が担う面もあり、賛否両論であった。対象的に、ドイツから物的補償が殆ど得られなかったカールスラントは軍事的衰退が一挙に始まり、海軍はまともな外洋行動が不能、陸軍も外征能力を削がれ、空軍は軍縮に失望した技術者の流出という最悪の結果となる。後にアメリカによる援助が入るものの、南米を防衛できる程度の軍隊しか維持できない事になる。日本連邦はこうした世界情勢により、否応なしに、ウィッチ世界の超大国としての負担をする事になっていく。それが自らの左派勢力がウィッチ世界を手前勝手に引っ掻き回した末の結果であった。日本の負の影響は軍事的には、Gウィッチの酷使となって表れたと言える。





−−ピーチはこの後、先輩であるキュアイーグレットと同じ『風と大空の精霊の力』を、ドリームは自分の先代のプリキュアであるブルームの『大地と月の力』を使う事を決断する。それぞれ、元々の最強フォームの姿は維持しつつも、スプラッシュスターの二人が用いていた精霊の力を上乗せ可能になっていく。その決断には、この日の夜に、のぞみとラブが見た夢が関係していた。二人の夢に、スプラッシュスターの日向咲と美翔舞が夢枕に立ったのだ。


『咲さん、舞さん!?』

それぞれ、夢枕に立つ日向咲と美翔舞に、最悪の結果を考え、青ざめたのぞみとラブ。だが、二人は否定した。

『なぎさとほのか、ひかり、それとあたし達は時が来るまで、あたし達は一緒に戦えない。だから、あたし達に代わって、プリキュアの誇りと絆を守って』

咲は言った。のぞみのかつての記憶通りの笑顔で。ほぼ同年代であったため、咲はのぞみとは友達関係であったが、成人後はのぞみが敬語を使う相手になっている。

『私達は無事よ。だから、安心して、のぞみちゃん。貴方の苦しみはわかってる。私達が受け止めてあげる』

『舞さん、わたし…、わたし…!』

のぞみは半泣きである。成人後は集まれる機会がグンと減ってしまったのも、のぞみが晩年期に心を病んだ原因であったため、舞の笑顔を見て、涙腺が緩んだのだろう。

『あなたとラブちゃんに私達の力を貸すわ。いつか一緒に戦うために。私達とあなた達との繋がりの証として』

それは幻なのか、現実なのか。咲と舞。二人の意思が世界を超えて見せた『真の光景』だったのか?二人にはその判別はできなかった。なぎさ達と共にいるらしき事を言い残したため、なぎさ達がスプラッシュスターの二人を救出したと考えるべきだろう。その『夢』がのぞみとラブの二人に、ある決意を固めさせたのは間違いなかった。洋上の航空決戦まで、あと24時間に迫った日の朝、空母の飛行甲板に、変身した姿で自主トレを行う二人の姿があったという。のぞみとラブは、先代のプリキュアである咲と舞から託された精霊の力を元々の力に上乗せする戦法に急激に開眼するが、それが咲と舞が二人に与えた『絆の証』であった。



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