in side

 さて、ミュウに案内されながら町を目指している俺は――
「うわあぁぁぁぁ!? 来るなぁぁぁぁぁぁ!?」
 絶賛、悪魔に襲われていた。
「アギ! もう、情けないわねぇ〜」
「普通の人に無茶言うなぁぁぁぁぁ!? って、ぐはぁ!?」
 魔法を放つミュウに呆れられてるけどね、俺は普通の人なんだよ! 選ばれた勇者でも無いし、ミュウ見たく魔法を使えるわけじゃない。
ただ、ナイフを無茶苦茶に振り回したり銃を撃ったりするぐらいしか出来ないんだって! おかげで3匹の悪魔に大苦戦中。
ナイフ振り回すくらいじゃ大したダメージにもなっていないようで、逆に体当たりを喰らう様だし……ていうか、本気で痛いんだけど!?
銃もちゃんと狙ってるのに中々当たらないし……銃って、結構難しいんだね。
 あ、ついでにだけどここまで来る間に、ミュウには俺が別の世界から来たってことは話してある。
ミュウはそうなんだ〜って感じで聞いてたけど、信じてくれたのかな?
「アギ!」
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 その体当たりしてきた悪魔にミュウが魔法を放って倒していた。あつつ、今回もミュウに助けられたか……
実はここに来るまでに何回か悪魔に襲われてるんだけど、そのたびに悪魔の多くをミュウが倒していた。
俺は1回の襲撃に付き1匹倒せるかどうかだってのに……まぁ、助けられてるので文句は言えないけどな。
「大丈夫? ディア」
「ああ、あんがと……」
 ミュウに魔法を掛けられることで傷が治ってく。魔法ってすげぇ〜と思ってたのだが……
ふと気付くと倒して砕け散った悪魔からあの緑色の光が出て、俺が持ってるGUMPに吸い込まれていく。
今更なんだけど、この光ってなんだろ?
「なぁ、ミュウ……悪魔を倒したら出てくる光ってなんなの?」
「ああ、生体マグネタイトよ。COMPには生体マグネタイトを蒐集する能力もあるみたい」
 ミュウの話を聞いて思わず納得。確かゲームとかじゃ、悪魔が実体化するには生体マグネタイトが必要とか言ってた気がするし。
それに仲魔にした悪魔には必要になるんだろうけどさ。それはそれとして、町らしき影が遠くで見えてくる。
もう少しで着けそうだ。でも、元の世界に帰れるのかな、俺……
「ぐおおぉぉぉぉぉぉ!!」
 って、また出たぁ!? 慌てて銃を向けて引き金を引き、ガキンという音が響く……
「弾切れぇぇぇぇぇ!?」
「なにやってんのよ……」
 慌てる俺にミュウは本気で呆れつつも、襲いかかる悪魔に魔法を放っているのだった。
ちなみにこれまでの戦闘で弾丸は全部使い切っちゃいました……どうすりゃいいんだぁぁぁぁぁぁ!?


「ほら、着いたわよ」
「あはははは……」
 どうにか町の入口に到着した俺達だが、俺はものの見事にズタボロ状態だった。
だってさ、しつこいようだけど俺は普通の人なんだよ。そんな俺が一番攻撃力あるのが銃だったんだよ。
その銃が弾切れになったら、残ったのはナイフしかなかったんだよ。でも、俺はナイフを振り回すぐらいしか出来ないんだよ。
そんなんじゃ悪魔には大したダメージにならなかったから、反撃喰らいまくってたし……
あの後、この町に着くまで3回ほど悪魔に襲われたけど、ほとんどをミュウが倒してる。
俺はなんとか1匹だけ倒せたが……うん、なんか情けないよね。
 それはそれとして、俺は町の入口にある看板に視線を向ける。なんか、書かれてるんだけど……やっぱり文字が読めん。
「あのさ……あれって、なんて書いてあるの?」
「ん? ようこそ”ノーディス”へって書いてあるんだけど、読めないの?」
「俺のとこじゃ、ああいう文字は使わないから……」
 言葉を返しつつもこの世界の言葉に関して本気で疑問に思う。だって、今も普通に日本語で話してるけど、文字はまったく別物だ。
でも、考えてもわからなそうなのでスルーしとこう。今はそんなこと気にしてられないし。
 そんなわけでミュウに付いていくように町に入るんだけど……町並みは俺の世界の町を古くしたような感じを受ける。
行き交う人の服装もそんな感じだけど……問題は悪魔も普通にいるってことなんだけど……大丈夫なの?
「なぁ……なんで、町に悪魔がいるんだ?」
「ああ、ここで生活してたり仕事をしてたりする悪魔もいるのよ。大丈夫、町にいる悪魔はよほどの事がない限り襲ってくることはないから」
「そう……なんだ……」
 悪魔が生活してたり仕事してたりって……そういや、町の人も普通にしてるし……
うん、深く考えないようにしよう。考えてもダメな気がしてきたし……
 それはそれとして、ここに来て困ったことが判明する。というのも――
「誰に話を聞けばいいんだよ……」
 そうなのだ。元の世界に戻るためには手掛かりだけでも欲しいところ。でも、誰にそれを聞けばいいのかわからない。
看板の文字とかはミュウに読んでもらってるけど、役に立ちそうな所は今の所見あたらない。
今思ったんだけど、ミュウに教えてもらえばGUMP使えるようになるのかな? 後で聞いてみよう。
 それはそれとして、思い切って町の人にそういうことに詳しい人はいないかと聞いてみるんだけど、怪訝そうな顔をされるだけであった。
まぁ、普通異世界から来ましたなんて、アニメやマンガ、ゲームの話だしな。そんなわけで完全に手詰まり。当てもなく町を彷徨う羽目になった。
あ〜、本気でどうしたらいいんだろう……なんてことを考えながら大きな川がある所へ来た時――
「へ?」
 それが視界に移る。それは豪華客船だった。豪華客船って普通海にあるもんだよね?
いや、それはまだいい……のかは不安だけど、問題はそこじゃない。川の岸と豪華客船を繋ぐ橋の横にある看板。
その看板にはやはりこの世界の文字が書かれてるんだけど……その上には俺にもわかる文字でこう書かれていた。
『業魔殿』と……
 え? 業魔殿ってあれ? 悪魔合体とかしてくれる……デビルサマナーではお馴染みのあの人がいる所なの?
いや、マジで? 本当に本当なのか?
「どうしたの?」
「あ、その……なんて言えばいいか……あそこなら、何かわかる人がいるかなって思って――」
「あそこってホテルでしょ? そんな所にそんな人がいるの?」
「まぁ、ダメ元ってことで――」
 ミュウとそんなことを話してから中へと入ってみる。中に入るといかにも豪華といった感じの造りになってる。
うっわ〜……ここに泊まるとしたらいくら掛かるんだろ? 俺の小遣いじゃ絶対に無理だよね?
「あの、ご予約の方でしょうか?」
「はい?」
 と、声を掛けられたんで振り返ってみると、そこにはいかにもメイドさんといった格好をした女性がいた。
んでもって、俺この人凄く見覚えあるよ。やっぱりというか、この人って――
「申し訳ありませんが、当ホテルではご予約以外の方のご利用はお断りしております」
「あ、いや……なんて言えばいいのか……その……」
「ご予約で無いのでしたら、お帰り願えないでしょうか?」
 なんと言えばいいのかわからず、メイドさんに追い返されそうになる。
でも、このメイドさんってあの人だよな? あの人なら、当然あの人もいるはず――
「メアリ。どうやら、その青年は私の客人のようだ。以後、彼が訪ねて来たら私の所へ案内するように」
「はい、わかりました」
 聞こえてきた男性の声にメアリと呼ばれたメイドさんはあっさりとうなずく。て、やっぱりメアリだったか。
ということは、この声は――
「業魔殿にヨーソロー! 若きサマナーよ」
 振り向いた先にいたのは、ゲームで見たのと同じ姿をした……ヴィクトルと思われる男だった。


 さて、ヴィクトルさんと思われる人に案内されたのは豪華客船の下にあるなにやら妙な機械が置いてある場所。
ゲームじゃ、これを使って悪魔を合体させてたりしたよな。
「さて、自己紹介がまだだったな。私の名はヴィクトル……この業魔殿で業の技を極めようとする者。
それにより、私は悪魔合体という業(わざ)を創り上げた」
 あ、やっぱりそうなんだと機械の前に立つヴィクトルの話を聞く。
そして、やっぱりここはゲームの世界なんだなぁ〜と実感が……あ、ちょっとめまいが……
「さて、若きサマナーよ……君が持つGUMPは確か他の者に渡したと私は記憶しているのだが……なぜに君が持っている?」
「あ〜……その、なんていうか……俺はどうやらこことはこことは別の世界から来たみたいで……
その時に悪魔に襲われたんだけど……その時に現われた人が悪魔に殺されてさ……で、なんかの役に立つかなと思って持って来ちゃったんだけど……」
 とりあえず、これまでのことを話してみる。まぁ、なんと言えばいいのかわからなくて、変な感じに話してるけど。
「ふむ、君もそうなのか……」
 て、ヴィクトルさん、なんかとんでもないこと言い出したよ。どういうことさ?
「え? それって?」
「私もまた別の世界から来た者なのだよ、若きサマナーよ。どうやら、お前はこの世界のことを知らぬようだ。
ならば話そう。我が身のこととこの世界のことを――」
 なんてビックリ。どうやら、ヴィクトルさんも俺と同じで別の世界から来たらしい。
でも、どういうことだ? ここはゲームの世界じゃないってことなのか?
「この世界はボルテクス界と呼ばれている。なぜ、この世界が存在するのか? あいにくではあるが、私にもわからない。
わかっているのは力ある悪魔達によってこの世界は形作られたということだ」
 う〜む、どうやらここはゲームの世界とは違うみたいだけど……でも、ボルテクス界ってどっかで聞いたような……
どこだっけ? 俺もそんなに詳しい訳じゃないしな。
「私がいた世界では、ボルテクス界から少ないながらも悪魔が来ていた。
その悪魔を私は研究していたのだが……その過程により、このボルテクス界の存在を知った。
この世界ならば研究を勧められると考えた私はボルテクス界に通じる穴を見つけ、この船ごとこの世界へと来たのだよ」
「船ごとって……船も通れるの?」
「穴に大きさの概念は無い。どんな物でもとは限らないだろうが、触れれば大抵の大きさの物を通してしまう」
 それってとんでもなくないかと思うんだけど。話聞いてるとさ……て、待てよ。
じゃあ、俺が見つけたあれも穴ってことなのか? 見た目は穴には全然見えなかったけど。
「あ〜質問……その穴を見つければ、元の世界に帰れるのかな?」
「その穴が残っていれば、不可能では無いだろう」
 ヴィクトルさんはあっさりと答えるけど、まいったな。俺が最初にいた場所にその穴なんて無かった……待てよ?
俺、最初どこにいたっけ? 確か高台みたいな所にいたような……
「あ!」
「ふむ、その様子だと何かに気付いたようだな」
 はい、ヴィクトルさんの言うとおりです。しかし、慌てていたとはいえ、それに気付かないとは……
となれば、あそこにまた戻らなきゃならない。それはいいんだけど、1つ問題が――
「でも、どうしよ。銃は弾切れだし、GUMPは使えないし……」
「GUMPが使えない? 壊れたのかね?」
「あ、いや……文字がわかんなくて……お金もその……」
 ヴィクトルさんに聞かれて申し訳無く答えた。実際、使えたら仲魔とか出来て、戦いが楽になりそうだけど。
「ふむ、そういえば君は別の世界から来たのだったな。わかる文字はあるのかな?」
「あ、一応日本語なら普通に……」
「ほほぉ、君も日本からか……私と同じ日本とは限らないだろうが、いいだろう。GUMPを貸したまえ。設定をし直そう」
 言われてGUMPを差し出すと、ヴィクトルさんはGUMPを何かの装置に繋いで操作を始めた。
でも、今なんか気になることを言われたような――
「あの、同じ日本とは限らないって、どういう意味ですか?」
「そうだな。私が調べた限りではあるが、このボルテクス界はあらゆる世界へと繋がっているらしい。
らしいというのは、他の世界と繋ぐための穴が滅多に現われないのでね。確かめることが中々出来ないのだ。
ともかく、君が元いた世界の日本は私が知る日本とどこか違うこともありえるということだ」
 ヴィクトルさんの話にふむとうなずいてみる。確か、平行世界とかパラレルワールドとか……意味は一緒だっけ?
ともかく、似たようでどこか違う世界がある。というのは、やっぱりというかアニメやマンガ、ゲームでの話だけど。
「設定が終わった。試してみたまえ」
「あ、ありがとうございます」
 ヴィクトルさんからGUMPを受け取り開いてみる。お、日本語になってら。
うんうん、基本的にはボタン操作でいいのか。ええと、生体マグネタイトは……312か……多いのか少ないのかわからないな。
後は……うん、仲魔にするのも基本はボタン操作……ただし、悪魔の合意必要ね。
つ〜ても、今は仲魔になってくれそうな悪魔は――
「ふふふ、私が仲魔になってあげようか?」
「え? いいの!?」
 て、操作してたらミュウがそんなことを言い出したんだが……なんでまた?
「だって、あなたを1人で行かせたら、そのまま殺されてそうなんだもん」
 さいでっか……いや、本気で否定出来ない。この町に来るまでもミュウに助けられてばっかりだったし。
「じゃ、じゃあお願いするわ……」
「は〜い。妖精ピクシーことミュウ。よろしくね」
 ミュウの笑顔を見つつ、GUMPを操作する。するとミュウは緑色の光に包まれ、その光がGUMPのモニターへと吸い込まれた。
その後、モニターにはピクシーの名が出ており、それを選択して召喚作業を行ってみる。召喚もボタン操作なのであっさりと出来――
「ふぅ〜、COMPの中って窮屈なのね〜」
 GUMPの前にモニターに映る同じ魔方陣が展開されると、そこからミュウがため息混じりに出てきた。
おお、GUMPからの召喚って実際にやるとこうなるのか〜。
「ふむ、問題無いようだな。そうだ、生体マグネタイトの残量は気を付けるように。
生体マグネタイトは生体マグネタイト協会で換金することが出来るが……高位な悪魔ほど消費される生体マグネタイトの量は増える。
また、高濃度の生体マグネタイトを与えることで悪魔は成長する。故に生体マグネタイトは多めに持っていた方がいいだろう」
「あ、ありがとうございます」
 忠告するヴィクトルさんに頭を下げる。なるほど、生体マグネタイトは大事に使わなきゃならんのか。ちゃんと覚えとこ。
「それじゃあ、俺はこれで……本当にありがとうございました」
「うむ……そうだ。名を聞いていなかったな」
「あ、翔太です。相川 翔太……」
「ふむ、ボンボヤージュ! 翔太よ。また会おう!」
 なんて、ヴィクトルさんの言葉に苦笑いしつつ立ち去る。もし、元の世界に戻れたら、ここに来ることは無いのにな。


 out side

 翔太が去っていった後。ヴィクトルの横にはメアリの姿があった。
「何かあったか?」
「はい、お茶の時間です。ところで……あの方に随分とお目をかけているようですが?」
 メアリは頭を下げ、用件を述べると共に気になったことを問い掛ける。基本的にヴィクトルはサマナーとなった者とは相利共生の立場を取る。
サマナーという力を与える代わりに合体などに使われる悪魔の提供を受けているのだ。
そして、提供を受けた悪魔はヴィクトルにとっては貴重な研究資料となるのである。
ただ、今回の翔太に関してはいつも以上のことをしているように思えたのだが――
「そうだな。あの若きサマナーとは、長い付き合いになりそうな気がしてな」
 と、本人が聞いたら顔を引きつらせるようなことを言い出すヴィクトル。
もっとも、それが現実になるとは、この時ヴィクトル自身も思ってはいなかった。



 あとがき
というわけで、第1話です。そんでもって、ヴィクトルさんとメアリの登場です。
真・女神転生などで登場する邪教の館の人よりもこっちの方が好きなので登場してもらいました。いいですよね、ヴィクトルって。
さて、次回は元の世界に戻るために再び冒険に出ることになるのですが――
というわけで、次回をお楽しみに〜



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