out side

 その光景を恭也は信じられない物を見るかのように見ていた。
紫の提案から始まった翔太とシグナム、ヴィータとの模擬戦。シグナムとヴィータは元よりそのつもりではあったようだが……
それはそれとして、恭也は翔太に勝ち目は無いと見ていた。
なにしろ動きや構えが素人くさいし、気迫も感じられない。それに弱音も吐いていた。
一方でシグナム、ヴィータの構えに隙が感じられない。それに感じる気迫が凄い。
恭也もある理由で戦いを何度か経験している。一歩間違えば死ぬかもしれない戦いを……
シグナムとヴィータが放つ気迫はそういった戦いを仕掛けてきた者達に迫る……いや、もしかしたら超えていたかもしれない。
だから、恭也は翔太がアッサリ倒される。そう思っていたのだ。この光景を見るまでは……
「くそ!? なんで当らねぇんだ!?」
 ヴィータが悔しそうに叫ぶが、現実は変わらない。そう、シグナムとヴィータの攻撃が翔太に当らないのだ。
別に翔太はシンジのように動いているわけでは無い。むしろ、先程恭也が見せた激しいダンスのような動きに近い。
それも恭也と比べたらかなり荒い物ではあるが……なのに当らないのである。
「く! レヴァンティン!」
『Ja』
 苛立ちを見せるシグナムがレヴァンティンにカートリッジをリロードさせると、その形状が蛇腹剣へと変わる。
大きく広がった攻撃範囲と複雑になった攻撃の軌道……しかし、それすらも翔太は身を翻しながら躱していく。
「なろぉ!?」
 そこに追撃を掛けるべくヴィータが3つの鉄球を指に挟んで取り出し、それを宙に放り投げると拳大の大きさになった。
その鉄球をハンマーで打ち出すと、まるで意志があるかのように翔太へと向かい飛んでいく。
それを見た翔太は避け……ようとはしなかった。
「な!?」
 逆にヴィータはその光景に驚くはめとなる。なぜなら、翔太は鉄球を殴ったり蹴ったりすることで破壊したのである。
確かに魔法による誘導弾だから避けようとしても追い掛け続けるし、守ろうとしても容赦なく打ち込み続ける。
だから、破壊するという対処は間違ってはないのだ。問題なのは初見でそれをやったということ。
翔太に対しては初めて使った魔法なのだ。だから、翔太がこの魔法を知っているはずが無い。ヴィータはそう思っていた。
もっとも、なのはのアニメを全て見ていた翔太にしてみれば、ヴィータが使った魔法がなんなのかもわかった。
だから、壊すことを選んだのだが……実はというとこんなに簡単に壊せるとは思っておらず、内心は軽く驚いてたりする。
ちなみに鉄球を殴ったりして大丈夫なのかという疑問だが、そこはアーマーの効力で多少だが防御が働いている。
それによって殴ったり蹴ったりした際の衝撃を軽減しており、手足は少し痛い程度で済んでいた。
木刀を使わなかったのは翔太が折れそうだと思ったからである。
「う、うそ……」
 この光景にシャマルは驚きを隠せない。シグナムとヴィータの強さは知っている。
いや、シンジのプログラム改修によって以前よりも強くなっているはず。少なくともシャマルはそう思っていたのだ。
それなのに翔太には攻撃が当らない。ザフィーラやリインフォースも声や顔には出さなかったが、シャマルと同じ心境であった。
「なんなんだ……あれは……」
 恭也は思わずそんなひと言を漏らす。理解出来なかった。
なぜ、翔太があんな動きでシグナムやヴィータの攻撃から逃れられるのかを……
2人の実力はもしかしたら……いや、もしかしなくても自分を超えている。
魔法というのもあるが、それ以前に地力で敵わないと恭也は見ている。
だからこそ、翔太が2人の攻撃をかわし続けられる理由がわからない。確かに見た感じでは翔太は弱いわけではない。
しかし、動きは素人に毛が生えた程度。武術などを嗜んでいるような動きではない。
それ故に恭也には理解出来なかったのだ。なぜ、あれでシグナムとヴィータの攻撃をかわし続けられるのかを。
「まぁ、先程の恭也さんとのやりとりとある意味似てるんですがね」
 などと言い出したシンジの言葉を聞いて、恭也は思わず顔を向けてしまう。
「どういうことだ?」
「先程、なぜ負けたのか……おわかりになりましたか?」
「な!? 俺は負けてなんか――」
「恭也」
 問い掛ける恭也だがシンジの言葉を否定しようとして、そこで士郎に言い止められる。
士郎もあれは恭也の負けだと感じていた。というのも――
「恭也……あの時、首に当てられたの指ではなく刃だったら……お前はどうなっていたと思う?」
「ま、首無し死体の出来上がりね」
 士郎の言葉に対して紫が大して興味なさそうに呟いた。
なのは、すずか、アリサ、ユーノは意味がわからずに戸惑っていたが、恭也と忍はその意味を理解して困惑する。
恭也にいたっては思わず首に手を当てるほどに恐怖を感じていた。
そう、あの時……シンジがその気ならば、恭也は物言わぬ死体となっていただろう。
今になってそのことを理解した恭也は先程とは変わって強張った顔でシンジを見るようになっていた。
 一方、士郎としては複雑な思いであった。恭也は気付いていないようだが、シンジから感じられるのは一般人の気配。
しかし、あんなことが出来るのは一般人なはずがない。こんな芸当が出来るということは――
このことを聞くべきなのか、士郎は戸惑ったのだ。
「ま、それはそれとしてまして……あの時、恭也さんの思考を誘導したんですがね」
「思考を……誘導?」
「恭也さん。あの時、あなたは私に一撃を当てようと必死になっていましたね?」
「あ、ああ……」
 そのひと言に忍は首を傾げるが、それを言い出したシンジの問い掛けに恭也は顔が強張ったままでうなずく。
確かにあの時、最初の印象からシンジを女々しい男と思った恭也。
その男に攻撃が当らないことに焦り始め、なんとか攻撃を当てようと必死になってしまったのは事実であった。
「私はそれを察知して、更に焦るように仕向けたんですよ。
そうやって正常な判断を奪い……動きが雑になった所を狙ったわけです」
 人差し指を立てつつ説明するシンジだが、恭也はというと驚きを隠せなかった。
確かにシンジに笑みを向けられていたが、あれは余裕から来る物だと思っていた。
しかし、そうではなく自分の思考を誘導するため……そんな意味があったと今になって理解し、驚きはしたものの感心してもいた。
 余談となるが、こんな回りくどいことをしなくてもシンジは恭也達が見失った動きをすればすぐさま決着は付いた。
それをしなかったのは余裕……もあったが、このことを説明するために行ったのである。
「翔太君もそのようなことをしていると?」
「まぁ、似て非なる物ですけどね。ついでに言うと、本人にはその自覚はありませんけど」
 士郎の問い掛けにシンジはため息混じりに答えた。実は翔太もシンジと近いことをしている。ただ、翔太本人はその自覚は無い。
というのも、今までの戦いの経験から身に付いた物のため、ほぼ無意識でやってしまっているのである。
「恭也さんとあの3人との差は場数の違いです。
恭也さんもそれなりに戦っているのでしょうが、あの3人はそれとは比べものにならない位の場数を踏んでいるのです。
ほら、実戦はどんな修行よりも勝るって話を聞いたことはあるでしょ? それって、ある意味そうだったりするんですよ」
 シンジの話に士郎は同意するかのようにうなずく。
恭也は決して弱くはないし、精神的に未熟というわけではない。
ただ、シンジのようなタイプと戦った経験が無かったために焦りを生み、冷静さを取り戻すのに手間取っただけである。
もし、恭也がもっと早く冷静さを取り戻せていれば、あの戦いの結果は違っていただろう。
そうなる前に決着を付けれるよう、シンジはそう動いたのだが。
 ちなみに実戦はどんな修行にも勝るとはどういう意味かというと、実戦では修行などでは起きないようなことを体験することがある。
その経験が時として自身の力となることもあるので、そう言われることがあるのだ。
「それで似て非なる物とはどういうことですか?」
「翔太さんの場合、一見すると逃げ回ってるように見えますが、実の所いかに自分に優位になるかを考えているんですよ。
実力的にはシグナムさんとヴィータさんの方が上ですしね」
「え? じゃあ、なんで避けることが出来るんだい?」
 恭也の問い掛けにシンジが答えるとアルフが驚いたように問い掛けてくる。
実力的に上の相手の攻撃を避け続けるなど普通なら無理なんじゃ……と考えてしまった為に。
なのはやフェイト、はやてにアリサもそう思ったようで顔を向けているが――
「確かに場数ではシグナムさんとヴィータさんの方が上でしょう。
しかし、戦いの質というのであれば翔太さんの方が断然に上だったりするんですよ」
「どういうことだ?」
 人差し指を立てながら話すシンジだが、そこにザフィーラが睨んできた。
シャマルも睨んでいるように見えるが、これは仕方ないだろう。
なにしろ、自分達は大した戦いをしたことが無いと言われているような物なのだから。
「あなた方は実力が拮抗、もしくは上の相手と数多く戦ってきたのではありませんか?」
 それに対してシンジはそう答える。それにはザフィーラやシャマルもうなずいていたが――
「しかし、翔太さんが戦ってきた相手は例えあなた方がシールドを張ったとしても軽々と破り、
一撃で殺すことが出来るような格上のような者達ばかりなんですがね」
「「な!?」」
 しかし、次に出たシンジの言葉にザフィーラだけでなく恭也も驚いてしまう。
「ほ、本当……なのか?」
「こんな事で嘘付いてもなんの徳にもなりませんよ。まぁ、そのような相手と戦うようになったのはつい最近ですが。
ともかく、そのような相手と毎日のように戦ってますから、どうしたってそのような相手との戦いが身に付いてしまってるんです」
 シンジの話に問い掛けた恭也やザフィーラ、シャマルは信じられなかった。
というのも、なぜそのような戦いをするのかを理解出来なかったからだ。一方でタカハシは納得する。
ボルテクス界に存在する悪魔があのシュバルツバースと同じなのならば、そのような相手と戦うのは十分にありえた。
なにしろ、自分がそのような経験をしてるのだ。同じような戦いをしている翔太がしていないはずがない。
「むろん、翔太さん1人で戦っているわけではありませんし、何度も危ない目にもあってますがね」
「し、しかし……」
「なんでしたら、後でクー・フーリンさんとでもやってみます?」
 その言葉を信じられず戸惑うザフィーラに話していたシンジはそんなことを言い出す。
そのことにザフィーラは思わずクー・フーリンを見てしまうが……
その時、彼女が見せたニヤリとした笑みに背筋が凍るような感覚を感じ、思わず顔を引きつらせてしまう。
クー・フーリンが少しばかり殺気を見せたからなのだが――
 まぁ、ザフィーラが信じられないのも無理はない。今までそのような相手を見たことも聞いたことも無いのだ。
見たことも聞いたことも無い物を信じろと言うのはある意味無茶な話なのだし。
 ちなみにすずかはどうしてるかというと、食い入るように翔太を見ていて――
(翔太さんって……強かったんだ……)
 そんな感想を持ってしまう。というのも、あれほど凄い攻撃を躱し続けているのだ。
戦いに関して素人のすずかがそう思っても不思議では無い。そんなすずかは胸が熱くなるような感覚を感じていた。
この世界のことを知っていた翔太。最初は怖いと思っていた。
なぜなら、自分達一族のことも知っていて、そのことで酷いことをされると思っていたから……
でも、翔太はしなかった。それどころか一族のことを気にしてる様子も見せないし、自分のことも普通に見ているように思える。
それはすずかにとっては不思議で……だから、気になってしまうのだった。
もっとも、翔太にしてみれば気にするほどでも無いというだけなのだが――




 あとがき
そんなわけで先程とは打って変わって激しい戦闘となっております。
しかし、現状では翔太はあまりにも不利。果たして決着は――
うん、戦闘がちょこっとしかないですね……といっても、実はわけがあったりします。
以前から、私は執筆のお仕事をしてると言っていましたが、また新たにお仕事が来まして……
この話自体はすでに書き上がってるのですが、小出しにして執筆時間を稼ぐことにしました。
つ〜わけで戦闘も中途半端な所になったと……いや、申し訳無いです。

次回はついに決着。あることに気付いた翔太は勝負に出ます。
果たして、気付いたこととは? そして、決着の行方は?
そんなわけで次回をお楽しみに〜……時間が欲しいなぁ……



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