外伝その392『図上演習と戦闘4』


――ダイ・アナザー・デイで一行を困らせている立花響。その根本原因が『自分の力』というアイデンティティに絡む問題なことは知られている。シンフォギアそのものがシンフォギア世界の超古代文明の遺物を加工して生まれたものという事は予測されており、『本物の宝具』には及ばないことは黒江自身が滞在中に確認している。(黄金聖衣や聖剣にイガリマが通じないなど)小日向未来との定期連絡では、未来自身が『響の人格を再び表層化させるには、自分の存在が必要である』と明言した。調の一件以降は折り合いが悪い響と黒江達との仲立ちを担当している彼女、場合によれば、『神獣鏡』で戦場に立つとも告げている。また、響は黒江達が本当の意味での完全聖遺物を気軽に『何のリスクも無しに』振るえる事に嫉妬を抱いている(天羽奏の事もあって)と教え、複雑な心理を本人に代わる形で代弁している。(とはいうものの、当人もガングニールのマリアが使用していた個体を譲渡された後は普通に適合しているが…)黒江は元々、真の意味での完全聖遺物たる聖衣を纏えるため、シンフォギアをリスク無しに全機能を扱える事に不思議は無い。また、黒江が滞在した世界では、『キャロル・マールス・ディーンハイムは魂そのものが邪神エリスに食われ、消滅した』ため、響の考えである『自分なら救えた』はそもそも否定されている。

「そもそも、キャロルは邪神エリスに食われちまったからな。オリンポス十二神でも、こればかりはどうしようもない。あいつはそこが理解できてねぇ。あそこまで意固地だと思わんかった」

「すみません……」

「俺に反感持ってるからな、あいつは。そもそも、どうやってもいずれは破綻するのは目に見えてたから、好き勝手しただけなんだがな。あいつは代役の良かったところまで本人に引き継がせるつもりで、調にそれを強要した。だから反発されたんだよ」

響の悪癖は『他人の触れられたくない領域に踏み込む』ことである。たとえ善意でも、黒江と感応した後の調に『エゴですよ、それは!!』と反発され、遂には出奔された事を受け入れられなかった事が人格侵食の根本にある。しかも、親友である未来がその手引きをしたことは薄々と感づいており、自分の善意を否定されたのかと考えた結果、基本世界でサンジェルマンに言われた『繋いだ手を振り払う事がお前のやりたかったことか!?』(響に神の力が宿ってしまった時だが)を地で行く結果を招いた。未来はこの事に関しては、黒江と調の立場に立っているため、響は自覚なしに親友とさえも反目しあっていたと言える。

「響はこうだとおもったら、誰の言葉も耳を貸さない頑固なところがありますから…。それをどんな事があっても貫こうとする。それが裏目に出たんだと思います。だから、許してくれますか?」

「俺と調の特殊な関係はあいつも理解しただろうし、許すも何も、そんな次元の問題じゃないぜ」

調は感応した結果、それまでと存在そのものが変質し、黒江のソウルシスターと言うべき存在へ変わっている。その事を響が理解できず、『善意』で黒江を拘束したという事実に調が反発したことで、響の善意は破綻を来した。それが今回の騒動の根幹である。

「今となっては、沖田総司との共存を模索するしかないな。今の戦闘が終わったら、声をかける。準備はしといてくれ」

「分かりました」

黒江は準備を進める。小日向未来に協力してもらい、立花響を沖田総司(桜セイバー)と共存か、あるいは分離させる作戦の。それが黒江にできる精一杯の救いと言えた。キャロルを救えなかったことへの贖罪でもあり、ある種の『基本世界とかけ離れた』世界線を生み出した故の責任のとり方とも言える。調は切歌への善意とは言え、黒江を一年も成り代わりという形で拘束した事は『響さんのエゴですよ』と切り捨てており、ベルカ戦争を経験した故に、折り合いは最悪に近い。また、騎士道のもとに戦う思考も備わったため、風鳴翼とも微妙に噛み合わなかったりする。当然ながら、黒江が持つ聖剣の霊格も受け継いだため、シュルシャガナを展開した状態でエクスカリバーを召喚できる。その流れで聖闘士になったのもあり、相容れないところが生じた。『悪・即・斬』がその最たるものだが、その響の中に新選組最高の殺人マシーンとされた沖田総司の因子があったのは皮肉な事実である。

「調に起こった事を、ヒステリックに頭ごなしで否定的に言ったのも、あいつがポカしたとこだろうさ。だから、俺とのび太の誘いにすぐに乗ったんだろうな、調は」


調は未来にのみ、『SONGを抜け、野比のび太さんののところに行きます。師匠の友達で、恩人なんです。ここには師匠の居場所はあっても、私の居場所はありませんから』と予め告げており、未来も響のエゴイズム的な物言いや黒江への行為に反感を持っており、黒江に連絡を取り、調を野比家に極秘裏に送り出した。黒江も二つ返事でシンフォギアを持ち出してくるとは考えていなかったので、面食らったといい、風鳴弦十郎には事後に連絡を入れ、内々に承諾は得ている。

「まさか、シンフォギアを持ち出すとは考えてなかったがな。修行になるから、のび太んとこに行かせてからは、しばらくは普段着代わりにさせてたぜ。ま、そこからしばらくして、はーちゃんも来たから、二人で変身させてた。ま、はーちゃんは精神的要因もあったけど」

「すごいですね、それ」

「のび太が大人になる頃は学園都市もきな臭くなった頃でな。プリキュアやのび太の小倅を狙って、学園都市の暗部の連中、のび太を専属にしようとした米軍とかが襲ってきてな。それからの護身代わりにさせてた面もある」


ノビスケは『野比のび太の実子にして、後継者』という出自から、幼少時から裏世界で格好の標的とされ、のび太の力を欲した米軍が拉致を目論むなど、騒動の中心であった。米軍は黒江がゴレンジャーを介して、イーグル(国連常設平和維持軍。俗に言うところの地球守備隊)から圧力をかけてもらうことで手打ちにしたが、学園都市の統制が緩んだりし、暗部のタガが外れると、そちら側のテロの標的にされた。ノビスケの幼稚園バス襲撃事件はその最たる例だ。フェリーチェが世にプリキュアと認知された後の時期に起こった事件でもあり、曰く、魔法つかいプリキュアの放映後に起こったとされる。

「プリキュアかぁ…。響やみんなとは違ったカタチの力、女の子の夢の結晶…。いいなぁ」

「そいや、そっちにはプリキュアのぷの字もないんだったな」

「はい。世界の法則の一つや二つは超えられる英雄…。私も本当はみんなを守りたいんだけど、響が私を日常のシンボルみたいに見てるのは、実はもどかしくて」

「基本世界じゃ、君は最終的に響と共に戦う事になっていたしな。君には俺が回収したギアを渡してあるだろう。例の時に纏えばいい」

「いいんですか?」

「俺が平行世界から回収したものを加工した個体だし、所有権は俺にある。君が纏っても、法律には触れないさ」

黒江はシンフォギア方面の流れを基本世界の流れに戻すつもりだが、既にサンジェルマンの存命などで流れが異なっているため、完全ではない。また、シンフォギア世界の黒幕も童虎が既に討伐済みであるため、錬金術に由来する決戦機能はイグナイトで止まっていた。C世界から持ち込まれし知識であるアマルガムとの両立は本来ならあり得ないものであり、また、聖域の知識がエルフナインに伝わった事でギアの基本性能もC世界と同等に上がるという恩恵もあった。黒江はこうして、立花響と桜セイバーの共存、もしくは分離へ動き出すのだった。



――ダイ・アナザー・デイでは、ブリタニア空母部隊があまりに小規模すぎたことで防衛装備庁の思惑は根底から崩れ、廃棄予定の天城型『天城』までも駆り出して、臨時で空母機動部隊を編成する事になった。この際に殆どの艦が固定式のウィッチ運用装備を取り外されたため、従来どおりのウィッチ運用は雲龍型に限られた。扶桑の大型空母を他の戦線を切り捨て、すべてを集めても史実あ号作戦よりはマシな程度の数しかない。『使い物にならない』雲龍型を造りまくった事に批判が集まったが、油圧式カタパルトと新式制動装置で新型艦上機に対応できるとしていた扶桑海軍からすれば理不尽な批判であった。前年まで九九式艦戦(史実九六式艦戦)が普通に現役であった以上、零式よりも更に次世代の大型機への対応は限定されているとしたが、扶桑は艤装の刷新で対応できていると考えていた。その齟齬による混乱もあり、雲龍型は改装が済んでいなくても投入され、原型通りの性能の艦は艦上機の種別を統一され、輸送艦扱いすらされて欧州に送り込まれた。雲龍はエセックスに比して、小型で性能不足とされ、大半が輸送任務に供された。改装に耐えられる艦が初期艦のみと見込まれたためだが、実際には前半の10隻近くが鋼材の強度基準を満たしていた。その関係で天城も急転直下的にジェット対応改装が取りざたされており、地球連邦軍に発注は済んでいる。マイティウィッチーズの活動停止の長期化はその流れによるものだ。ダイ・アナザー・デイが今次戦線の天王山とされた都合、全正規空母を駆り出す必要があるのだ。――




――武子の執務室――

「何が天王山なんだか。むしろ前哨戦でしょ、圭子」

「間違っちゃいねぇさ。ここで勝たないと数年後までの計画が台無しだからな」

「プリキュアの子たちは前線に?」

「強めの奴は出させてる。ビートがクラン・クランだから、ある意味じゃ大バンザイだぜ」

プリキュア勢の内、古参や強者に入る者や年長組が何かかしらの形で軍事知識を有していた事は大いに助けとなっている。ドリームやメロディ、ビート、ミューズ、ハートのように転生先(前)の都合で一定の軍事知識を既に有していた例は僥倖であると言える。広報部も、名を馳せたウィッチの複数がプリキュア化したことは奇跡と喜んでいたりする。ただし、ペリーヌ、錦、北郷のように、名家出身のウィッチながら、プリキュア化した例は説明のややこしさから、広報部には忌避され気味だ。

「広報部はノリノリだけども、名家出身者がプリキュア化したなんて、講道館が目を回すわよ」

「なっちまったのはしかたねぇだろ。」

「前線だと、逆に大歓迎ですよ、隊長」

「芳佳。戻ったのね」

「大洗にいる角谷杏とバトンタッチして来ました。別個の存在なんで、問題はないですよ」

「はーん。それで帰れたのか」

「ええ。かーしまの事は、向こうにいるあたしとロゼッタに任せます」

角谷杏の容姿をまだ取っているのは、広報部との交渉に宮藤芳佳の姿では不都合が大きいからで、大洗女子学園の制服もまだ着用している。なお、普通にセーラー服なので、元の姿でも偶に着用しており、バルクホルンが勝手に萌えているのは内緒である。

「キュアロゼッタは綾香がタイムマシンで後から連れてくると言ってるわ。それと、キュアハートだけど、どうなの?」

「あたしの直接の後輩になるんですけど、実力は保証します。折り紙付きの実力ですよ。黒森峰女学園の副隊長してたんで、戦車も乗れますし」

代を考えると、みゆきはマナの一期前、北条響、つぼみ、のぞみの後輩にあたる。プリキュアは仮面ライダー(昭和)に比べれば緩いが、序列はそこそこ存在する。のぞみがプレッシャーを感じているのは、自分より前の二人が不在であるという点だろう。

「のぞみのことだけど、無理して肩張ってる気がするのよね」

「上の二人が不在ですから。ま、なぎささんと咲さんは行動で引っ張るタイプなんだけど」

武子はのぞみが無理をしている事を見抜いていた。のぞみにしてみれば、なぎさと咲。偉大な二人の先達が不在の場合は自然と自分にリーダーシップのお鉢が回ってくるからだ。また、軍隊階級も『大尉』と高めであるのもあり、生前には感じたことのないプレッシャーがかかっているのは想像に難くない。

「生前はなぎささんと咲さんと似てはいるけど、二人にはないカリスマ性は醸し出してましたし、割に後輩とも共闘してました。それでも、気にしてるようですね」

「綾香が鍛えてるようだけど、こちらにも報告して頂戴。私も剣なら教えられるから」

「隊長も剣術でしたね」

「これでも、免許皆伝なのよ?綾香に比べたら落ちるけど」

武子も剣術使いであるところをアピールしつつ、芳佳に報告を義務付ける。黒江は時たま、友人にも情報を漏らさない事があるからだ。武子は黒江に昔から一枚上を行かれ続けているので、ここらでイーブンにしたいらしい。芳佳はこうして、黒江と武子の間を上手く立ち回り、隊内の情報共有を進めるが、黒江の職業病の一種の秘密主義を諌めるためでもあった。また、黒江が日本での経験から、秘密主義気味に陥っていたため、武子は芳佳を情報共有のための間者として重宝する。黒江もそれは把握しており、承知の上で芳佳にあれこれ喋っている。また、黒江はキュアハートに『ラガー・スウォード』を覚えさせたいとの事。

「黒江さん、ハートにラガー・スウォード覚えさせたいとか」

「無双剣じゃなくて?」

「ええ」

天空剣と断空剣は自分が使っているため、プリキュア達にはそれ以外の武器を覚えさせたいという。炎系のプリキュアにはダルタニアスの火炎剣とも言っており、チョイスがマニアックである。

「隊長、ゴッドシグマ見たんですか?」

「ゲームでなら、ね。ピーチには智子が烈風正拳突きを覚えさせるとか?」

「パッションとベリーが見たら、腰抜かしますよ」

苦笑いの芳佳。メロディは既に持ちネタと言える輻射波動をMVSを使っているため、それ以外のプリキュア達をどう強くするかだが、殆ど実証実験に近いからだ。プリキュア・タブーは気にしてもいられないというのが武子の方針だが、割にとんでもない事を言っている辺りは事変世代らしい。また、タブー破りを気にしない黒江が一年後にのぞみに成り代わった際はプリキュア姿でギガストリーマーやオートデリンガーを召喚するなど、違う方向でやりたい放題し、キュアブラックのツッコミの限界に挑戦している。

「今、一年後に起こる事件を事前調査してるんですけど、黒江さん、ドリームの姿でギガストリーマーを呼び出してましたよ」

「ぎ、ギガストリーマー?特警ウインスペクターの使ってた、あの凶悪なレスキューツール?」

「智子さんはピーチの姿でパイルトルネードでした。人間の限界超えてましたよ、お二人さん」

ギガストリーマーとパイルトルネードはかつての特警ウインスペクターとその後継者の特救指令ソルブレインが使用した最強武器である。普通はパワードスーツのアシスト無しには人体が耐えられない反動を発するが、黒江達ならば使用可能である。プリキュアの姿になっていても、完全にヤル気満々な重火器を躊躇なく出す辺りは二人らしい。

「あの子達、完全に物語を壊してるわね…」

「ディケイドが友達ですから、あのおふた方」

「あ、アハハ…」

米軍主力戦車を数秒で塵にできる重火器をプリキュアの姿で用いる。そのインパクトが如何ほどか、武子にはよく分かる。少女アニメらしい外見のプリキュアの武器と違い、重厚かつ無骨な重火器であるギガストリーマーとパイルトルネードは外見のインパクトも去ることながら、真骨頂はその破壊力である。単純計算では最新型の10式戦車もものの三秒で塵とするプラズマ光弾を放つ。連射速度はレストア後で毎分6600発を放つため、通常は人体の扱える限界を遥かに超えている。このように、本来はパワードスーツや改造人間を前提にした装備だが、黄金聖闘士でもある二人ならば扱える。しかも近代化でスペックが向上した状態でだ。キュアブラックやキュアブルームの驚きはいかほどだろう。百鬼帝国の鬼でも一瞬で細切れに粉砕するほどの破壊力であり、21世紀の通常科学では夢のまた夢といえるプラズマガトリングガン。見栄えもいいことから、ウインスペクターとソルブレインの力のシンボルでもある。驚くべきは大本はバブル全盛期に作られたというオーパーツぶりだ。ウインスペクターなどのレスキューポリス計画はジバン計画のスピンオフから開始されたともされ、元は電子戦隊デンジマンからもたらされた技術とされる。ジバンの大本が旧日本陸軍最終兵器『超人機メタルダー』からのスピンオフと言うことを考えると、地球の技術と異星の技術をもっとも活用していた時期の産物が機動刑事ジバンや特警ウインスペクターであると言える。

「こうなれば、キュアハートにもヘビーサイクロンをもたせるしか」

「特捜エクシードラフトじゃないですか」

「あれの頃にはバブルが弾けたから、予算が多少減らされたって話よ。装備も汎用量産品のテスト品って聞いたわ」

特捜エクシードラフトの頃にはバブル全盛期は終わっており、ウインスペクター以来の功労者の正木警視監が率いていない事もあり、レスキューポリスに入らない場合がある。だが、装備面はソルブレインから発展した装備が多く、正木警視監が関わった事もあり、公には三代目にして最後のレスキューポリスである。無論、21世紀には解散しているが。

「レスキューポリスの遺産はどうなったの?」

「警察の装備と信じてもらえず、防衛装備庁預かりになっていたそうです」

「それで?」

「政権が変わっていた時に公安委員会が警察から取り上げたそうでして。で、対学園都市用も兼ねていたと言っても信じなかったそうで。ギガストリーマーとパイルトルネードは哀れ、倉庫の肥やしです」

その関係もあり、メカトピア戦争の際に持ち出され、以後はレストアが施され、64の武器庫にオートデリンガー、ギガストリーマー、パイルトルネード、ヘビーサイクロンの四つが並べられている。

「ビッグワンが手を回してくれて、今はレストア中です。並のプリキュアじゃ扱いかねる反動ですよ」

「レストア?」

「放置されてたんで、経年劣化が出てたんです。23世紀のレーザー発振器を積んだんでプラズマ光弾の生成速度は10倍で…」

「プリキュアじゃ扱いかねるわよ、それ」

呆れる武子だが、黒江と智子が百鬼帝国相手に撃ちまくる光景は『ラ○ボー』さながらのド迫力だろうことだけは分かる。まさか、ドリームとピーチも自分達の姿を借りているのに、ギガストリーマーとパイルトルネードというトンデモ武器を持ち出すとは思うまい。武子はますます、トンデモな黒江の思考に流される智子に呆れるのだった



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