in side

「ケルベロス……ですか……流石に神話に出てくるだけはありますね……」
「その辺りの話は後にするとして……なんとかなりそうか?」
「倒すとなるとかなり難しいかと……場所が悪すぎます。
ここで私の宝具を使えば、みなさんが生き埋めになるかもしれませんし……」
 見えない剣を構えるセイバーに聞いてみたらケルベロスを睨みながらも答えてくれたが……
確かにここじゃな……剣を振り回すには問題無いけど、威力がある攻撃をしたら……となると違ってくる。
当ればいいけど、外れて洞窟の壁に当って崩れた……なんてのはシャレにならないし。
確か、セイバーの宝具って威力がとんでもなかったはずだ。そんなのがここで炸裂したら……やばいよな?
問題はそれだけじゃない。というのも――
『余裕だな、貴様らは!』
「だあぁ!?」
 ケルベロスが前足を振り下ろすので俺は慌てて避ける。そう、大型の悪魔ってのはデカイ上に速いんだよ。
トラックがスピード出して突っ込んでくるといえば想像出来るだろうか?
そんな速さとデカサで来るもんだから、威力も当然半端無い。似たような奴に吹っ飛ばされたのは記憶に新しいし……
うん、あれは死んだかと思ったよ……我ながら良く生きてるもんだと思ったよ……
流石に最近はそんなことは無いけど……あと、しっぽも使ってくるもんだから攻め込めない。
しっぽの場合は攻撃範囲が広すぎて逃げるのだけで精一杯なんだって。
それはそれとして、ここで問題になるのがセイバーも言っていた場所の問題が出てくる。
確かに剣を振り回すには問題無いが、動き回れるほどかといえばそうでもない。
下手に逃げ回ったら背後が壁でした……なんてのもあり得るからな。
俺達が採る方法は2つ。逃げ回ってスカアハ達と合流するか、戦って倒すか……しかし、戦うのは勘弁したい。
つ〜のもね……さっき振り下ろした前足が地面砕いてるんだよ……うっわ〜、ちょっとした穴になってる〜……
「く! これでは!?」
 セイバーも苦戦中。何とか斬りかかろうとしてるんだけど、避けるのが精一杯って感じだ。
「よし、逃げよう」
「なに情けないこと言ってますの!?」
「無茶言うなぁ!?」
 俺の判断にミナスが文句を言ってるが、俺はそれに言い返しておいた。
さっきの攻撃見てなかったの? あんなの喰らったらマジで潰されるよ!?
それに場所が悪いから、避け続けられる自信なんて無いぞ俺は!?
「のわぁ!?」
 またもや振り落とされる前足を前転のように転がる形で避けるが……くっそ、なんか狙われてるよ、俺!?
「させない! アギラオ!」
 理華が俺を助けようとしてくれたのか、魔法を放つんだが――
「へ? って、どわぁぁぁぁ!?」
「え? あ、翔太!?」
 理華が放った魔法はなぜかケルベロスの手前で弾かれた挙句、俺に向かって飛んできた。
慌てて避けようとしたが、一瞬遅く地面に当って爆発。俺は吹っ飛ばされ、理華はその光景に驚きながらも俺に声を掛けていたが――
「嘘、反射……」
『炎なぞ、我には効かんぞ……』
 シルフが戸惑いながらそんなひと言を漏らすと、ケルベロスは笑ってるような顔をこっちに向けてきた。
いつつ……しかし、反射持ちの悪魔がいるのは聞いてたけど、まさかこんな所で会うなんてな。
てぇ、待てよ? 炎は効かない……ということは炎以外だとどうなんだろうか?
「シルフ! モー・ショボー! ルカ! 魔法で攻撃!」
「わかりました! ガルーラ!」
「ガルーラ!」「ジオンガ!」
 ものは試しとばかりに指示を出し、シルフが返事をして魔法を放つとほぼ同時にモー・ショボーとルカも魔法を放つが――
「嘘ぉ!?」
『その程度か?』
 その光景にモー・ショボーが驚いていた。
そりゃ、まともに喰らったケルベロスが何事も無かったかのように首を傾げてるんだからな。
確かにいくら魔法があるとはいっても簡単に倒せないとは思ってはいたよ?
でも、全くの無傷ってのはありか!? なに、あの頑丈さは!? 前に戦ったボスみたいな頑丈さだよ!?
「う、うそ……あれだけの魔法を喰らって……」
 てぇ、ミナスが立ちすくんでる!? やばい! ケルベロスが前足上げてるし!? こっからだと絶対に間に合わねぇ!?
「馬鹿! 逃げろ!」
 駆け出すが……やっぱ、間に合わない!? 叫ぶがミナスは立ちすくんだままで――
「危ない!?」
「きゃ!?」
 が、間一髪ウィルが飛び込んだことで振り落とされたケルベロスの前足から逃れることが出来たけど――
「大丈夫?」
「え? あ……ああ……」
 ウィルに声を掛けられたせいなのか、それとも押し倒された格好になったせいなのか……
ミナスは顔を赤くしてるが……お前ら、状況を考えろ!?
「ぬおぉぉぉぉ!?」
「え? 翔太……さん?」
「あ……」
 間一髪、振り落とされるケルベロスの前足を受け止める俺だが……ものごっついてぇ!?
衝撃が半端じゃなかったよ!? やっぱ受け止めるんじゃなくて突き飛ばした方が良かったか?
それとお前ら……こっち見てないで逃げろ!?
「お前ら、いいから逃げ、ろ?」
 それを言おうとしたらなんか軽くなった……って、やば!?
「ぐが!?」
 気付いた時には遅かった。ケルベロスは俺が受け止めた前足を上げて、気を取られてる間に空いていた前足で突き飛ばされた。
「ぐほぉ!?」
 しかも、前足に押し潰される形で壁に叩きつけられる。くっそ……マジでいてぇ……
『先程のを受け止めるとは流石と言いたいが……このまま潰れろ』
「ぐ!? ぬわぁ!?」
 この野郎……勝手なこと言いながら力込めんじゃねぇ……くっそぉ……


 out side

「あ……ああ……」
 この時、理華は立ちすくんでいた。翔太が危ないのはわかっているのに体が動かない。
ルカもシルフもモー・ショボーも同じであった。助けたいのに……やはり体が動かない。
先程、自分達の攻撃がまったくと言っていいほど通じてなかったのが恐怖の元となっていた。
「く、あぁ!?」
「あ……」
 だが、翔太の悲鳴で理華が正気に戻る。そうだ、このままではいけない。でも、どうしたらいい?
理華は思い悩むが答えが出ない。魔法はダメ。自分は攻撃魔法は火炎魔法しか使えない。でも、効かないのは実証済み。
銃も意味は無い。ラリーから預かった魔法弾丸……ダメ……威力は自分が使う魔法とほぼ変わらない。
その程度では通じないのはルカ達の攻撃でわかっている。ダメだ、どうしたらいいのかわからない。
「ぐあ、あ!?」
『我がテリトリーを犯したことを後悔しながら潰れてしまえ』
 そうしている間にも翔太はケルベロスに潰されそうになっていき――
「はあぁ!」
 そこにセイバーが斬り込んでいった。全身から炎のように魔力を放出し、自らを砲弾にして――
「ぐ!?」
 だが、届かない。ケルベロスのしっぽに払われて……まるで意に介していないかのように……
それでも弾き飛ばされただけなのでセイバーは着地することが出来たが……隙が無い。セイバーはケルベロスの死角から斬り込んでいった。
なのに先程の結果……ケルベロスは顔を向けることもなくセイバーを迎撃したのだ。
侮れない……だが、早くしなければ翔太が危ない――
「セイバー! 早く翔太さんを――」
「わかっています!」
 士郎に言われ、セイバーは自らの剣の鞘を解放することを決意する。今、翔太を助けられる方法はこれしか思い浮かばなかったから――
「翔太を……」
「え?」
「理華……さん?」
 その時、理華がうつむきながらその一言を漏らした。小さなひと言だったはずだ。
なのに、そのひと言には強い気迫が感じられた。そのためセイバーや士郎にウィルにミナスだけでなく、ケルベロスでさえ顔を向けてしまう。
 突然だが理華が瀕死の重体の時、あのゴスロリの少女がどのように助けたのかを説明しておこう。
あの時、ゴスロリの少女が理華の体に与えたのは無色の力。中立にして何にも染まっていない力だった。
なぜ、そんな物を与えたのか? あの時の理華の魂は大半が失われていた。
そして、失われた物はいかにゴスロリの少女であろうと取り戻すことは出来ない。
それが魂であるならばなおさらに……そのために無色の力を与えたのである。
そうすることで無色の力は理華の魂へと染まり、時間が経てば完全に理華の魂と同化してしまうからだ。
もっとも、ゴスロリの少女の力が強すぎた為か無色の力を取り込んだ影響かは不明だが、理華は魔法を使えるようになってしまったが――
本来なら、影響はその程度で済んだはずであった。理華が普通の生活に戻っていれば……
 失われた魂を無色の力で補う……別の言い方をすれば、残された理華の魂を無色の力で水増ししたとも言える。
そう水増し……それは同時に理華の魂を薄める行為にあたる。
しかも、理華の魂の大半が失われていたために、ほぼ無色に近い状態にまで薄まってしまった。
普通の生活を送っていれば、それも元の状態に戻っていただろう。だが、理華は翔太と共に戦うことを決意してしまった。
そのため、理華はボルテクス界に居続けることとなった。それこそ元の世界よりも長い時間を――
更には翔太達の仲魔……スカアハやクー・フーリン、フロストやランタン、メディアなどの高位な悪魔……
それにミュウやモー・ショボー、アリスにルカ、シルフといった成長した悪魔と一緒に行動するようにもなった。
また、魔王や神の名を持つ悪魔とも対峙したりもした。薄まってしまった理華の魂はそれらの影響を受けてしまったのだ。
「翔太を離せぇぇぇぇぇぇ!!?」
『ぬぐおぉぉぉぉぉ!?』
 結果、理華は得てしまったのである。悪魔の力を……その証拠に理華の前髪の右側の一房が金色に染まり……
右の瞳も虹彩が金色に染まり、瞳孔も猫の目の用に細長くなっていた。更には右の犬歯も少しばかり大きくなり……
顔の右半分から首筋に掛けて黒い紋様のような物が現われていた。
もしこの時、理華が裸体だったら右半身にその紋様が現われていたのがわかっただろうが……
 ともかく、そのような姿となった理華は怒りの咆哮と共に右手を突き出すと無数の魔力の塊が生まれ、
それらが飛んでいってケルベロスを突き飛ばしていった。
 怒り……理華は自分が許せなかった。翔太に無理をさせないために一緒に戦っているはずなのにそれが出来なくて……
そして、今まさに翔太が倒されそうな時に何も出来なかった自分が……その怒りが起爆剤となってしまった。
それによって悪魔の力に染まりつつあった理華の魂が新たな力となったのである。彼女の体を創り変えてしまうことを代償に――
このことはゴスロリの少女が意図したことではない。彼女としては翔太との約束を果たしただけなのだから。
「翔太!? 大丈夫!?」
「あつ……なんとか……しっかし、理華こそ大丈夫なのか?」
「え? どういうこと?」
 膝を付きながらもなんとか顔を上げて心配する翔太に理華は首を傾げる。この時はまだ、自分の変化に気付いてなかったのだ。
『なめるな! 小娘がぁ!?』
 その時、立ち直ったケルベロスが怒りの言葉と共に炎を吐く。このままならば、翔太と理華は炎に焼かれていただろう。
「ショウタ! リカ!」
 セイバーもそれを想像してしまい、思わず叫んでしまったが――
「な!?」
 すぐにそのことに気付いた。翔太と理華の前で炎が何かに遮られていた。
いや、何かでは無かった。それは人……それも見知った――
『な!?』
「そうですわね……私達をなめないで欲しいものです」
 自分の炎が防がれたことにケルベロスが驚く中、その者はそう言い放った。
それはシルフであった。ただ、その姿は変わっていた。身に付けていた緑の鎧はセイバーのような甲冑のような形に変わっていた。
ただ、セイバーと違うのは露出がある所だろう。
胸の谷間が見えてたりとか、腰当てはあってもセイバーのようにスカートが無いため太ももが露わになってたりとか。
また、左腕には妖精の姿が浮き彫りされた盾があり、右手にはシンプルな造りの剣が握られていた。
なお、先程のケルベロスの炎もこの盾で防いでいたりする。
「本当に……そうですわね……」
「あんたなんかに翔太をやらせないもん!」
 そのシルフの両隣に立つのは同じ仲魔。更に妖艶さが増した美貌に、かつて見た夜魔リリスのような露出が増した黒のドレスを纏うルカ。
少女から麗しの女性へと成長し、モンゴル衣装を着崩した形で纏うモー・ショボー。
その為か同じく大きくなった胸がこぼれ落ちそうになっていたが。
3人は理華の姿を見て触発されたのだ。翔太は自分達にとって大事な人。だから、守りたくて――
その想いが3人を進化させたのである。
『おのれ、ぞろぞろと――』
「雷よ!」
『ぐおぉぉ!?』
 その3人を押し潰そうとケルベロスは前足を上げようとした時にルカが放つ雷を受けて怯んでしまい――
「はぁ!!」
「ええい!!」
『ぐがあぁぁ!?』
 そこにシルフの剣の一閃と全身から炎のように魔力を放出しながら体当たりするモー・ショボーの一撃を喰らって倒れるケルベロス。
『く……この程度で――』
「人のこと――」
『な!?』
 それでもすぐさま立ち上がろうとするが、そこで驚いてしまった。
自分に飛び込んでくる翔太の姿を見て――
「忘れてんじゃねぇ!?」
『うごぉ!?』
 飛び込むと共に突きだした右の足を右頬に受けたケルベロスは再び倒れるはめとなった。
『く……』
 それでも立ち上がろうとするが――
「はぁ……はぁ……これ以上やるってんなら……本気で容赦しねぇぞ、こら……」
 翔太によって右目に剣を向けられていた。もし、下手な動きを見せれば、容赦なくその剣を突き立てる。
それを躊躇いなくするとケルベロスは感じていた。
「お〜い! 大丈夫か〜!」
 そこにクー・フーリンの叫び声が聞こえてくる。翔太は視線だけをそちらに向けるが、すぐさまケルベロスに戻し――
「で、俺の仲間も来たんだけど……まだやる気か?」
 問い掛ける翔太。聞かれたケルベロスは周囲に視線を向けていた。
理華にシルフ、ルカにモー・ショボー。それにこちらに来る悪魔……そのどれもが強い力を持っているのは感じていた。
だからこそ、確かめなければならないことがあった。
『小僧……貴様は最初は逃げようとしていた……なのに、なぜ今は戦おうとする?』
「逃げようとしたのは死にたくなかったから。戦おうとしたのは知り合いが死ぬのが嫌だから」
『は? なんだ……それは……』
 翔太から返ってきた話に問い掛けたケルベロスは戸惑っていた。
死にたくない。まぁ、それは普通だろう。だが、知り合いが死ぬのが嫌というのはどういうことだろうか?
ある意味それは矛盾だ。なにしろ、時には自分の命を賭けることにもなりかねないのだ。今のように――
それは死にたくないという言葉とは明らかに矛盾している。故に訳がわからず戸惑ってしまったのだ。
『死にたくないとか言いつつも善人面のつもりか?』
「俺が嫌なだけだ」
 睨むケルベロスに翔太はあっさりと答えていた。実際、飛び込んできたのも深い考えがあったわけではない。
理華やシルフ達の進化に気付かず、このままでは危ないと思った。ただ、それだけの理由で飛び込んでいったのだ。
その答えを聞いたケルベロスは翔太を睨むかのように見つめ……この時になって、スカアハ達はようやく翔太達の元にたどり着いたが――
『ふふ……ふふ……ははははは……馬鹿だ……貴様のような馬鹿を見たのは初めてだよ……だが、それがいい!』
「はぁ?」
 笑い出すケルベロスだが、翔太は訳がわからず首を傾げてしまう。
翔太は自分に正直なのだろうとケルベロスは思った。確かに正義の為とか人を守るためとか言う者はいる。
だが、大抵は己の欲望の為だったり、そうでなかったとしても正義という言葉に振り回されたりするのが普通だ
しかし、翔太は自分の本心の赴くままに動くのだろう。自分に正直とはそういう意味でのことだ。
それが面白くて興味深いとケルベロスは感じ――
『気に入ったぞ小僧。私を仲魔にしろ』
「は? なんでさ?」
『気に入った……それだけだよ……』
 それを聞いて更に首を傾げるはめとなった翔太だが、言い出したケルベロスはそう答えるだけであった。
気に入ったというのはケルベロスにとって本心だ。だから、興味が出てきた。翔太が今後どうなっていくのかを。
仲魔にしろというのもそれを見届けるためであった。
「どういうことだ?」
「いやぁ……俺にもわけが、わからない……んだけど……」
「って、翔太!?」
 腕を組みつつ睨んでくるスカアハに翔太は困った顔をしながらそう答え……崩れるように倒れてしまう。
それに理華が慌てて駆け寄るが――
「大丈夫、翔太?」
「いやね……体がね……ものごっつ痛かったりするんだよね、これが……」
「て、おい!? 傷がとんでもないことになってんぞ!?」
 心配そうに問い掛ける理華に翔太は引きつった笑みで答えるが、翔太の体の状態に気付いたクー・フーリンが慌て出す。
まぁ、ケルベロスの前足を受け止めたり押し潰されたりしてたのだ。骨が折れたり内蔵が破裂していなかっただけでも奇跡である。
これにより翔太は仲魔達の治療を受け……すぐさま病院に運ばれるはめとなった。
とりあえず、ケルベロスの仲魔登録を済ませてからだが……

「まったく……そんなことになっていようとはな……」
 ケルベロスの仲魔登録を終え、町に戻るために洞窟の中を歩きながらスカアハは翔太達に起きたことを聞いていたのだが……
ちなみに翔太はケルベロスの背中にうつぶせの形で乗せられていたりする。
治療はしたものの、下手に動かすのは危険だとスカアハが判断したからだ。
 それはそれとして、スカアハは話を聞いて頭を抱えたくなった。
今回の事は事故だったとはいえ、自分の思惑の範疇を超えていたのだ。
翔太は生体マグネタイトの影響によって身体能力がもはや人間では考えられない程に強化されている。
反面、それは体への多大な負担となってしまった。権三郎に整体を受けるのは、その負担を和らげるためであった。
しかし、それだけでは十分ではないため、スカアハは翔太を鍛えることにしたのだ。
ただし、身体能力の強化ではなく、その身体能力に体が適応出来るようにする形で。今までのはその一環である。
確かに無理をさせていた時期もあったが、負担のことがわかってからは無理をさせない形にしている。
 そして、それは理華にも行っていた。理華が焦っているのはスカアハも気付いていた。
しかし、巨大な力をいきなり身に付けるのは翔太の二の舞になりかねない。
そのため、スカアハは理華をなだめつつもその形へと持っていこうとしたのだが――
「しかし、何をどうすれば悪魔化なんて起こるのだ……」
「え? どういう……ことなのですか?」
 スカアハは顔を手で覆いつつ、盛大にため息を吐く。それに反応したのは美希である。
もっとも、言葉の意味がわからなかったからだが……
「そうね……どうせ、すぐにわかることだから言っておくけど、今の理華は限り無く悪魔に近い存在になっているわ。
ただ、その原因はわからないけど……あなたはわかる?」
「あいにく私もわからんが……心当たりがある奴に聞いてみようと思う」
 呆れた様子のメディアに答えるスカアハが視線を向けた先は翔太であった。
で、翔太はといえば微妙に顔をそらしていたのだが――
「さぁ、とっとと話せ。理華に何があった?」
「ああ……ええと……それは……だな……」
 スカアハに詰め寄られる翔太。顔を背けたりとかして誤魔化していたのだが……
理華にも心配そうな視線を向けられたことに降参したようで話し始めたのである。
翔太がこのような冒険をするきっかけとなった戦い……重体を負った理華がゴスロリの少女に助けられた事を。
そして、本人から何も聞いていないが、原因としてはそれしか考えられない……と、翔太はそう言ってしめくくった。
「なるほどな……原因としてはその辺りが考えられそうだが……」
「あ、あの……理華は元に戻るのだろうか……」
 話を聞き終えたスカアハはあごに手をやりつつ考える仕草をしており、そんな彼女に美希が問い掛ける。
それに対し、スカアハは深いため息を吐いた。というのも――
「私では無理ね。たぶんだけど、理華の変化は魂の部分が関わっていると思うわ。そうなるとお手上げよ。
あなたならなんとか出来る?」
「無理だな。私の魔術は魂に関わることもあるにはあるが……これは流石に専門外だ」
「そんな……」
 メディアが肩をすくめつつ首を横に振り、聞かれた橙子もため息混じりに答えた。
それを聞いた美希は困惑の表情を強める。では、理華はどうなってしまうというのか? そんな不安を感じてしまったために――
 その思いはスカアハにもあった。重傷の翔太に悪魔化してしまった理華。
今回のことは事故の面が強いとはいえ、自分に責任が無いとは言えない。
自分が油断してなければ翔太が落ちてはぐれることは無く、このような重傷を負うことすら無かっただろう。
自分が理華の焦りに対してもっと真摯に取り組んでいたら、こうはならなかったかもしれない。
全ては仮定の話なのはスカアハにもわかってはいる。でも、そう思わずにはいられなかった。
「ともかく、今は町に戻ろう。全てはそれからにした方がいい」
 ため息混じりにスカアハは答える。問題の先送りにも思われそうだが、翔太は魔法で治療したとはいえ重傷を負った身だ。
一度、病院で診てもらった方がいいだろうし、町に戻れば理華の体の状態も調べられる。そう考えてのことだった。
そんなわけで洞窟の入口にたどり着いたのだが――
「なぁ……どうやって通るんだ?」
 顔を上げてそんなことを呟く翔太。というのも、洞窟の入口よりもケルベロスの方が明らかに大きいのだ。
これではとても通れるようには思えなかったのだが――
『問題無い』
「へ?」
 ケルベロスがそんなことを言い出すとその体が輝きだした。そのことに翔太は思わず呆然としてしまう。
理華やスカアハ達も呆然とその光景を見てるとそれは起きた。なんと、ケルベロスの体が輝きながら縮みだしたのである。
しかも形が変わりながら……やがて、その形が人の物となると輝きが消え――
「なにそれ……」
 翔太は思わずそんなひと言を漏らしてしまう。というのも――
「なに、永きに渡り生きていった上で身に付けた術だよ」
「それがなんで女になってんの!?」
 翔太をお姫様抱っこしている女性がにこやかな笑みで答えていた。翔太が驚いていたが……
そう、ケルベロスは人間……しかも、女性になっていたのだ。
腰まで伸びる白銀の髪に同色の瞳を持つ顔立ちは凛々しく整い、風格さえも感じる。
背は翔太よりも少し高く、しなやかな肢体を持ち……胸はスカアハ並の豊かさであった。
ちなみに頭の上には獣耳があり、腰からはしっぽがしっかりと生えていた。
で、これが翔太が驚いた理由なのだが……ほぼ裸に近い状態だったのである。
手足は毛皮に包まれているが……胸と女性として大事な所はマイクロビキニみたいな感じで毛皮に覆われているだけであった。
この姿に誰もが呆然とするが……理華と美希、ミュウなどの仲魔達は睨むような視線を翔太に向けていたりする。
なぜか、スカアハまで……
「なんだ? この姿では不満か? しょうがないな」
「お、おい?」
 と、ケルベロスはそんなことを言うと翔太を下ろし……再び、体が輝きだした。
で、その輝きが消えると――
「これでどうだ?」
「勘弁してください……」
 胸を張る幼女ことケルベロス。そう、なぜか進化する前のモー・ショボーよりも小さな体になっていたのである。
このことに翔太は地面に手と膝を付いて落ち込んでいたりしたが……
「ていうかさぁ……なんで女なのよ?」
「何を言う? 私は最初から牝だが?」
「ケルベロスに……性別があったのですか?」
 とりあえず、顔を上げて問い掛ける翔太だが、ケルベロスは首を傾げて答えていた。
そのことにポカンとするセイバーが思わず問い掛けてしまったが。で、この返事に翔太は更に落ち込んだ。
というのもケルベロスを仲魔にした際、レディースサマナーの噂を少しでも返上出来るかもと考えたのだが……
今のケルベロスの姿だとそれを助長させかねなかった。故に落ち込んだのである。
 それはそれとして、翔太達は洞窟を出た訳なのだが――
「お待ちしておりましたよ。相川 翔太さん」
 その者がそこにいた。
「お前は……」
「シンジ……どうして……」
 その者を見て橙子は眉を跳ね上げ、スカアハは戸惑っていた。
そう、そこにいたのはアオイ シンジ。翔太を陰ながらサポートしていた人物であった。


本来ならまだ出会うはずの無い2人がここで出会う。それが意味するものは――



 あとがき
というわけで今回のお話……先に謝っておきます。ケルベロスの変身は私の趣味です!!(おい)
いや、いいよね。獣耳っ娘って……
それはそれとして、仲魔達の進化にケルベロスが仲魔になったりと喜ばしいことがあった反面、
翔太が重傷を負ったり理華が悪魔化してしまったりと大きな問題が出てしまいました。
そんな時に現われたシンジ。それが意味するものはいったい……
そんなわけで次回は翔太とシンジの邂逅編。そして、橙子が幻想郷に?
どんなお話かは次回をお楽しみに〜



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