2186年12月、ユートピアコロニーに外接されている宇宙港においてヒミコとアキトは
ミスマル家とオニキリマル家に別れを告げていた

ユリカの父親であるミスマル・コウイチロウが地球の極東軍の転勤することになったのと
シルヤ・オニキリマルがアスカインダストリー主導の下、建設中の新型コロニーに移住することになったためである

「アキト、絶対だからね、絶対また会おうね、約束だよ」

「ユリカちゃんずるい、私も約束だよ、また会おうね、アキト君」

「うん、また会おう」

ユリカとカグヤに囲まれつつ、再会の約束をするアキト

二人に強く抱きつかれ、倒れそうになっていることを除けば感動的な場面だろう

影からこっそりとユリカとアキトの仲を応援しているヒミコにしてみれば
ユリカとアキトがくっついているのは嬉しいのだが
カグヤちゃんまで一緒になっているのがまだ恋愛になっていないことを表しているようで少々残念であった

もちろん、『影からこっそり』というのはヒミコの主観であって、
アキトなどからすれば『やたらと自分とユリカを一緒にさせようとする』ということになるのだが

だが、そんな中、

「約束だよ、アキトはユリカの王子様なんだから」

ユリカが無邪気に言った言葉が、ヒミコの胸を抉る

そう確かに、アキトは私の王子様になってくれた

残り少ない自らの命さえ削って、私を助け出してくれた

でもそれは、幼いころ夢見ていたようなものではなく・・・・・・


「大丈夫ですか、なにやら顔色が悪いようですが」

突然沈み込んでしまったヒミコを心配してコウイチロウが声をかける

彼にしてみれば、ヒミコは亡くなった妻に似すぎていて放ってはおけないのだ

「え、ええ、大丈夫です」

傍から見れば明らかに大丈夫とはいえないような状態だが、
そう言われてしまってはコウイチロウも引かざるおえない

「休憩室に案内しましょうか?」

ヒミコの様子に気がついたシルヤも心配して尋ねるが、
ヒミコは儚げに微笑んで大丈夫ですからと言うのみだった

そして、本人が気づかぬままヒミコの心を沈みこませたのもユリカなら
それを引き上げさせたのもユリカであった

『また、会おうね』という指きりが終わったとき、これで離れ離れになってしまう寂しさを紛らわすためか、
それとも単純に再会の約束が嬉しかったのか、ユリカがアキトめがけてダイブしたのだ

突然のユリカの凶行にアキトが耐え切れるはずもなく転倒、それにより頭部や背中を地面にしたたかに激突させ
さらにユリカの全体重を受け止めることになり、アキトは気を失ってしまった

ヒミコなど大人たちにしてみれば、ゴチン、と非常に痛そうな音がしたのでそちらを向くと
ぐったりしているアキトの上にユリカが乗っかっていたというわけである

他の大人たちが慌てているなか、ヒミコは一人呆然と、しかし楽しげに笑っていた

自分も昔、全く同じことをアキトにして親に起こられたのだ

そのことを思い出すと悩んでいたことが馬鹿らしくなって、不思議と先程までの沈んだ気持ちはなくなり

自分がそうならないように努力すればいいのだ

そう、かつての自分のように前向きに考えることができるようになっていた


その後、ヒミコがアキトを病院に連れて行くために別れを告げ、三つの家族はそれぞれの目的地へと向かっていく

再びユリカとカグヤ、アキトが出会うのは、蜥蜴戦争の最中になる

九年以上に及ぶ長い別れの始まりであった






そして時は流れ、2188年4月
ユートピアコロニーの工業地区で、ミルキーウエイの造船ドック完成及び、
新型輸送船、新型探査船の建造開始記念式典が行なわれていた

前年に開発したディストーションフィールド発生装置及びその派生である反重力推進装置がもたらした影響、

具体的に言えば、
ネルガルが撤退したことにより二の足を踏んでいたマーベリック、クリムゾンのロストシップ研究への参入、
クリムゾンのバリア兵器の相対的な衰退、
前々年の相転移エンジンとあわせた、船舶の第三世代(※)への移行
ビーム、レーザー兵器が無力化されるという、軍事技術における革命的な変化
ミルキーウエイの社会的な地位の飛躍的な向上などにより

式典には前々年の一周年記念式典とは比べ物にならないほどの来客が訪れている

それはある意味で産業界におけるミルキーウエイの重要性を示すものだった



「まさか、ミルキーウエイがここまで急速に成長するとは思っていませんでしたよ」

式典に訪れていたアスカインダストリー社長シルヤ・オニキリマルは
ミルキーウエイの社長であるヒミコ・テンカワを見つけそう話しかける

「アイさんたち研究者たちががんばってくれたおかげですよ」

それに対して誇らしげにヒミコが答えた

「ところで、どうして造船部門を新たに立ち上げようとしたんです

正直な話、私にはあまりミルキーウエイのメリットが思いつかないのですが」

いまさらなんですがね、そう言いながらシルヤが尋ねる

「一番将来性がある事業だと思いまして

相転移エンジンにより無限の航続距離を手に入れ、
ディストーションフィールドにより外界からの守りを手に入れた宇宙船

これが何を意味するかお解かりでしょ」

それは外宇宙に憧れたことがあるものなら、誰もが一度は想像する夢

未だ、人類が地球上に留まっていた時代からSFやスペース・オペラとして考えられ続けてきた出来事

「スペース・アドベンチャーですか」

苦笑しつつ、シルヤが呟いた

宇宙における未知への冒険、居住可能な惑星の発見及び開発、資源の発掘

火星で行なわれたテラフォーミング以外、未だ想像の域を出ていないスペース・アドベンチャーだが
相転移エンジンと搭載しディストーションフィールドを装備した船舶なら可能だろう

確かに、将来性において最も重要な要素であるフロンティアは無限に広がっている

「ええ、そうです
数十年先のことを考えた時、最も安定性が高いという十分なメリットがあります」

それは、木蓮にいく必要があるというヒミコの個人的な事情をカモフラージュするために
考え出したことであったが、このように語られると不思議と信憑性があった

「いやはや、まさかそんな先のことまで考えているとは
さすがテンカワ夫妻に意思を託されただけのことはありますな」

その言葉は、企業家としてのおべっかなどではなく、
テンカワ夫妻の友人の本心として素直をシルヤの口から出ていた

彼としても、友人であったテンカワ夫妻の意思を継ぐ企業が
継続して発展していくということは嬉しいことなのだ

「いえ、そんな褒められることじゃないですよ
貴方とて、テンカワ夫妻の意思を継いで色々と活動なさっているじゃないですか」

ヒミコが言ったことは二つとも事実である

ヒミコにしてみれば、無限のフロンティアが広がっているという理由は、
いわば本音を隠すための隠れ蓑であって、それを褒められるというのは、
何というかもどかしく、実際、褒められた気がしないのだ

またシルヤ社長がテンカワ夫妻の意思を継ごうとしていることも
彼が精力的におこなっている遺跡の研究チームにおける企業ごとの調整などから窺い知ることができた

「いえ、私には利益を上げていたロストシップを他企業に開放するなどといったことはできません
たぶん、私のように企業に縛られている人間はそういうことについて考えることさえしないでしょう
そういう意味では、貴方のような人がテンカワ夫妻の意思を継いでくれて本当に良かったです」

企業に縛られている人間、そう自らのことを評した時の彼の表情は自虐的に歪んでいた

あるいは、彼は自分がアスカインダストリーの社長になることで失ってしまった自由を
未だに持ち続けているヒミコに対して憧れに近いものを持っていたのかもしれない

そんなことないですよ、とヒミコが謙遜しているとそこへ一人の男性がやってくる

「お久しぶりですな
こうして会うのはロストシップの共同研究が決まった時以来ですか」

マーベリック社、火星支部長レベロ・クブルスリーであった

「まぁ、社の代表が揃うなんてことは滅多にありませんからね」

「それはそうだ」

そういってシルヤとレベロは軽く笑いあう

「ヒミコさんもお久しぶりです
貴方のような人がレビア・マーベラスの再来などと騒がれるものだから、我が社としても鼻が高いですぞ」

レビア・マーベラスとは、、マーベリック社の創始者であり、
女性の身でありながら一代にしてマーベリック社の基礎を固め上げた女傑である

そしてミルキーウエイを創立三年という短い期間の間にここまで大きな会社にしたヒミコのことを
マスメディアがレビアの再来と謳ったのだ


「ところで、お二人が話していたということはひょっとしてフガク関連ですか?」

三人で一頻り世間話をした後、レベロが尋ねてきた

表情こそ先程までと全く変わっていなかったが、雰囲気が企業家のそれに変わっている

「違いますよ、ただ世間話をしていただけですから」

苦笑しながら、ヒミコが答える

確かに、世界初の相転移エンジン搭載艦である『フガク』が完成間際であるこの時期に
その建造に共同で関わっている二社の社長が話し合っていればそう見えてしまうのかもしれない

「マーベリック社も相転移エンジンとディストーションフィールド、それに反重力推進装置を組み込んだ
新型艦輸送艦を建設中と聞き及びましたが」

フガクでそのことを思い出したシルヤが尋ねた

アスカは未だに相転移エンジンから反重力推進装置へのエネルギー転換がうまくいっておらず
この段階でマーベリック社に先を越されると少し辛いものがあるのだ

ちなみに、新型輸送船『フガク』は相転移エンジンを積んでいるものの
設計段階のときにはまだ反重力推進装置が完成していなかったために
熱核融合推進装置を改良し、熱核融合の変わりに相転移エンジンを使った
いわば、第二世代から第三世代への過渡期にあたる船舶となっている

「いや、うちもまだまだですよ
何しろ、相転移エンジンやディストーションフィールド発生装置、反重力推進装置を
ライセンス生産したのはいいものの、未だにその理論が解明しきれていませんから
応用なんて夢のまた夢で・・・
建造されている新型艦もミルキーウエイからの技術をそのままノックダウンしたようなものですしね」

「どこの企業も同じようなものですな」

シルヤが納得したように相槌を打つ

「その点、ミルキーウエイはこの造船所でいい船が作れそうですな
何しろ新技術を続々と生み出している本家ですし」

レベロが感心するように言う

若干、探るような雰囲気を漂わせているのはもはや企業家としての性だろう

「うちの場合は、どちらかというと造船それ自体に問題があって
他社から、人員をスカウトしたのはいいんですけど、
会社ごとに規格や作業工程が違っていてその調整がなかなかうまくいかないんですよ
一応、フガク建造で得たノウハウを元にしているのですが
職人さんたちには彼らなりの意地があるらしくって・・・」

ユリカが疲れたように言う

あのプロスペクターが胃薬を飲んだという事実からも造船部門がかなり難航していることが伺えるだろう

「まだまだ、第三世代への船舶の移行には時間がかかりそうですな」

シルヤが苦笑気味にそう締めくくった



やがて、ステージにおいてミルキーウエイが建造予定の新型探査船と輸送船のスペックなどのデータが公開され
その他社を抜きん出ている性能は産業界の重鎮たちにロストシップ、古代火星の技術の重要性を再認識させると共に
彼らにミルキーウエイの技術力を大々的にアピールすることとなる

ミルキーウエイが造船業界にその名を轟かせようとする瞬間であった



その翌日、ヒミコは社長室において見事なまでの書類の山に囲まれ、潰れていた

昨日公表された新型艦のスペックに驚いた他企業が一斉に確認や質問の書類を送ってきたのだ

その中には社長の許可が必要なものも数多くあり、その結果として社長室に書類の山ができたわけである

「ほら、しっかりしなさい
この程度のことで、潰れるようじゃ
木蓮に行って、帰ってくるときなんて溜まった書類の多さに死んじゃうわよ」

アイがからかうように言う

「アイさんも手伝ってくださいよ〜」

ヒミコは涙ながらにアイに訴えるが・・・

「いやよ、私も忙しいんだから」

見事に却下された



「まぁ、でもこれだけロストシップのほうに目を向けさせれば
ポゾンジャンプについては隠せるでしょ」

アイが安堵したように重く呟いた

「そうですね」

ヒミコもアイに賛同する

二人にとってポゾンジャンプというのはいわばアキレス腱なのだ

自分たちが、過去に来て歴史を変える事ができたのもこのポゾンジャンプのおかげではあるが

せっかくアキトを助けた後に、他の誰かが歴史を再び変えてしまったら全てが無に帰してしまう

それは自分たちだけがよければという非常に利己的な思いであるが

それゆえ、深刻だった



ちなみに過去にポゾンジャンプで飛ぶ方法は既にアイによって解明されている

わかり易く簡単に言うと

どんなイメージにも、人間は必ず無意識のうちに時間という概念を入れてしまう

たとえば明るい公園をイメージすればそれは昼間であるし、暗ければ夜であろう

そして、それとは別に人は今、自分がいる時間も無意識の内にイメージとしてもっている

つまり、暗くなった夜に明るい公園をイメージすれば
必ず無意識のどこかで『これは時間が違う』という違和感を覚えることになるのだ

これこそが通常のポゾンジャンプにおいて時間を飛び越えることができない理由である

まぁ、実際には人間は何時何分何秒というところまでの細かいイメージは持っておらず
IFBの補助脳がその部分を支えているのだがこの辺りまで説明するとアイ博士なみに説明が長くなるので省く

これは、アイ博士が逆行前に行なった実験

IFBの補助脳にショックを与え、現在の時間を一時的にわからなくさせた上で、
体感時間をずらし、その間違った時間をIFBに記憶させると
体感時間がずれた分だけポゾンジャンプで未来か過去に移動してしまうことからもわかっている

つまり通常のポゾンジャンプは、体感時間をごまかすことによってできた現実との差しか、時間移動は出来ないので
体感時間をごまかし始める前、つまり過去への移動を計画するより前には絶対にいけないのだ

これではヒミコやアイが過去にいけないことになってしまうが
これが当てはまらないのがランダムジャンプである

ランダムジャンプとはいわばポゾンジャンプの暴走であり、そこに完全なイメージが入り込むことは少なく
大抵の場合において、一部のイメージが欠落することによっておこる

そして、この欠落したイメージが時間だった場合において、大規模な時間移動が起こってしまうのである

ならば、過去に行くのはどうすればいいか?

簡単なことだ

機械的にポゾンジャンプに干渉し、時間のイメージだけを欠落させてしまえばいい
(アイは人為的にポゾンジャンプに干渉することは可能だが、
その場合は時間のイメージだけを欠落させることは不可能になると結論づけた)

このとき注意しなければいけないことは、誤って場所のイメージを欠落させてしまうと
銀河の遥か彼方に行ってしまい戻ってこれなくなる可能性があることだ

そして、時間が欠落したポゾンジャンプを繰り返せばいつかは目的の時代に行くことができるだろう

まぁ、幸いなことにヒミコとアイは一回のポゾンジャンプで上手く二十一年という時間を遡ることができたが


そういうわけで過去に飛ぶことはポゾンジャンプに干渉する装置さえ作ることができれば可能なのである

そのために、ジャンプユニットをそういった干渉が不可能なものとして作り出さない限り
過去への跳躍を行なうものが途絶えることはなくなってしまうだろう

大々的にロストシップを開放し、わざわざ自社製品の性能を公開したのは、その時間稼ぎのためでもあったのだ


ちなみに現段階で火星の遺跡は企業の間ではナノマシン採掘所としてしか認識されていない

ネルガルでさえも、アイが巧みに流した偽情報で、ポゾンジャンプはありえないと判断してしまった


「ジャンプユニットの製作一人で大変だと思いますががんばってくださいね」

それらのことを考えて、ヒミコがアイを励ます

「わかっているわよ
それにあんな思いする人をもう生み出したくないしね」

アイが何かを思い出すように、悲しげに言った



ヒミコが木蓮へと旅立つ一年二ヶ月前のことである






※ 月面探査時代に使われていたロケット推進船を第一世代
火星のテラフォーミング頃から使われ始めている熱核融合推進が使われた船舶を第二世代としている


後書き、というか言訳

とりあえず、最後のポゾンジャンプに関するのは完全に妄想の産物ですので本気にしないように
まぁ、それでも矛盾しているところがあったら訂正するので指摘していただけるとありがたいですが・・・

ちなみに、アイが最後に言った『あんな思い』というのは
自身が記憶を失った時に思ったことや、
お兄ちゃんとあこがれた人が自分より年下になっていることを知った時に思ったことです

それとプロローグ、第一話、第二話で出てきた
『ナ級』、『オ級』というのは『ナデシコ級』、『オモイカネ級』のことですので
わかると思いますが念のために書いておきます

後、今のところこのSSでユリカと誰がくっつくかが決まっていません

(ユリカ×草壁を見たく無いと言われたので・・・・・・)

何か希望がある人がいれば教えてください
(決めないとプロットが十二話で止まったままになってしまいますので・・・)



web拍手返し

>暴露された後なんだからテンカワ夫妻殺しちゃっても意味無いよね、殺した意味あるの?

もしテンカワ夫妻が膨大な量の情報を抱えたままアスカなどに引き抜かれると
ロストシップと遺跡の研究においてアスカに逆転されてしまうことが確実だったために
それを防ぐために事故に見せかけて殺す

というのがこのSSにおけるネルガルの計画で

ただしSSがオリンポス研究所に進入する時にアスカのSSに発見されてしまい銃撃戦が勃発

仕方なく、ネルガルの現場指揮官の判断で強行的にテンカワ夫妻を殺すという手段にでた

というのがこのSSにおける実際の流れです

ですので、この場合ネルガルは暴露を恐れたのではなく、テンカワ夫妻の持つ膨大な情報がアスカなどに移ってしまうことを恐れたわけです
(何しろ、テンカワ夫妻はアスカの社長と親友だったわけですし)

わかり難くてすいませんでした



>文末には句点(。)を打ちましょう。掲示板の書き込みとは違うのですから、最低限の体裁は整えるべきかと。

私は個人的に、時間がかかるし、句点を打とうとすると、どうしても打つべきか、打たざるべきか迷うところが出てきてしまうのであまり好きでは無いのです が・・・
句点の代わりに一行開けているわけですし・・・

とりあえずこの次の話は句点を打ちながら書いてみますが、
もう書き終わってしまっているこの話はこのまま投稿することにします






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