いつものように早朝の鍛錬を終え、いつもの面子+鈴音で朝食をとり、そしていつものように教室に入ったあかり達は、しかしいつも以上に騒がしいクラスメイトの様子に首をかしげた。

「なんかこれに似た光景を俺は知ってるんだが」
「あぁ、なんか鈴音ちゃんが来た日に似てるね」

一夏とあかりが言ったとおり、現在のクラスメイトの様子は、まるで鈴音が転校して来た日のそれにそっくりだった。
まさかまた転校生が来たのだろうかと推測していると、ふとあかりの背中にわずかな重みが加えられる。

「なんかね、一組に転校生が来るんだって、それも二人も!」
「あ、やっぱり転校生か」

あかりの背中からひょっこりと顔を出したのは、本音だった。
いつの間にかそこにいたため一夏は驚いたが、背中に引っ付かれている当の本人はまったく驚いていない様子。

「あ、あかり兄、もう少し驚いてもいいと思うんだが?」
「へ? あぁ……なんていうかね、もう慣れた。だって本音ちゃんこういう場面で毎回毎回背中に引っ付くんだよ」

そうやってぼやくあかりの事など気にしていないのか、あかりの背中に引っ付いている状態だった本音はそのまま背中をよじ登り、なんと肩車の体勢に入ってしまった。
いつもよりはるかに高くなった視界に感嘆の声を上げる本音に、あかりは最早ため息をつくしかない。
しかし、顔では呆れたような、諦めたような表情をしているあかりだが、肩に乗った本音が落下しないようにしっかり腕で本音の足を押さえている辺りきちんと本音の事は考えているらしい。
ちなみに、本来あかりほどの年齢の男性が、実年齢はともかく見た目は明らかに小学校高学年、良くて中学生の、家族でもなんでもない少女を肩車させている光景を他の誰かが見たらいろいろと犯罪のにおいがするものだが、何故かあかりと本音がそれをやってもまったく犯罪には見えず、むしろほのぼのと和んでしまう。
その光景を見て、先ほどまで転校生だなんだで騒いでいた生徒達も含め、一組の生徒たちはこう思った。

「やっぱりあの二人、年が離れた兄妹みたいだな」と。

そんな騒がしさを一瞬忘れた空気は、今度は教室に入ってきた真耶と千冬によって先ほどまでとはまた別種の空気へと変わる。
やはり誰もが出席簿が怖いのだ。
千冬たちが来てなお騒げる勇気を持ったものは、最早一組にはいない。

「はい、皆さんおはようございます。なんだか皆さんも既に知ってると思うのですが、今日は転校生を紹介しますよ。しかも二人もです!」

真耶の言葉に、そういえば女子生徒というのは何処で情報を収集しているのだろうかと傍目には分からないように首をかしげる。
こういった話題のみでなく、さまざまなジャンルに対する情報を、女子と言う存在は何故かいち早く持っている。
この女子間の情報ネットワークの強固さは最早常識はずれといわざるを得ない。

そんな取り止めのない事をあかりが考えているうちに、真耶が早速転校生の一人目を教室に呼び入れた。
彼女に呼ばれて教室に入ってきたのは、長い金髪を大体首辺りの高さで結っている……少年だった。
いや、もしかしたら少女かも知れない。
服装を見ると、下はあかりや一夏と同じようにスラックスタイプの物を着ているが、このIS学園は制服に関する指定がなかなかに緩い。
現にセシリアは他の生徒達がと違いロングスカートをはいているし、鈴音は何故か知らないが肩の部分に大きな切れ込みを入れていると言う具合。
大元が指定されている制服であるなら着こなしや改造自由自在なのだ。
ならばこの転校生はズボンを履いた女子と言う可能性も捨てきれない。
あどけなさを残した男とも普通に女ともどちらとも取れる顔つきが、その疑惑を強いものとしていた。
そしてその真実は、彼が口を開いた際に判明するだろう。

「えっと、はじめまして。フランスから来ました、シャルル・デュノアって言います。見ての通り、ISを扱う事ができる三人目の男……です。 ともかく、これからよろしくお願いします」

彼はそこまで落ち着いた様子で言い切り、頭を下げる。
その瞬間、一組の女子(一部を除く)は時が止まった。
そしてしばらく、それ以外の行動など我々は出来ぬといわんばかりにシャルルを見つめる。
穴が開くほどと言うより、既に穴を大量に開けようという意思すら見えるほどに見つめられ、さすがに様子がおかしい事に気がついたシャルルが自身を見つめる女子を見渡し汗を一筋たらしたときだった。

「き……」
「きききききき、きたーーーーーーーーーーー!!!」
「やばい! これ来た! 私達の時代来た! これで勝つる!!」
「え、えぇ!?」

いきなりの爆発に、当然のことながらシャルルが身を引く。
というより、最早精神的にも引いているのではないのだろうか?
失礼な事かも知れないが、いきなり多数の女子が叫びだしたとなれば誰でも彼と同じ反応を示すだろう。

「や、ちょ! これは冗談抜きでまずいって! 一組にそれぞれタイプの違うイケメンが三人も!? 神様ちょっと私達一組を優遇しすぎ!!」
「爽やか正統派なイケメンの織斑君に頼りがいのあるお兄さんタイプなイケメンの東堂さん、そして三人目は守ってあげたい系のイケメンだと!?」
「しかも金髪! ブロンドの貴公子! あぁ、IS学園に入ってよかった……」

最早完全に理性のタガが外れていた。
あまりの女子生徒の勢いに、真耶が涙目でおろおろとし、千冬さえも圧倒されて何も出来ず、そもそも女子の視線を一身に受けるシャルルに至っては完全に泣きが入っている。

「……なぁあかり兄、女子って怖いな」
「ほんとにね」

さすがにここまでではないが、自分達も自己紹介の際に同じような洗礼を受けた二人は、今まさに先例を受けている転校生を哀れみを含んだ視線で見守っていた。
ちなみに、彼らの中にはこれを止めようという思いは欠片もない。
というより、二人もこの勢いを止めれるとは思っていなかった。

ちなみに、この騒ぎは何とか復帰した千冬の出席簿の連打によって終息した。


※ ※ ※


「で、では、もう一人の転校生を紹介しますけど……もう暴走しないでくださいね?」

先ほどの騒ぎですっかり怯えてしまった真耶に生徒達が何度も頷き、それを見てようやく安心した真耶がもう一人の転校生を呼ぶ。
その声に反応して入ってきたのはシャルルよりはるかに小柄な影。
その人物は場違いなほど背筋を伸ばし、自身の重心を揺らすことなく黒板の前までやってくると、生徒達の方を向いた。
その顔にある左目を覆う眼帯が、ただでさえ強い威圧感を後押ししているようにも感じられる。
先ほどと違い、痛いほどの沈黙が教室を包む。
それはその転校生から放たれる威圧感に呑まれてしまっているからだろう。
これでは騒ぎたくても騒げるはずがない。

「えっと、それでは自己紹介をお願いします」
「…………」

その気迫にまたもや怯えてしまった真耶は、しかしそれでも教員としての責務を果たそうとその転校生に話しかける。
しかし、その転校生から帰ってきたのは沈黙。
視線すらよこされない、完全な無視の態度だった。

「あ、あのぉ、ボーデヴィッヒさん?」

再びの呼びかけにも反応する気がまるでない。
さすがの事態に捨て置けなくなったのか、千冬がボーデヴィッヒと呼ばれた転校生の下へと歩いていき、彼女に話しかける。

「何をしているボーデヴィッヒ、自己紹介をしろ」
「了解しました、教官」

千冬の呼びかけには素直に答えたのだが、しかしその反応は生徒が教師に取るような態度ではない事は確かだった。
あまりにも態度が固すぎるのだ。
それは端から見ている生徒側からすれば息苦しい事この上ない。
しかし、本人はそんな事を気にしていないのか、生徒達を見ると口を開いた。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

誰もが、とりあえずその言葉の次に続く言葉を待つ。
しかし、いくら待とうがその言葉の続きなどは無かった。
ラウラと名乗った本人もこれ以上言う事などないとばかりに口を閉ざす。

「えっと、それだけですか?」
「ほかに何を話せと?」

真耶が痛みさえ感じるほどの沈黙に包まれた教室の空気を何とかしようと試みるが、ほかでもないその空気の発生源によりあっけなく失敗。
その様子を千冬は頭を抱えてみていた。
そんな教師陣の様子をよそに、ラウラは教室を見渡し、ある一点で視線を固定した。

「っ! 貴様が……っ!」

ラウラはそのまま視線をその人物からはずすことなく歩を進める。
そしてその人物の目の前までやってきた。

「な、なんだ……?」

その人物、一夏は急に目の前にやってきた転校生にやや身を引く。
ラウラはと言うとその様な状態の一夏を睨みつけ……

「貴様が……貴様がいるからっ!」
「っ!? ……ってぇ! 何しやがる!?」

容赦なく平手を放った。
急に放たれたそれに一夏が反応できるわけも無く、平手はそのまままっすぐ一夏の頬に吸い込まれるように当たった。
急にはたかれた事で思考が停止するが、それは一瞬の事。すぐさま思考を再開させ、ラウラに食って掛かる。
ラウラはそんな一夏を冷ややかな視線で見下す。

「貴様のような奴が教官の弟だと? 私は認めん。貴様のような教官の足を引っ張るだけの存在が教官の弟などと……!」
「千冬姉の足を引っ張った……? まさか、モンド・グロッソの事っ!?」
「ほう? 自覚はあるようだな」

そこで一夏との会話を切ると、次にラウラが見やったのは……あかりだった。

再びラウラは歩を進め、あかりの前にやってくる。
そして今度は無言であかりに平手を放とうとし……

「……なにっ!?」

それは平手の軌道上に差し込まれた腕にさえぎられた。
さえぎった腕の持ち主は当然あかり。
そしてあかりの目はまっすぐにラウラを射抜いている。

「……ふんっ」

その眼が放つ威圧感に自分が押された事に気がつき、その事が悔しいのか、ラウラは鼻を鳴らし腕を下ろす。
そして悔し紛れのように小さい、しかし確かに何かしらの感情がこもっている声でこう呟いた。

「お前の事も認めてなるものか……教官より強いなどと、認めてなるものか……っ!」

そのまま、ラウラは自身に割り当てられた席へと向かう。

二人の転校生、シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ。
二人に対する一組の心象は物の見事に正反対の物となった。


※ ※ ※


「大丈夫か? あかり兄」
「まず一夏は自分の心配をしたほうがいいよ。結構いいのもらっちゃってたでしょ?」

二人の転校生の自己紹介とそれに付随する騒動が終わったところでちょうど朝のHRが終わった。
なお、先ほどの出来事のせいか、やはりラウラの周りには人がいない。
もっとも、あのような事をやらかした人間の傍に好き好んで居たい人間などそうそういないだろう。

「何をぼさっとしている。次は二組との合同実習だ。さっさと更衣室へ行け。それと同じ男としてデュノアのサポートをしてやれ、いいな?」

千冬にせかされ、一夏は自身のISスーツの入った袋を取り出し、あかりも袋を取り出した。


「あ、君達が織斑君と東堂君だよね? よろしくね?」
「あぁ、よろしく……って言いたいけど、とりあえず詳しい話は後にしてくれ」
「ごめんね? デュノア君。……さぁ二人とも、心してかかろうか」
「おう、俺はいつでもOKだ」

そんな二人に声をかけるシャルルだが、二人はさらりとシャルルの言葉を流すと、何故か急に真剣な顔をして教室の外を見やる。
二人の様子にシャルルが首をかしげると、一夏がシャルルに話しかける。

「じゃ、デュノアだったっけ? 準備はいいな? さっさと行くぜ。でないと厄介だ」
「行く……?」

一夏の言葉の意味が理解できないらしく、シャルルは首をかしげる。
それに対して顔を見合わせる一夏とあかり。

「デュノア君、君は女子の着替えが見たいのかい?」
「へ……へぁ!? そっそんな訳ないじゃないか!!」

あかりの言葉に、一瞬動きを止めるが、何を言われたのかを理解しすぐさま行動を開始するシャルル。
自分に割り当てられた席から袋を取り出すと、急いで二人の下へと戻ってくる。

「よし、それじゃあ行こうか」

それを見届けたあかりが号令を出し、一夏がそれに無言で答える。
なにやらただ着替えに行くだけには思えない様子の二人に、シャルルはなんと声をかけていいか分からない。
シャルルがそうして悩んでいる間も、二人は周囲を警戒しながら小走りで移動している。

「……まだ大丈夫みたいだね。この調子なら」
「えっと、二人は何でそんなに周囲を警戒してるのかな?」
「なんでって、そりゃ……」

シャルルが二人の様子に疑問を唱え、一夏がシャルルの問いに答えようとしたそのときだった。

「あー! 織斑君と東堂さん発見!! しかも転校生も一緒よ!!」
「何ですって!? 者共、出あえ! 出あえ!!」

学校の中だというのに何故か周囲を警戒しつつ行動している三人を一人の女子生徒が見つける。
そこからはもはや大騒ぎだった。
三人を発見した女子の声を聞きつけ、ありとあらゆるところから女子生徒が三人めがけて突撃してくる。
何人か窓の外から入ってきた生徒もいた気がしたが、それはおそらく気のせいだ。
そしてあらゆる場所からやってくる女子によって徐々に形成される包囲網。

「やべっ! 見つかった!!」
「二人とも、こっち!!」
「え? え!?」

そんな女子の様子を見たあまり一夏とあかりははすぐさま駆け出す。
しかし、急激な事態の変化に対応が出来なかったのか、シャルルだけがその場でおろおろとするばかりだ。
それを見たあかりはすぐさま踵で急ブレーキ、後にその場で180度ターン、そこから停滞無くダッシュ。
そしていまや女子に捕まるか否かの瀬戸際にいたシャルルを小脇に抱え、すぐさま女子の傍から逃げ出した。

「……? あれ……?」
「え、えぇ!?」

一瞬の事だが、シャルルを小脇に抱えた瞬間にあかりの動きが止まる。
しかし背後から女子が迫っているという事を思い出すと、すぐさま走り出した。
もちろん急に抱えられた事で最早完全に気が動転してしまったシャルルは、じたばたと暴れてしまう。
ちょっとやそっとじゃ落とさないように抱えているあかりも、さすがにこれほど暴れられては動きにくい。

「ごめん! とりあえず今はおとなしくしといて!!」
「ふぇ!? あ、はい!?」

シャルルの返事とも取れない返事を聞いたあかりはやや走る速度を上げる。
そして一夏と合流したあかりは、一夏と共にさらに加速。
何とか女子の包囲網から抜け出した。

「ぬぁ! 我々の包囲網が突破されただと!?」
「くぅぅ……っ、でもまだよ! 第三班! やっておしまい!!」

背後から聞こえる女子の声に二人そろって勘弁してくれと思わず叫んでしまったあかりと一夏だった。


※ ※ ※


何とか女子の追跡を切り抜け、アリーナに備え付けられている更衣室へ駆け込むと、あかりはすぐさま扉を閉め、さらに鍵もかける。
二人とも最早肩で息をしている状態で、体力的にぼろぼろの状態だった。
唯一無事なのはあかりの小脇に抱えられたシャルルのみである。

「えっと、大丈夫?」
「お、おう、大丈夫だぜ」
「こっちもなんとか……とりあえず、こうしてばかりもいられないから早く着替えようか」

あかりの言葉にそれぞれがロッカーに向かう。
そこで何故かシャルルが声を上げた。

「あ!」
「ん? 忘れ物か何かかい?」
「あ、いや、何でもない!! ……えっと、着替えてる最中はこっち向かないでね?」

あかりの問いかけに何を言うかと思えばそんな事だった。
別にあかりも一夏も他人の着替えをじろじろ見るという奇特な趣味は一切ない。
というより、そもそも他人の着替えを観察出来るほどの時間が現在彼らにあるわけでもない。
女子に捕まることは避ける事ができたが、女子に追い掛け回された際にかなり時間を食ってしまった。
そして後に控えているのは千冬が担当する実習。
つまり遅刻者に控えているのは……出席簿の一撃である。

ともかく、しきりに覗くなと念を押してくるシャルルに了承の意を伝え、三人は着替えを始める。

「しっかし、デュノアさぁ」
「あ、シャルルでいいよ」
「そっか、じゃあ俺も一夏でいいよ。じゃなくて、シャルルさぁ、なんかあかり兄の事東堂君って呼んでるけど、あれなんでだ?」
「へ? だって同じ学年じゃないか。別におかしい事でもないと思うけど」

着替え初めて暫く経った後、一夏がふと思い出した疑問をシャルルにぶつける。
それに対し、シャルルは自分が何かおかしい事をしているのかと言う風に返答する。
ちなみにそうして会話している間も手は止めていない。

「でも確かに皆東堂君の事さん付けで呼んでたよね。あれってどうして?」
「どうしてってお前……あぁ、知らないクチか。あかり兄、同じ学年だけど20歳だぜ? 年上だ年上」
「えぇっ!?」

一夏の衝撃発言に思わずシャルルが後ろを振り返る。
振り返った先に見えたのは未だに着替え途中の一夏とあかり。
確かにあかりは男とは言え、同い年にしては身長大きいなぁなどと思っていたが、さすがに年上だとは思っていなかったのだ。
思わずあかりの背中をじっと見つめてしまう。
無理もないだろうが、自分から着替えを覗くなと言っていたわりにはやっている事がおかしい。
そしてあかりの背中をじっと見つめていると、あることに気がつく。

「……傷跡?」

異様に傷跡が多いのだ。
大小さまざまだが、背中一面に傷跡がびっしりと刻まれている。
それどころか、腕にも多数の傷跡が見て取れた。
先ほどまでは長袖を着ているため気がつかなかったし、こうして肌を晒していてもよくよく見なければ気づかないぐらい薄くなっているが、確かに、傷跡があちこちに刻まれている。
普通に生活しているならそこまでつきようがないくらいの多さだった。

「…………」
「はい、着替え終わったっと」
「っ!?」

暫くその傷跡が刻まれた背中を注視していたシャルルだが、あかりの声に慌てて前を向きなおす。
そしてあかりから暫く遅れてシャルルも着替え終わった。

「……うん、僕も着替え終わったよ」
「マジかよ、二人とも早いって……」

そういう一夏は未だに着替えている真っ最中だった。
いくらなんでも遅すぎじゃなかろうか。

「一夏、早くしないと先生に一撃もらうよ?」
「いや、だってよ、こう……下が引っかかっちまってさぁ」

そうして一夏が悪戦苦闘している最中でも無常にも流れていく時間。
最早すぐに出なければ間に合わない時間だった。

「……よし、デュノア君、一夏は放っておいて先に行こうか」
「うぇ!? ま、待ってくれよ!!」

時計を見ながらそう呟いたあかりに、たまらず一夏が叫ぶ。
しかし、あかりは既に更衣室の扉の鍵を開けており、シャルルはと言うと一夏とあかりを交互に見て迷っているようだが、時計をちらりと見て、結局扉のほうへと向かった。

「じゃ、健闘を祈る」
「えっと、ごめんね? 一夏」
「薄情者ーーーーー!!!」

一夏の魂の叫びを背中に受け、二人は更衣室を出る。

「いいのかなぁ……」
「一夏を待って僕達も怒られたら元も子もないからね。一夏には悪いけど、諦めてもらうしかないかな」

あかりはそう言うと、さっさとグラウンドに向かって歩き出す。
シャルルは暫く悩んだ後、あかりの言う事ももっともだと思ったのか既にいくらか先へ言ってしまったあかりへ小走りで向かっていく。
そしてシャルルが自分に追いついたのを確認した後、あかりはシャルルに向かって口を開く。

「あ、そうそう。さっきも言ったとおり、僕は皆より年上だけどさ、何が何でも敬語じゃなくていいよ。君が話しやすい話し方でいいから」
「は、はぁ……」

いきなりの発言に、シャルルもどう答えていいのか分からない。
しかし、特に裏で何を考えているわけでもないあかりの微笑をみて……

「えっと、はい」

次の瞬間には思わずはいと答えていた。



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