外伝その371『扶桑の不穏3』


――1945年。扶桑は日本連邦体制に組み込まれ、国家の変革を余儀なくされた。新憲法でも、『事変を知る軍部の中堅以下の将校』の強い要望で、皇室に国家緊急権は残され、『内閣総理大臣に軍隊の統帥権を委任する』という一文になり、天皇が委任する形で統帥権が内閣に与えられる事になった他、軍部は国防大臣と国防省の強い統制を受ける事、陸軍士官学校と海軍兵学校は統合の流れとなったほか、陸軍航空士官学校は空軍の教育機関に移行し、『空軍幹部候補生学校』という形で選抜された航空要員の育成に充てられるとされた。教育課程を自衛隊式に統一するのである。その兼ね合いで、既に任に就いているウィッチにも再教育及び、能力検定試験が課せられた。日本側は不合格のウィッチは最大で三階級程度の降格があるとしたが、当時は戦中の促成教育がなされた世代のほうが多数派になっていく時代であったため、不利益を受けた者たちがあまりに多数に登ってしまった。そこも海軍将校によるクーデターを誘発している面は否めなかった。現場を回すため、Gウィッチの優遇が認められたが、サボタージュで負担が激増。サボタージュしている部隊の最年長者を更迭し、次席と三席を64Fへ引き抜く事も続き、結果として、欧州で部隊としての実働状態なのが64Fのみという散々たる有様に陥った。だだっ広い欧州を一部隊で支えるため、他の部隊の吸収が繰り返された結果、戦隊とは名ばかりの『航空軍』と化し、配下に通常戦闘機部隊や爆撃機部隊も抱えている。そこにGフォースが加わったため、国際色豊かな編成となっていた――







――リベリオン、連合軍を問わず、人種差別問題が問題提起された煽りは大きく、自由リベリオン人はしばらくの間の忍従を強いられ、カールスラント軍に至っては空軍の名誉が地に落ち、軍縮で形骸化が進む有様であった。44JVの扶桑への移住と義勇兵化が容認されたのは、軍縮でエースパイロットの大量失職が起きることを恐れたガランドが配下の部隊まるごとを予備役に編入させ、そのまま扶桑への義勇兵扱いで機材ごと継続参戦させた。カールスラントとしては本土奪還のために歯止めをかけようとする考えがあったが、カールスラントがナチス化することを恐れるドイツ側が歯止めをかけようとしなかったため、大量の失業軍人が街に溢れかえることとなった。この時に日本連邦が失業したカールスラント軍人などを大量に受け入れた事で、一気に経済成長が起こり、技術での躍進も進むこととなった。その一方で、軍部の内情はカールスラントを笑えないレベルでズタボロであり、ウィッチ部門は廃止の瀬戸際に追い詰められていた。黒江達の特殊性などを考慮し、『兵科はいずれ廃止するが、特技としては維持する』という方向性でまとまっていた。これは黒江達のように、通常兵器も扱えるウィッチは限られている上、ウィッチとして飛ぶ事に特化して教育されてきた世代の扱いに頭を悩ませる事になったからだ。その分、どんな形でも一騎当千が約束されし黒江達は、あらゆる面で優遇措置が取られた。それには日本による不手際の見舞金も含まれ、G機関の管理する各個人名義の口座には大金が振り込まれている。その活躍が扶桑ウィッチ組織の面目を保つ唯一無二の手段だったからだ――






――歴代プリキュア達の内、特訓に参加した者たちは変身した姿で銃火器の扱いを仕込まれる事になった。これは『プリキュアというだけで訓練を受けないで済むなんて』という批判を避けるためのものでもあり、建前上、炊事担当のホイップとジェラートも参加して、大規模に訓練が行われた。転生先が職業軍人である者たちが総じて有利であり、ドリームもマガジン一つあたり、5発は的の中心に当てているなど、好成績を収めた。射的経験の有無も大きく差として表れていた。のび太も計測に参加し、各プリキュアの腕を確かめていた。

「ふむ…、射的やった経験がある子達は全体的に当てるね」

「その点は90年代前半世代の強みだな。縁日でやった経験あるからな。その辺の連中は」

「意外なのは、あおいちゃんだね。当ててる」

「お嬢様だって言うから、別荘にあるんじゃね、シューティングレンジ」

「いちかは二発、ラブは三発か。職業軍人に転生してる連中は当てるから、もうちょい撃たせるか?」

「いや、これで充分さ。だいたいのレベルは分かった」

「うむ。下原と稲垣には褒美の準備をさせておるから、このくらいで良いだろう」

「赤松、子供たちのレベルをどう思うか」

「ハッ、予想よりは使えるレベルです。後は飛行能力が付加された状態での機動を測ればよろしいかと」

キュアマカロン/琴爪ゆかりは北郷章香に転生していたため、隊では上級幹部に位置する。状況に応じて口調を切り替える器用さを見せており、北郷としての腹心である赤松の前では、北郷としての凛々しい口調と声色を用いている。外見がキュアマカロンなので、ギャップが凄いが。

「近い内に全員の機動を見ておく必要があるな。坂本にはまだ明かせんから、黒江くんもしばらくは協力してくれ」

「ういっす」

坂本にはまだ、自分がプリキュア化した事は伝えていない北郷。講道館の幹部であった父を持ち、自分も剣術師範であるなど、実家が古風な武家であるため、その硬派さと相反するであろう『キラキラプリキュアアラモード』の中でも、気まぐれな気質で知られる琴爪ゆかりが前世であることは『北郷としてのイメージに多大な影響がある』という事で、坂本にはまだ伝えていない。竹井の場合は祖父の元・少将が開明的だった事でプリキュア化も容認されたが、堅物で通る北郷家ではどうか。それはわからないため、安全牌を取っているのだ。また、坂本が自分に抱く硬派なイメージを壊したくない様子も窺わせる。これには竹井/みなみ、ペリーヌ/トワも協力している。坂本は意外に純真な一面があり、それが坂本の美点と欠点を兼ねている。坂本は自分の信じるものを否定されても、頑なに守ろうとする一面があり、それが前史での不幸に繋がった。隠し事が嫌いかつ、隠すのも下手な坂本は物事をはっきりと言うため、他の幹部は坂本には最終決定後に物事を伝えるようにしている。実際、黒江に『オブラートに包むのを覚えんか』と諌められており、本人も『口下手』を公言している。北郷は愛弟子の口下手を最もよく知っているため、キュアマカロンとしての姿を坂本にはしばしの間、隠すことにしたのだ。

「ところで、坂本は何をしとるのだ、赤松」

「奴は今、受領した烈風の調整を吾郎技師に頼んどります。宮藤の結婚祝いをどうすべきかと相談してきとりますが」

「結婚生活に役立つモノにしておけと言っておけ。あいつのことだ。刀を床の間に飾れと言いかねんからな」

「確かに。坂本はそういう性格っすからね」

黒江、赤松、マカロン(北郷)の三人は坂本が芳佳の結婚祝いに贈りそうな物品について意見の一致を見ている。坂本は親の愛国教育のせいか、武士道に強く傾倒している。刀を自分で造ろうとした(多くの世界では烈風丸を生み出してしまうこととなる)ほどだ。

「奴は親のせいで武士道にかぶれていてね。なんといおうか、こじらせているんだ…」

「はは、心当たりが…」

「同意ですな…」

本物の武士の生き残りと出会った経験がある黒江達は坂本の振る舞いを『こじらせた高校生か中学生』のように見ていて、なんともいえない気持ちにさせられるようだ。坂本は古風な武士の振る舞いを意識しているが、実際のところ、武士も江戸末期になると、江戸期に体系化された武士道にドライになっている者も多かったため、坂本の思い描く武士道はコテコテのステレオタイプだったりする。最も、坂本もあながち間違っているわけでもないのが一同を困らせているところだった。

「ところで、子供たちに覚えさせたい技をスネ夫とリストアップしといたんだけど、見るかい」

「見せてくれ」

「お前ら、結構悪ノリしてね?ビルドファイターズトライのトライオン3の技まであるやん」

「ま、君達なら空中元素固定で可能でしょ?」

「そりゃ事実だが」

「プリキュアの既存技はZEROも既知だろうし、何より、皆にバレバレだ。意表を突くものは必要さ」

「ま、とりあえず。フェリーチェ、ドリーム、ピーチ、メロディ。面貸せ、面」

「なんですかー?(なんすか)」

重点育成対象である5人を呼び出し、リストを見せる黒江達。戦闘力の観点で言えば、この五人が最優秀に入る。更に、保護者的観点から気になって、その場にやってきたルージュも見に来た。

「なんですか、それ」

「折角の機会だ。君達に新技を覚えてもらおうと思ってね」

「……プリキュアと全然関係ないような…」

「ま、君達は有名だからね。意表を突く必要があるってことさ。アニメと同じやり方じゃ、世紀末系拳法や改造人間には立ち向かえないよ」

ルージュもそれを実感していたため、のび太の言う事は否定しない。改造人間などに立ち向かうには『今より上の次元に登らなければ生き残れない』のだ。既に現役時代の最終的な強さを超えている者もいるが、それすら凌駕する強さの敵がいる。その危機感は全員が共有している。そのためには『プリキュアとしての外聞は捨てなくてはならない』事も。

「先輩、やっぱり必要なんですか?」

「そうだ。敵は拳法の達人なり、改造人間だ。耐久力もお前らの現役時代の幹部やボス級と同等以上だ。仮面ライダー三号や四号に格っては、お前らを嬲り殺しにできる力を備えてるんだ。栄光の7人ライダーやドリーム戦隊に頼り切りじゃ、お前らは看板倒れになる。何より、次元世界の女の子達の期待を裏切るわけにはいかんだろう?それがいつの時代でも」

「確かにそうです。たとえここが、昭和の時代でも、わたし達はプリキュアだもん。ライダーや戦隊、それと宇宙刑事に頼り切りじゃ…」

「プリキュアの看板がすたる!」

「お前ら、いいコンビだよなー」

「ま、同期っすから、士官学校の」

シャーリー(北条響)と錦(のぞみ)は士官学校卒業の時期が同じ時期であるため、覚醒以前からウマがあっていた。それがプリキュア化で親友に発展し、のぞみが唯一、同輩で呼び捨てにするのが響(シャーリー)ということになるなど、『貴様と俺は同期の桜』を地で行く悪友関係になっている。黒江によって同室にされた事もあり、りんと並び、のぞみの保護者的ポジションに落ち着いているシャーリー(響)。

「でもさ、ドリーム、オールスターズ戦の後半はいいとこなかったよね」

「いいよね〜、ピーチは見せ場が後半になっても多くて。ミラクルとマジカルとも一緒に戦えたしさー…」

「あたしは浄化技がメインになった初めての例だったしねー。ハッピーまでとチームを組んだ事もあるからなー。その事でドリームがひねくれちゃって」

「初めてのピンクはわたしなのにぃ〜…」

「お前、まだ拗ねてんのかよ。ミラクルとマジカルのオールスターズデビュー戦での事。感覚的には、ずいぶん昔だろうに」

「だって、敵に捕まって、出られな〜いってやって、マリンにツッコまれたんですよ!なぎささん達の手前、悔しさを表に出さなかっただけマシですよぉぉぉ――!」

「お、おう。ど、ドンマイ」

「おまけに、ピーチはハッピーまでとチーム組んで戦ったしさ……。最初のピンクはわたしなのにさ…」

「そ、その、なんかゴメン…」

ドリームはピーチが自分を差し置いて『プリキュア・ピンクカルテット』を結成し、ミラクルを助けた事がよっほど悔しかったようで、黒江すらたじろぐ勢いの心の叫びを見せ、ピーチが思わず詫びを入れる。ドリームは自分が『明確にピンクがイメージカラーになった最初のプリキュア戦士』という自覚からか、目立ちたがり屋なところもあるらしく、妙なところで挟持を持つところを見せ、黒江、赤松、のび太も苦笑気味だ。

「富くじ娘、それくらいでガタガタ抜かしとる場合か?」

「大先輩、これは私のプライドの問題なんです!」

ドリームは赤松から『富くじ娘』と呼ばれるようになっていた。相手が最古参のエースウィッチと名高い赤松なため、流石のドリームも訂正するのを諦めたらしい。

「くだらんプライドなんぞで、戦は生き残れんぞ。富くじ娘よ。これからお前がリーダーシップを求められる場など、いくらでもあるし、それなりに皆を引っ張るだけの何かがなければ、リーダーは務まらんぞ。ボウズにもよく言い聞かせてきたことだ」

赤松は後進の育成でも名を馳せている。レイブンズの黒江を一人前に育て、現在でも師と仰がれているという輝かしい実績もそうだが、赤松は姉御肌系ウィッチの大家のような存在であり、若松と双璧を謳われている。そのため、焦りを見せるドリームを諌める。ドリームも流石に、軍のウィッチ部門の最古参である赤松に言われては、押し黙るしか選択肢がない。まさに図星だからだ。

「いいか、富くじ娘。自分のプライドを優先させて、自軍全体を危険に晒した例などは戦史を探れば、いくらでもある。孫子の兵法を言ってみろ」

「敵を知り己を知れば百戦殆うからず……ですよね」

「そうだ。お前の立場はわかるが、少しは頭を冷やせ」

「は、はい…」

赤松の権威が分かる一幕である。赤松は北郷よりも古い世代の生き残りであり、この時代での戸籍年齢は29歳前後。黒江が新兵だった時代の古参に相当するため、この時代においては『御大』とも呼ばれる。邀撃戦闘脚である雷電で制空戦闘を行える腕を誇るため、この時代の海軍出身ウィッチで『右に出る者無し』と評される。また、アラサーなせいか、おっさん系女子でもあるため、その奔りともされる。

「感情に溺れず成すべきを成せ、富くじ娘」

「は、はい」

「大先輩、これが皆の射撃データです」

「ご苦労、竹井。……まぁ、縁日の射的も廃れとる時代の子らにしては、がんばったほうじゃな。軍人しとる連中は当然として…」

プリキュアの状態では銃の発砲の反動を抑えられる利点があるため、第三期プリキュアでも総じて、新米ウィッチよりはマシな結果を残した。当時は激しい対人戦闘に古参でも尻込みしてしまうような時勢であるため、プリキュア達はまさに貴重な戦力と言えた。

「今の時代は、入ってこなくなる子供らに代わる戦力が求められておる。それがお前らだ。生き残るためにも、下らんプライドはかなぐり捨てろ。技へのこだわりもだ」

この時の赤松の言葉はかなりの衝撃をプリキュアたちに与え、以後、プリキュア達が技にこだわりを持たなくなるのは、赤松がこういったことが大きく関係している。また、プリキュアに原典がない技も使用しろとお達しが出た事で、フェリーチェ以外のプリキュア達も次第に技については『枷を外し始める』。世代間の枷が既に取り払われつつあったため、存在としての枷も取り払われたと解釈したプリキュア達は自分達『プリキュア』に原典がない技を使用し始める。それが公に認められた最初の事例がこちら。



――ガリア・ヒスパニアの国境付近――

「やれやれですわ。こちらがプリキュア・フェニックス・ブレイズを撃った直後に陸戦型の大物が……。こうなれば、連邦軍が開発中の武装の試作品を……!」

帰還中のキュアスカーレットは連発出来ない必殺技『プリキュア・フェニックスブレイズ』を空戦型怪異へ放った直後、大型陸戦型怪異と遭遇し、技を放った隙を突かれたことに苦笑いしつつ、智子から持っていくように言われた試作武器を使用した。それは剣の柄に見えるものであった。

――当時、地球連邦宇宙軍はダブルゼータ系列の開発再開の上でバリエーション展開を考えており、21世紀の日本にあるアニメから逆輸入して、系列機用に試作中の武器のダウンサイジング品を64Fに提供し、テストさせた。まさに贅沢な玩具と言える兵器開発の経緯だが、アナハイム・エレクトロニクスが資金を投じ、最新のミノフスキー粒子物理学を応用し、大真面目に作ったため、性能は本物である――


「こうなれば、一か八か、やってみるしかありませんわね…!」

『ハイパーミノフスキー!!』


スカーレットは剣の柄を地面に突き刺し、柄に仕込まれている機構を叫びと共に起動させる。柄が付近の空間にあるミノフスキー粒子を集束させ、巨大なビーム・サーベルを地面に地割れを起こしながら形成する。すると、柄が浮き上がって一回転して、ソード状の光の刀身を形成した状態で制止し、スカーレットはそれを握り、構える。

『超咆ぉぉぉぉけぇぇん!!』

お馴染みの『パース』の構図で剣を構えるスカーレット。こういう時の『お約束』は分かっているようだ。ここからはスカーレット独自の判断で直接斬る選択を取った。怪異は遠距離からの攻撃では、僅かな間隙で再生する危険があるため、スカーレットは独自に炎をビームを更に覆う形で纏わせての直接的な斬撃を行う。黒江がこの場にいれば爆笑ものである。それはビルドファイターズトライのある機体のそれを本当に作ってしまったのだから。

「これでおしまいにさせて頂きますわ!!はぁあああ――っ!」

袈裟懸けの一撃で陸戦型怪異はコアを外殻ごと叩き斬られ、塵となって消え失せる。炎と光。二つのエネルギーを使っての斬撃はモードレッドの技能を使ってのものだが、メイン人格がトワ、もしくはペリーヌの状態でも発揮可能なのは、お互いの同調率の高さの表れでもあった。

「深紅の炎のプリンセスは伊達ではありませんわ!」

この戦闘はMATの活動領域外での戦闘だったので、彼らが出動することもなかったし、その権限もない。法的に彼らは責められないが、非難を浴びるのは確実であった。MATの活動は日本連邦の法で厳しく規制されており、出動に高いハードルがあり、2019年の東京湾に怪異が出現し、その駆除と防疫に駆り出されたのが組織としての初陣である。日本にも怪異が出現していく時代になった事で、なんとかウィッチの雇用の維持は成功し、怪異駆除は『猟友会』のような位置づけとなっていく。軍ウィッチはMATとの差別化のため、過酷な任務に投入されていくことになる。

「あれは16式機動戦闘車……。陸戦ウィッチの砲で撃ち抜かれたり、地雷で損傷して放棄された車両ですわね…」

スカーレットは付近に複数の16式機動戦闘車が損傷した状態で放棄されている事に気づいた。機動力に優れ、歩兵に準ずる不意打ちが可能な装甲歩兵に対戦車ライフルで不意打ちをされ、装甲を貫通されて誘爆、びっくり箱のように無残な様相を呈した車両、地雷で損傷し、放棄されたものと様々な損傷車両が見える。

「扶桑に試験的に供与されたものですわね。軽戦車と同じ使い方をしたのでしょうが、自衛隊もはた迷惑と愚痴りそうですわね。陸自は予算が減らされそうですし…」

16式機動戦闘車は供与を受けた扶桑陸軍の部隊の運用の齟齬による損害が予想以上であったため、陸自への配備数削減が検討されるほどの問題になる。旧式と見なしたメーサー殺獣光線車の系譜が天下無双に近い活躍をしていることで陸自は財務省に責められたが、オーバーテクノロジーをふんだんに用いている車両と、時代相応の技術で構成されている車両を比較するのはフェアではない。ただし、装甲戦闘車両の調達数が減らされる大義名分にされそうなため、焦った陸自は10式戦車の調達数を増加させ、16式機動戦闘車をしばしの間、扶桑への供与分と説明する事で生産数を維持する。2019年当時は74式戦車が耐用年数の限度を迎えつつあったからだ。

「地球連邦軍に回収を頼むしかないですわね。このあたりは怪異がよく出る地帯ですし」

スカーレットは地球連邦軍に損傷した自衛隊の車両の回収を依頼し、自身はそのついでに駐屯地にミデアで帰る腹積もりだった。そのあたりはペリーヌのちゃっかりしているところが作用しており、相互に影響しあっている事が分かる。当時、扶桑は軽戦車そのものが陳腐化し、数を揃えるための装甲戦闘車両に悩んでいた。その意味で16式機動戦闘車は魅力的であった。その認識が16式の運用の齟齬に繋がり、第二次世界大戦型戦車との正面戦闘に駆り出されてしまう車両が続出した。戦闘で放棄された車両が意外に多数にのぼった。損傷した車両は地球連邦軍が修理し、戦闘に再投入されているが、熟練した対装甲特技兵は如何に自衛隊の装甲戦闘車両であろうとも、不意をつけば『撃破できる』事実の証明であった。

「この量だと、扶桑はテケ車と同様に考えているようですわね。ほとんど自走砲だというのに、16式は」

最新式の機動戦闘車と言えど、第二次世界大戦型戦車相手の機動戦闘は無謀に近い。その耐弾装甲は戦車相手の耐弾性能を想定していないからで、陸自関係者は頭を抱えている。黒江が愚痴っていたのを覚えているスカーレットは、財務省と電話で格闘する羽目になっている黒江の気持ちを理解した。ミデアが飛来し、連邦軍将兵が損傷した16式をコンテナに格納して回収し、スカーレットもミデアに乗り込む。その護衛はコスモタイガーである。スカーレットはミデアが定期便を届けるついでということで駐屯地に帰還。試作武器の使用データをアナハイム・エレクトロニクスに送り、さらなる改良を行うことが決まったという。





――のび太の部屋――

「とりあえずさ、将官用の広い部屋を用意させたけど、それでいいか?」

「雑魚寝じゃ、カミさんに文句言われそうだし、一人部屋は歓迎だよ」

「かかあ天下だよな、お前んとこ」

「昔から気が強いんだよ、カミさん。海底鬼岩城の時は自分を囮にしたし、ピリカの時は自分で宇宙戦闘したし、見かけに反しておてんばなんだよ。どこでもドアで行く度に風呂入られてたのは参ってたけど」

のび太は黒江に子供の頃からの妻の悪癖を話す。静香は大人になっても一日に三回は風呂に入る癖があり、のび太は結婚前の大学時代に至るまで、そういう場面に遭遇する羽目に陥っていた。

「おかげで今はこっちが風呂浴びてる時に入って来られるよ、昔のしかえしだって」

「子持ちになってるくせに、気が若いよな、あいつ」

「お袋のころとは違うしね」

「お前のお袋さんも相当に寛容だと思うぜ?フェリーチェの姿のはーちゃんを養子するのOKしたしよ」

「お袋は格好は気にしない質だから。アレで情が深い所有るし、ってドラえもん受け入れた辺りで察して欲しいな。それに、はーちゃんの時はお袋が気に入ったしね」

「みらいがパニクってるってよ」

「モフルンに説明は頼んでるよ。あの子を20年近く育てたのはボクとドラえもんだしさ」

みらいが野比家で先輩たちを振り回していると聞かされ、苦笑いののび太。作戦会議ではキュアラブリーとキュアハートの召集が決議されたとも言い、立花響の精神侵食が揉め事になりそうなことも議論された。作戦会議は黒江の他、アカレンジャー/海城剛、ビッグワン/番場壮吉、仮面ライダー一号/本郷猛、宇宙刑事ギャバン/一条寺烈などが参加しており、のび太も名を連ねている。シンフォギア世界からは最年長者のマリア・カデンツァヴナ・イヴが参加しているので、互いの連絡会議の側面もある。

「それと、ハートに召集をかけるよ。そろそろ試合が終わったはずだしね」

「ラブリーはどうする?」

「丁度いいから、呼ぼう。召集はそちらで頼むよ」

続々とプリキュアに召集をかける黒江達。そこへ御坂美琴から電話がかかってきた。黒江の電話はタイム電話であるので、次元を超えても連絡可能だからだ。

「美琴か?久しぶりだな。なんかあったのか。何、婚后光子が?本当かよ!」

「どうしたんだい?」

「キュアダイヤモンドがいた…。婚后光子に転生してたそうだ…」

「本当かい!」

「美琴曰く、ハートの映像を見たら覚醒して、美琴に仲介を頼んできたらしい」

「まあ、ダイヤモンドとは親友だって言ってたしね、マナちゃん。なのはちゃんから調査を頼まれてる子がいるしね」

「ああ、あいつだろ、アリサ・バニングス。安直すぎね?」

「なのはちゃん自身、キュアアムールの線を自分で調べてたけど、アリサ・バニングス氏がキュアエースのほうが濃厚だから、かなりぶーたれてたよ」

「なのはがプリキュアだったら、パワーバランス崩壊もんだ。ブロッサムもアリシアだしよ」

「たしかに」

「智子をそっちに行かせる。婚后光子、いや、菱川六花には指定の場所で待つように言ってくれ。手続きがあるからな。ああ、ラルにはよろしく言っとく」

前史でラルと美琴が入れ替わった縁で、美琴も前史での記憶を保持していたため、メカトピア戦争後は学園都市の動乱を収めることに専念していた。動乱の終結後は上条当麻といい関係になったようであり、2019年当時では大人になっているだろう。
彼女が上条当麻とどうなったのかは定かでないが、少なくとも、上条当麻という存在が緩衝材となり、食蜂操祈ともある程度の関係は築いたとは言っている。(お互いが大人になったのもあるだろう)

「時間軸は僕の時間軸かい?」

「ああ。そこから呼び出す。あとはキュアエースの調査だ。アリサ・バニングスがキュアエースだと、そうそう呼べんな。家のことがある」

キュアダイヤモンドの発見が御坂美琴(青年期)から伝えられ、召集を決意した黒江。また、アリサ・バニングス(なのはの親友)がキュアエースかどうかの調査も行うと、のび太に言う。ダイヤモンド/六花は自己申告なので、変身してくれれば裏付けが取れるが、キュアエースの場合は元が成長型だったため、智子は『子供にしてから変身でいいんじゃない』とテキトウなことを言っている。なのはは何気にアリシアがキュアブロッサムだったことで、かなり拗ねている。(年甲斐もなく拗ねたため、他次元より子供っぽさが残っているとも言える)

「ま、開いてる時間に呼び出せばいいさ。そのためのタイムマシンさ」

「ブロッサムから、なのはに拗ねられたとか愚痴りのメールが」

「なのはちゃん、魔法少女で満足しなよ…。パワーバランスがただでさえ崩壊気味なんだしさ」

「だよなあ。いくら芳佳に伝家の宝刀を防がれて、アリシアがプリキュアだからってな。あいつも強情だなぁ…」

なのはは立花響の一件で処分を受けたが、暁切歌(子供)に敵視されるなどの副作用も大きかった。クリスからは『いい歳こいて魔法少女だぁ?ふざけるのもたいがいにしやがれ』と苦言を呈されるなど、なのはの教育法はやりすぎと批判されている。なのはは天真爛漫さを武器にしてきたが、大人になってからは失敗も多く、二佐以上への昇進は遅らされている。なのはは根本的に他人を精神的に育てるのは下手なほうであると認識されたのは立花響の一件で、黒江もびっくりなほどの下手さ加減と、響の強情さが相互に作用しあった結果であり、なのはも教導隊を辞そうかと考えたほどの失敗と漏らしている。

「なのはちゃん、この間の一件で、教導隊をやめようかと考えたらしいんだけど、あかいあくまちゃん、もとい、はやてちゃんに慰留されたそうだよ。切歌ちゃんには僕が真意を伝えようか?例のことで敵視されてるしさ、なのはちゃん」

「頼む」

「ま、あの子は実務指導向けさ。ティアナちゃんの一件のこともあるし。今回はあの子が回避してるけどね。立花響ちゃんは根本的に小日向未来ちゃんの言葉でないと、ほとんど言うこと聞かないって悪癖があるからね。調ちゃんがそこを嫌がったのも分かる」

「響は強情なところがあるからな。俺が入れ替わってた時、エクスカリバーを見せても、まったく怯まないで、逆に向かって来たのは面倒だったよ。あいつ、自分のギアの性能を過信しすぎるから」

「うーん。小日向未来ちゃんをシャカさんに弟子入りさせて超常的意味でのボディランゲージさせようか?」

「それしか桜セイバーを止める手段はないな。二重人格になるのか、新しい肉体を構築するのかは未知数だが…。調も磁光真空剣が手元に刺さって、それで敵を真っ向両断したら揉めたとか言ったし、俺と調は苦手でな」

調も敵は『悪・即・斬』なところを受け継いだため、響との折り合いはよくない。黒江に居場所を守らせたことに不快感を見せたこともあり、小日向未来が緩衝材になっていた。小日向未来は黒江と友人関係であるため、調の出奔の決意を受け止め、響にばれないように送り出しているなど、協力者でもある。また、自身も戦いたいという願望を持つが、響は『自分のひだまりで、帰る場所』の象徴と彼女を見ており、彼女が戦場に出ることを良しとしないため、響の身勝手とも取れる態度を諌めようとし、調の出奔の手引きを行った。そのため、調も小日向未来には好意的である。彼女は『いくらなんでも、姿が入れ替わっただけの人に一年も演技させて、その発端の子が帰ってきたら、代役の良かった面も引き継げなんて、虫が良すぎるよ』と考えており、そこの点で響と対立していた。また、黒江が自衛のためにシュルシャガナを使用していたことも受け入れているため、それも響が自分の正しさと力に異常な執着を見せる一因であり、自分の正しさを証明したい心が歪んだ形で肥大化した事が沖田総司の魂に侵食される原因の一つである。

「あの子は綾香さんが好きに動き回ったから、切歌ちゃんがおかしくなったって考えて、その責任を取らせたかったんだろうね。おまけに自分の力が通じない宝具の応酬、グレートマジンカイザーの存在、プリキュアの登場。自分の居場所を取られると思うと、他人が見えなくなるんだろうな」

のび太は立花響をそう分析した。小日向未来も『姿が入れ替わっただけの人物に一年も演技させて、帰還してきた人物に代役の良かった面も引き継げ』と強要するのは虫が良すぎると考えており、奔放な黒江と根が真面目な調とでは気質が違いすぎて、負担になるだけと考え、黒江に連絡を入れ、調の出奔を促した。また、自身が戦うことに否定的な響への『役目の押しつけ』に少なからずの不満を抱いていたためもあり、調の出奔の際に事情聴取をされた際には、その関与を否定している。(黒江への恩返しでもある)

「未来も不満があるって俺に言ってたしな。前、俺が神獣鏡のギアを平行世界から回収して彼女に送ったんだが、SONG預かりとはいえ、戦わせることを響が猛反対でな。俺への批判になったとか」

「綾香さんの事が嫌いと見える」

「取り敢えず護身用に持っとけってコピー渡しといただけだよ。小宇宙覚醒まで教えて。憎まれ役は慣れてるが、あいつは俺の陥ってた事情を一考だにしなかったからな。そこが未来や調が怒る点だよ。だから、神獣鏡のギアは今でも隠し持ってるはずだ」

辿った経緯がB世界及びC世界と違うシンフォギアA世界では、聖闘士とスーパーロボットの存在が結果的に戦争抑止力となり、パヴァリア光明結社も天秤座の童虎がしばし滞在し、その力で残党を掃討したこともあり、シンフォギアを必要とする局面は減少傾向に向かっている。黒江が招聘した理由は『童虎が本腰を入れて結社を掃討したため、カストディアンの降臨も起こらないとされ、平和に向かう中での新たな存在理由を与えるためでもある。

「こじらせてる子は扱いにくいの極致だよ?」

「何、前史の坂本に比べりゃ可愛いもんだ。それに、あいつは悪気がないからな」

響は悪気がなく、良かれと思って発言すること、行動する事が地雷になり、結果的に他人とわかりあう事を遅くする。居場所と力への執着心は自身のトラウマに由来するため、なのはが読みきれなかったのも無理はない。また、プリキュア達への対抗心もトラウマに由来するため、黒江は未来と交流する事でそれを知ったため、評価は同情的になっている。C世界で示されたように、プリキュアはノイズに特段の対策無しで対抗できるため、装者の嫉妬を買っているのも事実だが、スーパーヒロインなので、ある意味ではしかたない。また、実のところ、装者達は天秤座の童虎がトレーニングを課しているため、少しづつリンカーの使用頻度が下がっている(マリア、切歌)。切歌は大人切歌が別枠で戦っているため、子供切歌は引っ込みがつかずにボイコットを続けている面が大きい。また、見かけは14歳ほどの歴代プリキュア達の背中を見て、考えさせられたことで切歌は聖闘士への道を選んでいく。


「アヤカ、私だけど、入っていい?」

「マリアか。いいぞ。紹介したい奴がいるしな」

マリア・カデンツァヴナ・イヴがやってきた。マリアにとって、この時が青年のび太との初対面であった。(少年のび太とは合っていたが)。なお、マリアはトレーニング中であるためか、アガートラームのギア姿である。

「やあ、マリアさん。この姿じゃはじめまして、かな?ボクですよ」

「貴方、ノビタなの!?」

「そう。アラサーになった時代のね。ボクに時間軸は無意味ですよ」

のび太は少年時代の面影を青年期は色濃く遺していたため、マリアでも容易に成長したのび太だと分かった。マリアは一つの戦いの中で異なる時間軸の同一人物と出会ったことになる。

「訓練を終えたところですか?」

「ええ。老師にトレーニングを頼んでいたの。なんだか、平常時でも展開しろというのは慣れなくてね」

「俺をみろ、俺を。そのうちに慣れる」

「貴方は慣れすぎよ!翼が拗ねてるわよ」

「知るか!悔しかったら、ギア姿でコスプレ喫茶のバイトしてみろっての」

黒江はシンフォギア姿を視察から帰って来ても維持している。調の容姿を使っている事は既に周知の事実で、マリアも慣れてしまった。

「……貴方ねぇ…。だけど、この羞恥心はなんだか…」

「プリキュアの事を考えろ。オツなもんだぞ、これも。小宇宙をアイドリングさせる程度でギアの維持は出来るんだし慣れれば呼吸と同じだ」

シンフォギア姿での活動に慣れろという黒江。マリアもトレーニングに勤しむうちに羞恥心が薄れていくため、生真面目な気質の風鳴翼がギア姿での日常性格に難儀したのは言うまでもなく、その姿が人気となったという。

「翼は納得するかしら」

「適合者でも、大技の時には負担がかかる。それがなくなる利点がある。任意にエクスドライブもやれるしな。ま、羞恥心を捻じ伏せろ、まずは」

「羞恥心、ねぇ…」

「羞恥心どうにかってんならポンチョくらい羽織るのはいいんじゃないか?戦闘レベルのエネルギー出すと弾けるかもしれねーが」

「…!」

一瞬、反応に困るマリアだが、自分達以上に目立つコスチュームの歴代プリキュア達が活動している事を考えれば、ねじ伏せて損はない。マリアは歴代プリキュアへの対抗心で、自分の羞恥心と格闘することを選んだのだった。



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