「ふぁ、あ〜ぁ……」「ね、眠い……」
  次の日の朝。雄介と望は眠そうな顔をしながらリビングに来ていた。
その後を追うように麗華と麗葉もリビングへとやってきてたりするが。
「なんだ、寝てなかったのか?」
「いや、こんな状況で寝れるわけないだろ……」
  いつもと変わらぬ様子でリビングのソファーに座る士に、雄介はジト目で答える。
なお、叶もいつも通りに見える。自分と望は見知らぬ場所どころか異世界に来た不安で眠れなかったのに。
「というか、良く眠れた物だな?」
「気にしすぎても状況が良くなるわけじゃないし、休める時に休まないといざという時に困るからな」
  どこか呆れた様子を見せる麗華に士は気にした風も無く答えた。
確かにその通りではあるのだが、それは簡単に出来ることでは無いことを逃亡生活を送っていた麗華は経験している。
だからこそ、ある意味士に感心していたりするが。
  その後、朝食の時間となったのでみんなで朝食を取った。
その際、トーストとハムエッグを初めて見た麗葉が楽しそうに食べていたのが印象的であったりする。
その朝食も終わり、これからどうするか? と、誰かがそのことを問い掛けようとした時――
「起きているか?」
  エヴァンジェリンが訪ねて来た。その後ろには茶々丸と刹那の姿もある。
「何か用か?」
「何、じじいがお前達を連れてきて欲しいと言ってきてな。迎えに来たのだ。ああ、コーヒーをもらおう」
「金は払えよ」
  答えつつ、ちゃっかりコーヒーを頼んでいるエヴァンジェリンに問い掛けた士はジト目で突っ込む。
昨日はしょうがないにしても喫茶店の物は基本的に叶の物であり、売り物でもある。
だから、いつでもただでというわけでにはいかなかったのだ。
「じじい?」
「あ、あの……この麻帆良にある学園全てを統括しておられる学園長でして、名前を近衛 近右衛門(このえ このえもん)という方です」
「なお、学園長は関東魔法協会の理事もなされております」
  首を傾げる雄介にエヴァンジェリンに視線を向ける刹那が答えると、補足するように茶々丸も答えていた。
そのことに雄介と望はお偉いさんかと考えるが、士は厄介ごとが増えたかと頭を痛める。
その学園長なる人物がどんな者かは知らないが、自分達にただ会いたいというわけではないだろう。
下手をすると新たな厄介ごとになりそうな気がしてなからなかったのだ。
「それと麗華と麗葉にも来てもらう。お前達は立場的にもここにいるのはマズイからな」
「それは仕方あるまい」
「どういうことなの?」
  エヴァンジェリンの言葉に麗華は納得したように見えるが、逆に望は訳がわからず首を傾げていた。
会いたいというのならまだしも、マズイとはどういう事なのかわからなかったためだ。
「そうか……お前達は知らなくて当然か。関東魔法協会と関西呪術協会は昔いざこざを起こしていてな。
表面上は大人しくしてるが、裏では今でも小競り合いが続いている。
そんな中で関西呪術協会の奴らが関東魔法協会の拠点とも言えるここにいるのは色々とマズイんだよ」
  エヴァンジェリンの話に納得しつつもそれ以外に何かを感じ取る士。
士の勘は外れていないが、今回の事には直接関係ないのであえて触れないでおく。
「やれやれ、異世界に来ただけでも厄介だってのに」
「はい、どうぞ」
「ああ、すまない。ま、行っておいた方がいいぞ。ここにいる魔法使いの何人かはお前達のことに気付いているしな」
  思わず愚痴る士に叶からコーヒーを出されたエヴァンジェリンは礼を言ってからそう返した。
確かにいきなり現れた自分達の事をこのまま誰も気付かないままというのも無いだろう。
それが元で誤解されて、襲われるようなことになるのはごめんでもあったし。
  そんなわけでエヴァンジェリンがコーヒーを飲み終えるのを待ってから店を出ることになった。
本気で余談だが、エヴァンジェリンが飲んだコーヒーの代金は茶々丸が支払ったと話しておこう。

 そんなわけでエヴァンジェリン達の案内で麻帆良を歩く士達。
なお、今日は日曜だとエヴァンジェリンが言っていた。それで普段着を着ている学生が多いのかと士達は思っていたが。
そんな彼らがしばらく歩いていたのだが、不意に士達が立ち止まったことに望と雄介は訝しげな顔をしていしまう。
「どうしたんだよ?」
「周りを見ろ。人がいない」
「え? あ、本当だ」
  問い掛ける雄介に士が視線を向けて答えると、望もそのことに気付いた。それなりにいた学生や町の住民達の姿が無い。
確かに通り的に人通りは少ないかもしれないが、それでもまったくいなくなるのは考えにくかった。
なぜ? と、望と雄介が考え始めた時――
「見つけたぞ、裏切り者」
  建物の陰から藤島が前回の戦闘の時に一緒に逃げた男女を連れて現れた。
そのことに望と雄介に麗華と麗葉の顔が強張るがエヴァンジェリンは呆れた顔をし、士にいたってはため息を吐いていたが。
「なんというか、しつこいな……あんたも……」
「ふん、裏切り者を捕縛せねばならぬだ。当然だ――」
「にしては、詠春は何も知らなかったようだが、どういうことかな?」
  呆れるようにため息を吐く士に藤島はにやけた顔を向けるものの、エヴァンジェリンのひと言に顔を強張らせた。
この明らかな反応に士とエヴァンジェリンはやはりかと確信を深めていたが。
「な、どういうことだ!? なぜ、貴様らが長と――」
「なんだ、知らなかったのか? こいつは木乃香の護衛だぞ。そいつが詠春と連絡が取れないわけなかろう」
「な!?」
  明らかにうろたえる藤島だが、エヴァンジェリンが呆れた様子で答えると一転して驚愕の表情へと変わる。
近衛 木乃香とは詠春の娘である。ある事情で今はこの麻帆良にいるが、その間は刹那がその護衛を引き受けていたのだ。
なお、木乃香はとある事情で刹那が自分の護衛だということは知らない。その理由はいずれ語ることとなるが――
  一方で藤島は木乃香がこの麻帆良にいることは知っていても、刹那がその護衛だとは知らなかった。
関西呪術協会の長の娘なのだから護衛はいるだろうとは思ってはいた。しかし、それが刹那だとは思わなかったのだ。
彼は知っていたのだ。刹那が抱える秘密のことを……だから、それが関係して麻帆良にいると思い込んでいたのである。
なお、刹那が木乃香の護衛であるのはその秘密も含めた事情故に伏せられていたのだが、先程も話したがその理由はいずれ語ることになるだろう。
ともかく、藤島は刹那の秘密を盾に利用しようとしたのだ。
もし、士とエヴァンジェリンがいなければ、藤島の思惑は上手く行っていたかもしれないが――
  それはそれとして、思いがけないことに藤島はうろたえ、一緒にいた男女達も戸惑いの表情を見せていた。
マズイとかそういう声が聞こえてくるところから考えると、全員が藤島のグルなのだと思われる。
「く、殺せ! 麗葉以外は全員殺せ!」
  不意に藤島がイラついた表情を見せたかと思うと、そんな指示を大声で出した。
そのことに男女達は戸惑いを見せるが、すぐに士達へと向かい刀や棍を構える。
これには望と雄介の顔が強張るものの、麗華と刹那は構えつつも藤島達を睨んでいた。
一方で麗葉は怯えた様子で麗華の背後に隠れ、士とエヴァンジェリンは呆れた様子を藤島達を見ている。
唯一、茶々丸だけは無表情であったものの、エヴァンジェリンの左隣にいて離れようとはしなかった。
「麗葉以外ねぇ……なんでこの子に拘ってるんだかは後で聞くとして……
とりあえず、どっちもどうにかしないとまずいことになりそうだな」
「なに? な!?」
  呆れながらもため息を吐く士に藤島は訝しげな顔をした。
しかし、すぐに気配を感じて振り返り、それを見て驚きで声を漏らしてしまう。
藤島達の背後にいたのは昨日現れた蟻の姿を模した怪人の群れ。それが士達を取り囲むように次々と現れていた。
「こいつら、また……」
「用があるのはあっちなのかこっちなのかは知らないが……このままってわけにはいかないか」
「ああ、そうだな」
  ため息混じりながらも真剣な表情で怪人の群れを見る士に最初は戸惑っていた雄介も真剣な顔でうなずいていた。
その後に士はベルトを装着し、雄介はカードを取り出して構え――
「「変身!!」」
『仮面ライド――ディケイド!!』
  うなるような音と合成音が鳴り響くと士はディケイドに、雄介はクウガへと姿を変えて怪人達へと向かっていく。
「く! こいつら、何が目的なんだ!?」
「さぁな! 俺達か麗華達の方か。どの道、ろくな目的じゃなさそうだがな」
  怪人達を殴り飛ばす雄介の問い掛けに士もケースを剣に組み替えて怪人達を斬っていく。
幸いというか、怪人達の強さは変身した士と雄介なら余裕を持って戦える。だが、数の多さがあまりにも厄介だった。
一方で麗華達は士達のようにはいかない。麗華や刹那、茶々丸にしてみれば怪人達の力は脅威だ。
エヴァンジェリンも呪いのせいなのか魔力が封じられており、まともに戦うことは出来ない。
そのことに悔しく思いながらも、今は戦いの行方をじっと見守っていた。
麗華はといえば、気や魔力をろくに扱えないので怪人達に有効打を与えられない。
「はあぁぁ!!」
  現に怪人の1体を斬り付けようとするのだが――
「な!? うぐ!?」
  本来なら気によって強化された剣で斬りつけるのだが、それが出来ない麗華はただ技だけで剣を振るうしかない。
しかし、それは怪人には通じず、逆に剣の方が半ばから折れてしまう。しかも、それに驚いた隙に殴り飛ばされてしまった。
「お姉様!?」
「あ! 危ないよ!?」
  そのことに気付いた麗葉が駆け寄ろうとし、それを望が呼び止めようとするが止まらない。
「こんな所で、ひぃ!?」
  藤島もそのことに気付いて麗葉を捕まえようとするものの、怪人達に阻まれる形になって怯えてしまう。
「お姉様!?」
「麗葉……なぜ、来た……」
  立ち上がろうとする麗華に駆け寄る麗葉。そんな彼女達に怪人達がまるで群がるかのように集まっていく。
「こやつら、あの2人が狙いか。茶々丸、行けるか?」
「いえ、身を守るだけで精一杯です」
「こちらもです!」
  そのことに気付いたエヴァンジェリンが指示を出そうとするものの、こちらにも来る怪人の相手に茶々丸と刹那は手一杯であった。
「く、士! お前、分身が出来ただろう! それでなんとかしろ!」
「そうしたい所なんだが、な!」
「おわ!?」
  舌打ちしつつもなんとかせねばと指示を出すエヴァンジェリンだったが、言葉を返す士と雄介も怪人達の相手で手一杯であった。
しかも、その怪人は群れている怪人達と姿も力も違った。
雄介を持っている杖で殴り飛ばした方は体格や身に付けている装飾品と相まって女王に見える。
士の方は体格は周りにいる怪人達よりもがっちりとしており、身に付けている装飾品を見てると王様に見えた。
その2体の相手に2人は押し込まれそうになっているのである。
「く……」
「お、お姉様……」
  立ち上がる麗華は折れた剣を構える。すでに怪人達に囲まれており、逃げるのはほぼ無理だろう。
それでも麗華は諦めようとはしなかった。なぜなら、ここには麗葉がいるから。
怯えているこの子を守りたいと思っているから。だから、麗華は諦めない。
自分はダメでも、せめて麗葉だけは守り通したかった。
「麗葉は……麗葉は、私が守るんだぁ!?」
「おねえ、様……」
  麗華はその為に剣の道に入ったのだから――
そんな想いを叫ぶ麗華を、麗葉は怯えながらも見つめていた。麗葉は麗華が大好きだった。
周りの者達が天寺家の次期党首としか見てくれないのに対し、麗華はいつも自分そのものを見てくれた。
それがとても嬉しくて……だから、麗華が禁忌の力を手に入れようとして裏切ろうとしたと聞いた時は裏切られた気分だった。
でも、それは嘘で……自分は利用されるために騙されたと気付いた時、麗華は何も変わっていないことに気付いた。
そのことが嬉しくて……だからこそ、麗華を死なせたくはなかった。けど、それが出来ない。
次期党首として様々な術を習ってはいるものの、戦えるほどまでではなかったのだ。
悔しかった。ただ、見ているしか出来ない自分が。自分も『姉と同じように戦えたら――』と願わずにはいられない。
「お姉様ぁ!!?」
  だから、その想いを思わず叫んでしまう。そして、その想いは聞き届けられた。
「ちぃ! ん? なんだ?」
  体勢を立て直そうと戦っていた怪人から離れる士だが、持っていたケースが勝手に開いたかと思うと3枚のカードが飛び出た。
そのカードを手に取ると、それぞれのカードに絵柄が現れる。
1枚はカブトムシの背にスペードのマークが入った絵柄があるモノクロのカード。もう1枚はスペードのマークが入ったベルト絵柄のカード。
最後の一枚はディケイドやクウガとは違う仮面ライダーと思しき姿と剣らしき物が描かれた物であった。
その3枚のカードを見た時、士は何かに気付いて麗華と麗葉に2枚のカードを投げる。
「2人とも、受け取れ!」
「え? な!?」
「な、なに?」
  士の叫びに麗華はベルトのカードを、麗葉はモノクロのカードを戸惑いながらも受け取る。
それと同時にカードから何かが流れ込んできたことに2人は思わず戸惑ってしまう
「使い方はカードが教えてくれる。さっさと変身しろ!」
「なに?」
  士の叫びにエヴァンジェリンは訝しげな顔をしながらもそのことに気付いた。
士や雄介もカードを使って変身していた。ということは――
「麗葉……いいんだな?」
「うん……私は……大丈夫だよ」
  麗華の問い掛けに麗葉は決意を秘めた瞳で大きくうなずく。カードから流れ込んだ知識によって使い方がわかったからだ。
2人に渡されたカードは1枚ずつでは意味を成さず、2枚が揃って初めて意味を成す。
だが、それもこのままでは麗葉のカードは使えない。使えるようにするには――
カードを通してそのことを知った麗華は心配するのだが、麗華の決意は揺るぐことは無かった。
なぜなら、このかーどがあれば姉と共に戦えるのだから。
「わかった。行くぞ!」
「うん! お姉様!」
  麗華がカードを腹部に当てると共に麗葉は返事をしてからカードを額に当てる。
麗華のカードは輝きと共に消えたかと思うと、彼女の腹部にベルトが装着された。
ただし、バックル部分はケースのようになっている。
麗葉は祈るような表情で瞳を閉じると彼女の体が輝き、カードに吸い込まれるように消えていった。
「ええ!?」「な!?」「あ、あれは……」
  その光景に望とエヴァンジェリンは驚き、刹那も呆然と見守ってしまう。
一方、麗葉を吸い込んだカードはモノクロから鮮やかな色彩へと変わっており、そのカードを麗華が手に取るとバックルにセットしてポーズを取り――
「変身!!」
『ターンアップ』
  掛け声と共に麗華がバックルのレバーを引くとケースが回転して浮き彫りされたスペードマークが現れる。
するとセットしたカードと同じ絵柄のエネルギーフィールドが麗華よりも一回り大きい形でバックルから飛び出し、近付こうとしていた怪人達を弾き飛ばした。
その直後に麗華がそのエネルギーフィールドに突っ込み、突き破る形で通り抜けるとその姿を変えていた。
腹部や肩にスペードのマークを持つ、どこか騎士風の姿をした仮面ライダーに。
もし、その姿を知る者がいたら、こう呼んでいただろう。(ブレイド)と――
「ふ、2人が……仮面ライダーに……なっちゃった……」
  その姿を呆然と見つめる望。刹那も似たような状態だが、逆にエヴァンジェリンは感心したような顔付きになっていた。
気付いているのだ。麗華に……ブレイドに麗葉の力が宿っていることを。
「行くぞ、麗葉!」
『はい、お姉様!』
  ブレイドへと変身した麗華から麗葉の声が響いてくる。
その麗葉の返事を聞いた麗華は左腰に備えられている装飾を施された片刃の剣を手に持って構える。
するとその剣の刀身が力強い輝きに包まれ――
「はぁぁぁぁ!!」
  華麗な動きで周りにいた怪人達を斬り飛ばし、斬り飛ばされた怪人達は倒れる前に爆発していく。
「あれは……斬岩剣? でも、力が桁違いすぎる……」
「なるほど、そういうことか……」
  麗華がしたことに見覚えがありながらも戸惑う刹那。斬岩剣とは気で強化した剣で岩を断ち切る神鳴流の技の1つだ。
確かに刹那も怪人達に対抗すべく使っている技だが、刹那では怪人に傷を付けるのがやっとなのに麗華は一撃で倒している。
その威力の違いさに驚いているのだが、威力の違いの理由にエヴァンジェリンは気付いていた。
仮面ライダーの力もあるのかもしれないが、あの気は麗葉の物だろう。
そして、麗葉が持つ魔力は刹那が護衛する少女並に――それこそ膨大な量を秘めている。
その力を使えば、確かにあれだけの威力を出すことは可能かもしれない。
今のブレイドは麗華の剣技と麗葉の膨大な魔力を持つ剣士。ある意味、理想的とも言える1つの形とも言えた。
「おおぉぉぉぉ!!」
その麗華は神鳴流の剣技を駆使して、怪人達を次々と倒していく。
『アタックライド――ブラスト!!』
「うおぉぉ!!」
  一方、士と雄介も必死に戦っているが、こちらは苦戦を強いられていた。
光弾を乱射する士だが、怪人の王の動きを止める程度にしかなっていない。
雄介の方も殴ったりはしているのだが、怪人の女王は巧みな動きで攻撃を受け流していたりする。
「士!」
  そこに麗華が怪人の王を斬り付けてから、士の横にやってきた。
怪人達の数はまだ多いものの、先に王と女王を倒せば士達と協力して怪人達を倒せる。
そう考えた故に麗華は士達に加勢しようとしたのだ。
「早くこいつらを倒して、周りの奴らを!」
「ああ、その方が良さそうだな」
『アタックライド――スラッシュ!!』
  麗華に言葉を返しつつ、士はベルトにカードをセットして怪人の王に向かい構えた。
「はぁ!!」
  その間に麗華が切り込んでいき、幾度となく斬り付けていく。
怪人の王は持っている杖で受け止めたり避けたりしていたが――
「ふん!」
「く、ぐお!?」
  そこに士も加わったことで捌ききれなくなり、麗華の斬撃を何度か受け――
「ぐわぁ!?」
  そこに士と麗華の斬撃をクロスする形で受けてしまい、勢いよく吹き飛んでいく。
そのまま地面に倒れるものの、怪人の王はよろめきながらも立ち上がっていた。
「流石に周りの奴らとは違うか」
「なら、力押しで行くか」
  油断無く構える麗華だが、その横で士はケースから1枚のカードを取り出す。
あの時出た、3枚のカードの内の最後の1枚。その1枚をベルトにセットし――
『ファイナルフォームライド――ブ・ブ・ブ・ブレイド!!』
「ちょっとくすぐったいぞ」
  などと言いながら麗華の背中をなで上げた。
「え? なんだ!?」
  その直後、自身に起きたことに麗華は戸惑いの声を上げる。
なぜなら、体が不意に浮かび上がったかと思うと逆立ちの格好で体の形が変わっていき――
気が付けば、麗華は――ブレイドは巨大な剣に姿を変えていたのである。
「なんだ、あれは……」
「あれって、雄介と同じ――」
  その光景にエヴァンジェリンが戸惑う中、望はあれが雄介の時と同じであることを思い出す。
あの時もああすることで士と雄介は――そんな光景を見たためか、望にはどこか安心感があったのだった。
『な、なにこれ?』
「ま、俺とお前達の力って所だ。一気に行くぞ」
「待て! それはどういう――」
『ファイナルアタックライド――ブ・ブ・ブ・ブレイド!!』
  戸惑いの声を漏らす麗葉に士が答えつつ、麗華の疑問は無視してカードをベルトにセットする。
それによって合成音が響いたかと思うと、巨大な剣となった麗華の刀身に雷が走る。
「は!」
  その剣を持ったまま、士は天高く跳び上がり――
「てりゃあぁぁぁ!!」
「が!? ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
  振りかざした剣を一気に振り落とす形で怪人の王を縦に切り裂いた。
切り裂かれた怪人の王は吹っ飛んでいき、地面に落ちると共に頭の上に光の輪が現れたかと思うと爆発の中に消えていった。
それを見届けた士は剣を放り投げると剣は変形してブレイドの姿へと戻り、よろめきながらも着地した。
「つ……士! さっきのはなんなのだ!?」
「さぁな? 俺にもなんで出来るんだか、まったくわからないんだが」
「どわあぁぁぁぁぁ!!?」
  戸惑い気味に問い掛ける麗華に士は首を傾げながら答える。
実際、士もディケイドの力がどんな物なのかは良く理解してはいない。今も使えるならそれでいいという理由であったし。
そんな時、吹っ飛んできた雄介が地面を滑る形で士達の元へと来ていた。
「大丈夫か?」
「いつつ……悪い。あいつ強いわ」
  声を掛ける士に雄介は起き上がりながら謝るような形で答える。
士と麗華が顔を向けて見ると、怪人の女王が杖を構えながらこちらへと近付こうとしていた。
その周りにいる怪人も合せてこちらに近付こうとしている。
「やれやれか……俺が抑えといてやるから、あの偉そうなのを頼む」
『アタックライド――ブラスト!!』
「わかった!」「ああ!」
  士が呆れつつもケースを銃に組み替えてカードをセットする中、立ち上がった雄介は構え、麗華も剣の柄に仕込まれたケースを扇子のように円状に広げる。
ケースは全部で9個あってそれぞれにカードがセットされており、その中から麗華は4枚のカードを取り出した。
「はぁぁぁぁぁぁ――」
  その間に士が光弾を乱射して怪人の女王や怪人達の足止めをし、雄介は身をかがめて力を溜め――
「うおぉぉぉぉぉ!!」
『キック――サンダー――マッハ――メタル――ライトニングストライク』
「はっ!」
  雄介が駆け出すと共に麗華は4枚のカードを剣の柄に次々とスラッシュしていく。
そして、最後の1枚をスラッシュし終えると剣の柄からスラッシュしたカードと同じ絵柄のエネルギーカードが飛び出し――
それが麗華の体に融け込むと麗華は身をかがめて剣を地面に突き刺した。
「うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おぐぅ!? ぐ、おおぉぉぉぉぉぉぉ……」
  士によって足止めされていた怪人の女王は炎を纏った雄介の右足の跳び蹴りを胸の辺りで喰らう。
その衝撃で吹き飛びそうになるのをこらえ、蹴りを受けた箇所に現れた紋章に苦しみながらも消えるまで耐えた。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!?」
  だが、そこに右足に雷を纏った麗華の跳び蹴りを喰らって吹っ飛んでいき、地面に倒れる前に頭の上に光の輪が現れてそのまま爆発の中へと消えていく。
それを見届けることなく着地する麗華。それと共に周りにいた怪人達が動かなくなったと思うと景色に解けるかのように次々と消えていった。
「消えた……だと?」
「どういう……ことでしょうか?」
  そのことにエヴァンジェリンは訝しみ、刹那は戸惑いを見せた。
確かに怪人の王と女王は怪人達の親玉だというのは想像出来る。しかし、それを倒したら消えるとは思わなかったのだ。
「ま、俺みたいにあいつらが元になって生み出してたんじゃないのか?」
  それに対し、大して気にした風も無く話す士の言葉を聞いて、エヴァンジェリンはなるほどと納得していた。
士がそうしたように魔法などでも分身を生み出すということが出来る。そして、その分身は生み出した本体がやられれば消えてしまう。
それと同じなのだろうと思ったのだ。一方、藤島はへたり込みながらもその様子を見ていた。
いったい何が起きているのか理解出来ないが、このままでは自分達が危ういことはわかった。
士達の話を聞く限り、自分達の行動が長に知られているのは間違い無い。そうなれば、怪しまれて身辺を調べられるはず。
すぐにわかるようなことはしてないものの、自分達の計画が発覚するのも時間の問題。
そうなる前に誤魔化さねばならない。その為にもこの場はすぐに逃げなければ。
麗葉は諦めねばならないが、誤魔化せればどうにでもなる。この時の藤島はそう考えていたのだ。
「どこに行く気かの?」
  だが、老人の物と思われる声に、立ち上がろうとしていた藤島はビクリと体を震わせてから振り返った。
その先にいたのは老人……と言えばいいのだろうか? 見た目は間違い無く老人である。
ただ、頭部がなぜか長くなっている。頭頂部のみにある白髪を結い上げ、異様に長い眉毛とひげはある意味仙人に見えた。
その隣にはメガネを掛け、背広を着た初老の男性が立っている。その2人の後ろにも十数名ほどの男女の姿があった。
「学園長……なぜ、ここに?」
「ほっほっほ、なに。妙な場所に結界があったのでな。もしやと思って来てみたのじゃよ。まぁ、着いたのはつい先程じゃがな。
さてと、おぬしが藤島じゃな? 関西呪術協会の長がおぬしに話があると言っておる。すまぬがご同行願えるかの?」
  戸惑いを見せる刹那に学園長と呼ばれた老人は笑いながら答え、その後に真剣な眼差しを向けながら話しかける。
その話に藤島は明らかに顔を引きつらせていた。まさか、知られている? なぜ?
混乱する藤島だが、これは関西呪術協会の長の力を侮った結果であった。
1日では流石に証拠をつかむまでにはいたってはいないものの、十分に怪しいと言える事がいくつも判明したのだ。
その為、長は藤島の拘束することにし、その協力を学園長に依頼したのだった。
  ちなみに関東魔法協会と関西呪術協会は裏では争っていたのでは? という疑問を持った方もいると思う。
その辺りの詳しい説明は少々長くなるので割愛させてもらうが学園長と長は和平の為に色々としており、今回はその一環として行われたと説明しておこう。
それはそれとして、全てが終わったと悟った藤島は地面に両手を付き、うつむいてしまっていた。
「え……あの人が……学園長……なの?」
「ああ、そうだ」
  戸惑った様子で指差す望にエヴァンジェリンはあっさりとうなずいたが、望はそれを聞いて顔を引きつらせた。
なぜなら、望が想像していたのは明らかに違いすぎたのだ。どんなのを想像していたかはあえて言わないでおくが――
それはともかく、終わったと感じた雄介と麗華は元の姿に戻り、麗葉もカードから飛び出す形で戻る。
そんな登場の仕方をした麗葉と麗華の姿に初老の男性と後ろにいた十数名ほどの男女は思わず驚いていたが。
と、麗葉が駆け出して藤島のそばに行ったかと思うと睨みつけ――
「あなたが……あなたがお姉様をあんな姿にしたの!? だったら、戻して!? お姉様を元に戻して!?」
  怒りを露わにしながら叫ぶが、それに対し藤島はピクリと反応した。
そのことも思わず引いてしまう麗葉だが、藤島は歪んだ笑顔をとなった顔を向ける。
「戻せ……だと? 無理だな! なぜなら、私を含めて10人掛かりで呪いを掛けたのだ。
ありったけの魔力と複雑な術式を使って……だから解くことは不可能だ。一生あのままの姿なんだよ、あの女は!?
ははは……あ〜はっはっはっはっはっは――」
「そんな……」
  まるで吐き出すかのように叫んだ藤島は最後には歪んだ顔で笑い出してしまう。
自分は終わってしまった。だが、ただで終わらない。誰かを巻き込んでやる。
逆恨みからそのように考え、絶望させるために言ったのだった。
そのことに麗葉は呆然とした表情でへたり込んでしまう。
騙されたことに気付き、姉と仲直り出来たのに……その姉がずっとあの姿のままなんて――
そう思うと悲しくなって、麗葉は泣きそうになってしまう。
一方、麗華は瞳を閉じながらも、やはりそうかと考えていた。
逃げ回っている間、元の姿に戻る方法も探してはいたのだ。だが、どうにもならなかった。
有名な術士や魔法使いに頼ってみても結果は同じ。だから、もう元の姿には戻れないと半ば諦めていた。
今回のことでそのことが証明されてしまったが、麗華としては別に良かった。妹との仲を取り戻せただけでも十分だったから。
そんな麗華を泣きそうになっている麗葉ともう1人、藤島とその仲間達以外の皆が心配そうに見ている。
エヴァンジェリンも同情的な眼差しを向けていたのだが――
「ふむ、それじゃあ、試してみるか?」
  未だにディケイドの姿のままの士が、ケースから1枚のカードを取り出しながら問い掛ける。
そう、もう1人とは士のこと。彼は話を聞いて、もしかしたらとあることを思いついたのである。
「試す……とは?」
「なに、もしかしたら、どうにかなるかもしれないってことだ。どうだ? 試してみるぐらいはしてもいいと思うが?」
  首を傾げる麗華に士はカードの端を人差し指で軽き叩きながら答え、逆に問い掛けてみる。
士の言うことは呪いを解くと言うことだろうか? もし、そうだとしても可能なのだろうか?
麗華は思わず考えてしまうが――
「そうだな……可能性があるなら、それに賭けてみてもいいか」
  ふっと笑みを漏らしてから、麗華は士へと体を向ける。
別に麗華としてはどうでも良かった。ただ、呪いが解ける可能性があるなら……その程度にしか考えて無かった。
「んじゃ、やってみるか。変身」
『仮面ライド――響鬼(ひびき)!!』
  ひと言そう言ってから、士はベルトにカードをセットする。
すると士の体が炎に包まれたかと思うとすぐに吹き飛んで新たな姿へと変わっていた。
まるで宝石のように光沢を放つ、深い紫色の体。
顔は仮面に包まれてはいるが、ディケイドとは違ってよりフルフェイスのヘルメットに近い印象を受ける。
そして、その額からは2本の角が生えていた。響鬼……ある存在と戦う鬼の仮面ライダーである。
「あれは……」
  その響鬼の姿に学園長は片眉を跳ね上げながら見ていた。
実は学園長は響鬼と似た姿の者を見たことがあり、今の士の姿がその者に似ていることに気付いたのだ。
『アタックライド――音撃棒(おんげきぼう)、烈火!!』
  一方、士は新たなカードをベルトにセットし、ある物を両手に持っていた。
それは紅い棒。シンプルながらも装飾が施され、先端には鬼と思われる顔をかたどった紅く透明な石がはめ込まれていた。
『ファイナルアタックライド――ヒ・ヒ・ヒ・響鬼!!』
  更にもう1枚のカードをベルトにセットすると、麗華の前に彼女とほぼ同じ大きさで円状の炎のような紋章のような物が現れる。
その様子をじっと見つめる麗華。”そばにいた”エヴァンジェリンもじっとその様子を見つめ――
「はっ!」
  士が持っていた紅い棒で紋章を叩くと、まるで太鼓を叩いたかのように大きな音が響いた。
そのまま、士は両手の紅い棒で紋章を次々と叩いていく。リズム良く……まるで祭り囃子で叩く太鼓のように――
「はぁ!!」
  そして、最後と言わんばかりに士は両方の紅い棒で紋章を力強く叩いた。
その直後、麗華の体全体にヒビが入る。そのことに士以外の全員が驚きの眼差しを向け――
「きゃ!?」「うお!?」「なんだ!?」
次の瞬間、麗華の体が弾ける。そのことに士以外の全員が思わず顔を背けつつも、思い思いに驚き――
「え? あ、おねえ……様?」
  その光景に麗葉は呆然としてしまう。
麗葉の今の姿はかつての姿を……自分が大好きでやまなかった元の人の姿を取り戻していた。
一方で望や雄介は驚愕に目を見開いていた。というのも、今の麗華の姿は……あまりにも美しすぎた。
あの醜かった姿から比べたらという意味では無い。まるで創られたかのように整った凜とした顔立ち。
長い黒髪と相まって文字通り、絶世の美女とも言える美しさが今の麗華にはあったのである。
「解けた……のか? 私は……」
「お姉様!?」
「麗葉……ああ、そうか……麗葉……」
  まさか解けると思っていなかった麗華は思わず自分の体を見回してしまう。
その姿を見て泣き出してしまった麗葉が抱きつき、ようやくそうなのだと実感した麗華は麗葉を抱きしめながら涙を流していた。
「ば、馬鹿な……あの呪いを……解いただと!?」
  一方で藤島は驚愕で顔を歪めていた。彼自身も麗華の呪いが解けるとは思ってはいなかった。
なにしろ、自分や術士達のありったけの魔力を込め、術式も複雑怪奇にしたのだ。
どんな凄い魔法使いや術士でも解けるはずがない。そう思っていたのに……藤島の中で理不尽な怒りが募っていく。
自分だけ……自分だけこんな目に合うわけにはいかない。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
  ならばいっそのことと麗華と麗葉に向かって駆け出す藤島だったが――
凍てつく氷柩(ゲリドゥスカプルス)!!」
  誰かの声が聞こえたかと思うと、藤島は氷柱の中に閉じ込められてしまう。
その様子を士以外の皆が驚きで見ていたのだが、学園長と初老の男性はあることに気付いてある者に顔を向ける。
今の現象……というより魔法なのだが、それを使える者に心当たりがあったのだ。というか、先程の声にも聞き覚えがあったし。
それで2人はその者に顔を向けたのである。すなわち、エヴァンジェリンへと――
「ふむ、そばにいたせいか、私の呪いも解けていたようだな。しかし、それにしては大して力が戻ってないようだが――」
  で、エヴァンジェリンはといえば、悪びれた様子も無く不敵な笑みを浮かべていた。
その一方で腑に落ちないこともあるのか、首を傾げている。その後ろで学園長がなぜか冷や汗を流してたりするが。
「士……ありがとう……本当に……ありがとう……」
「別に感謝なんていらない。勝手にやったことだからな」
  涙を流す麗華が頭を下げながら感謝の言葉を告げる。
それに対し、響鬼からディケイド、ディケイドから元の姿に戻った士は気にした風も無く答えていたが。
士も出来そうだと思ってやっただけで、感謝して欲しくてやったわけではない。もっとも、麗華としてはそうはいかなかったのだが。
「まったく……とんでもない奴じゃの。士君と言ったか? 君は何者なんじゃ?」
  一方、ため息を吐いてから顔を向けて問い掛ける学園長。それに対し、士は答えるかのように不敵な笑みを向け――
「俺か? 俺は通りすがりの仮面ライダーさ。覚えといてくれ」
  人差し指を立てながら、あっさりとした様子で答えるのだった。

 


 あとがき
麗華と麗葉が仮面ライダーになったり、怪人達を苦労して倒したり――
士が麗華の呪いを解いたり、ついでにエヴァの呪いも解いちゃったり。
まぁ、色んなことが一気に起きましたが、事件はなんとか解決。
え? はしょりすぎ? まぁ、細かいことは気にしない方向で(おい)

さて、次回ですが唐突に元の世界に戻ると言い出した士。本当に戻れるのか?
しかし、彼らに待っていたのはとんでもない運命であった。
というようなお話です。では、次回またお会いしましょう。

 

 

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