外伝その425『キュアドリームと智子の願望とは?』


――智子の少女趣味はハルカとビューリングが漏らしたため、キュアドリームにも既に周知の事実だった――

「まさか、プリキュア・プロジェクトの発案者って」

「あいつだよ。最初はあいつがプリキュアなる気でなー」

「まさか、芳佳の部屋のDVDの持ち主は……」

「智子だ。のび太も大笑いしてるぞ。公には俺って事にしてやった。あいつ、外見が凛々しいから、少女趣味なの、ハルカや俺達くらいしか知らねーよ」

智子は外見が凛々しいため、実像が隠されてきた人物である。ただし、事変経験者であれば、噂程度に少女雑誌の愛読者であることは知っているし、ハルカ(黒江はハルカの白井黒子の同位体説を考えている)はそれを事細かく知っていた。智子は百合気味な気質でもあったため、本質的には気弱な少女のそれであり、強い変身願望を持つことは黒江と圭子の他には数人のみが知っている。

「あいつ、キュアピーチになりたいんだと」

「やっぱり、ボインだからですかぁ!?」

「そこじゃないと思うぞ…元からプロポーションいいし、智子」

「で、先輩も付き合うんですか」

「そうなる。お前の姿を借りるぞ」

「え、あ、あたしですか!?」

「シャーリーだと、自分が目立ちたがるだろうし」

「響、ラブちゃんとセットでニューステージ以降も目立ってたやんー!!」

「お前だって、ブルームに声がつかない事が増えても、声あり率いいだろうが」

「そりゃそうですけど…」

「ま、つぼみも中の人関係で目立ってるからなー。相方共々」

「つぼみちゃんとあたしと響、ラブちゃんくらいかな。第一期でニューステージ以降も声付き率高いの。咲さんの人は仕事が舞台メインになったから、はるかちゃんの代の時が最後かな…」

メタ的な台詞だが、のぞみもアフレコの時に声優諸氏や音響監督からそういった事情は聞いたため、アニメの制作事情に幻滅したらしい事を示唆した。

「18年の映画で声入れた時にでも聞いたな?」

「音響監督から。驚かれましたよ。本人ですからね。学生時代の制服着ていったのは正解でしたよ」

アフレコの時に学生時代の制服を着ていったため、共演した声優諸氏に驚かれ、音響監督から最初は『変身して技名言ってみて』と注文されたが、技が本当に出そうになったため、それは音響監督も断念したと明言した。『自分』の担当声優が急病でできなくなった追加箇所を吹き替えただけだが、のぞみにアフレコの技能があったため、特別出演枠を勝ち取った(同じく、ルージュ/りんもチャレンジしたが、下手すぎてボツとなった)アフレコが終わり、迎えにきたのがことはだったため、二重に驚かれたといい、ことははその時点で直近三代のプリキュアであったため、舞台挨拶に加わるように懇願され、二つ返事で了承している。

「スネ夫も上手いことしたもんだ。自分の関連会社の売上、あれで倍に上がったからな」

「舞台挨拶の時は恥ずかしかったけど、嬉しかったですよ。あたしのことをまだ覚えてくれてたなんて」

ドリームはその時の模様を回想し、嬉しそうな顔を見せた。映画そのものはHUGっとと初代がメインだが、宣伝としては、自分とフェリーチェがメインになっていたからだろう。しずかが宣伝番組を録画しており、『前代未聞!!アニメに『本物』が出演!?』と題した特集がワイドショーで組まれたほどの驚きを以て迎えられた。その時にコージとの婚約を勢い余って公表したため、現在出現済みのプリキュアの中では人気バランスが良い。(シャーリーは前世が紅月カレンなため、妙にアネゴ肌な人気があがっていた。また、キュアハート/相田マナは転生先が逸見エリカだったので、人気が倍増している)

「でもよ、シャーリーなんて、カレンが前世だったから、姉御系って言われるようになったし、マナなんて、エリカの立場になったから、みほに勝てるんじゃ?って言われてる」

「そう言えば、マナちゃんは今、黒森峰女学園の三年?」

「まだ二年だよ。進級前だし。あ、みほもプリキュアだったわ」

「へ……」

「ほれ、キュアロゼッタ……」

「あーーーーー!?★※同じチームじゃないですか!」

「あの世界、プリキュア率たけーよな…。ミルキィローズなんて、歴女になってた」

「くるみが歴女ぉ!?」

ミルキィローズは大洗女子学園のカバさんチームのカエサルに転生しており、実は7人ライダーが戦車道世界で戦った一件の時にはその裏で戦っていた。また、ミルキィローズへの変身能力が復活した後にはカール自走砲を強奪するなど、大洗連合の勝利に貢献している。ちなみに基本人格はカエサルのそれが維持されているため、美々野くるみ時代とは違い、口調は中性的、態度も素直になっている。

「基本人格はカエサルのままになったらしいから、むしろ前世より付き合いやすいんじゃね?」

「くるみは前世だとツンデレでしたから。かれんさんにはなついてたけど」

人格面では美々野くるみの特徴は薄く、殆どカエサルのままだが、ミルキィローズとしての能力は健在であるという事が伝えられたドリームは戦友が戦車道世界で大洗女子学園にいて、しかもカバさんチームのリーダーである事に言葉もなかった。

「あ、そうだ。奴が言ってたが、大学選抜チームの隊長は知らなかったけど、大学選抜チームの副隊長たちからサインをくれって懇願されたとか」

「あ、あはは……」

「子供の頃に見てたって言われて、落ち込んだらしいが」

「まぁ、そうですよねぇ」

「あの世界、結構、転生率高いんだよなー。各学校の最高幹部が寄ってたかってプリキュアだぞ?」

「コスモはプラウダ高校でしたっけ?」

「ああ。あれでロシア語堪能なんで、自慢しとる」

「だけど、ロシア語って使う機会がないような」

「多くの場合、公用語は英語だしな」

キュアコスモは転生先がプラウダ高校のNo.2のノンナであるので、ロシア語に堪能である。その特技はこの世界ではあまり役には立たない。公用語は英語だからだ。(ロシア語の解読や暗号作成には役に立つ)

「コスモはどこに?」

「戦車道世界に居残ってる連中との協議に行かせた。戦車道の幹部じゃ、留学って手しかないからな、連れてくる手段。ケイが向こうの文科省を脅してるよ」

プリキュアは世界によっては広く認知されているが、初期プリキュアは仲間内以外には隠していた。フレッシュが最初に周囲に正体を明かした例である。なお、のび太の世界では普通にスーパーヒーローが活動しているため、プリキュアも正体を明かして大丈夫である。(書類上は『ススキヶ原に在住』とされる)

「地上空母はどう対処するんです?」

「あれは俺達で対処する。のび太が偵察に行った」

「どのくらいの大きさなんです?」

「情報によれば、35機前後の艦載機を積んでいる25000t級車両だ。だが、装甲空母らしくて、500kg爆弾が10発命中したくらいでは堪えん。よく当てられたもんだ。代償が大きすぎる結果だが。15機以上のゴーストが守ってるんでは、急降下爆撃ウィッチが束になっても無理だってのは分かったから、ある意味でイーブンだが」

「思ったよりは小さいですね」

「データ収集用の試作型だからだろうな。それでも23世紀の対空兵器を積んでるから、急降下爆撃ウィッチは手練れでも落とされる。俺達が沈黙させるしかない。最悪、艦に殴り込むしかないが、南斗聖拳の使い手がいたら骨だぞ」

「あれをどうにかしないと……」

「セブンセンシズしか方法ない。俄仕込みの北斗神拳とかは通じんだろう。お前はとりあえず、草薙流古武術を極めろ。たとえ、プリキュアの力が通じなくても、あれがあればどうにかなる。」

「わかりました」

「連合艦隊は優勢になったから、海は大丈夫だしな。内なる敵のほうに注意しないとな」

「マスコミ連中ですか?」

「そうだ。日本は任務部隊制にしたがってな。連合艦隊を弊害が大きいとか言って解散するように圧力かけてな。一時はそれで決まってたんだが、扶桑の国民が大反対したからな。有耶無耶のうちに連合艦隊は存続した」

マスメディアは日本連邦の上層部が決めたことすら覆す程の力を持つ。連合艦隊の存廃もその一つであった。軍事的利点よりも伝統を重視する国民性が勝る大和民族の気質によるものだった。仕方なく『連合艦隊旗艦は最強の戦艦、もしくは最大規模の空母が務める』という風に妥協的に改定され、第三艦隊は空母機動部隊として編成の固定化が決定され、小沢治三郎の連合艦隊司令長官の任期中に行われた。小沢治三郎は従来の体制下での拝命であるため、新体制での初代は次代の山口多聞からとなる。今次海戦はその過渡期に起こった事になる。

「伝統ですか?」

「海自も本当は任務部隊編成はしてるんだがね。政治的妥協だ。軍事に理解がない民主主義国家じゃ、ままあることだ」

「教師してた時にも見たことありますけど、日本はどうも……」

「大和民族の民族性だと思う。美点でもあり、難点でもある。ま、大和型が活躍したのはいいことだ。三隻はやったからな」

「日本はなんて伝えてます?」

「古式の砲撃戦では無敵だとさ。ミサイルは高いんだ。それに、戦艦相手だと効果が薄いからバイタルパートには使わないほうがいい。漫画みたいに、ピンポイントに煙突に当てるなんてことはM粒子の影響下ではできんよ。誘導精度が落ちてるから逸れるし」

「戦後のミサイルって徹甲弾じゃないですからね」

「アイオワ級戦艦が最近までいたから、徹甲仕様もないわけじゃないが、高いんだよ。21世紀の軍艦は直接防御装甲は無きに等しいからな。撃ち合いには立ち合えん。40cm砲の流れ弾一つで轟沈しかねんし、魚雷戦に持ち込むにも、日本政府が12年位前に禁じちまったし」

(護衛艦は魚雷戦に持ち込めば、戦艦に勝てる可能性は大いにあるが、革新政権時代の日本政府が被弾の危険性を重視し、行為を禁止してしまった経緯がある)

「だから、戦艦には艦載機か撃ち合いなんですね?」

「そうだ。それで大和型戦艦の重火力が脚光を浴びたんだ。で、モンタナが出てきたんで、超大和型が容認された。もっとも、モンタナはアイオワの防御力改善型にすぎん。あれの真の敵はH級だ」

「モンタナって、言うほど重装甲じゃないですよね」

「40cm砲搭載としちゃ破格だが、大和型の史実砲はともかく、50口径砲や51cm砲には耐えられんよ。それに滅多打ちされてみろ。スクラップになる」

モンタナ級は作った側の想定より防御力が高いが、史実以上の砲がある扶桑海軍には些細な違いの範疇であり、『浮かんでいてもスクラップになる』事例が続出した。(この後に扶桑が自由リベリオンへの手土産に鹵獲した艦の修理中に切り出した最厚部相当装甲板の耐弾テストによれば、45口径46cm砲までの直撃には耐えられるが、50口径46cm砲では6発の直撃で貫通され、更に大口径の51cm砲以上には無力であると判明する。紀伊が一蹴されるのも当然と言える耐弾能力である)

「確かに」

「MSは航空戦力を散らすほうが大事だから、対艦攻撃にはあまり回せん。スタークジェガンをSFSに乗せて使う方法もあるが、21世紀の連中からすりゃ、もったいないって言われるしな」

「戦艦がそれで注目されるって皮肉ですね」

「無用の長物って言ってたくせに、いざ役に立つと掌返しだ。日本人の悪い癖だ」

「護衛艦隊はどう見てるんです?」

「護衛艦艇を蹴散らすのが護衛艦隊の仕事だ。だが、超甲巡は必要か?って言われてる。戦艦サイズの巡洋艦より、アイオワ級戦艦に比肩する高速戦艦でいいってな。だが、連合艦隊のドクトリン的に、ポケット戦艦がやった任務に高速戦艦を使うのは無いからな。超甲巡はそのための艦だ」

超甲巡は長門以上の巨体を持つ巡洋艦であるため、31cm砲想定の防御力を備える。だが、その備砲には否定的な声のほうが大きく、『長砲身41cm砲に載せ替えるか、線図を流用した高速戦艦を造れ』という圧力がかかっている。ポケット戦艦の猿真似のように思えたからだが、扶桑には金剛型の代替艦がほしいという切実な願望があり、それを叶えるために造られたに過ぎない。旧来サイズの巡洋艦に限界を感じたからこそのサイズの拡大になった扶桑にははた迷惑な話である。また、怪異迎撃用の火力としては従来の巡洋艦が用無しになりつつあったため、日露戦争時の戦艦主砲と同等の備砲になっただけであったのを対艦戦闘に流用したという認識であった。

「史実にないけど、似た艦があるとねぇ…」

「この世界では近代的な船での対艦戦闘そのものが模索中なんだ。敵は対艦戦闘の素人しかおらん。こっちはナチとの戦闘で慣らされた玄人。だが、政治屋は『練度の優位は科学力に覆されるのみの儚いもの』って見ててな。敵艦を見つけたら、非武装だろうと生きて返すな』って通達出しやがった。史実の米軍が病院船や交換船まで沈めたのを根に持ってやがる」

――これは明らかに戦時国際法違反だが、阿波丸事件の一件を根に持つ日本側の恣意的な通達であった。扶桑はそれには従っていない。自由リベリオンは同位国の行為がその通達の原因である事に困惑し、アメリカは日本人に復讐の炎が燃え上がると、なりふり構わなくなる事を改めて実感し、日本を懸命に諌めた。結局、現場の判断もあり、その通達は履行されることはなかったが、以後の戦争で潜水艦による通商破壊が躊躇われる一因になってしまう。連合軍の戦術選択の幅を狭めてしまう点で、明らかな日本側の失態であった――

「通達は?」

「無視だよ。第一、根源の阿波丸の一件はミスだって、アメリカも認めてるんだ。問題はこれで潜水艦の通商破壊のハードルが上がっちまう点だ。政治的に不味くなるんだからな。水上艦と航空機を通商破壊に割く労力を考えてみろってんだ」

――結局、通商破壊任務は通達の露呈を恐れた日本側の指令で水上艦と航空機主体の時期が続く事になり、連合艦隊は思わぬ労力を割かれる時期が続いたという。また、リベリオン本国は潜水艦の多くをウィッチなどの重要人物と戦略物資輸送に割り当てていたが、日本連邦の時代を超えた対潜網の前に沈んでいくことになる。(同時に潜水空母の運用意義も疑問が生まれたが、ウィッチや水陸両用MSの運用であれば、問題はなかった)――

「なんか不思議だなぁ。この姿で軍事について話してるなんて」

「お前の存在そのものがそうだよ、上にとっては。そういうわけで、智子の野郎の願望については考えてみてくれ」

「三日くらい時間をください。ちょっと考えたいんで」

「構わんよ、智子のわがままだしな」

「とは言うものの、先輩。なんですか、その格好」

「調の姿もマークされてくる頃合だしな。趣向を変えた。サクラ大戦3のヒロインの姿を拝借した。別に十字教の信者じゃないが、潜入とかには使えるからな」

黒江はこの頃には容姿を『エリカ・フォンティーヌ』のものへ切り替えていた。諜報などで顔が割れるのを防ぐためというのが目的である。特徴的な修道服も再現しており、一見すると、十字教のシスターそのものである。(色が赤いが…)

「日本のゲームの一キャラなんぞ、ティターンズもいちいちチェックしとらんだろうし、大戦を何度も挟んでるから、細かい事まで覚えておらんだろう」

23世紀までには時空融合現象も挟んでおり、更にその間に統合戦争もあって、様々な分野の記録に欠損が生じているから、ティターンズも気が付かないだろうというのが黒江の推論であった。元々、女優としての英才教育に反発して軍人になった経緯があるためか、『ドジっ子シスター』を演じ通せるため、『日本アカデミー賞の主演女優賞くらい狙える』と豪語する。(同じ事がサンダース大付属高戦車道部副隊長のナオミに転生していたキュアレモネード/春日野うららにも言える)

「そう言えば、キュアレモネードも無口キャラ演じてると疲れるとかぼやいてたぞ?」

「うららは明るいキャラですからね、本当は」

「お前も意外にノリじゃねぇか。この間の時なんて、サンシャインフィンガー撃ってたろ?」

「あれ、派手すぎたって思ってますよ。ネオジャパンのライブラリーに残ってた記録映像を参考にしたんですけどね。あのガンダムに乗ってたのが?」

「ドモンさん曰く、東方不敗が若かりし頃に乗ってたそうだ。あいつ、本当は日本人だってよ」

「うっそぉ……」

東方不敗マスターアジアが青年時代には日本代表のガンダムファイターだったことは暗黙の了解であり、のぞみが修行で流派東方不敗の触りを短時間で理解できたのも、ネオジャパンの記録映像のおかげである。もっとも、草薙流古武術を扱える分、既に現役時代の自分を超えているのは確かであるため、現役時代の敵であったエターナルの幹部を一蹴できるだけの強さはこの時点で持っている。

「で、同位体に妬まれたって?」

「ええ。自分がピンで対抗できない敵を一蹴しちゃったんで…」

「ま、今のお前なら現役時代のラスボスも倒せるしな。それに現役時代の強化形態より上の形態に自分でなれる。ある意味で妬まれて当然だよ」

――そして、黒江が一年後に本人に先行して披露することになるのが『シャイニングドリームのさらなる強化形態』である。翼が更に神々しくも滑らかな形状に変貌し、コスチュームと翼の色も白金色に変わっているというものである。翼の色が通常のキュアレインボー形態の黄金から更に変わったのは、小宇宙を神聖衣発現可能レベルに高めたことでの変化であろう――

「現役時代の最終局面でパワーアップしたけど、蝶の翼が生えて、飛行能力ついた以外に外見上は変わんなかったんだよな…。あ、シャドウとの戦いでその形態になってたから、二回か」

「ま、それより上になるにはミラクルライトがないと無理だったしな。だが、それでも苦戦が免れないんじゃ、更に上に登んないとな」

「セブンセンシズ、ですか」

「ナインセンシズ。そこまで壁があるからな。まずは、黄金に任ぜられる最低条件のセブンセンシズの扉を開け」

「うぅ。注文がきつすぎですよぉ…」

「そうでないと、一度はまほプリを倒したマジンガーZEROと戦闘にもならんぞ」

「うぅ。マジンカイザー級のマジンガーも条件によっては倒せるじゃないですか、あいつ」

「逆に言えば、ハイブリッドな力で挑めば良いってことだがな」

マジンガーZEROはこの時期、魔法つかいプリキュアを倒した事により、歴代プリキュア(特にピンクチーム)から敵と認定されていた。だが、同じ土俵に立つには多くのプリキュア達はあまりに微力であり、黒江達は最低限、セブンセンシズを発動できるレベルにまでレベルを上げたいというのが本音であった。

「俺も同位体を何人か殺られたからな。奴には借りがある。だが、奴も対抗しきれない点がある。異能生存体だ。あの因果までは解析できん。外的要因で死ぬ因果がないんだからな。それがのび太やゴルゴの強みだ」

のび太とゴルゴには『外的要因で死ぬ因果が存在しない』。それはZEROの高次予測能力を以てしても、絶対に覆すことのできない絶対的なものだ。(オリンポス十二神でも介入のできない恐るべし属性である)

「智子やお前の願いを叶えるにしても、地上空母をなんとかしてからだ。ダイ・アナザー・デイにケリをつける決定打は陸上艦隊の殲滅だ」

「はいっ」

「その前に一つ伝授してやる。天空剣・Vの字斬りだ」

「ボルテスVの?」

「そうだ。決めに使うには最高の技の一つだぞ」



かくして地上空母の打倒を誓う二人だが、その頃、ドラえもんはあるMSの鹵獲に成功していた。



――陸上基地――


「とっさに細胞縮小光線で小さくしちゃったけど、このMSさ」

ドラえもんは四次元ポケットから、一般的なアクションフィギュアサイズに小さくした一機のMSを出した。それはスネ夫と交戦した『ペイルライダー』であった。ドラえもん曰く、スモールライトをとっさに出せなかったらしく、別の道具で小さくしたとのこと。

「武装は?」

「ハッキングして、ロックしてあるよ。ただ、中枢にあるエグザムシステムみたいな奴はロックできなかったけど、サイズ的に問題ないっしょ」

「パイロットごと?」

「それがね。機体には脳髄が組み込まれていたんだ。オーガスタもなかなか非道な事をするもんだよ」

「脳髄!?」

「おそらく、生体部品にされた強化人間の脳髄だろうね。一応、ダイキャスト製のハンガーのおもちゃに固定してあるけど、そろそろ目覚めるはずだよ」

武子の執務室に置かれたロボットもののアクションフィギュアの格納庫を模した玩具に固定され、サイズを玩具サイズに小さくされたペイルライダーのツインアイが点灯し、頭部を動かして周囲を見回す。ややあって、驚いたようなアクションを見せ、動こうとするが、『機体がガッシリ固定されていて、動けない』事に気づく。次いで、スラスター噴射と機体のパワーで拘束を外そうとするが、徒労に終わる。

「さて、と。君には悪いけど、機体ごと拘束させてもらったよ。元・オーガスタ研テストパイロットのクロエ・クローチェ少尉?」

ドラえもんはゴルゴのルートで手に入れたと思われるオーガスタ研の機密書類を手に取り、尋問を開始した。そして、彼女はバダンの残した技術の被験者とされた初期の強化人間であった。愛機とされたペイルライダーの生体部品に自身でも気づかない内に脳髄だけが生かされ、『MSの体を持つ兵士』という非人道的な実験の成功者になったのである。やがてティターンズに拾われ、体にある程度の近代化改修が施された後に投入され、太陽の使者・鉄人28号に撃退された。修理を受けて再出撃した折にドラえもんに遭遇。捕虜になったというわけだ。

「状況説明は後でするとして、君の機体は武装解除してもらった。尋問のため、しばらくはそうしててもらうよ」

さしものペイルライダーも武装解除され、玩具サイズにされては無力そのもの。パイロットのクロエ・クローチェは脳髄だけで生き永らえてきた事に嫌気が差していたのか、オーガスタ研での日々をあっさりと話し始める。人としての肉体を失ったのは一年戦争末期であり、当時はまだ子供であった事(10代前半ほどか)などであった。

「レビル派にスパイとして入り込んでたコリニー派閥の高級軍人がそうするように仕組んだのか。レビル派を失脚させようとする保守派の手口だな。ジャミトフとも違う」

地球連邦軍は外宇宙からの敵が現れるまで派閥抗争が絶えなかったが、非人道的な手段でのニュータイプ殲滅論が蔓延っていた。かつて、ジャミトフ・ハイマンに利用されるだけ利用され、派閥を乗っ取られて失脚させられたジーン・コリニーはジャミトフ・ハイマンにとって利用しがいがあったため、デラーズ紛争までの時期は取り入っていた。(デラーズ紛争当時のジャミトフ・ハイマンは一介の准将である)彼女を改造したグレイブと呼ばれた高官はレビル派と思いきや、コリニー派のスパイ(とはいうものの、野心全開であった事から、公式記録上はレビル派の右派と処理されている)であり、非人道的手段にも躊躇いがない。オーガスタ研にはそういう暗部が存在した。

「オーガスタ研ね。一年戦争からグリプス戦役まで非人道的手段の研究に勤しんでいたというけれど、ここまでとは」

「ジャミトフ・ハイマンとジーン・コリニーの派閥の私物みたいなものだったからね、北米のニタ研。グリプス戦役の後に技術を吸い出された後に解体されたんだけど、その遺産だよ、この子とこのガンダムは」

ペイルライダーはRX-80とされるガンダムタイプに分類される。(正確にはガンダムタイプではないが、戦後の常識ではガンダムタイプに入る)。ドラえもんがはっきりとガンダムタイプと述べた事からも明らかである。ドラえもんによって無力化され、鹵獲された同機はグリプス戦役までに存在した系列機がガンダムタイプの外観になっていた事から、ネオ・ジオン戦争後の時代ではガンダムタイプに分類されたのが窺える。

「ハデスに関する記録は抹消されたんじゃ?」

「ティターンズが利用しようとしてた計画だし、非人道的手段が絡んでるから、失脚を恐れたジーン・コリニー系の派閥が消させたが、一部は残されてたし、オーガスタ研のオフィスには完全な形で資料が残ってた。ゴルゴはそこから回収して、僕に送ってきたのさ」

「この子の肉体は復元できない?」

「この子の元の肉体の遺伝子データベースは保管されてたから、復元は始めてる。脳髄を取り出して肉体に移植するには、ヒーローユニオンの技術がいるけどね」

「元は組織の技術なの?」

「脳を移植するってのは21世紀の技術じゃ、机上の空論でしかないけど、ヒーローユニオンの技術なら可能だよ。元は組織が20世紀半ば過ぎには確立させてたしね」

「おっそろしいな」

「膨大なユダヤ人で実験した成果だろうな。身震いするよ…」

モビルドールが倫理的に抵触すると議論されていた時代に『兵士の脳髄を移植すればいいやん』と考えるあたり、ティターンズ系派閥もエグい事を考えるものである。ドラえもん、長門、武子はお互いにティターンズの非人道ぶりを思い知り、顔を見合わせて頷きあうのだった。


・2020年7月5日/文章を修正しました。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.