外伝その429『脱出』


――扶桑の造艦・設営能力は1945年後半から、正面兵力よりも支援艦艇と設備の近代化に割かれていく。日本の意向として、民間からの徴用をできるだけしたくないということで、空母の新造を遅らせてまで、高速タンカー、高速輸送船、海防艦、病院船、揚陸艦、工作艦、情報艦などの艦艇がこの時期から大増強される。その関係もあり、ニューレインボープランは極秘にされたのだ。海軍の正面兵力増強が遅らされたことへの不満も46年のクーデターの理由になった。特にエセックス級やミッドウェイ級の登場で母艦の旧態依然ぶりが明らかになり、海軍航空隊が危機感を抱いたからである。日本側は地球連邦軍に『プロメテウスをもっと流してくれない?』と打診しつつ、改革派の進めていた母艦航空隊のジェット化を容認した。流星攻撃機が普及する芽はこの時期に摘み取られたわけだ。とは言え、艦上機のジェット化にはハードルが高く、最低でもエセックス級以上の大きさが必要不可欠である事、艦齢数年以内の大鳳や翔鶴、瑞鶴を使い倒す必要があったことから、レシプロ艦上機はまだまだ現役であり続ける。というのは、艦上戦闘機がどんどん大型化し、まともな運用には320m超えの規模が必要となるからだ。特にF-14やF/A-18E/Fの世代はこの時代の双発爆撃機のレベルの大きさになる。そこも扶桑の航空母艦の急激な旧式化を起こす理由である。その関係で空母の近代化が望まれたが、日本側は正面兵力の近代化よりも後方支援力の充実と空中給油機などを重視し、陸上航空力である空軍の近代化を優先した。そこが海軍航空の若手将校の不満を煽った形になる。とは言え、海軍に利益がないわけではない。宇宙戦艦の運用には海軍の協力が不可欠だからだ。そこを理解できない若手はクーデターで中央を追放されることとなる。地球連邦軍もMSやコンバットアーマー全盛の時代を迎えたが、その他の兵器をおざなりにしていないからだ――





――ダイ・アナザー・デイも第三週を迎え、地上空母という超兵器の登場で戦局は振り出しに戻された。さらにティターンズには複数のラ級戦艦が控えていたからである。MSなどは一世代から二世代前のものが大半ながら、地球連邦軍の疲弊を狙う勢力の力添えもあり、戦況はますます膠着状態になった。また、海戦そのものは優位ながら、ヒンデンブルク号の存在で予断を許さない。ヒンデンブルク号は超大和型戦艦だからだ。戦艦が戦局を左右するというのは日本側には信じられないが、50cm砲を前提にしてのドイツ式防御は予想以上の強靭さであり、海自のミサイル攻撃や魚雷攻撃も物ともしない。装甲が強すぎてミサイルが表面で爆発しまったり、魚雷の数発程度では速力も落ちないという直接防御に海自は『沈める』という意味での攻撃では無力に等しかった。できる事は上部構造物を破壊することでの小ダメージの蓄積のみであった。――


――安全保障会議――

「何故、時代遅れの戦艦を海自は沈められないのか?」

「現代型対艦魚雷を五発以上撃ち込む必要がある上、大和よりも重装甲を誇るドイツの超弩級戦艦相手に何ができると?できることは一時的な機能停止と火災を起こさせる事、速力低下を起こさせるくらい。50cm砲級の艦砲を食らったら、いかなる護衛艦、いえ、米空母も吹き飛びます」

海上幕僚長はそう明言する。戦艦の主砲が万一にも命中すれば、どんな現代艦も一撃で木っ端微塵に吹き飛ぶと。表現としては些か間違っているが、戦艦の主砲に耐えられる戦後型軍艦は存在し得ない事を暗に示す。

「戦艦には戦艦で対抗せよと?時代遅れの戦法を…」

「では、如何にジェット化されているとはいえ、少数のジェット機を大戦後期のレベルの凄まじいハリネズミのような対空砲火に突っ込ませるおつもりなのですか?それと、護衛艦が砲戦で戦える相手は巡洋艦がせいぜい。最強の大戦型巡洋艦であるデモインがくれば、それも…」

「では、どうしようというのだ!」

「連合艦隊には史実より年式が新しい船が多い。それに現代型武装を施すのです。さすれば、我が防衛予算の範囲外で船を手に入れられます」

「彼らにはまだ、大正期の古いフネがあるからな」

「そうです。年式の古い護衛艦の設計を流し、旧軍式駆逐艦を排除しつつ、旧軍式大型艦艇と共存させるのです」

とは言え、1930年代後半以降に建造された『比較的新しい艦艇』の処理や、『レシプロ艦上機からジェット艦上機への切り替えに伴う空母の刷新』は避けられない問題だった。ダイ・アナザー・デイで浮き彫りになったのは、そんな機種変更の難題であり、機銃主体からミサイル装備が加わるようになる故の混乱が予想された。64Fがそんな時代に難なく対応できたのは、中核となった者達が転生者であるからだ。








――その64Fと言えど、地上空母には容易に手出しはできなかった。ゴースト無人戦闘機が主力艦載機であるため、それを撃ち落とすには、VF-19A/VF-22以上の戦闘機をエース搭乗で投入するしかないからだ。プリキュアたちも、特に戦闘力が高いとされた者達が超人たちにねじ伏せられるという波乱が起こっており、のび太は流竜馬から受け取っていた敷島博士(早乙女研究所の生存者の一人で、地球最高のマッドサイエンティスト)特性の弾丸を使い、不用意に機銃掃射してきたリベリオン軍のP-47Nをぶち抜く――

「ビンゴ♪」

「嘘だろ、P-47を一撃で粉砕しやがった…」

「敷島博士特製の弾丸を装填して撃ったのさ。ドラえもん時代のジャンボガンの子孫みたいなもんさ」

P-47は単座レシプロ戦闘機では最高峰の防御装備を持つ。それを一撃で火達磨にする拳銃弾など、既製のものではありえない。敷島博士がジャンボガン関連の残された資料を基に改良を加えた弾丸である。既製の拳銃で撃てるものながら、威力はレシプロ戦闘機を一撃で大破に追い込む。

「のび太、お前。あのマッドサイエンティストに世話になってんのかよ」

「武器開発であの人に任せりゃ、すごいのが生まれるからね。ゲッタードラゴンのビームランチャーやゲッター1のマシンガンのアイデア元だよ、彼」

キュアメロディ(シャーリー)は絶句する。のび太の武器の少なからずには敷島博士が関わっていたからだ。

「ほら、君たちには技を撃てる気力は残ってないだろ?使いな」

「待て待て待て!拳銃で戦闘機を落とせってのか!?」

「徹甲弾だから、燃料タンクや機銃弾薬庫をぶち抜きゃ、一撃で落ちるよ」

「んな神業できっかよ!?」

メロディは愚痴りつつも、とりあえず撃ってみる。すると、当たりどころが悪くとも、P-51の主翼がパタンとへし折れ、墜落に追い込めたので、呆然となる。

「嘘だろ!?」

「言ったろ?ただの弾じゃないって。とりあえず、ジープを奪って逃げるよ!7人ライダーが他の子の救出と治療に当たってくれているから」

「こんな十字砲火の中をどう突っ切れってんだ!?」

「いや、手配は済んでるさ」

のび太がそう言ったのと同時に、銀翼の快音が響き渡り、ミサイルが飛んできて、敵砲兵を吹き飛ばす。

「こ、コスモタイガーだ……」

「山本大尉に航空支援を要請しといたのさ。一個中隊を率いて、きてくれたようだね」

一同の上空を颯爽とフライパスするコスモタイガーU。地球連邦軍の主力戦闘機の一つであり、ガイアでも採用された(政治的取引込みだが)名機である。ダイ・アナザー・デイの頃には塗装変更と後期生産型への移行が始まっており、山本玲が使った機も後期生産型である。形式的には『一式艦上戦闘攻撃機二型』というサブタイプであり、ロングノーズタイプの機首(レーダー換装などのため)を持ち、主翼ハードポイントが増強されているという外観的特徴を持つ。指揮官機は垂直尾翼が白く塗装され、パイロットによってはそこにエンブレムが描かれている。玲は戦功で大尉になっており、コスモタイガーの中隊を率いる事のできる立場であった。その中隊を率いて支援に来てくれたのである。

『玲さん、僕たちの脱出ルートを確保できるようにしといてください』

『了解した。敵のハンガーを破壊し、兵器を出せなくする。それと、追撃できないように、貴方達が脱出した後に、車両を破壊し尽くす』

『頼みます』

コスモタイガーは機銃が合計で十六門もあるため、機銃掃射でも恐るべき威力を誇る。その威力で敵駐屯地を蹂躙する。なんとも敵が可哀想になるほどだ。

「これで脱出ルートは確保できた。後は各自で脱出するよ。手近なジープを奪おう」

「お、おう…。のび太、お前……これも計算のうち…」

「そういう事にしとくよ」

のび太はその真偽をぼかしたが、少年期のドジぶりからは想像もできないほどに用意周到なところを得たと示唆された。ジープの運転も上手く、成人後はカーレースに傾倒したのは伊達ではないということだろう。キュアピーチを救出したストロンガー、ドリームを救出したXライダー、のび太と共に行動しているV3がそれぞれマシンでついてくる。ドリームは寝ているため、メロディがジープへ移す。

「こいつ、拷問されたな?コスチュームがズタボロになってやがる」

「俺が応急処置のために一部破いたが、もうボロボロだった。見てみろ、いくつも鞭で打たれた跡がある。治療用ナノマシン入れたが、この48時間は起きないだろう。輸血も必要になるやもしれん」

Xライダーが説明する。ドリームは一番にズタボロにされており、シャイニング形態の純白のコスチュームが一部でも血に染まっている。メロディ(シャーリー)が怒りを滾らせるほどの悲惨な状態だ。

「血液型が分かれば、僕が輸血するよ。この子は将来の義娘でもあるからね。父親らしい事をさせてくれるかい?」

「そうか、お前の養子は……」

「へ、どー言うこと、のび太くん」

キョトンとするキュアピーチ。比較的マシな状態でカブトローに二人乗りしている。

「いーか、ピーチ。こいつの養子はココの転生体だ。のぞみはそいつと結婚する。つまり?」

「え、えぇ!?」

合点がいったようだ。つまり、のぞみはのび太の義娘(養子の妻)になるのだ。それはのび太が壮年期を迎えた後の時間軸なので、青年期から20年ほど後の話だが。

「20年くらい後だけどね、僕にとっては。ま、転生を選んだ以上、些細なもんさ。20年は」

大笑する青年のび太。ちなみに、のぞみの結婚披露宴は芳佳、坂本との合同でこの三年後の1948年に開かれる。以後ののぞみは既婚者扱いとなり、プリキュアではほぼ唯一の所帯持ちになる。

「タイムマシンの為せる業だな」

「関心してる場合ですか、V3さん」

「一号達も別ルートで脱出したようだ。俺たちはこのまま君たちを送り届ける」

「頼みます。……南斗鳳凰拳か、チクショウ!」

「闇雲に悔しがっても、すぐには強くはなれんよ。綾香ちゃんも、黄金になるのに、二年くらいは向こうで修行したからな」

「あの人で二年?」

「そうだ。いくら才能があれど、聖衣を得るための修行や勝ち抜き戦があるからな」

黒江も二年ほどは聖域で修行をし、山羊座の黄金聖衣を得ている。ましてや、聖域がある世界は1990年代あたり。21世紀よりも男女間の差別や偏見が強い時代である。そんな中で黄金聖闘士に登りつめたため、努力家とされる。

「聖闘士か…」

「どした、ピーチ」

「いや……。現役時代より強くなっても、それを敵が上回ってきて、技の修行始めたばっかだけど、これで目標ができたよ。それに、あたしたちが負けたままじゃ、なぎささん達に申し開きできないよ」

「だな。この世界に生まれ変わった意味はこれから探すとして、強くなろうぜ。目指すべき境地は示されてる」

「うん…」

「俺たちも協力する」

「ありがとう」

V3に謝意を示す。キュアピーチ。この後、プリキュア達は修行に身を入れる様になり、数年後には聖闘士と戦えるだけの力を手に入れる。この修行は後にやってきたキュアブルームとイーグレット達にも課され、1949年度には入隊済みのプリキュアのほぼ全員が聖闘士級の戦闘レベルに達する。現役時代より遥かに高い戦闘レベルが求められた故の結果である。結果的にドリームはリーダー格として背負わされたモノが重荷だったため、先輩であるブルームの登場後はリーダー格の地位を譲る。ブルームもそれを了承し、ドリームがデザリアム戦役まで負っていた任務の少なからずを太平洋戦争で継承し、『二代目』としての責務を果たすのである。

「なぁ、ピーチ。ドリームには、とんでもないものを背負わせちまったな」

「うん……。咲さんが来てくれないとなぁ」

「なぎささんはこういうのに向いてないからなぁ。覚えてるか?」

「覚えてるよ。なぎささんが指示じゃ宛にできないってわかった時だからね」

「だよな。……この戦い、勝たないとな」

「うん!」

メロディとピーチの二人は短くやりとりを交わす。雪辱を誓いつつ、この戦いの必勝のためにあらゆる手を使うと決めるのだった。







――ダイ・アナザー・デイはプリキュア達の救出作戦の成功とは関係なしに、膠着状態となった。地上空母は攻勢の支援兵器の域を出ない性能であり、ゴーストはあくまで制空権維持のためのものだからだ。一方の連合軍もゴーストを突破するには、最高グレードの戦闘機とエースパイロットが最低でも必要であることから、手出しは控えた。爆撃ウィッチ隊の無残な全滅が良い教訓となったわけだ。ウィッチの持っていたそれまでの『権威』が失墜する最初のきっかけの一つが地上空母への敗北であると、後の世の記録には記されている。特に、ロマーニャ精鋭のはずの赤ズボン隊が何もできずに撃墜され、後送になった事はウィッチの力を科学が上回った好例とされた。また、当時のウィッチはその少なからずが人類間戦争へ強い忌避感を持っており、通常部隊が血みどろの戦いを繰り広げている時にも動こうともしない部隊が続出した。これが後の世で言う『サボタージュ』である。とは言え、戦線で白眼視されることはウィッチには強い恐怖であり、迫害誘発の危険も大だった。自らの保身のためにサボタージュをやめる部隊も地上空母出現に前後して生じ始めたが、怪異前提の訓練しか積んでいない空戦ウィッチに対人戦は酷であり、次々と部隊が敗走。第三周目には64Fが戦線で唯一無二の『空戦ウィッチ部隊』になっている有様だった。調が士官学校を速成で卒業し、正式に復帰したのは、三週目の木曜日の事だった――

「士官学校卒業間もないが、君にも戦線に出てもらう事になる。君も便宜上はウィッチで登録してある」

史実では服部静夏の加入後に脱退する坂本だが、この世界では魔力を残したまま引退するため、64F飛行長の任についている。階級は少佐のままだが、直に昇進の予定である。

「構いません。師匠からは実戦に備えるように言われてますので」

「君のシンフォギアは定期整備に出したから、二、三日は使えん。デバイスの再整備はどうか」

「レストアは済んでいます。騎士としてならいつでも出れます」

「そうか。頼む。何分、航空ウィッチは先の敗戦のショックもあり、殆どが後送された状況でな。うちしか、もう完全な状態の部隊が残っとらんのだ。バルクホルンには通達しておく。黒江の弟子という君の力を見せてくれ」

「はいっ」

調は使い魔との契約も済んでいるため、この時期以降は魔導師であり、ウィッチでもある。(魔導師である者がウィッチにもなった初の例)そのため、双方の戦法が使える利点が存在する。魔力値そのものは中の上だが、黒江譲りの剣術がメインとなっている。格納庫に行くと。

「君が閣下の弟子か。君はどうする?」

「使い魔と契約は済んでいますから、とりあえずはユニットを使います」

この時の服装は智子や圭子と同じ『旧・扶桑陸軍飛行戦隊制式戦闘服』であり、ユニットもキ100を使った調。携行武装も智子と黒江の折衷で、接近戦重視である。

「ハルトマン、お前、この子の面倒を見てやれ。私は今回、指揮を取らなくてはならん」

「ま、坂本少佐が引退を公言したし、引き受けるよ。この子はあーやの直弟子だから、基本は叩き込まれてると思うけどね

「念のためだ」

「はいはい」

坂本が飛行長に転じた後、ミーナが西住まほ化で陸戦の指揮を行い始めたため、空中指揮は501としての次席であったバルクホルンが行う機会が増えた。転生で気質が温厚になったのもあり、ハルトマンがバルクホルンや坂本の熱血成分を継いだ感がある。黒江達は単騎で突っ込ませられることも多いため、必然的にバルクホルンが中隊の指揮を取るのである。

「グンドュラの配下も空中で合流する。訓練からそのまま実戦だそうだ」

「伯爵と先生?」

「雁淵大尉の妹を鍛えるようにグンドュラが言いつけてな。それで訓練を課してたらしい」

「ああ、あの帰すに帰せなくなった……」

「手ぶらでは帰せんだろ。故郷で盛大に出征式がされたのだから」

「それ、本人にもプレッシャーじゃん」

「仕方あるまい。あの雁淵大尉の妹だ。期待がかかるのは必然だ」

「でもさ、そういうの、姉妹で揉めるんだよ?」

「ウィッチの才能の度合いは個人に依存するからな」

黒田がそうであるように、期待がかかった者に魔力発現が起きず、そうでない者に強い才能がもたらされる場合もある。また、姉妹で才能に差が出る場合もある。孝美とひかり、ハルトマン姉妹がそうだ。ただし、のぞみ、みなみ、トワのように、ウィッチ技能を引き継ぎつつも、別の技能メインで戦う者なども生じたため、そこは微妙になりつつある。また、501は基本的に高い魔力を持つ者で構成されていたため、黒江や圭子が『中の上』と言っても、凡百の航空ウィッチよりは魔力はよほどあるほうになる。むしろ、多数の戦闘機相手でも優位に立てるほどの空戦テクニックの高さを語り継ぐべきであると、後の世で調査本を記した黒江の甥っ子は著書に記している。


「よし、出るぞ!!」

「了解!」

これがウィッチとしての調の初陣であった。子供切歌はその様子を見ていた。響への苛烈な行為をしたなのは達への反発から、二週間近くもボイコットを続けていたが、大人の自分に促される形で、その飛行雲を双眼鏡越しに確認した。

「あれは……調デスカ!?」

「そう。調は綾香さんとの感応で魔力に覚醒めた。それも機械の箒を扱えるレベルでね」

大人切歌は過去の自分に発破をかける目的も来訪の理由であるため、過去の自分を煽る。

「調が遠くへいっちゃうデス…。あの時からそうデス…。フィーネに乗っ取られた調と思ったら、別人が入れ替わっただけで、しかも事故だったし…」

子供切歌は黒江が入れ替わっていた一件が相当なショック(闇落ちまでしたのに、結果的には単なる徒労に終わった)だったのか、そこを刺激すれば、容易に煽れる。大人切歌は内心で自らの青さに苦笑しつつ、煽る。

「道は違ったかもしれない。だけど、誰かのために戦う事はできる。そして、いつかまた」

「貴方が未来のアタシなら、調とまた、一緒になれるって事デスよね……」

「お互いに別の道を行ったとしても、また交わる時もくる。その結果がアタシだよ?」

微笑む大人切歌。言葉づかいも大人びていている。子供切歌の使っていた口癖は使用頻度は下がっているのか、普通の物言いである。

「う〜。なんか変な感じデス…」

「仕方ないデスよ。こっちの歳を考えて」

「……」

切歌は成長すれば、翼並の背丈へ成長し得る。その証拠が大人切歌だ。目測で18歳〜20歳の間に成長している。髪形は変わらないが、全体的に大人びている。子供切歌はちょっと恨めしそうだが、成長した自分自身なので、未来に希望が持てる表れなことは自覚しているのか、微妙な表情だ。

「今は調を応援することしかできないデス。だけど、いつか必ず……」

その想いは小日向未来と同じであった。未来の参戦が知らされたのは、この後すぐ。黒江が大いに腰を抜かす音と共に、彼女の素っ頓狂な声が辺りに響き渡るのが聞こえた。(ドリームが報告できぬまま、捕虜になっていたため、結局、ダイヤモンドが報告した)

「あ。今のは……」

子供切歌もその声に気づく。大人切歌は苦笑いである。黒江の執務室に行ってみると、珍しく腰を抜かして驚く黒江と、神獣鏡を纏っている未来がいた。

「未来さん!?」

「あ、切歌ちゃん。驚かせちゃったみたいで……」

「お、お、おま……神獣鏡の使用許可が出たのか?」

「みたいです」

「そ、そうか。当分はトレーニングだな。お前になにかあると、響がな」

「響はドリームさんとダイヤモンドさんが説得してくれて」

照れくさそうに事情を説明する未来。黒江もようやく落ち着きを取戻す。切歌はちょっとバツが悪そうにする。

「……ごめんなさいデス。アタシのせいで未来さんを前線に…」

「いいんだよ。これは私の意思だから。ドリームさん、のび太さん、ダイヤモンドさんが背中を押してくれたの」

未来は神獣鏡を以て戦うと、はっきり言う。未来の背中を押したのがのび太、ドリーム、ダイヤモンドの三者であるとも言い、黒江もだいたいの事情を察し、未来の決意を受け入れる。

「未来さん。アタシ…、アタシは…」

切歌はこの時、自分の不明を恥じると同時に、自分のせいで未来が前線に来てしまったという負い目を抱く。響が未来を日常の象徴と考えていることの理解者であったからで、その響への負い目が大人切歌に至る道を拓く第一歩であった。



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