あの後、自己紹介の後になのはの家族とその友達はリンディから今までのことを聞かされていた。
その間、なのははすまなそうな顔をしながらうつむいており、その様子をフェイトは心配そうに見ている。
一方で話を聞いて複雑そうな顔をするなのはの家族と友達。特に父親の士郎と兄の恭也は複雑そうな顔をしていた。
一歩間違えれば身が危うくなるような危険になることをなのははしてきた。
それなのに自分達はなのに事情があるのだろうと思い、何かしていることに気付いていながらも見逃していたからだ。
そのことになのはに何かを言いたい反面、甘すぎた自分達を恥じていたのである。
 一方でアリサはなのはを睨んでいた。事情があるのはわかったし、自分達を心配してくれていたのはわかる。
それでも何か言って欲しかった。そうすれば――
「ま、なのはが内緒にしていたのは問題ではあるが……ある意味正解だったかもな」
「なんでよ?」
「お前は確実に首を突っ込みそうだからだ」
「なんですってぇ!?」
「ア、アリサちゃん……」
 しかし、士の指摘に思わず怒鳴ってしまうアリサ。
すずかがなだめる中、これを見ていた一同は士の言葉に思わず納得してしまうのだが。
「で、お前達は何者なんだ?」
「異世界から来た、通りすがりの仮面ライダーさ」
「は?」
 その後、睨みながら問い掛けるなのはの兄の恭也に、士は人差し指を立てながら答える。
そのことに忍――自己紹介ですずかの姉だと知ったが――が、ポカンとしてしまったが。
まぁ、それだけではなんなので士は今までのことを話したのだが――
前もって話を聞いていたなのはやフェイト、リンディ達を除いた一同は話を聞いて呆然としてしまう。
「やはりというか……あなた達がするべき事では無いわ」
「別に頼まれたからってだけじゃない。俺がやろうと思ったからやっているだけだしな」
 心配そうな顔で思わず本音を漏らすリンディ。士達がしていることは自分達時空管理局がすべき事だと思っていた。
実際に怪人達を見たからこそ言える。あれは士達だけで戦えるようなものでないことを。
もっとも、士は士で当然と言った様子で返していたのだが。
「しかし、あれは君達だけで戦えるものじゃないぞ」
「なに、俺だって死ぬ気は無いからな。危なくなったら、とっとと逃げるさ」
 士郎もそう思って苦言を呈するのだが、士は気にした様子も無く答える。
その一方であっちの世界の士郎とは大違いだなと場違いなことも士は考えていたりするが。
「じゃあ、お前はなんの為に戦うんだ?」
「決まっている」
 睨み付けながら問い掛ける恭也。それに対し、士は人差し指を立てながら右手を天に向かって差し――
「俺はやりたいと思ったからやっている。ただ、それだけだ」
「は?」
 いつもの答えを述べる士。しかし、恭也は一瞬言葉の意味を理解出来なかった。
「な、ちょっと待て!? 世界を守るとか誰かを守るとかじゃないのか!?」
 理解出来た途端に慌てた様子で士に詰め寄ってしまう。
もっとも、それはなのはやその家族と友達、リンディやクロノも同じであったが。
それに対し、士はあからさまなため息を吐き――
「一つ、言っていいか?」
「え、な、何を――」
「安易な考え以外で、そういった事に命を賭ける奴を馬鹿にする気は無い。
時にはそうしてまでもやらなきゃならない時があるかもしれないからな。だがな、それで本当に死んだらどうするよ?
それで誰かが喜ぶとでも? そういうのはな、ただの自己満足だと俺は思うけどな」
 士の話を聞いて、戸惑っていた恭也は思わず息を呑んでしまう。
物語などで良く命を賭けてでも――という話が出てくる。むろん、それはそれで大事な事だ。
だがしかし、それで本当に死んでしまったら、本当に良いことなのだろうか?
士は違うと考えている。物語ではそれで死んでしまった者のことを誇りに思ったり、尊敬していたりすることがある。
だが、現実はそうでは無いと士は考えているのだ。そのことに士郎はうつむきながら考え込んでいた。
士郎は以前ボディガードをしていたことがあった。正確には違うのだが……まぁ、今はそのことを語る場では無い。
ともかく、それが元で重傷を負い、家族に心配を掛けたことがある故に士の話は痛い所を突かれたような思いだった。
 一方でリンディもまた話を聞いてつらそうな顔をしていた。
彼女も夫がある事情から命を賭け、それで亡くなってしまったという経緯がある。
その時に感じたのは悲しさだけ。今でこそ乗り切れてはいるが……だからこそ、士の話の意味が良くわかってしまう。
 なのははというと、士の話の意味を理解出来なかった。
だから、それが自分を差しているということにさえ、気付くことは出来なかった。
「言っとくが、お前のことでもあるんだぞ。誰にも心配掛けさせたくないとか言って無茶やらかしてるだろ?
それで怪我したらどうするんだって、前にも話したと思ったけどな?」
「う……」
 もっとも、それは士の指摘で気付かされるはめとなったが。
「あ、あの……士君の話も気になりますけど……なのははどうなっちゃう……のでしょうか?」
 そんな中、なのはの姉である美由希は恐る恐る手を挙げながら問い掛けた。
そのことにリンディはため息を吐く。なぜなら、なのはの家族にはとても言いにくいことだからだ。
「非常に言いにくいのですが……お手伝い願えないかと思っております」
「なぜですか? 時空管理局……でしたか? あなた方はそのジュエルシードをなんとかする為に来たのでしょう?」
 言いにくそうにしながらも答えるリンディだが、そのことになのはの母親の桃子が訝しげな顔をする。
確かに今までの説明を聞いていると桃子がそう思ってしまってもおかしくはないのだが――
「ええ……正確にはユーノ君の保護なども含まれており、その為の人員も連れてきてはいたのですが……
こちらに来る前にあった戦闘で多くの戦闘局員が負傷しています。深くは無いのですが、すぐに動くには消耗も激しくて……
交代要員や増員を頼もうにもやはりすぐには……それ以前に頼んでも来てもらえるかどうか……」
「負傷や交代の人がすぐに来れないのはしょうがないにしても、来るかどうかわからないってどういうことだ?」
 言いにくそうに話を続けるリンディだが、そのことに士が疑問を投げかけた。戦闘を担当する局員の負傷の方はしょうがないだろう。
海東が呼び出したライダーは戦闘訓練を受けているとはいえ、普通の局員が相手するには厳しすぎる。
幸いにも重傷を負った者はいなかったが、ジュエルシード回収へすぐに動ける状態では無かった。
それは士も見ているのでわからなくもない。しかし、交代要員や増員が来ないかもしれないというのは聞き捨てならなかったのである。
「ボク達が来たミッドチルダは魔法文化だというのは話したと思う。だから、時空管理局の局員は基本的に魔法が使える者で構成されるんだ」
「魔法を使えない人はなれないの?」
「そんなことはない。ただし、戦闘などを行う実働部署への配属はまず無いがな」
「そうなのか?」
「ああ。ミッドチルダでは基本的に質量兵器……君達には銃と言えばわかりやすいと思うが、そういった物を使うことを禁止している。
それは時空管理局でも同じだ。だから、魔法を使えない者は自然と戦闘方法が限られてしまう」
「なるほど……話が見えてきたな……」
 説明していたクロノは望の問い掛けに答え、雄介の問い掛けにも答えた。
が、それを聞いていた士はため息混じりに顔を向け――
「あんたらの世界も魔法を使える奴はそう多くは無いんだろ? でなけりゃ、戦える奴が少ないなんてことは無いだろうしな」
「……お恥ずかしい限りですが」
 士の言葉にリンディが辛そうに認めてしまう。
実際、ミッドチルダでも誰もが魔法が使えるわけでは無い。むろん、少ないわけでは無いが多くもないといった状況だ。
そして、魔法が使える者が全員時空管理局に勤めるわけでは無いので、自然と魔法が使える局員の数が少なくなってしまい――
結果として時空管理局では慢性的な人手不足に悩まされることとなってしまったのだ。
「なんというか、本末転倒ってのはこういうことを言うのかね? 別に魔法にばっか頼る必要も無いだろうに」
「しかし、質量兵器は危険すぎる。魔法を使った方がまだ安全だ」
「お前、それ本気で言ってるのか?」
「え?」
 ため息混じりに呆れる士であったが、クロノの言葉に思わず視線を向けてしまう。
そのことにクロノだけでなく、リンディやなのは、フェイトやアルフまで訝しげな顔をしていた。
「聞くが、武器がなんで危険なのかわかって言ってるのか?」
「そ、それは人を傷付けたり時には命を奪ったりするから――」
「それは魔法も同じだろ?」
 反論するクロノだが、問い掛けた士の言葉に息を呑んだ。もっとも、それはなのはやフェイトも同じであったが――
「ち、違う……魔法には非殺傷設定という物があって、相手を傷付けずにダメージを与えることが――」
「つまり、それが無けりゃ武器と変わりないって事だろ?
それに俺は武器に詳しい訳じゃないが、武器にだって同じことは出来るだろうしな」
「まぁね。多少痛い思いや怪我をしたりはあるけど、やろうと思えば出来なくもないわ」
 それでも反論しようとするクロノであったが士の言葉に目を見開き、忍の言葉に何も言えなくなってしまう。
実際の所、武器にも非殺傷の物はある。煙幕やスタングレネードなど、他にもあるがあえてその辺りの説明は控えよう。
そして、武器がそうであるように魔法もまた同じであった。
クロノが話したように非殺傷設定にすれば相手を傷付けずにダメージを与えることは可能だ。
そういった意味では武器よりも優れていると言えるが、逆を言えばそれが無ければ武器と変わらないことになる。
「ま、魔法だけがいい物ってわけでもないんだ。そいつをどう使うかは、そいつ次第だろうしな」
 そんなことを漏らす士だが、それ聞いていたクロノは自分の甘さに両手を握りしめ、悔しさを感じていた。
クロノも仕事上犯罪者を捕まえることをしており、時には魔法を使う犯罪者と戦闘になることもある。
そして、そういった犯罪者の多くは非殺傷設定を使うことは無い。
理由は様々だが、それ故に魔法にはその面があると再確認し、失念していたことに悔しさを感じていたのだ。
 一方でなのはとフェイトは戸惑いの色を浮かべている。
理由としてはなぜ魔法で人を傷付けなければならないのか? ということであった。
フェイトの場合は事情がある場合を除くが、基本的に2人は人を傷付けるようなことを好まない。
いや、それ以前に幼すぎると言うべきだろう。だから、時としてそうする者がいるということを良く理解出来なかったのである。
「ま、今更こんな話をしても解決出来るわけでもないし、今はジュエルシードとやらをなんとかするのが先だろ」
「それはいいけど、俺達はどうするんだ?」
「俺達も手伝うべきだろうな。どうやら、あいつらの狙いも同じみたいだし。
なのは達だけに行かせてかちあったら、それこそ大変だろうからな」
 雄介の疑問に話していた士はため息混じりに答えていた。確かに怪人もジュエルシードを求めているようなことを話していた。
ならば、同じ物を探すなのは達と出会ってしまう可能性もあるだろう。そうなるとなのは達が危険になる。
そうさせるわけにはいかないし、士達は元々怪人をどうにかしなければならないので同行した方が色々と都合が良いと考えたのだ。
「しかし――」
「どうかしたか?」
「いや、君は本当に高校生か? なんか、とてもそうには見えないのだが――」
 顔を向ける士に視線を向けた士郎は言いにくそうにしながら、思わず士から受ける印象を漏らしていた。
それはリンディも同じであった。士はなんというか、年の割には落ち着きすぎている。士と同年代の職員と比べてもだ。
前に老齢の兵士や孫を可愛がる祖父のようだと思っていたが、今の話でそれが強く感じられたような気がする。
違う言い方をすれば、『経験』がありすぎるような気がしてならない。
しかし、士の年齢を考えるとそこまで『経験』をするようにも思えない。
何かがちぐはぐであった。その何かがリンディにはうかがい知ることは出来なかったが。
「一応な。ま、記憶が無いせいかもしれないが」
「記憶が……無い?」
「ああ、昔何かあったらしくてな。5年より前の記憶が無いんだよ」
「え……」
 しかし、士の言葉になのはは呆然とし、更に出た言葉でフェイトも呆然としてしまう。
それと共に望や叶、雄介は悲しそうな顔をし、そのことを初めて聞いた麗華と麗葉は軽い戸惑いを浮かべていた。
記憶が無いというのはどういうものなのか、なのはやフェイトには理解することは出来ない。
でも、悲しいことだとは思う。大切な思い出を思い出せなくなるというのは悲しいことだと思うから――
 それはなのはの家族や親友、リンディ達も同じだったのだろう。望達の様に悲しそうな顔や戸惑いを浮かべていた。
なのに、士は気にした様子を見せない。変わらぬ様子でコーヒーを飲んでるだけだ。
そのことに望と叶、雄介以外の全員が戸惑いを浮かべるはめとなっていた。
「君は……それでいいのか?」
「別に悩んだからといって記憶が戻るわけでもない。気にしない訳じゃないが、気にしすぎても得にはならないしな。
だったら、今を楽しんだ方が色々とマシだろう?」
 戸惑いを浮かべる士郎に士がやはり気にした様子も無く答えた。
しかし、聞いた士郎はもちろん、望と叶、雄介以外の全員が戸惑い……いや、困惑を浮かべる。
言いたいことはわからなくはない。確かに何かをしたからといって、記憶を取り戻せるとは限らない。
それはわからなくもないのだ。問題は何が士をそう思わせているかだ。いったい、何があれば士にそのような考えをさせられるというのか?
様子から見て望達が何かをしたようには見えない。では、何が……それが士郎達の困惑となっていた。
「ま、俺のことは置いといて……なのはは最後まで関わるべきだろうな」
「ほへ?」
 と、士のいきなりの言葉に困惑していたなのはは一転してきょとんとしてしまう。
言葉の意味がわからなかったからなのだが――
「自分が最善だと思ってしたことが必ずしも最善の結果を生むとは限らない。
努力だけの最善だけじゃダメってのをお前さんは覚えた方がいい」
「え?」
 もっとも、続けて出た士の言葉の意味もなのはは理解出来ない。
同時に、この言葉がなのはの『歪み』を指摘していたことに、今は士以外の誰も気付くことは無かったのだった。




 あとがき
最初に一言。掲載長引いて申し訳無い。
本当はもっと早く掲載したかったのですが、プライベートで色々とありまして――
それ自体は執筆自体に影響は無いのですが、そのことでテンションがだだ下がり状態になりまして。
結果として、執筆速度が大幅減少中です。夏場で昼間にPC動かせないのも影響してます。
なので、夏場は掲載が遅れると思います。うん、なんとかしたいね、マジで――

さて、今回は話し合いの回となりましたが、不安が残る結果に。
なのはは士の指摘に気付けるのか? 次回はそのことで話し合うなのはとフェイト。
一方、プレシアのことでリンディと通信をしていた士達にプレシアから通信が。
その目的は? といったお話です。次回、またお会いしましょう。



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