その日の夜。なのははフェイトと共にお風呂に入っていた。
フェイトの方は初めて身内以外の者とお風呂に入ったせいか、顔を赤らめている。
一方でなのはは沈んだ様子を見せていた。というのも――
「士さんは……何を言いたかったのか、な?」
 士の『努力だけの最善はダメだ』というあの言葉が引っかかっていたのだ。
しかし、なのはにはそれがなぜダメなのかがわからない。『努力の最善』がなぜダメなのかを。
この時のなのはは勘違いしていた。士は『努力だけの最善』と言っていたが、なのはは『努力の最善』だと思ってしまったのである。
それ故に自分のやっていることを否定されたような気持ちになったのだ。
「わからない……でも、大事なことなんだと思う……」
「大事な、こと?」
 そんななのはの呟きにフェイトは静かに答える。フェイトにしてみれば士は不思議な人物だった。
なんというか、つかみ所の無い……それでいて、どこか暖かさを感じる。といっても、それは優しさとかそういう物ではない。
言葉にするのは難しいのだが、まるでお日様のような暖かさ。それをフェイトは士から感じ取っていたのである。
「私も良くはわからないんだけど……士さんはただそんなことを言ってるんじゃないと……思うんだ」
 少しうつむきながら、フェイトはそう告げていた。フェイトとしては本当にそう思っただけだった。
本来なら今すぐにでも逃げ出して、ジュエルシード探しをしたかった。それになのはとこうして話す事も本来はありえなかった。
だが、なぜかその気が起きず、なのはともぎこちないながらも話せている。
確かにリミッターを掛けられて魔法が使えないというのもある。でも、今はそうだった。
なぜ、そうなったのかはわからない。だからこそ、怖くもあった。自分が変わっていくような気がして――
ただ、そうなった要因に士と出会ったことがあったのはフェイトも薄々は感じてはいたのだが。
 一方でなのははフェイトの言葉を聞いて考えていた。
士が何を言いたかったのかわからない。でも、もしもフェイトの言葉通りなら――
それを考えたことで、明日士に理由を聞いてみようと思うのだった。


一方の士達はといえば、フォトショップの店内でリンディらと通信を行っていた。
ちなみに通信機はスマートフォンのような形をしているが、空中に映像が投影されるようになっている。
それはそれとして、話し合っているのはフェイトの母と言われているプレシア・テスタロッサのことについてだ。
プレシアは類い希なる魔導士にして優秀な技術者でもあった。それ故に彼女はある会社で新型魔力炉の開発を任されていた。
しかし、その起動テストで事故を起こし、多数の死傷者を出してしまった。それが二十数年前の話。
今は別に投影されている映像で、その事故の裁判の様子が映し出されており、それを見た雄介達は複雑な表情をしていた。
そこに映っていた少し色が抜けた紫の長い髪に端麗な顔付きの女性――プレシアはうつむき、どこか放心したような様子を見せている。
一見するとこの女性が多数の死傷者を出した事故を起こした人とは思えない。
だが、裁判で起こる怒号――中には事故で亡くなった人の遺族のものも混じっていたが、それを聞くとそうなのだと思わされてしまう。
裁判の内容を聞く限り、危険にもかかわらず起動テストを強行したらしいのだが、なぜそんなことをしたのかと思えてしまうのだ。
だが、一方で士は訝しげな顔をしている。というのも――
「妙だな」
『妙、とは?』
「静かすぎる」
『静か? いや、騒がしいと思うが?』
 リンディの問い掛けにその一言を漏らした士は腕を組みながら答えていた。しかし、その意味がわからずにクロノが首を傾げる。
裁判の映像は今も怒号が鳴り響いている。それを見てると静かとはほど遠いように思えたのだが――
「俺は裁判には詳しくないんだが、プレシアの弁護士がほとんど動いてない。それが妙に思えてな」
「そうか? プレシアって人の罪を認めてるからじゃないのか?」
『いえ、確かに妙ね」
 士の言葉に雄介はそんな反応を見せるが、リンディはそれを聞いて同じように訝しげな顔をしていた。
リンディは仕事上、何度か裁判を見たことがある。
それらの裁判ではいかに被告人が一方的に悪かろうとも、減刑を求めて弁護士は動いていた。
しかし、プレシアの弁護士はそのような動きを見せない。
それどころか、プレシアが一方的に悪いかのようなことを言っているようにも思える。
弁護士らしからぬ行動に士の言葉でそのことに気付いたリンディは、この事故に何かしらの物があるのではと感じていた。
が、ここでそれを追求のは半ば無理である。二十数年前の事故であるのもあるが、それらの資料を精査出来ていないのだ。
『この事故のことは私の知り合いにも頼んで詳しく調べてみます。それはともかく、実は気になる事がいくつかあるんです』
「気になる事、ですか?」
『ええ、プレシア・テスタロッサには確かに娘が1人いました。名前はアリシア・テスタロッサ。ですが……』
「アリシア? フェイトではなくか? それにそのアリシアに何かあったのか?」
 話を聞いて問い掛ける望に言い出したリンディはそのことを告げる。
だが、どこか複雑そうな顔をしていた為、気になった麗華が問い掛けるが――
『娘のアリシアはその事故で亡くなっています。どうやら、魔力炉の起動テストを見学に来ていたらしくて――』
「え?」
『それともう1つ。現時点でフェイトさんの出生届は確認されていません』
「え? ええ? どういうことですか?」
 リンディの話に戸惑いを見せた望だったが、更に出た話に混乱してしまう。
アリシアが亡くなっている。事故の経緯がどうであれ、それは悲しいことには間違いない。
だが、その一方でなぜフェイトの出生届が出ていないのか? その疑問が出てくる。
そんな中で士は嫌な予感を感じていた。確かにフェイトの出生届が出ていないのは腑に落ちないのもあるが。
それ以上に何かがおかしいと感じているのだ。
「なぁ、そのアリシアって子の写真はあるのか?」
『ええ、それが気になる事の1つなのだけど……これがアリシアさんよ』
「あ、ええ!?」
「フェイト?」
 士の問い掛けにリンディは複雑そうな表情で答えつつ別の映像を投影し、それを見た望は驚き、麗華は雄介と共に目を丸くしていた。
その映像に映っていたのは紛れもなくフェイトであった。士達が知るフェイトよりは若干幼い感じはあったが。
それを除けば、どこをどう見てもフェイトにしか見えない。このことに雄介も混乱するが、士はというと眼を細めていた。
彼としては嫌な予感が的中したようなものなのだ。士はある推測を立てていた。まず、フェイトの出生届が出ていないということ。
事故の後、実刑を受けて服役。出所後に色々とあって出産というのであればおかしなことはない。
事故は二十数年前のことだし、フェイトの年齢を考えれば服役して出所後に出産もありえる。
が、出生届が出ていないとなると何かあると考えてしまうのだ。加えてフェイトとアリシアが似すぎているのも問題だった。
一卵性双生児ならまだしも、兄弟姉妹であろうと多少はあってもここまで似ているというのはまずありえない。
(人の事は言えないが、下手したら魔法とかSFだな)
 それらを考えるとフェイトは……推測故に士はそんなことを考えてしまう。
推測通りなら、ある意味魔法ともSFとも言えることが行われている。
まぁ、仮面ライダーも似たような物なので、ついそんなことを考えてしまったが。
 その一方でその通りなら気分がいい物では無い。フェイトにしてみれば、残酷な現実とも言える。
だからこそ、どうにか確かめられないかと士は考えたのだ。
『もしかして、あなたもそのことを考えていますか?』
「ここまで材料がそろってりゃ、そっちを考える奴はいるかもな。で、聞くんだが、そういうのは可能なのか?」
『出来なくは……ないと思います。私は詳しくは無いので確かとは言えませんが……ただ、当然ながら、そういうのは違法です』
「どういうことだ?」
 リンディも同じことを考えていたらしく、辛そうな表情を見せながら士に答えていた。
そのことに訝しげになる雄介。良く見れば、望に麗華、麗葉も同じような表情を見せている。
「そうだな。もし、俺達の考え通りなら、胸くそ悪いことになる」
「だから、どういうことだっていうんだよ?」
『確信が無い状態ですので、今はまだ話せません。場合によってはフェイトさんを傷付けることにもなりますから』
「え?」
 士の返事に雄介は少しばかり苛立ちを見せながら再度問い掛けるが、辛そうな表情のリンディの言葉に戸惑いを見せた。
士もリンディも推測故に確信があるわけではない。だが、状況的に考えてありえないこともでない。
だからこそ断言出来ず、同時に不用意に話せばフェイトを傷付けるかもしれない為に安易に話せなかったのだ。
なまじ、望や雄介は表情が出やすいので、余計に話せなかったりする。
「その時が来たら話すさ。で、これからどうするんだ?」
『え、ええ……フェイトさんやアルフさんの話を聞く限りでは、プレシアが主犯と見ていいでしょう。
ですが、逮捕しようにもどこにいるのかわからないので捜索することになりますが、ジュエルシードも探さなければならないので――』
「確かにどっちも見逃せないが……人手不足が痛いな」
 すまなそうな顔をするリンディの言葉に問い掛けた士はため息を吐いた。
これは後でフェイトに聞いた話なのだが、プレシアの居場所――正確にはプレシアがいる座標だが、フェイトもアルフも知らないという。
というのも、プレシアの元に向かう際はプレシアの手によって行われるそうなのだ。故に2人ともどこにいるかは知らないのである。
また、ジュエルシードのことも問題だった。ジュエルシードのことは話に聞いただけだが、それだけでも危険な物だというのはわかる。
なので、見過ごすわけにはいかないが、かといってプレシアのことを後にするわけにもいかなかった。
プレシアの目的はわからないが、危険物と言えるジュエルシードを狙っている以上、何もしないというわけにはいかない。
ただ、両方を捜索しようにも、明らかに人手不足だった。海東との戦闘で時空管理局の実行部隊の半数以上が負傷したからだ。
もしもの場合に備えるとなると、残った全員を両方の捜索に回すわけにもいかない。
まぁ、怪人達もジュエルシードが狙いのようなので士達も協力はするのだが、それでも人手不足は否めなかった。
『では、詳しいことは明日、でいいかしら?』
「どのみち、わかってることも少ないしな。その方がいいだろ」
『そうね。では、明日また連絡するわね』
 士の返事を聞いて、問い掛けたリンディはうなずくと投影されていた映像が消える。
その後に望達の間にため息が漏れたが――
「でもさ、これからどうするんだよ?」
「あいつらの狙いはわかってる以上、なのは達に協力した方がいいんだろうが……どうやって解決するかだよな」
 雄介の問い掛けに士はこめかみを掻きながら答えた。
怪人達の狙いがジュエルシードにある以上、同じように集めているなのは達に協力するのはいい。
ただ、ジュエルシードが集まったとしても解決にはならない。怪人達が執拗に狙ってくることは十分考えられるからだ。
下手すれば――いや、間違いなく時空管理局がある所を襲ってきても不思議ではなかった。それ故に士も解決方法に悩んだのである。
理想としてはジュエルシードを誰の手にも届かない所に捨ててくるのがいいのだが――
「ん? どうかしたんですか、リンディさ、って、え?」
「え、ええ!?」
 と、不意に映像が投影されたことに望が不思議そうにしながら問い掛けようとして、その映像に目を丸くする。
それには雄介も驚いており、麗華に至っては警戒の色を見せていた。
『初めまして……と言っていいのかしらね?』
「こっちはあんたから通信が来るとは思ってもいなかったけどな」
 その映像に映る人物の言葉に、士は変わらぬ様子で答える。映像に映る人物。それは紛れもなくプレシア・テスタロッサであった。
ただ、映像に映るプレシアは先程見た映像とは違い、どこか鋭さを感じさせる。
また、胸元まで映る映像には胸元が大胆に開いた扇情的な黒と紫の衣装であることも見て取れた。
「で、何の用だ? ただ、話したいって訳でも無さそうだが」
『ええ、あなた達に聞きたいことがあるのよ。あなた達、アルハザードの人達なんでしょ?』
「なんだそりゃ?」
 プレシアの問い掛けに問い掛けた士は訝しげな顔で問い返す。
まぁ、アルハザードと言われても誰もなんのことかわからないので、ある意味当然の反応ではあったのだが。
『隠さなくたっていいのよ? それともあなた方は違う呼び方をしてるのかしら?
あなた達のその力、明らかに魔法とは違うし、技術的にも一線を画した物だもの。だから、そう思ったまでよ』
「なんか見られてる気がすると思ったら、あんただったのか。ま、別にいいけど。
とりあえず、勘違いをしてるようだから言っておくが、俺達はアルハザードとやらから来た訳じゃない。
俺達が元々いた世界はなのは達の世界とそう代わりないしな」
 プレシアの話を聞いてそのことに思い至った士はため息混じりに答えつつ、プレシアが映る映像から視線の外さなかった。
その間に注文票の裏側に何かを書いていたのだが――
『嘘を言わないで欲しいわね。では、あの力はなんなの?
あなた達の世界ががこの世界と変わりないというのなら、あなた達のあの力はありえないわ』
「そう言われても困るんだがな。俺だって、気が付いたら持ってたから、どんな物なのかなんて知らないし」
 話を聞いて苛立ちを見せるプレシアに士は視線を外さずに答える。
一方、望は何かに気付いてリビングに入るが、プレシアは気付いた様子も無く士を睨んでいた。
『ふざけないで! 馬鹿にしてるの!?』
「事実を言ったまでだ。大体、アルハザードなんて世界も知らないしな」
『あくまでしらを切るつもりなのね』
「じゃあ、なんて言ったら信じてくれるんだよ」
 苛立ちを露わにするプレシアに、答えた士は呆れたようにため息を吐いた。
アルハザードとはなんなのかわからないが、プレシアの様子を見る限りただの場所というわけではないらしい。
そして、プレシアはそこへ行こうとしているようなのだが――
そこまで考えて士はある推測を立てる。プレシアの目的に関する推測を。
「それはそれとしてだ。なんで、そのアルハザードに行こうと思ってるんだ?」
『取り戻すのよ! あの幸せだった過去を! それがアルハザードなら出来る! だから、私は行かなければならないのよ!』
 士の問い掛けにプレシアは苛立ちで興奮していたのかあっさりと答えた。だが、その返事を聞いて士は眼を細める。
それだけを聞いただけではなんのことかはわからない。実際、雄介や麗華は訝しげな顔をしている。
だが、士は先程のリンディとの会話によって考えていた推測が、今の言葉で確信に近付いていたことを感じていた。
「ふ〜ん。それを踏まえた上で聞くんだが、あんたにとってフェイトはどんな子なんだ?」
『……なぜ、そんなことを聞くの?』
「気になったから、じゃダメかな?」
『ふん、おなしなことを気にする奴ね。まぁいいわ。私にとっては人形よ。役に立たない、ね』
「な、あんた!? フェイトちゃんはあんたの娘なんだろ!? そんな子にそんな言い方なんて――」
『あの子は私の娘なんかじゃないわ!?』
「え?」「な……」
 士の問い掛けに答えるリンディだが、それを聞いた雄介は思わず怒鳴ってしまう。
娘を娘とは思わない言動に怒りを覚えたのだが、逆にプレシアの怒りに気圧されてしまう。
その気迫は麗華ですら怯むほどだったが、一方で士はプレシアを睨んでいた。
『あんな奴! 私の娘なんかじゃない!? あいつは……あいつはアリシアなんかじゃなかったのよ!!』
「なるほどね。大体わかった」
 未だに怒りをまき散らすプレシアに、士はため息混じりにそんな一言を漏らした。
今のプレシアの様子で士の今までの推測がほぼ間違いないことが証明された。
だが、同時に士はこうも考えていたのである。プレシアの目的は失敗すると――
「1つ言ってやる。あんたが例えアルハザードに行けたとしても何も取り戻せないし、何も得られない。
あんたのその考えを変えない限りはな」
『ふざけないで! あんたみたいなガキに何がわかるって言うのよ!!?』
「じゃあ、あんたは何をわかって言っているんだ?」
 まるで射殺さんばかりに睨んでくるプレシアを意もせずに問い返す士。
むろん、士も何もかもわかって言っているわけでは無い。それでもプレシアが失敗していることはわかっていたが。
「アルハザードがあったとしてもだ。そこにあんたが望む物があるという確証はあるのか?
ま、あったとしても幸せを捨てたあんたに待ってるのは、絶望かもしれないけどな」
『が、ガキが言わせておけば――殺されたいの!? 第一私が幸せをつかんだですって!? いい加減なことを言うのも大概にしなさい!?』
「別にいい加減に言ってる訳じゃなく、事実を言ってるまでだ。
あんたは確かに幸せをつかんだんだよ。だが、それは自分が望んだ物と違うからと、あんたはそれを捨てたんだ。
そんなあんたが例え全てを取り戻せたとしても、幸せになれるとは思えないけどな」
『が、ガキが……殺すわよ!!』
 士の言葉に興奮し、般若のように睨んでくるプレシア。その形相に麗葉はもちろんのこと、麗華や雄介さえも怯えてしまう。
だが、それを向けられてる士はやはり意に介した様子を見せない。士はこう考えていた。
プレシアはある物を取り戻そうとして、全てを捨ててしまった。捨ててはいけない物までも――
だからこそ、プレシアは今のままでは幸せになることは出来ない。
ある物を取り戻せても、それを捨ててしまったが為に押し潰されてしまうかもしれないと。
「じゃあ、聞くが。今のあんたの姿を見たら、アリシアはどう思うだろうな?」
『え?』
 士の問い掛け。しかし、プレシアにとっては意外だったのか、先程までは打って変わって戸惑いを見せていた。
「あんたが今までやってきたこと、アリシアに話せるか? 話せたとしても、アリシアはどう思うかな?」
『あ、ああ……ああぁ……』
 士の言葉にプレシアは怯えながらうつむき、両手で頭を抱えてしまう。
そのことに士はため息を吐いた。たぶん、今のプレシアの姿が彼女の本来の姿なのだろう。
しかし、それを捨てなければ出来なかったのだ。自分がやろうとしたことを――
「あんたがアリシアを取り戻したいってのは、何となくがだわからなくもないさ。俺も5年から前の記憶が無いし」
「え?」
「けどな、だからといって何をしてもいいわけじゃない。今のあんたみたいに全てを失うかもしれないからな」
 プレシアを見据えながら話す士。その言葉に麗華は訝しげな顔をする。
前にもそのことを聞いたが、どういうことなのかは聞いていなかったのだ。
それ故に気になるのだ。士が恩人であるからこそ余計に。
『く、うう……うるさいわ!?』
 一方、プレシアは怯えた様子を見せていたが、それを振り払うかのように怒りを見せたかと思うと映像が消えてしまう。
そのことに士は再度ため息を漏らしてしまったが。
「どういう……ことなんだ?」
「プレシアはアリシアを生き返らせようとしてるってことだよ。
ま、他にも目的はあるかもしれないが、今のままじゃ例え生き返らせられても幸せにはなれないだろうな」
「ええ、そうね……」
 戸惑いながら問い掛ける雄介に士はため息混じりに答え、その返事に叶も同意するように声を漏らした。
叶も5年前に両親がいなくなってるからこそ、両親がいた幸せの日々が戻ればと思ったことはある。
だからこそ、プレシアの気持ちもわからなくはないのだ。それでもプレシアのやってることはやりすぎだと思えた。
叶としてはプレシアが人としてはやってはいけない何かをしているように思えたのだから。
「どうしてなの?」
「後先考えて無いってことさ。必死になりすぎてな。で、そっちは上手く行ったのか?」
『ええ……でも、まさかプレシアがあなたに連絡を取ってくるとは思いませんでしたが』
 麗葉の疑問に答えつつ問い掛ける士。するとリビングから通信機を持った望が出てくる。
それと共に映像に投影されたリンディがどこか落ち込んだような顔で答えていた。
確かにプレシアがこちらの様子を見ていると思わなくもなかったが、すぐに接触してくるとは流石に思わなかったのだ。
ただ、この辺りは士も予想外だったことでもあるのだが。
 なお、なんで通信しているかといえば、士の指示があったからである。
士はプレシアと話してる間に気付かれないように注文票の裏にリンディに通信するように書き、それを望に見せたのだ。
むろん、その指示にはプレシアの通信映像から見えない場所でやること。
リンディと通信出来ても気付かれないようにすることなども書かれていたが。
『ですが、おかげでプレシアがいる座標がわかりました。乗り込もうと思えばすぐにでも行けますが――』
「今はやめといた方がいいだろう。あっちがその辺りの対策をしてないとは思えないしな」
『確かにそうですね』
 士はそんなことを告げると、話していたリンディもうなずく。
どういうことかといえば、幸いと言っていいのかプレシアとの通信で彼女の居場所が判明したのだ。
どうやら、自分との通信中にリンディ達と連絡を取り合うと考えていなかったらしく、通信妨害などをしていなかったのである。
なので、プレシアがいる場所がわかり、そこへ乗り込もうと思えば出来なくもないが、問題は人手不足だ。
プレシアは自分がいる場所に時空管理局が来る可能性を考えていると思った方がいいだろう。
そうなれば、それ相応の対策をしていると考えた方がいい。そうなのであれば、こちらが大きな損害を被ることにもなる。
それを避ける為にも、戦力が整った状態にした方がいいと考えたのだ。
『では、詳しいことはまた明日ということで――』
「まだ、やってるかい?」
『な!? お前は――』
「何しに来た、海東?」
 リンディがそれを告げようとした時だった。いきなり海東がフォトショップに入ってきて、そんなことを言い出す。
そのことにリンディの横にいたクロノが驚き、士は呆れたような顔をしていたが。
「何って、コーヒーを飲みに来たんだよ。あ、ブレンド1つね」
「は〜い」
『お前! そこを動くな! お前には公務執行妨害や諸々の容疑が――』
「しっかし、困ったもんだよ。ジュエルシードを取られちゃうなんてさ」
「クロノ、ちょっと黙っててくれ。で、それはどういうことだ?」
 のん気に注文をしつつもため息混じりにそんなことを漏らす海東に、士はクロノをなだめつつも訝しげに問い掛ける。
もっとも、クロノだけでなくリンディも同じような顔をしていた。聞き捨てならないことを聞いたのだから、当然の反応とも言えたが。
「いやさ、君達が見つけてないジュエルシードを手に入れようと思ったんだけどね。
おかしな連中がボクが行く前に見つけちゃってね。持って行かれちゃったんだよ」
『ちょ、ちょっと待ってください!? それってこいつらのことですか!?』
 海東の話を聞いて、慌てた様子のリンディがある映像を見せた。
それは碧屋の前で士達と怪人達とが戦っていた映像である。なんらかの為にと記録していたのだが――
「ああ、こいつらだよ。他にも見つけて持って行ってたみたいだけどさ」
『他にも!? いくつですか!?』
「さぁ? 後、いくつ残ってるか知らないけど、結構な数は見つけてたみたいだよ?」
「なるほど、俺達から奪うより楽な方を選んだ訳か。あっさり引き下がったのも、探し物を見つけたからだろうしな」
『でも、まさかこんなに早く見つけるなんて……私達でもちゃんと調査をしないと正確な位置はわからないのに』
 慌てながら再度問い掛けるリンディに海東はあっけらかんとした様子で答えるが、逆に士は深いため息を吐いていた。
怪人達の狙いがジュエルシードだとわかっているのだ。ならば、他に手に入る方法があったのなら、無理に戦う必要は無い。
あの時、怪人達があっさり引き下がったのはそうなったのだからだろうが、だとしてもまずいことには変わりない。
怪人達の目的を考えれば、ろくなことに使われないのは明白なのだから。
 一方で新たな映像に映るエイミィは落ち込んだ様子を見せていた。
リンディ達もジュエルシードがなのは達の世界に落ちた際のデータで、どこに落ちたかは大雑把な形で把握している。
しかし、正確な位置となるとそれなりの調査をしなければならない。
なので、もし士達が怪人達の思惑にすぐに気付いたとしても、後手に回っていたのは否めなかったのである。
方法はわからないが、怪人達はジュエルシードがある場所を正確につかんでいたのだから。
「ちょっと待て? もし、そいつらがなのは達が見つけてないジュエルシードを全部見つけたとしたら――」
『次の狙いは私達が持っている物か、もしくはプレシア――』
 そんな中、そのことに気付いた士の言葉にリンディもそのことに気付いた。
フェイトとアルフの話で少ないながらもプレシアがジュエルシードを持っているのは確かなことだった。
そして、なのは達もジュエルシードを持っている。正確にはなのは達が確保した物をリンディ達が保管しているのだが。
そうなれば、またなのは達かプレシアが持っているのを怪人達が狙うのは十分にありえた。
となれば――
「予定変更だ。明日、プレシアに会う。本当は今すぐにでも行きたい所だが、さっきのこともあるしな。
手荒い歓迎は覚悟しといた方がいいかもしれん」
 ため息混じりに話す士。怪人達が次にどちらを狙うかもあるが、どっちにしろプレシアに会う必要が出てきた。
これ以上、怪人達にジュエルシードが渡ることは確実に士達の不利益にしかなりえない。
それを避ける為にも早急な対策が必要なのだが、問題なのが先程のプレシアとのやりとりだ。
プレシアの心を揺さぶることは出来たが、同時に完全に敵対心を抱かせてしまった。
ある意味しょうがなくもあるのだが、このことに限っていえばマイナス要素としか言えない。
だが、手を取り合うまではいかなくとも、プレシアにも何かしてもらわなければ共倒れよりも最悪な状況に陥りかねないのだ。
故に士はマズイとわかりながらも早急に会うことを選んだのである。
「そういうわけだから、手伝え海東」
『ちょっと待て!? そいつは犯罪者だぞ!』
「そうだぞ。それにこいつはなのはちゃん達をひどいめにあわせたんだし」
「というか、なんでそんなことしなきゃならないんだい?」
 と、士の言葉にクロノは驚き、雄介も苦い顔をする。
確かに海東はなのは達と一悶着起こしていた。実際は一悶着では済まないのだが――
なので、クロノ言葉もある意味当然ではあったのだ。もっとも、海東も嫌そうな顔をしていたが。
「手が足りないと言っていたのはそっちだぞ? 後、海東。問題起こしたのはそっちなんだから、責任取るのは当然だろうが」
「問題とはひどいね? ボクはただ、お宝を手に入れようとしただけだよ?」
「それで子供を怪我させたのが問題だって言ってるんだよ。それ以外にもあるがな。
だが、手伝ってくれるなら、ジュエルシードを1個くらいもらえるように話は通しておいてもいいんだが?」
「本当かい、それは?」
 士の言葉に嫌そうにする海東だが、次に出た言葉に顔を輝かせていた。
確かに海東の狙いもジュエルシードなので、今の言葉で彼を動かすことは出来るかもしれない。
ただ――
『おい、何を勝手なことを――』
「話を通すだけだ。俺が出来るのはそこまでだろうしな」
「それは紛れもなく詐欺だよね?」
 話を聞いていたクロノは明らかに怒りを見せていた。ジュエルシードは本来、時空管理局が保管する手はずになっていたのだ。
それが事故でなのはの世界にばらまかれてしまっても変わらない。故にクロノが怒るのも当然であった。
が、士の言葉に望は呆れていたりするが。どういうことかというと、もらえるように話をするだけなのだ、士は。
本当にもらえるかはわからない。いや、十中八九もらえないだろうが――
それがわかったからこそ、望は呆れていたりするのである。
「なのは達にはあんたらから話をしといてくれ。明日、プレシアの所に乗り込むってな」
『わかりました』
 士の言葉にうなずくリンディ。本来なら、今すぐにでも乗り込みたかった。
なにしろ、怪人達の動きが速すぎる。今、この時も行動している可能性は高かったのだ。
だが、今日の戦闘などで士達もなのは達も疲弊している。そんな状態で行くのはある意味自殺行為に近い。
だからこその判断ではあったが、それは幸となるか不幸となるか……今はまだ、わからなかった。
「士、1つ聞いていいか?」
「ん? なんだ?」
「士のは記憶が無くて……本当に大丈夫なのか?」
 声を掛けられて顔を向ける士に、麗華は不安そうな顔をしながら問い掛けてきた。
士がある理由から記憶を無くしているのは、なのはの家族と一緒に話していた時に聞いている。
だからこそ気になったのだ。それで士は本当に困っていないのかと。
「あの時も言ったが、気にしないわけじゃないさ。だが、気にしすぎたからっていいってものでもないしな。
いつかは戻るんじゃないか? ぐらいに考えた方が気が楽でいいさ」
「しかし――」
「俺は俺、人は人だ。同じことでも人によっては感じ方は変わる。俺はそう感じている。ただ、それだけだよ」
 話を聞いてもなお心配そうな麗華であったが、士の次の言葉に息を呑んだ。
確かにそうなのかもしれない。だが、麗華には自分には士のような考えが出来るとは思えなかった。
だからこそ、士が羨ましくも思え――同時に嬉しくもあった。なぜなら、その士によって自分は救われたのだから。
『あなたって、本当に変わった人ね』
「良く言われるよ」
 苦笑するリンディに士は気にした風も無く答えた。リンディにとって士は本当に不思議な青年だった。
年相応には思えない考え方。それこそ、色々なことを経験してきた老兵のようなものを感じる。
それが不思議でならない。普通に考えれば、そのような経験を士のような年齢で出来るはずが無いのだ。
確かにリンディの考えは間違っていなかった。本来ならば、士はこのようになるはずでは無かったのだから。
だが、誰もそのことに気付かずに、先程の会話から誰もが笑みを浮かべていた。
それが士の核心に触れることだとは誰も気付かずに――




 あとがき
というわけで、今回も会話回……というか、1ヶ月ぶりです。
ようやくというか、落ち着いてきました。うん、栄養取るのって大事ですよね。
それはそれとして、事態は急展開……というか急展開過ぎますが、そこはそれ(おい)
いや、下手に延々とやってると話が進みませんしね。
というわけで、次回はプレシアの元に向かう事になった士達。
しかし、そこはすでに怪人達の襲撃を受けていて――というお話。
新しいファイナルアタック技出ますんで、その辺りはお楽しみ。
では、次回またお会いしましょう。あ、執筆担当してる科学と魔法と――もよろしく〜



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