out side

 さて、一方翔太達はというと、何事も無く士郎の家に戻っていた。
「どうなの?」
「ぐっすりと寝ている。ま、かなり無茶をさせたからな。もう休ませた方がいいだろう」
 居間でくつろぐ凜に聞かれ、戻ってきたスカアハはため息混じりに答えた。
士郎の家に着くなり士郎に頼んで部屋を用意してもらい、そこに翔太を寝かせたのである。
まぁ、戻るなり翔太が倒れてしまったために休ませる必要があったのだが――
「そう……けど、彼女……理華だっけ? 一緒に寝るなんて……あの2人、出来てんの?」
「幼馴染みではあるが……他にも理由がある……としか、今は言えんよ」
 どこか疑いの眼差しを向ける凜に、スカアハは深いため息を吐きながら答えていた。
そう、理華は当たり前のように翔太と一緒に寝ているのである。というか、完全に翔太を抱き枕にしてたりするが――
しかしながら、スカアハはこれはしょうがないと考えている。
現在、理華は悪魔化が進行中なのだが、その影響で情緒面が不安定になってきている。
人では無くなるという恐怖が彼女を蝕んでいるのだ。その恐怖は推し量れないものであった。
そんな理華が自分を保っていられるのは翔太がいたからである。
ボルテクス界で一緒に行動することで理華の中では翔太は幼馴染み以上の存在となっていた。
それこそ、恋人とひと言で済ませられないほどに――
だからこそ、理華は自分を保ちながら戦うことが出来……だからこそ、翔太の身に危険が及ぶと簡単に取り乱してしまう。
 そんな理華をなんとかしなければと思う反面、スカアハの中で何かが引っかかる。
翔太が理華と一緒にいる姿を見ていると……なぜか締め付けられるような感覚が――
「それであなた達はこれからどうするつもりなのかしら?」
「世界を崩壊させようとしている奴らのこの世界での目的は穢れた聖杯だ。
それをなんとか出来れば良いのだが……今、無い物ではどうしようもない」
「ちょっと、それってどういうことよ?」
 イリヤの問い掛けに座ったスカアハは腕を組みつつ答えるが、そこに凜が問い掛けてくる。
無いはずがない。だって、聖杯が現われたのだから、聖杯戦争が起きたのであって――
「あら? トオサカはおかしいとは思わなかったのかしら?
なんで、聖杯を手に入れるのに英霊まで喚ばなきゃならないのかを」
「凜でいいわよ……それって残った1人が聖杯を手にすることが――」
 イリヤに言われて反論しようとする凜だったが、言いかけてそこで気付いた。
最後の1人にならなければ聖杯が手に入らない? なぜ? なぜ、最後の1人でなければならない?
それに最後の1人になるまで戦うのなら、英霊を喚ぶ必要なんて無い――
凜の表情を見て気付いたことがわかったのだろう。イリヤはくすくすと笑っていた。
「気付いたようね。まぁ、答えになっちゃうけど、現時点では聖杯は完成してないの。
倒されたサーヴァントの魂が聖杯に注がれることによって完成されるってわけ」
「まぁ、それだけではないがな。だからこそ、難しいのだ。
下手にサーヴァントを倒して聖杯を完成させてしまったら、それと同時にアンリ・マユが生まれ出る。
それでは本末転倒だからな。それは避けなければならない」
 笑みを交えて話すイリヤに、それを補足しつつため息混じりに話すスカアハ。
世界を崩壊させようとしている者の目的がわかっていながらも、それに手を出すことが出来ないジレンマ。
いや、手が出せないのではなく――
「そんなのどうするのよ?」
「そちらの方はシンジの奴がなんとかするらしい。それまでは他に異変が起きてないか調べて回るしかないな」
 凜の問い掛けにスカアハは遠い目をしながら答えていた。
幻想郷や麻帆良では異界が現われていた。それがこの冬木にも現われる可能性があるとスカアハは考えているのである。
そこで聖杯の方は自分から言い出したシンジに任せ、自分達はその警戒をしようと思っていたのだが――
「シンジってさっき話してた奴でしょ? 大丈夫なの?」
「ああ……あやつはあれで……本気で油断ならないからな」
 疑いの眼差しを向ける凜にスカアハはどこか遠い目をしつつ答えた。
帰ってくる最中にシンジのことは簡単に話したのだが、凜とイリヤ、アーチャーは完全に疑っていた。
話だけでは信用することが出来なかったからだが――
「私は……信じてもいいと思います。私の体を治してくれた薬を渡したのはシンジさんだといいますから……」
 今まで静かに様子を見ていた桜がうつむきながらもそんなことを言い出した。
実際は薬を作ったのもシンジなのだが、スカアハがそこまで話していないので桜はそこまでは知らない。
それはそれとして、桜にとってシンジはもう1人の命の恩人にも思えたのである。
そんな桜を凜は心配そうに見ていたが――
「どうかしたのか?」
「なんでも……ない、わよ……」
 式に聞かれた凜は顔を背けつつ答えていたが、スカアハはそれをため息混じりに見ていた。
突然だったとはいえ桜と姉妹の仲を取り戻すことが出来た凜であったが、それをまだ受け止めることが出来ていない。
凜自身、どう接したらいいのかわからないのだ。この様子にスカアハはどうするべきかと考えてしまう。
「では、どうするのですか?」
「どのみち、悪魔が動き出すだろう。シンジが動くまではそちらの相手をした方が良いだろうな。
そういえば、メディアと士郎はどうした?」
「ああ、魔術の鍛錬をするって土蔵に行ったぞ」
 バゼットの疑問にスカアハが答えると共にそのことに気付いて問い掛ける。
それにクー・フーリンが思い出したかのように答えていた。
「そうか……ま、あやつも自分の夢をどうするべきなのかを考えてくれれば良いのだがな」
「どこへ行くの?」
 立ち上がりながらそんなことを話すスカアハにイリヤが問い掛ける。
それにスカアハは笑顔を向け――
「なに、夜風に当ってくるだけだ。今後のことも含めて考えを纏めておきたいのでね」
「そ、じゃあ私はシロウの魔術を見てこようかな」
「ちょっと。見習いとはいえ、まがりなりにも魔術師なんだから見せてくれるはずが――」
「いや、意外にあっさりと見せてもらえるかもしれんぞ」
 返事を聞いたイリヤがそう言い出すと聞いていた凜がたしなめるのだが、笑顔で答えていたスカアハはそんなことを言い出す。
魔術師としては大問題のことだが、士郎は秘匿に関しては未だにマズイ点が多々ある。
士郎の魔術の特異性を考えるとそれを改めて欲しいのだが……その為にスカアハはそんなことを言い出したのだった。
凜も気になったらしく、多少戸惑いを見せながらもイリヤと共に立ち上がって土蔵へと向かっていく。
桜も慌てて追い掛けるのを見てくすりと笑うスカアハは庭へと出ていた。
「すまないな……こんなことをさせて……」
 霊体化して姿が見えないバーサーカーに声を掛け、スカアハは跳び上がって屋根へと立った。
その場にいるであろう者と話し合うために。
「……なんの用だ?」
「お前と話がしたかった。それだけだよ」
 実体化して話しかけるアーチャーに視線だけを向けて答えるスカアハ。
しかし、アーチャーには完全に疑いの眼差しを向けられていたが――
「私とお前が何を話すというのだ?」
「お前は正義の味方とはどういうことか、考えたことはあるか?」
 視線だけを向けながら問い掛けるスカアハを、アーチャーは目を鋭くして睨んだ。
「なぜ、そんなことを私に聞く?」
「昔、正義の味方を目指していた奴の考えを聞いてみたいのだよ。エミヤ シロウとしてのな」
 スカアハの返事に問い掛けたアーチャーは白と黒の双剣を構える……が、そこで動きが止まった。
なぜなら、のど元にスカアハが持つ銃剣が向けられていたのだから――
「落ち着け。今の所、お前の正体を凜に話すつもりは無い。そんなことをすればややこしいことになるだけだからな」
 顔も向けずに話すスカアハ。実は凜に自分達が物語になっていることを話さないのはそれが理由だからであった。
もし、そのことを話せば必然的に言峰やアーチャーのことを話すことになる。
そうしたら、凜はどのような行動に出るのか……それが予想が付かないのだ。
確かに冷静な対応をする可能性は高い。だが、今の凜は自分の常識を覆されるような経験をしてしまっている。
それによって精神的に不安定になっていてもおかしくはない。その状態でそのことを話したら、1人で突っ走ってしまう可能性もあった。
スカアハとシンジとしてはそのことを避けたかったためにあえて話さなかったのである。
「で、どうなのだ?」
「未熟者の考えだ……あれは何もわかってはいない」
 スカアハに問われ、アーチャーは両手に剣を持ったまま両腕を降ろした。
そう、未熟者……士郎は何も知らないからそんな甘いことを言える……アーチャーはそう考えていたのだが――
「まぁ、未熟者というのは否定はせんがね。だが、その願いは別に悪いものではない」
 スカアハの言葉にアーチャーは顔を向けた。明らかに苛立った表情を浮かべながら――
「貴様にもわかるはずだ。正義の味方なんてものはしょせん戯れ言であると――」
「お前は正義を成すという意味を考えたことはあるか?」
 それを言い放とうとして、スカアハに逆に問い掛けられてしまったアーチャーは顔をしかめた。
理解出来なかった。スカアハの言う『正義を成す』という意味が……
「何を言っている?」
「お前はそれを考えなかったから失敗したんだ」
 睨みながら問い掛けるアーチャーにスカアハは顔を向けずに答えた。
だが、アーチャーは理解出来ない。それに何の意味があるというのだろうか?
それがアーチャーにとって疑問だったのだが――
「シンジからの伝言だ。お前は理想に裏切られたんじゃない。お前が理想を裏切ったんだとさ」
「な……に……」
「この意味を考えろ。もし、意味がわかればお前は答えを見つけ、きっと救われると言っていたぞ」
 話し終えて顔を向けるスカアハ。言われたアーチャーは呆然としていた。
やはりアーチャーには理解出来ていない。しかし、致命的な何かを言われたような気がしたのだ。
「そうだな、ヒントを言っておく。理想という言葉の意味を考えろ。
そうすれば、裏切られたのではなく裏切ったという意味がわかるはずだ。
別に正義の味方を目指すという願いは間違ったものでは無い。だが、それになるためにはやり方があるということだ」
 言い終えてから、スカアハは銃剣を消した。だが、それにアーチャーは反応しない。
ただ、呆然とスカアハを見ているだけだった。
「考えろ。目を反らすな。自分の行いからな。思い出せばわかるはずだ。自分が何も考えていなかったとな」
 そう言い残し、スカアハは地面に降り立つ。アーチャーは呆然と見送るしか出来ない。
自分が何をした? どういうことなのか? そんな想いが渦巻き、混乱する。アーチャーはまだその言葉の意味を理解出来ていなかった。
「なによこれぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ふむ、士郎の魔術でも見たかな? ま、そちらの方はメディアに任せておこう」
 土蔵から聞こえた凜の叫び声にスカアハはくすりと笑いながら家の中へと入っていく。
こうして、士郎の世界での長い1日はこうして幕を閉じる。だが、この時はスカアハは知らずにいた。

 自分の運命が回り始めたことに――



 あとがき
てなわけでようやく1日目が終わった翔太達。
しかし、シンジとスカアハがアーチャーに言った
『お前は理想に裏切られたのではなく、お前が理想を裏切った』という意味はなんなのか?
そして、まだ自分の運命も回り始めたことをを知らないスカアハはどうなるのか?
次回はいよいよあの人の登場です。そう、あの道場主……え、違う?
そして、新たな1日は翔太達に何をもたらすのか? そんなお話です。
というわけで、次回をお楽しみに〜



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.