out side

 翔太達が異界へと入っていくのをネギや明日菜、エヴァ達が見送るのだが――
「あの人達……大丈夫かな?」
「さてな……」
 明日菜がふとそんな疑問を漏らすが、エヴァは大して気にした風も無く漏らした。
実際の所、エヴァはそれほど期待してはいない。理華やミュウ達のような仲魔はまだいい。
問題は翔太である。というのも、何の力も感じないのだ。理華は少し強い魔力を感じる。
だが、翔太は魔力どころか気すらも感じられない。しかも、動きも訓練したとか何か武術をかじったとかそういうのが見られないのだ。
実力者ともなれば、自然と動きにもそれらしい物が見えてくるものだ。だが、翔太にはそれらしい物が見えない。
刃物と銃を一緒に持っていたが、あれは一朝一夕に扱える物ではない。
魔法先生の中にはナイフと銃を使う者がいるが、あれは長年やり続けたことで培われた技術によって可能になった物である。
エヴァの見立てでは翔太は実戦経験は浅いと見ている。そんな者がどこまで戦えるものなのか……
 確かにエヴァの見立ては間違いではない。翔太や理華は戦い始めてまだ1ヶ月経つか満たないかだ。
普通に考えればエヴァの見立て通りだ。が、エヴァが知らないことが2つある。
まず、ボルテクス界がどういう所なのか? ボルテクス界の悪魔はどういった存在なのか?
翔太が来るまでその存在すら知らなかったエヴァに失念するなというのは無理な話だが……
それらがどう関わってくるのか――
「ところで……彼らは何者なのですか?」
「ふむ、そうだな……」
 不満そうにしながらも1人の男性の教師と見られる者が問い掛けてくる。
エヴァはそれに対し、あごに手をやりながらどう話そうかと考え……ネギを見てみた。
ネギはといえば、未だに不満そうに異界へと顔を向けている。茶々丸に拘束されたままで。
あれは離すと突っ込んで行きかねないので、念話で茶々丸に離さないように指示を出しておく。
明日菜はといえば、心配そうにネギを見ていたが。
(ま、いずれ戻ってくるであろう。どんな形かはわからぬがな)
 大して期待していないのにそんなことを考えるエヴァ。確かに翔太達は戻ってくる。
だが、それは自分の予想を裏切っての形であるということに……エヴァが気付くはずも無かった。


「たく、しつこい!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
 1体の悪魔を刃物で切り裂き倒す翔太。その様子を高畑は悪魔に攻撃を与えつつ見ていたが、その顔は少し驚いたようになっていた。
高畑から見ても翔太が魔力や気を持っているようには見えない。動きの方も訓練を受けたとか武術を使ってるようにも見えない。
これはエヴァと同じ見立てだ。だが、エヴァと違うのは……強い。そう思えることだった。
動きはメチャクチャだ。素人に良く見られるケンカに近い。高畑が初めて見るボルテクス界の悪魔の実力を考えても通じるとは思えない。
しかし、通じていた。なぜか? 動きが素早いのだ。高畑でも気や魔力で強化しなければならない速さ。
それを翔太は気も魔力も使わずに実現出来ていた。高畑から見るとありえないことなのだが……
 なぜ、翔太はこのようなことを出来るのか? 確かにフォルマと合成された武器のおかげなのもある。
フォルマによって合成された剣と銃は悪魔に対して絶大とまではいかないものの効果を見せている。
前の剣が通じなかった悪魔にも今の剣は通じるようになり、銃もまた前の物は牽制にしかならなかったのが今では銃としての機能を果たしていた。
だが、そんな武器があったからといっても戦えるかどうかとは別である。
 ではどうして? と聞かれると、1つとしてボルテクス界の悪魔の実力が上げられる。
ボルテクス界の悪魔は彼の世界に存在するサーヴァント並やそれ以上の力を持つ者達もいる。
翔太達が今行ける所に存在する悪魔には流石にそこまでの者はいないが、準ずる力を持っているのは否めない。
そんなのと戦ってきているせいか、翔太は悪魔の動きに反応し、動きに追いついていく。
だが、ここで疑問に思う者もいるだろう。そんな動きを簡単に身に付けられるものなのか? と……
普通に考えればNOである。一流のスポーツ選手や格闘家でも過酷な訓練や特訓を長い時間を掛けて行うことでやっと出来ることなのだ。
運動すらまともにしたことの無い翔太にそんなことは不可能と言ってもいい。では、なぜ出来るのか?
ここで考えられるのはボルテクス界の特性である。ボルテクス界は生体マグネタイトが満ちた世界である。
元からボルテクス界にいる人間には大して意味は無い。ある意味、慣れてしまっているからだ。
だが、翔太のように生体マグネタイトの影響をまったく受けない環境の者がボルテクス界に来たらどうなるのか?
残念ながら、それはまだ解明されてはいない。だが、何かしらの影響があるのは考えられる。
それが翔太のような形で現われたとしてもおかしくはないのかもしれない。
果たして、それが良いことなのかは同じように今はまだわからないのだが――
「高畑さん! そいつは物理攻撃に耐性持ってるから隣の奴のを!」
「わかった!」
 それはそれとして、高畑は翔太の指示の元に戦っていたのだが、非常にやりやすくて助かっていた。
高畑としても初見の相手に手を出す危険性を知らないわけではない。もし、単独で来たのならここまで戦えなかっただろう。
ただ、これには翔太としても運が良かった結果と言える。
というのも、この異界にいる悪魔は麻帆良に通じる穴の周辺に現われる悪魔とほぼ一緒だったのである。
もちろん、初めて見るのもいるが、多くは一度は戦ったことがある悪魔ばかりであった。なので、対処が取りやすかったのだ。
「しかし、こうなると調査隊や巻き込まれた生徒達が不安だな」
 その一方で高畑はそんな不安を感じる。簡単にではあるが、翔太達がボルテクス界から来たというのは聞いている。
最初は流石に信じられなかったが、異界の悪魔を見て真実だと思うようになった。
高畑は昔魔法界にいたことがあり、今でも時折仕事で行くことがある。だからこそ言える。この異界にいる悪魔は魔法界に存在しないと。
むろん、高畑も魔法界の全てを知ってるわけではないが、知ってる範囲内では異界にいる悪魔はいないことは断言出来た。
 だからこそ、この異界にいる悪魔の異常性が際立つ。物理耐性や魔法耐性なんて物は高畑が知る悪魔は持ってはいない。
魔法使いと同じように魔力で障壁を張り、防御しているのがほとんどだ。むろん、強靱な肉体故に強固な防御も持っているが。
だが、この異界にいる悪魔は違う。強靱な肉体を持つのは同じだが、物理や魔法の耐性を持つ。
それがよりこの異界にいる悪魔達を倒しにくくしていたのだ。高畑の知る悪魔であれば障壁ごと貫いて倒せるが、この異界にいる悪魔はそれが出来ない。
それにこの異界にいる悪魔が使う魔法も厄介だ。高畑が知る物とはまったく異なる魔法であり、その威力も馬鹿には出来ない。
中には呪殺や石化などの魔法や攻撃もあるというが、こちらは翔太のおかげかまだ向けられてはいない。
もし、翔太がいなければどうなっていたか……思わず考えて高畑は息を呑んだ。
 しかし、そうなると調査隊と巻き込まれた生徒達の安否が気がかりとなる。
というのも、調査隊はこの異界の悪魔のことをまったく知らずに入り込んでしまった。そんな者達が悪魔と出会ったらどうなるか……
巻き込まれた生徒達はもっと最悪だ。翔太の話では異界にいる悪魔は基本的に人を襲うという。
それは間違いないだろう。今も悪魔はこちらを見つけるなり襲いかかってくる。
そんな悪魔に抵抗する術を持たない巻き込まれた生徒が出会ったらどうなるか? ハッキリ言って考えたくも無かった。
 だから、その最悪の事態を避けるために高畑は調査隊か巻き込まれた生徒との合流を急ごうとしたのだが――
「ヒ〜ホ〜。あんた達強いホ〜」
「そうだホ。弱い者イジメ反対〜」
 なんてことを言い出す悪魔が2体いた。高畑はすかさずその悪魔を攻撃しようとしたが――
「ちょいと待った。お前ら、ここで俺達以外の人を見なかったか?」
「ホ〜……たたじゃ教えられないホ」
 翔太がそれを手で制し、悪魔に問い掛ける。それに対し、雪だるまのような悪魔は意味ありげな笑みを向けてくるが――
「やれやれ……ほら、こいつをやるから教えてくれ」
「ホ!? チャクラドロップだホ!?」
「凄いホ!? なんで持ってるホ!?」
 翔太が雪だるまのような悪魔とかぼちゃで出来た仮面を被ったような悪魔にチャクラドロップを渡す。
それに2体の悪魔は喜んでいた。全てのというわけではないが、悪魔には好きな物が共通していることが多い。
チャクラドロップもその1つで、大抵の悪魔は渡すと喜んでくれるのである。
「あっちの方で見たホ」
「だそうだ」
「餌付けかい?」
「ま、似たようなもんだな」
 指を指す雪だるまの悪魔を見て呆れる高畑であったが、サマナーである翔太にとっては当たり前のこと。
こういったこともしないと悪魔とは交渉出来ないのだ。故に思わず苦笑してしまう。
「あんがとよ。じゃ、俺達は急ぐんで――」
「待つホ! ボク達を仲魔にして欲しいホ!」
「そうだホ! そうすれば、チャクラドロップがもらいたい放題だホ!」
 翔太が去ろうとしたら雪だるまの悪魔がそんなことを言い出し、それにかぼちゃの仮面の悪魔が乗ってきた。
実際、仲魔になったとしてもそれほどチャクラドロップがもらえるわけではないのだが――
「わかった。それほど多くは出せないが、仲魔になるってんならあげてもいいぜ?」
「やったホ! オイラはジャックフロスト。よろしくだホ!」
「オイラはジャックランタン。よろしくだホ!」
 今は少し戦力が欲しい所だったのでジャックフロストとジャックランタンを仲魔にすることにしたのだった。
その2体の悪魔がGUMPに吸い込まれていく光景を高畑は戸惑いながら見ていた。
「今のは?」
「俺達サマナーは悪魔と交渉することで仲魔になってもらえる。もちろん、必ずってわけじゃないけどね。
で、仲魔になってもらうとGUMPの中に入ってもらって、必要な時に出てきてもらうと」
 高畑に説明しながら、先程の2体の悪魔を喚ぼうとして――
「あれ?」
 そのことに気付いた。
「どうしたの?」
「あ、いや……なんて言えばいいのか……GUMPの枠が埋まってるんだわ」
 理華に聞かれて、翔太は首を傾げながら答える。しかし、理華には意味が理解出来ない。
「どういうことなの?」
「ええとさ……GUMPは最大8体まで仲魔に出来るんだけど、さっきの悪魔ので仲魔になったのは7体のはずなんだが……
なぜか、最後の1体が埋まっててね」
 理華に聞かれるが、やはり翔太は首を傾げる。
現在、翔太の仲魔になっているのはミュウ、ルカ、モー・ショボー、オニ、アプサラス。
そして、先程仲魔になったジャックフロストとジャックランタンの計7体である。
そして、GUMPは最大8体まで仲魔に出来るので、まだ1体の空きがあるはずなのだが……なぜか埋まっている。
しかし、何が埋まっているのかわからない。なにしろ、名前が表示されないのだ。喚び出そうにもなぜか操作を受け付けない。
「それって大丈夫なの?」
「ん〜、GUMPは普通に動いてるけど……今はどうしようも無いから、先へ進もう」
 不安そうなミュウに翔太はそう答えながらジャックフロストとジャックランタンの召喚操作を行うのだった。
なにしろ、調べようにもここではGUMPをいじるなんてのは無理だ。
ヴィクトルならなんとか出来るかもしれないが、あいにく彼がいるのはボルテクス界である。
 仕方なく、今はこの異界をなんとかしようと行動することにしたのだった。


「く……はぁ……はぁ……龍宮……大丈夫か……」
「さてね……弾の残りも少ない……まったく、割の合わない仕事だ……」
 ネギが受け持つ生徒である桜咲 刹那と龍宮 真名は異界の中にいた。
互いに制服姿であるが2人とも制服はぼろぼろであり、体の方も傷が多く見える。
そんな2人は背中を向け合いながら刹那は刀を、真名は両手にハンドガンを構えていた。
そして、そんな2人を取り囲むように悪魔達(刹那達は魔物の類と思っているが)が今にも襲いかかろうと構えている。
 事の発端は異界が現われたことからだった。最初、魔法使い達は異界がなんなのかわからなかった。
代わりに異界の中に生徒が数名いることが判明。異界の調査を兼ねた18人ほどの救助隊を組織し、突入した。
刹那と真名はその救助隊に参加したのだ。2人は魔法使いというわけではないが事情を知っており、手伝いをしている。
ただ、刹那が救助隊に参加した理由はある少女を捜すためである。
詳しいことは後ほど話すが、刹那は近衛 木乃香という少女の護衛を影ながらに行っている。
だが、ある理由で離れた所から見守る程度にしか行っていなかった。それが裏目に出てしまう。
突然、近衛 木乃香……このかの行方がわからなくなってしまったのだ。
焦った刹那であったが、このタイミングに異界が出たことでこのかがそこにいるのではと思い、救助隊に参加したのだ。
真名はそんな刹那の付き添いである。ただし、刹那からの依頼という形でだが――
 そんなこんなで救助隊は異界へと突入したのだが、目的の1つであった異界の中にいる5人の生徒達とはあっさりと合流出来た。
その中に刹那と真名は自分のクラスメートがいたことに驚いたが……その時に悪魔達の襲撃を受けてしまう。
そこからは2人にとって地獄だった。なぜか自分達の攻撃はあまり通じない。
これは物理耐性や銃耐性、属性魔法耐性持ちの悪魔とかち合ってしまったからであるが、そのことを知らない刹那達は大いに混乱した。
しかも、悪魔達の魔法を受けて魔法先生と魔法生徒が1人ずつ死亡。外傷も何も無いのに完全に息を引き取っていた。
また、ある魔法先生は悪魔の攻撃を受けてなぜか錯乱し、ある魔法生徒は悪魔の魔法で石化してしまった。
その上、魔法先生3名と救助するはずだった生徒2人が悪魔に操られてどこかへと行ってしまう。
今、戦えるのは刹那と真名と魔法先生と魔法生徒の合わせて4人。残りは錯乱してるか石化してるか……死んでいるかであった。
 一方、生徒の方はといえば……幸いと言えばいいのか皮肉と言えばいいのか、ここにいたのは刹那と真名のクラスメートばかり。
操られてしまった2人の生徒は刹那達とは別のクラスの生徒であった。
「ダメだよ……もう、私達ダメなんだよ……」
「そんなこと……ない……」
 明石 裕奈は完全に諦めたように泣いており、大河内 アキラはそれを否定しようとするが状況が芳しくないことはわかっており、
言葉の最後の方は聞き取るのも難しいくらいに小声になっていた。
「諦めちゃダメよ。きっと、助かるから……」
 那波 千鶴はそんな2人を気丈にも励ます。だが、悪魔の数の方が圧倒的に多い。このままでは自分達も……千鶴も思わずそんなことを考えそうになる。
刹那も真名もなんとかしたかった。だが、どうにもならず気持ちばかりが焦っていく。それに焦りは刹那の方が強かった。
というのもこの場にこのかの姿が無かったのだ。彼女はどこに? その思いが刹那を焦らせてしまう。
「く……」
 刹那が思わず舌打ちしそうになる。クラスメートや錯乱している者達を守りながら戦わねばならないというこの状況。
普通ならまだしも、相手は刹那と真名にとっては未知なる魔物。悪魔――
戦える魔法先生と魔法生徒は合せて4人いるものの、悪魔の多さや自分達の攻撃があまり効かないという状況では絶望的と言ってもいい。
どうすればいい? 刹那が思わず心の中で自問した時――
「おりゃあ!」
「ぐぎゃあぁぁぁ!?」
 いきなり誰かが飛び込んできた。
「え?」
「なんだ?」
 刹那と真名が戸惑いながら顔を向けると、そこには見知らぬ青年が悪魔の群れへと切り込んでいく所であった。
見知らぬ故にどうすればいいのか戸惑う刹那と真名。
「刹那君! 龍宮君! 無事か!」
 そこに高畑が見知らぬ少女と悪魔を引き連れてやってきたために、刹那と真名は混乱してしまった。
そりゃ、自分達に襲いかかってきたのと同種と思われる魔物を恩師とも言える人が連れてきたのなら普通は驚いてもおかしくはないだろう。
「高畑先生……あの人は……それにそいつらは……?」
「ああ、安心していい。彼らは味方だ。しかし……」
 戸惑い気味の刹那に答えつつ、高畑は彼女達の状況に思わず顔をしかめてしまう。
刹那と真名、それに魔法先生と魔法生徒が合わせて4人。それと救助対象と思われる生徒が3人。
こちらは怪我をしてたりするが無事なのでほっとしたいところであったが……
問題なのはそうでない者達である。石化や明らかに錯乱している者。中には倒れて動かない者がいる。
傍目に見てもかなり厳しい状況だったのがわかる。
「翔太君! 怪我人がいる。なんとかならないか?」
「でりゃ! わかりました! アプサラスとミュウは怪我人の治療を! 理華とルカとフロストとランタンは俺の援護だ!
オニは怪我人を守ってくれ! モー・ショボーは俺と一緒にこいつら倒すぞ!」
「わかったわ!」
「うん!」
「仰せのままに」
『まかせるホ!』
「任せな!」
「いっくよ〜!」
 理華にルカ、ジャックフロストとジャックランタン、オニが返事と共に翔太の指示通りに動き、
モー・ショボーも翔太と共に悪魔の群れへと向かっていった。
「じっとしてて。アプサラスは錯乱してる人達をお願い」
「わかりました」
「え? あ、その……」
「ああ、大丈夫だよ。ボクが安全を保証するから」
 アプサラスに指示を出しつつ治療を始めようとするミュウに刹那は戸惑い、その様子に高畑は苦笑していた。
ここまでに来る間に高畑は何度か手傷を負っている。理由はその時はまだ翔太達を信じ切れていなかった為である。
なので、翔太の情報が正しいかを確かめるためにあえて物理耐性のある悪魔に挑み、返り討ちにあって治療魔法を受けたのだ。
そのおかげもあってか、高畑は翔太を信じるようになったのだが。
「ミュウさん、錯乱した人達の治療が終わりました。ですが、石化した人達と亡くなった方の蘇生は翔太さんの道具を使わなければ……」
「ま、そこはしょうがないよ。あの様子だともうすぐ終わりそうだし、待ってよう」
「終わる?」
 アプサラスと話すミュウの言葉に刹那は首を傾げる。
アプサラスの言うとおり、錯乱していた魔法先生や魔法生徒達は正気を取り戻し、それでも状況がわからずに戸惑っていた。
それはそれとして、終わる? 自分達があれほど苦戦した相手に? 刹那がそんな疑問を感じつつ顔を向けてみると――
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」
「ぐぅ!? しつこい!」
「ぐおぉぉぉぉ!?」
 悪魔の攻撃を受けながらも倒していく翔太の姿があった。その姿に刹那と真名は驚きを隠せない。
なぜか? 翔太が素人だからだ。銃と剣を使ってはいるが、刹那に言わせれば剣はただ振り回しているようにしか見えない。
銃は真名から見ればただ向けているようにしか見えない。それなのに……なぜああも戦える?
 驚くのはそれだけではない。なんであんな動きが出来る? 動きの方も刹那と真名から見ても素人としか思えないもの。足運びとかも滅茶苦茶だ。
なのに素早いのだ。普通、あんな動きをするとなると気か魔力で体を強化しなければならないだろう。
それが常識である刹那と真名はそう思っている。だが、翔太からはそれらを使っているようには見えない。
いや、気や魔力をまったくといっていいほど感じない。ならば、なんであんな戦い方や動きが出来るのかと不思議でならない。
 ただ、刹那と真名は翔太にばかり目が行っていて気付いてないが、翔太がここまで戦えるのは理華や仲魔達の援護があってのことだ
現に理華もサブマシンガンで悪魔を攻撃し、ジャックフロスト、ジャックランタン、ルカが魔法を放ち――
オニが向かいくる悪魔達をなぎ払い、モー・ショボーがヒットアンドウェイで悪魔を倒していく。
実際、悪魔を倒しているのは翔太よりも仲魔達の方である。ただ、刹那と真名としては翔太の方が異常に見えたためにそっちに目が行き、気付いてないが。
 一方、裕奈、アキラ、千鶴は別な見方をしていた。刹那達が苦戦した悪魔を倒していく翔太を見て、戸惑いはしたものの希望を見出していた。
すなわち、助かるという希望に――
「ちょっと待ってくれ? 蘇生って……生き返らせれるのかい?」
「うん。あの人達はたぶん呪殺魔法で殺されたんだと思うよ。翔太はそんな人を蘇生出来る道具を持ってるから、安心してね」
 アプサラスとの会話でそのことに気付いた高畑が、ミュウの説明で思わず呆然としてしまう。
呪殺魔法のことはここに来る前に聞いている。喰らえばそれだけで死に至る魔法。
あの時は翔太を信じ切れなかったとはいえ、それを喰らって試してみる気は流石に無かった。それで本当に死んでしまっては本末転倒だからだ。
その上で倒れている者達はその魔法を喰らったのだろうと推察はしていた。なにしろ、傷がほとんど見あたらないのに呼吸をしていないのだ。
少なくとも心停止していると見ていい。だからこそ無念に思っていたのだが、そんな者達を生き返らせれると聞いて驚いたのである。
だが、彼らを助けられるというのなら――
「ボクも手伝った方がいいかな?」
「その必要は無いんじゃない?」
 高畑はそんなことを提案するが、ミュウはある方へと顔を向けて答える。
高畑もそこへと顔を向けると、その先では残り少なくなった悪魔に翔太が突っ込んでいく所であった。


 in side

「あ〜……やっと終わった……」
「いや、流石だね」
「仲魔達ががんばってくれましたしね」
 この場にいた悪魔達を倒しきり、声を掛けてきた高畑さんにそう言っておく。実際、悪魔を倒した数は仲魔達の方が多いしな。
それはそれとして……あれって桜咲 刹那に龍宮 真名じゃね? あっちにいるのって明石 裕奈に那波 千鶴と大河内 アキラだよな?
まさか、ここでネギま!の主要メンバーに会えるとは……いや、それはそれとして――
「翔太。石化した人と死んでる人は私達じゃ無理だから道具出して」
「あ、わかった」
 飛んできたミュウに返事をして、背負っていたリュックを下ろして道具を取り出し――
「じゃ、頼む」
「わかった」
 石化を解く石を石化させられた人数分を理華に渡し、俺はビー玉より二回りほど大きい透明な石を持って死んでいる人のそばに行き――
「う、嘘……」
 刹那が目を見開いて驚いてます。真名もわずかながらに驚きが顔に出てるように見えるな。
というのも、死んだ人の体に玉を置くと、その玉が輝いて……輝きが消えると死んだ人達が目を覚ましたのだ。
うん、俺も驚いたよ。この玉……道返玉だったっけ? 本当に死んだ人生き返らせれるんだね。
条件があるとはいっても、本当に生き返るのを見ると驚くよね。
「あ! もう、傷だらけじゃない! ディア」
 で、俺の怪我に気付いたミュウが治療魔法を掛けてくれる。まぁ、ここの悪魔と戦って無傷とはいかなかったしな。
けど、ちょっとばかり重い気分で死んだ人が生き返ったことで驚いたり喜んでたりする人達を眺めていた。というのも――
「あの、どうなされたのですか?」
「いや、赤字だなぁ〜と思っただけだ」
 千鶴にそう答えておくが……俺は少し落ち込んでいた。つ〜のもね、使った道返玉の数は3個。言っとくが道返玉は高い。
目が飛び出るほどでもないが、決して簡単に買えるような金額じゃないのだ。
それを3個……しょうがないとはいえ、結構懐具合が痛いのよ。
まぁ、喜んでるようだし、それで良しとしておこう。そう思わないと色々とやるせないのよ。
「え? あれって、売ってるのかい?」
「安くはないですけどね……」
 俺が答えると聞いてきた高畑さんはポカンとしてしまうが……
まぁ、条件があるとはいえ、人を生き返らせるものが売ってるなんてのは普通は信じないわな。
「あ、私は龍宮 真名。こっちは桜咲 刹那だ。助けてもらったことには感謝するけど……あなたは?」
「え? ああ、俺は相川 翔太だ」
「私は谷川 理華よ」
 と、自己紹介してくれる真名と紹介されて頭を軽く下げる刹那。俺達も一応名乗っておく。
「あ、私は那波 千鶴といいます。助けてくださって、本当にありがとうございました」
「あ、ありが……とう……」
「ありがとう……ございました」
「裕奈ちゃん、アキラちゃん……ごめんなさいね。彼女達も別に悪気があったわけじゃ……」
「いや、しょうがないと思うけどな」
 自己紹介してくれた千鶴であったが、それとは逆に裕奈とアキラは怯えているように見える。
まぁ、リアルで命が危なかったんだ。怖がらない方がおかしいって。それに良く見ると千鶴も若干怯えてるようにも見えるしな。
「ところで相川さんは何者なんだい?」
「翔太でいいよ。何者と言われても……サマナーとしか言いようが……」
「サマナー?」
「ミュウ達みたいなのと仲魔になって戦ってもらってるもんだと思ってくれればいいよ」
 真名に聞かれて答えるのだが、刹那が首を傾げたんでミュウ達を指さしてそう言っておく。
「サマナーね……聞いたこと無いけど。それにどうしてここに?」
「いや、まぁ……これをなんとかしに来たって所……かな?」
 更に真名に聞かれて、思わず顔が引きつりながら答えた。いや、世界が崩壊しますとか言っても信じられないだろうしね?
「翔太君、これからどうするんだい?」
「ああ……とりあえず、奥に行ってみます。この異界をなんとかしないといけませんし」
 高畑さんに聞かれたんでそう言っておく。この異界をこのままにしておくわけにもいかないしな。
ていうか、異界をこのままにしておくとやばいような気がするし。
「そうか……ボク達は生徒達を連れて戻るよ。彼女達を連れていくわけにもいかないしね」
 と、千鶴達に顔を向けながら高畑さんはすまなそうに言うのだが……これもしょうがないだろう。
なにしろ、ここは何があるかわからない。それに彼女達を守りながら戦えるかといえば……キッツイよなぁ〜。俺も1回経験したことあるし。
「あ、あの……一緒に行ってもいいでしょうか?」
「は? なんで?」
 と、刹那がいきなりそんなことを言い出しました。すまなそうな顔をしうてるけど、なんでさ?
「その……お嬢様が……私が護衛している人なのですが、この中にいる可能性があるのです」
「なんだって?」
 刹那の話に高畑さんが驚いたような顔をしているけど……お嬢様って、あれか? 近衛 木乃香か?
なんでここにいるのかすっげぇ疑問だけど、それってヤバくない? 色んな意味でさ。
「本当なのかい?」
「ええ、姿が見えなくてあちこち探したのですが……もしかしたらと……」
 高畑さんの問い掛けに刹那が申し訳なさそうにしていた。
そういや、刹那はマンガの序盤では自分の正体を知られるのが怖くてこのかから離れてたんだよな。
それで見失ったと……こういうのって、ひと言言っておいた方がいいのかな?
「そうか……翔太君。悪いのだけど、ボクからもお願いしていいだろうか?」
「ああ、別にそれくらいなら……」
 高畑さんの頼みに後頭部を掻きつつ答えた。実際、この異界の中はどこに何があるかわからんし。
歩き回ることになるだろうから、そのついでに探し回ってもいいだろ。刹那も確かそれなりに戦えるはずだし。
「ありがとうございます。真名、すまないが――」
「そういう依頼だろう? 私も付いていくよ」
 顔を向ける刹那に真名は肩をすくめていた。話を聞く限りじゃ真名も付いてくるのは決定済みのようだな。
「じゃあ、ボク達は行くよ」
「あ、待ってください。普通に歩いたんじゃ迷うと思いますんで」
 高畑さんを呼び止め、GUMPを開いてオートマッピングを見せる。
戦ってここまで来たんで気付かなかったけど、歩いた距離はそんなに長くはないみたいだな。
で、それを見た高畑さんはうなずくとメモ帳にメモっていたけど。あ、そうだ。
「それと流石に多くは渡せませんが――」
 ついでに魔石を10個ばかり高畑さんに渡しておく。
ストックはあるとはいっても、この異界のことやネギま!の世界からボルテクス界の家に戻る時などを考えるとあんまり多くは出せないんだよね。
でもまぁ、この異界にいる悪魔の対処法は高畑さんにも教えたし、魔法先生や魔法生徒もいるから早々やばいことにはならんだろ。
魔法先生や魔法生徒がやられてたのは対処法知らなかったのが原因だろうし。魔石は何度か使ってるから、高畑さんも使い方はわかるだろうしな。
「すまないね。じゃあ、後は頼んだよ」
「はい、高畑さん達も気を付けて」
 手を振り、振り返って去っていく高畑さん達を見送った後、俺はふっと息を吐き――
「そんじゃ、俺達も行こうか?」
「はい」
「そうだね」
「よろしく頼むよ、翔太さん」
 刹那に理華の返事の後に真名にそんなこと言われたんだけど……でも、大丈夫かな?
な〜んて、そんなことを考えつつ、俺達は先へと歩き始めたのだった。


 out side

 2度ほど悪魔の襲撃を受けた翔太達であったが、異界の探索は順調に見える。
そんな中、刹那はふと翔太を見てしまう。というのも――
「も〜、なんでこんなに複雑なのよぉ〜!」
「そうだよなぁ……ていうか、迷路になってないか?」
「いっそのこと森ごとなぎ払うか?」
「それで1回失敗しなかったっけ?」
 なんてことをミュウと一緒にGUMPを見ながら話し合う翔太。オニにはしっかりとツッコミまで入れている。
ミュウ達がボルテクス界に存在する悪魔というのはここに来るまでに刹那と真名も簡単にだが話を聞いている。
それはいい。ただ、刹那にとって疑問なのが、なぜ翔太はその悪魔とこうもたやすく話が出来るかであった。
ミュウやルカ、アプサラスにモー・ショボーなどはまだしも、オニやジャックフロストやジャックランタンはどう見たって魔物だった。
まぁ、ジャックフロストとジャックランタンは魔物としては可愛すぎるが……それでもその実力は侮れないものがある。
なのにそんな悪魔達と翔太は普通に話している。刹那にとって、それは信じられない光景であった。
「どうかしたの?」
「え? あ、いや……その……」
 不意に理華に声を掛けられて、刹那は戸惑った。それでも翔太へと視線を向け――
「翔太さんはなぜ、悪魔とああも話が出来るのだろうかと……」
「ま、仲魔だしねぇ〜」
「仲間……ですか?」
 ああといった感じで理華が答えるが、問い掛けた刹那はといえば首を傾げる。
仲間……ただ、それだけで? 刹那としてはそれだけの理由で翔太が悪魔とああまで話せるとは思えなかった。
故に悩む。翔太はどうしてああいられるのかと。もし、自分の正体を知ったら、翔太はどう思うのか……
「まぁ、悪魔と言っても色々といるけど、私は人間とあまり変わらないと思うなぁ」
「え?」
 と、理華のその言葉に刹那は驚く。悪魔が人間と変わらない? そんなことはない。だって、姿は違うし力だって――
「ああ、姿とかじゃなくてね。考え方とか人間に似てるなぁ〜って思うのよ。
まぁ、流石に全部が全部ってわけじゃないだろうけど。少なくともミュウ達を見てるとそう思うわ」
 そんなことを言いつつ、理華はミュウに視線を向ける。確かに襲ってくる悪魔はたくさんいる。
でも、逆に悪魔の中には話してわかる者もいる。翔太の仲魔となった悪魔達がそうだ。
「確かに悪魔の多くは私達をののしるわ。世界を堕落させたって」
「世界を堕落……とは?」
「ん〜……ちょっと説明が難しいんだけど……悪魔が言うには弱いくせに世界を汚したとか言ってるけどね」
 刹那の問い掛けに理華は困ったように答える。悪魔から見たら人間は弱者。
なのに、我が物顔で世界に君臨し、平気な顔で世界を汚すのが気に入らない。大体はこの理由で悪魔は人間を嫌悪している。
確かに悪魔の言い分もわからなくはない。それを言われた時、理華も思わず考えさせられてしまった。
悪魔と戦うが故に悪魔の強さはわかっている。だからこそ、思わず思い知らされそうになった。
「そんな時にね。翔太はなんて言ったと思う?」
「えっと……なんて言ったんですか?」
「そんなの知るか……って言ったのよ」
「はい?」
 苦笑しながら話す理華だったが、聞いた刹那は目が点になっていた。話を聞く限りじゃ、どう考えても悪役のそれである。
聞いていた真名ですら呆然といった様子であったし。
「なんですか、それ?」
「私も聞いたわよ。そしたらこう言ったの。そんな理由で殺されても困るって」
 戸惑う刹那であったが、苦笑する理華の言葉に思わず絶句しそうになる。翔太も深い考えがあってのことではない。
身に覚えが無いと言えば嘘になるかもしれないが、そんなことを言われても困るというのは彼の本音だ。
みなさんは何かをしている時にいきなり文句を言われて困ってしまった。なんて経験はないだろうか?
翔太としてはそんな心情に近かったのである。
「でもね、それで思ったのよ。悪魔の言ってることも自分勝手なことなんだって。でも、それは私達も一緒でしょ?」
「それは……」
 理華の言葉に刹那は何も言えなくなる。確かにそうなのかもしれない。
自分がこのかから離れていたのは、自分の都合でしか無かったから……
でも、あのことを知られたらこのかにどう思われるのか……その怖さがあったのも事実であった。
「私からもいいかな? 翔太さんは何のために戦っているんだい?」
「ん〜……翔太はね。知り合いに傷付いて欲しくないって思ってるの。そういうのを嫌がるの、翔太は……
後は……自分が死にたくないってのもあるわね」
「は?」
 理華の話に問い掛けた真名の目が点になった。知り合いに傷付いて欲しくないというのはわからなくもない。
だが、自分が死にたくないというのはわからない。悪魔との戦いはまさしく命のやりとりと言ってもいい。
なのに、死にたくないと言っているのに、なぜそんなことをしているのか? 真名には理解出来ない。
「なんだいそれは? 死にたくないなら、なぜ戦うんだい?」
「それは……後にしましょう。そんな暇は無いみたい」
 真名が呆れた様子で問い掛けるが、理華が答えようとした時に悪魔達の襲撃が来てしまった。
「ああ、そのようだね」
 その様子にやれやれと思いつつも真名はライフルを構える。
翔太達のおかげで悪魔の対処の仕方は覚えたが、それでも油断出来ない相手であるのは間違いない。
だからこそ、刹那と真名は油断無く悪魔を見据えていた。
「これが終わったら、話の続きを聞かせてもらうよ」
「ええ、いいわよ!」
 理華が真名の言葉に答えると同時に戦いが始まる。今は戦おう。この事態を終わらせるために。
そして、話の続きを聞くために……だが、話の続きを別の場所ですることになるとは、この時刹那も真名も考えもしなかった。
なぜなら、彼女達は気付かなかったのだ。目的の1つに近付きつつあったことに――



 あとがき
前回はあとがきを書き忘れてました。申し訳ありません^^;
というわけで、麻帆良異界編。高畑から刹那と真名にバトンタッチし、更なる奥地へ。
そこにあるのは一体なんなのか? そして、GUMPに埋まっていた詳細不明の欄が意味する物とは?
次回はそれが明かされると共に麻帆良異界編最終回。
冒険とは出会いがあり、同時に……それを翔太はどう思うのか?
謎が謎を呼んでますが……纏められるんだろうか、私^^;
というわけで、次回をお楽しみに〜



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