in side

「その昔、ボルテクス界は人間が文明と共に栄えた世界でした。
しかし、メムアレフはそれを愚かな物として否定したのです。人間を……文明を……
否定して、全てを滅ぼし、自分の理想の世界を創ろうとしましたが……悪魔達の手によって失敗しました」
「は、なんでさ?」
「人間が滅べば、困る悪魔も存在するからだ。それでも大半の人間は死滅してしまったが……
ともかく、メムアレフの失敗によって今のボルテクス界が誕生する結果となった」
 アマテラスの話に首を傾げるが、セイオウボの話で納得した。
確かに町にいる悪魔は結構友好的だし、外に出てもそんな悪魔がたまにいたりするしな。
しっかし、ここでそんなことが起きてたのか〜……って、ちょっと待て?
「今気付いたんだが……それじゃあ、そのメムアレフがボルテクス界を創ったってことになるのか?」
「実質的にはそう言えます。
ボルテクス界を形作り、生体マグネタイトが満ちあふれているのもメムアレフによるものですから……」
 思いついて聞いてみたんだが、アマテラスの返事に顔が引きつってしまう。
えっと、なにそれ? 俺って、もしかしてとんでもない奴と戦ってるの? そうなの?
「翔太……大丈夫?」
「たぶん……大丈夫じゃない……」
 心配そうに声を掛ける理華にそう答えておく。うん、思わず頭を抱えたからな。
ていうかさぁ……なんか、どんどん話が大きくなってくるんだけど?
「それ故にメムアレフは納得はせず……別な世界で新たに理想の世界を創ろうと、その世界を滅ぼそうとし……またしても失敗しました。
力を得た人間によって倒される形で――」
「だが、それは今回の事態を引き起こす切っ掛けとなってしまった……」
「ちょっと待て。そいつって倒されたんじゃないのか?」
 アマテラスとセイオウボの話に疑問を感じたんで聞いてみる。
いや、だって倒された奴がなんで今回の事が出来るのか、わからなかったんだって。
「いくらその人間が力を得たと言っても、メムアレフの魂までを滅することは出来なかったのです」
「メムアレフほどの力を持つ者なら、魂が無事ならば時間が経てばいずれ蘇ってしまう。
それだけならばまだ良かった……問題なのは人間によって倒されたという事実だった」
「それにどんな問題が?」
 アマテラスの話に続くようにセイオウボが話すのだが、そこで美希が首を傾げた。
ま、俺も同じ意見だ。倒されたのはそれはそれで問題だとは思うけど……なんで、人間に倒されたのが問題なんだ?
「力を得たとはいえ、人間によって倒されるという事実はメムアレフにとっては非常に不本意なことだったのです」
「ある意味、プライドを酷く傷付けられたとも言える。それにより、メムアレフは暴走してしまい……全てを無かったことにしようとしている」
「全てを無かったことにするためにボルテクス界だけでなく、様々な世界を巻き込んで滅ぼし……
その上で新たな世界を創ろうとしたのです……ですが、その世界には人間だけでなく、悪魔も存在しない……
まさしく、メムアレフ自らの理想を形にした世界を創ろうとしています」
「しかし、いくらメムアレフであろうと、そのような世界を創るのは難しい。
だが、お前が持つ世界の羅針盤と宇宙の卵はそれを可能としてしまうのだ」
 アマテラスとセイオウボの話を聞いて、俺は回れ右したくなってきた。
失敗が続いた挙句、人間に倒されたからキレて、ボルテクス界や俺達の世界を滅ぼそうなんて……
なんていうか、厄介ごとを全て押しつけられた気分なんだけど――
「あ、あの……1つ疑問に思ったんですけど……そのメムアレフって、なんで世界の羅針盤や宇宙の卵を自分で持ってなかったんですか?」
 手を挙げた理華が少し怯えながら問い掛けるけど……そういやそうだよな。
なんか、俺達が今まで倒した奴らが持ってたみたいだし……なんでだ?
「世界が滅ぼされる時、巨大な力が生まれます。
それを世界の羅針盤や宇宙の卵に吸収させることで、新たな世界を創る為の礎にしようとしているのです」
「メムアレフが創ろうとしている世界はあまりにも広大すぎるのだ。
世界の羅針盤や宇宙の卵が全てそろったとしても、創成出来ない程に……だからこそ、それらをメムアレフに渡してはならない。
もし、渡ってしまったら……世界の崩壊は止められなくなってしまう」
 アマテラスとセイオウボの話にまたしても顔が引きつってしまう。
うん、かなりとんでもない事になってたのね。そして、スカアハが依頼で行っていた村で話していたことの意味がわかったよ。
そんなことになるんだったら、確かに色んな意味でヤバイよな……
「もう1つ言えば……幻想郷の時とは違い、崩壊の運命から解き放てない世界もある。
それを止める為にも、世界の羅針盤と宇宙の卵の力が必要となる」
「しょ、翔太?」
 更にスカアハの言葉を聞いて、思わず膝と両手を地面に付いてしまう。
理華が心配そうに声を掛けるが……うん、そういうことなのね……そんな大事な物だったんだね。
とんでもなさすぎて、もう色々と一杯一杯です。
「運命に抗いし者よ……確かにお前が立ち向かおうとしている者は果てしない存在……
だが、今はお前に託すしかないのだ。このボルテクス界や繋がってしまった世界を滅びの運命から解き放つのは……」
「先程も言った通り、私達は守る地から動くことは出来ません。
かといって、何もしないというわけにはいきません……フロスト、ランタン……こちらへ……」
「「ホ?」」
 セイオウボの言葉の後に話したアマテラスだが、いきなりフロストとランタンを呼んでいた。
呼ばれた2人は首を傾げてたけど……なんでまたこの2人?
「あなた方は大いなる者に立ち向かい立ち向かいし者と共に戦うことで、更なる階位に高まろうとしています。
しかし、あなた達2人がそうなるためには足りないものがあります」
「それを言葉で伝えるのは難しい……だから、お前達には切っ掛けを与えておく」
 アマテラスの話の後にセイオウボがそう言うと、2人の手から淡い光の塊が生まれ――
それが飛んでいくと、フロストとランタンが下げているペンダントの石に融け込んでいった。
しかし、変化はそれくらいで、フロストとランタンは首を傾げるばかりである。
「何をしたんだホ」
「切っ掛けだ。ただし、それはその時が来なければ、意味を成さない物だが……」
「大いなる物に立ち向かいし者と共に戦っていれば、その時が来るでしょう」
 首を傾げるフロストにセイオウボが答えると、アマテラスも微笑みながら答えていた。
それでもフロストとランタンは首を傾げてたけど……でも、本当に何をしたんだろうか?
気になるけど、なんの変化も無いしなぁ……
「それと妖精ピクシーよ……」
「え? わ、私?」
 不意にセイオウボに呼ばれたためか、ミュウは一度辺りを見回してから自分を指差しつつ顔を向け――
「いかにも……お前が背負いしものは運命に抗いし者と同様に重い」
「世界の羅針盤と繋がったあなたは、世界の羅針盤と宇宙の卵の力を扱える存在となりました。
ですが、それは同時に……あなたが滅びの運命から世界を解き放つ鍵となってしまったのを意味します」
 セイオウボの言葉の後に真剣な顔になっているアマテラスが話すと、ミュウは戸惑いを見せていた。
俺はというと膝を付いたままうつむき、額に指をあてて悩んでいた。
そういや、アスラとの戦いの後にシンジとスカアハがそれっぽいこと言ってたっけ……
なにこれ? なんでこう、急展開な感じで色んな事が判明するのさ? もう、心がおっつかないのですけど?
「大いなる者に立ち向かいし者よ……あなたの名を聞かせてもらえませんか?」
「翔太だ……相川 翔太……」
 アマテラスに聞かれたので、とりあえず立ち上がって答えておく。
といっても、気分的には震えそうだけど……気が滅入るってもんじゃないもん……
本当に……なんでこんなことになってんだろ……
「翔太よ。確かにお前がしようとしていることはとてつもなく重く、つらいものだ。
だが、それでもお前にやってもらうしかない」
「あなたに掛けられた彼の者の呪いもありますが……今、この事態の解決に一番近いのもあなたなのです」
「この先も困難が待ち受けているだろう……だが、お前はそれでも突き進まなくてはならない。
己の為に……そして、全ての為に……」
「あなたのご武運をお祈りしております」
 セイオウボとアマテラスはそう言うと光に包まれ……その光が洞窟に空いた穴から飛んで行ってしまう。
それを見送った俺達だが……しばらくして、みんなの視線が俺に向けられる。
俺はというと……文字通りうなだれていた。だってさぁ、なんか色々と押しつけられてるよね?
「あなたって……かなり大変なことになってるのね」
「俺としては本当にどうしたもんかと思ってますがね……」
 同情的な視線を向けてくれるレイさんにそう言っておく。
いや、真面目にどうしたらいいのかわからないんだって。今日一日で色々とありすぎたんだもん。
「ま、色々とありすぎたが……仕事を続けるぞ」
「はい?」
 いきなりのスカアハの言葉に思わず疑問の声が漏れる。ていうか、仕事……あ――
そうだよ、俺達って行方不明になったサマナー達を探してここに来て……今に至るんだったな……
「し、しかし――」
「言いたいことはわからなくもない。だが、このままこうしているわけにもいかないのも事実だ。
もっとも、この惨状では期待は出来ないが……」
 美希が何かを言いかけるが、スカアハは顔をしかめながら辺りを見ていた。
俺も釣られて辺りを見てみる。崩れた土砂や岩、機材なんかに大半の奴らが押し潰されている。
ていうかグロい……あまりのグロさに理華と美希は顔を背けてるし、ミュウやルカ、アリスも顔をしかめてしまっている。
 一方で潰されずに無事な奴も数人いるが……あまりのことにショックだったのか、動く気配を見せない。
なんというか、この状況でやれと言われても困るんだけど……ていうか、俺は帰って寝たいよ。
まぁ、そんなわけにもいかず、洞窟を探索することとなったけどね。
 武狼の連中はあっさりと降伏した。まぁ、戦える奴がほぼ全滅してたってのもあるが……
行方不明だったサマナー達は……洞窟が崩れるのに巻き込まれていた。
多くが押し潰されていて……生き残っていたのは3人だけ。しかも、かなり怯えている。
話を聞くと、武狼の連中にかなり酷い目にあわされたらしい。その話を聞いてると、武狼の連中は顔を背けてたが……
その表情は明らかに不満そうに見えたので、仲魔に頼んで脅したら号泣した挙句に土下座して謝り出したし。これには流石に呆れたけど……
で、タイラントもどきとハンターもどきは……洞窟が崩れたのに巻き込まれ……こちらは全滅していた。
これには頭を抱え、ため息を吐かずにはいられなかった。助けたかった……けど……
「え? あ、え? あれ?」
 なんてことを考えていると、そんな声が聞こえてくる。
振り向いてみると、理華が戸惑った様子で何かを見ていた。ていうか、何かを指差してる?
「どうしたんだ?」
「あ、あれって……」
 聞いてみるが、理華は顔を動かさずに何かを凝視してる。気になったんで顔を向けて見てみたら……え?
一瞬、それがなんなのか、わからなかった。それでもなんとか落ち着いてきて……それがなんなのかがわかってきたのだが……
でも、まだ混乱してる。というのも……そこにあったのは錆びてボロボロになった物だったんだが……
かろうじて、書かれてる字は読み取れた。問題なのはその字……それはこう書かれていた。
『東京』……と――
「ど、どういうことだ?」
「まさか……ここって、日本……なのか?」
 美希もそれを見て戸惑っている中、俺はそう思っていた。いや、そうとしか思えないだろ。
大半が錆びて朽ちてしまってるけど、それはどう見たって標識にしか見えなかったし……
その時だった。唐突にエヴァの別荘でシンジが話していたことを思い出す。

「それじゃあ、俺達の世界にも悪魔が行ってるんじゃ――」
「それなのですが……結論から申し上げると、ありえないですね」

ネギや士郎の世界に悪魔が出始めたのに、俺達の世界ではそれが無い。
その時はなんでだろうと思っていた。嫌な予感は感じてはいたけど……けど、だ……なんでありえない? 
もし……もし、ありえないんじゃなく……俺の考えが正しいとしたら――
「スカアハ……答えてくれ……ここは……俺達の世界なのか?」
「「え?」」
 俺の言葉に理華と美希は思わず顔を向けていたが……俺だって、まさかなとは思っている。
けど、なぜか思い出してしまったシンジのあの言葉で、ある仮定を思いついたのだ。
俺達の世界に悪魔が来ないんじゃなく……すでに関係があったとしたら――
「正確には……お前達の世界の未来の可能性の1つ……といった所だ」
 まるで観念したかのようにスカアハが呟くように答える。
そのことに理華と美希は驚きを隠せないといった表情になっていた。
俺としては……色々と複雑な心境だったし、まったく嬉しくない。
だってさぁ……あって欲しくなかった事が事実だと言われたら、普通はへこむと思うぞ?
「そう……未来の可能性の1つ……だから、その未来を回避することも可能だ。
もっとも、今のままでは知っての通り、ボルテクス界と共に崩壊してしまう。
生き残るためには……どちらも回避せねばならないのだ」
 スカアハの言葉に思わずため息を吐いてしまった。
確かにアマテラス達の話を考えると、どちらもごめんだしな。
「そして、その両方を回避出来るかは……お前に掛かってしまっているのだ」
「俺としては勘弁して欲しいけど……」
 そんなことをスカアハに言われたんで、思わず肩を落としてしまう。
というか、なんで俺がそんなことしなけりゃならなくなってるのよ?
もう、何もかも投げ出して家に帰りたくなってきたんですが……
 そんなことを考えながら俺は顔に手を当て、深いため息を吐くはめとなったのだった。



 あとがき
ついに判明したボルテクス界の真実。そのことに翔太は思い悩むこととなります。
更には自分の世界の命運まで掛けられる始末。果たして、翔太はどうなってしまうのか?
次回は思い悩みながらも別れをし……しかし、更なる問題が起きてしまいます。
それに対し、翔太はどうしてしまうのか? そして、新たな出会いが――
次回は過去と現在繋がることとなります。そんなわけで、次回をお楽しみに〜



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