out side

「はぁ……」
 寝室に1人いた理華はため息を吐いていた。というのも――
「うう、最近役に立ってない……」
 という不安があったからである。事の発端は士郎の世界へ通じる穴周辺で行われている修行にあった。
基本、理華は銃や魔法によるサポートを主としてるが、その周辺ではそれが発揮出来ずにいたのだ。
というのも銃は撃っても悪魔の動きが速すぎて中々当らず、魔法もその周辺の悪魔には対した威力になっていないからだ。
むろん、このままではいけないと理華なりに努力はしているのだが……今の所、その成果は出ていない。
スカアハに相談しても「無理矢理力を得ようとすれば、翔太の二の舞になるぞ」と言われてしまい、
焦らずに努力しろと言われてしまうのだが……それが理華を逆に焦らせていた。
 原因は翔太にある。翔太は生体マグネタイトの影響で、なんの補助も受けずとも悪魔に立ち向かえる力を得た。
しかしそれは体に負担を強いるものでもある。現に町に戻れば権三郎の整体を受ける毎日となっていた。
無理をさせないために翔太と共に戦っているのに……自分のせいで逆に無理をさせているような気になってしまう。
それに以前リニアスの襲撃を受けた際、戦ったリリスに惨敗した経験が不安を強めていた。
どうにかならないものか……と、理華は悩む。故に気付かなかったのかもしれない。
右頬に刻印のような物が一瞬浮かび上がったことに――


 一方、リビングでは――
「どうしましょうか……」
「けど、合体なんて嫌だし……」
「私も翔太様にやめておけと言われてますから……」
 シルフの疑問にモー・ショボーは不満そうに頬を膨らまし、ルカも落ち込んだ様子で答えていた。
彼女達も理華と同じ悩みを抱えていたのである。彼女達は決して弱いわけではない。
むしろ、翔太と出会った頃よりも強くなっている。だが、士郎の世界へ通じる穴の周辺にいる悪魔と比べると見劣りしてしまうのが実情だ。
まぁ、これは種族的なものと個々の能力が関係している。
シルフの場合、合体事故の影響か人間台の大きさになれたものの、種族的に力がそれほど強いわけでも無いので物理攻撃がやや苦手。
魔法は攻守にバランスが取れているが、威力が高い魔法が未だに習得出来ていなかった。
モー・ショボーの場合は物理攻撃・魔法攻撃共に行えるものの、決定力不足が目立ってしまう。
ルカは基本的にサポート系の魔法が主で、攻撃魔法が苦手であった。
 今の段階からすぐに力を得るとしたら悪魔合体しかないのだが、3人ともそれが出来ない。
シルフの場合は合体事故でトラウマが出来たのか合体を嫌悪しているし、
モー・ショボーは合体してしまうと自分が自分で無くなってしまう気がして嫌がっている。
ルカの場合は翔太がルカの姉であるリョカとの約束で許可してくれなかった。
「私達もフロストやランタンみたく進化出来ればいいのだけど……」
 ふと、シルフは首に下げるペンダントをいじりながら、そんなことを漏らしていた。
フロストとランタンが進化して今の姿になったのは記憶に新しい。
その原因の1つにこのペンダントの効果があるらしいのだが……今の所、その兆候が自分達に現われていない。
自分達もフロストやランタンのようになれたら……などと、自分が下げるペンダントを見つめつつ、そんなことを考えてしまう彼女達であった。


 in side

 さて、士郎達がボルテクス界に来て4日目の朝――
「どうも、毎度お馴染み文々。新聞で〜す」
 朝食を取る俺達の前に烏天狗が現われました。
「帰れ」
「ちょ!? それってひどくないですか!?」
 なんてひと言を言ってしまった俺は悪くないと思いたい。ていうか、なんで文がここにいるのよ?
ちなみにいきなりの帰れ宣言に文はビックリしているようである。隣にいるツインテールにエルフ耳な少女は呆れてたけど。
ていうか、あんた誰? 服装と背中の翼は文に似てるんで烏天狗かもと思うのだが……
「ていうか、なんでお前がここにいるんだよ?」
「ところで彼女達は誰なんだい?」
 とりあえず、ここにいる理由を聞いてみたら橙子さんに聞かれてしまいました。まぁ、初対面だし、しょうがないか。
「彼女は幻想郷という世界から来た烏天狗で、射命丸 文って言います」
「烏天狗? 悪魔とは違うのかな?」
「いえいえ、私はれっきとした妖怪ですよ。そして、文々。新聞を発行している記者でもあるのです」
 俺の紹介に橙子さんはそんな疑問を感じたようだが、そこは文が手を振りつつ答えていた。
そういや、妖怪と悪魔ってどう違うんだろうか? いや、なんとなく気になっただけなんだけどね。
「妖怪……ね……その辺りは後で詳しく聞くとして、彼女は?」
「ああ、俺も初めてなんですけど……」
「初めまして〜。私、花果子(かかし)念報っていう新聞を作ってる姫海棠(ひめかいどう) はたてで〜す。よろしく」
 なにやら興味津々といった様子の橙子さんに聞かれるが、俺も初対面なんで答えに困ってるとはたてが自己紹介してくれました。
しっかし、なんか軽い調子な子だよなぁ……それはそれとして――
「で、何しに来たの?」
「決まってるじゃないですか。取材ですよ」
 俺の疑問に文は清々しいまでににこやかな笑みで答えてくれました。
うん、なんだろうね? 俺としてはうさんくさく感じるのは?
「取材って……ていうか、どうやってここに来たのさ?」
「はい、翔太さんが関わっている異変のおかげで新聞が盛り上がったのですが……ここ最近、新しい情報が無くて……
そこで考えたのです。翔太さんを取材すればいい記事が書けるのではないかと。
それで紫さんにお願いいたしまして、あっさりと了承をもらえましたのでこうしてきたわけですよ」
 俺の疑問にそれはもう清々しいまでのにこやかな笑顔で話す文。もう、あまりに清々しかったので――
「やっぱ帰れ」
「なんでですか!?」
 なんて言ってしまった俺は悪くない思う。文が驚いてるが……なんてぇか、なぁ……
すっごく嫌な予感しかしないのはなんでなんだろうな?
「ひどいじゃないですか! 私が何をしたというのですか?」
「なんとなく嫌な予感しかしないから」
「ひど!?」
 答えてやると聞いてきた文はうろたえた様子で驚いていた。器用だな、おい。
でも、なんでこう嫌な予感しかしないんだろ? やっぱ、あれか? 二次創作のSSとか読んでたせいだろうか?
そういう感じが強くってさぁ……なら、しょうがないよね?
「で、はたてだっけ? あんたも取材か?」
「もちろん! なんか、私の新聞の情報が古いとか言われてさぁ〜。
なんとかならないかな〜と考えてたら、文があなたに会うっていうから取材してみようと思って〜」
「勝手に付いて来たんですよ。まったく、どこから話を聞いたんだか」
 とりあえず、気になったんで聞いてみたら、はたては軽い調子で答えてくれました。
文がすっごく呆れてたけどな。けど、情報が古いって?
「情報が古いって、新聞は普通新しいことを書くもんじゃないんですか?」
「彼女は念写で撮影して、それを元に記事を作るんですが……撮影出来るものは誰かが見たことあるようなばかりなのですよ。
そのせいで古いとか言われてるんです」
「なによ〜。文だって、つまんないとか言われてるじゃん!」
「何言ってるんですか!? 私は直接出向いて取材してるんです! あなたのような妄想新聞とは違うんですよ!」
「なんですってぇ〜!?」
 士郎に聞かれて文が答えるんだが、それが気にくわなかったらしいはたてが文句を言い、そのことに文が怒り出す。
うん、あんたら。ケンカは余所でやってくれ。まったく、どうしたもんか――
「ごめんください……ここって、相川 翔太さんの家ですよね?」
 なんてことを考えてたら下の方でそんな声が聞こえてくる。こんな朝っぱらから誰だろうと思いつつ、俺は下に行き――
「は〜い、どなた?」
「え、あ……はい! ボクはウィルナード・ホープキンス……ウィルって言います……
その……サマナーギルドの要請であなたを迎えに来ました!」
 と、緊張した様子でウィルという少年。いや、見た目は本当にそう見えるんだって。
背は俺より低いし、短い金髪に青い瞳を持つ顔も童顔といってもいいし。間違いなく美形ではあるが……
服装の方は町の人達が着ている服の上に防具を着込んでる。
 それはそれとして、サマナーギルドが俺を呼んでる? そういや、ウルスラさんから話を聞いただけで行ったことなかったな。
美希達がお世話になってるけど、宿舎みたいな所で寝泊まりしてるくらいだし。俺もそっちの方しか行ったことないしな。
にしても、なんの用なんだか……まぁ、行ってみた方がいいか。
「わかった。朝食食べてからでもいいかな?」
「は、はい! 出来るだけ早くと言っていましたが、それくらいなら問題無いと思います!」
 とりあえず、朝食が途中なんで聞いてみたら、ウィルは直立して答えてくれました。
ていうか、君。なんでそんなに緊張してるの?
そのことに思わず「じゃ、出来るだけ早く行くから……」と伝えて戻る俺だが……
「サマナーギルドか……なんの用かな?」
「さぁ……」
 どうやら聞こえていたらしいスカアハが聞いてくるけど、俺としては首を傾げるしかない。
だって、これといったことした覚えが無いし……なんだろうね?
「ふふ、これは早速取材のチャンスが来ましたね」
 なんて、文が喜んでいたが……そういや、居たんだった。どうしようか、こいつ?
そんなことを悩んだりしたが、待たせるのもなんなので手早く朝食を取ると片付けをし――
「そんじゃ、行こうか」
「あ、はい!」
 終わった後に修行場所に行けるように準備してからみんなでウィルの元に行く。
今回は橙子さんも興味があったようなので付いてきてるけど。それはそれとして、ウィルの案内でサマナーギルドに向かってるんだが――
「なぁ、どうしてそんなに緊張してるの?」
 そう、ウィルはなぜか緊張しっぱなしなのである。歩きも手と足が同じ方が動いてるし。
「だ、だって……翔太さんのような一流のサマナーと一緒にいるのなんて、初めてですから……」
「いや、俺は一流違うから……」
 で、ウィルから返ってきた返事に俺は右手を振って違うとアピールしたのだが――
「何を言ってるんですか!? サマナーギルド設立の立役者であり、見たことのない上に高位な悪魔を従え……
更には未だ未踏の地にいの一番に足を踏み入れることが出来る実力をあなたは持ってるんですよ!
私のようななりたてのサマナーにとって、あなたは目標であり憧れなんです!」
「翔太さんって……そんなに凄い人だったんですか?」
 なぜか興奮気味に話すウィルだが、そのせいか問い掛けながら士郎の俺を見る目が変わってきてる。
セイバーもなにやら感心した様子でこっちを見てるし、式に橙子さんは……何、その面白い物を見たって目は……
文とはたては必死になってメモってんじゃない。写真も撮るなっつ〜の。
「いや、色々と違うんだが……ていうか、色々と偶然が重なっただけなんだけど……」
 とりあえず、違うと言っておく。未踏の地に行くのだって、新しい世界探すのに行かなきゃならなかっただけだしな。
そうなると襲ってくる悪魔も強くなったりするし……それでも倒さなきゃならんけど……
しかしながら、その辺りの話をするわけにもな……スカアハにボルテクス界や繋がった世界の危機のことは出来る限り話すなって言われてるし。
とりあえず、渇いた笑みで誤魔化すしかなかった。


 で、サマナーギルドに到着したんだが……
「なんてぇか……デカすぎね?」
 思ったことがそれだった。だってさ、建物がでっかいのよ。
いや、出来たばかりだから、ちょっと大きいくらいの建物かなぁ〜と思ってたのよ……
それがちょっと大きめのスーパーくらいの大きさの建物だったんだって。
「ここって、本当にサマナーギルドなの?」
「ええ、そうですよ。なんでも、ただサマナーの管理をするだけじゃダメで、他にも色々と必要なんだそうです。
それで必然的に人が多くなってしまうので、これくらいの大きさがないと無理なんだそうですよ」
 理華が不安そうに聞くと、少しばかり緊張が解けたウィルが答えてくれたが……
それなら確かに大きい所がいいのかもしれんが……これは流石に大きすぎね?
なんてことを思いつつ中に入ることにしたのだが――
「ねぇ……注目浴びてない?」
「だよなぁ……」
 恥ずかしそうにしている理華にうなずく俺も少し恥ずかしい。
いやね、ウィルの案内で中を歩いてるんだが、中にいる人達になぜか見られてる。
指差したり羨望の眼差しで見られたり、なぜか睨まれたり……なに、この羞恥プレイ?
「ウィルです。相川 翔太さんをお連れしました」
「うむ、入ってくれ」
 と、いつの間にやらトビラの前に立っていたウィルがそう言うと、その奥から声が聞こえてくる。
はて、聞いたこと無い声だが……
「はい、入ります」
 そう言いながらウィルが扉を開けて中に入っていくので、俺達も続いて中に入った。
で、中にいたのはウルスラさんにクノーさん、2人の造魔のバスクとルミア。
それに美希と君嶋さんに香奈子さん……に、バゼットまでいるやん。
で、机に座っているのは初老の男性……誰?
「初めまして……だね。私はサマナーギルドのマスターを務めることとなったジョージ・アルフォンスという。よろしく頼む」
「はぁ、どうも……って、マスター?」
 ジョージさんの自己紹介に頭を下げる俺だが、そのことに気付いてウルスラさんに顔を向けた。
だって、サマナーギルドは確かウルスラさんとクノーさんが作ったものじゃなかったっけ?
「確かにギルドを作ったのは私達だけど、運営するとなると話は違ってくるわ。
だから、能力があって信頼出来る人にマスターをお願いしたのよ」
「それが私だったというわけだ。ま、少々歳を取りすぎてサマナーとしてやって行くには無理があったからな。渡りに船といった所だ」
 俺が顔を向けたことを察したウルスラさんが答えて、ジョージさんが苦笑してたりするけど。
しっかし、てっきりそういうのはウルスラさんだと思ったが……まぁ、そういうもんなのかな?
「さてと、この話はこれくらいにして……君は町の西にある洞窟を知っているかな?」
「町の西っていうと……あの入口が狭い洞窟のことですか?」
 ジョージさんの話にそのことを思い出しつつ答えてみる。まだ、俺達は町の周辺で探索をしてた時にその洞窟を見つけたんだよ。
俺が少し身をかがめないと入れないくらいに低くて狭い入口でさ。中の方は逆に広かったけど。
「そうだ。実は数名のサマナーがその周辺で大型で獣型の悪魔を見たらしいのだ。
その内2名が詳しく調べようとして返り討ちに遭い重傷……命に別状なかったのが幸いだが……
これから考えるにかなり高位な悪魔と思われる。そこで君にその悪魔を調査して欲しい。
もしかしたら、町を襲う可能性もあるのでね。なので、場合によっては退治しても構わない。いいだろうか?」
「ん〜……どうする?」
「ま、何かしら問題があるわけではないし、引き受けても良かろう」
 ジョージさんの話を聞いて問い掛けると、スカアハは腕を組みつつ答えてくれました。
確かにそれくらいなら問題無いかな? 時間掛かるかもしれないけど、その時はその時か。
「そういうわけなんでお引き受けします」
「ありがとう。ま、それが1つなんだがな」
「1つ?」
 頭を下げつつOKを出すと、ジョージさんがそんなことを言い出しました。
1つって……他にもあるのかね?
「君、入ってきたまえ」
「はい」
 ジョージさんに呼ばれて入ってきたのは1人の少女だった。
背の方は士郎より少し高いくらい。目付きはちょいと鋭いが美少女とも言える顔立ち。
ブロンドの髪はウェーブが掛かっていて、背中まで伸びている。服装はブーツにスパッツ、その上に青のスカート。
で、白いブラウスの上にこれまた青いベストを着ている。腰には細い剣とDSみたいなCOMPがあった。
「彼女はミナス・レーチェ・レナバウド。先週、サマナーになったばかりの新人だ」
「ミナスです」
 と、ジョージさんの紹介を受けて頭を下げるミナス。けど、なんでこっちを睨むの?
それはそれとして――
「あの、彼女がどうかしたんですか?」
「彼女も同行させて欲しい。まぁ、研修みたいなものだな」
「研修って……俺のは参考にならないと思いますけど?」
「君の話はウルスラとクノーから良く聞いているよ。確かな実力を持つとね。
なに、何かを教えて欲しいというわけではない。普段通りにやってくれればいいさ」
 気になって聞いてみたらジョージさんからそんな返事が返ってきました。
流石にそれはどうかと思ったんで断ろうと思ったんだが……ジョージさんは笑みを見せながらそういうし……
「どうすんの?」
「まぁ、別に構わんだろう。ところでウルスラや美希達がいるということは、彼女達も同行するのかな?」
「そうなる。行けばすぐに見つかるとは限らないだろうからな。手分けして調査にあたって欲しいと思ったのだ」
 振り返って聞いてみるとスカアハがそう言いつつ、そんなことを問い掛けた。
ジョージさんはうなずきながら答えてるけど……なるほど、ウルスラさん達や美希達がいるのはそういうことか……
ん? ということは――
「もしかして、バゼットも?」
「昨日退院しまして、リハビリがてらに手伝わせてもらおうと思ってます。COMPも受け取ってますし」
 俺の疑問にバゼットはあっさりと答えたが……前に会った時となんか雰囲気違ってね?
まぁ、いいけど……でも、違和感強いなぁ……何かあったんだろうか?
 ちなみにバゼットのCOMPはPSPみたいな形をしているけど。
「ま、そうわけなのでお願いするよ。報酬はそれなりとなってしまうが……」
「はぁ……まぁ、別にいいんですがね」
 ジョージさんの言葉に後頭部を掻きつつうなずく俺。しっかし、いきなり大所帯になったよなぁ。
なんか、起きなきゃいいんだけど……



 あとがき
そんなわけで取材に現われた文とはたて。そのせいで嫌な予感を感じる翔太に新たな依頼が舞い込みました。
果たして、その悪魔とは何者なのか? 次回はそんなお話になります。
実は翔太の噂を怪しむミナスはその化けの皮を剥がそうとしますが――
その一方、悪魔の捜索のため洞窟に入った翔太達は落とし穴にはまってはぐれる羽目に。
はぐれてしまった翔太達はそこで悪魔と出会ってしまい……そんなお話です。次回をお楽しみに〜



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.