out side

 翔太がリニアスの登場に戸惑っていた頃、スカアハ達の方も困惑していた。
というのも――
「聞くが……なぜ手助けを?」
「あの子がやきもきしちゃったのよ。あまりにもふがいないってね」
 スカアハの問い掛けにリリスはくすくすと笑いながら答えていた。
まぁ、リニアスは翔太の戦いぶりに憤りを感じていたのは間違いない。ただ、それだけではないのだが……
本人は気付いていないことに気付いていたリリスは、可愛くなったものねと考えていたりする。
「そうか……この場はありがとうと頭を下げておこう……しかし、どうやってここに来た?」
「それは……後にしましょ。今は急いだ方がいいんじゃないの?」
 軽く頭を下げてから問い掛けるスカアハに、リリスはアスラの方を見ながら問い返していた。
確かに翔太達の方も戦闘を再開している。これ以上、こちらの準備を遅らせるのは翔太達の不利にしかならない。
事実、リニアスが止めに入らなければ、翔太は大きなダメージを負っていたはずなのだ。
「そうだな。最大級の魔法を頼めるか?」
「ええ。あなたもいいわよね?」
「リニアス様の命令だ。当たり前だろう?」
 スカアハの問い掛けにリリスはうなずき、リリスに聞かれたブラックマリアも不満そうにしながらも答えていた。
これを見て、スカアハもまた使おうとしていた魔法の準備を始める。
サーシャが自分を見ていたことには気付かずに――


 in side

『なんだ、貴様は?』
「黙れ。人の獲物をかすめ取ろうとしおって」
「誰が獲物かぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 睨むアスラに睨み返すリニアス。それに叫び返した俺は悪くないよね?
色々と文句は言いたいが、それは良しとしておこう。良くはねぇけどな。
だけどさ、なんでリニアスがここにいるのよ?
「改めて聞こう……なんでここにいる?」
「サーシャに連れてこられた。そしたら、貴様がふがいない戦いをしていたのでな。手伝ってやろうと思ったまでだ」
 などとすました顔で答えてくれるリニアスだが……なぜだろうか? ツンデレという言葉が浮かんだのは……
あと、サーシャって誰さ? 前に会った時にはいなかった気がするんだがね?
「まぁいい……手伝ってくれるってことでOKか?」
「ああ……私としてもこのような相手と戦ってみたいと思っていたしな」
 呆れる俺に答えつつ、リニアスはアスラに顔を向ける。
なんだろうね? この戦闘民族は……なんか、ある意味羨ましいよ?
「翔太、いいの?」
「ていうか、他にどうしろと?」
「情けないのぉ」
 理華に聞かれるが、俺としてはそうとしか言えない。ていうか、余計ないざこざ増やしたくないんだって。
後、ケルベロス。情けない言わんでくれ。魔人化し続けるのって、実はかなりきついんだって……
『貴様ら……なんのつもりだ……』
「ま、とりあえず……てめぇをぶっ倒すってのは変わらないってことだよ」
 睨むアスラに後頭部を掻きつつそう言っておく。
いきなりリニアスが来たりとビックリはしたが、やることは結局は変わらない。
すなわち、アスラをぶっ倒すことはな。
『ふざけるな!』
「おわっと!?」「きゃ!?」
 で、起こったアスラに光の塊をぶっ放されたけど。慌てて避ける俺と理華。
他の奴らは余裕で避けてるし……
「いきなり何しやがる!」
「そうよ!」
 お返しとばかりに理華と一緒に銃を撃つ。
『小賢しい!?』
 しかし、いくら魔人化と悪魔化で威力が上がっていようとアスラに効いてる様子は無い。
逆に殴り掛かられたぐらいだしな。それは流石に避けたけど。
「気を取られすぎだ」
「はぁ!」
 そこにんなことを言ってるベルセルクがリニアスと共に斬り込んでいき――
『ぐ!? おのれ!』
 ちょっとだけアスラを怯ませた。今、斬った時に光ってなかった?
もしかして、攻撃スキル使ったのかね? やべ、普通にそのこと忘れてた。
「クー・フーリン! 攻撃スキルで攻撃! ケルベロスはでっかくなって、ついでに攻撃スキル!」
「おお!」
「あのような輩は魔法の方が良いのだが……まぁ、我々ではしょうがあるまいか」
 俺の指示にクー・フーリンは飛び出し、ケルベロスは呆れていたりする。
いや、マジでごめん……普通に殴り合いしてたら、そのこと忘れちゃったんだって。
「まぁ、良い。この体では少々やりづらかった所だ。我なりのやり方をやらせてもらおう」
 そう言うとケルベロスの体が輝き始め――
『ガアアァァァァァァァァ!!』
「ぶっ飛べ!!」
 獣の姿になって飛び込みながら前足を突き出すケルベロスと一緒に、クー・フーリンも光を纏った槍を突き出しながら飛び込み――
『ぐぬ!? おのれぇぇぇ!?』
 ケルベロスのでかさもあってか、アスラも2人の攻撃を受けて少しばかりよろめいた。
でも、傷無しってのは相変わらずだが――
「ボサっとしてないで行くぞバーサーカー! 理華、サポート頼む!」
「うん! 戦の魔王よ!」
 なぜか棒立ちのバーサーカーに声を掛けつつ、理華に頼んでおく。
ちなみに後で聞いた話なんだが、バーサーカー……というか、ヘラクレスとケルベロスって因縁があったらしい。
で、ここにいるケルベロスはヘラクレスが知ってるものじゃ無かったけど、似ているようなもんなんで呆然としたと。
 それはそれとして返事をした理華はというと、いくつもの魔力の塊を生み出してアスラへと向けて撃ち出していた。
『ぐお!? ぐ、おのれぇ……』
 理華の魔法にアスラがわずかにたじろいでいたが……もしかして、魔法の方が弱点か?
そういや、焦りすぎてこいつの弱点とか確かめてなかったっけ……
だとしたら、最初に理華が使った火炎魔法やばかったかも――
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「■■■■■■■■■■■■■■〜!!」
 という考えは後にして、俺はバーサーカーと一緒に突っ込んでいく。
ていうか、こいつに攻撃されたらひとたまりも無いのは経験済みだしな。
なら、攻撃される前に攻撃して、その手を止めるしかない。
『うっとおしい!?』
「おわっと!?」
 しかし、俺とバーサーカーの攻撃はほとんど効いてないらしい。
現に腕で防ぐと、その腕を振り回してきたしな。つ〜ことは魔法が弱点か普通に効くかのどっちかだが――
そいつらのほとんどはスカアハの所だし……って、そういやあいつらはどうしてるんだろうか?


 out side

「ちょ、ちょっと……なによあれ!?」
 その頃、スカアハ達は戦いを見守っていた。むろん、ただ見守っていたわけではない。
アスラを倒すための準備を進めていたのである。
しかし、凜が慌て出す。というのもケルベロスが獣の姿に戻ったことに驚いたことだ。
幼女と思っていたのが女性となり、更にはアスラの大きさに匹敵する獣の姿となったのだ。
まぁ、驚いていたのは桜やライダー、アーチャーも同じであるが。
「なんていうか、凄まじいね」
「ああ……ケルベロス……三つ首では無いが、伝承通りのような強さだな」
 一方で感心している真名に、エヴァは少しばかり驚きながらもやはり感心していた。
ちなみにネギとエヴァは遅延詠唱も唱えており、いつでも魔法を放てる状態にある。
それはそれとして、エヴァはこれにより翔太の評価を更に上げることとなる。
なにしろ、伝承などで有名なケルベロスを手懐けているのだから……ちなみにそうではないのだが、それを知るのはいつになるのやら――
「これは……凄い……」
 一方で士郎から生体マグネタイトを与えられたライダーは驚きを隠せなかった。
魔力とは違う生命エネルギーと聞かされてあまり期待していなかった。
しかし、受け取るとその凄さに驚きを隠せない。なにしろ、魔力が回復したどころか体が活性化している。
「あ……」
 そのせいか高揚感を感じ……思わず士郎を見てしまい、顔が赤らむのを感じてしまう。
「大丈夫か?」
「え? あ、はい……ご心配なさらずに。これなら全力で行けます」
 その様子に心配した士郎が顔を覗き込むが、ライダーは慌てて答えていた。
しかし、顔は赤いままだった。一方で凜、桜、セイバーはなにやら嫌な予感を感じていたりするが。
「まったく……手はず通りに行くぞ! ライダー!」
「は、はい!」
 そのことに呆れながらもスカアハの指示にライダーは慌てて返事をし、前に出ると持っていた釘剣で自らの首を掻っ切ってしまう。
「なにしてんの!?」
 その行為に明日菜は驚きを隠せなかった。どう見たって自殺行為にしか見えない。
「ふえ!?」
「なんと……」
 しかし、次に起き始めたことにこのかが気付いて驚き、真名もそのことに少し驚いた顔をした。
というのもライダーが掻っ切った首から当然の如く血が噴出したのだが、その血が魔方陣を描いたのである。
「な、なにあれ!?」
「なんだありゃ!?」
「う、嘘……」
 更にその魔方陣から何かが現れたことに明日菜とカモが驚き、ネギも呆然とその光景を見ていた。
血の魔方陣から現れたもの。それは純白の体と翼を持つ天馬……すなわち、ペガサス。
「ペガサスを召還だと!? そんなことが……待てよ?」
 その光景にはエヴァも驚いたが、ふとあることを思い出す。
確か、血からペガサスが現れる記述があったような覚えがあったからだ。
「まさか、あやつは……」
 そのことに思い当たったエヴァは、ライダーの正体を推察し、そのことに戸惑った。
もし、そうなのであればとんでもない規格外がここにいることになるからだ。
 その間にライダーはペガサスにまたがり――
「騎英の手綱(ベルレフォーン)!!」
 その言葉が出ると、ライダーはペガサスと共に彗星となってアスラへと飛んでいき――
『ぐお!?』
 そのまま突っ込み、アスラの胸板に体当たりした。
物理耐性を持つアスラだが、これは流石に効いたようで倒れそうになってしまう。
「みなさん、そこから離れてください! 今から一斉に攻撃します!!」
「わかった! つ〜わけで離れるぞ!」
「うん!」
「了解!」
『そうさせてもらおう』
 ライダーの言葉に翔太は返事をすると指示を出し、理華、クー・フーリン、ケルベロスはうなずくのだが――
「逃げるなら逃げろ。私は戦わせてもらう」
 と、リニアスは戦い続けようとするのだが――
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! 一緒に吹っ飛ばされてぇのか!」
「あ、こら!? 何をする!? 離せ!?」
 翔太はそんなリニアスの右手をつかむと、文字通り引きずる形で離れたのである。
このことにリニアスは暴れ出すが、顔はどこか赤くなっているように見えた。
そんでもって、その光景を理華とクー・フーリン、ケルベロスはジト目で見ていたりするが……
なお、ベルセルクは何も言わずに付いていく。
リニアスが引きずられていることを何も思わないわけではないが、翔太達が何かすると今の話で判断した為の行動であった。
「よし! ネギ! エヴァ! 頼んだぞ!」
「それはいいが……奴に私達の魔法が効くのか?」
 スカアハが指示を出すが、エヴァは視線を向けながらそんな疑問を投げかける。
今のネギは仕方ないにしても、位置の関係上自分は最大級の魔法を使えない。
結果としてそれより劣る魔法を使わねばならないが、それだとアスラに通じるかが不安になる。
「構わん! 2人の魔法はこちらに注意を向けるためだ!」
「ふん、真祖を前座扱いとはな……そうするからにはよほどの自信があるのだろうな?」
「完全に賭けだよ。ま、分が悪いというわけでもないがな」
 話を聞いて少し不機嫌そうな顔をするエヴァだが、話していたスカアハはそう答えた。
今まで翔太が戦ってきたのを見て、アスラに魔法が通じるのはわかっていた。
むろん、属性系の耐性がある可能性もあるが、今はそれを確かめる暇も無い。
長引かせればこちらが不利にしかならないからだ。
なので、ほぼ賭けに近いのは否めない。しかし、そのための対策もしてある。
完璧というわけではないが、簡単には危険なことにはならないはずであった。
「そこまで言うからには見せてもらうからな? 行くぞ、坊や」
「はい!」
 スカアハを睨んでから、エヴァはネギに声を掛けて構えた。ネギもまた返事をして構え――
「雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」
「闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!!」
 雷を纏った竜巻と吹雪を伴った闇の竜巻がアスラへと飛んでいき――
『む!』
 アスラも気付いて体を向けて2本の腕を突き出し、手のひらで受け止める形でネギとエヴァの魔法を防ぐ。
アスラは魔法に対する耐性は普通の悪魔と変わりない。
しかし、高い防御力を持っているのは変わりなく、ネギとエヴァの魔法が通じているようには見えなかった。
『この程度で我が倒れるとでも思ったのか!』
「思っておらんし、これで終わりでは無いのでな」
 アスラの言葉にスカアハが答えるかのように漏らすと、フロストとランタン、シルフとモー・ショボー、ルカが前に出ていた。
「ブフダイン!」「アギダイン!」「「ガルダイン!」」「ジオダイン!」
 フロストが氷結を、ランタンが火炎を、シルフとモー・ショボーが疾風を、ルカが雷撃を、
それぞれがそれぞれの魔法を放つ。今使える最大限の魔法にありったけの魔力を乗せて――
『ぬごぉぉぉぉぉ!?』
 その魔法にアスラは腕の全てを向けて防ごうとする。そのかいあってか、魔法を止められたが――
「止めさせるな! アーチャー!」
「アーチャー……しっかりやりなさいよ!」
「ああ……先程の失態、濯がせてもらおう」
 スカアハの叫びに凜が声を掛ける。凜もわかってきたのだ。ここでアスラを倒さねば何かがヤバイと。
それに応えるかのようにアーチャーは黒塗りの弓の弦を引く。しかし、引かれるのは矢では無く剣。
刀身が螺旋状になっているどこか歪んだ感じを受ける剣であった。
「I am the bone of my sword(我が骨子は捩れ狂う)」
 アーチャーの口からそんな言葉が紡がれると、引かれている剣が唸りを上げ――
「偽・螺旋剣U(ガラドボルグ)」
 言葉と共に剣は射られ、射貫かんとばかりにアスラへと飛んでいく。
『嘗めるなぁ!!』
 だが、アスラはそれすらも受け止め――
「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!?』
 直後、アーチャーのその言葉を紡ぐと同時に、射られた剣がフロスト達が放った魔法ごと大爆発を起こす。
アーチャーの剣の爆発とフロスト達の魔法の爆発。その威力にアスラはここで初めて腰から倒れていった。
「たたみ掛けるぞ! セイバー!」
「はい!」
 スカアハの叫びにセイバーは構えながら返事をした。構えるのは普段はその姿を見せない剣。
だが、今は神々しくも美しい刀身を見せていた。その刀身は光を纏いながらも唸りを上げ――
「約束された――(エクス――)」
 その剣をセイバーは振り上げ――
「勝利の剣!!(カリバー!!)」
 叫びと共に一気にその剣を振り下ろす。すると刀身から光の激流が生まれ、アスラを呑み込まんと向かっていった。
『く、おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
 しかし、アスラも叫びながらも立ち上がり、腕を全てを光の激流へと向ける。
「は、はは……エクスカリバーだと……あの少女が……ははは……まさか……まさか、そのような者にまで出会えるとはな」
「マスター?」
 その光景にエヴァは思わず笑ってしまう。エクスカリバーという神々しくも美しい剣。
そんな剣を使う人物なぞ、エヴァは1人しか思い当たらない。その事実に思わず笑ってしまったのである。
茶々丸はエヴァが笑う理由がわからずに首を傾げていたが……
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』
 その間に光の激流とアスラはぶつかり合うが、アスラは立っていた。光の激流に抗わんとばかりにせき止めながら――
この結果は別にセイバーのエクスカリバーの威力が劣っていたからではない。アスラの方が異常なのだ。
まぁ、アスラはまがりなりにも神族とも魔族ともされた存在だ。その名を冠する者だからこそ、それだけの力を持っていたのだろう。
「まったく……あのオチビちゃん。なんで使えるのかしらね?」
「さてな……だが、なんであれこの場では助かる」
 リリスの疑問にスカアハは苦笑混じりに答える。実を言えば、スカアハはその答えを知っている。
だが、それもすぐに明かされることとなるだろうと、今は話さずにいたのだった。
 さて、なんのことを話しているのか? それはミュウのことだ。
リリスとの戦いから、ミュウは成長していた。しかし、その成長の度合いが異常だった。
どれくらい異常なのかと言えば、リリスとブラックマリアと共に同じ魔法を使えるほどに――
『うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!?』
 その間にエクスカリバーに耐えきったアスラが光の激流をかき消し――
「「「メギドラオン!!」」」
 それとほぼ同時にミュウとリリス、ブラックマリアは同じ魔法を放った。
まるで太陽のような輝きを放つ3つの巨大な光球。それがアスラをと向かって飛んでいき――
『ぬおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』
「きゃあぁぁぁぁ!?」
「このちゃん!?」
 当るとほぼ同時に巨大な光の柱生まれ、アスラの巨体を呑み込んでいった。
そのあまりの威力に衝撃は凄まじく、このかが吹き飛ばされそうになる。間一髪、刹那が抱き留めることで事無きを得たが。
『ぐ……なぜだ……なぜ、これだけの力を持ちながら……人間の為に戦う……』
「あいにくだが、それは貴様の勘違いだ」
 巨大な光の柱が消えると、そこでアスラは立っていた。
流石に立て続けに魔法を受けたせいで体のあちこちに裂傷が出来ていたが……
そんなアスラの呪詛のような疑問にスカアハは睨む形で答える。そう、攻撃はまだ終わってないのだ。
「ジハード!!」
 スカアハがその言葉と共に現われたのは巨大な闇の塊……それがアスラを押し潰さんと落ちるように飛んでいく。
『ぐ、が!? ば、馬鹿な……き、貴様が……この魔法を使えるはずがぁぁぁぁぁ!?』
「ああ……そうだな。私も早々使える……魔法では……無い……」
 その闇の塊を落とさないとばかりに全ての腕で受け止めながらも驚愕するアスラ。
ジハードとはボルテクス界の魔法の中では最高峰とも言える威力を持つ。故に使える悪魔はほんの一握りでしかない。
なぜなら、その威力故に反動も凄まじいのだ。並の悪魔では反動で消し飛ぶ程に……
その為、いかに女神であるスカアハといえども容易に使える魔法ではなかった。
現にジハードを使うために消耗し、膝を付いてしまっている。
『こ、こんなことでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
 やがて、押し潰されるようにアスラは巨大な闇の塊に呑み込まれていく。
闇の塊はしばらくはその場に止まり、やがて破裂するように消し飛んでいき――
『ゆ、許さん……貴様らは……絶対に――』
「嘘!?」
「あれを喰らってまだ立てるのか!?」
 その場に立つアスラに明日菜とエヴァは驚きを隠せずにいた。
アスラの体は満身創痍と言ってもいい。体中に裂傷があり、6本あった腕は右上と左真ん中の2本を失い――
3つの顔も左右の顔は完全に潰れており、残った顔も片眼が潰れたらしく、まぶたが固く閉じられていた。
そんな状態なのにも関わらず、アスラは立っていたのである。
『絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!??』
 しかし、そんな傷は関係無いとばかりにアスラはその頭上に巨大な魔力の塊を生み出す。
それを落とされれば、スカアハ達はただではすまなかっただろう。
「ふん……それで良いのか? 貴様は誰と戦っていたのか……忘れているのではないのかな?」
 しかし、スカアハは不敵な笑みを向ける。そう、アスラは忘れてしまったのだ。
他にも戦っていた者達がいたことを――
『余所見とは随分と余裕だな!!』
『がはっ!?』
 いつの間にか近付いていたケルベロスの体当たりにアスラは跳ね飛ばされ、頭上にあった魔力の塊は霧散してしまう。
今のアスラは周りが完全に見えていなかった。自分をここまで傷付けた者達への怒りのあまりに。
だからこそ、ケルベロスの存在を忘れてしまい、体当たりを許してしまったのだ。
『ぐ!? おの、なにぃ!?』
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
 なんとか踏み留まって倒れることを免れたアスラだが、次の光景に驚愕する。
すでに翔太、理華、クー・フーリン、リニアス、ベルセルクは目の前まで来ていた……いや、自分の頭上よりも高い所にいた。
どうやってここまで跳んだのか? その答えは地上にいるバーサーカーが答えであった。
「バーサーカー! 俺達をあいつの上に跳ばせるか?」
 翔太の疑問にバーサーカーはうなずき、翔太達のジャンプを補佐したのである。
「でりゃあぁぁぁぁぁ!!?」「ええい!?」「どっりゃあぁぁぁぁぁ!!?」「はあぁぁぁぁぁ!?」「うおおおおぉぉぉぉぉ!?」
 そして、翔太達はそのまま真っ直ぐにアスラへと向かい落ちていく。それぞれが魔力を纏った刀身を持ちながら――
『ぐおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!??』
 そして、それぞれの刀身がアスラを頭上からまっすぐに切り裂く。
確かに物理貫通スキルを持つ翔太の剣にもアスラはその強固な守りで完全に耐えていた。
だが、今は体が傷付き過ぎていたためにそれにすら耐えられない。また、翔太の物理貫通スキルが理華達の攻撃の手助けをしたのも大きかった。
『ぐ、が……あ……』
 轟音と共にアスラは膝を付き、そのままへたり込む。倒れなかったのはまだ余力があったのか、意地なのか――
『なぜ……だ……なぜ……それだけの力を持ち……ながら……誰かの為に……戦う……?』
「は? 何言ってんの?」
 睨みながらアスラは問い掛けるのだが、翔太はそのことに首を傾げた。
『なん……だと……』
「俺は死にたくないし、知り合いにも死んで欲しく無いだけ。けど、てめぇらのせいで逃げられなくなったからな。
だから、戦ってるだけだよ。でなけりゃ、こんな死にそうな戦いなんてするか!」
 その姿にアスラは目を見開くが、翔太はといえば後頭部を掻きつつ話し、最後の方では叫んでしまう。
というのも――
「ああ、くそ! 思い出した! 大体、俺がこんなことするのはてめぇらのせいじゃねぇか!
てめぇらが勘違いしたおかげで巻き込まれたり変な呪いまで掛けられたんだぞ! どうしてくれるんだ!!」
 などとかな〜り怒っている様子を見せていた。まぁ、無理も無い。
元の世界に戻ろうとしていただけだったのに、その場に居合わせたが為に勘違いをされて襲われ――
死にたくないが為に戦って倒したら、完全に敵対者だと思われてしまったのである。
これは翔太には不本意極まりない。邪魔をする気が無いどころか何が起きているかすらも知らなかったのだ。
「第一、てめぇらは何がしたいんだ! 色んな世界ぶっ壊してなんになるって言うんだよ!?」
 だからこそ、今の言葉は翔太にとって心の叫びに近かった。
今、わかっているのはアスラ達が翔太が住む世界やボルテクス界、幻想郷、ネギ達の世界、士郎達の世界を崩壊させようとしていることのみ。
それ以上の目的があるらしいが、翔太はそれがどのようなことなのかを知らないのだ。
『なにも知らないのなら……なぜ……戦う……』
「だから、てめぇらのせいだって言ってるだろうが!? 世界がぶっ壊れたら間違いなく死ぬだろ!?
俺も知り合いも! そんなのはぜってぇにごめんこうむる!!」
 体が崩れ始めるアスラの疑問に翔太は叫び返していた。
知り合いが死ぬのが嫌だから……と聞けば、正義の為と思う者もいるかもしれない。
アーチャーもその1人だが……だが、考えようによってはそれは独善的とも言える。
果たして、それが正義と言えるだろうか? 少なくとも翔太はそうは考えていないし、自己満足であるという自覚もある。
悪い言い方をすれば、自分勝手なのだ。自分が嫌だからそうしているに過ぎないと――
『な、ぜ……だ……』
 そんな翔太をアスラは静かに見つめていた。思い浮かぶのは疑問のみ。
なぜだ? 人間は脆く醜く、歯牙にも掛けない存在のはずなのに……なぜ奴を……美しいと想うのか……
そんな疑問と共にアスラの体は完全に崩れてしまう。
「ふぅ……あ〜……」
「って、翔太!?」
「お兄ちゃん!?」
 それを見届けると翔太からアリスが抜け出るのだが、翔太はそのまま大の字に倒れてしまう。
そのことに理華とアリスは慌てて駆け寄っていた。
「何をしている?」
「はは〜……なるほどね」
 その様子にリニアスは首を傾げるが、リリスはわかったらしくふっと笑みを漏らしていた。
「その子はね。どうしようもなくただの人間なのよ。ただの人間があんな力を使えば、ああなって当然よね」
 などとリリスは腕を組みつつ答えるのだが、事実その通りであった。
過ぎた力は時として使う者を滅ぼすことがある。魔人の力は翔太には過ぎた力であり、まさにその通りとなったのだ。
「どうする? 今なら簡単に倒せると思うけど?」
「ふん。そんな奴に勝っても意味は無い」
 顔を向けるリリスにリニアスは憮然と答える。そう、彼女が望むのは全力同士で戦うこと。
そして、それで勝つことなのだ。故に今の翔太に戦いを挑むことは望まなかった。
色々とあったものの、アスラとの戦いは終わった。しかし、この場でのことはまだ終わりではなかった。


 その頃、フェイトは離れた場所で戦いを見ていた。
そして、その結果に驚愕する。自分でさえ敵わないと思っていたアスラ。それを強力な魔法を用いたとはいえ、倒してしまった。
この事実を成した翔太達をフェイトが脅威と感じても不思議ではなかっただろう。
それと共に自分達の目的の妨げになると考えたとしても――
 ならば、消耗している今の内になんとかしてしまわなければとフェイトは考える。
全員は流石に無理だが、消耗が激しそうな者……例えば、翔太などなら――
「はい、そこまで」
「な!?」
 そこまで考えた時、聞こえてきた声にフェイトは驚愕する。
確かに油断はしていたかもしれない。翔太達に集中する余り、周りの気配に気を配っていなかったかもしれない。
だが、声を掛けられるまでまったく気付かなかったという事実がフェイトを驚かせていたのだ。
「なにも、な!?」
 それでも誰なのだろうかと確認しようとして、そこでそのことを知る。
体が動かないのだ。まるで何かに固められたかのように、体がまったく動かせない。
力を入れても魔力を高めようとしてもだ。魔法でも呪いでもない何か……その力で動けないことにフェイトは困惑する。
「やれやれ、もしやと思って監視していたのは正解でしたねぇ」
 と、その背後から現われたのはシンジである。彼はフェイトの用心深さをコミックスで知っていたために監視していたのだ。
そして、実行に移そうとしたフェイトを止めたのである。
「あ、勘違いしないで欲しいのですが、私はあなたを助けたんですよ?」
「なん……だって?」
 シンジの言葉に動けないために顔を見れていないフェイトは訝しげな声を漏らした。
まぁ、当然の反応とも言える。動けなくされたのに助けたと言われたのだ。普通なら訳がわからないと思ってもおかしくはない。
しかし――
「な!?」
 その時、フェイトは見てしまった。あのアスラが子供だましに見えるようなものを――
「あ〜……やっぱり来ちゃいましたか。ちなみに言っておきますが、あの人翔太さんがお気に入りでしてねぇ。
もし、今翔太さんを殺してしまったら……あなた、殺されるどころか組織すらも無かったことにされちゃいますよ?」
 一方でシンジはそんなことを気にしていないかのように話すのだが……フェイトには聞こえていなかった。
今、フェイトを支配していたのは文字通りの恐怖。なぜなら、全てを拒絶するような圧倒的なものを見てしまったがために――
「さてと、お呼びのようなので行きますか……それとフェイトさん……後でお話ししましょうか?」
 そう言って、シンジはその場から消えていく。
しかし、残されたフェイトはそれすらも気にならないくらいに恐怖に支配されていた。
何を見たのか? それは少しばかり時間を遡る――



 あとがき
そんあわけでアスラ戦にからくも勝利した翔太達。
しかし、それによってフェイトに狙われそうになりますが――
それを止めたシンジ。そして、フェイトが恐怖したものとは……
次回は久々にあの人が登場しますが……なぜか、シンジと妙な話に?
そんなお話です。次回をお楽しみに〜



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