out side

「おやおや、この程度で怒られるとは……」
「な!?」
 槍を突き出そうとした瞬間に背後から聞こえた声に驚いたランサーは立ち止まりながら振り向く。
そこにはシンジがいた。おかしい。何がおかしい? だって、さっきまでシンジは目の前にいた。
目を離していなかった。見逃すはずも無かった。だが、気が付いたら背後にいた。
「どうなされました? 顔色が悪いようですが?」
 首を傾げるシンジだが、ランサーは戸惑いを隠せない。
なぜなら、シンジから感じる気配に力、動きに至るまで……どう見たって”ただの人間”にしか見えないのだ。
そんな奴に背後を取られた。自分がわからないまま……その事実にランサーは動揺していたのである。
 一方、離れた所から見ていたリリスはシンジがランサーの背後を取ったカラクリがわかっていた。
(転移か……確かにそれならあいつの背後を取ることは出来る……でも、あれは転移なの?)
 カラクリがわかったものの、理解出来ない部分にリリスは首を傾げる。
悪魔の中には転移の術を持つのもいる。なので、さほど珍しいというものではないのだが……
問題なのがその方法がわからないのだ。転移に限らず、魔法や術などは何かしらの形で発動という物が起きる。
しかし、シンジの転移にはそれらしい物が見えなかったのだ。
ランサーもそれが見られなかったために転移とわからず動揺してしまったのである。
 種明かしをするとシンジは先天的に時空を超える事が出来る。
幻想郷風に言えば『好きな所へ行ける程度の能力』といった所だろうか?
どんな物かといえば、よほどの事が無い限りほぼ制限無しに好きな所に行けるのである。例え、そこが異世界であろうとも。
また、術では無い為に発動という物が起きず、ほぼタイムラグ無しに行うことが出来る。
ランサーの背後をとったのもこの能力を利用したからであった。
「ふざけん、なぁぁぁぁぁぁ!?」
 しかし、ランサーもまがりなりにも英霊である。戸惑いはわずかに済ませて槍を突いた。
それをシンジは表情も変えず、槍の柄に右腕を添えるような形で反らしてしまう。
「ちぃ!?」
 その光景にランサーは舌打ちしそうになりながらもマシンガンのように次々と槍を突いていく。
舌打ちしそうになったのは何も槍が当らなかったからではない。槍をいなしたやり方にだ。
槍を避けるわけでも弾いたわけでもなく、まるでレールの上を電車が走るが如く反らされた。
これは簡単に出来るものではない。故にシンジの技量の高さが伺えるのだが……
「なんだよ……そりゃ……」
 攻撃を続けながらもランサーは困惑した表情を浮かべていた。
なぜなら、ランサーの攻撃をシンジはいなし続けていた。ランサーとてそうはさせじと次々と槍を突いてくる猛攻を見せる。
だが、それをシンジは両腕だけでいなしていたのだ。一歩間違えば腕を失うだけでは済まないかもしれない猛攻を。
しかも、それをシンジは表情を変えず、まるで流れるような動きでこなしていく。
 また、ランサーが困惑しているのはそれだけではない。
「ちぃ!? なんなんだよ、てめぇは!?」
 舌打ちをしてから、ランサーは弾かれるようにしてシンジから離れた。
何があったのか? 攻撃をしているはずなのに手応えを感じなかったのだ。
確かに相手が弱すぎて手応えがないと言われることがあるが、シンジの場合はそんなものではない。
まるで霧を突いているような、そんな手応えの無さ。相手は目の前にいて、いなしているとはいえ攻撃を受けているはずなのに――
文字通り雲をつかむような相手にランサーは困惑したのである。
「なにか……と聞かれたら、通りすがりの人と答えるのですが……今はお節介好きの小悪党と答えておきましょう。
言峰さんがしようとしてることは、この方々にはマイナスにしかなりませんからね」
「てめぇ……」
 人差し指を立てつつにこやかに答えるシンジだが、ランサーは逆に睨みつけていた。
自分と言峰の関係を知られている。もう、ランサーはシンジをただの人間だとは思ってはいなかった。
自分と同じ……英霊と同じような力を持つ者……だからこそ、自分の槍の真名を解放しようと構え――
「な!?」
 光の柱……いや、光の塔とも言える巨大な魔力を撃ってきたシンジに驚くはめとなった。
撃ってきたことに驚いたのではない。撃たれた魔力の量に驚いたのだ。
威力としてみればAクラス……もしかしたら、それ以上の威力を誇っていたかもしれない。
むろん、ランサーは油断していたつもりはない。自身の宝具を解放すべく、シンジから片時も目を離すことは無かった。
それに対し、シンジは右手を向けただけ。ただ、それだけなのだ。
それだけで先程の魔力を放ってきた。詠唱も魔力の溜めも無しに……
その事実にランサーは震える。ランサーには矢避けの加護があるが、今のはそんなものをあっさりと破るだろう。
外れたのはシンジが意図的に外したにすぎない。
「あなたが宝具を放つのと私がぶっ放すのと……どちらが速いでしょうかね?」
 首を傾げながら問い掛けるシンジだが、ランサーは歯を食いしばるしか出来ない。
そんなのはすでに明白だった。ランサーが構えた次点でシンジは先程の威力を撃てるのだ。
それにシンジの様子からして1発や2発で魔力切れとは思えない。
「くそぉ!?」
 結果、ランサーはその場を離れるしかなかった。ランサーとてこの撤退は不本意だ。
だが、何をどうしてもシンジに勝てる要素が見つからない。同時に気付いたのだ。
シンジは英霊レベルなんてものでは無く――
 それは言峰もランサーを通して見ていたためにわかったのだろう。撤退するランサーに何も言うことはなかった。
「行ってくれましたか……いやいや、すいませんね」
 と、後頭部を掻きつつ振り返るシンジだが、ブラックマリアとベルセルクは疑いの眼差しを向けていた。
当然だろう。あれだけの力を見せた者がなんの理由も無しに現われたとは思えなかったのだから……
一方でリニアスは別の見方をしていた。明らかに自分以上の力を持っている。
それにどこか羨望の眼差しを向けてしまっていたのである。
逆にリリスは面白いといった目を向けている。目の前の男は間違いなく自分達を圧倒出来る者だろう。
それが自分達に何をさせようというのか……それが気になっていたのだ。
「それで……あなたは私達に何をさせたいのかしら?」
「おや、気付かれましたか?」
 リリスの言葉にシンジは特に否定することもなくそう答える。
そのことにブラックマリアは睨みながら前に出ようとしたが――
「ん、なにを――」
「落ち着きなさい。それともあなた、あの子に勝てると思ってるの?」
「な、く……」
 手で制したリリスに言われて顔を向けたブラックマリアは何かを言いかけ、直後に悔しそうな顔をした。
確かにリリスにも今のシンジは”ただの人間”にしか見えない。感じられるものも動きもそうとしか思えないからだ。
しかし、ただの人間が達人のような戦いをし、とんでもない威力の魔力を撃つなんて真似が出来るはずがない。
故に底が見えないのだ。流石にあれが全力では無いと確信しているリリスであるが、どれほどの実力があるかまではわからない。
それはブラックマリアも同じであり、その為に悔しそうな顔をしてしまったのである。
「なに、そんなに難しいことは言いませんよ。ただ、ある人と一緒にいて欲しいだけです」
「ある人?」
「サーシャさん、こちらに」
 首を傾げるリリスにそんなことを答えたシンジは誰かを呼んだ。すると少し離れた所から1人の少女が現われる。
年の頃は10前後。ウェーブが掛かった長いブロンドの髪にカチューシャを付け――
翡翠のような瞳を持つ顔は年相応ながらまるで人形のように整っており、小柄な体をフリルがあしらわれた青いドレスで包んでいた。
そんな少女がうさぎのぬいぐるみを両手で抱えながらこちらへとやってきたのである。
「彼女の名はサーシャさんと言いまして、世界を渡る能力を持っております」
「世界を渡る……だと?」
「すでにお気付きなのでは無いのですか? この世界がボルテクス界とは異なる世界であると?」
 訝しげな顔をするベルセルクに話していたシンジが問い掛ける。
それを聞いたリリスはやはりかと思っていたりするが――
「それはそれとして……まぁ、サーシャさんに付いていってもらえればいいだけの話です。
その先であなたは答えを見つけることになる……かもしれませんからね」
 くすりと笑みを交えながらシンジは話したが……リニアスはふとサーシャと呼ばれた少女に顔を向けてしまう。
一見すると無表情に見えるサーシャだが、どことなくリニアスを興味深そうに見ているようにも見えた。
「かもしれないって……曖昧ね」
「それを見いだせるか否かはリニアスさん自身次第だとは思いませんか?」
「なるほどね……」
 呆れるリリスであったが、シンジの言葉に思わず納得してしまう。見聞きする物は見方によって感じ方が違ってくる。
シンジがリニアスに答えを出させるために見せても、リニアスがそう見えなければ意味が無いのだ。
「ああ、それとこれも持っていってください」
「それってCOMPじゃない」
 シンジが懐から出した物にリリスは眼を細めた。確かにシンジが取り出したのはCOMPである。
正確には紫のGUMPなのだが……
「これには大量の生体マグネタイトを込めてあります。これから行く先々は生体マグネタイトが無い世界ばかりですからね。
あなた方には必需品となるでしょう」
 歩み寄り、GUMPを差し出すシンジ。
リニアスは少し戸惑いながらもGUMPを受け取り、そこで翔太と同じ物だということを思い出した。
だからだろうか? そのGUMPを抱きしめてしまう。
「これから行ってもらう世界はあなたにとって面白いものではないでしょう。
ですが、そういう所だからこそ、新しい発見があるとは思いませんか?」
「待て! お前は何者なんだ? なぜ、こんなことをする?」
 くすりと笑いながら話したシンジは振り返ると、ブラックマリアが右手を伸ばしながら呼び止めた。
それに対し、シンジは顔だけを向け――
「言いませんでしたか? お節介好きの小悪党だとね。ま、ちょっとしたお節介ですよ」
 そう言って歩き出すシンジだが――
「あなたはいずれ自分と向き合わなければならない。そこでちゃんと向き合うことこそが、あなた自身の為なのですよ。
なぜならあなたは――」
 リニアス達には聞こえぬ小さな声でそんなことを呟いていた。
シンジはリニアスが何者なのかを調べ、結果それを知ることになった。
だが、そのことを話すことは出来ない。なぜならリニアスは――
「では、いずれまたお会いしましょう」
 そんなことを考えながらも振り返らずに歩きながら右手を振り、そのまま風景に溶け込むかのように消えていくシンジ。
リニアス達はそれを呆然と見送るしか出来なかった。
「なんなのだ……あやつは……」
「ホントにね。でも、面白いかも」
 どこか苛立ちを隠せないブラックマリアだが、リリスはくすりと笑みを漏らしていた。
リリスとしてはシンジのあり方が面白いと感じていた。あんな人間は初めて見た。だから、興味を持ったのである。
「ま、いずれまたって言うんだから、どこかでまた会えるでしょ。
それじゃあ、オチビちゃん。連れていってもらえるかしら?」
「うん……」
 そう考えてため息を吐いたリリスがそう問い掛けると、サーシャはうなずき右手の人差し指を何かを突くように指した。
するとその先で白い光を放つ四角いドアの形をした物が現われる。
「これを通れば、別の世界に行けるよ」
「そうか……」
(待っていろショウタ……お前との決着は必ず付けるからな……)
 サーシャの言葉に返事をしつつ、内心はそんな決意を固めるリニアス。だから気付かなかった。
これが自分の秘密を知るためのものであるということを――



 あとがき
え〜まずは……ごめんなさい。
スカアハやアーチャーの場面を書こうと思ってたのですが……力尽きました^^;
仕事の後の執筆はやはりというか堪えます……若くないのかね、私……
さて、翔太に敗れて落ち込むリニアスにはどうにも秘密がある様子。
まぁ、人でありながら人ではあり得ない力や魔力を持っていますしね。
その彼女は行く先々で何を見るのか? というお話は……うん、出来たらいいなぁ〜(おい)

さて、次回はようやく1日目が終わります。
凜達と話し合うスカアハ。その彼女がアーチャーに告げた事が彼を困惑させることに――
というようなお話です。お楽しみに〜



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