次の日の朝。士はこめかみを引きつらせながらもため息を吐いていた。
というのも――
「お前ら……狙われてるという自覚はあるのか?」
「じっとしてるなんてのは性に合わなかったのよ」
「えっと、俺も……そんな感じです」
 士のツッコミに凛は胸を張りながら、士郎はすまなそうに頭を掻きながら答えた。
実は士達が士郎達を迎えに行くことになっていたのだが、その前に士郎と凛が来てしまったのである。
士郎達は今日は休日だそうだが、だからといって気軽に出歩いて欲しくは無い。
いくら麗華から身を守るための札をもらってるとはいえ、無謀とも言えなくない行為なのだ。
それ故に士はこめかみを引きつらせていたのである。
「でも、桜ちゃんは?」
「さぁ? 私はまっすぐここへ来たから」
「俺もです」
「どのみち、迎えに行かなきゃならないわけか」
 桜がいないことに気付いた雄介が問い掛けるものの、凛と士郎は首を傾げるだけであった。
そのことに士はため息をまた吐くこととなったが。
まぁ、朝食もすでに終えていたので、叶を除く全員で迎えに行ったのだが――
「あれ? 出てこないな?」
 桜の家の門の所で雄介がそのことに首を傾げる。
というのも呼び鈴を鳴らしているのだが、誰かが出てくる様子が無い。
呼び鈴が壊れてるのかと最初は思ったのだが――
「あれ? 開いたよ?」
 麗葉が押すと門は簡単に開き、このことに士と麗華の視線が鋭くなる。
「あ、士! 麗華さんも!」
「ちょっと、どうしたのよ?」
 門を押し開けて中に入る士と麗華に望は驚き、凛は訝しげな顔をする。
しかし、2人はそれには構わずに玄関も勝手に開けてしまった。
「お、おい、何をやって――」
「どう思う?」
「人の気配がしない……やられたか?」
「え?」
 雄介がそのことに戸惑うが、士と麗華のやりとりに士郎が目を見開く。
その会話から連想されること。それは――
「まさか、あの子――」
「一応、確かめた方が良さそうだな。とりあえず、家の中を探してみるぞ」
「は、はい!」
 凛も困惑の表情を浮かべる中、士の言葉に士郎も戸惑いながらもうなずく。
最悪の事態かもしれないが、それでも色んな可能性を考えて調べる必要はあった。
そんなわけでみんなで桜の家を調べ回ってみるが――
「いた?」
「どこにも……でも、何か起きたようには見えないけど……」
 雄介の問い掛けに望は首を横に振りながら答えた。
望の言うとおり、家の中には誰もいなかった。桜が言っていた兄や祖父の姿も。
それに家の中を見る限り、荒らされたような形跡は見られなかった。
そのことに望や祐介は不思議に思うのだが――
「おい、こっち来てくれ」
「士? なんだろ?」
「さぁ?」
 士の声に首を傾げる雄介と望だったが、確かめるために声が聞こえた方へと向かってみた。
2人がたどり着くと他の者達も来ていて、士が見ているものに顔を向けている。
「何かあったの?」
「明らかに怪しい物がな」
「これは……たぶん、工房よ」
「工房?」
 望の問い掛けに士がそれに顔を向けたまま答える。
士が顔を向ける先にあったのは地下室と思われる場所へと続く、石造りの階段だった。
それを見た凛が断言するが、麗葉は意味がわからずに首を傾げてしまう。
「大抵の魔術師は工房、大雑把に言うと魔術を研究したりする場所のことだけど、そういうのを持ってるわ。
それに桜の祖父には直接会ったことは無いけど、魔術師らしいわ。だから、工房を持っていたとしても不思議ではないわね」
「え? じゃあ、桜も魔術師なのか?」
「たぶん……ね」
 少し驚いたような顔をする士郎の問い掛けに、話していた凜はどこか重苦しい雰囲気を漂わせながらうなずく。
わかってはいたことだった。でも、凛としてはあまり考えたくないことでもあった。
桜にはある事情があるのわかってはいる。それでもその事情に囚われず、普通に生きて欲しいとも思っていたのだ。
「なんで、そんなことを言わなかったんだ?」
「そう、ほいほい話すことでもないからよ、って、あんた何やってんのよ!?」
 麗華の問い掛けに凛は答えるのだが、次に見た光景に思わず慌ててしまう。
というのも、士が地下室に下りようとしていたからだ。
「念の為に調べるんだよ」
「待ちなさい!? 魔術師の工房は一種の要塞みたいな物なのよ!
自分の魔術を他に漏れないようにするために、様々な魔術的なトラップを仕掛けてるの! 下手すると死ぬわよ!」
「だとしても、どのみち調べない訳にはいかないさ」
 凛が興奮した様子で止めようとするが、答えた士はそう言いながら階段をどんどん下りていく。
それを聞いた他の者達は戸惑いながら互いの顔を見てしまう。
しかし、しばらくしても下りて行った士に何か起きた様子が無いようだったので、恐る恐る階段を下りる事にしたのだった。
「魔術の施錠やトラップが無いなんて……どうなってるの?」
「にしても、なんなんだこの臭い?」
 何事も無く全員石造りの部屋にたどり着くが、そこには何も無かった。
ただ、不快な臭いが充満しており、雄介や望、麗葉が顔をしかめていたが。
一方で凛は何事も無くこの部屋に来れたことに疑問に感じていた。
石造りの部屋という意外は何も無い所だが、凛はここが何かしらの工房であると確信している。
凛には少しながら魔術的な物がこの部屋から感じ取られたからだ。
だとすると、外部からの侵入を防ぐ魔術的なモノが施されてるはずだが、それらしい物は無かった。
そのことに首を傾げたのだが――
「何をやってたかはわからんが、ろくでもなさそうだな」
「それは……否定出来ないわね」
 ため息を吐く士に凛は何かを言いかけて、思わず肯定してしまう。
魔術師には非情な面がある。時には人体を用いた実験をいとわない者さえいるのだ。
そういうのもあるので、凛としてはその辺りのことが否定しづらかった。
「となると、奴らの狙いは最初から桜か?」
「どういう事ですか!?」
「言った通りだよ。ま、俺の考えだから、当たってるかどうかはわからないがな」
「しかし、どうして凛と士郎までも狙われたのだ?」
「さぁな? 偶然か、俺達を攪乱するためか……どのみち、桜が奴らに連れさらわれたと思っていいだろう」
 それを聞いて慌てる士郎に、思わず漏らした士が答える。
麗華の疑問に答えた通り、凛と士郎が狙われたのはその場に偶然いたとも思えるし、士達を混乱させるためとも考えられる。
もっとも、桜がさらわれた可能性は高いので、じっとしてるわけにはいかないが。
「だったら、早く助けに行かないと!?」
「けどな、どこに連れていかれたのかわからないんだぞ? 探すにしても闇雲ってわけにもいかないな」
 慌てる士郎をなだめるかのように、士は静かに答えた。
確かに桜がどこへ連れていかれたのかがわからないし、探すにしても手掛かりが全く無い。
この状況では手当たり次第になるのだろうが時間が掛かりすぎてしまう。
未だに怪人達の目的がわからない状況では、それは致命的にもなりかねなかった。
どうしたものかと誰もが考える……そんな時であった。


「なんだ?」
 ある教会の中で、1人の神父は何かに気付いて振り返る。
この神父の名は言峰 綺礼(ことみね きれい)この教会の神父なのだが、同時にある存在でもある。
今はあえてどんな存在なのかは割愛するが、彼はそれ故に『ある物』の存在の動きをある程度把握することが出来た。
「『聖杯』が発動した? しかし、これは――」
 綺礼が『聖杯』と呼ぶ物の動きに首を傾げる。
綺礼自身、『聖杯』が発動するのはまだ先のことだと思っていた。
確かに早まる可能性はあったものの、それでもいくばかの時間を要すると見ていたのだ。
しかし、それに反して『聖杯』は発動した。それに発動の仕方もおかしかった。
「始まる気配が無いだと?」
 そのことに綺礼はいぶかしむ。『聖杯』は発動してから、ある手順を踏むことでその真価を発揮する。
だが、綺礼が感じる限り、その手順が行われる気配が感じられない。これではまるで――
「『聖杯』が解放されようとしている?」
 『聖杯』が内に秘める力を解き放とうとしているように思えてならない。
このことに綺礼はどうするべきかを考える。普通ならば何が起きているのかを知るためにすぐさま調査を行うものだが――
綺礼は嘲るような笑みを浮かべる。『聖杯』の完全発動は綺礼が望んでいたことだ。
どんな形であれ、それが成されるのなら綺礼としては別に構わなかった。
なにしろ、それは『聖杯』の中にいる『あれ』が生まれ出でることも意味するのだから。
例え、そうならなかったとしても別の機会を待てばいいだけのこと。
どのみち、今は様子を見てから後のことを考えよう。綺礼はそう考えたのである。
だから、綺礼は気付かない。その判断で後悔することになるかもしれないことに。
なぜなら、『聖杯』がある場所には自分が望む物を別な形で見れたかもしれないのだから――


「な、なにこれ!?」
「こ、これは!?」
「な、なんなのよ、これは!?」
 一方、士達の所でも麗葉、麗華、凛がその異常を感じ取っていた。
「やばそうな感じがするんだが、何が起きてるかわかるのか?」
「良くは、わかんない……でも……良くない物が凄く集まってる感じがするの……」
「ああ……人の悪意のような物が感じられる……しかし、これはあまりにも異常すぎる!」
 気配で危険な事が起きていると感じている士が問い掛けると麗葉は怯えた様子で、麗華は困惑した様子で答えていた。
この様子に雄介、望、士郎は戸惑ってしまう。士郎は違和感こそ感じているが、後の2人は士の言うような気配を感じることが無かったからだ。
「結局はやばそうなことを起きるということか。それがどこだかわかるか?」
「ええ……幸い、これ見よがしに魔力を垂れ流してくれてるから、場所の特定は簡単よ。
まったく、どこの誰だか知らないけど、なめた真似をしてくれるわ」
 その様子に士はため息を吐きながらも問い掛け、それに凛が忌々しそうな顔をしながら答える。
それを見て、士は再びため息を吐くはめになったが。
「このままってわけにもいかないだろうから、まずはそっちに行ってみるか」
「で、でも、桜はどうするんですか?」
「もしかしたら、何かが起きてる場所にいるかもしれん」
「どうしてだよ?」
「桜がいなくなったのと凜達が言ってること。偶然にしちゃ出来すぎてるって気がするのは俺だけか?」
 話を聞いて戸惑う士郎に答えてから首を傾げる雄介に話していた士はそう答える。
もっとも、聞いていた士郎達は困惑した様子で互いの顔を見つめ合っていたが。
桜がいなくなったことと、凛や麗華と麗葉が言う異常。その2つが狙ったかのようなタイミングで起きている。
偶然と言えばそれまでだが、士としてはそうは思えなかったのだ。
「とりあえず、みんなで何かが起きている場所に向かおう。
で、そこの様子を見て桜がいなかったら、異常を調べる奴らと桜を探す奴らとで別れて行動する。もっとも、その余裕があったらの話だけどな」
 ため息混じりに士はそのような提案をするが、内心別れて行動するのはほぼ無理だろうと考えていた。
なにしろ、この事態を起こしているのは怪人達の可能性が高い。そして、怪人達は強い。
止めようと思っても、怪人達の妨害で簡単に行かないのは目に見えていた。
「で、でも――」
「言っとくが桜を見捨てる訳じゃない。いるかもしれないからそこに行くんだ。
それに今の状況だと、バラバラに行動するのは危険しかない。悪いが、一緒に来てもらうぞ」
 それでも不満そうな顔をする士郎に士は真剣な眼差しで答えた。
行く先に桜がいない可能性もあったが、それを言ってしまうと士郎が1人で探しに行こうとするかもしれない。
怪人達の狙いがわからない状況では士郎を1人にさせるのは危険でしか無いために、仕方なくその辺りをぼかして答えるしかなかったのである。
もっとも、凛はそのことに気付いたのか、士を睨んでいたが。
「ともかく、急いだ方が良さそうだし、バイクで行くか」
「バイクでって、バイクはフォトショップあるんだぞ。急ぐんなら、そのまま向かった方が良くないか?」
 士の提案に雄介が待ったを掛けるようにそう反論した。桜の家からフォトショップまでは大体10分程掛かる。
急ぐ必要があるなら、バイクを取りに戻るより直接向かった方が早いのではと雄介は思ったのだ。
「カードに念じればバイクを呼べるはずだ」
「そうなのか?」
「しかし、人数を考えると1人余ってしまうぞ? それは流石にまずくないか?」
 しかし、思いがけない方法を士から聞いて雄介は感心したような顔をするが、その横で麗華は眉を潜めながらそんな指摘をしていた。
士達は7人。バイクは3台。1台に付き2人乗るにしても、どうしても1人余ってしまう。
かといって1台に3人も乗るのは法律的にアウトなので、下手をすれば警察のお世話になる可能性もあった。
「まぁ、なんとか誤魔化す方法があればいいんだが――」
「しょうがないわね。こういう事に魔術は使いたくはないんだけど……」
「悪い、頼むわ」
 呆れた様子で話す凜に、方法を考えていた士は軽く頭を下げていた。
そんなわけでバイクを呼び出した士達は凛の認識阻害の魔術を施された後、凛や麗華達が感じた魔力の元へと向かうのだった。


 そうしてたどり着いた場所は柳洞寺と呼ばれる寺。
といっても、敷地内にバイクで入るわけにはいかないので、バイクを置ける場所に置いてから向かう事になったが。
中に入り、魔力が感じられる場所へと向かうと洞窟らしき入口へと辿り着く。
望が不安そうな顔をしたものの入らないわけにもいかないので、結局全員で洞窟の中に入ることにした。
「なんだ……これは……」
「う……」
 洞窟の暗い中を士が持っていた携帯のライトで照らしつつ奥へと進むと、怪しげな光に満たされた広い場所に出た。
なお、全くの余談だが、士の携帯は士郎や凛から見ると凄い物だったので、軽く驚いていたりする。
ともかく、その場所にたどり着くと麗華と凛は眉を潜めてしまう。
というのも、その場に満たされた魔力があまりにも濃密で、それでいて不快な感じを受けたからだ。
そのせいで麗葉も怯えた様子で麗華の背後に隠れてしまっている。
「さて、見るからに怪しい所に来たが――」
「やはり、来ましたか」
 辺りを見回していた士だが、聞こえてきた声の方に顔を向ける。
他の者達もそこへ顔を向けると、帽子とコートを纏った男と見知らぬ青年がそこに立っていた。
「あんたらは何者だ?」
「そうですね……あなた方が今まで倒してきた者達の同類……といった所でしょうか? 隣にいる慎二君は違いますがね」
「同類ね……ようやく、普通に話せるのと出会えたな」
 コートの男の返事に問い掛けた士は呆れたように肩をすくめる。
しかし、士郎と凛を除く全員の体がこわばる。なぜなら、コートの男の言葉を信じるなら、男も怪人ということになるからだ。
「で、でも……どう見ても人……だよね?」
「人の姿になれるんだろ?」
 怯えながらも疑問に感じていた望に士はため息混じりに答えた。
しかし、それでも望は納得がいかない。だって――
「本当に……本当に怪人の仲間なの? だったら答えて。なんで……なんで、世界を壊そうとするの?」
 望は思わずそんなことを問い掛けていた。疑問だった。世界を滅ぼすということが。
なぜ、そんなことをするのか? それが望にとって疑問だったのだ。
「だって、邪魔じゃないですか」
「え?」
 それに対し、コートの男は何を言ってるんだと言わんばかりに答える。
あまりの呆気ない返事に望は一瞬呆けてしまったが。
「邪魔なんですよ。私達が世界を支配するためには人や物、文明、それら全てが。だから滅ぼし、無かった事にするんですよ」
「え? あ、え?」
「まったく、普通に話せると思ったが……まともに話し合うのは期待しない方が良さそうだな」
「そうだな」
 まるで当然と言わんばかりに話すコートの男だが、望は戸惑いを見せることしか出来なかった。
理解出来なかったのだ。邪魔だから滅ぼす。ただそれだけの理由に。
一方で呆れたようにため息を吐きながらもベルトを装着する士の言葉に、麗華は同意しながらカードを構えていた。
「お、おい、士――」
「雄介、こいつらは俺達がどうこう言おうと簡単に考えを変える気は無いと思うぞ。
それとも何か? 黙ってこいつらに殺されるつもりか?」
「く……」
 コートの男を睨む士の言葉に戸惑いを見せていた雄介は悔しそうな顔をする。
雄介が戦う理由は誰かが傷付いて欲しくない為だ。その為には必ずしも戦う必要は無いと考えていた。
少なくとも雄介自身はそう考えていたのだ。
「俺だって、出来れば戦いたくは無いけどな。黙っていたって、あいつらはとんでもないことやらかすつもりだぞ?」
「ああ……そうだな!」
 士の言葉に雄介は決意を秘めた顔でカードを構えた。雄介もわかってはいた。コートの男はやると言ったらやると。
それがとんでもないことであり、どのようなことをしても止めなければいけないのはわかってもいる。
その一方で、どうにかして穏便に止められないかとも思ってしまったのだ。
だが、コートの男はそんな雄介の想いなぞ無視してやってしまうだろう。
それがわかったからこそ、雄介はどんなことをしてでも止めようと決意したのである。
「やるのですか? 私達と」
「お前らが世界を壊すとかそういうのをやめてくれるなら、俺達も帰るんだけどな」
「やめる必要がありませんね。だって、邪魔なんですから」
「そういうのは俺としては困るんでな。止めさせてもらうぞ」
『仮面ライド――』
 士の返事に問い掛けた男は不敵な笑みを浮かべながら答える。
それを聞いた士は男を睨みながらベルトにカードをセットし――
「変身!!」
『ディケイド!!』
「「変身!!」」
『ターンアップ』
 変身すると、後を追うように麗華と雄介も変身した。
「ふふふ、ここにのこのこと現れたことを後悔させてあげましょう。慎二さん」
「ああ」
『テラー』
 その様子をなぜか笑いながら見ていたコートの男は慎二に声を掛けると、その顔に変化が現れた。
まるでステンドグラスのような模様が現れたのだ。しかも、変化はそれだけではない。
その模様が全身を包んだかと思うと、体の至る所にステンドグラスのような模様を持つクモのような怪人の姿になったのだ。
慎二も額にメモリを刺し、どこかの文明と思われる仮面と装束を纏ったような姿へと変わっていた。
その2人は姿を変えると共に、士達へと飛びかかってくる。
「望達は離れてろ」
「う、うん!」
 先程のコートの男――怪人のとのやりとりで戸惑っていた望であったが、士に言われて士郎と凛の手を引っ張って離れていく。
直後に剣となったケースで慎二の突進を受け止める士。雄介と麗華も怪人の突進を受け止めるのだが――
「ふん!」
「つっ! おわっ!?」
 慎二に捕まれた挙句、振り回された上にあっさりと投げ飛ばされる士。
「くっ!?」
「おわっと! なんの!」
 麗華と雄介も同じように弾き飛ばされるが、雄介はなんとか体勢を立て直して飛びかかる。
「かぁ!」
「うわ!?」
 だが、怪人が放った光弾が腹に当り、火花を上げながら吹っ飛び、地面に倒れてしまった。
「うおぉぉぉぉ!!」
「く! くあ!?」
 その間に慎二の猛攻を剣などで受け流していた士であったが、捌ききれずによろめいた所を胸を殴られて火花を散らす。
そのまま突き飛ばされる形で倒れるものの、すぐさま立ち上がろうとしていたが。
「おわぁ!?」「くぅ!?」
 一方で、雄介と麗華も同じように苦戦を強いられていた。
2対1にもかかわらず、怪人はそれがどうしたとばかりの動きを見せたのもある。
だが、それ以前に士達の攻撃が効いていないように思えた。現に攻撃が当たってるはずなのに、動じた様子が無い。
「そんな……士さん達が……」
 その光景に士郎は戸惑いを隠せなかった。
前回の戦いでは多少苦戦はしたものの、それでも怪人を倒してはいた。
しかし、今の様子を見ていると怪人と慎二は前回の怪人よりも別格に思える。
「おりゃ!」
「ふふふ……は!」
「ぐわ!?」
 士に斬られる慎二だが、火花は散るものの傷を負っているようには見えない。
いや、何も無かったかのように立っていて、逆に士を大きく突き飛ばしていた。
そんな圧倒的な強さに士郎もどうすれば良いかわからず、ただ黙ってみているしか出来なかった。
「あ、あれって……桜ちゃん?」
「「え?」」
 が、何かに気付いた望の声に士郎と凛は思わず望が見ている方へと顔を向ける。そこには確かに桜がいた。
ただし、かなり高い位置に浮いた状態でそこにおり、なおかつ艶のある黒い塊に両腕と両足を飲み込まれ、更には気を失った状態で。
「な、なによあれ!?」
「ああ、気付きましたか。彼女は祖父に面白い物を埋め込まれていましてね。
それが私達には都合が良い物でしたので、利用させてもらったのです」
「お前達の強さの秘密は……そういうことか……」
 驚く凛に怪人は自慢げに話し、そのことに麗華が立ち上がりながら舌打ちしそうな雰囲気を出していた。
「どういう……ことよ……」
「さぁ? 私が知るのはそこまでです。実験台か何かにされたのではないのですか?」
「遠坂?」
 震える声で問い掛ける凛に、怪人は肩をすくめて答える。しかし、そんな彼女の様子に士郎は訝しげになる。
良く見れば、悔しさをにじませているようにも見えた。なぜ、凛はそのようなことを聞くのかわからなかったからだ。
一方で凛は悔やんでいた。実を言えば、今まで桜の様子は遠目ながら見守っていたのだ。
時折つらそうな顔を見せるものの、普通の人とは変わらない様子を見せる桜の姿を見て安心していたのだが――
知らなかった。桜がそんなことになっていたなんて。もし、良く話し合えたのなら、何かしらに気付けたのかも知れない。
でも、それは出来無かった。だって、家同士の決まりで桜と会うことすらままならなかったのだから……
姉妹なのに……唯一、血の繋がった……でも、家同士の決まりで出来なくて……話せなくて……
そんなことになってるなんて、気付くことも出来なかった。そんな想いから、凛の中で後悔が渦巻いていく。
「なるほど……つまり、桜をなんとかすりゃ、お前らも何とか出来るってわけか」
「出来るとお思いですか? 言っておきますが、無理矢理引き剥がそうとすれば、彼女の手足を引き千切る事になりますよ?」
「そんな!?」
 立ち上がる士の言葉に怪人が答え、その言葉に士郎は驚く。
すなわち、このままでは桜は助けられないことになる。このことに士郎も悔しさをにじませていた。
どうすればいいのか、本当にわからない。桜を助けたくても、その手段が無いから――
士郎と凛はそう考えていた。そう考えていたのだ。
「関係無いな」
「なに?」
「「え?」」
 しかし、士は剣となったケースを向けながら言葉を返す。
このことに怪人は訝しげに首を傾げ、凛と士郎は戸惑い気味に声を漏らした。
関係無いとはどういうことなのか? まさか、士は……凛と士郎はそう思ったのだが――
「無いわけじゃ無いんだろ? だったら、その方法を探す。見つけたら、その方法でやってみる。簡単だろ?」
「は!? 本当に出来るとお思いなのですか!? あなたは戦う力はおありのようですが、彼女を助ける力があるとでも?」
 あっさりとした様子で答える士の言葉に凛と士郎は驚愕した。
確かに士の言うとおりではある。かといって、言葉で言うほど簡単な物では無い。
怪人もそのことに馬鹿にしたような態度を取っていたが――
「ようはやりようだろ? 方法が1つしかないなんてあり得ないし、絶対なんて物もありえない。
やりようがあるなら、それをやってみるまでだ」
 しかし、士は意に介した様子も無く、剣となったケースを肩に抱えながら答える。
その光景に士郎は思わず眼を見張る。その言葉は士郎にとって天啓を得たような気持ちだった。
もしかして、自分の目指す物がそこにあるかも知れない。そう思えてしまう。
 一方で凛は驚愕する。士が言っていることは無茶苦茶だった。
確かに言わんとすることはわからなくもない。しかし、実行するならば困難を伴う。
それにこの場で桜を助けるなんて無理だ。凛はそう考えていたのだ。
この時、怪人と慎二は自分達の優位から余裕を見せていた。どのみち、士達に勝ち目は無い。
そう確信していたのだ。だから、話に乗って戦いを止めてしまった。
しかし、この場にはいたのだ。桜を助けるきっかけをつかめる者が――
『お兄様! 桜さんの穢れを祓って!』
 麗華の力の核となっている麗葉は気付いたのだ。桜を取り込んでいるのは人々の悪意――穢れだと。
それを祓えれば、桜を助けられる。そう考えて、叫んでいた。
「ふむ、気付きましたか。ですが、それをどうにかすることが出来るのですか?」
 麗葉の叫びにも余裕を見せる怪人。知られた所でどうにも出来ないと考えていたのだ。
確かに麗華と麗葉は退魔の類は出来ない。2人は出来ないが、出来る者はいた。
「なるほど……なら、こいつの出番だ」
 その者である士はケースから1枚のカードを取り出し――
「変身!」
『フォームライド――響鬼、紅!!』
 ベルトにセットすると全身が炎に包まれ――しばらくしてその炎が消えると、その姿を変えていた。
見た目は麗華の呪いを解いた響鬼に見える。しかし、その全身は炎のように真っ赤になっていた。
「姿を変えたからどうだというのです?」
「それは試してみればわかるさ」
 士の変身にも余裕を崩さない怪人に士はケースを腰に戻し、音撃棒を両手に持つ。
しかし、そんな士の姿を見ても怪人は余裕の態度を崩さなかったが。
「わからない人ですね。慎二さん、やってしまいなさい」
「おお!」
 呆れたといった様子の怪人の指示に慎二は突っ込んでいく。
それに対し、士は2本の音撃棒を回転させてから構え――
「はぁ!」
「おぐ!?」
 その2本共を慎二の腹に叩き込み、よろめかせた。
「く、くそ!」
「おっと!」
「ぐお!?」
 それでもすぐさま殴りかかる慎二だが士に躱され、お返しとばかりに頬に叩き込まれた棒にまたもよろめかせた。
「なに?」
 そのことに怪人は訝しげな様子を見せる。
慎二は最高とも言える力を与え、更には桜からの力のバックアップまで与えている。
普通の攻撃では慎二に通じるはずが無いのだが――
 確かに怪人の考えるとおり、普通の攻撃では慎二には通用しなかっただろう。
しかし、慎二の属性が今の士とは相性が悪かった。響鬼は音撃と呼ばれる浄めの音を攻撃として用いる。
これは響鬼が戦っていた相手が、そうしなければ倒すのが難しかったことなどが理由だ。
そして、慎二の力の元となっているのは『テラー』すなわち、恐怖。
人の負の感情とも言われる物だが、それに音撃が効くかは言及は難しい。
しかしながら、音撃は負の要素を持つ相手と戦うために用いられていたのは間違いない。
『テラー』は負の要素を持ち、音撃はそういった相手に有効だった。
今回はそういった要員が重なったことで、士の攻撃が慎二に通じたのである。
「どういうことだ? くっ!」
「私達を忘れてもらっては困る!」
「そうだ!」
 予想外のことに戸惑う怪人であったが、麗華と雄介の猛攻の相手をせざるおえなかった。
「くぅ!? 馬鹿な! ボクは……ボクは力を手に入れたんだぞ!? なのに、なんでこんな雑魚にやられるんだ!?」
「お前、その力のことを考えたことはあるのか?」
「なに!?」
 一転して押され気味になった慎二は信じられないとばかりに怒り狂い、士の言葉に思わず睨み返し――
「力ってのはな、ちゃんと考えて使わないと、他人どころか自分の身も滅ぼす事になるぞ」
「う、うるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!?」
「やれやれ……だな!」
「ぐわあぁぁぁぁ!!?」
 言われて激昂し突っ込んでくる慎二であったが、指摘した士のバットを振るように2本の棒を腹に叩き込まれて吹っ飛び――
「がは!?」
 桜の横にめり込むような形で激突した。その間に士はケースから1枚のカードを取り出し――
『ファイナルアタックライド――ヒ・ヒ・ヒ・響鬼!!』
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ベルトにセットしてから構え――
「はぁ!」
 慎二へと向かい跳び上がる。それと共に慎二と桜の間に炎を象ったマークが浮かび上がり――
「はあ!!」
 それを士は音撃棒で叩く。叩き続ける。まるで祭りばやしの太鼓のように――
「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 その士の行為に慎二は苦しみ、桜を取り込んでいた黒い塊にヒビが入っていく。
わからなかった。直接攻撃されているわけではないのに、何かが失われて体を蝕んでいく。
その感触に慎二は悲鳴を上げずにはいられなかった。
「はぁ!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!?」
 やがて、最後とばかりに士が力強く叩くと慎二は悲鳴と共に体が砕けて元の姿に戻り、桜も黒い塊が砕けたことで落ちようとしていた。
「士郎! 桜を頼む!」
「え? あ、はい!?」
 その光景を凛と望と共に呆然と見ていた士郎であったが、士の叫びに我に返った。
確かにあのままでは桜は落ちてしまう。もっとも、士郎はそれを考える間も無く、駆け出しており――
「おわぁ!?」「う」
 間一髪、倒れながらも桜を受け止めることが出来た。
その間に士は肩に慎二を肩に担いで地面に降り立っており、その慎二の額からメモリが飛び出て砕け散っていたが。
「さてと……士郎、それが人を助けるって事だ」
「え?」
 ふと、慎二をゆっくりと下ろした士の言葉に士郎は訝しげな顔をする。確かに桜を助けたと言えば助けたとも言えなくはない。
だが、自分は落ちてきた彼女を受け止めただけで、直接助けたのは士では無いかと思ったのだが――
「人を助けるってのはな、最初から最後まで面倒を見なけりゃならないのさ。
助けたつもりではいさようなら、なんて後にまた襲われたりとかするかもしれない。今の桜はそういう状態だ」
「あ……」
 士に言われて、士郎は思わず自分の上に被さる桜を見てしまった。
良く理解は出来なかったが怪人の話を聞く限り、桜はひどい目にあっていたようだった。
士の話を聞くと、またそういうことになるのか? と、士郎は考えてしまう。
「まぁ、この後どうなるかなんてはわからないが、少なくとも側で見守ってやれ。
すぐにでも助けれるようにな。それが人を助ける方法の1つだ。
あ、しつこいようだが、だからといって1つにやり方にこだわるのは馬鹿のすることだぞ?
同じようなことに見えてもやり方が違うってのは、どんなことにもあり得ることだからな」
 ディケイドに戻りながら話す士の言葉を、士郎は身を起こしながら聞き入っていた。
士郎はこれまで人を守る、助けることが大事なのだと思っていた。
しかし、士にそれだけではダメなのだと言われ、真剣に考えてしまう。
だって、桜をこの場で助けた人の言葉だったのだから――
「おわ!?」「くぅ!?」
「貴様ぁ!?」
 そんな時、雄介と麗華を突き飛ばした怪人が怒り狂った様子を見せており、そのことに士は体を向けていた。
「貴様! なんてことを! この世界を壊す力を壊しやがって……なんてことしてくれたんだ、この破壊者!?」
「破壊者? 違うな、俺は――」
 怒り狂う怪人に士はケースを銃に組み替えつつ――
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えとけ」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!?」
 右手の人差し指を向けながら答えるが、そのことで更に激昂した怪人は突っ込んできた。
それでも士は慌てた様子も無く、ケースから1枚のカードを取り出してベルトにセットし――
『アタックライド――ブラスト!!』
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
 光弾を連発して怪人に当てるが、怪人は多少よろめきながらも突っ込んでくる。
「ぐあ!?」
 そのまま体当たりしようとした怪人だったが、跳び上がった士に背を蹴られた事で地面に倒れてしまう。
跳んだ士はそのまま雄介と麗華の所に着地し、ケースから2枚のカードを取り出していた。
「さてと、このまま付き合ってやる必要も無いからな。さっさと終わらせるぞ」
「ああ!」「そうだな」
 士の言葉にうなずく雄介と麗華。その後に士は2枚のカードをベルトにセットし――
『ファイナルフォームライド――ク・ク・ク・クウガ!! ブ・ブ・ブ・ブレイド!!』
「「はぁ!?」」
「ん……ん?」
 その光景に士郎と凛は驚愕し、その声で桜は目を覚ました。
まぁ、雄介が人ほどの大きさのクワガタに、麗華は巨大な剣になったのを見たのだから、初めて見る2人が驚いたのも無理もないが。
『ファイナルアタックライド――ク・ク・ク・クウガ!! ブ・ブ・ブ・ブレイド!!』
「は!」
 その間に士は更に2枚のカードをセットしてから巨大な剣となった麗華を手に取り、クワガタとなった雄介の上に乗る。
「行くぞ、雄介、麗華」
「ああ!」「さっさと終わらせてくれ! この体勢はキツいんだ!」
 士が声を掛けると雄介の返事と麗華の訴えが聞こえ、その直後に怪人に向かって飛んでいく。
その勢いは凄まじく、カードの力で光を纏った3人はさながら光の矢となって飛んでいくように見えた。
「く、く、来るなああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 立ち上がった怪人は逃れようとするのだが――
「「「おおりゃあ!!」」」
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 間に合わず、3人のかけ声と共に袈裟斬りされてしまった。
その後、雄介が宙返りすると麗華と共に仮面ライダーの姿に戻って、士共々地面へと着地した。
「く、が……が……ふ、ざける、な……こんなこと、で……我らが目的が……
こんな奴らに……やられるはずが……があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 苦しみながら斬られた傷を手で押さえ、もう片方の手を士達へと向ける怪人。
だが、断末魔と共に倒れ、大きな爆発の中へと消えていくのだった。
「やれやれ、これで終わったかな?」
「そうであって欲しいな。あんな相手と早々戦いたくは無い」
「まったくだ」
 士の言葉に麗華はため息を吐きそうな雰囲気で答え、それに同意するように雄介がうなずく。
そんな3人の様子に望は苦笑していたが。
「なんて……ことしてくれたんだよ……」
「にい……さん……」
 が、聞こえてきた声にみんなが振り返る。
その先にいたのは砕けたメモリの前で膝を付き、うつむいている慎二の姿であった。
その様子に桜が戸惑い気味に声を掛けていたが。
「なんて……ことしたんだ……ボクは……ボクは……魔術師になりたかったのに……」
「なら、なればいいじゃないか」
「なれないんだよ!? ボクには魔術回路が無いんだ!? それが無いボクは魔術師にはなれないんだよ!?」
 士の返事にうつむいていた慎二は顔を上げ、涙を流しながら泣き叫んでいた。
この時の士達は知らなかったのだが、この世界の魔術師には魔術回路という物が備わっている。
それは魔力を生み出す機関であり、魔術を行使するための文字通りの回路となる物なのだ。
しかし、魔術師の家系ながらそれが無い慎二は祖父から無能のレッテルを貼られてしまう。
魔術回路が無い。ただ、それだけで……それが慎二への地獄となっていた。
「魔術回路ってのがなんなのかはわからないが、それが無いと魔術を使えないってわけじゃないだろ?」
「何言ってんのよ!? 魔術回路が無けりゃ、魔術が使えるわけ無いじゃない!?」
 しかし、士はそれがどうしたとばかりに聞いてくるのだが、そのことに凛が怒鳴ってきた。
当然だ。魔術回路が無ければ、魔術は使えない。それは魔術師にとっての常識なのだから。
だが――
「詳しく聞いたわけじゃないが、俺達が前にいた世界の魔法使い達はそんなのが必要だとは言ってなかったぞ」
「「え?」」
「ああ、魔法の発動体……例えば杖とかだが、それがあれば一応使えていたな」
 士から次に出た言葉に凛と慎二は顔を向け、その話に同意するように麗華はうなずいていた。
麗華も魔法はある程度しか知らないが、少なくとも魔術回路が必要であると聞いた覚えはなかったのだ。
「簡単じゃ無いだろうが、そんな物が無くても魔術が使える方法があるかもしれないだろ?」
「で、でも……」
 士の意見に凛は反論しようとして、ふと考えてしまう。
よくよく考えると確かに魔力を持つという点では魔術回路は必ずしも必要では無い。
例えば魔力を込めた物を持つなど、そんな単純な方法でいいのだ。
むろん、その魔力を扱うとなると別問題だが、そういった方法で魔術を使えるかもと考えてしまったのである。
「あるのか? そんな方法が?」
「さてな? 俺達は専門家じゃないし、どうかはわからんよ。でもな、その方法を探してみるのも手だとは思うぞ?」
 士はあっさりと答えるが、問い掛けた慎二は思わず考え込んでしまう。
慎二は魔術師にはなれなかったが、自己的に知識だけは学んでいた。
魔術師になる方法を模索するためだが、結局はそれでは見つけることは出来なかった。
でも、と慎二は考える。それは魔術師を基本にしたからではないか?
魔術という物を調べてみれば、もしかしたら見つかるんじゃないか?
士の言葉でそう思えるようになってきたのだ。
「えっと……あの……終わったのです、か?」
「ん? 一応、な」
 と、慎二達の様子に戸惑いながらも問い掛ける桜に士が雄介や麗華達と共に変身を解きながら答える。
その時、凛がなぜか顔を背けたのを士は見ていたが。
「どうした? 桜に何かあったのか?」
「な、なんでも――」
「無いようには見えないな」
 顔を背けながら答える凛に、問い掛けた士は呆れた様子でため息を吐いていた。
今の凛の様子を見れば、何かあると言ってるような物だからだ。
「そういや、昨日からお前さん、桜を気に掛けていたようだったが? もしかして、2人は前々から知り合いだったなんじゃないのか?」
「え?」
 士の言葉に士郎は驚いたような顔をしていたが、凛と桜はあからさまに反応してしまう。
このことに士はやはりかと思い、またため息を吐いたが。
「どんな関係は知らんが、とりあえず話し合うくらいはしてもいいんじゃないのか?」
「出来るわけ……無いじゃない……だって……だって、家同士で決まりで……桜と会っちゃダメだって――」
「んな決まり、ドブにでも捨てろ」
「「へ?」」
 泣きそうになる凛だが、問い掛けた士の返事に桜と共に目を丸くする。
言い出した士は腕を組み――
「大体、その決まりって、お前達も同意したのか?」
「そ、そんなわけないでしょ!? で、でも、家同士の決まりだったから――」
「だったら、別にいいじゃないか。見つかったらやばいってんなら、隠れて話すとかもありだしな」
「いや、それは流石にまずいんじゃないかな?」
 凛の反論に腕を組む士は堂々とした態度で答える。
しかしながら無茶でもあるので、雄介のツッコミが入ってしまったが。
「まぁ、決まりだとかしきたりだとか、そういうのは無視していいわけじゃない。
かといって、こだわりすぎるのも問題だ。今のお前達みたいにな」
 士の言葉に凛と桜はうつむいてしまう。
確かに自分達は……桜は祖父が怖かったこともあったが、家同士の決まりにこだわりすぎていた。
だから、話すどころか直接会うことすら今まで無かったのだし。
「話し合えば、全てが解決するってわけでもないが……それでも気持ち的には楽になるんじゃないか? 少なくともお前達にとっては、な」
 士に言われて、凛と桜は互いの顔を見つめ合った。
確かに昨日も他人行儀であったとはいえ、話し合えて嬉しかったのは事実だ。
そういったことを考えれば、自分達は家同士の決まりにこだわりすぎていたのだろう。
「ま、考えが堅すぎるんだよ。たまには新しいことに目を向けるのも必要だと思うぞ」
「新しいこと……か……」
 士の言葉に凛は考える。今の話で自分の考えは古すぎるのだろうかと思えてしまった。
確かに魔術師は懐古主義的な面もある。全ての魔術師がそうではないだろうが、少なくとも自分はそんな感じがしてしまった。
なら、どうするべきなのか? 凛はふとそんなことを考え込んでしまうのだった。




 あとがき
というわけで色々とあったものの、なんとか解決出来た士達。
そんな中で士郎達はどうしていくかの答えをまだ見つけていませんが。

さて、今回は拍手のお返事をば。やろうと思っていつも忘れてしまうのですけどね。
>白樺さん
いつもご感想ありがとうございます。
なお、ラウドブッカーから出たのはラウズカードというよりは、変身の為のカードですね。
後、原作の方は遵守しておりますが、それ程厳しくというわけでもないですね。

>謎の食通さん
士の場合は自分の為にやってるって公言してますしねぇ。
なお、ご質問のキャラは名護さんとは全くもって関係ありません。

>PALUSさん
この作品ではその作品のキャラがライダーになることは無いです。
ただし、別の形でカードになりますが、それがどんな物かは次の章にでも。

さて、次回は士達の帰還。その時に士郎と凛はどうするのか?
そして、士達は新たな世界へ。新たな世界ではどんな物が待っているのか?
というわけで、次回またお会いしましょう。



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