外伝その439『綱渡り3』


――のぞみとシャーリーはダイ・アナザー・デイが山場を迎えた頃には、コンビ扱いされていた。士官学校卒の軍人を素体に覚醒している事、元から訓練を積んでいたのを引き継いでいるので、銃器の扱いに感覚として慣れている事は、この時期においては強みであった。現役を終えている状態からの転生であるため、チームを超えた合体技も撃てるわけだ。当時の日本連邦は発足から間もない上、日本側が戦力提供を露骨に渋っており、連合軍の陸上・航空兵力に多大な損害が生じていることにも冷淡であったため、連合軍の猛抗議に困惑していた――



「技術は提供するから……ライセンスもどしどし発行するから…」


日本は兵器のライセンス発行と技術提供を約束したものの、省庁内部の反戦派の妨害で遅々として進まず、結局はGフォースという形での『目に見える』貢献で連合軍を宥めるしかなかった。この時に緊急で、現地部隊がキングス・ユニオンの新戦車『センチュリオン』や『コンカラー』、カールスラントが撤兵時に残していった『ティーガー』系列と『パンター』を系列を大量に購入し、戦線で使用し始めた。弾薬も大量に残っているからで、扶桑固有の従来型戦車が回収されてしまった故の仕方がない緊急措置だった。この時にティーガーとパンターは扶桑軍によって活用されたものの、より高性能な『M26重戦車』が現れたことで陳腐化。ドイツ連邦はこれに量産初期の低率生産中だった『ケーニッヒティーガー』(俗に言うティーガーU)、『パンターU』(ウィッチ世界では、E-75の制式採用名)の提供で応え、ウルスラ・ハルトマンの反対と裏腹に、敵味方共に技術の加速は既に始まっていたわけだ。






――M4中戦車は連合軍、リベリオンの主力戦車として大量に投入されたが、無尽蔵に投入できる敵と違い、数週間の戦闘で保有するM4を殆ど使い切ってしまった。困った連合軍はM26の発展型たるM47パットンの投入を決意しつつ、M48の開発を決議したが、当座の主力を供給の目処が立っている『センチュリオン』と『コンカラー』にすることとした。これはブリタニアによるアフターサービスが可能なためだが、ダイ・アナザー・デイ時点で初期型ならば、すぐに生産が可能という利点があったからだ。ただし、備砲の早晩の旧式化が懸念されたため、日本連邦は『ロイヤル・オードナンスL7』を装備する後期型に独自にアップデートした。日本が同砲のライセンスを持っていたため、そのライセンスを扶桑へ拡充した形だ。ブリタニアも早期にセンチュリオンマーク3(20ポンド砲装備)を制作。こちらがブリタニア陸軍の主力となった。とは言え、ブリタニア本土はそれなりに打撃を被っていたため、生産は捗らない。日本連邦はこの頃に稼働が始まった地下秘密工廠をフル稼働させ、損失分の補充を兼ねて、センチュリオンの最終型である『センチュリオンMk.13』を生産。ガルダ級やミデア輸送機で空輸して配備を始めていたが、定数を満たすのに時間がかかるため、戦線の主力は実質的にスーパーロボットであった。――





――未来世界で試験的に制作されたゲッターロボD2。ゲッタードラゴンの量産の試みの過程で試作されたもので、制式量産の暁には、機体スペックをかなり落とすとのことだが、64Fの人員は『常人を超える頑丈さ、ゲッター線への高い親和性』があるため、ゲッタードラゴン級のの性能を概ね維持している特別な個体が制式量産型と別に制作されていた。ダイ・アナザー・デイには間に合わなかったが、その後の太平洋戦争で戦力として用いられる。その前段階に当たる『量産型ゲッタードラゴン』はダイ・アナザー・デイ中に完成が間に合い、敵への揺動に使用されていた――







――量産検討機とはいえ、試作機であるために後の量産機より格段に高性能であり、デモンストレーション用にオリジナルと同様のヒロイックなカラーリングが施された個体が圭子の手で投入されていた。ゲッターノワールとブラックゲッターの技術で『搭乗者が一人でも、平常通りのパワーを発揮できる』ようにされている。圭子は作戦前、その機体で艦隊戦に加勢しており、連合艦隊に逆襲をかけようとしていた高速艦隊(アイオワ級戦艦が主力)を蹂躙していた――



「撃て!撃て!あのロボットを倒すんだ!!」

リベリオン軍の巡洋艦たちがその備砲を必死に量産型ゲッタードラゴンに放つが、巡洋艦程度の艦砲では、複数で集中砲火を浴びせても効果は無く、ドラゴンの手のひらで砲弾を弾かれる有様であった。

『さて、巡洋艦の諸君。死にたくなきゃ、とっとっと降伏するんだな。でないと――」

圭子は旗艦と思われるアイオワ級戦艦へゲッタービームを放つ。アイオワ級戦艦の装甲には対怪異のビーム対策が施されてはいたが、ゲッタービームはそれと比較にならない威力を持つため、アイオワ級戦艦の装甲はゲッタービームの熱量に耐えられずに瞬く間に溶解し、甲板に大火災を起こす。次いで命中した司令塔だが、防護する439mmの厚さの装甲も無意味であり、司令塔への数秒の照射で全体が赤熱化し、内部の人間は生きていられない温度に内部が加熱される。やがて、鉄の溶解温度に達したか、司令塔が飴細工のように崩れ落ち、艦は機能を事実上、喪失する。


『こうなる。降伏したほうが身のためだぜ?』

リベリオンの巡洋艦たちは日本艦と違い、魚雷装備やミサイル装備を有さない。主砲が何ら通じない敵である以上、戦っても無駄であることを悟り、甲板に出てきた乗員が白旗を揚げる。なんとも原始的だが、ウィッチ世界では『旗をマストから下ろす』風習が(人同士の海戦が、久しく行われていなかったため)なかったための緊急措置である。人型機動兵器は艦艇の死角を容易く突けるため、こうした示威行動にうってつけであった。








――この頃、地球連邦はジオン共和国との和解を急いでいた。共和国としては、国の存続のため、ネオ・ジオン残党のこれ以上の蜂起を防ぐためであったが、その努力も虚しく、第三次ネオ・ジオン戦争がデザリアム戦役と平行して起こってしまう。ネオ・ジオンは別の組織であると共和国が主張したくとも、ジオンの旧支配層の最後の生き残り『ミネバ・ラオ・ザビ』を抱え込んでいた都合上、残党にとってはジオン共和国こそが『偽りの国』であり、共和国民の虐殺すら厭わない。それが共和国の寿命を縮めたのは否めない。一部の強硬派が多数派を道連れにする、あるいはした構図は『ヒーリングアニマル』がある世界で辿ってしまった道とも共通する。神々にとって、人は『時天空』という存在を倒すための兵器である。その進化は『神殺し』も想定内であり、星の意思から生み出された『ヒーリングアニマル』であろうとも、敵対すれば淘汰の対象である。彼等の強硬派が人類の粛清に動けば、たちまちにゲッターエンペラーが顕現する。ゲッターエンペラーは時天空に対抗するために辿りつく最強のゲッター。時間軸すら無視して干渉できる力を持つため、味方側からも畏怖の対象になっている。ゲッターの力は進化を司るため、マジンガーZのプロトタイプをマジンカイザーに進化させ、ゲッタードラゴンをゲッターエンペラーにまで進化させる。その事を知っている者達は『ゲッター線に自制を覚えさせる』事を目的とする。ゲッターエンペラーに自制を覚えさせるには、その意思になると思われる人物――初代ゲッターチームのリーダーたる流竜馬――に自制心を覚えさせるしかないのだ。それは歴史上の難行苦行並の困難であった――








――地球連邦軍はISやコンバットスーツなどが属する『パワードスーツ』の関連技術が統合戦争で、一度はほぼ失われ、それを取り戻そうとしている最中だが、ダイ・アナザー・デイ時点では(自前の技術では)満足の行く性能のモノはできなかった。そのため、既存の人型機動兵器をガリバートンネルで人サイズに縮小し、新操縦システムで電子的に人間の五感を機体のセンサーやカメラなどに置き換え、擬似的に『パワードスーツ』的な運用をする方法が暫定的に取られた。これは地球連邦軍なりの代用策であった。その栄えある第一号がガンダムスローネドライである。外見はアニメそのままだが、動力は通常のミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉であるし、フレームと装甲も最新のガンダリウムε合金(ガンダリウムγの後継となる次世代のガンダリウム。元々は核パルス推進エンジンの構成部材に使用予定の合金で、グリプス戦役の開始頃から開発が長期計画で続けられていた。ハーロックやクイーンエメラルダスの技術供与で、ついに実用化に至った)で構成され、その強度は華奢な見かけと裏腹に高い。精錬技術の進歩もあり、従来のガンダリウムガンマの数倍もの強度と耐久性を誇るという)である。これは『大量生産が可能なガンダリウムの設備で製造できる、ガンダニュウム合金に匹敵する性能の部材』を目指したためで、同合金の性能に肉薄しながらも大量生産が可能である――










――艦隊戦は連合艦隊の圧倒的優位で推移した。敵はごく一部に46cm砲を搭載していたが、連合艦隊の主力は更に上回る51cm砲、56cm砲を有していたためだ。未来技術で装填速度を改善した50cm砲その他の威力は凄まじく、通常の艦艇に当たれば、一撃で船体構造そのものに打撃を与える。二トン以上の重さの砲弾が雨あられのように降り注ぐのだから、当然である。ミサイルで空母の甲板に火災を起こした後に、意気揚々と突撃した戦艦部隊の威容は日本側に驚きを以て迎えられた――









――扶桑連合艦隊の新鋭戦艦である『播磨』、『富士』型は大和型戦艦を未来技術で強化、洗練した艦型である。元々、M動乱で遭遇した『H級戦艦』の一群に対抗するために贅を尽くし、『本格戦闘』用に設計された。大和型戦艦はウィッチ世界では『自衛能力のある海上司令部』兼『浮き砲台』として設計されていたため、播磨以降の戦艦こそが真に『本格戦闘用』の大戦艦である。大和型戦艦の増強に艦政本部が反対した理由もそれである。つまり、ゲッターロボに対するゲッターロボGのような位置づけだ。戦闘での実際の主力は播磨型であった。富士は移動司令部を兼ねていたため、積極的には発砲しなかった。だが、56cm砲の威力は他の戦艦をおもちゃ扱いできるものである。こうなったのは、日本側が史実通りの『改大和型戦艦』の予定諸元を否定し、整備予定の戦艦を全面強化型の『超大和型戦艦』の一本に絞ったためでもあり、世界最大最強の座を維持するための方策であった。超大和型戦艦ともなると、他国は保有に興味を持たないケースが当たり前であった。建艦にあたり、莫大な資材を使うからで、扶桑は宇宙戦艦用の特殊資材を使うことで在来の金属資源の浪費を免れたからこそ、短時間での艦隊編成に成功したのだ――











――この超大和型戦艦が主力の艦隊に恐れをなした連合軍だが、同規模の戦艦の自前での保有は資材消費や維持費の問題で不可能に近く、日本連邦発案のニューレインボープランに列強諸国の海軍が飛びつく理由となった。しかし、半数以上が一旦はキャンセルされるが、太平洋戦争で二カ国連合の覇権が確定するに至るのを阻止すべく、各国はこぞって購入する。1945年時点で受け取りを予約していた国は列強諸国の中でも、海軍増強に興味があるか、かつての栄光を取り戻すために必死になっている国であった。ミサイル兵器が怪異に対して、さほどの優位を持たない事が判明してからの購入になるため、一次生産分を当初の予定通りに受領できた海軍は指で数える程度であった。超大和型戦艦という『怪物』は怪異への優位を約束するだけでなく、後に訪れる『冷戦時代』において、史実の原子力潜水艦や原子力空母のような『戦争抑止力』として機能していくことになる。――


「日本連邦は……なんという怪物を造りあげたのだ」

ブリタニア連合王国首相であり、現在はキングスユニオンの『円卓会議』の議長職にあったウィンストン・チャーチルは扶桑の統合参謀本部での『連合軍の方針決定会議』に出席していたが、超大和型戦艦の威容に腰を抜かしていた。クイーン・エリザベスU級すら遥かに凌ぐ超戦艦であるからだ。大和型戦艦の時点で『規格外』という声があったが、超大和型戦艦は『核兵器による攻撃にも耐える』のを命題にしたため、外宇宙航行用の宇宙戦艦で使われる資材を使ったのである。51cm砲の時点で充分に大威力であり、旧来型の戦艦のすべてを『たった数発で』戦闘力半減にもっていく火力を短時間で叩き込めるからだ。如何な他国の戦闘艦艇を数発の命中で廃艦に追い込めるという事は、ブリタニア海軍首脳に強い恐怖を呼び覚ました。だが、当時の各国には、播磨型にも『対抗できる能力の戦闘艦艇』を造り出す余裕はなかった。

「貴国はなぜ空母を軽視したのです、チャーチル首相閣下」

「仕方あるまい。我が海軍の空母機動部隊はあって、ないようなものだ。空軍で大抵はどうにかできたし、強大な空母機動部隊を持つ敵などは想定できなかった。それが今になって『戦艦を廃棄してでも、造れ』などと言えば、海軍を割ることになる。この世界では、ミサイルが艦砲に取って代わる事はないだろう。怪異には、ミサイル兵器は有効ではない」

チャーチルのこの読みは正しく、ミサイル万能論はウィッチ世界では、史実ほどの隆盛は起きなかった。ミサイルは高性能化していくと、一発につき『一軒家が買える』金額が飛んでいくため、日本連邦では戦艦の価値が復活した。戦後に模索された『アーセナルシップ』より却って安上がりということもあり、戦艦は生き延びていく。人型機動兵器は日本連邦、リベリオン合衆国の特権であったためでもある。また、航空戦力もブリタニア/英国のキングス・ユニオンの財政難と空海軍のいざこざで整備が遅れていくため、日本連邦の強大化が加速される。

「我が国には、世界を担えるほどの力はもはやあるまい。貴国はこれから、この世界の安全保障を担うことになる。それは覚悟しておき給え」

「なら、クイーンエリザベスU級をなぜ?」

「欧州の秩序の担い手である以上、戦艦は維持せねばならんのだ。君等の世界のアメリカ合衆国が原子力空母と原子力潜水艦を維持しとるようにね」

チャーチルのいう通り、物理的な戦争抑止力という概念というものを日本は理解していないが、扶桑は大和型戦艦をそれにするつもりであった。だが、建艦競争でそうもいかなくなったため、超大和型戦艦を整備したわけだ。原子力空母や原子力潜水艦比では安上がりであるからだ。

「我が国の実状的に、空軍の台頭は避けられんし、予算の取り合いで、今以上の航空戦力の増強は難しい。更にジェット戦闘機への根本的な転換には時間がかかる。だから、貴国は否応なしに空母機動部隊を整備するしかないのだ」

「身勝手ですな」

「貴国しか、まともに空母機動部隊を持つ国がない以上は仕方がないことだ。ジェット戦闘機が如何に空母機動部隊を革新させると言っても、それを受け入れる超大型空母の建造と維持には莫大な金がいる。その余裕は貴国にしかないのだよ。五輪を開くのを容認する見返りに、技術援助でもしてくれんと」

チャーチルは資金援助、五輪開催の容認の見返りに軍事援助を日本連邦に要求したと明らかにする。キングス・ユニオンはこの頃から、日本連邦に機甲兵器を供与しつつ、カールスラントから陸軍大国の座を奪ったが、それはカールスラントの政情不安を招き、結局は救済措置でカールスラントの軍事的復興に道筋をつけることになる。また、チャーチルの言葉から、『史実のような規模の空母機動部隊は持てないから、お前らが代わりに持て』ということである。ブリタニアの国力は消耗していた上、空母=ウィッチのコマンド母艦も同然の状況であったため、建造数も少なかった。そこからの転換には長い時間を要することから、チャーチルは大規模空母機動部隊の保有を半ば諦めていることがわかる。

「それは小官としてはお答えできかねますが、上にその旨を伝えておきます、閣下」

「うむ…」



――日本連邦はこの時期、蒼龍型空母が史実の翔鶴型の線図で作られていたことを知り、慌てて改装を決定しつつ、翔鶴と瑞鶴を『翔鶴型』として独立させ、大鳳を翔鶴型三番艦と扱うことにした。大鳳型の増産は一律で中止、次期空母は超大型空母とするなど、軍備管理を評議会のコントロール下に置いた。だが、これに不満を持つ扶桑の青年将校たちが後に反乱を起こしてしまう。扶桑でのウィッチの権威はダイ・アナザー・デイのサボタージュをきっかけに失墜してしまうわけだが、政治家に嫌われたのは『ウィッチ以外を戦力と見做さない』高慢な態度が理由なので、自業自得感は否めなかった。ウィッチ以外の対抗手段を認めた上で、その技術を習得する者が『軍ウィッチの誉』とされる流れが確定したのも、ダイ・アナザー・デイの時期である。64Fの一騎当千の者達は、あくまで『突然変異』的に現れた超人。軍全体の人員の質を向上させたいというのが、この時期上層部の願いだったが、結局、急激な軍備の近代化や教育体系の変化を認めない将校達の反乱がとどめとなるが、現場と上層部の思いの齟齬も大きくなっていた事がミーナの一件で明らかになった。ダイ・アナザー・デイの戦場を経験したウィッチの多くは機材を持ち出した上で除隊してしまったので、軍部は結局、ウィッチに頼れなくなった。それが軍備の全体的な近代化を促進させていくという皮肉が起こるのだ。Gウィッチたちはそんな情勢における『清涼剤』であることが求められたわけだ。ダイ・アナザー・デイは『物量で対抗できないから、質で対抗する』戦いで推移し、『少数精鋭の部隊が戦局を動かす』ことを決定づける。501統合戦闘航空団が史実で果たす役目そのままの出来事が起こっている――

「こうなっては、皮肉にしか聞こえんかも知れないが……501が『本来の歴史で果たす役目』を64Fは担っている。君らの役目はそれを邪魔せんことだ」

「閣下」

「それに関連するが、貴国の海軍航空隊には呆れたよ。戦果を挙げた人員を公に表彰せんとは。個人感状も出さんのかね」

「お恥ずかしい……。海軍の勝手な言い分ですので……」

扶桑海軍航空隊はこうした会議の場で他国の首脳に揶揄されるほどに、集団による同調圧力が強かった。坂本がこの時期にこだわっている『芳佳の海軍残留』が成らなかった理由も、この 海軍の風習が原因である。とは言え、陸軍にも集団至上主義が蔓延っていたため、江藤の後継者である武子も時代に合わせての意識の変化を余儀なくされたのだ。

「規則に書くべきだな、貴国では、規則絶対の風潮があるからね。だから、日本は不況から自力で抜け出せなかったのだ」

「そうします。一度の成功にすがりやすいのが我が国ですからな。失敗から本質を学ばない」

「一方の視点で物事を見すぎなのだよ、君等は。我々とて、そのような先入観があるのは認めるがね……。だから、アメリカ合衆国との戦争で退き際を誤るのだ」

チャーチルは日本人にありがちな『集団心理』の負の面を鋭く突いた。実際、江藤もその心理で部下の戦果を過小に報告した(あくまで当時の陸軍の慣習に従っただけであるので、復帰後に『彼女に責任はない』とされているが)がため、後年に禍根を残してしまった。武子も若い頃はジャーナリズムの宣伝嫌いであったが、今では自分がその担い手であった。

「君等は史実の失敗で責め立てるのは得意だが、いざ自分たちがやる時になると、いいわけする者が多い。これでは、国が有事に弱いことを露呈しているも同然だ」

葉巻を蒸しながら、チャーチルは言う。史実で第二次世界大戦の難局を乗り切った手腕を垣間見せる。1945年当時で既に70代の老人であるチャーチルは『老獪』という表現が似合う『昔にいたタイプの老人』である。

「想定外だのは、有事には有用せんよ。君らはこの世界を見ることそのものが勉強になる。励み給え」

「恐れ入ります」

――チャーチルが一介の自衛官に言ったこの言葉通り、ウィッチ世界は壮大な『実験場』も同然の状態になっていた。この頃には『作戦後』を見越しての動きをウィッチ世界の各国が取り始めていたのも事実である。作戦後に連合での主導権を握るであろう、日本連邦に媚を売り始める国が出始めている。そんな中、独自路線を貫こうとしたガリア共和国だが、国土復興がすべてとする派閥が台頭したため、軍備刷新も上手くいかないままにアルジェリア戦争へ突入し、日本連邦に為す術もなく敗れ去ってしまうわけだ。欧州の二強が衰退する中、扶桑が世界史の主役に躍り出ていくわけだが、その最初のきっかけはというと、後世のウィッチ世界の人々はこう答える。『ダイ・アナザー・デイ』作戦での主力を担ったことだろうと――












――同じ頃、各地に散っていたスーパーロボット達もイベリア半島へ向かっていく。その筆頭格の一つである『二代目ゲッターチーム』(一文字號、橘翔、大道剴)の駆る真ゲッターロボは特に注目されていた。圭子が真ゲッターロボの象徴である『ストナーサンシャイン』を予てから『決め手』として使っていたからである。ミーナの処分が部内で内々に通告、正式に処理がなされた事が知れ渡るにつれ、カールスラント軍の『権威』は失われていく。特に、アフリカ戦線で轟いていた圭子の勇名と武勇を知らないという『あるまじき失態』はカールスラント軍の座学教育のあり方までを揺るがした。『あのような大技でアフリカ戦線で名を馳せていたのに、なぜ知らないのか?』と、新聞に面白おかしく書かれてしまったからで、ミーナにとっての不遇時代が幕を開けた。元々、偉大な音楽家であったバッバの血を継ぐ一族である故に、元々は歌手志望。代々が軍に無縁な家系であった上、ウィッチへの覚醒後、戦局の悪化した時期に志願したために座学を殆ど省略して軍務についた。そのことに関連し、過去の戦役に無知なところが露呈してしまった上、個人的な嫉妬と上層部への猜疑心で、黒江達に『意地悪』をしたら、逆に自分が失脚寸前に追いやられた。501の設立以来、上層部のパワーゲームに振り回されていたために同情の余地はあったが、近年の扶桑での最大の英雄に無知か、それに近い状態であった事は司令部の心象を悪化させた。人格が入れ替わる直前、ヒステリックに『真ゲッターロボへの呪詛』を吐いていたという目撃証言があったように、ストナーサンシャインの光は本来の運命を彼女から奪ったが、シャインスパークの光が彼女の新たな運命を切り開いたという点で『ゲッターに翻弄された者』と言える。真ゲッターロボはカールスラントの権威の没落を間接的に引き起こしたため、カールスラントには心情的に嫌われている。その一方で、型落ちのゲッターロボGが好かれるなど、(日本連邦からすれば)不可解な現象が起こっている。『シャインスパーク』の存在が理由であろう。ストナーサンシャインがミーナの『運命』を狂わしたのなら、シャインスパークは新たな道を示す光。ミーナの人格の変化にその二つの技が関わっていた事もそうだが、真ゲッターロボの異形じみた姿に、カールスラント人は『悪魔』を連想させる一方、正統派の戦闘マシンのゲッターロボGに『騎士』を連想したらしい。ダイ・アナザー・デイ時点でゲッターの開発・戦闘指揮が主務となっていた『神隼人』は『真ゲッターはたしかに悪魔を思わせる外見だが…』と苦笑いしたという――



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