さて、あれからしばらくの時間が経っており、士達はフォトショップに戻っていた。
サイレンが鳴り響くのを聞いて、この場にいてはマズイと感じたからだ。
まぁ、帰ってくるのは一苦労だった。というのも現れたバイクを士が引いて来たからである。
なぜかというと士が持って帰ると言い出したのだ。置いていこう言い出す望と雄介言い分を無視して。
しかし、士は未成年故に免許なんて当然持っていない。なので、望と雄介の反対もあって引いていく羽目になったのだ。
幸いにもショッピングモールで起きた騒ぎに警察が駆け付けていたためか見咎められることは無く、フォトショップの車庫に隠すことが出来た。
そんなこともあった士達は無事に戻ってきたのだが――
「なぁ……ありゃなんだよ?」
「さてな、俺にもわからん」
「わからないって……お前、姿が変わって……あいつらと戦ってたじゃないか?」
 疲れた様子で問い掛ける雄介だが、なぜか落ち着いた様子を見せる士に戸惑いを見せた。
あの時、士は当然という感じで戦っていた。なのに本人は知らないというのは明らかにおかしい。
「わからない物はわからない。けど、あいつらが暴れるのを見たら倒さなきゃって、なぜか思ってな。
気が付けばこいつらの使い方がわかるようになってるし、やっぱり倒さなきゃって思ってるで――後は見た通りだな」
 肩をすくめる士。表情だけを見れば冷静に見えるが、実はベルトとケースを見ている本人が一番困っていた。
なぜ、あのモンスター達を見てそう思ったのか? そしてベルトとケースになったこれはなんなのか?
それがまったくわからないために――
「本当に……何もわからないの?」
「ああ……だが、思い出したことがある」
「思い出したこと?」
 心配そうな望に士はそんなひと言を漏らした。そのことに雄介は首を傾げるが――
「5年前のあの日……奴らがいた」
「は? え? あ、や、奴らって……もしかして、さっき戦った?」
「そうだ。あの時、間違いなく奴らはいた。奴らだけじゃなかったがな」
 それを聞いて戸惑う雄介に話した士は小さくうなずく。
そう、なぜかその時のことを思い出したのだ。5年前のあの日、奴らが現れたショッピングモールを破壊し回った光景を――
「そんな……それじゃあ、お父さんとお母さんは――」
「悪いが思い出せたのはそこまでだ。それ以上の事はわからん」
 話を聞いてそのことに思い至った望が問い詰めるが、士は顔を横に振って答えた。
そう、士が思い出せたのはあのモンスター達が暴れる光景のみ。その後どうなったかは未だに思い出せないのだ。
それを聞いてか望は落胆したように肩を落としてしまう。
「あらあら、なんだか騒がしいわねぇ〜……って、あら? どうかしたの?」
「そうだな。どうにも厄介ごとに巻き込まれた……って、所かな?」
 そんな時に奥にいた叶が顔を出してサイレンの騒がしさに首を傾げつつ、望達の様子に気付いて問い掛ける。
それに士は肩をすくめながら答えるが、理解出来なかった叶はまた首を傾げるはめとなった。


 その日の夜――
雄介は自室のベッドに寝そべりながら今日起きたことを考えていた。
あれは明らかに異常だった。怪人達が現れ尋常じゃない力で破壊活動をしたこと。
そして、親友が変身して、その怪人達と戦ったこと。そのことを雄介は怖いと感じていた。
当然だろう。あんなことに巻き込まれていたら、まずただでは済まない。
だが、同時に後悔も感じていた。自分は黙って見ていて良かったのかと――
自分がもしあの怪人達に戦いを挑んだとしても簡単にやられてしまうのはわかっている。
それでもなんとかしたかった。例え、戦えなくても親友を手伝ってやりたかった。
だけど、出来なかった。あの時はただ見ているだけで――
「どうしたら……いいんだ……」
 思わず握りしめた両手を見てしまう。雄介は士や望に笑顔でいて欲しいと思っている。
笑顔はその人が幸せである証と考えているから。だから、そうなるように勤めていたはずだった。
けど、あの時は……いや、その後もそれが出来なかった。確かに混乱はしていた。
でも、何か出来なかったのかと考えてしまうのだ。
しかし、自問はしても答えが出ることは無く、雄介は悩んで眠れぬ夜を過ごすのだった。


 眠れぬ夜を過ごしていたのは望も一緒だった。
ショッピングモールで起きた惨劇は5年前の事故を彷彿とさせ、彼女を怯えさせた。
また、誰かがいなくなってしまいそうな気がしたからだ。あの時は自分の両親と士の両親がいなくなってしまった。
そして、今度は士がいなくなってしまいそうな気がしてしまう。
士は言っていた。5年前のあの時、あの怪人達以外にも他の怪人がいたと。
だとすれば、また怪人が出てくるかもしれない。そうすれば、士は再び戦いに行くだろう。
そんな確信めいたものを望は感じていて、それを怖いと思ってしまう。
だって、そのせいで士がいなくなってしまうような気がしてならないから――
「やだよ……やだよぉ……」
 自分と姉と両親、それに士とその両親が写った写真を見つめてから、望はその写真を抱きしめ涙を流した。
願わくば、これ以上何も起きて欲しく無い。そう切に思いながら――


 一方、士は自室のベッドに寝そべりながら1枚のカードを見ていた。
それは自分が変身する際に使ったカード。士が変身した姿が描かれ、その下には『仮面ライダーディケイド』と書かれていた。
「ディケイド、か……なんか不思議だな。初めて変身したはずなのに、そんな感じがしない」
 思わずそんな疑問を呟いてしまう。あの時、望や雄介には話さなかったが、自分は変身に慣れているような感じがあった。
いや、慣れているというよりもディケイドの姿がしっくりとくる感覚があったのである。
「もしかして、俺は前にも変身したことがあるのか?」
 ふと、そんなことに思い当たるが、そうと考えないとこの感覚の説明が付かない。
だが、自分にはそんな記憶は無い。無いはずなのに――
「ま、考えてもしょうがないか」
 しかし、士はため息を軽く吐くと気にした風も無くカードをケースへと戻し、再び寝そべるが――
「それにこれで終わりってわけじゃないだろうしな」
 ふと、思ったことを漏らしてしまう。なぜか、終わった気がしない。
いや、それも当然かと思っている。なぜなら、あの爆発事故の時に今日現れた怪人達以外にもいたことを思い出したからだ。
それが今回の戦いでは姿を見せなかった。となれば――
「また、出てくるだろうな」
 そんな予感に士はため息しか出ない。別に士も戦いたくて戦っていたわけではない。
ただ、どうにかしなければならないという焦燥感に駆られてしまうのだ。
なぜ、そう思うかはわからない。でも、それはある意味間違っていないとも思っている。
あの時はそうしなければ、望や雄介が危なかったのだから――
そのことにどうしたものかと士は考えを巡らせ……しばらくして眠りに付いてしまうのだった。


 あれから3日が経ち、町はいつもの喧騒を取り戻していた。
あのショッピングモールでの出来事は原因は不明であるものの5年前と同じく爆発事故とされた。
一方で士達は士こそいつもの調子であるが、望や雄介は戸惑いが残ったままだった。
ショッピングモールで起きたこともそうだが、望は士によって告げられた事実に思い悩んでいたためだ。
雄介にいたっては今後をどうするかでも悩んだ為にクラスメートに心配されたりしていたが。
「なぁ……」
「なんだ?」
「あいつらは……また来るのか?」
 その日の学校からの帰り道。雄介のその疑問に望がビクリとしながら振り向く。そんな問い掛けに対し返事をした士は頭を掻き――
「まぁ、来ないで欲しいのは俺も一緒だがな。でも、あいつらが何のために現れたかもわかってないんだ。
それがわからない内はこれで終わりとは……ならないかもな」
 ため息混じりに士は答えるが、望と雄介はそれを聞いてか沈んだ様子を見せる。
確かに士の言うとおり、あの怪人達がなんの為に現れたのかわかっていない。
それを調べる前に士が倒してしまったのもあるが、あれでは聞き出せるかどうかも疑わしい。
その為何もわかっておらず、それが望や雄介の不安にも繋がっていた。
「でも……でも、出来ることなら来て欲しくないよ……だって、だって……」
 不安そうな表情でうつむきながら望は思わず本音をもらしてしまう。
もし、あの怪人達がまた現れたら、また誰かがいなくなりそうで……それが嫌だった。
「ま、このまま来なくなるなら、それはそれでいいんだけどな」
「確かに……って、おい。なんか様子がおかしくないか?」
 士の言葉にうなずく雄介だが、ふと感じた様子にいぶかしげな表情を見せた。
良く聞くと遠くから悲鳴のようなものが聞こえ――
「きゃああぁぁぁぁ!!?」「いやあぁぁぁぁ!!?」
「おい! あれって――」
 気付いた雄介が指差した先には悲鳴と共に逃げ惑う町の人達の姿。更には破壊音や爆発音まで聞こえてきていた。
「な、何?」
「あ、士!?」
 その様子に望が戸惑う中、士がいきなり走り出してしまう。
それに気付いて慌てて追いかける雄介。望も戸惑いながら追いかけ――
「え……」
 追いかけた先に怪人の群れが暴れながら町を破壊している光景を目にしてしまう。
それから逃げ惑う人々。しかし、怪人達はそんな人達にも襲い掛かっていた。
「なによこれ……なんなの、これ!?」
「さてな。だが、このまま放っておくわけにもいかないだろ」
 あまりの状況に悲鳴のように叫んでしまう望。
そんな彼女に答えながら士はベルトを取り出して装着していた。
「て、おい!? 戦うつもりかよ!?」
「あれをどうにかしないとまずいことになると思うが?」
「そうかもしれないけど……無茶だ!? 数が違いすぎる!?」
 当然と言った顔で答える士に驚いていた雄介は叫んでいた。
確かに前回とは違い怪人の数が違いすぎる。ざっと見ても30以上はいそうだった。
それではいくら士が変身すれば強くなるとはいっても、流石に無理だと雄介は感じたのである。
「確かに無茶かもな。でもな、なぜかはわからないが、あいつらの好き勝手にさせちゃいけないって思うんだよ」
「で、でも――」
 ケースからカードを取り出しながら話す士に望は止めようと声を掛けた。
雄介の言うとおり数からしてあまりにも無茶だと思った。いや、それ以前に士もいなくなってしまうと思った。
そんな望に士は振り向いて笑顔を見せ――
「安心しろ。死に行くつもりなんかない。変身!!」
『仮面ライド――ディケイド!!』
 その言葉の後にカードをベルトにセットして3日前のあの姿、ディケイドへと変身する士。
その後、両手を払うように叩いてから怪人達の群れへと向かい走り出した。
「士……」
 その様子を望はただ黙って見送るしか出来ない。だが、同時に無事でいて欲しいと願ってもいた
「が!?」
「たく、こんだけの数がどこから来るんだか」
「おが!?」
 怪人達を殴りながらぼやく士。わかってはいたものの怪人達の数が多すぎる。
無茶だとはわかってはいたが、それでも士は戦うしかなかった。
このまま怪人達を暴れさせるのは嫌な予感しかしなかったために。
「何をするつもりか知らんが、ろくでもないってことは確かみたいだしな」
『アタックライド――ブラスト!!』
「あががが!?」「ごばぁ!?」「があぁぁぁ!?」
 怪人達は明らかに町を破壊したり人を襲っている以上、友好的な目的とはどうしても思えない。
だから、止める為にベルトにカードをセットし、銃へと変形させたケースから光弾をマシンガンのように放って怪人達に撃ち込んでいく。
しかし、これで倒せるわけでは無い為、どうするかと士が考えた時――
「ん? おわ!?」
 巨大な光球が自分へと飛んでくるのに気付き慌てて跳び退くが、地面に当ると共に大きな爆発を起こして大きな衝撃を起こした。
その衝撃に吹き飛ばされ、着地をし損ねて地面を転がるように倒れる士。それでもすぐさま立ち上がって光球が飛んできた方へと向いた。
「たく、いきなり何しやがる!」
「ふん、まさかこの世界に我らと戦える者がいたとはな。だが、無駄だ。この世界は我らグロンギの物だ」
 文句を言う士に答えたのはある怪人だった。他の怪人達よりも一回り大きな体。
その姿はどこか金剛力士を思わせるが、身に付ける鎧や装飾品が禍々しさを際立たせている。
「グロンギ? それがお前達の名前か? それにこの世界がお前らの物だと?」
「そうだ。この世界の物全てを奪い邪魔な人間どもを滅ぼし、我らグロンギの帝国を創り上げる」
「は、ふざけんな。そう言われて、はいそうですかって言うこと聞くと思ってんのか?」
「この世界は我らの物となる。その為に我らはこの世界へと来た。今更、それを変えることなど出来ん」
「だったら、なおさらやらせるわけにはいかないな!」
 グロンギと名乗る怪人の言葉に士は怒りを覚える。この世界は自分達の物。貴様らは邪魔だから殺す。
さも当然と言わんばかり言動に自分に告げる勘の意味がわかった。こいつは許してはいけないと――
だからこそ、ケースを剣へと変形させて斬りかかる。怪人達の目的を止める為に。
「うおぉぉ!!」
「ふん……数年前にこの世界を破壊するために先兵を送ったが……貴様が倒したようだな?」
「なに?」
 斬りかかる士の剣を怪人――グロンギはあっさりと手で受け止めながら鼻で笑うようにそんなことを言い出す。
それを聞いた士はあることを思い出す。5年前に現れた怪人達のことを――
「5年前のあれはお前らの仕業か!」
「これから死に逝く者に答える事など無い!」
「ぐお!?」
 気付いて叫ぶ士だが、グロンギが放つ衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
再び地面を転がるはめとなったがすぐさま立とうとし――
「ぐっ!? おわ!?」
 そこ狙ってきた怪人達に殴られた上に放たれた光弾をまともに喰らいまたも吹き飛んでいく。
「ふふふ……はははは……は〜ははははははははは――」
「くっそ、馬鹿笑いしやがって……」
 高笑いを上げるグロンギに文句を言いながらも立ち上がろうとする士。
だが、状況は明らかに不利。士1人に対しあちらはグロンギと怪人の群れ。
それでも士は立ち上がった。グロンギの目的を止める為に――


 一方、望と雄介はただ黙ってその光景を見てるしかなかった。
戦う士も数の暴力には抗う術が無く、幾度となく怪人達やグロンギの攻撃を受けて倒れる。
それでも士は立ち上がり戦い続けようとしていた。
「やだよ……もうやめてよ……士……」
 その光景に望は涙を流して懇願していた。このままでは士も本当にいなくなってしまう。
それが嫌だった。だから、声に出して懇願するのだが、士には届いていないのか戦いをやめようとはしない。
「なんでだよ……なんで、あんなになってまで戦えるんだよ……」
 雄介は拳を握りしめながら問い掛けていた。勝てるわけがない。それはどう見たって明らかだ。
なのに、士はやめようとはしなかった。もう、ボロボロのはずなのに戦い続けようとする。
なぜ、そんなことが出来るのか雄介にはわからないことが悔しかった。
自分は何もわからず、ただ黙って見ているしかないのかと……
「あ!?」
 そんな時、望は思わず声を出していた。
何事かと雄介が顔を向けると士が怪人に羽交い締めにされており、それを狙って別の怪人が攻撃しようとしていた。
「やめろぉ!?」
 無意識に叫んだ雄介は体が動いていた。
「ぐあ!?」
「く、どけ!」
「ごわ!?」
 気が付けば士を羽交い締めにしている怪人に体当たりして突き飛ばしていた。
解放された士はすぐさま遅い掛かってくる怪人を斬り付け蹴り飛ばし、雄介の元へと寄る。
「たく、無茶しやがって」
「無茶はお前だ! 早く逃げよう!」
「悪いがそれは出来ない。代わりにあの子を頼む」
「あの子? あ……」
「う、うぅ……うえぇぇぇぇぇぇぇぇ――」
 士の言葉に思わず叫んでしまうが、それでも逃げようと言い出す雄介。しかし、士はそれを断ってある方へと指を向けた。
雄介がそこへと顔を向けると、その先にしゃがみ込んで泣いている小さな女の子とを見つける。
どうやら親とはぐれてしまい、怖くて動けなくなってしまったらしい。
それを見て雄介は助けなきゃと思うのだが、すぐに女の子が怪人達の中にいることに気付いて足を止めてしまう。
今は士に気を取られて気付いていないようだが、先程のことを考えれば気付かれた途端に襲われてしまうかもしれない。
「俺があいつらの気を向けるから、お前はあの子連れて逃げろ」
「ちょっと待てよ!? だったら、あの子と一緒に逃げようぜ! その方がいいって! あんな数に勝てるわけ無いだろ!?」
 士の言葉に雄介は慌てて止めようとした。どう見たって士が勝てそうには見えない。
だったら、あの子と一緒に逃げた方がいいと雄介は思ったのだ。
「安心しろ、勝つつもりはない。せめて、あの馬鹿笑いしてる奴だけでも倒しておきたいだけだ」
 それに対し、士はグロンギを指差して答えた。士もこの数に勝てるとは思って無い。
しかし、少しでも数を減らしておきたかった。次に戦うのであれば、そうした方がいいと思ったのだ。
「無茶言うな!? 今は逃げた方がいいって!?」
「じゃあ、俺達が逃げたらあいつらはやめてくれると思うか?」
「そ、それは……」
 それでも逃げようと言いすがる雄介だが、士の言葉に言いよどんでしまう。
グロンギの話は聞いていた。それを考えれば、士が握ればグロンギ達は再び暴れ出すだろう。
しかし、しばらくすれば警察や自衛隊が来るはず。後はその人達に任せればいいと思ったのだ。
「だからって……士が戦う必要なんて無いだろ!?」
「違うな」
「え?」
 思わず叫ぶ雄介だが、士の返事に思わず顔を向けてしまう。
言われたの士は刀身を手でなぞりながらグロンギを睨み――
「必要だからやってるんじゃない。俺がやると決めたからやっている。ただ、それだけだ」
「士……」
 士のその言葉は雄介の中で響いていた。それが士の覚悟の言葉に聞こえて、そこで気付いたのだ。
自分に足りないのが士のような覚悟だと。自分の身近な者達にはせめて笑顔でいて欲しかった。
今まではどうすればそうすることが出来たのかわからずにいた。でも、今の士の言葉で気付いたのだ。
自分にはそれがしたいという覚悟が無かったことを――
「くそ……」
 気付いて、雄介は両手を握りしめる。やっと気付けたのに、自分には今をどうにか出来る力が無いことに。
どうにかしたかった。どうにかしたいのに……その力が無い。
「くそぉぉぉぉぉぉ!!?」
 だから、悔しくて叫んでいた。自分の不甲斐なさに……ようやく答えを見つけられたのに何も出来ない自分に――
そんな時、士が持つケースが独りでに開いたかと思うと2枚の真っ白なカードが飛び出してきた。
士がその2枚を手に取ると真っ白だったカードに図柄が現れた。
1枚には士がしているベルトとどことなく似ているベルトが描かれており――
もう1枚にはやはりディケイドとどこかに似ている仮面の戦士とクワガタのような機械が描かれていた。
「雄介!」
「え? おわ!?」
 呼ぶと共に士はベルトが描かれたカードを投げ、呼ばれて振り向いた雄介は慌てた様子でそのカードを受け止める。
そして、不思議そうにカードを見つめるが――
「な、なんだよ……これ?」
「お前のカードだ。使い方はカードが教える。さっさと変身しろ!」
「え? へん……しん?」
 士の言葉に戸惑っていた雄介だが、不意に何かが頭の中に浮かんできた。
それはカードの使い方……いや、それだけではない。カードに秘められた想いも頭の中に流れ込んでくる。
かつて、このベルトをした者は自分と同じように誰かの笑顔を守りたくて――
「なんだかわからないけど……よし!」
 戸惑いながらも雄介は決意を秘めた顔をして、両手をカードと共に腹部に当てた。
するとカードが輝いて消えると共にカードに描かれたベルトが雄介に装着される。
「なに!?」
 それを見たグロンギや怪人達は驚きを見せていた。なぜなら、そのベルトは見覚えがある物だったからだ。
その間に雄介は左手を握ってベルトの左側に当て、右手を構えながら突き出し――
「変身!!」
 掛け声と共に右手を振って左手に当てるとすぐに両腕を広げる。
すると唸るような音が響くと共に雄介の体が何かを纏うかのように変わっていき――
「馬鹿な!?」
「雄介も……変身しちゃった……」
 その姿にグロンギはまともに驚き、望は呆然としてしまう。
雄介の今の姿は士が持っているもう1枚に描かれた仮面の姿と同じになっていた。
黒い手足に赤い体。頭も黒く昆虫を思わせる目も赤く、額にはクワガタを思わせるような触覚があった。
「クウガだと!? 馬鹿な……奴がこの世界にいるはずがない!?」
 その雄介の姿にグロンギは信じられないといった様子で叫んでいた。
なぜなら、グロンギは雄介の今の姿と同じ姿をした者と戦い、敗れようとしていたからだ。
しかし、”ある者”の助けで自分達の世界から逃れ、この世界へと来たのに――
「く……奴らを殺せぇ!!?」
「なに怒ってんだか……行くぞ、雄介」
「ああ……望ちゃん。あの子を頼んだよ!」
「え? あ、ちょっと!?」
 怒りを露わにして号令するグロンギ。そんな様子に士は呆れながらも声を掛け、雄介はうなずきながら望に声を掛ける。
声を掛けられた望は戸惑ってしまったが。
「は!」
「く、貴様〜!?」
 斬りかかる士の剣を受け止めるグロンギだが、先程の余裕とは打って変わって苛立った様子を見せていた。
そんな彼らに怪人達は襲いかかろうとするが――
「させるか!」
「ぐあ!?」「ぎゃ!?」
 飛びかかる形で雄介が怪人達を殴り、それを阻んだ。
「おわ!? くっ、ちょっと待って!?」
 しかしながら数が違いすぎてすぐに劣勢になってしまう。
雄介はカードの力で戦えるようになったが元は普通の人間。故にまともな戦いが出来るわけでは無い。
それでも避けたり受け止めたりして何とか怪人達と戦っていたのだが――
「まったく……雄介、交代だ」
「え? あ、わかった!」
 そのことに気付いた士の言葉に雄介はうなずくとグロンギへと向かい、士はグロンギから離れて怪人達へと向かっていく。
「また邪魔をするか、クウガ!?」
「俺はお前なんか知らないっての!」
 グロンギにつかみかかりながら叫び返す雄介。グロンギはある意味そうではないのだが、雄介とっては初対面。
なので、グロンギの言葉の意味を理解出来ずにいたのだ。それでもやらせないと士から離れるように押していく。
「がは!?」「ごば!?」
 一方、士も2体の怪人を斬り飛ばすとケースからカードを1枚取り出し、ベルトにセットして――
『アタックライド――イリュージョン!!』
「え!? 士が……増えた!?」
 いきなり5人に増えてしまう。その光景に望は驚く中、士はそれぞれ怪人へと向かっていき――
「がぁ!?」「ぎゃあ!?」「ぐば!?」「ごあ!?」「ぐがぁ!?」
 それぞれ殴ったり蹴ったり斬ったり撃ったりして怪人達を攻撃していく。
「く……なんなのだ、貴様は!?」
 その光景にグロンギは叫ばずにはいられなかった。明らかに士の力は異常だった。
雄介をクウガへと変身させただけでなく、自らも増えたりして怪人達を攻撃していく。
そんなことはいかに自分とて出来るものでは無い。だからこその疑問だった。
「俺か? 俺は通りすがりの仮面ライダーだ。覚えとけ!」
「ぎゃば!?」
 その疑問に対し士は元の1人に戻ってから顔を向けて答え、その時に遅い掛かってきた怪人を殴り飛ばした。
「ふざけおって!?」
「うおわ!?」
 そのことで怒りを感じたグロンギは雄介を殴り、殴り飛ばされた雄介は地面を転がってしまう。
「いっつ〜……くっそ、強いぞあいつ!」
「なら、一気に決着を付けるか」
 足下に来た雄介に答えつつ、士はケースから1枚のカードを取り出した。
それは雄介を変身させたカードと共に出てきたもう1枚のカード。それをベルトにセットし――
『ファイナルフォームライド――ク・ク・ク・クウガ!!』
「ちょっとくすぐったいぞ」
「へ?」
 声を掛ける士に雄介は疑問を感じて振り向こうとするが――
「おわ!?」
 その前に士の両手が雄介の背中に触れたかと思うと扉を開けるかのように動かした。
すると背中に黒くて平べったい金属のパーツが現れたかと思うと雄介の体が変形し――
「ゆ、雄介?」
「おっきい……クワガタだ……」
 その光景に呆然としてしまう望。女の子もそれに気付いて顔を上げる。
そう、雄介は士がセットしたカードに描かれていた、金属で出来た人の大きさほどもあるクワガタへと姿を変えていたのだ。
「な、なんだよこれ!?」
「俺達の力って所だ。一気に行くぞ」
「俺達のって……わかったよ!」
 士の返事にいきなりのことで驚いていた雄介は戸惑いながらも空高く飛び上がり――
「ぎゃ!?」「ぐお!?」「がっ!?」
 飛び回って周りにいた怪人達を突き飛ばしていく。
その間に士はケースを銃に組み替えてカードを取り出し、ベルトにセットしていた。
『アタックライド――ブラスト!!』
「ぐごごごごごごご、ぐわぁ!?」
 士が撃ち出す無数の光弾に撃ち抜かれ、グロンギは突き飛ばされるような形で地面を転がっていく。
その間に雄介はクウガの姿に戻って士の横に立ち――
「「おおおおお!!」」
「ぐはあぁぁぁぁぁぁ!!?」
 共に片足を突き出す形で立ち上がろうとしていたグロンギを蹴り飛ばしていた。
「決めるぞ、雄介」
「ああ!」
『ファイナルアタックライド――ク・ク・ク・クウガ!!』
「おりゃあ!」
 カードをセットする士に返事をしてから雄介は再びクワガタの姿となってグロンギへと向かい飛んでいき――
「く、ぐ……おわ!?」
 よろめきながらも立ち上がるグロンギを角で挟み込み、宙へと持ち上げるように飛び上がり――
「く、やめ、ぐはぁ!?」
 天高い所でUターンして落下し、地面へとめり込ませるように叩きつけた。
その後、グロンギから離れた雄介は士の元へと飛んでいき――
「は!」
 士もそれを見て飛び上がると再びUターンして戻ってきた雄介の上に乗り、共に天高く飛び上がっていく。
「は!」
 そして、グロンギが小さく見えるほどまで上がると士は飛び降り、雄介もクウガの姿に戻り――
「「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」
 共に右足を突き出しながら落下していく。グロンギへと向かって。
「く……こ、の……ぐばあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 グロンギもそのことに気付くが地面にめり込んだことでまともに動けず、それでも攻撃しようと腕を伸ばす。
だが、間に合わずに落下してきた士と雄介の右足に胸を打ち抜かれてしまう。
蹴りを打ち込んだ士と雄介は跳ねるようにしてグロンギから離れ、振り返って様子を見ていた。
「く、が……リントに……我らが野望を……破られるはずが……があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 右手を突き出すように伸ばしうめくグロンギ。だが、やがて悲鳴を上げたかと思うと大きな爆発を起こす。
それと共に周りにいた怪人達が力なくしたかのようにへたり込んだかと思うと次々と消えてしまうのだった。
「え? あ、あれ? どうなったんだ?」
「どうやら、あいつを倒せば終わりだったみたいだな」
 この光景に戸惑う雄介だが、士は肩をすくめながら答えていた。
ちなみに落ち着いて見えるが、実は士もこれは予想外だった為に少しばかり驚いていたりする。
「士! 雄介!」
「あ、望ちゃん!」
 と、心配そうに駆け寄る望に右手を振る雄介。だが、やってきた望は2人を見て泣きそうな顔になる。
「馬鹿……心配……させないでよ……馬鹿ぁ〜……」
「あ、ごめん……」
「言ったろ? 死ぬつもりは無いってな」
 泣き出す望に雄介は両手を合せて謝るが、士はそんな彼女の頭に手を置きながらそう答えるのだった。
その後、サイレンの音を聞いて士達は変身を解いて逃げ出してしまう。
このままだと自分達が警察のお世話になってしまうと判断した為だ。
その為、警察が駆け付けた時に見たのは破壊された町並みと犠牲になった人達。
そんな中、救助された女の子が何か見てないかと聞いてみるのだが――
「あのね。通りすがりの仮面ライダーさんとおっきなクワガタがバケモノを倒してくれたの」
 と言われ、もしかして混乱してるのか? と、周囲を戸惑わせたという。


 グロンギとの戦いから2日後の土曜日の朝。
学校が休みなので、士と望はフォトショップの住居部分にあるリビングにいた。
ちなみにこのリビングは写真館が経営されていた頃は撮影スタジオとして使われていた部屋である。
しかし、今は写真館が休業状態の為にリビングとして使われていた。
「よ!」
「あら、雄介君いらっしゃい」
 そんな時に雄介が右手を挙げつつ現れ、そんな彼に叶が笑顔で挨拶をしていた。
「なんだ、来たのか」
「いや、望ちゃんのことが気になっちゃって。でも、その様子なら大丈夫そうだね」
 ソファーに座る士に頭を掻きつつ笑顔で答える雄介。
顔を向けて見ると、同じくソファーに座る望はそれなりの笑顔を見せていた。
「あ、うん……終わった……よね?」
「そりゃそうだろ? 俺と士があいつらをやっつけたんだから」
 望の問い掛けに雄介は笑顔で答える。あのグロンギとの戦いの後、望は泣き続けていた。
戦いの恐怖もあったが、2人が無事でいたことが本当に嬉しかったからだ。
そんな状況で帰ってきたので、士と雄介は何があったんだと叶に叱られる羽目になってしまったが。
ちなみに叶には何があったかは話してはいない。言っても信じてもらえるかわからなかったからだ。
それはそれとして望と雄介はそんな会話をしていたが、士はどこか真剣な表情を見せている。
「ん? どうしたんだよ? 難しい顔をして?」
「いや、あのグロンギが言っていたことが気になってな」
 そのことに気付いた雄介に士は表情を変えずに答えた。
あの時、グロンギはこの世界に来たと言っていた。それがどうにも気になったのだ。
まるで自分達は違う世界から来たというような言い草だ。もし、そうなのなら――
「気になること? いや、気にすることないんじゃないか? もう終わったんだからさ。
それにまた出たとしても俺達で倒せばいいんだし」
 などと笑顔で話す雄介。しかしながら、あまりにも楽観的な意見に士は呆れてため息を吐いたのだった。
「はいは〜い、コーヒーはいかが〜て、あらぁ?」
 そんな中に叶が入ってきた時だった。壁際の梁に設置されていた写真撮影の時に使う背景用の垂れ幕がいきなり降りてきたのである。
「え? なんで? それにあんなのってあったっけ?」
 いきなりのことに戸惑う望。本来真っ白であるはずの垂れ幕には大きな……本当に大きなとしか言えない大木の絵が描かれていた。
それに良く見ると大木の周りには町らしき物も描かれている。そんな垂れ幕が独りでに下りてきたことに驚いたのだ。
「あら〜? あんなのあったかしら?」
「え? この家の物じゃないんですか……って、なんだありゃ!?」
 首を傾げる叶の言葉に雄介は困った顔をしながらふと窓へと顔を向け、それを見た途端に叫んでしまう。
「きゃ!? な、なによ……いきなり大声なんて出し、て……」
 いきなりのことに驚きながらも望も窓へと顔を向け、それを見て固まってしまった。
「あら〜?」
「俺達の町じゃ……無い?」
 叶と士も釣られて窓へと顔を向け、そこから見えた光景に呆然としてしまう。
窓の外には見知っていたはずの町並みは無かった。代わりにあったのはまったく知らない町並み。
洋風を思わせる……そう、垂れ幕に描かれた町並みと似た町並みがそこにあったのだ。


 林らしき場所。そこに誰かがいた。
「は……はは……なんで……こんな所に来てしまったのかな……私は……」
 全身をマントとフードで覆い、顔も右目以外を包帯で覆ってしまっている者が木に背を預けながら座り込んでいた。
声からして女性らしいのだが、そんな格好故に姿がうかがい知ることが出来ない。ただ、同じく包帯で覆われた右手には野太刀が握られていたが。
「まぁ……いい……ここなら、奴らも来ない、だろう……ゆっくりと……死んで、逝ける……」
 力ない声で呟き、右目を閉じる女性。
そんな女性を学校の制服らしき物を着た黒髪をサイドテールにした少女が、長い竹刀袋を持ちながら見つめているのだった。


 突然の事に呆然と窓の外を長めながら立ち尽くす士達。この時の彼らは知らなかった。
自分達の本当の戦いが、今これから始まろうとしていたことに――



 あとがき
というわけで、序章完結です。短いように思えますが、序章ですしね(おい)
そんなわけで次回からは本編の始まりとなります。なぜ、士が変身出来るのか?
雄介も変身させられたのはなぜなのか? そういったのも解き明かしていきますので、お楽しみ。

さて、次回ですが――
突然、見知らぬ場所に来てしまった士達。どんな所なのかを調べようと歩き回ってると、全身を覆い隠す女性を発見。
その女性を助けたことで何かに巻き込まれるが――といったお話です。
士達に何が起きたのか? というのがわかるのはまだ先ですが――
てなわけで、次回またお会いしましょう。



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