out side

「まったく……じゃあ、死ぬなよ!」
 呆れた……と見えた瞬間、ランサーは槍を突き出していた。手加減した……それでも、槍の速度は常人には捕らえられない。
この時、ランサーには翔太がただの人間に見えていた。魔力はまったくと言っていいほど感じない。
しかも、動きは素人くさい。これで死んだら運が悪かったと思え……それがランサーの考えであった。
「な!?」
 翔太にその槍を剣で払われるまでは……
「うおぉぉぉぉ!」
「ぬお!?」
 更にとどめとばかりに振られた剣。
剣を払われたことに驚いていたランサーはまた驚きながらもそれを体を後ろに反らすことでかろうじて避けるが――
「逃すかぁ!」
「なにぃ!?」
 翔太も逃すまいと間合いを詰める。ランサーから見ても瞬時にとも言える間に。
翔太としては必死だった。ランサーには勝てないと考えている。だから、攻めて攻撃させないようにと考えての行動であった。
「うおお!」
「くっ! てめぇ、人間かよ!?」
 そこから振られる剣を槍を盾にすることで防ぎながら、ランサーは思わずそんな感想を漏らしてしまう。
もっとも、キャスターとしてもランサーと同意見であったが。というのも――
「なによあれ……なんで、あんな動きが出来るのよ……」
 戦う翔太の姿を見ながら、キャスターはそんなひと言を戸惑いがちに漏らした。
ランサーから見ても、キャスターから見ても、翔太の戦い方はありえない。
ランサーから見れば、翔太の戦い方は素人のケンカだ。そこは元々一般人であり、武術を習ったことの無い翔太なら当然とも言える。
なのに、そういう素人のケンカにありがちな大振りが少ない。全くないわけではないが、本来大振りになりそうな動きがそうで無くなっている。
また、大振りな攻撃も流れるような動きで即座に追撃が来る。普通では考えられない動き故にランサーは戸惑っていたのだ。
翔太のこの戦い方は悪魔との戦いで覚えたものだ。隙がどうとかでは無く、相手よりも早く攻撃する。
素人故に深く考えずに思いついた戦い方。それを実行しようとして今のような形になったのである。
なお、決して隙がどうとかそういう考えは翔太には無い。しつこいようだが、翔太は戦いに関しては素人なのだから当然とも言える。
 そして、ランサーが戸惑うもう1つの理由。これはキャスターも同じ理由なのだが……翔太が魔術を一切使っていないということであった。
翔太が魔術を使えるはずが無いので当然とも言えるが、実はランサーもキャスターも翔太を魔術師と誤解している。
理由としてはまずキャスターや仲魔達を連れていることが上げられる。サーヴァントを従える者は基本的に魔術に関わっているからだ。
なお、葛木 宗一郎の場合は特殊な例外ではあるが……これらの理由でランサーとキャスターは翔太を魔術師を勘違いしていたのである。
だから、魔術を使わずにこのような動きを実現する翔太は2人から見てありえなかった。
 そう、2人は知らない。翔太はボルテクス界で数々の悪魔と戦い、この戦い方を身に付けていったことを。
2人は知らない。ボルテクス界に満ちた生体マグネタイトのせいで、翔太の体はありえないほどに強化されていることに。
しかし、これで翔太が勝てるかといえば、そうではない。
「なろぉ!」
「おわぁ!?」
 ランサーが突きだした槍を翔太は身をよじらせてかろうじて避ける。
実を言えば、翔太の現在の力はランサーとなんとか戦える程度でしかない。
先程までは不意打ちまがいのおかげで戦いの主導権を握れていたが――
「おらぁ!」
「ぬお!?」
 ランサーとて英霊であり、戦いの経験は翔太を遥かに上回る。
故に冷静さを取り戻せば、今のように攻守逆転させるのも難しくは無い。
そして、翔太は必死だった。ランサーが持つ槍の効果を思い出したからである。
ランサーが持つ槍で傷を負うと、治療魔法での治療が出来なくなることを――
「ちょっと!? 援護無しっすか!?」
 なので、翔太は必死に助けを求めた。なにしろ、援護であるはずのキャスターはただ呆然と見ているだけなのだから。
「え? あ……くっ!」
 一方のキャスターはといえば翔太の声で正気に戻るが、魔術を行使しようとしてその手が止まる。迫るランサーの槍を避けるために……
そう、ランサーは翔太と戦いながらキャスターに近付いていたのだ。ランサーはマスターの命令で全てのサーヴァントと戦うように言われている。
ただし、あくまでも偵察として……その理由で力を制限されてしまっている。
まぁ、力を制限された理由はなんであれ、ランサーとしてはキャスターと戦う必要があったが、ここで翔太が邪魔をする形となった。
そこでランサーは戦いながらキャスターに近付き、自分の攻撃範囲に入れたのである。
こうすればキャスターが魔術を使おうとも対応出来る。そんな算段がランサーにあったのだ。
「く! 落ちなさい!」
 キャスターとてただやられるつもりはなく、お返しとばかりに光の柱のような魔力を4つを即座に放つものの――
「は! 当るかよ!」
「くぅ!?」
 ランサーはあっさりとかわし、即座に翔太に向かっていく。
翔太は突き出される槍をなんとか剣で受け流し――
「きゃ!?」
 振られる槍をキャスターは後ろに倒れながらもかろうじて避けるが、戦いは完全にランサーのペースとなっていた。
このまま行けば、翔太達はいずれ――
「ね、ねぇ……あれって、まずくない?」
「なるほど……サーヴァントもそれぞれだろうが、大体はわかった。クー・フーリン、手助けしてやれ」
「あいよ!」
 その様子に理華はそんなことを想像しつつ青くなっていたが、スカアハはといえば腕を組んで様子を見ていたかと思うとそんな指示を出した。
それにクー・フーリンが返事をしながら駆け出し――
「は、もら――」
「わりぃがそうはさせねぇよ!」
「な! く!?」
 槍を突き出そうとしたランサーだったが、クー・フーリンの突き出される槍に驚きながらも身をよじる事で避け、後ろへと跳び退いた。
「てめぇ……邪魔する気か!?」
「は、何勘違いしてやがる? まさか、手を出されないとでも思ったのか? あいにくだが俺達はそれほどあまかねぇよ。
それとも自分1人で俺達の相手が出来るとでも思ってたのか?」
「出来ればもっと早く助けて欲しかったんだけど……」
 睨みつけるランサーだが、クー・フーリンも槍を肩に抱えつつ言い返す。翔太は呆れていたが……
確かにクー・フーリンが言うことをランサーは考えなかったわけではない。
しかし、マスターから受けた命令を実行しなければならず、半ば無謀とわかりながら手を出したのだ。
本音を言えば、ランサーとしては手を出したくはない。だが、この聖杯戦争で使われる令呪に縛られているために実行しなければならなかった。
 だが、今のでキャスターと戦うことが出来た。不完全かもしれないが、命令は一応出来たことになるだろう。
ならば、この場は一旦逃れよう……ランサーがそう考え始めた時――
「クー・フーリン、少し相手をしてやれ」
「は、言われなくてもそのつもりだよ」
「なに?」
 スカアハの指示にやる気満々といった様子のクー・フーリン。だが、それを見ていたランサーの顔付きが変わる。
まるで怒りがこみ上げてくるかのように――
「貴様がクー・フーリン……だと?」
「あ、そういやランサーもクー・フーリンじゃなかったっけ?」
 睨みつけるランサーが漏らしたひと言に、翔太が思い出したかのようにそんなことを漏らした。
「貴様!? なぜわかった!?」
「あ、いや……」
「まったく、相手を怒らせてどうする」
 射貫くかのように睨みつけるランサーに翔太は顔を背けつつ困った顔をし、スカアハはその様子に呆れてしまっていた。
まぁ、なにかしらヒントが出ている状態ならまだしも、最初から知っていたような言い方をすればランサーのような反応をしてもおかしくはない。
それに気付いた翔太はばつの悪そうな顔をしてしまう。
「おいおい、てめぇの相手は俺なんだがな?」
「く……貴様、本当にクー・フーリンなのか?」
「ああ……ま、そうなるな……」
 呆れるクー・フーリンだが、睨みつけるランサーの問いに意味ありげな笑みで答える。
だが、ランサーは納得しなかった。なぜなら――
「ありえねぇ……だって、貴様は女だぞ!?」
「あ〜……それは俺にもわかんねぇんだが……元々は男だってのに……」
 ランサーの怒鳴り声にクー・フーリンは呆れたようにため息を吐いた。
ちなみに悪魔としてのクー・フーリンも本来は男である。しかし、シンジの趣味によって女にされてしまったのだが……
それを知らないクー・フーリンとしてはそう答えるしかなかった。
「ふ、ざけてんじゃねぇぞ!?」
 叫びと共にランサーは槍を突き出す。それはまさしく弾丸。
翔太がランサーに押されたのは技量の差もあるが、身体能力の違いが大きいだろう。
確かに翔太の体はボルテクス界の生体マグネタイトによって強化されているが、それでも現段階ではランサーには敵わない。
また、繰り出される槍は弾丸の如く速く、マシンガンのように連撃となって襲いかかる。
いかに悪魔と戦ってきた翔太といえど、そんな攻撃をされては1人で戦うには厳しかった。
「ふざけてるつもりは――」
 そんなランサーが突き出した槍をクー・フーリンは体を反らすことで避ける。手に持つ槍を構えながら――
それを見たランサーは隙ありとばかりに槍で払おうとして……何かが背筋を奔った。
「ねぇぜ!!」
「ぬお!?」
 突き上げるかのように繰り出されるクー・フーリンの槍。
ランサーも体を反らして避けようとして、その衝撃にバランスを崩しそうになった。
「つ、くそ!」
 そのことにランサーは悔しそうにしながら大きく跳び退く。
ランサーは確かに驚異的な身体能力をしている。それこそ、現段階の翔太すらも上回るほどに。
英霊によっては人としての高みを極めた者がいる。ランサーはその1人と言っていい。
そう人にとっては……人には驚異的な身体能力も悪魔から見ればそれなりでしかない。
クー・フーリンは英霊では無く、悪魔。故にその身体能力は大きく異なる。
しかも、元々オニであった名残なのか、身体能力は悪魔の中でも上位にいたるほどだ。
その2つが合わさって放たれた槍の一撃は砲撃。そんなのをまともに喰らえば――
「なんなんだ……てめぇ……」
「さて、なんだと思う?」
 睨みつけるランサーにクー・フーリンは挑発的な笑みを向ける。
「ふざけんなぁぁぁぁぁ!?」
 それを見たランサーはキレ、弾丸の如く飛びかかる。そのまま、槍を突き出すがクー・フーリンは持つ槍でそれを反らし――
「うおおぉぉぉぉぉ!?」
 それがどうしたとばかりにランサーは槍を突きまくる。まさしくマシンガンの如く連続で。
「は! やるな!」
 クー・フーリンも槍を盾にしれ防いだりランサーの一撃を反らしたり、身をよじり避ける。
当らない。マシンガンの如く連打される槍の突きが、クー・フーリンに当たることが無い。
「っ! そこぉ!!」
 そのことに舌打ちしそうになるランサーだったが、不意に見つけた隙を逃さずに槍を突き出す。
その一撃は真っ直ぐとクー・フーリンの右肩を捕らえ――
「な!?」
「まぁ、賭けだったが……上手くいったか」
 その事実にランサーは驚愕し、クー・フーリン少し顔をしかめながらもほっと息を吐いていた。
ランサーの一撃は……クー・フーリンの右肩を貫くはずだった一撃は……防がれていた。
いや、それは正確では無い。正確にはランサーの槍はクー・フーリンの右の肩当てを貫くことなく止まっていた。
「なんだ、そりゃあ……」
「まぁ、なんだ。俺とお前とじゃ相性が悪すぎるって所かな?」
 驚愕といった表情を見せるランサーにクー・フーリンは大したことないとばかりに答えた。
種明かしをすれば、悪魔特有の耐性によるものだ。クー・フーリンは物理耐性を持っている。
そして、その耐性をランサーの槍は貫くことは出来なかった。英霊が持つ槍なのだから、ただの槍ではない。
いわゆる神秘という名の力が込められた武装。しかし、その神秘はクー・フーリンの物理耐性を貫くにはわずかながらに力が足りなかった。
それがこの結果となったのである。もっとも、これはクー・フーリンとしても賭けの意味合いが強かったが。
というのも物理耐性はあくまで耐性であり、それを上回る攻撃をされれば貫かれる可能性もある。
現に物理耐性持ちの悪魔が物理攻撃で倒された例も少なくない。そこが不安であったが、今回はクー・フーリンが賭けに勝つ形となった。
「くっそぉぉぉぉぉ!?」
 そのことを知らないランサーは起きたことに激昂し、大きく跳び退いて――
「ぬお!?」
「悪いがそれはさせぬよ」
「余計なことするんじゃねぇよ、スカアハ」
 その銃撃を避けるために更に跳び退くランサーを睨みつけるスカアハ。スカアハは気付いたのだ。
ランサーがなにをしようとしたかを。それで止めようと撃ってきたのだが、そんな彼女をクー・フーリンは睨み――
「馬鹿者。あれを出されたら、お前でも危ないわ」
「スカアハ……だと……」
 呆れるスカアハをランサーが睨みつける。ありえない。それがランサーの考え。なぜなら――
「いかにも、私の名はスカアハ……もっとも、お前が知る者とは別人だがな」
 その意味を察したスカアハが視線を向けながら答える。
先程、翔太が言っていたが、ランサーの真名はクー・フーリン。悪魔としてではなく、英霊としての。
ここまで言えばわかるだろう。クー・フーリンはスカアハとは師弟の関係なのは以前にも話したことだ。
だからこそ、ランサーにとってスカアハの名はある意味深い思い入れがあり――
「貴様……ふざけてるのか!」
「そのつもりはない。わけあってとはいえ、スカアハが今の私の名のだからな」
 睨みながら叫ぶランサーにスカアハは静かに答える。ランサーとしてみれば、ここにいるスカアハは赤の他人。
そんな者にスカアハの名を軽々しく名乗って欲しくはなかったのだ。
 そして、この時スカアハの言葉の意味に気付いた者はいなかった。
「それはそれとして、続ける気かな? そうだとすれば、我々もそれなりの対処をさせてもらうがね」
「く……」
 首を傾げながらも言い放つスカアハ。ランサーは睨みながらも一歩後ずさる。現状、ランサーは不利であった。
数もそうだが実力で見ても翔太は侮れないし、クー・フーリンにいたっては自分と対等かそれ以上。
他はわからないがただ者では無い可能性は高い。現状、ランサーが勝てる要素はあまりにも少なすぎた。
「ち……この場は退いてやる……だがその心臓、いつかはもらい受ける!」
 故にランサーは撤退を決意する。すでにキャスターと戦うという目的は一応達している。
もちろん、悔しくもあった。この場にいるスカアハを槍で貫きたいほどの怒りもあった。
だが、飛びかかりたいまでの衝動を抑え込み、翔太達を睨みつけてからランサーは飛ぶかのようにこの場を去っていくのだった。
「ふむ、流石に退いたか」
「俺としてはもう二度と戦いたく無いけどな」
 見送るスカアハに翔太は嫌そうな顔をしながら同じく見送っていた。
まぁ、一度や二度では無いとはいえ、命の危機を感じたのだ。普通なら、翔太のように思っても仕方がないだろう。
「それで……いつまで見ているつもりかな?」
「はい?」
 ふと、どこかに視線を向けるスカアハに翔太は首を傾げるが――
「ふむ……認識阻害を掛けていたはずなのだがな」
「私としては逆効果になっていたがね」
 そんな声が聞こえたかと思うと、スカアハはとどこかに顔を向けながら答えていた。
翔太もそこへと顔を向けるとそこには3人の人影があった。1人はどこかの学校の制服を着た赤毛の髪の青年。
もう1人は和服に革ジャンを羽織る少女。もう1人はくすんだ赤毛をポニーテールにしたメガネを掛ける女性であった。
「あ〜!? 衛宮 士郎に両儀 式!? それに蒼崎 橙子!? なんでいるのさ!?」
「え? なんで俺の名前を……」
 その者達を見て、翔太は思わず指を差しながら叫んでしまう。そのことに青年は戸惑うが、少女と女性は逆に睨みつけていた。
初対面であるはずの者からフルネームを呼ばれたのだ。青年達のような反応は当然かもしれない。
「馬鹿者……」
 このことにスカアハは呆れていた。なにしろ、翔太のせいで場が険悪になってしまったのだから。
しかし、翔太としては仕方が無かった。青年達の名前を知っていたのはキャスターと同様の理由だ。
青年こと衛宮 士郎はFateという物語の登場人物であり……そして、それ故に翔太は驚いたのである。
少女の名は両儀 式。女性の名は蒼崎 橙子。2人は空の境界という作品の登場人物であり――
本来ならば、この場にいるはずのない者達なのだから……



 あとがき
さて、ランサー戦はうやむやの内に終了し、次に現われたのはFateの主人公である士郎。
そして、本来ならばこの場にいないはずの人物、両儀 式と蒼崎 橙子。なぜ、この二人がここにいるのか?
にしてもランサー戦は……う〜ん、微妙だっただろうか? ちょいと能力面で悩んだのですが……大丈夫かな?
で、次回はまたもや幕間です。最近多いですが……これ挟まないとダメだよね、やっぱ^^;
お話の方はなぜ、士郎、式、橙子がこの場にいるのか? そんなお話です。
彼らがここにいるのはある者の暗躍の結果であった。次回はあの人が色々としています。
そんなわけでお楽しみに〜



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