in side

「まったく……あれを倒すとはな。呆れた奴だ」
「なんでだよ?」
 腕を組みつつやってきたエヴァにジト目を向ける俺は悪くないと思いたい。
いや、だってね。呆れたってなにさ? 呆れたって……
「言葉通りだ。あんなのを相手にして、普通は戦おうと思う者なぞおらんよ」
 などとエヴァに言われるが……でもね、俺だって戦いたく無いよ?
だけどね、戦わないと色々と拙いんだって……死ぬとか死ぬとか死ぬとか死ぬとか……後、痛いとか……
そんなの普通嫌じゃん? でも、逃げても意味無いみたいだし……だから、戦うしかなかったんだって……
「確かにエヴァの言う通りよね」
「てめぇもかい」
 と、腕を組む凜にも突っ込んだ俺は悪くないはずだ。うん、そうだよね?
なんだろう? なんか泣きたくなってきた。
「でも、凄いと思いますよ」
「確かに……あれだけの相手に怯まず戦うというのは、まず出来るものではありません」
「いや、必死こいてただけだからな?」
 と、なんか感動してる士郎君と、その横でうなずいてるセイバー。
でも、それはなんか気恥ずかしい気がして、思わず顔を引きつらせてしまったけど。
それに倒せたと言ってもスカアハ達の魔法とかのおかげだしなぁ……俺、とどめ刺しただけだし。
などと考えていた時だった。
「確かにあれを倒したのは凄いよね……」
「え?」「な……」
 なんか聞き覚えのある声が聞こえてきた。それに凜とエヴァがなぜか驚いている。
理華や俺の仲魔達以外のみんなも同じだった。あ、メディアケルベロスも驚いてら。
まぁ、無理もないか……だってさぁ――
「でも、なんで君がここにいるのかな?」
「黙れ、諸悪の根源」
 なぜか睨んでくるゴスロリボクっ娘にそう言い返す。
うん、久々の登場だな。文句言ってもいいよね? 答えは聞かんけど。
「君が今ここにいるはずがないんだけどな?
ボクの予定では君がここに来るのは全てが終わった後で、君は絶望の底にいたはずなんだけど――」
「勝手なこと言ってんじゃねぇよ!? ていうか、無視しないでくれる!?」
 まったく人の話を聞こうとしないゴスロリボクっ娘に叫び返した俺は悪くないと思う。
いや、怖くないわけじゃないよ? なんか、殺気も向けられてるしね。でも、俺には今更という感じだ。
だったら、言いたいこと言いたいじゃん?
「ていうか、てめぇのせいで色々苦労してんだけど!? 後、勝手に人に呪い掛けてんじゃねぇよ!?」
「ふ〜ん……そこまでわかっちゃってたのか〜……でもまぁ、そんなのはどうでもいいんだよ。
今大事なのは……なんで君がここにいるかなんだけど?」
「やっぱり無視ですか!?」
 なので言ってみたのですが、あの野郎は見事にスルーしてくれやがりました。
なにそれ!? 俺がここにいるのがおかしいってのか!?
「だって、君はまったく別の世界にいたんだよ? そんな君にこの世界に訪れようとしていた危機を知り得るはずが――」
「確かに普通では無理ですが、教える存在がいたとしたらどうでしょうかね?」
 ゴスロリボクっ娘が睨みながら言おうとした時にそんな声が……ちょいと待て。
「出たな、諸悪の根源その2」
「いや、諸悪の根源って……私もある意味被害者なんですがね」
 いつの間にか俺の横にいるシンジを睨みつける。いや、てめぇも加害者だろと思うのは俺だけだろうか?
確かに迷惑は掛けられてない……のか? あ、今気付いたんだが、シンジの横にいるのって千草じゃね?
気を失ってる……というか、目を回してないか?
「そいつはどうしたんだ?」
「ああ、逃げられたら後々厄介かと思いまして、捕獲しておきました」
 とりあえず聞いてみると、シンジはにこやかに答えてくれたが……捕獲って……何やったんだ?
「誰だい、君?」
「これは自己紹介が遅れまして……私、翔太さんのサポートをしている、アオイ シンジと申します。
以後、お見知りおきを――」
 ゴスロリボクっ娘に聞かれて頭を下げるシンジ……でも、なんで頭を下げる時はいつも優雅な仕草なんだ?
「ふ〜ん……翔太がここにいるのは君の仕業なのかな?」
「いかにも……と、お答えしておきましょう」
「そ……じゃ、消えて」
 あっさりと答えるシンジに、ゴスロリボクっ娘はジト目を向けてたかと思うと、とんでもねぇ魔力の塊を撃ってきやがった。
てぇ、こっちに来てる!? なんでさ!? あ、シンジに向けたからか……だったら、俺を巻き込むなぁぁぁぁぁ!!?
が、シンジはというと右手を向けて……魔力の塊がその右手に触れるとあっさりと止まり、弾けるようにして消えてしまったのだった。
「おいぃぃぃぃ!? 人を巻き込むんじゃねぇよ!!?」
「そうですよ。ここで翔太さんを殺しては、あなたの楽しみは無くなると思いますがね?」
「ふん、本気で無かったけど、あっさりと止めておいて良く言うよ」
 思わず叫んでしまうが、シンジとゴスロリボクっ娘はまったく気にしてないかのように言い合うし……
いや、本気じゃないって……たぶん、そうなんだろうが、それでもとんでもなかったぞ。
それをぶっ放すゴスロリボクっ娘もだが、あっさりと止めたシンジも……なに、このチート達?
「ま、ボクの邪魔をしないでもらえるかな? ボクは翔太の絶望の顔が見たいんだよね」
「やめてくれない!? その物騒なこと!?」
「そんなことって……」
 で、ゴスロリボクっ娘の話しに思わず絶叫。理華も戸惑ってるし。
いや、ぜってぇろくなことじゃねぇと思ってたけど、それは色んな意味で嫌だぞ!?
「そうは言わないで欲しいのですねぇ……そういえば、彼の世界のあなたの写し身……あなたは大層お気に召さないようですが?」
 と、なぜか視線を向けながら話すシンジにゴスロリボクっ娘はピクリと反応を見せた。
ていうか、彼の世界の写し身? どういうことだ?
「気付いてたのか……ボクのことを……」
「まぁ、私もどちらかというと魔に属する方ですし、頼りになる情報収集家もいますから。
あなたの正体を調べるのは簡単でしたよ」
 少し驚いたって顔をしてるゴスロリボクっ娘にシンジは苦笑混じりに答えるが……
そういや、俺ゴスロリボクっ娘の正体知らないんだよな。名前も知らんし。
ていうか、魔に属するって……どういうことか聞いてもいいんだろうか?
「なぁ、あいつって何者なの?」
「そうですね……申し訳ないのですが、今はお話し出来ません。
ですが、いずれ翔太さんはその写し身と戦わなければならなくなりますが……」
「いや、なんでさ?」
 気になって聞いてみたら、逆にそんなこと言われました。
というか、なんでそんなのと戦わなきゃならないのさ? とんでもなさそうな気がするんだけど?
「今回のことに関わるからですよ」
「だったら、正体くらい教えてくれたって良くね?」
「話したら、あなた絶対に後悔すると思いますが?」
「そんなのと戦わせようとするな!?」
 シンジの返事に聞いて見た俺は絶叫。いや、マジでそんなのと戦わせようとするなよ。
あいつの写し身ってことはコピーってことだろ? んなのに勝てるわけないじゃん!?
「大丈夫ですよ。いくら写し身と言っても、強さはご本人の足下にも及びません。
そうですね……今回戦ったアスラさんよりちょっと強いくらいですね」
「どこが大丈夫だ!?」
「それにあれは攻撃は効かないし、触れたら最後。取り込まれてしまうけど?」
 にこやかに答えるシンジだが、大丈夫と言える要素がまったく無いんだけど!?
なに、アスラよりちょっと強い程度って!? アスラでもとんでもなく苦労したんだけど!?
それにゴスロリボクっ娘も不安になることしかいわねぇし!?
攻撃効かないってなにさ!? 後、触れたら取り込まれるって!?
「それをなんとかすると言ったら、どうしますか?」
 が、シンジはにこやかにそう言うと、ゴスロリボクっ娘の眉がピクリと動いたのが見えた。
でも、なんとかするってどういうことさ?
「なんとか……出来るのかい?」
「まぁ、翔太さんの呪いがなければ、倒すことも可能です。というか、そっちの方が楽なんですけどね。
ていうか、あなたが翔太さんに呪いを掛けなければ、もっと楽だったんですよ?」
 疑いの目を向けるゴスロリボクっ娘に、シンジはため息混じりで答えるのだが……
ええと、つまり……俺の呪いがなけりゃ、俺はこんなことしなくても良かったってことか?
「なら、なんでしないのさ?」
「まぁ、なんと言いますか……ケンカを売ってみるのもたまには一興かと」
「何にだよ?」
 ゴスロリボクっ娘の疑問にシンジは首を傾げながら答えるのだが、それにツッコミを入れた俺は悪くないよね?
いや、本気で何にケンカ売る気なんだ、お前は……
「ふふ……ふふふ……ははははは……なるほど、そういうことか……君もやるねぇ」
 が、ゴスロリボクっ娘はわかったらしくて笑ってるし。なんなんだろうか?
それに嫌な予感しかしないのはなぜなんだろうか?
「なるほどね。これはまた楽しくなりそうだ」
「いや、どういうことさ?」
「なに、そいつはそいつなりに今という状況を楽しんでるんだよ」
 本当に楽しそうに笑うゴスロリボクっ娘に聞いてみたら、そんなことを言われるし。
しかし、楽しんでるって……うん、怒ってもいいよね? なんか、そうしないといけない気がするんだよ。
「どういうことだ?」
「ま、あえて否定しないとだけ、今はお答えしておきましょう」
 一応聞いてみるが、シンジの野郎は気にした風も無く答えるし。
うん、やっぱり怒ってもいいよね? ていうか、怒らなきゃダメだよな?
「いいよ。君の思惑に乗ってあげる。だから、ボクを楽しませておくれよ。
それと翔太。今後はボクなりに応援させてもらうよ。そっちの方が面白くなりそうだしね。じゃあ、がんばりなよ」
「てぇ、人の呪い解いていけや!?」
「ああ、それ無理。ボクは掛けるのが専門で解くことは出来ないんだよ」
 どっかに行こうとするゴスロリボクっ娘にそう叫ぶんだが、あの野郎はにこやかに答えながら消えやがるし……
畜生……結局、何も変わらずかよ……
「やれやれ、困った方ですねぇ……」
「てめぇもだろうが!?」
 呆れてるシンジを怒鳴る俺。ていうか、自覚無しかこいつは!?
「く……なんなのだ……あれは……」
 と、エヴァの声が聞こえたんで振り向いてみると……苦しそうにしているエヴァがいた。
理華や俺の仲魔達以外はほぼ全員エヴァと同じだったけど……あ、メディアもか。ケルベロスは幼女に戻って、難しい顔をしてるな。
「なんで……あんたは平気なのよ……」
「なんつ〜か……慣れ? 何回も会ってるしな」
「いや、あれは……慣れとかそういうものじゃない気がするのだが……」
 苦しそうにしつつも睨んでくる凜にそう答えたら、美希も苦しそうにしながらも驚かれました。
まぁ、敵わないとわかってるせいか、開き直ってるだけでもあるんだけどね。
「本当に……あれは何者なのですか?」
「先程も言いましたが、今は言えません。ですが、写し身の方はあなた方にも関わる者であるとだけお答えしておきましょう」
 顔をしかめながらも問い掛けるセイバーにシンジはそう答えるんだが……
セイバーとかに関わる奴? はて? そんな奴いたっけ? 今の聖杯戦争で関わる奴っていったら……
ん〜……サーヴァント達は流石に違うよな。言峰も違うだろうし……カレンは……うん、違うよね。
桜のじいさんは倒しちまったし、真アサシンはそうなると出てこないだろうし……
そういや、アサシンの佐々木 小次郎ってどうなるんだろうか? それを喚び出すはずのメディアは俺の仲魔になってるし。
そっちも違うだろうけど、士郎の周りの人達も当然違うだろうから、後は……ああ、そういや聖杯の中にあれがいたよな。
確か――
「え?」
「おや、どうやらお気付きになられたようですね」
 そのことに気付いて固まる俺に、シンジはにこやかな笑顔を向けやがった。
いや、待て……マジなのか? マジなの? いや、そうだとしたら――
「本気でとんでもねぇじゃねぇか!?」
「ま、現段階ではそうですね。ですが、倒せないわけではありませんよ」
 思わず絶叫する俺にシンジは指を立てながら言うのだが……いや、それのどこで安心しろと?
詳しくないけど、あれって間違いなくとんでもなかったというのは覚えてるぞ!
「どういうことよ?」
「今はまだ、内緒にしておきましょう。今のあなたには早すぎる」
 凜が疑わしげに聞いてくるが、シンジはというとため息を漏らしつつ答えていた。
しかし、早すぎるって……どういうことだろ? ていうか、話すなってことか?
いや、確かに話したら驚かれるだけじゃ済まないだろうけどさ……
「それってどういう意味かしら?」
「あなたは感情的になりやすく、己に忠実です。それが悪いとは言いませんが……
時として、それが悪影響を与えることも覚えておいた方がいいですよ」
「なんですって!?」
 視線を向けながら話すシンジに、顔を引きつらせていた凜は怒鳴っていた。
けど、凜さんよ。言わせてもらうが……なんか、シンジの話しがすっげぇ納得出来るんだけど?
ゲームでも、確かに士郎が悪いこともあったが……問答無用なんてことが良くあった気がするんだけど?
「ほら、そうやってすぐにムキになる」
「え? あ、えぇ!?」
 と、シンジの声に凜は驚いて振り向いていた。
まぁ、俺の横にいたはずのシンジがすぐ後ろに立っていたら、普通は驚くよなぁ。
「貴様……」
「まぁ、そう怒らずに……そういえば、アーチャーさんはまだ答えを見つけていないようですね」
 睨んでるアーチャーにシンジはそう言うのだが……答え? 何それ?
「理想が裏切ったのではなく、私が理想を裏切ったとか言うあれか? あれがなんだと――」
「あなたがかつて叶えようとした夢は決して間違いではありません。ですが、あなたはその夢のことをちゃんと考えたことはありましたか?」
 睨み続けるアーチャーにシンジはそう言うんだけど……アーチャーの夢?
確か、アーチャーは士郎の未来の姿で、正義の味方の夢を叶えようとして……なんだかんだあって、絶望したんじゃなかったっけ?
「何を……言っている?」
「申し訳ありませんが、私にも時間がありませんもので……ですが、あなたが間違いを起こさない内にお話することはお約束いたしましょう」
 どこか戸惑っているようにも見えるアーチャーに、シンジはそう言うのだが……
その言葉を聞いてか、アーチャーの眉がピクリと動いたように見えた。
けど、間違いって……もしかして、あれか? 士郎を殺そうとしてたこととか?
「貴様――」
「では、近い内にお会いいたしましょう」
 アーチャーが睨みながら何かを言おうとしたが、シンジはその前に優雅に頭を下げつつ消えてしまう。
で、アーチャーはといえば舌打ちしてたけど……
「なんなのだ……あやつは?」
「ええと……俺の手伝いをしてくれてるらしいけどね……」
 で、なぜか睨んでくるエヴァに話す羽目になったが……しっかし、どう話したもんだか……
「それは戻りながら話そう。理華、腕輪を付けろ。進行がかなり進んでいるからな」
「え? あ、そうだった」
 スカアハに言われて慌てて腕輪を付ける理華。確かに前髪が完全に金髪になってるし。
「まったく……とんでもない奴がいたものね……」
「まったくだ……」
 などと言い合ってるメディアとケルベロス。たぶん、ゴスロリボクっ娘のことだろうが……
まぁ、確かにとんでもないわな。色んな意味で……
 なんてことを考えていたら、人形を抱えた1人の女の子がいつの間にやら俺達の近くにいた。
はて? この子何者だ?
「サーシャか……なんの用だ?」
「これからどうするかを聞きに来たの」
「お姉……様?」
 顔を向けて問い掛けるリニアスにサーシャと呼ばれた女の子はは静かに答えたけど……
この子がリニアスの言っていた奴か……って、お姉様?
不意に聞こえてきた言葉に首を傾げつつ振り向いてみると、そこにはなぜか驚いた様子のスカアハがいた。
あれ? あれって、スカアハか? いや、姿は間違いなくスカアハなんだけど……表情というか顔付きというか……
それがどうにも別人に見える。だって、スカアハはあんなに優しくて……でも、怯えたような瞳をしてないし――
「お久しぶり……あなたのことは聞いているわ」
「そうか……」
 サーシャの返事にスカアハはため息を漏らしたけど、その時にはいつものスカアハに戻っていた。
となるとさっきのはいったい……それに久しぶりって……知り合いなのか?
「あの子に言っておいて頂戴。あなたに罪は無いと」
「そう言っているのだがな……」
 サーシャの言葉にスカアハは呆れた様子で首を振るのだが……なんのことだ?
あの子って誰のことだろ? なんか、意味がまったくわからん。
「知り合いか?」
「ああ……」
「翔太、これ――」
 リニアスの問いにサーシャはスカアハと見つめ合いながら答えるんだが……
うん、なんかただならぬ関係って感じに見えるのは、俺の気のせいだろうか?
そんな時にミュウがエメラルドグリーンに輝く宝玉を持ってきた。
「宇宙の……卵……」
「あ〜……どこにあったんだ?」
「あのアスラとかいう奴がいた所に――」
 なんか、ブラックマリアが驚いてるが、それは無視して聞いてみるとミュウは静かに答えてくれた。
つまり、アスラが持っていたわけか……これでようやく2つ目かよ……なんか、長かったなぁ〜。
なんてことを考えつつ、俺は世界の羅針盤を取り出して宇宙の卵を近付けた。
すると宇宙の卵が輝いて、六芒星のくぼみの右下にはまる。
「う、あ……ああ……」
「はい?」
 するとミュウがいきなり苦しみだし……って、なんでさ!?
「あ、ああ……ああああああ!?」
「て、ミュウ!?」
 なんて驚いてると、苦しんでいたミュウは悲鳴と共に体が輝いてしまう。
いや、何が起きてんの!? いきなりすぎて何が何だかわからないんだけど!?
で、輝きの方はしばらく続いたかと思うとゆっくりと収まっていき――
「ああ……あ……え? あ、あれ?」
「はい?」
 輝きが消えるとなにやら戸惑ってる……ミュウ……だよな?
いや、なんで疑問系かというと……そこにいたのは俺より頭一つ分くらい小さい位の少女だった。
レオタードとワンピースを一緒にしたような白い服を着て、手足には肘と膝まで包む手袋と靴……
でも、顔と髪型は間違いなくミュウの物で……ええと、なにこれ? にしても、胸が大きいな。
あれ? 俺、何考えてんの? いかん、混乱してるな……
「え? 私……どうなっちゃったの?」
「あ、そうそう。言い忘れておりました」
「唐突に現われるな!?」
 戸惑ってるミュウ。で、俺の背後に現われたのは先程消えたシンジであった。
いや、マジでいきなり現われるな!? 心臓に悪いから!? 背後からだとなおさらに!?
「ミュウさん、世界の羅針盤が現われた時に最初に触れたでしょう?」
「え、ええ……」
「そのせいであなたと世界の羅針盤が繋がってしまったのですよ。
それによって、宇宙の卵の力があなたに流れ込み……今の姿へと進化させたのですよ」
 ミュウがうなずくと、問い掛けたシンジはそう話すのだが……
しかし、進化って……いや、ルカ達もそうだけど、なんでまたこんな風に進化するんだろうか?
なんかの意志か? それともお約束なのか?
「ですが、お気を付けください。あなたは世界の命運を握る1人となってしまったのですから」
「え?」
 なんてことを言い出すシンジだが……ミュウは戸惑ってるが無理もない。
世界の命運を握るってなにさ? ていうか、マジで何が起きてるわけ?
「そういうわけで、これからもがんばってくださいねぇ〜」
「てぇ!? ちゃんと説明しろやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 なんてことを考えてたら、シンジは手を振りながら消えやがった。
叫んだんだが、時すでに遅し……完全にいなくなりやがるし……
「行くぞ……」
「いいのですか?」
「構わん。ショウタ……それは貴様に預けておく。だが、いずれお前との決着は付けるからな」
 問い掛けるブラックマリアに言い出したリニアスは答えると、俺を見てそんなことを言い出す。
いや、決着って……俺としては勘弁して欲しいのですが……
で、ドアの形をした光が現われると、リニアスにブラックマリアにリリス、ベルセルクにサーシャがその中へと入っていき――
その時にサーシャはスカアハを見たような気がしたけど……リニアス達が行ってしまった後に光は消えてしまう。
「ええとさ……何がどうなってるの?」
「シンジの言葉通りだよ。ミュウは今回の出来事を解決するための大事な鍵になってしまったのだ」
 それを見送った後、思わず出た疑問にそんなことを漏らしたのだが、スカアハは悟ったのか答えてくれました。
けど、ミュウが今回のことに大事な鍵って?
「すまないが、今はまだ話す時では無い。だが、お前にとってミュウは必要な存在となる。それを心にとめておけ」
 などとスカアハは真剣な顔で話すのだが――
いや、マジでわけわからんのですが……本気で何がどうなってるのさ?
ミュウが必要になるって? どうしてだよ?
「翔太……」
 と、ミュウが不安そうに右腕にしがみついてきた。
柔らかくて心地の良い感触を感じるが……今の俺はそれを味わう余裕が無かった。
ミュウの不安そうな顔というのもあったけど……色々とありすぎてどうしたもんかとテンパっていたのが大きかった。
いや、本気でどうしたらいいんだよ? 
そんなことに悩んでいたせいか理華や仲魔達、更には美希や刹那に真名とかに睨まれていることに気付かなかったりする。


 なお、その後戻ることにしたんだが、その先で詠春さんや美綴達にハルナ達を見つけた。
詠春さん以外はなぜかひどく怯えていたけど。なんでも、シンジにここに連れてこられたらしい。
で、アスラやゴスロリボクっ娘の存在感にあてられたと……そのせいで何人かは言わない方がいい状態になってたが……
それとなぜか小太郎も一緒にいたりする。詠春さん達は途中まで気付かなかったみたいだけど。
ただ、小太郎の怯え方は尋常じゃなかった。完全に体を抱え込んでいたしな。
スカアハ曰く「獣の本能が強かったせいで、アスラやあやつの存在感にあてられすぎたのだろう」と言ってたけどね。
ちなみに後で聞いた話なんだが、どうやら小太郎は気絶した状態で連れて来られたらしい。
で、気配を感じて目を覚ましたら……アスラやゴスロリボクっ娘を見てしまったと。
しっかし、なんでまた気絶してたんだ? え? 俺のせい? いや、覚え無いんだけど?
 まぁ、そんなこんなもあったが、こうして俺達はネギ達の世界での戦いを終えたのだった。
あれ? でも、何か忘れてるような――


 out side

 時は翔太達の元にシンジが再び現われた時より少し遡る。
「いやいや、お待たせして申し訳ありませんね」
「く……」
 シンジが現われると共にフェイトの体に自由が戻り、即座にシンジから距離を取った。
油断のならない相手だった。自分に気付かせることなく、なんらかの方法で動かなくされただけに。
「君は……何者だい?」
「お節介好きの小悪党……今はそう名乗っておきましょう」
 無表情ながらもどこか睨んでるようなフェイトにシンジはにこやかに答えていた。
その瞬間、まるで空気が凍り付いたかのような感覚がその場を支配した。
得体の知れない相手にフェイトは殺気を全力で向けたためだ。しかし、シンジは気にした様子を見せない。
ただ、にこやかにフェイトを見ているだけであった。
「小悪党……ね。それがなんの用だい?」
「いえ、あなたにはまったくもって用なんてありませんが?」
 殺気を放ち続けながら睨むフェイトの問い掛けにシンジは首を傾げながら答えた。
このことにフェイトは眉を細めた。自分を止めたのはなにかあるからではと思ったのだが――
「勘違いなされてるようですが、今回の事はあなたは完全に蚊帳の外ですよ。
翔太さん達があなた方の邪魔者になるとお考えにようですが、
彼らはあなた方の思惑とはまったく別の理由でここへ来たにすぎません。
ですから、あなた方が手を出さない限りは敵になることは無いのですよ」
 などと指を立てつつ話すシンジだが、フェイトはその話を信じはしなかった。
フェイトにしてみれば自分の目的を潰されたようなものだからだが、実際の所はシンジの言うとおりであったりする。
生体マグネタイトがほとんど無い世界ではアスラは世界に存在し続けることが難しくなる。
以前、麻帆良に現われたミトラスも同じであり、存在し続けるために異界を創る必要があった。
そうすることで生体マグネタイトを常に得られる状況を作るだけでなく、
異界の範囲を徐々に広げていって行動範囲を広げて目的を果たそうとしたのだ。
 なお、幻想郷の場合は世界の羅針盤を基点にして何者かが送られる前にチルノが触ってしまい――
それによって暴走したチルノを利用することにしたのであった。
 それはそれとして、異界を創る方法の欠点は目的を果たすためには時間が掛かりすぎるということ。
翔太に何度も邪魔されたからか、それとも早く目的を果たそうとしたのか……
理由は定かではないが、今回は別の方法が採られた。すなわち、スクナを生け贄にするという方法が。
そうすることで時間制限はあるものの異界が無くとも行動することが出来た。
その時間内に目的を果たし、改めて異界を創ろうとしていたのだが……
 話は長くなったが、それによって偶然にもフェイトの目的と重なったにすぎないのである。
「それを信じろとでもいうのかい?」
「疑り深いのはわかりますが……だったら、アスラさんの件はどう思われるので?」
 話を信じないフェイトに対し、シンジは呆れた様子でため息を吐く。
フェイトとしては翔太達はアスラを倒す為に来たのは間違いないだろうが、自分達の目的を知ったら敵対してくると考えていたのだ。
「それに君の言うことを信じるとでも思ったのかい?」
 だからこそ、フェイトは疑う。疑う要素があるからこそ、当然とばかりに。
「やれやれ、小さい方ですねぇ。だから、勘違いに気付かないのですよ」
「なに?」
 再び呆れた様子でため息を吐くシンジであったが、フェイトはより一層睨みを強くしていた。
小さいと言われたのもあるが、勘違いしていると言われたのが癪に触ったのである。
「どういうことだい?」
「あなた方のやり方で魔法界を救おうとしているようですが……その必要なんてありませんよ」
 問い掛けるフェイトだが、シンジの言葉に眉が跳ね上がる。
なぜ、そのことを知っているのか? その疑問もあったが、それよりも――
「救う必要が無いとはどういうことかな? 魔法界は崩壊の危機にあるんだよ?」
「確かに魔法界は崩壊の危機にあります。が、それだけですよ」
 苛立ちを隠しながらも問い掛けるフェイトだが、シンジは大した事がないとばかりに答えた。
それにフェイトの顔が苛立ちに歪む。というのも――
「なぜ、そんなことが言える? 君には関係無いとでも言う気かい?」
「いえ、先程私の上司から魔法界の崩壊をなんとかしろとの命がありましてね。無関係というわけにはいかなくなりましたよ。
まったく、ただでさえ厄介な件が終わっていないというのに……」
 フェイトはシンジが魔法界の崩壊に無関係だから、そんなことが言えると思っていた。
しかしながら、シンジは肩をすくめつつ否定する。ただ、様子から見て悲壮感などは感じられなかったが。
「話を戻しますが、あなたは小さすぎる。物事を一方的にしか見れていない。
だから、魔法界を救う必要が無いと気付かない。1つのやり方にこだわるのは、策士としては三流以下ですよ?」
 フェイトを見据えながら話すシンジ。魔法界を救う必要が無いとはどういうことなのか? それに関してはいずれ話すことになる。
ただ、シンジが言おうとしているのはフェイト達は魔法界を救うということに捕らわれている。
その為に必要なことを見失っているということであった。
「なん、だって……?」
「やれやれ……あなたはお仲間と共に引っ込んでいてください。その方が魔法界の為ですよ」
 しかし、その意味に気付けないフェイトは苛立ちを隠せずにいた。顔を歪め、手を握りしめている。
その様子にシンジは呆れ、そんなことを言いながら振り返ってしまう。
許せなかった。フェイトにとって、シンジの言っていることは自分達のことを全て否定されたと思ったから――
「石の槍(ドリュ・ペトラス)」
 殺す。ただ、その思いだけで魔法を放つ。自分達を否定したシンジを殺すために――
「ごふ!?」
 そして、フェイトが放った石の槍は貫いていた。
「……え?」
 フェイト自身を……
「な、に……」
 何が起きたのか、フェイトにはまったく理解出来ていなかった。
確かに自分はあの男に……シンジに向けて石の槍を放ったはずだ……間違いなく、そうしたはずなのだ。
なのに、なんで石の槍は自分を貫いている? 確かに”石の槍は自分の前に放った”はずなのに……
「ね、言ったでしょ? あなたは小さすぎるのですよ。あなたが”話している相手が何者なのか?”
そのことにすらあなたは考えようとしない。挑発は確かにしましたが……それに乗せられるようではまだまだですね」
 いつの間にか振り返っているシンジに言われるが、フェイトはその意味も理解出来ていなかった。
わかるのは今この場にいる分体が倒されたということのみ。
「黙れ……お前はいつか……殺す……」
 その言葉を最後に、フェイトの体は水となって消えていった。
その様子を見届けてから、シンジはため息を吐き――
「殺す……ですか……あの人の前で動けなかった人の言葉とは思えませんね」
 そう言うとシンジもまたその場から消えていく。
いくつもの疑問を残しながら……それでも物語を進めるために――



 あとがき
そんなわけでアスラを倒した翔太達ですが、今度はミュウに異変が起きてしまいました。
ミュウが鍵となるという、その意味は? そして、フェイトを敵に回したシンジの目的とは?
色々と複雑になってきましたが……うん、時間が欲しい所です。
4日間隔連載となるとかなり時間がギリギリで……結局、お盆も執筆に時間を取られてますし。
ホント、なんとかしないとなぁ〜……とは思ってはいるのですが……

さて、次回は一時の休息を得た翔太達はなぜか京都観光へ。
そこで千鶴達と再会し……その後、麻帆良へ向かうことに。
その麻帆良で待つものとは……てなお話です。次回をお楽しみに〜



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


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