士達は今、なのは達とリンディ達と共になのはの家が経営している喫茶店『翠屋(みどりや)』へ向かっている最中であった。
ちなみに士達のバイクはアースラに置いており、後でフォトショップに転送されることになっている。
後、フェイト自身とデバイスであるバルディッシュに使い魔であるアルフにはリミッターが掛けられ、魔法が使えないようにされた。
フェイトとしては形式上任意同行という形にはなっているが、何もしないわけには行かない為にこのような措置となったのだ。
 で、向かってるのはいいのだが、なのはとフェイトは落ち込んだ様子を見せている。
フェイトの方は母親の事やら今後のことを考えている為だが、なのはの場合は似ているようで違う。
というのも――
「いたずらして怒られに行くような子供の顔をしてるな」
「あう……」
 士にそんなことを指摘されるが、なのはとしてはそのような気分であった。
何しろ両親や兄と姉に魔法を含めた今までしてきたことを内緒にしてきたのだ。
それを話すとなるとどんな反応をされるのか怖かったのである。
そんななのはの内心に気付いてか、リンディは苦笑していたりするが。
 その一方で士は妙な気配を感じていた。
遠くから誰かに見られているような、そんな気配を感じるのだ。しかし、視線を周りに向けてもそれらしい者は見えない。
気に掛かるが指摘したからといってどうにもならないだろうと、今は無視することにしたが。
「ところでさ。こっちって確か――」
「うん、フォトショップがある方向だよね?」
 一方、なのはが案内する先を見て、雄介と望がそんなことを言い合っていた。
フォトショップを出る時はちゃんと確認していなかったが、住宅街であったのは覚えている。
なので、その中になのはが言う喫茶店があるのだろうと2人は思ったのだ。
「あ、あれです。あれがお父さんとお母さんの喫茶店です」
 そうこうしている内にたどり着いたらしく、なのはが一軒の建物を指差していた。
可愛らしくもセンス良く整えられた入口に士と望はどこか既視感を感じていたが。
「お母さん、ただいま〜」
「あら、なのは。お帰りなさい」
「あら、士に望じゃない。どうしたの?」
「それはこっちのセリフなんだがな」
 挨拶をしながら入っていくなのはを出迎えるのはエプロン姿の女性だった。
なのはと同じ栗色の背中まで伸びる髪に可愛らしく整った顔立ち。
なのはとのやりとりを見なければ学生にも見える女性が笑顔で出迎えていた。
しかし、士や望達が気になったのはそっちでは無く――まぁ、なのはの母親の若さとかも十分気にはなったが。
問題はそこでは無く、なぜこの喫茶店に叶がいるかということである。
しかも、にこやかな様子でお茶までしている。このことに士としても顔を引きつらせる他なかった。
「うん、目の前がこのお店だったから、挨拶がてらに来てみたのよ」
「なんでも今日引っ越されてきたそうで」
 で、士の疑問ににこやかに答える叶となのはの母親。
色々と疑問に思うことがあるはずだが、なのはの母親はその辺りは気にした様子を見せていないようだった。
「良かったな。少なくとも変に怒られることは無いと思うぞ」
「あははは……」
 呆れた様子の士の一言になのはは苦笑しか出来なかった。
確かにその通りかもしれないが、何か別の心配が出てきそうな気がしてならないからだ。
「おや、なのは。来ていたのか」
「あ、お父さん」
 そんなことをしている内にエプロン姿の男性もやってくる。
見た目的には好青年にも見える顔立ちと整った黒髪。服装の上からでも鍛えてるとわかる体付き。
そんな男性だが、なのはの言葉を信じるなら彼女の父親らしい。端から見てると若く見えて親子には見えないのだが――
「なのは、帰ってきてたんだ」
「う、うん」
 で、その父親の後ろから別の少女が姿を見せる。
長い黒髪を1つに束ねて三つ編みにし、メガネを掛けた優しい顔立ちをしている。
雰囲気的になのはの母親に似ている感じがするし、なのはとのやりとりから見て姉なのだろうと士は思った。
「ただいま〜って、なのは。来てたのか」
「お兄ちゃん。それに忍さんも」
 と、入口から青年が女性と共に入ってきて、なのはとそんなやりとりをした。
青年はなのはの父親より身長が少し低い以外は雰囲気的にも似ていた。
一緒に来た女性は紫に輝く長い髪に知的に整った顔立ちをしている。
こちらの方はなのはの反応を見て、なのはの兄の知り合いなのだろうと士は考えた。
「あ、いたぁ!」
「え? アリサちゃん? それにすずかちゃんも」
 不意に元気のいい少女の声が聞こえ、振り向いたなのはがそこにいた少女に軽く驚きを見せていた。
アリサと呼ばれた少女はなのはと同じくらいの背にブロンドの髪を腰の辺りまで伸ばし、左側の一部をアクセントのように結い上げている。
顔立ちの方は可愛らしく整っているが、どこか勝ち気な様子を見せていた。
すずかと呼ばれた少女もアリサとほぼ同じ背であるが、こちらは紫に輝く髪を腰の辺りまで伸ばしカチューシャを付けている。
顔立ちの方は優しく整っていて穏やかな表情を見せているが、どことなくなのはの兄と一緒に来た女性と雰囲気が似ている気がした。
「やれやれ、一気に賑やかになったな」
「そういえば、この人達は?」
「あ、ええと……」
 一気に人が増えたことに呆れる士だが、士達のことに気付いたなのはの兄の問い掛けになのはは言いよどむ。
改めて考えると家族に魔法のことを話していいのかと考えてしまったのだ。一方、士は何かに気付いて視線を外に向けていた。
「まったく、あんたは! 今日はいったいどこに行ってたわけ?」
「え、ええと、それは――」
「すまないが、ここを頼む。ちょっと用事が出来た」
「え? あの――」
 アリサに詰め寄られるなのは。一方、士はそう言いながら外に出てしまい、言われたリンディは戸惑ってしまう。
しかも、何かに気付いた雄介、麗華、麗葉もついて行ってしまい、更に戸惑うはめになってしまったが。
「どうかしたのか、士?」
「妙な天気だと思わないか?」
「え? あ、な!?」
「結界?」
 外に出た雄介の疑問に士が答えると麗華は何かに気付いて空を見上げ、同じく気付いた麗葉が首を傾げた。
そう、麗華と麗葉には結界と思われる物が周囲に張られているのがわかったのだ。
しかも、多くはなかったとはいえ、あったはずの人の気配が翠屋以外から消えている。
「どういうことだよ?」
「さてな。あいつらに聞けばわかるんじゃないのか?」
 麗華達の言葉に雄介も首を傾げるが、士はある方へと顔を向けていた。
雄介達もそこへと顔を向け、それを見て顔をしかめてしまう。
「あ、あの……あの人達、どうかしたんですか?」
「たぶん、来たんだと思う」
「来たって、なにがさ?」
 一方、翠屋の店内では士達の行動にほとんどの者がフェイトのように首を傾げていたが、望は真剣な眼差しで答えていた。
そのことにアルフは首を傾げるものの、叶も同じような顔で士達を見ている。
「な、なに、あれ?」
 その時、すずかはそれを見て目を見開いてしまう。それは望と叶を除く全員がそうであった。
なぜなら、士達が見ている離れた方向から複数の怪人達の姿が見えてきたのだから。
「いけない! あれでは!」
「ダメだよ! 士にここを頼むって言われたじゃない!」
 呆然としていたクロノだが、異常事態だと気付いて士達の元へと駆け寄ろうとする。
しかし、それを望が叫ぶことで止めようとしていた。
「だ、だけど、あんな数じゃ士さん達が――」
「でも、言われたでしょ? ここを頼むって」
 戸惑うなのはだったが、望はそれでも言い聞かせようとしていた。
確かに怪人達の数は士達よりも遙かに多い。だから、なのはは一緒に戦った方がいいと思ったのだ。
「そういうことですか……クロノ、なのはさん。士さんは私達にみなさんを守れと言っているのです」
「え?」
 リンディもそのことに気付き、言い聞かせるような形で指示を出す。
怪人の数から考えて戦える者全員で行った方がいいのは確かだ。しかし、ここにはなのはの家族や友達がいる。
それを守りながらとなるとかなり厳しくなってしまう。
そこで士はなのは達にその人達を守らせ、自分達が矢面に立とうとしたのだ。
「で、でも――」
「言いたいことはわかります。ですが、だからこそ自分がやらなければならないことを見失ってはいけないのです」
 それでもなのはは士達の元へ行こうとするのだが、リンディはそれをなだめた。
今言ったようにここには戦えない者達がいる。まぁ、リンディやなのはが知らないだけで、なのはの母親以外の家族はそれなりに戦えたりするが。
それはそれとして、そういった者達を側で守ることも必要なのだとリンディは言い聞かせようとしたのだ。
「え……」
「なによ……あれ……」
 しかし、それを見たなのはは顔を強ばらせ、アリサは顔を引きつらせてしまう。
他の者達も似たようなものだった。なにしろ、ハッキリと姿が見えた怪人の姿は、なのは達にはありえないものだったから。
リンディもこのことに息を呑んでしまう。ただ、叶と望は静かに見守っていた。
「寄越せ……ジュエルシードを……」
「なんで欲しいのかわからないのに、そうホイホイと渡すと思ったのか?」
「それ以前に貴様達の目的を知っていれば、渡す気は最初から無いがな」
 怪人の1人の言葉に士が答えると、麗華も睨み返しながら答えた。
世界の破壊。それが怪人達の目的だ。それ以前にジュエルシード自体が危険な物故に渡せなかったが。
ともかく、それをしようとしている者達に危険物を渡すことなど出来るわけがない。士達の反応はその考えからである。
「寄越せ……この不要な世界を破壊する為に……」
「出来るわけないだろ! そんなことさせてたまるか!」
「そういうことだ。寝言は寝てからほざけ」
 もう1人の怪人の言葉に雄介が反論すると、士は言い放ちながらベルトを装着した。
それと共に雄介や麗華、麗葉もカードを構え――
「「「変身!!」」」
『仮面ライド――ディケイド!!』『ターンアップ』
 変身し、それぞれ構える士達。
「え、なに? 小さな女の子がカードになって、え?」
「なんだ、あれは?」
 一方、士達の変身を初めて見たなのはの姉や兄は戸惑いの色を浮かべる。それは同じく初めて見た者達も一緒の反応であったが。
「ふん!」
「おりゃあ!」
「はぁ!」
 そんなのに構っていられないとぶつかり合う士達と怪人の群れ。
士と麗華が持っている剣を振り回し、雄介も殴るなどして怪人達と戦っていく。
しかし――
「おい、いくらなんでも多すぎるぞ、これは!」
 怪人を蹴り飛ばしながら雄介が叫ぶ。
事実、怪人の数は士達の数倍あるのは目に見えてわかっていた。
それでも戦えないわけではないが、数の差がありすぎてどうしてもなのは達の元へ向かおうとする怪人が出てきた。
今はなんとかとどめているものの、このままでは押さえられなくなるのも時間の問題であった。
「しょうがないな」
 怪人を斬り飛ばした士が一言漏らすと、剣にしているケースから1枚のカードを取り出し――
『アタックライド――イリュージョン!!』
「ふ、増えたぁ!?」
 ベルトにカードをセットしたことで4人に増える士。
そのことにアリサが驚く――叶と望以外の全員も驚いていたが。が、4人の士は更にカードを取り出し――
『仮面ライド――電王!!』『フォームライド――電王、ロッド!!』『――電王、アックス!!』『――電王、ガン!!』
 それぞれの士が赤、青、黄色、紫のアーマーとマスクを装着した姿へと変わる。
これは仮面ライダー電王という仮面ライダーであり、ある方法により4つのフォームに変身出来る仮面ライダーでもあるのだ。
で、赤いアーマーの士がまたカードを取り出し――
「な、なんなの……あれ?」
『アタックライド――俺、参上!!』
「そういうわけで、俺達参上だ」
「いや、いいから早くなんとかしてくれ」
 碧屋にいる忍が叶と望を除いた全員の気持ちを代弁するかのように漏らす。
その際、カードをセットした士はなぜか軽くしゃがんで両手を広げるようなポーズを取った。
そのことに麗華は呆れた様子を見せていたりするが。
「わかってる。行くぞ」「「「ああ」」」
 そんな彼女に答えてから、4人の士はそれぞれ剣、ロッド、斧、銃を持って怪人達へと向かっていく。
そして、怪人達を斬ったり打ち払ったり、なぜか張り手で突き飛ばしたり次々と撃ち抜いたりしていた。
「まったく、ああいうのはたまに羨ましくなるよ、な!」
「どうかと思わないこともないが、な!」
 そんな士に負けじと雄介と麗華も怪人達を殴ったり切り払ったりしている。
それでも拮抗するのがやっとの状態であった。なにしろ、怪人達の数が多いのだ。
士が増えても、そうなるのがやっとの状態なのである。
 そのことになのははいてもたってもいられなかった。
士達を助けたい。あのままじゃ危ないから――その思いでビー玉サイズになっている自分のデバイスであるレイジングハートを握りしめていた。
「おい、なのはを押さえとけよ。今にも飛び出そうとしてるからな」
「え?」
 が、そのことを士に指摘されて、なのはは目を丸くしていた。
まさか、気付かれているとは思わなかった。士は戦いに集中していたと思ったから――
ただ、士の方もただ戦っているわけでは無い。怪人達がなのは達の元に向かわないようにしながら戦っていたのだ。
そのおかげか、なのはの様子に気付けたのだが。
「ダメよ、なのはさん。たぶんだけど、今行っても邪魔になるだけだわ」
「で、でも――」
「母さんの言うとおりだ……我々が行っても……ただ、やられるだけだ」
「え?」
「なのは、ちゃん?」
 リンディの言葉にも強い意志を秘めた瞳を向けるなのはだが、クロノの言葉に思わず困惑した表情尾見せてしまう。
そんななのはにすずかは怪訝な顔を向けていたが。
怪人とクロノ達のような魔導士が戦ったらどうなるかと聞かれれば、クロノ達が勝つことは可能と答えられる。
ただし、今のような数になると一方的にやられることもありえた。理由としては相性の悪さが上げられる。
基本的に魔導士は魔法を撃つというのがスタイルだ。フェイトのようにデバイスを武器として戦う魔導士もいないわけではない。
だが、フェイトとアルフ、クロノはある程度だがその者達を除いたこの場にいる魔導士は基本的なスタイルの魔導士だった。
そして、魔法はただ撃てばいいという物では無い。威力を高めるなどでコントロールが必要となる。
故に手数がどうしても少なくなりがちなのだ。一応、手数を増やす魔法もあるが、そういった物は大抵威力が低くなってしまう。
これが人間相手ならまだなんとかなるのだが、怪人となると話が変わる。なにしろ、怪人は人間よりも強い力と高い耐久力を持つ。
人間なら一撃で倒せる魔法でも耐えられるし、バインドなどで捕縛しても力尽くで抜けることも出来る。
1対1ならまだ勝ち目はあるのだが2、3体ともなると厳しくなり、それ以上となれば先も言ったとおり一方的にやられかねない。
誰かの援護があればそうでもないが、今は守らねばならない一般人がいるので、それを望むのは難しくなる。
士達と戦う怪人の姿を見ていたリンディとクロノは、それがわかった為の言葉であった。
 一方でフェイトは士の戦いに目が離せなかった。
フェイトもクロノと近い印象を怪人に持っていた。が、だからこそ士が凄いと思えた。
自分ではあのように戦えないことが出来る士を――
「でも、なにもしない訳にはいかないわ。クロノ、なのはさん。準備を――」
「なんだ?」
 それでも士達の為に援護射撃をと考えたリンディがそれを指示しようとした時だった。
不意に怪人達の動きが止まったのである。そのことに雄介が首を傾げた時、怪人達は一斉に下がり始めたのだ。
「退いただと? なぜ――」
「さぁな。でも、理由も無しにってわけでも無いだろうが」
 麗華もこのことには首を傾げるが、士は油断無く見送りながらそんな意見を漏らす。
そう、怪人達が退いたのがあまりにも唐突すぎたのだ。なので、不意打ちとも考えられたのだが――
「いなく……なったな」
「本気でなんのつもりだ?」
 怪人達が完全にいなくなり、更には再び襲い掛かってくる様子が無い。
そのことに雄介だけでなく、士でさえも首を傾げずにはいられなかった。
「いつも……ああいうのと戦ってたんだね、士は……私としてはやめて欲しいかな?」
「え? あ、叶さん」
「俺としては勘弁して欲しいのだがな。あっちがああだと、そうもいかなくてね」
 終わったと見てか、どこか悲しそうな顔をしながら叶がやってくる。そのことに雄介は軽く驚くが、士は肩をすくめるだけであった。
士としても戦いは出来ればしたくはない。でも、そうもいかないのが自分達の現状であった。
「もう……何が起きてるのか説明しなさ〜い!!?」
「やれやれ、騒がしい嬢ちゃんだな」
「なんですって!?」
「す、すずかちゃん……」
 一方、終わったはいいが訳のわからない状況に叫んでしまうアリサ。
が、そのことを士に指摘されて更に怒鳴ってしまい、そのことがすずかの顔を引きつらせていたが。




 あとがき
そんなわけでなのは達が全員集合でした&今回のでにじファン掲載分の終了です。
うん、意外と時間が掛かったね。まぁ、大体1週間間隔なのでしょうがないのですが。
で、今は次回分執筆中です。がんばれ私――

次回はなのは達との話し合いになります。
リンディは人手不足でなのはに協力を求めますが、そのことを士に指摘され――
なのははどうするべきなのか、フェイトもどうしていけばいいのか悩むことに。
一方、士達はプレシアの事情を知るのですが――
そんなお話です。次回でまたお会いしましょう。



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