外伝その438『綱渡り2』


――ダイ・アナザー・デイで投入された戦後世代の航空機群。扶桑とブリタニアが秘匿していた兵器群の一つだが、レシプロ機を前面に出してきた中でのいきなりのジェット戦闘機の投入に、日本側から問い合わせが相次いだ。扶桑側は『大規模海戦では、少数の新兵器を投入したところで焼け石に水であるので、投入タイミングを伺っていた』と回答した。空母の飛行甲板を事前に潰すため、ミサイル攻撃を行い、護衛艦隊への潜水艦による魚雷攻撃で護衛艦を落伍させる。レシプロ機も激戦で消耗してきたからである。この時にジェット戦闘機を、扶桑軍として初投入したことは議論を呼んだが、投入しどころが難しかったのも事実である。のび太やドラえもんが戦線全ての動きに関係しているわけではなく、現地の人間達なりに努力しているところもあるのである――






――64Fに乾坤一擲の作戦が指令されるのと前後し、連合艦隊は揺動も兼ねての攻勢を始めた。主力戦艦は健在だったからである。航空戦力は機材面で戦力を消耗していたため、潜水艦隊の雷撃と、水上艦からのミサイル攻撃が先制攻撃の主軸となった。敵艦隊は再編を行っている最中であったので、敵にとっては完全に寝耳に水であった。――








――この頃になると、通常の空戦ウィッチ達は作戦の主軸と見做されなくなっていた。人間が操る通常兵器の群れが相手では、統合戦闘航空団に所属できる実力を持つウィッチであろうが、心象的意味で戦える者は減るからだ。そのために肩身が狭くなるウィッチ達。一方、プリキュア達は『魔法少女』に分類できるために、便宜上はウィッチ扱いされているが、実際にウィッチ世界での魔法を使える者は素体がウィッチ世界の『住人だった場合』に限られる。例えば、のぞみは『素体』が扶桑の戦闘ウィッチであったので、戦闘で必要な一通りの魔法は使えるわけだが、ゲッターの使者としての本分を見せ始めていた圭子、円卓の騎士としての力を持った紅城トワ(キュアスカーレット)に比べて、ビジュアル的なインパクトには欠けていた。だが、この当時の時点でも『プリキュア・シューティングスター』と『プリキュア・ドリームアタック』を使い分けが可能になっているので、現役時代よりは能力が強化されている――



――休憩室――

「おー、軍服か」

「今の体に合うサイズを取り寄せてもらったんだ。続けるかはわかんないけど、一応はね」

とは言ったものの、なんだかんだで正規軍人を続けることになるのである。(次に軍服を作り変える時には、様式は空自のものに変わっていたが)

「教師に戻るつもりはあるけど、あたしの力が必要とされるなら、戦うよ」


のぞみはダイ・アナザー・デイの当時、そのように語った。当時は生まれ変わっても『戦う』ことに明確な理由を見いだせなかったからだが、新たな『戦う理由』を明確に自覚するのは、かつての想い人が転生した後に『サムライトルーパー』となった事を目の当たりにしてからであるので、当分は先のこと。彼女は本質的に『戦士』である事をその時に自覚する。そして、教師への転職も文部科学省に妨害され、転職が失敗に終わったのを期に、正規軍人であり続ける選択をする。これはガリアへの郷土愛はあれど、転生前の経験から、ガリアの現体制に表立っての協力はしないジャンヌ・ダルクと似ていた。ジャンヌ・ダルクは前世の最期もあり、地球連邦軍の軍人の身分はあるが、ガリアに肩入れはしない道を選ぶ。同じ頃、カールスラントがアルトリア・ペンドラゴンの存在を有効活用できずにいたのと同じ道である。

「お前も難儀だよな」

「響なんて、今はアメリカ人じゃん」

「前世は日本人だったけどな。向こうにいる家族はそのうち、日本連邦に亡命させる。向こうじゃ、ナチスまがいの監視をされてるだろうし」

「そういえば、ケイ先輩は?」

「ケイさんなら、上の連中と話してる。ミーナさんの処分の公表についてな。人格は変わってるし、本人も反省してる。正式に処分下ってるから、マスコミに如何に叩かれないようにするか、だと」

「どうなんの?」

「普通に降格だし、飛行資格と指揮資格も一年は止められることになった。給与も数ヶ月は自主返納だ。人種差別とかのうるせぇ問題が絡んじまったから、公の謝罪会見はせにゃいかんだろうな」

シャーリーもそういうように、ミーナの起こした問題は人種差別が絡むため、謝罪会見は必要であるとする。日本連邦の力がなければ、戦線の維持などは不可能だからだ。日本連邦の大衆はこうした問題を知れば、過剰反応することは上層部も知っている。処分を急いだのは、日本連邦の大衆を激昂させないためだ。ガランドもこの頃には、『作戦終了と共に除隊する』旨を上層部に伝えているので、彼女の『引退の花道を飾る』ため、ミーナの処分は早急かつ慎重に下された。偽装工作込みで。(ミーナの錯乱は闇に葬られたわけだ)



「それもめんどくさいよね」

「新聞に嗅ぎつけられた以上、日本向けに謝罪するしかないだろう。それでも、叩くやつはいるけど、やんないよりは遥かにマシだ。部内で済ませられなくなったからな。あの三人は扶桑の英雄だ。それをぞんざいに扱ったなんて、この時代なら、観光に来てるカールスラント人が暴行されても不思議じゃないくらいのニュースだ。人格が変わったのは公にできねぇから、とにかく『書類の確認ミス』で通すそうだ。人種差別云々は『勘違いだった』としか言えねぇからなー」

連合軍上層部で欧州系高級軍人の立場を危うくしたのが、ミーナの引き起こした問題であった。人種差別などの諸問題が絡んでしまったからで、事実、ロンメルやガランドは日本側に管理責任を追求される羽目になった。(そもそも、将官級の上級将校は麾下部隊の運営にはあまり関わっていないので、責任の取りようがないのだが)下士官への制裁的降格と、それまでに受賞した勲章の一切の剥奪が日本の当局から提案されたのも、この時期だ。

「下士官への制裁的降格も提案されたらしいが、映画みたいに、そこまで降格させるのはあまりない。革命前のフランスみたいに、反乱の温床になりかねないしな。だから、功績に免じて、大尉までで済んだんだ。戦時階級の剥奪って形で。現場の士気の問題もあったしな。勲章も今度に授与予定だったものを撤回するだけで済んだ。一度のミスくらいで一切を剥奪するわけにもいかないからな」

「政治的じゃない?」

「ウィッチ部隊がせっかく動き始めたのに、その空気に水を差したくないんだよ。今回のことの根底にあるのが、元のあの人の個人的感情ってのがバレてみろ、軍籍剥奪を受けても不思議じゃない」

「それねぇ」

ミーナは坂本が絡むと、途端に冷静さを失う傾向があったが、この世界においては一線を超えてしまった。それが悲劇のもとになったわけだが、結果として、キャリアに傷を残す結果となった。

「今は人格変わってんから、処分は下せても、それ以上のことは難しいからな。それより、あたしらのほうが異端だぞ。戦中の時代に、21世紀以降の倫理観を持ってる人間がぽっと出たんだからな。お前のほうが心配だよ」

「ブラックな職場は教師時代で慣れてるよ。前世じゃ、子育てに失敗してるようなもんでさ。ココとの間に子供を作るかは、これから考えるよ」

「お前もそこ、重いよな」

「なおちゃんには面倒かけちゃったしさ、その時に。響だって、転生重ねる内に、そういう経験あるっしょ?」

「人生そのものが重かった事あるからな。それには納得だよ。飲むか?」

「サンキュー」

「昔はコーヒーはダメだったな、お前」

「あん時はまだ、14だったからね。ミルク入ってる?」

「お前のことだから、ミルク多めに入れてやったよ。コーラは勝った後に飲みてぇからな」

「先輩たちもだけど、コーラ好きだよね」

「ああ。黒田と黒江さんはヘビーユーザーだよ。未来世界の二つの会社から自販機買うくらいに」

「そんなに?」

「1930年代の時点で飲んでたから、扶桑で一番早くから飲んでるって自慢してた」

「うへぇ」

「それで、事変ん時は異端児扱いだったとか?」

「当時はコーラなど、珍しかったからな」

「あ、坂本先輩」

「お前たち、準備はどうか」

「バッチリです。先輩も休憩に?」

「ああ。醇子に書類仕事は任せてきた」

坂本がやってきた。この時は日本連邦軍の幕僚としての仕事があったのか、ズボンをきちんと履いている。

「参るよ。向こうは正規軍人を戦バカだと思ってるからな。それに、危険な任務をやりたがらない自衛官も多い。黒江はよく、Gフォースをまとめてるものだ」

坂本はなんだかんだで昔気質の正規軍人であるため、自衛官らしく振る舞える黒江に関心している。幕僚として勤務することも増えたため、防衛省の一部から『強引に自衛官を戦争に関わせた』という批判が出ていることには憤慨している。最も、防衛省も国土が戦場であるロマーニャとヒスパニアの手前、表ざたにはしていないが。

「防衛省の一部から、強引に関わせたという批判が出てな。当初の攻勢作戦にしておれば、ここまで泥沼化しなかったはずだというのに」

「奴らにとっちゃ、この世界の事は『他人事』だからな。とは言え、お上にはビビる。そこは日本らしいがね」

「聖上のお言葉はそこまでの効果を?」

「あんたの想像以上に抑止力として働くんだ。戦後の日本でも、な」

シャーリーの言う通り、天皇という存在は『日本を一つにまとめる』上で重要な存在である。だからこそ、後に、のぞみの転職に昭和天皇のお墨付きが出ていた事が判明した際に日本側で大騒ぎになったのである。

「だから、華族廃止論が吹き出ても、皇族廃絶論だけは出なかった。日本はいくら政権が変わろうとも、天皇だけは不変。その原則だから、2000年も狭い島国でやってこれたんだ」

「そういうものか…」

「ま、日本は徳川家康が政権握ったから、扶桑より島国根性は強いと思うぜ?」

織田信長と徳川家康の違いは保守性がどの程度あるか、外征思考があったかの違いだ。日本は徳川家康のおかげで263年の平和を享受したが、短時間での近代化を達成したが、富国強兵政策は昭和期に破綻した。しかし、それに代わる政策である『経済大国』政策も21世紀には行き詰まっている。シャーリーは坂本よりその面に詳しいため、坂本は関心する素振りを見せる。

「かもな。しかし、日本は何故、我々を見下す?」

「あんたらが結局、根本的な科学力でも、兵器の力でも勝てなかったからだよ。だから、幼年学校卒の連中を排除したいんだろうけど、いきなりそれは不可能だし、海軍で特務士官のほうが実務で偉いのは当たり前だけど、外聞的には困るのと一緒さ。だから、超大和型戦艦が何隻もあるくせに、まともな空母が殆どないのがやり玉に挙がるのさ。紫電改や流星の同時発艦数にも難のある雲龍型が主力じゃな」

「雲龍型はウィッチ母艦と兼用だったから、量産しやすい規模にしただけなんだがな…。そもそも、M動乱以降に需要が生じた大型空母は改大鳳型でどうにかする予定だったんだぞ」

「大鳳を多少でかくしたところで、ジェット戦闘機は運用できねぇよ。ミッドウェイでさえ、数十年できつくなったから、フォレスタルになったんだ」

雲龍型空母の評判は散々だが、実際は航空機運搬船名目でかなりの数が実戦に参加しており、扶桑へ史実通りの空母運用ノウハウをもたらした点では名空母であった。戦没艦も生じているが、二十三隻が完成していた都合上、『使い潰せる』点は評価された。ウィッチ部隊は搭載されず、通常の空母として運用されたわけだが、ウィッチ部隊は大規模消耗戦には耐えられないこともあり、運用規模は縮小されてきている。通常兵器相手には、魔力による弾丸の威力強化にも限度があるからだ。

「だから、我々はお払い箱か?」

「全員があたしらみたいな『一騎当千』じゃないし、人相手じゃ、嘘みたいに萎縮する連中も多いんだ。ウィッチに時空管理局の魔導師みたいな火力はないからな」

「異端視されていたはずのあいつらのような一騎当千の猛者が必要になったと?」

「時代だよ、少佐。あんたも転生者なら、わかるだろう?」

「そういうもんですよ、先輩。海軍の人たちは共同撃墜を尊ぶとか聞きますけど、そういう文化のほうが異端なんです、世界的にはね」

「それはそうだが、志賀達の主張もわかるところはある。海軍が対外的な理由で撃墜王という触れ込みを使っていたのは認めるよ」

坂本は志賀に同情していた。志賀は『対外的に必要な触れ込みを一概に否定しているわけではありません……』と昭和天皇にも釈明しているからで、坂本は『若い連中が天狗になってしまうのを戒めるために、部内での自慢は良くないのです……自分の弁明はこれだけです……』という釈明には、個人的心情としては同意していたが、対外的には『エースパイロット』(フライングエースという本来の単語を和製英語が逆に淘汰してしまった例)の存在が必要であることは実感しているため、自分がそのプロパガンダの一翼を担っている。

「プロパガンダを担う身だから言うが、志賀の世代は頭が固くてな。だから、黒江たちにクーデターに備えるように言ってある。夢原。お前の上くらいの世代は海軍の集団戦教育が最も尖鋭的だった世代でな。私達の全盛期が終わるのを見越してたんだろうが、結果としては、皇国に仇なすことになるな」

扶桑海軍は結果としては、その世代のウィッチやパイロットの育成費が無駄になったわけだが、ジェット化で既存パイロットやウィッチの機種転換に手間取っていくため、結果としては更にグダグダになった。空軍が主力になったのは、『ジェットになっても、実戦に耐えるエースパイロットを有していたからである』。(同時に、敵方によって、対怪異用という名目で開発がされていた『原爆』の戦略兵器への転用が容易に想像されたため、日本連邦軍が邀撃部隊の整備に異常な熱意を見せることになるが、数年後のことになる)

「敵は、原爆をいつか使おうとするだろうさ。リトル・ボーイ、ファットマンのどちらか、いや、両方だろうよ。報復のために、どこかへ反応弾をぶち込む戦術は極秘裏に検討されてる。わかりやすいからな」

「しかし、敵はアトミックバズーカで核兵器の威力を見せつけられている。使用に踏み切るか?」

「大和民族には躊躇しないだろうさ、時代的に。1945年ってのは、そういう時代さ。裏では白人至上主義が蔓延ってる。21世紀人には信じられないろうが…。共通の敵がいたから、この世界はまとまってただけだ。核兵器の害は1960年代以降じゃねぇと、問題にもされないしな…。それを克服したのが反応弾だけど」

「広島と長崎が多くの世界でぶっ飛んじゃったの、先輩は知ってますか?」

「うむ。黒江から聞いているよ。だが、自分達がされたことを……戦争相手とは言え、同じことをするのか?」

「向こうの世界じゃ、核兵器なんかより恐ろしい手段が戦争に使われてんだ。21世紀までより恐ろしいことになってる。だから、マジンガーやゲッター、ガンダムみてぇなのが生まれていくわけだ。あの三人はその力を生身で奮えるんだ。下手なプリキュアより強いぞ」

「そこまで言うか?」

「聖闘士やスーパーロボットの力ってのは、そういうもんだ。あたしらは完全には戦闘向けでもないかんな」

プリキュアの力は『浄化』することにパワーソースが割かれる』面もあるので、純粋な破壊力では聖闘士などには及ばない。それは、のぞみもシャーリーも認めるところだ。

「シャーリー。その事をミーナが知ったのは?」

「三人全員がそうだとわかったのは、ここ数週間だ。ケイさんは『シャインスパーク』と『サンバーボンバー』を使ったんだ。ミーナさんは気が気でなかったろうさ」

「ミーナさんは真ゲッターロボを見てから、歴代のゲッターのことを調べてましたからね。おまけに、未来世界で開発中のはずの『ゲッターロボアーク』の技も使った。将棋で言う詰めですよ、これ」

「それで、ミーナがやけに憔悴していた日があったのか…」

「たぶん、それがとどめになったんじゃねーか?」

「言えてる。ケイ先輩、記憶が戻ってからは。とかく暴れん坊で、ストナーサンシャインも撃ったって言うから。あたしたちの覚醒が数日でも早かったら、発狂してたかも」

「ショックが大きすぎたのさ。あんたが査問で味方しなかった上、自分の作った部隊の空気を刺客から守ろうとしていたのが、全ては自分の勘違いで、扶桑軍の構想をものの見事にぶっ潰した格好だ。転生者を各地に派遣して、部隊の教官にするはずが、あの人が早合点で冷遇したことで頓挫して、逆に『一箇所に集める』事が決議された。その部隊の名に64戦隊の名が使われた。扶桑より、カールスラントのほうが『名の重み』を理解してたのは皮肉なもんだぜ」

シャーリーは江藤の置き土産といえる、『事変当時の黒江達の公式戦果判定の過小さ』を皮肉る。江藤にしてみれば、『仕事はきちんとしたのに、人事部のミスのせいで、後輩に嫌味は言われる、皮肉られる…』だが、結果的には江藤の行為がミーナの行った『冷遇』の一因であるので、シャーリーを始めとして、部隊幹部級の地位にいるGウィッチたちからは度々、そう皮肉られてしまう。江藤が後世に『苦労人』との評価をいただくのは、軍隊階級は高いが、転生者達の間での序列は微妙に上位とは言えないポジションであったからである。

「そうか。最初はそんな計画だったか」

「ああ。ところが、ミーナさんのせいで、転生者を分散配置して、教官にすることのリスク面が浮き彫りになったんで、『強いのは保証されてんだから、一箇所に集めておく』方向に転換したんだ。扶桑の強い人達の多くは転生者だってわかったからな。その方が活用できて、上も楽だってこった」

「それを源田大佐は利用したのか?」

「結果的にそうなっただけさ。ある種の既定路線だったようだけど、日本側が44JVを超えろって言うもんだから、予定よりエースと古参を集めたけど、それが寄ってたかって、転生者だっただけさ。だから、まったくの新人もいるってところを見せるのが、政治的に必要だったのさ」

この時期に新人であるのは、当時に飛行学生課程を終えたばかりであった『雁淵ひかり』、兵学校在籍中であったが、前線の人員不足のため、実戦研修の名目で現地にいた『服部静夏』であった。この二名は史実と状況が完全に異なってしまった都合上、本来であれば、501統合戦闘航空団、ひいてはその後身である『64F』と関わることはなかったのだが、広報部が『日本向けの人員募集ポスター』を作成するにあたり、『日本で知名度がある若手ウィッチ』ということで64Fのもとへ呼び寄せられた。そのために呼ばれたというのは、上層部も気まずいため、『まったくの手ぶらでは帰せない』と判断した。ふたりの故郷では盛大に出征式が行われたというのは把握しているからである。

「それで、まだ兵学校にいるはずの服部や、まだ新人である雁淵の妹が偵察中隊に?」

「手ぶらで帰せないでしょ?写真を撮影するだけに前線に来させた〜なんて、スキャンダルものですからね。それで、偵察中隊で鍛えてみることになったんですよ、あの子たち。素質はあるようだし」

「素質だと?」

「ええ。芳佳がこんなモノ持ってるんで」

「野比氏の世界でのアニメのDVDだと?……ブルーレイではないんだな」

「高いんですよ、ブルーレイは。大容量光ディスクなのに、二話しか入ってないとかはザラだし」

「画質いいけど、専用再生機いるとかのめんどくさい点もあるから、普段見は映像配信サービスで済ませて、保存用だけにディスクを買うって奴もいるぜ」

「なるほど、そういうわけか」

DVDのブックレットを見て、坂本は今回の歴史で何故、静夏とひかりが自分の部隊に関係したのか?その謎を解いたようで、微笑んだ。

「そういうこった」

「宮藤はなぜ、これを持っている?」

「元はのび太のカミさんが『結婚したし、外聞的に、目立つところに置けなくなったから、預かっててくれ』って言って、宮藤に預からせたんだよ。あいつの部屋見てみろ。そのDVDがたんまりあるから」

「野比氏の奥方はアニメ好きなのか?」

「21世紀の若者はTVアニメが生まれた頃からある世代だからな。あたしらも、前世じゃそうだったよ」

「ええ。日本のアニメは多種多様な内容のがあるのが強みですからね。だから、芳佳や先輩が本当は辿るはずだった『一つの道』が別世界じゃ、アニメって形で知られてるんです。ま、日本が戦艦大和に思い入れ強いのは、経緯的に仕方ない点があるんですけどね」

「黒江に見させられたよ、その手の戦争映画は。だから、改良に口を挟んできたのも知っているさ。元々、大和型は高速で敵を翻弄するような設計思想ではないんだがなぁ」

「仕方ないさ。ビスマルクの華々しい戦闘もあって、大和型は速度不足を謗られてきてたんだ。だから、未来技術で確実に30ノット超えの速度を出すようにしたり、航行安定性の向上や防御力強化のために、全長と全幅を敢えて大きくしたのさ」

「戦艦は艦隊の旗艦や主力として使うから、足が速いだけでは務まらないんだがなぁ。金剛もそれで退役したし。確かに高いレベルで韋駄天と打たれ強さを両立しているのが望ましいが、艦隊行動が前提なんだから、戦略的には個艦単位の最高速などは意味はないんだが…」

「そんなの、大衆にわかるはずないだろ?」

シャーリーの言うことは的を射ている。大和型は足が遅いことが兵器としての純粋な評価を下げている要因であることは、21世紀では『子供のおこづかいで買える本にも載っている』が、用兵上の都合などは知ったこっちゃないというのが実情。竣工時から、その造形美で『海軍の至宝』と言われた大和型戦艦。艦娘・大和と武蔵に世話になった事がある坂本は、大和型への辛口評価が不服なようであった。ただし、制空権があり、船体強度と装填速度、電子兵装でのネガ要素が無くなり、なおかつ純粋に艦隊決戦に用いられれば、大和型は強靭な防御力と強大な火力で戦場に君臨できる事は証明されつつある。そこが坂本には救いだったと言える。



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