外伝その328『扶桑の混乱』


――扶桑皇国軍は官僚組織が機能不全に陥り、物資不足が本土でさえ起きるようになっていた。地球連邦軍がそれを輸送機で補っていたが、現地の兵器を急激に新型へ切り替えようとした弊害で兵器生産ラインが実状に合わなくなり、本土でさえ物資不足が顕著に表れたのだ。89式小銃の大量供与の処理、ミニミ軽機関銃が前線で重宝されていた99式軽機関銃のラインを駆逐してしまったり、九二式重機関銃がM1919重機関銃に淘汰されるなどの事態が発生した。その問題は国内開発品の淘汰であると危惧した一部の技術者がクーデターに加担することになる。64Fの未来装備の使用が黙認された背景には、こうした官僚組織の機能不全やラインの急激な切り替えで、64F隊員を満足させられるだけの武器や燃料の供給が不可能であったからというのがある。その過程で、僅かだが、良いこともあるにはあった。地球連邦軍が扶桑軍が弾薬庫と武器庫に死蔵していたマウザーの20ミリ砲と専用弾薬『薄殻榴弾』を運び出させ、64Fへ供給させた。その数はおおよそ60万発。本来は各戦線のエース達への供給を目指しての輸入であったが、扶桑の主力弾薬が12.7ミリ弾になったためと、700丁あまりのマウザー砲はウィッチ仕様であったために、代替で航空機に搭載される事もなく、2年もの期間、弾薬庫に死蔵されていた。黒江がそれを発掘し、地球連邦軍がミデアで欧州へ運び込み、64Fが弾薬ごと独占使用した。45年において、航空ウィッチの大半は携行弾数が少なく、重い20ミリ機銃を嫌い、欧州で調達しやすい7.92ミリ〜13ミリ銃と弾を使用していたため、初速を強化しても米軍機の装甲に通じず、マガジンを一個使っても、F6FやF8Fには致命傷にならない事例が続出していたので、64は対処が早かったほうである――






――出撃していた64Fの人員は皆、20ミリ砲を携行している。プリキュア勢もとりあえずは渡されている。いずれもマウザー砲で、カールスラント勢でさえも羨ましがった。補給に不安があるという理由で『二大エースさえも受領出来なかった』逸品であった。その兼ね合いで『カールスラント勢がMG42を携行して、火力不足に泣く中、扶桑勢が火力に物を言わせる』という皮肉な光景が出現する珍事になった。カールスラント勢はバルクホルン、ハルトマン、マルセイユ、ラルの四者(アルトリアは英霊枠)以外は接近戦に対応困難(カールスラント勢は近代的カリキュラムの確立が1939年次で、近接格闘術を覚えていない)であるため、伯爵、ヨハンナ、フーベルタほどの統合戦闘航空団の幹部経験を持つか、手練で鳴らした部隊の在籍経験者であろうとも、銃器での対応困難な敵への対処に手間取る事態に陥った。それと対称的に、飛天御剣流を得たエーリカ・ハルトマン、秘技『斬岩剣』を独自に習得し、ブロードソードを挿すようになったバルクホルン、ビームサーベルを好むマルセイユ、御坂美琴との同調で、彼女の気質と能力を得たラル(要職に抜擢されていたが、前線が人手不足なので、出撃した。既に古傷は完治している)は一騎当千の活躍を見せていた。



「ったく、数だけは多いんだから!」

グンドュラ・ラルは御坂美琴の能力をごく自然な超能力として会得。同調で実質的に御坂美琴の同位存在であると確認された。(つまりは御坂美琴の平行世界での同位体という事になる)普段は美琴よりはハスキーボイスで、サバサバしている口調だが、電気の力を用いる時は思考回路が御坂美琴のそれに切り替わるためか、御坂美琴と同じ声色と口調になり、目に見えて『気が若くなる』。このモードに切り替わると、思考がドイツ人から日本人のそれに変異するため、話す言語も自然と日本語になっている。(声が高くなったため、ラルと気づかれないケースも多い)

「グンドュラ、その能力使うとさ、ミコトにしか聞こえないよ」

「しょうがないじゃない、そうなっちゃったんだから」

「日本語、ネイティブになってるね」

「美琴のおかげよ。あの子には感謝しないとね」

御坂美琴の生き写しのようになったグンドュラ・ラル。その現象に一応はツッコミを入れるエーリカ・ハルトマン。最近はだらけ役が雰囲気的にできなくなり、ツッコミ役ポジションになりつつある。最近はフーベルタが自分のポリシー『数が多ければ(=実力が上であれば)、空では下級者の命令に従う』が部外者から咎められ、釈明声明を出さざるを得なくなった(要は、『撃墜数』を時勢的に誇れない米軍や自衛隊、英国軍への配慮をしろという事である)事に不満を顕にしているのを宥めてもいる。

「フーベルタが膨れてるよ。『私は撃墜数が多ければ(=実力が上であれば)空では命令に従うというポリシーを言っただけだなのに、なぜ訓告処分に……』って」

「仕方がないわよ、日米英の空軍は撃墜数で実力を測れない平和な時代の人間たちなんだし、コブラ(空自の教導群)の連中なんて、あんたたちも唸る猛者揃いなんだから。フーベルタは自重しないのよねぇ」

「昔のグンドュラよりはマシだけどね。でも、訓告処分は重すぎない?」

「ドイツが要望したのよ。前線の引き締めとしてね。あそこは戦後は堅物多いから」

フーベルタのポリシーは批判を浴びかねなかったため、ドイツ連邦共和国側が自重させようと圧力をかけたのだ。そのあたりは『技能章と星の数がモノを言う』日本連邦より規律に厳しいと言える。

「あの子に、一度コブラとACM訓練するように誘うわ。目ぇ回すわよ。あそこ、黒江閣下が鍛えて、ますます人外になったそうだし」

「うーん。そのモードだと、グンドュラと話してる感じしないー」

「ま、あたしもその自覚あるけどね。今度、常盤台の制服でも着ようかしら?」

「…無理ない?」

「あのねぇ、まだ18なんだけど…あたし」

「美琴は14やん!」

「うっ…!」

重大な事実。気が若くなっているグンドュラ・ラルだが、実年齢は18歳。美琴より4歳ほど上である。グンドュラ自身が老け顔であるため、『18歳』に見えないのに悩んでおり、気だけでも年相応か、10代半ばまで若くなりたい願望を持つらしい。

「ま、まぁ。美琴からせっかくもらった力だもの、試さないとね」

弾丸を弾体にして超電磁砲を撃つ。美琴のように『後天的に引き出した能力』ではないため、美琴より体にかかる負担が軽い。美琴と同等の威力を保ちつつ、弾体を弾丸にする事で、航空戦に供する射程を得た。そこはレベル5に達した後も伸びしろは『ある』ものの、アレイスター・クロウリーや木原一族に利用された事がある能力であった、しかし、コンピュータ社会の影も形もない時代では、能力の半分以上くらいは『宝の持ち腐れ』は否めない。そのため、サンダーブレークやサンダーボルトブレーカー、ストロンガーの電気技などを再現するしか使う用途がない。

「うわぁ……、すごい」

「超電磁砲、美琴と同等以上の威力だけど、あたしは弾体を弾丸にしてるから、美琴より射程は長いわよ」

ラルは空軍総監という要職に押し込まれたものの、人手不足を理由に、前線から離れてはいない。(なお、太平洋戦線には帰国不能を理由に参戦する事をこの頃から考えており、参戦の口実を上手く作ろうとしていた)

「で、どーすんの?次の太平洋戦線」

「帰国不能を理由に、参戦するわ。今は通信網が発達したから、扶桑で事務処理できるし」

「まーね。ただ、予備役編入願いがいっぺんにってのは不味くない?」

「予備役にいないと、扶桑の戦線に参加できないっしょ?ガランド閣下だって、職を退いたら、扶桑に引っ越したし」

「上が慌てるよ?扶桑に外交的圧力が…」

「今のカールスラントは扶桑に弱みを握られてる立場よ。バダンの事でドイツにも責められて、まさに青色吐息なんだし」

「そりゃそうだけど、ねぇ」

伊達に、カールスラントでトップクラスの撃墜王ではない二人。雑談しつつも、敵を流れ作業的に落としていく。

「やれやれ。プリキュアはどんどん増えるし、どうなってるんだか」

「何かに引かれるみたいに増えてるんだ、これが。あたし達も、まだいまいちなんだよ」

「あ、シャーリー。その姿だと、キュアメロディだっけ?」

「レコーディングが終わったんで、変身してきた。歴代の仮面ライダー達も集まってきてるから、『大ショッカー』が復活でもするかもな。裏で連中が動いてるのは間違いない。ハピネスチャージプリキュアは二人だが、なんとか助けた。後はジュドをどこまで出し抜けるか…」

「相方は?」

「今日はルージュと組んだ。昔はピーチとよく組んでたんだが、今日はドリームについてるしな」

「なるほど」

「そうなんです。今日はあたしがこの子を見ることになっちゃって。昔はマーチと組んでたんだけど」

「サッカーつながり?」

「そうです。あたしはどちらかと言うと、フットサルなんですけど」

りん/ルージュはハルトマンとラルに敬語を使う一方、メロディには『先輩』として接している。その辺は元々、ルージュは気質が体育会系なためだろう。プリキュア勢は打つ手を読まれているであろう、オールスターズ戦時のチームの組み合わせを敢えて外すように、戦闘チームが黒江や武子の指示で決定され、組まれている関係か、ドリームは直接の後輩であるピーチの面倒を見ることになり、ルージュはメロディのフォローをする事になった。なお、飛行をするため、皆が『スーパープリキュア形態』になっており、個人で到達可能な最強形態の大安売り感は否めないが、熾烈な戦闘で生き延びるための最低条件と化している。プリキュア達は元がただの一般人であったため、元から超人の者たちには容易くスペックで追いつかれてしまう。人外と謳われし直接戦闘力を誇るガンダムファイターや、世紀末系拳法の伝承者たちがいる世界では、プリキュアは必ずしも無敵ではないのだ。

「でも、のび太君の世界って…、なんかこう…超人の巣窟なんですね」

「なんでもありだぞ。のび太自身が異能生存体だろ、ガンダムファイター、世紀末系拳法の伝承者達、英霊…。改造人間」

「仮面ライダーが実在してて、普通にあたし達より強いってどういうことなんです、エーリカさん」

「あの人達は肉体的に最高レベルの人間を更に高度に改造したんだ。そんなだから、最強クラスになれるさ」

「インカ帝国の秘術はあるわ、太古から暗躍してた暗黒組織のわけがわからない技術で生体改造したのが、太陽の光ですごい進化を起こしたのもいるのよ?基本的に基礎スペックであなた達より上だと思いなさい。逆に言えば、敵にいる仮面ライダー四号は中途半端な力じゃ無意味なくらいの強さを持つって事よ」

「あなた達だって、なんかこう……刺すような視線が出来るじゃないですか。背筋が凍るような」

「伊達に、実戦をくぐり抜けてないからね。あ、あの子に目覚めたもう一つの人格であり、英霊の『沖田総司』と初見で互角にやり会えるのは、あーやとまっつぁんを除けば、飛天御剣流を使うあたしだけだね」

立花響は沖田総司の因子が目覚め、沖田総司の人格が表出したままで数日が経っていた。響本来の人格は眠っている状態であるが、肉体の外見は沖田総司のそれになっていた。アルトリア・ペンドラゴンとほぼ瓜二つな顔である一方、剣筋は完全に戦闘に特化した『精神性無視の合理的な殺人剣』であり、ステレオタイプ的な武士道を重んずる考えの風鳴翼には嫌悪感を持たれている。皮肉なことだが、合理的な思考から、『単なる殺人マシン的嗜好の持ち主』とも後世に揶揄されるその強さは凄まじい。あのアルトリア・ペンドラゴンやモードレッドといった円卓の騎士を軽く凌駕し、飛天御剣流の心得がある黒江でようやく互角に持ち込めるほどのものである。元々、立花響が体を鍛えていた賜物か、彼女の肉体は沖田総司が体に要求する動きを実現可能なほどのポテンシャルを秘めていたのだ。

「うへぇ。お前、ずいぶん鍛え直したな」

「まぁ、前史からそのまま能力値引き継いでさ、チートしてるしね。あの子は偶然、鍛えてた体が英霊の要求に答えられる水準だったんだろうね。そうでないと英霊の要求をすぐに実現できない」

「確かに」

「本当なら、貴方達も同じはずよ?」

「それはそうなんですよね。プリキュアの能力は引き継いだんですけど、あの子は忘れたい記憶もあったみたいで…」

「後半生の暗い記憶は乗り越えるべきものよ。生まれ変わったら、それを引きずる理由はないんだし」

「理屈はそうです。でも、あの子は自分の子に自分の生き方を否定されたのがショックだったみたいで…」

さすがの夢原のぞみも、自らの長子に自分の生き方を否定された事だけは精神的に耐えられなかった(難産だったらしいので、余計に堪えた)。りんは違う世界の出身だが、のぞみに夜中に告白され、衝撃を受けた。りんはのぞみのいた世界線の自分を罵倒したい衝動に駆られると同時に、のぞみをなんとしても守ろうとしている。(それが後の記憶喪失の一因になる。それに衝撃を受けたのぞみは、りんのためにも、デザリアム戦役を戦い抜く事を決意するのだ)以前は自分からの自立のために、のぞみやうららを突き放そうとするところもあったりんだが、のぞみが辿った人生を知り、のぞみの心の拠り所として生きていく事を選んだ。それを明言したルージュ。

「どうして、あの子はあたしに相談してくれなかったの?その世界にいないわけじゃないのに…」

「幼馴染だからこそ、自分の醜態を知られたくなかったんだろうさ」

「そんな!?」

「これはあたしの推測だけど、ノゾミの子供は嫌だったんだろう。栄光のプリキュア5のリーダーの長子でありながら、母親の才能を引き継がなかったのが。偉大な人物の子供や兄弟が優秀とは限らない。あたしの双子の妹もそうだったからね。わからないわけでもないよ。だから、その妹が母親の全てを受け継いだのが我慢ならなかっただけだと思うね」

のぞみが前世で築いた『プリキュア5』の資産はのぞみの長女ではなく、次女が継いだ。そのコンプレックス(日本的な『長子が家の全てを受け継ぐ的な思考も関係している)が確執の根本であったと分析したハルトマン。ルージュは全てに納得がいったようだった。

「長子…か」

「歴史上、親の才能が子に遺伝するとは限らない。あたしの双子の妹がそうだったしね。妹もそれなりの才能はあるんだけど、あたしと比べられてきた上に、双子だしね」

ハルトマンは早くから頭角を現した自分と違い、技官に転向するまで、自分のアイデンティティに悩んでいたウルスラの事を話す。のぞみの場合は、プリキュアの力を受け継げなかった事で長女が妹に憎悪を懐き、ついには母親ののぞみにその憎しみをぶつけてしまった事がのぞみの心に暗い影を落としてしまった。りんには詳しくは話していないが、のび太とドラえもんは、だいたいはそれを察している。りんには言うのを避ける『悲しい後半生の記憶』。その記憶がのぞみがゲッター線にその身を委ねていく理由になる。皮肉な事だが、『自分がプリキュアであり続ける事を選んだほうが良かった!自分の子供が互いに憎むなんて嫌だ!!』と後半生は悩み続けていたため、転生は渡りに船であった。それがのぞみが躊躇せず、そのまま職業軍人になった理由の一つでもある。

「あの子は何がそこまで…」

「おそらく、子供に力を譲らなかったほうが良かったんじゃないかって考えたんじゃないか?」

「……あの子がそれに折り合いをつけられるか…」

「まだ時間がいる。精神の平静を取り戻すには、お前達のフォローが大事って事だ。キュアフェリーチェものび太と20年間、いっしょにいる事で折り合いをつけたように。時間はたっぷりあるんだ。あいつを守ってやりな」

ハルトマンは意外な事に、こうした精神面のフォローを行う事が自らの役目であると理解しており、自然に面倒見の良いように振る舞うようになっていた。年下には意外にフランクに振る舞うのもあって、ハルトマンの人物像は広がりを見せている。

「親を継ごうとか考えないほうがいい。親と同じ道、同じ事を子がやったら、いつも比べられて、親以上の成果を期待されて、精神的にすり潰されるだけだよ。そういう例はいくらでもいるじゃん?少なくとも、あたしはそう思う。自分は自分、親は親。そうやって人間ってのは生きるもんさ。漫画みたいに、親の道を子供が受け継ぐなんてのは幸せになるとは限らないよ」

「まあな。二代目は別の誰かでもいいんだよ。初代の業績を維持できれば、孫が継いでくれる可能性もある。偉大な人物の才能は子じゃなく、孫に現れる事多いし」

「戦国武将だって、そこそこの戦国武将だった伊達稙宗の孫が伊達政宗だったろ?そういうもんだ」

「そういうものですか?」

「徳川の家だって、二代目の秀忠は凡庸だけど、三代目の家光は優秀だったろ?」

ハルトマンとキュアメロディの言うことは当たっている。あの織田家も信忠はそこそこだが、秀信は優秀だったともされている。そうした実際の歴史を鑑みても、二代目は凡庸だが、三代目は優秀であるケースは多い。こうした上手い例えを引き合いにだし、周囲を納得させる側面が後に、ハルトマンがエースパイロットであったが故に疎んじられた同位体と違い、戦後に予備役から呼び戻され、要職を歴任する一因となるのだった。






――扶桑の状況が21世紀に伝わると、中華人民共和国(中国)は台湾の扶桑からの分離独立(実質は傀儡化)を表向き諦め、日本の左派も扶桑や各国での騒乱罪での逮捕と投獄に恐怖しだし、扶桑での活動を表立っては控えるようになった。(扶桑では社会主義政党の活動は禁止されているため、扶桑での逮捕、投獄を恐れる者が出始めたため)しかし、日本と扶桑がそれらの摘発に動いた頃には、多大な実害が生じてしまっていた。人手不足が顕著になる軍部の要望もあり、昭和天皇の玉音放送が求められたのだが、日本側の一部勢力から『政治利用』との批判が飛んだ。扶桑としては、ウィッチの新規確保の根を摘まれたに等しい状況になってしまった事による『事変世代』の前線での負担を軽くしたい思惑が絡んでおり、訓練学校に既に在籍していて、卒業間近とされた者は任官。訓練学校に在籍中で、まだ教育途上であった層は高等工科学校で教育を継続するという妥協案が取られた。ウィッチの力は『特別な措置』をしない場合、15歳前後をピークに、19歳で顕著に衰える事が21世紀に知れ渡る頃には、もはやウィッチの新規志願数を自発的に増やすのに、打つ手はほとんど無く、カールスラント空軍は軍縮で衰え、扶桑も80年代まで『世代交代』に事実上、失敗した状態が継続する。その兼ね合いで、黒江達は今回においては、階級が元帥になろうとも、デスクワークとほぼ無縁の生活を送り、扶桑航空を長らく支える羽目になるのだ。(実際、ダイ・アナザー・デイに従軍する扶桑ウィッチの平均年齢は24.5歳と高く、高齢化が急激に進展している。ウィッチの従来の常識と摂理が薄れ始めるのも、この時代にあたる)10代の後半の内に前線に配置され、簡略された教育で戦闘員と扱われた最後の時代がダイ・アナザー・デイにあたる。(後の二代目レイブンズは、20代間近の年齢まで教育された後で活躍している)プリキュア達も扶桑皇国軍に大多数がスカウトされ、尉官待遇でダイ・アナザー・デイを戦う事になったが、キュアメロディのみは書類上は自由リベリオン軍の所属である。(ただし、本国は脱走兵とし、存在を承認していないため、国際的には扶桑軍扱いとされる)仮面ライダーやスーパー戦隊、メタルヒーロー達が支援者を含めての一大勢力と化しているのと対照的だが、公に行動が認知され、法的にも認められている彼らと違い、プリキュア達は元が普通の少女である上、バラバラの世界から集まり、ウィッチ世界の戸籍すらない。地球連邦軍はそれを鑑み、地球連邦の戸籍を与え、次にウィッチ世界の戸籍を作らせ、扶桑皇国軍人の身分を与える。公には、身辺警護を兼ねての緊急措置と説明している。プリキュアの戦闘行為の法的問題の処理の関係がある事は21世紀日本も理解していたが、皆が一様に士官待遇であることに疑義が呈されたが、『空を飛ぶ形態を持つプリキュアが多い関係で、関連性が強く、行動自由度の高い航空兵科に回した』とする説明がなされた。ダイ・アナザー・デイでの戦闘は中継されているため、パワーアップ形態の歴代プリキュアが米軍艦や米軍レシプロ/ジェット機を蹂躙する様が移されており、一応の説得力はあった。当時の扶桑皇国は延期されていたオリンピックの開催権を手放す事が議論されていたが、日本側の圧力と地下都市整備の大義名分が欲しい軍部の軍事的思惑が偶然に合致した事から、東京五輪は強行される事になった。これに困惑したのは各国のほうで、仕方がなく、同位国と合同で選手団を出すことが検討された。扶桑国内ではスポーツの大半がプロ組織化されていないため、扶桑側の選手の大多数は第一線で活躍する軍人で占められる(野球は扶桑側は史実黎明期の名選手らで占められており、当時入営予定の沢村栄治らは入営が即日で取り消されるという珍事が発生した。沢村栄治は史実では既に肩を痛めていたが、扶桑では奇跡的にまだ痛めておらず、彼を徴兵した軍部の担当者のクビが有無を言わさずに飛んだ。これが扶桑軍部の恐怖を煽った形になったのも事実だ)した。愚痴る軍部を黙らすため、日本は志願制への全面移行に向けての経過措置という名目で、『原則、スポーツ選手と芸能関係者は徴兵免除』という事項を即日で通達した。社会的面目を重視する扶桑人の気質に配慮し、スポーツや芸能を『慰問代替役』と位置づけると説明した。これは日本側の政治的都合で優良な肉体の若者が兵役を逃れる事での対象者の村八分の防止のためで、時代背景もあり、細心の注意が払われた。また、日本側は民間軍事会社に対しての偏見が強いため、該当する海援隊を国営組織化する事で対処が図られた。(実質的な予備艦隊化)これらの混乱に対する対処はタイミング的には立ち遅れていたが、やらないよりはマシであった。地下都市の建設は五輪を名目にして押し進められ、南洋島の強固な地盤を背景にしての軍事地区と商業地区などが中心都市や沿岸都市の地下にドラえもんの力を借りる形で作られ、本土も整備が開始された。ドラえもんが途中で前線から離れたのは、この仕事を引き受けたからである。


――扶桑 統合参謀本部の一室――

「のび太、これからどうなるの?」

「23世紀で真ゲッタードラゴンが目覚める。それをキーに地下勢力が一気に動き出す。アトランティス連邦の最後の遺産『ウザーラ』はブライ大帝の手にある」

「アトランティス?」

「7000年前に滅んだ、ムー連邦と覇を競った海底国。伝説では『大陸の国』って事になってるが、実際は現生人類の一部が海に還って、そこで進化した種族が築いた国でね。ある時代にはアトランティスとムーの連邦が海底世界の覇権を争っていた」

のび太はかつての冒険で聞かされた海底世界のあらましを、ことはに教える。海底に生きる人間達は地上より早く文明化し、やがてアトランティスとムーという2つの超大国が冷戦を争う時代に突入したという。そして、アトランティスは核ミサイルの開発に成功し、ムー連邦に降伏を迫った。だが、核実験に失敗したために、放射性物質や放射線などを遮断する機能を持った不可視の防壁が裏目に出て、実験失敗からほどなく、数百万以上の全国民が死に絶え、アトランティスは滅んでしまった。だが、アトランティスは国の守護聖竜を模した最終兵器『ウザーラ』を完成させており、植民地地域のどこかに秘匿していた。その海域から百鬼帝国は無傷で手に入れた。ウザーラは百鬼帝国が自力で作った兵器でなく、アトランティス連邦最後の遺産を改良した超兵器なのだ。

「そのアトランティスの科学の粋を結集した超兵器がウザーラ。建造に数十年以上を費やした分、その威力はグレートマジンガーとゲッターロボGが太刀打ちできないほどって推測されてる」

未来世界で強さの基準として使われているスーパーロボットはゲッターロボGとグレートマジンガーである。その二機がだいたいの目安にされているからで、23世紀では一般的な比喩となっている。のび太もことはに説明するのに引き合いに出している。

「それに対抗するために真ゲッターロボより強い真ゲッタードラゴンが目覚めるの?」

「アトランティスの最終兵器だからね。地軸変動ビームだとか、重力遮断ビーム積んでそうだし、如何に真ゲッターでも苦戦するだろうし、それにゲッター真ドラゴンを持ってたし、ゲッターデーモンを作ってるらしいしねぇ、百鬼帝国は」

百鬼帝国はデザリアム帝国の地球侵攻に至っても沈黙を保つが、その理由はウザーラの改良や、ウザーラを解析しつつ、ゲッターロボの特徴を取り入れた『ゲッターデーモン』の新造に心血を注いでいたからだった。ベガ星連合軍が23世紀で母星を失い、背水の陣でジオグラフォスという小惑星にに立てこもっていたり、ミケーネ帝国残党が暗躍している中、最大勢力が百鬼帝国である。のび太は地下勢力最大にのし上がった百鬼帝国を警戒しているようだ。

「そろそろ、君の入隊手続きが終わる。午後のミデアでの定期便でいけると思う」

「分かった。行ってくるよ」

ことはは既に扶桑皇国軍制式戦闘服に着替えている。軍隊階級は少尉が予定されている。当時、扶桑皇国は新規志願ウィッチの顕著な目減りへの対応として、黒江の提唱した『プリキュア・プロジェクト』を遂行していた。その最終段階の一つがことは/フェリーチェの勧誘であった。ZEROに凌駕されたとはいえ、元々は大地母神の後継者。歴代プリキュアでも地力は高い部類に入る。加えて、ゲッター線と光子力に見出されし存在。のび太の父性愛を受けて、20年近くを過ごしたため、精神的に成長しており、戦闘時と普段のキャラの差異が減っている。ただし、のび太達に教育された影響か、多少なりとも荒っぽくなっている面もある。また、のび太の教育の賜物、ガン=カタや剣術を身につけている。サイドアームは圭子と同じ『ベレッタM92』である。

「ん、扶桑は今、軍用タンカーや輸送艦の建造ラッシュか…。日本の民間企業が徴用に応じないから、大変だな」

のび太がタブレットで確認したニュースによれば、扶桑は輸送に使うタンカーや輸送艦、補給艦、工作艦の建造ラッシュに入るを得なくなり、いくつかの軍艦の竣工予定が先延ばしされる事態になっているという。(日本の民間企業が協力しないため、すべてを用意する必要に迫られた)扶桑海軍は海援隊に海上護衛を任せていたが、海援隊も混乱しており、海軍そのものがシーレーン防衛型に軍備を再構成せねばならなくなっていた。(軽空母の売却による、雲龍型航空母艦の後期艦の種別変更などの混乱が発生した)折しも、大和型が第三次近代化改修中であった事もあり、逆に正面戦力が弱体化する本末転倒の状態になり、それで播磨型の竣工が急がれたのである。その上位艦の敷島型は『兵力の数の低下を補う超弩級移動要塞』という位置づけになっている。ダイ・アナザー・デイ中の段階では、地下秘密ドックで一番艦の敷島が50%の工事進捗率に達している。量産型ラ級と同様、『大艦巨砲主義の権化』と謗られるとする判断から、日本には一切が秘匿されている(米国は知っている)。これは移動要塞に資材を投じていると早い段階でバレると、メガフロート航空基地でも造れと言われるからだ。また、当時は兵科扱いされていた『ウィッチ』は『航空機よりは機敏だが、火力は劣り、防御力は魔導師に劣る』という難点ばかりが指摘されるが、黒江達のように、下手な上位の魔導師を超える攻防速を兼ね備えるケースもある。(氷山空母を造れという声も出ているため、それよりはメガフロートは現実的ではある)

「この戦で敵に一定以上の打撃を与えないと、太平洋戦争までの時間稼ぎにもならないだろうね。少なくとも、日本の20万都市が数個埋まるくらいの人数を後送させないと…」

「オーバーじゃ?」

「厳しい条件だよ、これは。味方の死傷者は少なく、敵は100万だろうが、情け容赦なくぶち殺す。日本の一部政治勢力は硫黄島、サイパン、沖縄の復讐でも目論んでるのかって言いたいよ」

「だからって、近代兵器と超兵器でチートしていいの?」

「史実の太平洋戦争で物量に押し潰された腹いせだよ、これは。日本の傲慢と自己満足さ」

「扶桑軍に上から目線だしね、日本の政治家達」

「戦争には犠牲はつきものだし、金もかかるんだよ?核兵器を使わない前提だと、第一次世界大戦宛らの膨大な犠牲だって覚悟するべきなんだよ。日本の自己満足で兵器を高価にするわ、人を死なせるな…。前線はGウィッチとヒーロー、スーパーロボットがいなけりゃ、とっくに崩壊してるよ」

のび太は日本の一部政治勢力が喚き散らす事を『自己満足と傲慢』と断じる。ドイツは現地の状況を把握すると、的外れな批判を止めたが、日本は扶桑皇国を革命で戦後と同じ体制にしようとする勢力などが暗躍し、却って現地を混乱させる有様であった。クーデター勃発も天皇制廃止への『危惧』が一因であり、扶桑はこれ以上ないほどに政治的混乱を強いられた。ウィッチへの社会的迫害の表出を国情的にも絶対に避けなくてはならない扶桑は、Gウィッチの特権を国内でも認める方向になる。この時に至り、黒江達の地位はようやく、国内でも確定したと言える。(正確に言えば、蓄積された功績が『二階級特進でさえ、余裕でお釣りがくる』ほどであった事、黒江の自衛官としての地位が『空将』である事への配慮、江藤の申告がようやく認定されたのと入れ違いに、カールスラントのウィッチの撃墜記録が『参考記録』扱いされ、世論の糾弾を受けていたため、レイブンズのスコア認定と国内でも特権の行使を認める事は『ウィッチの権益の保護』と『オラーシャのような社会的迫害の防止』という意味合いが込められていた)当時の扶桑は前線の兵器数の減少で『縛りプレイ』と21世紀の若者達に揶揄されるほどに顕著な機甲兵器不足に陥っており、現地で旧軍兵器の改良型を作らせていても、本土や南洋島に回され、前線にほとんど出回らないという本末転倒ぶりである。地球連邦軍が工場から直接運んでも、200両前後しか配備出来ていない。

「政治屋連中は自分達の都合で扶桑を抑え込んで、好き勝手にしようとした。だけど、状況が状況だから、軍事大国にならざるを得ない扶桑に無理解な連中は多い。ブリタニアは疲弊して、ガリアはあってないような状態、ノイエ・カールスラントは南米に国ごと疎開。アジアで生き延びた軍事大国は扶桑だけ。シャムなんて保護国も同然だ。大昔はチンギス・ハーンで鳴らしたモンゴルは近代化されてない『木偶の坊』。そんな世界を気に入らないのは、中露を中心に多い。」

「どうして?」

「大まかな世界秩序がビクトリア朝時代以前のままだからだろうし、中国は滅んでるからさ。ロシアは同位国に冷淡過ぎた。オラーシャは多分、地域の中等国に戻れても、大国には戻れない。ウクライナが独立した以上、工業力は減退してるはずだ。ティターンズを裏で中露が手助けしてるだろうし。前線で鹵獲された武器に『AK-47』が確認されたそうだから、ロシアは学園都市に負けた腹いせに、片方の手で連合軍と協定結んで、もう片方の手でティターンズを援助してるんだろう」

「どうにか出来ないの?」

「無理だよ。ロシアはどうせ否定する。冷戦時代からの常套手段さ。地球連邦の元ティターンズ派が破壊された『シャロン・アップル』を修復していたっていう情報もある。彼らは反統合同盟の生き残りでもある。ロシアをけしかけて、旧・反統合同盟系の戦闘機を横流しさせるのを手始めに、下手すれば、シャロン・アップルを使うだろう。そうなったら、イサム・ダイソンさんにまた、マクロス級を『ぶち抜いてもらう』しかないね」

のび太は学園都市に敗北したロシア連邦の暗躍や地球連邦内部の地球至上主義派の動きを掴んだが、もはや彼の力だけでは、行動を防止できないレベルに達していた。それは東西冷戦時代と統合戦争時代の業ともいうべきものでもあった。彼らはかつてのバーチャルアイドル『シャロン・アップル』を修復してまで、何を成そうというのだろう。のび太はウィッチ世界を舞台にして繰り広げられる、2つの時代の人間達の闘争を憂いる。そして、百鬼帝国の切り札であり、かつて、自分が戦ったアトランティス連邦の遺した遺産『聖竜・ウザーラ』。それに対抗できる、現時点最強のゲッターロボ『真ゲッタードラゴン』。その胎動を悟ってもいた。

「真ゲッタードラゴンか…」

――真ゲッタードラゴンは廃墟と化した『新早乙女研究所』の地下奥深くで高濃度ゲッター線を発しながら、確実に産声をあげつつある。ゲッタードラゴンの形状を象った繭の中で…。



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