「町はどう見ても普通っぽいな」
 窓越しに見える光景は夕暮れ時の商店街。その光景を見た士はそんなことを漏らす。
士達の見知らぬ場所であったが、それ以外は普通と言える光景であった。
「良かった〜……垂れ幕のを見たら、怖い場所に行くんじゃないかって思っちゃったから……」
「でも、あの垂れ幕の景色ってなんなんだろ?」
 ほっとする望だが、雄介はそんな疑問に首を傾げた。
麻帆良に行った際に現れた垂れ幕は町並みを描いた物のように思える。
そこから考えると今回現れた垂れ幕も町に関係した物だと思ったのだ。
「別の何かを表してたのかもな」
「別な何か……か?」
「お兄様、どこかに行くの?」
 垂れ幕のことを答える士に麗華は首を傾げるが、麗葉はキョトンとしながらそんなことを聞いてきた。
というのも士が明らかに店の外に出ようとしていたからだ。
「どの道、どんな世界なのか知るには見て回らなきゃならないからな。そんなわけで行ってくる」
「は〜い、夕飯までには帰ってくるのよ〜」
「夕飯……なのかな? って、ちょっと待って〜」
 そう言ってから店を出る士に叶は手を振りながら見送る。
しかし、姉のひと言に首を傾げながらも、慌てて追い掛ける望。
雄介、麗華、麗葉も後を追うように店を出て、士と共に商店街を歩いてみた。
「やっぱり、普通の商店街だよな?」
「ああ」
 商店街を歩き回りながら言葉を漏らす雄介に麗華はうなずく。
商店街は賑わっているくらいで、これといって変わった所は無い。
だからこそ、余計垂れ幕のことが気になるのだが――
「そのことは今は気にしない方がいい。今はこの世界がどんな所なのか、確認するのが先だ」
「そうなのかなぁ?」
 士はそう言うが、どうしても気になる望は首を傾げるばかりであった。
そんな士達はいつの間にか商店街を抜け、どこかの学校のそばへと来ていた。
そこで士は足を止め、どこかへと顔を向ける。そのことに気付いた望達も足を止め、つられて顔を向けてみた。
その先にあったのは高飛びを続ける赤毛の髪の少年の姿。しかし、何度やっても跳べずにバーを落とすばかり。
それでも少年は諦めず、バーを直しては跳び続けていた。
「部活かな? 1人でやってるみたいだけど」
 その光景に望は首を傾げた。校庭にいるのは、その少年のみ。
他には見あたらないし、校舎の方も人の気配があまりしない。そのことに疑問に思ったのだ。
「にしても、良く続けられるな。あれ、跳べそうに無いぞ」
 雄介も別な理由で首を傾げている。見る限り少年があのバーを越えるのは無理そうに思えた。
もうちょっとで越えられるというものでは無い。少年のジャンプ力は明らかに高さが足りていない。
それに跳び方が素人目でも少年が高跳びに慣れていないように見えた。
それが雄介がそう判断した理由なのだが――
 一方で麗華はあごに手をやりながら訝しげな顔をする。
何かが引っかかっているのだが、その何かがわからない。故にそれがなんなのかを確かめようとして少年を見つめていた。
「おい」
「え? あ、なんですか?」
 そんな中、士が少年に声を掛ける。少年は戸惑いながらも顔を向けるが――
「お前、何の為に跳ぼうとしている?」
「え?」
 更に来た士の言葉に戸惑いを深めるはめとなった。
実を言えば、少年は高跳びの選手でも無ければ、部活をしている生徒でも無い。
たまたまやってみようと思い立ってやっているにすぎなかった。
「あ、いや、その、俺は――」
「なぜ、越えられないのか。お前はそれを考えたか?」
「え?」
「士?」
 そのことを言おうとした少年だったが、士の言葉に望と共に訝しげな顔をしてしまう。
越えられないのはわかっていた。自分にそれだけの技量が無いのはわかっていたから。
それでも続けたのは諦めたら負けたような気がしてしまい、それが嫌だったからにすぎない。
だから、士に聞かれたように深い考えがあっての行動では無かったのだが――
「お前がやってるのはただの意地だ。別にそれが悪いとは言わない。
だが、それだけを貫くは時として害にしかならない。自分が何をやっているのか? それを良く考えた方がいいぞ」
「あ、待てよ!」
 そのこと言うと士はまたどこかへと歩き出してしまい、そのことに雄介は慌てながら後を追い掛ける。
望や麗華達も訝しげにしながらもその後を追うように去っていくが、言われた少年は見送ることも出来なかった。
なぜなら、士の言葉が少年の心に突き刺さっていたから。だが、なぜそう思うのかはわからないままで――
そして、その光景を2人の少女は別々の場所で見守っていたことにも気付かずにいたのだった。


 さて、フォトショップに戻ろうとしている士達だったが――
「ねぇ、あれってひどくないかな?」
 望がそんなことを言い出す。士の言うこともわからなくはない。
望にもあの少年がただ跳んでいるだけにしか見えなかった。
士はそのことを指摘したのだろうが、それでも言い方があると思ったのだ。
「あれでも足りないと思ってるけどな」
「足りないって……どうしてだよ?」
「見た感じではあるが、あれはこれと思い込んだら脇目もふらずにただそれだけをやり込むタイプだな。
嫌な言い方をすれば、思い込んだら一直線と言ったところか?」
 雄介の疑問に話していた士はどこか呆れた顔をしながら答える。
そのことに望と雄介は顔を顔を引きつらせるものの、逆に麗華はどこか納得といった顔をしている。
「確かに。しかも、あれはわかってやってるようにも見えたな」
「ああ……たぶんだが、あれは高飛び以外でも同じことをしてるかもしれない。だとすると、やばいか?」
 麗華の言葉にうなずきつつも、そのことに気付いた士。
すでにフォトショップにたどり着いていたが、士は立ち止まって何かを考え――
「悪い、あいつに会ってくる。どうにも気になってな」
「あ、士!」
 そう言って、ガレージに向かう士。声を掛けた雄介は望達と一緒に慌てて追いかける。
で、ガレージにたどり着いた士はシャッターを開け――
「なるほど、ライダーが増えればこいつも増えるか」
「え? 何が?」
 呆れた顔をする士を気にしつつもガレージを覗く雄介。その先にあったのは士と自分のバイクの他にもう1台。
どこか奇抜なデザインの青いオンロードタイプのバイクが置かれていたのだった。


 あの後、少年は片付けを済ませてから帰宅の途についていた。
彼の名は衛宮 士郎(えみや しろう)。ある目標を掲げる少年なのだが、今はあることで考えがいっぱいだった。
それは士に言われたこと。初めて会った人にいきなりあんなことを言われたこともある。
だが、なぜか自分の何かを指摘しているようにも思える。
士郎はそれがなんなのかを考えていたのだが、どうしても答えが見つからない。
「あら? あの人は確か――」
 そんな士郎を偶然にも見かけた少女がいる。少女の名は遠坂 凛(とおさか りん)
黒髪をツインテールにしており、どこか優雅な雰囲気を漂わせる美少女と言っても過言ではない顔立ちをしている。
凛は他校の生徒なのだが用事であの学校へと着ていて、士郎の高飛びはその時に見ていた
その時、士郎がとても綺麗だと思った。あの高飛びはどう考えても跳べないと思った。
自分なら、それがわかっていたらまずやらない。だって、意味が無いから。
なのに、士郎はそれがわかっているはずなのにやり続けた。
それがなぜか、綺麗だと思えて……羨ましいと感じてしまう。
「あの人は――」
 時を同じくして、同じく士郎を見かけたもう1人の少女がいた。少女の名は間桐 桜(まとう さくら)
腰まで伸びる艶やかな紫色の髪を持つ、どこか儚げな雰囲気を持つ美少女であった。
桜もまた学校で士郎を見ていたが、それはとても複雑な心境であった。
諦めてしまえと思っていた。諦めず、心が折れない人がいないなんて思いたくなかった。
だって、自分は……だから、士郎が挫折することを思わず望んでしまう。
でも、同時に士郎のことが危なげなあまり心配していることにも気付いて、そう考えてしまった自分を恥じてしまう。
 この時の3人は知る由も無いが、本来ならこの3人が交わるのはまだ先の話だった。
しかし、ある出来事が3人の運命を交わらせた。それは――
「え?」「な!?」「え……」
 3人の前に現れたのは異形の姿をした物達。いわゆる怪人だった。
士郎の前に現れたのは牛。凛の前に現れたのは鳥。桜の前に現れたのは羊。
それぞれ、それらを象った姿をした怪人達であった。それらが目の前に現れたことに3人は思わず後ずさり――
「「「あ」」」
 それぞれの背中が触れあったことで自分達の存在に気付く。
それで3人は互いの顔を戸惑いながら見合い……なぜか、凛と桜は複雑そうな顔をしていたが。
「ねぇ……あれ、何に見える?」
「わからない。でも、ただ事じゃない気がする」
 戸惑いを見せながらも、凛は落ち着いた様子で問いかける。
もっとも、内心はひどく困惑していたが。というのも、怪人が冗談の類でないのがわかったからだ。
凛は『一般には秘匿される存在』の1人であり、それによって怪人達の異常性にいち早く気付いたのである。
それに対し、士郎は怪人達を見据えながら答えていた。彼もまた混乱している。
実を言えば逃げ出したかった。でも、それは出来ない。だって、彼はある者を目指す者だから。
「ここは俺が何とかする! 君達は逃げろ!」
「そ、そんな!?」
「馬鹿言わないで!? あなたも一緒に逃げなさい!?」
 士郎の言葉に桜は狼狽し、凛は慌てたように叫んでしまう。
怪人達は明らかに異常だ。今は近付いてくるだけだが、どう見ても友好的には見えない。
それに『一般には秘匿された存在』である凛から見ても、怪人達が人以上の強さを持つのがわかる。
無理な高さだったとはいえ、高飛びを跳べなかった士郎が怪人達に敵うなんて思えない。
最悪、自分が『秘匿されるべき力』を行使してでも逃げるべきかと凛は考えていたのだ。
後々問題になるが、ここで死ぬよりは遙かにマシなのだから。
 狼狽していた桜は士郎の言葉が信じられなかった。桜から見て、怪人達は畏怖の存在に思えた。
なぜなら、自分に様々なことをする『あの人』の雰囲気とどことなく似ていたから――
だから、敵うはずが無い。そう思うのに士郎はそんなことが言えるのか、それがわからなかった。
「いいから、早く逃げろ!」
「だけど、って、え?」「な、なに?」
 士郎が叫んだ時だった。爆音が聞こえたかと思うと、3台のバイクが士郎達の周りに止まる。
そのことに怪人達は思わず立ち止まり、凛と桜はいきなりのことに困惑してしまう。
士郎もいきなりのことに困惑する中、バイクに乗っていた1人がヘルメットを外していた。
「やれやれ、気になって戻ってみたら、妙なことになってるな」
 それは校庭で声を掛けた士であった。その後ろでは相乗りしていた望もヘルメットを脱ぎながらバイクを降りている。
「どうするんだ、士?」
「ま、あっちは明らかにやる気みたいだしな。相手をした方がいいだろ」
「そうだな」
 同じくヘルメットを脱ぐ雄介に、バイクから降りつつ呆れた様子で答える士。
見れば怪人達は明らかに構えていた。その様子に新しく現れた青いバイクに乗る麗華がヘルメットを脱いでからうなずく。
その後ろでは慣れない様子でヘルメットを脱いでいる麗葉の姿もあったが。
「そういうわけだから、お前達はどっか隠れててくれ」
「で、でも――」
「言っておくが――」
 言われて反論しようとした士郎だが、言い出した士はそんな彼の額に人差し指を当て――
「自分が犠牲になっても、なんて考えは馬鹿のすることだ。2人を助けたきゃ、一緒に必死扱いて逃げた方がいい」
「え?」
 士のその言葉に士郎は思わず固まる。なぜなら、今言われたことはまさに自分がしようと思ったことだった。
自分を囮にして凛と桜を逃そうと考えていた。でも、それがなぜ馬鹿な考えなのか、士郎はわからない。
その間に士、雄介、麗華、麗葉は士郎達の前に立ち――
「「「へ!?」」」
 麗葉が額にカードを当てたことでその姿が消え、持っていたカードが麗華の手に飛んでいくという光景に思わず目を疑う士郎達。
その間に士、雄介、麗華はそれぞれベルトを装着し――
「「「変身!!」」」
『仮面ライド――ディケイド!!』『ターンアップ』
 かけ声と共に士はカードをベルトにセットし、雄介はベルトサイドに付いたボタンを押し、麗華はベルトのレバーを引く。
うなる合成音や電子音。直後、士と雄介の姿が変わり、麗華も自分の前に現れたエネルギーフィールドを突き破ることでその姿を変える。
「はい!?」「え、ええ!?」
 その光景に凛と桜は驚愕していた。怪人達が現れたかと思ったら、今度は士達の変身。
あまりに予想外すぎて理解が追いつかない。一方で士郎はその光景を食い入るように見つめていた。
凛や桜程ではないにしろ、彼自身も今のは驚いている。でも、それ以上に感激していた。
だって、今の士達の姿は自分が目指そうとしている者に見えたから――
「望はそいつらと一緒に隠れててくれ」
「わかった。さ、早くこっちに」
 両手を叩きながら声を掛ける士に、望はうなずいてから士郎達を連れて離れようとした。
士が戦うのは未だに納得がいかないし、戦って欲しくもない。だが、同時に士の決意の固さにも気付いている。
だったら、せめて邪魔にならないようにしよう。自分には戦う力はないから――
雄介や麗華達を羨ましく思いつつも、その考えからの行動であった。
そんな望に凛達は困惑しながら連れられていくのだが。
「ほら、あなたも来なさい!」
「あ、待ってくれ!?」
 士郎だけはその場を動こうとはしなかったが、凛に引っ張られる形で連れて行かれるのであった。
なお、士郎が動かなかったのは戦いを見ようとしたからだが、そんな彼を士はどこか睨むような感じで見ていた。
「は!」「てやぁ!」
 そんな中で戦いは始まる。麗華は剣で斬りかかり、雄介も飛びかかっていく。
士も牛の姿をした怪人と素手で戦っていたのだが――
「ぐおぉぉぉぉ!!」
「く、流石に見た目通りに馬鹿力ってわけか」
 牛の怪人の力に押され気味になる。かといって、別の怪人と戦っている雄介と麗華の援護を期待するわけにもいかない。
「じゃ、力比べと行こうか」
 そう言いながら左腰にあるケースから1枚のカードを取り出し――
「変身!」
『仮面ライド――キバ!!』
 ベルトにカードをセットすると、合成音と共にその姿が変わっていく。
変化が終わると士は赤い体にどこかコウモリを思わせるようなライダーへと姿を変えていた。
ファンガイアと呼ばれる種族と戦った仮面ライダーキバである。
「士の姿が……」
『すご〜い』
 その士の更なる変身を知らなかった麗華は思わず動きを止めて見てしまう。士郎や凛達は驚きの表情を見せていたが。
麗葉もその光景に思わず感心していたが、士の動きはそれだけではなかった。
カードから更にもう1枚のカードを取り出してベルトにセットし――
『フォームライド――キバ、ドッガ!』
 合成音と共にその姿が更に変わっていく。
キバのままなのだが、赤かった体は紫の鎧に包まれたような物へと変わっている。
また、黄色かった目も紫へと変色しており、手には長い柄に拳のような形の紫のハンマーが握られている。
「ぐおぉぉぉ!!」
「ふん!」
「ぐおお!?」
 そんな士に牛の怪人が突っ込んでくるが、士はハンマーで殴ることで突進を止めた。
「よっしゃ、俺も! 望ちゃん! スティックをお願い!」
「え? あ、うん!」
 その士の姿にあることを思いついた雄介は声を掛け、掛けられた望は戸惑いながらも雄介のバイクの右のハンドルを抜き、それを投げ渡した。
ちなみに雄介のバイクの右ハンドルは抜くことで警棒のように使え、更にはバイクのキー代わりにもなっていたりする。
「超変身!」
 そのスティックを受け取った雄介が構えながらかけ声を上げると、その体が変化する。
引き締まった肉体のような上半身が縁に紫のラインがはしる鋼色の鎧のような物に変わり、目の色も紫へと変わる。
そして、持っていたスティックが一瞬かすんだかと思うと剣へと姿を変え、その刀身を伸ばしていた。
「があぁ!!」
 そんなことに構わずに羊の怪人は襲いかかるが――
「がぁ!?」
「おりゃあ!」
「ごがぁ!?」
 打ち込んだ拳が雄介の体にあっさりと弾かれ、更に殴り飛ばされてしまう。
「2人とも姿を変えることで力や戦い方を変えるのか。少し羨ましい限り、だな!」
「がぁ!?」
 一方、鳥の怪人と戦う麗華だが、少しばかり苦戦を強いられていた。
なにしろ、相手は鳥だけに空を飛ぶ。武器が剣しかない麗華では攻撃は当然届かないし、跳んだとしても逃げられてしまう。
幸いなのは鳥の怪人が飛び道具の類を持っていないらしく、接近して爪で切り裂くといった攻撃しかしてこないことだ。
その時に斬ろうと攻撃を仕掛けるが、鳥の怪人の攻撃も避けなければならないのでまともに当てることが出来ない。
状況から見ても一方的に攻められている麗華。攻めに転じたいが、その方法が見つからずにいたのだが――
『お姉様。あれならば――』
「なるほど。助かった、麗葉!」
 麗葉の助言にうなずくと剣の柄に納められたケースを広げ、そこから2枚のカードを引き抜き――
『スラッシュ――マッハ――』
 2枚のカードを剣の柄にスラッシュすると、一瞬だけ光に包まれた麗華は気を込めた剣を構え――
「きえぇぇぇ!!」
「はぁ!!」
 再び襲いかかってくる鳥の怪人の上を目にも止まらぬ速さで飛び抜け――
「ぎゃあぁぁぁぁ!!?」
 それと共に鳥の怪人の片方の翼を切り落としていた。その光景を見ていた凛は訝しげな顔をする。
士達の変身は訳がわからないものの、麗華が見せた力には見覚えがあったからだ。
そう、あれは自分達と同じ――
 一方で士郎はその光景を羨望の眼差しで見守っていた。
なぜなら、士達の姿は自分が望んでやまない者にしか見えなかったのだから。
 逆に怯えた目で見ていたのは桜だ。桜は士達がなぜ戦えるのかわからなかった。
桜でもあの怪人達が普通では無いのはわかるし、見ているだけでも怖い。
それなのに、士達は臆することなく戦っている。そのことが桜には信じられなかった。
自分には出来ないことが出来ることに――
「はぁ!」
「ぐおぉ!?」
 そんな中、士は持っていたハンマーで牛の怪人を殴り飛ばすとディケイドの姿へと戻り――
『ファイナルアタックライド――ディ・ディ・ディ・ディケイド!!』
「は!」
 ベルトにカードをセットさせ、合成音が響くと共に何枚ものエネルギーフィールドが牛の怪人へと導くように並んでいく。
その直後、士は天高く跳び上がると同時にエネルギーフィールドも士と牛の怪人を繋ぐように動き――
「はあぁぁぁぁ!!」
 かけ声と共に士は右足を突き出し、エネルギーフィールドを突き破る形で突っ込み、加速していく。
「はあぁ!!」
「があぁぁぁぁ!!?」
 そして、跳び蹴りの形で右足を打ち込むと牛の怪人は大きく吹っ飛び、地面に落ちると共に爆発してしまったのだった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!?」「ぐおぉぉぉぉ!!?」
 それから少し遅れて、鳥と羊の怪人も雄介と望の手によって倒され、爆発していった。
「ふぅ〜。倒せて良かった」
「ああ、そうだな」
「みんな、お疲れ様」
 一息吐く雄介に麗華がうなずくと共に変身を解いて麗葉と共に元の姿へと戻り、そんな彼らに望が笑顔で駆け寄る。
士も元の姿に戻るのだが、なぜか訝しげな顔をする。というのも――
(おかしい、数が少なすぎる。この世界はそれほど重要では無いということか? それとも――)
 そんな疑問を感じていた。今までの戦いを考えると、怪人の数が少なすぎた。
今回はそうしたということも考えられるが、士はそのことがどうしても気になってしまう。
「ちょっと……あんた達、何者なのよ?」
 と、そんな声が聞こえて士達は顔を向ける。その先にいたのは凛。
しかし、先程まで感じられた優雅な雰囲気は無く、ただ突き刺すような視線で睨み付けていた。


 その頃――
人気の無い道をパーマが掛かったような色が抜けた黒髪を揺らしつつ歩く、それなりに整った顔立ちの少年がいた。
どこかの学校の制服を着ている少年はどこか憂いそうな表情で歩き続けていたのだが、自分の前に人がいることに気付いて立ち止まってしまう。
そこにいたのはつば付きの灰色の帽子に同色のコートを纏った男性と思しき者であった。
間桐 慎二(まとう しんじ)……だな?」
「え?」
 自分の名を呼ばれた少年こと間桐 慎二は訝しげな顔をする。少なくとも男性に見覚えは無い。
そんな者がなぜ自分を知っているのか? それ故に警戒していたのだが――
「手伝ってもらうぞ。この世界を我らの物とする為に」
「な、何を、え?」
 男性の言葉に警戒を強めて思わず後ずさる慎二だったが、額に不意に受けた衝撃に思わず視線を向けてしまう。
そこにあったのは黒く細長い立方体状の物体。この頃の慎二は知りもしないが、一般的にUSBメモリと言われている物に似ていた。
良く見るとそれがどこか禍々しいデザインをしており、表面にはTと思しき刻印がされている。
『テラー』
「え? あ、あ、あ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
 低い合成音が聞こえたかと思うと、そのメモリが慎二の額に吸い込まれるかのように入っていく。
そのことに慎二は驚くが、直後に体と頭に走る激痛に思わず両手で頭を抱え、悲鳴を上げながら膝まついてしまう。
「ふふふ……ははははははははは――」
 そんな彼を見てか、男性は笑い出していた。なぜなら、自分達の計画が動き出したのだから――


「そういや、自己紹介がまだだったな。俺は門矢 士。通りすがりの仮面ライダーだ。覚えといてくれ」
「仮面、ライダー?」
 凛の問い掛けに士は笑みを浮かべながら人差し指を立てつつ答える。
しかし、その言葉の意味を知らない士郎はただ首を傾げるしかなく、凛と桜は訝しげな顔をするだけであった。




 あとがき
士達が次にやってきたのはFate/stay nightの物語が始まる数年前。そこでまだ幼い士郎、凛、桜と出会いました。
その士郎に何かを感じる士。果たして、この出会いはどんなものになるのか――
ちなみになんでこの頃を選んだかは……ノリです。いや、私が書いてるのってほぼノリなんですが^^;
次回は士郎達と話し合う士達。その話し合いである存在を知って呆れてしまいますが――
どんなことかは次回で。では、またお会いしましょう。



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