外伝その432『激闘3』


――日本連邦の目下の目標は空母の更新と空母機動部隊の体制刷新であった。そのため、連合艦隊主力とされた空母機動部隊は組織だった動きが取れないでいた。空軍の独立の混乱で艦上機部隊の所属の是非が議論されていたのも原因であった。この混乱は日本連邦黎明期の象徴となった。ダイ・アナザー・デイ中から議論がされているが、自身の失態を認めない防衛省と旧・海軍省とで揉めに揉めていた。その議論はダイ・アナザー・デイの地上空母出現の最中でも行われる呑気さであった。64Fに助力した青年時代の野比のび太はドラえもんにF-20タイガーシャークとサーブ35・ドラケンを用意させ、自身とその友人たちの乗機としていた――






――64Fはダイ・アナザー・デイもたけなわになった頃に始まった『同位国の政治的介入』で(21世紀から見て)保有メリットが少ないストライカーユニットの生産ラインの閉鎖の弊害をモロに受け、多数派であったBF109、Fw190系の部品供給を『政治判断』で絶たれてしまった。黒江は『バルクホルン、エーリカ、マルセイユの三大撃墜王に死ねというのか!』と抗議したが、ドイツ領邦連邦の回答はけんもほろろで、相手にもしていない有様であった。ストライカーユニットはこの頃、その運用メリットが薄れたために各国で減産傾向が始まり、ドイツ連邦では強引に既存機の新規生産が打ち切られた。日本連邦はそれを受け、エンジン部品などの供給量を増加させた。とは言え、対怪異を想定し、装甲を取っ払う改造がされていた欧州系ユニットは一発の被弾で致命傷になるという弱点が露呈していた――

「閣下、予備部品の備蓄が尽きました」

「ドイツ連邦はお前らにユニットは寄越さないそうだ。怪異想定で防弾装甲を取っ払うからだ。ヒスパニア空軍やスイス方面からも領収できんか問い合わせている」

「仕方ありません。去年まではそれが正義だったのですから」

西住まほの人格になったミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの最初期の功績がこの時期の交渉であった。若手〜中堅整備兵の入れ替えの手配、ストライカーユニットの手配をするのに『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』の名は大いに使えるからだ。とは言え、ストライカーユニットの前線への部品供給はドイツ連邦の減産決定でMe系とFw系は部品供給がされるところからの取り合いになっており、優先権を持つ64Fでさえ、裏工作で部品を他部隊に取られる始末。この時の部品の取り合いも兵科解消に一役買ってしまったのは言うまでもない。

「醜い争いなんかすれば、銃後に切り捨てられるというのに。近頃のガキ共は銃後のご機嫌取りもわからんのか」

黒江はこの言いようだが、1940年代に入ると、兵科の立場が確立され、花形扱いされてきたため、志賀がそうであるように、独特の空気と社会が生まれていた。人格変化前のミーナが黒江達を疎んじた理由の一つも、『501の空気をよそ者に壊されること』のを恐れた点だ。

「仕方あるまい。扶桑の軍需産業からストライカーユニットを供給させる。鍾馗の二型の追加生産をさせろ。メーカーが渋ったら。俺や黒田の名を出して構わん。場合によれば、前田将軍の名を出せ」

「ハッ」

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ(の姿になった西住まほ)は人事処分が下された直後には、黒田家を継ぐ事務手続きのために一時帰国中の黒田の代理で黒江の秘書官をしていた。指揮権を移譲し、飛行資格停止処分中の身である故である。当時、既に多くのウィッチが使用中のBF109、Fw190系系ストライカーの部品供給停止はドイツ連邦最初の失策であった。とは言え、ドイツ連邦にも言い分はあり、『今次戦役は航続距離が命であり、既存機では致命的に足りない』というのが理由であった。実際、史実より遥かに航空基地の数を確保できていない上、サボタージュで余計に減らした連合軍にとって、当時の多数派であるBF109やFw190系の短い航続距離は致命的なものであるのも事実だ。自由リベリオンの生産能力の低さもあり、P-51やP-47の他国ウィッチへの供給は不可能だったので、64Fに残された選択肢は『扶桑機をカスタマイズして使用させる』事くらいであった。そこが自前の飛行能力で戦える歴代プリキュアの登場で際立ってしまったウィッチの運用面のデメリットであった。

「ヒスパニア空軍から回答があったら、俺に知らせろ。連中も有名無実化して久しいが、部品供給は外貨獲得のためにもするはずだ」

「了解しました。キ44は中島が言う三型ではないのですか?」

「三型は無理だ。ワスプエンジンの供給が間に合わん上、国産エンジンは想定しておらんと糸川博士から書簡が届いた」

キ44(鍾馗)の設計者で、智子と昔に関係を持っていた糸川博士から『キ44は国産の2000馬力級に換装するのは想定していない』と書簡が届き、智子も換装での再使用を諦めたという。

「なら、日本かアメリカからターボプロップエンジンをサンプルで取り寄せ、それを魔導エンジン化させればどうでしょう」

「それだ!アメリカ軍に問い合わせろ!それと、緊急で川崎重工業に問い合わせろ!御社の製品だった飛燕をレストアできないかと」

「わかりました!」

黒江がミーナ(まほ)にさせたこの一連の動きは川崎重工業にとっては商機であり、同位企業の川滝航空機がキ61の悪評に泣いている(圭子も苦言を呈している)のに救いの手を差し伸べる形になった。空冷エンジンのキ100が好評なのは、液冷エンジンに心血を注いできた同社の努力を否定するも同然だったからである。川崎重工業の協力でハ240(液冷24気筒エンジン)の目処も立つことになるが、防衛省は微妙な顔になったという。(ジェットの時代が見えている時なので、レシプロ機の高性能化に興味はなかった)とは言え、既存のハ40装備機は老朽化し、ハ140も陳腐化し始めていたので、ターボプロップエンジンまでの繋ぎでアツタ共々に液冷24気筒エンジンへの改良がされ、ジェット機までの繋ぎの役目を担ったという。ネイピア・セイバーのような液冷エンジンの最高峰となるそのハ240は和製セイバーとも呼ばれ、川崎重工業の世界を超えた執念が生み出した怪物だった。ジェット機が普及するまでの繋ぎ目的で量産するには高性能過ぎるため、防衛省内部でも異論があったが、現地工場の雇用維持のためもあり、了承した。これが純粋な飛燕系の最終形態であり、ターボプロップエンジン型を省くなら『最後の川崎系戦闘機』の称号を得るのだった。








――この頃に台頭し始めた歴代プリキュアらだが、ダイ・アナザー・デイへ参戦した者はその総数からすれば、ごく少数であった。だが、歴代でも強者として名を馳せた者達であったため、瞬く間に戦線を担う者と認識された――


「智子先輩、訓練終わりました〜」

「ご苦労。しばらく休んでなさい。今日は夜間出撃よ」

「機はなんです?」

「F-20タイガーシャークのテスト飛行も兼ねた強行偵察よ。プリキュアの状態で乗った方がいいわよ。あれは1970年代の耐Gスーツでは耐えられない位の機動力があるから」

「はーい」

のぞみは肉体の素体になった中島錦が黒江達の卒業した航空士官学校と飛行学校の後輩であるという人間関係を引き継いでいたため、黒江達の事は『先輩』と呼んでいる。それが扶桑陸軍航空部隊ウィッチのしきたりであったからである。この時期には、乗り物の技能があるプリキュアはごく少数である。戦線にいるプリキュアで第一線の戦闘にすぐに耐えられる操縦技能持ちはのぞみとシャーリーの二人のみだった。(MSの新システムのテストなら、キュアエースやキュアサンシャインが該当するが)更に夜間飛行技能は意外にも芳佳はこの頃、まだ正式には認定を持っていなかったので、のぞみとシャーリーは組む機会が多かったのである。(プリキュア関係無しに)

「夜間出撃かぁ。久々だなぁ」


智子の執務室を出たところで、入れ違いに報告しにやってきたキュアエース(ガンダムスローネドライのテスト中)に出くわしたのぞみ。

「ガンダムのテストはどう?」

「この機体にはあまりいい思い出はないのですが、仕方ありませんわ」

『ガリバートンネル』で人間サイズに縮小して運用テスト中のガンダムスローネドライ。原典では全身がワインレッドで彩られていたが、キュアエースが使用する事を前提に塗装パターンは変更されており、所々にキュアエースのコスチュームと同じ白がアクセントとして取り入られている他、ドキドキプリキュアを表すエンブレムが肩に描かれている。キュアエース自身は『いい思い出はあまりない』(ネーナ・トリニティの所業を考えれば自業自得だが)と言うが、自身が乗った唯一のガンダムタイプであるため、愛着はあるとのこと。

「ま、のび太くんが用意してくれたんだし、そこはね。あ、サンシャインもガイアのテスト中だってさ」

「サンシャインも大変なようですわね」

「あれは四足歩行形態に変形するけど、そのテストの予定があるんだって」

「可変機は大変ですわね」

「あれが異端なんだよ。普通は飛行機に変形するもんだけどね」

地球連邦軍のアッシマーに始まる可変機は飛行形態に変形する。そのため、ガイアは可変機の異端とされたが、プラントは地上侵攻及び防衛を主眼にしたバグゥの後継を考えていたので、設計思想が異なる。(セイバーガンダムが通常の可変機であるが、知る由はない)

「他の機体の武装をドライブできるのが救いですわ。この機体は本来はサポート用ですから、固定火力が低いので…」

「ハイメガランチャーをドライブできるくらいに出力の余裕あるから、Z系のロングライフルでもどっかにマウントできるように改良してもらう?」

「そうですわね…。固定のハンドガンは自衛用ですし、ミサイルポッドはニュータイプなら軽く避けられる程度の弾速。今度の定期報告で具申致しますわ」

スローネドライの戦闘能力値は原典が支援用であった都合上、廉価なジムよりはマシな程度である。キュアエースの技能で補うにしても限界が見えてきたので、史実での後継機的な存在『アルケーガンダム』の要素で強化する案が早くも出ている。

「んじゃ、GNバスターソードでも積む?」

「あれは大仰すぎますわ。取り回しが良いものを…」

とは言え、系列機であるアルケーガンダムには搭載された武装であるため、搭載しない選択肢はないらしいキュアエース。接近戦で刀を好むところは元来のキュアエースではありえないので、なにか別の要素が入っているのではないか?と言われていたりする。

「あれ?満更でもないね」

「ええ、まぁ」

言葉は濁したものの、キュアエースはガンダム越しでも満更でもないような感じの仕草を見せる。のぞみにはわからなかったが、この場にのび太がいれば、その理由に見当をつけていただろう。キュアエース/円亜久里ことアリサ・バニングスには、黒江達も知らぬ秘密がまだあったのだ。それも重大な…。








――のび太はサーブ35 ドラケンの尾翼に炎の鬣を持つユニコーンのエンブレムを描いた。ドラえもんが武子に薦めていたエンブレムを初めて使ったのは彼とドラえもんだったのである。ドラケンは比較的に軽装の機体であるが、その整備性や短距離離陸能力は開発年度の1950年代では最高峰に近かった。熱核バーストタービンエンジンとパルスレーザー砲、23世紀型アビオニクスに換装した個体ではあるが、持ち前の短距離離陸能力に磨きがかかり、基地を定期便と称する空襲をしようとしたB-29の編隊をいち早く邀撃していた――


「敵さん、こっちが13000m以上から来るのは予測してなかったと見えるな。こちら、のび太。邀撃を開始する」

のび太は基地に断りを入れつつ、当時の敵主力機『P-51H』を引き連れたB-29の編隊に攻撃をかけた。敵編隊は当時の501の機材配備の諜報情報から、B-29の邀撃が可能な余裕はないと踏んでいたが、実際はそれを察知していたのび太とドラえもんの邀撃にあったわけだ。レシプロ戦闘機である『P-51』を射線に入り次第、パルスレーザーで粉砕していき、動きがいい指揮官機にはミサイルを撃つ。敵はレシプロ同士の空戦の訓練は積んでいても、ジェット機とどう対峙すべきかのノウハウがまるでなく、闇雲に機銃を乱射するのみで、まるで逃げ惑うハエであった。対する青年のび太、彼と合流したドラえもんは百戦錬磨の経験がある(主に大長編での経験で)ため、空戦と呼べるかわからぬほどの一方的な戦闘が繰り広げられた。


――フフ、まさかこの僕が成人後には戦闘機のコクピットにいるとはね。音速でレシプロ機の編隊を嬲るのは趣味じゃないけど、奴らには鉛弾を、子供たちには安らぎを……ってか――

「ドラえもん、護衛機は散らした!B公のコンバットボックスを崩すよ!」

「了解!!」

のび太は独白しつつ、コクピットに表示される照準に入る敵機へ情け容赦なく操縦桿の引き金を引く。第二次世界大戦型爆撃機に過ぎないB29は与圧された胴体に穴が開くと、風評である『頑強さ』が嘘のようにへし折れたりして落ちていく。中にはパルスレーザーが搭載していた爆弾を引火させたのか、空中爆発で果てる機もあった。B-29はジェット機からすれば『止まっている』ようなもの。レシプロストライカーユニットでは迎撃すら困難な同機も、ジェット機からすれば、ハエも同然の旧型爆撃機に過ぎないのだ。

「B公を血祭りに挙げるよ、のび太くん!」

「史実日本を焼いたお礼参りだ、一機たりとも逃がすかいな!」

二人はスロットルを全開にし、B29の編隊へ意気揚々と斬り込んでいく。敵護衛機を置き去りにする形で。この戦術的優位性はジェット機のレシプロ機への優位性を示す格好の材料であった。敵味方ともにジェット機への転換が始まったとは言え、その存在に疑念を持つ者が多い中、当時のレシプロ爆撃機では(富嶽やB-36を除けば)事実上の最高ランクに位置する最新鋭機のB29が為す術もなく撃墜され、無様に遁走する姿は映像撮影班の手で撮影され、統合参謀本部へ届けられた。各国空軍関係者に『時代の変わり目』を意識させるその圧倒的光景はヘンリー・アーノルド(自由リベリオン空軍元帥)をして『レシプロ機の時代は終焉しつつある』と言わしめるほどの威力であった。








――空を切り裂く轟音で空を舞う炎の鬣の一角獣。一角獣が吠え、史実で日本全土を火の海へ変えた『悪魔』は為す術もなく、次々と一角獣に屈していく。それはジェット機という天使が悪魔であるレシプロ超重爆撃機を時代遅れに追いやっていくようだと、元・カールスラント空軍中将『アドルフィーネ・ガランド』は後日に航空雑誌のインタビューに語った。彼女はインタビューアに語った――

「異世界の日出ずる国からやってきた『友』が私の現役時代には大量配備に反対していた連中を尽く、私に頭を垂れさせてくれたのだ。実に痛快とは思わんかね?」

……と。ガランドはジェット機の可能性を見出し、早期の大量配備を画策したが、20代で中将にまで登りつめた彼女を敵視する多くの者達の妨害、機体自体の問題、前線の空中勤務者達の反対論に屈しざるを得なかった。だが、44年からの地球連邦とティターンズの戦いで図らずしもその恐るべき威力が判明すると、カールスラント空軍は手のひらを返し、ジェット機の開発プロジェクトを強力に推進、一部は45年8月始めの時点で試作機の初飛行を控えるまでに到達していた。だが、カールスラントに思いかけない不幸が舞い込む。連邦を組んだドイツ連邦共和国が『削減分を蔓延する疫病の研究/治療・福利厚生費に充てる』という名目でカールスラント軍の軍事費を大幅に削減。空軍の開発プロジェクトは進捗の状況を問わずに有無を言わさずに中止の憂き目に遭う。ガランドの退役からまもなくに訪れたこの悲報は『カールスラントの軍事的衰退の始まり』と後世に記録された。それと同期し、太平洋戦争を睨んだ日本連邦による一連の開発プロジェクト『V作戦』(後世の地球連邦の反攻計画も同名だが、これは後年の地球連邦が日本の記録に肖って名付けた)が開始され、その一環での青天井の予算が投じられし航空機開発で、扶桑は比較的に短期間で世界最強の空軍を手に入れるに至るのだ。ガランドの退役と黒江たちの将官としての台頭は後年、『空の王者の交代の序曲』というターニングポイントの象徴として記録され、当事者間でもそう語られたという。




――こうして、ドラえもんとのび太はたった二機で旧日本陸海軍が戦争末期に悲願とした事を一回の戦闘で達成するわけである。この日に襲撃した40機のB29とその護衛の50機のP-51Hはのび太とドラえもんの邀撃、その通報を受けた基地の防空班(対空ミサイルや対空砲担当)の迎撃で爆撃機はほぼ全機が撃墜、もしくは撃破。護衛機も半数以上が叩き落とされるという散々たる結果であった。後日、この日に『爆撃機が易易と64F基地の上空にたどり着けた』謎は爆撃機の中に電子戦機がいたことが分かったことで解決を見る。それは当時の科学技術水準では最高レベルのもので、ティターンズが与えたと思われる簡易な仕組みのM粒子散布器も機体に備えられていた。これに強い危惧を覚えた武子は、より厳重な探知方法を模索し始めるのである。そして、二人が勇名を馳せた日の夜、のぞみものび太とドラえもんが64Fに与えた『F-20』に乗り込む。智子の指揮下で――

「こちらライトニング1、ライトニング3、調子はどう?」

「乾度良好、エンジン異常なしですよ、先輩」

「了解。2はどう?」

「問題なし。同位体が縁あった機体に乗るたぁ、思ってもみなかったぜ、智子さん」

「あんた、前世はナイトメアフレームやらに乗ってたものね」

「まーな。ま、のぞみに合わせて、プリキュアの姿で操縦してっけど、意外に楽だな」

「そりゃ、肉体自体が超強化されてる状態で戦闘機に乗ればね。機体の設計限界まで引っ張れるって寸法。あたしは聖闘士だから、光速でも大丈夫だけど、あんたたちはプリキュアになんないと、高機動に耐えられないでしょ?」

「ストライカーユニットで空戦するのとは、わけが違うかんな。ま、今回はのぞみに付き合ってやるぜ」

「シャーリー、あたしをペーペー扱いしないでよ〜!これでも47Fでテスパイだったんだけどー!それに、プリキュアとしては、あたしのほーが先輩でしょ〜!」

「戦闘機乗りとしちゃ、全くのペーペーだろーが。わりぃが、こっちは実戦経験あるんだ。その意味だよ」

三人の交わす会話。シャーリーものぞみに合わせ、キュアメロディの姿になって操縦している。二人はコンビを組む事に不思議な縁を感じていた。現役時代には接点はそれほどなかった上、オールスターズでも絡みが多くはなかったはずだが、黒江が推測し、本人達もおぼろげに記憶していた『あること』が理由の縁があるのだが、それはこの時点では内密である。離陸前に交わされたこの会話だが、ここでシャーリーが疑問を口にした。

「ところで、智子さん。あんたら、どうしてミーナさんに疎まれたんだ?」

「多分、あたしらを参謀本部が嫌味で送って来た監察官と早とちりしたんでしょうね。年齢も『使い物にならない』20超えだったから。で、事態が判明した後に保身に走ったのも理解できるわ。あの子の唯一無二の罪は過去に無知だったことよ。ロンメルが頭抱えたのも無理はないわ。あたしと圭子が最近にやらかした戦果も知らなかったもの。で、査問の時に言い訳がましく喚いても、時既に遅し。後世にカールスラント衰退の元凶の一端として名が語り継がれるでしょうね」

「それも哀れだな」

「自業自得ではあるけれど、気づけば、いくらでもカバーしようがあったでしょうに。たぶん、『よそ者』のあたし達が501の『空気』を壊すのを恐れたんでしょうけど……遅すぎたのよ」

ミーナ個人の評価は査問直後の時期には地の底に近かった。それまでの業績を帳消しにしかねないほどの『国家的失態』を犯したからだ。智子のいうように、事の重大さを知り、その失態をカバーしようと動いたのがあまりに遅すぎたのだ。昭和天皇の怒りを買ったという噂が流れた後では。日本連邦から諸方面の報復がすぐに始まり、カールスラントの権威は地に落ちたからだ。タキシング中の会話ではあるが、智子達はミーナから自分達が『よそ者』と認識されていた事を知っていたのが分かる。まほはそんな状態から『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』の人物評を立て直すために努力を重ねていく。

「離陸するわよ」

「OK」

「了解」

三機のF-20が順番にエンジンを吹かし、再燃焼装置を用いて離陸していく。闇夜に機体識別灯の光が消えていき、ジェットエンジンの轟音が響く。地上空母の動向を探る意図での強行偵察だが、昼間ののび太達の大戦果と三人の出撃を期に、炎の鬣の一角獣のエンブレムが64Fのシンボルと見做され始めるのであった…。



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