外伝その374『地球連邦軍の実状』


――ウィッチ世界はティターンズ、それを背後で操るネオ・ジオンと地球連邦軍の戦いの舞台でもあり、ジェスタやグスタフ・カールなどの新型機の評価試験の場でもあった。小型機は次第に開発されなくなり、大型機へ回帰していったのが23世紀のMS開発であった。ネオ・ジオンが新技術への不信やコストの観点から、ギラ・ドーガと大差ないレベルのMSしか配備していないのに対し、連邦軍は第二の可能性として、ミドルサイズを模索していた。当時、ジオン公国時代の猛者たちも次第に戦争から離れていっており、ネオ・ジオンの将兵の多くは若い兵士や将校だった。ジオン公国時代の兵士達が目指したのは『ジオン公国の再建』であり、ネオ・ジオンの国家樹立ではない。そこもネオ・ジオンにジオン公国からの古参兵があまりいない理由であった。皮肉なことに、シャアは行き場を失ったティターンズ残党を捨て駒扱いで取り込んでおり、将校の多くはティターンズ出身という状況だった。シャアのネオ・ジオンはアクシズ時代には廃止されていた軍階級を統制管理のために復活させており、ジオン公国時代からの古参兵は基本的に佐官以上である。尉官がティターンズなどの他組織かアクシズ以降の時代の者であるなど、人手不足ぶりを露呈していた――



――駐屯地――

「アムロさん、ネオ・ジオンはどうして、自分達の仇敵だったティターンズ残党も取り込んだんすか?」

「人手不足だよ。今のネオ・ジオンはハマーン派とトト派、ダイクン派、ザビ家派でつぶしあいをしあった後の状態でね。シャアが行方不明になった際に離れた者も多い。だから、兵力回復のためにティターンズ残党を利用したのさ。ティターンズも今の地球連邦にとっては厄介者でしかないし、公には反政府運動扱いだ。それでネオ・ジオンに媚を売った者も多い。あの世でジャミトフ・ハイマンもひっくり返るだろうさ」

ティターンズは解散後、エゥーゴと立場が入れ替わり、過激な反連邦政府運動と扱われた。それに憤慨した将兵らはネオ・ジオンに取り入り、かつての自分達と矛盾する行為を働く一方、ウィッチ世界にまとめて転移していた同胞達を支援するよう、シャアに提言するなどの行為で贖罪をしている。そのため、アムロはそう見解を述べる。

「シャアはティターンズを『体の良い使い潰しの傭兵』としか思っちゃいないだろう。自分が指導者として潰した組織の生き残りなど、頼りたくはないが、ジオンはザビ家派のほうが多いしな」

「あの、ティターンズはなんで、リベリオンに戦艦を?」

「リベリオン軍は通常兵器で空母を固めることに不安を持つ。だが、怪異はMSの長距離狙撃でどうにかなると考えるティターンズの意向で、ウィッチは志願者以外は乗せていない。ある意味では賢明な判断だ。こちら側のように、サボタージュされて戦線に穴を開けられるよりはね。こちらは日本側が航空主兵論も黙らせたが、この世界では潜水艦の軍事的価値は低い。だから、ティターンズは大艦巨砲主義を敢えて進めたんだ。ラ級も与えられた以上、過剰な航空主兵論に固執する意味はない」

扶桑は通常兵器の高額化に驚愕し、それもあって、一時のような航空主兵論は鳴りを潜めた。当時、ウィッチの軍事的価値の低下で潜水空母の必要性も薄れたと見做されており、混乱がもたらされていた。

「何か一つで構成された戦力よりJTFのように軍種を越えて必要な戦力を抽出して必要な場所に投入する『オンデマンド戦術』が本来の理想だが、現実には通信や連絡は阻害される、だからバランスの取れた戦術単位を隣接したもの同士だけでも連携させられる組織を作るのが軍として重要なんだ。俺たちの時代でも、TMSはサブフライトシステムとしても使われてるしな」

「漫画やアニメじゃ廃れたってなってますけど、現実には必要なんですね」

「戦車が完全に消えたわけじゃないのと一緒さ。プラントを知ってるだろ?あそこが極端な例だが、現実に軍隊でMSを使うと、TMSや支援兵器は重要なものだ。ジオンが慌てて、ドップやガウ、マゼラアタックを量産したようなものだよ。例えば、ロンド・ベル(ウチ)だと、ジェガンとリゼルが2:1の割合で配備されてるのはリゼルを高速突入にもジェガンの支援SFSとしても使えるからそれだけ少ない数で柔軟に戦闘局面に対応出来るからなんだ。MSは強力だけど、重力下では足下が疎かになりがちだからね」

「なるほど…」

「海は空と出来たら攻撃の空母、中距離打撃の戦艦、小回りの効かないそれ等を支援する巡洋艦や駆逐艦、というのが理想と言えるかもしれないな。一年戦争中の連邦海軍はそれを目指した。予算面で頓挫したが。ウィッチはこれからは防空が主体になると思う」

「ウィッチはVT信管が出ると、対艦攻撃に寄与できませんからね。こっちは日本側主導で国民勤労動員令が廃止されて、戦後式生産ラインへの改変が行われたから、生産量が却って落ちたって愚痴る声が出てます」

「まあ、それは分かるが、史実のように学徒動員で兵器の稼働率が落ちるのを日本側は避けたいんだろう。生産量の一時的な落ち込みは仕方ないことだ。その分、質は上がる。それに、MSじゃ占領や建物制圧とか出来ないから、ロトと歩兵による機動歩兵の部隊が追従したりするのさ、エコーズがロンド・ベルに帯同するのもそういう強制捜査みたいな任務の為だしね」

「そのためにエコーズが?」

「元々はジオン残党狩りの部隊だしね、ウチは。エコーズの連中の評判は良くないが、一応は連邦の選良の人材の保全所の側面がある。マンハンターなんて、スペースノイドからは蔑視されてるけど、テロ行為が横行してれば、連邦政府も警察権を軍隊に持たせたくなるさ」

「MSテロも多いですしね、そっち」

「その分、普通の警察は泣いてるがね。最近は警察の出番は減って、軍隊が鎮圧してる。北米東海岸じゃ顕著だ」

「あそこ、23世紀で危険区域なのはなんでです?」

「度重なる戦争で廃墟になった上、スラム化が進んだからね。ニューヤークなんて、一年戦争から大して復興していない」

「北米はなんで復興が?」

「デラーズ・フリートに穀倉地帯がやられ、工業地帯もガトランティスやガミラスに破壊されたからさ。北米の東海岸はボロボロの摩天楼と自由の女神像があるだけのアメリカン・ドリームの跡でしかない」

23世紀序盤の時点での北米はズタボロであり、環境はコスモリバースシステムでどうにかなったが、穀倉地帯を失い、工業地帯も破壊された事で、21世紀の繁栄が嘘のように衰退したという。もっともコスモリバースシステムで穀倉地帯は復活したという情報もあるので、復興の遅れは工業地帯の壊滅が理由である。西海岸は逆に早期に復興しているからだ。

「と、まぁ、こんな感じさ。そちらはどうなんだい」

「まずは既存兵器を補充しろと言いたいですね。新兵器は訓練の手間がかかるし」

「日本は戦中型兵器の補充よりも、新兵器を行き渡らすことに燃えてるからね。他戦線の機体も持って行かせてるから、矢のような補充要請が来ているらしい」

「補充が許されたのは末期に活躍した一部機種と新式戦車。パイロットも戦車兵も泣いてますよ」

「ゼロ戦はどうなんだ?」

「二二型が義勇兵に補充されて、五四がウチの生え抜きですよ。後は隼の三型。それ以外は五式戦。四式はウィッチ支援機だったんで、改良型が出るんですが、これは普及しないかと」

「どういう事だい」

「四式はウィッチ支援用に航続距離を伸ばして、武装は12.7ミリを四門のつもりで作ってたら、途中で20ミリ砲に変更されたんで、携行弾数が減る本末転倒に。翼を再設計して対応するんですが、史実と大差ないということで…」

「なるほど。だが、存外に上手くいくかもしれん。21世紀水準の工作技術なら、層流翼の真髄を出せる。陸上機だし、重い艦上装備はいらないからね」

「確かに…」

「それに、史実よりわずかでも高性能なら、日本は納得するさ。二式単戦は古いし、その代替機はいきなりジェットというわけにもいくまい」

アムロの言う通り、史実でのキ84の実用最高速は630キロ程度。『日本軍戦闘機としては早いが、とてもP-51には…』というのが日本側の認識だった。だが、扶桑の場合は2200馬力のハ43に換装されており、武装を史実の乙型にまで強化しても690キロは固いという技師の見解も出ている。ブリタニアからはマーリンの生産も提案されているが、日本が飛燕のこともあり、液冷エンジンは嫌いなため、交渉は難航している。(最も、複雑怪奇なカールスラント製液冷エンジンに出した扶桑が責められており、そこも混乱の元だったが)これは後日、アメリカ合衆国がリベリオン軍向けに扶桑に生産させるという仲介を働くことで、扶桑はマーリンエンジンの一大供給源となる。

「インフラ整備も戦争遂行の大事な大動脈だ。ガリアはたしか、線路は広軌だろう?」

「え?そうだったっけ」

「意外だな、君が分からんとは」

「鉄道はあまり…。坂本が詳しかったような」

「この時代、鉄道網の整備も軍事には重要なんだ。制空権さえあれば、鉄道網は兵員を大量に運べるからね。ただし、警備は重要だけど。ドラえもんくんに整備させたのは、そこに理由がある。なにも装甲列車を使うわけじゃないが、兵員輸送に使えるからね」

「ガリアに敵が攻めないのは?」

「ガリアとイベリア半島の境界線は怪異の頻発地帯だし、港湾が荒れ果てていて、とても使い物にならないし、金属資源の埋蔵量も減っているからさ」

当時、ガリアの本土は荒れ果て、金属資源貯蔵率は見る影もなく、復興は遠いとされた。そこも一部国粋派がペリーヌを敵視する事に繋がっていく。当時、アストルフォやジャンヌ・ダルクが強硬論を抑えるため、政治的に動いていたが、ジャンヌ・ダルクには『無学者』、アストルフォは『ブリタニアの血を持つくせに』とする蔑視が一部の国粋主義者にはあった。偏執的愛国主義者で鳴らしたはずのド・ゴールが彼女たちの言いなりである事が気に入らない国粋主義者は大勢いた。もっとも、国民にはジャンヌ・ダルクの『再誕』は諸手を挙げて歓迎されており、前世で魔女と蔑まれて火炙りにあったジャンヌとしては苦笑いものであったが。

「さっきから何をしているんだい」

「ケイのやつが巻き上げた将軍達のマネーをこの金庫に入れてるんです。で、一割をドラえもんから借りたフエール銀行に…」


ちなみに、アルトリアもルーラーの素質はあったため、圭子が将軍達との博打打ちに水着姿で参加させており、彼女を巻き込んでの博打打ち勝負で圭子が将軍達から巻き上げた金の9割は金庫に入れ、一割をドラえもんの道具『フエール銀行』に入れていると黒江は言う。フエール銀行とは、ドラえもんが持つ道具で、『預け入れた場合の利率は時利で一割』と破格のものである。無論、難点もあり、時利二割で貸した金額を返済させようとする暴利ぶりで、のび太が少年時代に一度、痛い目にあっている。預けるぶんにはいいので、黒江は作戦開始時に100円を預けており、1週間も待てば余裕で千万に達しており、ちょうど満期であった。黒江が趣味に給料をつぎ込めるのは、ドラえもんが道具を貸しているからだ。

「ケイ君は巻き上げて恨みを買ってないか?」

「大丈夫っす。負けた将軍にはその分戦力支援の約束して恨みは買わない様にしてますから、あいつ。『タダでムシっちゃ恨み買うから仕事で恩を売ることにしてる』というのが口癖で…」

「なるほどな。ん、その書類は?」

アムロは黒江の執務机に置かれた書類に気がつく。黒江はそれに苦笑い気味で答える。

「調の報告書っす。あいつに調査させてた世界線についての。あそこも派生が多いみたいで」

調が調べていたシンフォギアC世界。基本世界に近めの世界であるため、出来事が起こったのは2040年代である事、調査していたら、自分と戦う羽目になった事、迎えに来たプリキュア達に、装者達が不貞腐れ気味であった事が書かれていた。また、響Cが第三者として、自分に響Aの不明を詫びた事も触れており、調が響の事を見直した事が分かる。調は響Cに『自分がやっちゃった事じゃないけど、調ちゃんに自分の身勝手な思いを押し付けたのには変わりないんだよね、ごめんね』と謝られたと記しており、響のことを許す気になったという。Aは切歌の精神を破綻から守りたいために暴走した果てに、詫びる機会を失い、わだかまりを抱えこんでいた(黒江への反感もあるが)ため、Cが実質、Aの本心を代弁したと言えよう。また、C世界からもたらされた『アマルガム』と呼称される決戦機能がA世界のシンフォギアに組み込まれ、A世界では失われなかったイグナイトモジュールとの両立が図られたとも記している。また、C世界のエルフナインにはキャロルの意識が眠っていたため、A世界のエルフナインはそれを知ると複雑な表情を浮かべたという。

「なるほど。君が介入しなかった場合の道筋、か」

「ええ。調の世界は俺や老師が変えまくったんで、もう参考にならないですよ。人間関係も変わってるし、調が離脱してるし」

「で、調君は自分と戦う羽目になったというのは?」

「一度、やりあったそうです。で、クラスカード使ったから説明がややこしくなったって」

「あ、ああ――」

「まだ、プリキュアのほうが楽だったとか」

調はこの後、何度か派生世界を調べるが、黒江に似たのか、ついつい暴れてしまい、説明をややこしくしてしまう癖がついた。そのため、次の次の機会からは、お目付け役にドリームとフェリーチェが帯同したという。

「先輩、訓練が終わったんで…あ、アムロ少佐」

「お邪魔してるよ。今日もボロボロだね」

「参りましたよ、朝の救援要請の敵が元斗皇拳の使い手で…。訓練は智子先輩が手加減してくれないし〜…」

「そいつはご苦労だったな。あとで風呂でも入れ。下原にかき氷でも作らせる」

「ありがとうございます〜。あいたたっ…」

ドリームがかなりボロボロの姿でやって来た。元斗皇拳の使い手にやられそうになるわ、智子に手加減無しで特訓された結果、通常フォームのコスチュームがかなりボロボロであった。かなりのダメージでもボロボロにならないはずのプリキュアのコスチュームがボロボロになっているため、元斗皇拳の奥義をかなり食らったのが分かる。また、ジョゼの治癒魔法は受けたらしいが、治癒魔法のレベルが芳佳と違いすぎて、ドリームの傷を完全には癒せない事がわかる。

「ジョゼの治癒魔法はしてもらったんですけど、痛みますよぉ」

「馬鹿、これがふつーだ。あいつは異常だ。時空管理局の治癒カプセルより効果が良いんだからな」

ジョゼ(ジョーゼット・ルマール)は治癒魔法持ちだが、あくまで応急処置レベルなため、プリキュア達含めて不評であった。宮藤家の治癒魔法は正規の教育でも成し得ないレアスキルそのもので、ジョゼがふてくされる理由だった。

「お前やピーチで連日、このザマか…。敵は相当だな」

「ドモン君に連絡は入れたか、綾香」

「入れました。それが、ドモンさん、カミさんと喧嘩して、ギアナ高地の奥に籠もったと…」

「エコーズを動員させて、虱潰しにさせるんだ!奥さんと喧嘩してる場合か…」

アムロも呆れ気味に言うが、ゴッドガンダムのガンダムファイター『ドモン・カッシュ』は世界一熱い告白をした割に、妻のレインとの喧嘩が絶えない。仲は良好のはずだが、ドモンが修行馬鹿なことが原因で喧嘩が絶えない。それは共に戦った者達の周知の事実であり、黒江もドモンの妻であるレイン・ミカムラ(性が変わったかは定かではない)に連絡を取ったのだが、返事はそういう内容であり、ギアナ高地の奥に籠もっているらしいことしか分からない。アムロがエコーズを動員しろと言ったのは、ドモンの修行場の近くには連邦軍の総本山があるからだ。ただし、他のシャッフル同盟に連絡をするとの事だが…

「エコーズに動員かけます?」

「二個大隊はいるな。アレンビー君にも同行してもらわんとな。ネオスウェーデンコロニーで静養中のはずだから、俺から連絡を入れておく」

「頼みます」

ドモンは圭子が直接の知り合いだが、連絡先は知らないとの事なので、レインへの連絡先を教えてもらっている。呼ぼうとしても、何処にいるのかわからない。良くも悪くも修行馬鹿である。

「アムロさん、これでドモンさんは呼べたとして、あとは誰を」

「シーブック…、いや、キンケドゥ・ナウを呼ぶか。クロスボーンガンダムを受け取った頃合いだ」

「でも、シーブックさん。なんで漫画みたいな理由もないのに、キンケドゥ・ナウを名乗ったんです?」

「彼なりの事情だよ」

シーブック・アノーがキンケドゥ・ナウをなぜ名乗ったのか?その疑問はあれど、クロスボーンガンダムを受け取り、クロスボーンガンダムのパイロットに転向した事が語られる。アムロは事情を知っていることを匂わせつつ、ぼかす。本人から頼まれたらしい。シーブックは母親がバイオコンピュータ開発責任者にして、F9シリーズの初代主任開発員という凄まじい経歴なので、偽名を名乗る必要が生じた。それがキンケドゥ・ナウという名なのだ。

「俺から連絡は入れておく。君は子どもたちを鍛えるように。それとなのはだが……何かに目覚めそうな兆候が見られた」

「なぬぅ!?」

「恐らく、精神感応性物質変換能力、俗に言うアルター能力だろう。学園都市の古い記録に一つだけ記されていた。時空管理局の調査で初めて分かった事だ」

「なんすか。まさか、心を読むとか」

「それならば、この間のようなヘマはしない。あれだよ、拳でぶん殴る……」

「そっちぃ!?」

黒江は瞠目する。プリキュアになれないとわかり、不貞腐れていたなのはが新たに覚醒めつつある能力の詳細に。ある意味、ガサツになった今のなのはを象徴するのだが…。

「前世の縁者から『要素』を引き出しちまったみたいだな…。指ぬきグローブ買ってやらねぇと…」

「まあ、魔砲を乱発して体を壊すより、シェルブリットで暴れるほうが健康的かもしれない」

「言えてる…。子持ちで遅れてきた厨二病かよ……。同位体が聞いたら泡吹くな。あいつ、同位体とこれから会うだろうから」

「ああ。前史であったという。あれのパートUか」

「ガキの頃、高濃度ゲッター線を浴びて、好戦性が引き出されて悩んでるあいつにこういってみたんすよ。『一度こうと決めたら、自分が選んだのなら、決して迷うな。迷えば、それが他者に伝染する。選んだら進め。進み続けろ』。俺もガキの頃、兄貴達やまっつぁんにそう言われたんでね」

なのはは良くも悪くも一本、筋が通っている。それをアツい方向に変えたのが黒江達だ。同位体と違い、本質的に暑苦しいほどに熱血な成分を持つようになった。その集大成がその能力『シェルブリット』であろう。なのはは子供の頃の『いい子病』を振り切りたい一心で振る舞いを変えた。その分、フェイトがストイックな剣士に変貌したが。アリシアに明るい成分を任したせいか、フェイトは風鳴翼に似た口調であるものの、口汚い面も併せ持つ。アリシアが花咲つぼみの記憶に覚醒した後の現在はヴィヴィオに『料理パパみたい』と言われるほどの主夫(?)ぶりである。

「でも、先輩。なのはちゃん、不貞腐れてたんですか?」

「キュアアムールになれるかと思ったんだと」

「……」

その瞬間、ドリームの頭に閑古鳥が鳴いた。なのははメタ的観点から言えば、『主役級の魔法少女』で、充分に目立っている。むしろ、のぞみのほうがなりたいと思っている。なのはもなんだかんだでプリキュアに憧れがあったのか、アリシアがキュアブロッサムになった事から、淡い期待を抱いていたらしい。

「な、なのはちゃん…」

「おまけに10年来のダチがキュアエースになったもんだから、ふてくされやがった。後で様子を見に行ってやれ」

「わ、分かりました」

キュアドリームが閑古鳥が鳴くほどに呆然とするなのはの不貞腐れ。なんと言えばいいのか。ドリームは苦笑いするしかなく、アムロ共々、なのはの意外な子供っぽさにため息である。後日、ドリームが謹慎処分中の部屋に様子を見に行くと、気を紛らすためか、プラモ作りに熱中するなのはの姿があったという。謹慎処分は2週間で、子供切歌の抗議を受けてのものである。のぞみがそうであるように、外見に引っ張られるとはよく言ったもので、実年齢より多少幼い精神年齢になっているなのは。のぞみには敬語を使って接したという。アリシアの戦友である事を考えての事で、のぞみもそれ以後はタメ口にしたという。人間関係は複雑だが、のぞみはその関係でなのはに対しては目上だが、ウィッチ内では若輩者に入るため、上は多い。ただし、菅野や年少組、リベリオン組の大半には先輩風を吹かせているので、ポジションはずばり、『中間管理職』である。錦としてはハルトマンらと同期にあたるため、のぞみは意外に後輩が多い。黒江はプリキュアとしても三代目と、古参の戦士であるのぞみをのび太の義理の娘になる関係もあり、目をかけている。(マーチから、のぞみの出身世界での不幸ぶりを聞いたので、のび太と関係させる事で好転させてやりたい気持ちもある。のぞみは黒江から目をかけられる事を不思議に思っている。覚醒前は自分が突っかかる側だったし、偉大なウィッチであった黒江と違って、実績はそれなりでしかないと考えているからだ。

「あの、先輩。前から気になってたんですけど、どうして私に目をかけてくれるんですか?その、前は突っかかってたし、まだまだ青二才だし。ひょっとして、私がのび太くんと……」

「バーロー。突っかかる元気が有るなら絞れば伸びるかもって見てたんだよ。プリキュアになったり、のび太のガキの一人とくっつくからって、贔屓はしていないぜ」

黒江は赤松の薫陶を受けたため、育成には厳しいところを見せる。ただし、マーチが心配している事は伝える。

「あまり、マーチを心配させるなよ?お前の事を頼むと言われた。それに転生ってチャンスを得たんだ。プリキュアとして世界を守ったお前へのプレゼントだと思え。後輩の応援が呪縛になったって思うなら、それを断ち切れ。今のお前はそれができる肉体をゼウスから授かったんだからな」

現役時代の若々しい肉体を取り戻している。それはのぞみがもっとも望んだもの。仲間を失い、子の行く末を憂いた彼女が願った往年の若さと力。マーチが自分の事を頼むと黒江に頼み込んでいた事、出身世界での水無月かれんの遺言を忠実に守っている事に、ドリームは感涙にむせぶ。

「なおちゃん、覚えててくれたんだ…かれんさんの遺言……!」

「ほら、ハンカチだ」

「あ、ありがとうございます…」

これ以後、ドリームは錦との同化が次第に進み、黒江の直接指揮下にあるプリキュアを束ねていく。プリキュア達はこれから、人数の増加で大隊長たるレイブンズの指揮下に割り振られていくが、キュアビートは相談役も兼ねて、最終的に佐官待遇で武子の直接指揮下に置かれた。のび太と行動を共にする機会が多い黒江と圭子に戦闘向けのプリキュアが割り振られるが、しばらくは当直で即興のペアが組まれ、フェイトが指揮を取る場合もあったという。



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