次の日。なのは達はリンディらの呼び出しでアースラへと着ていた。
ただ、その連絡の時に忍にすずか、アリサが居合わせており、なのはのことが気掛かりで付いてきていたりする。
また、兄である恭也と姉の美由希も同じように心配から付いてきていたが。
「あ、あなたは――」
「お前は!?」
 で、そこにいた海東の姿になのはは驚き、アルフは睨み付けていた。
なお、フェイトの方は少し怯えた様子を見せている。その状況に事情を知らない者達は首を傾げていたが。
「海東の方は今は構わないでくれ。今はそれどころじゃなくなるかもしれないからな」
「あの、何かあったんですか?」
「そうね……まずはプレシアの居所がわかりました」
「え?」
 士の言葉に首を傾げるなのはだったが、リンディの返事にフェイトが驚いたように顔を向けた。
それはなのはやアルフ、ユーノも同じであったが。
「どうしてわかったかは説明が面倒なんで後にするが、急いでプレシアの所に行かなきゃならなくなった」
「というのも、昨日現れた怪物……といっていいのかはわかりませんが、その群れがプレシアの元に向かう可能性があるのです。
ジュエルシードを手に入れる為に――」
「そんな――」
 士とリンディの話に息を呑むなのは。
昨日現れた怪人達の強さは間近で見ているだけに、なのはにも大変な事が起きていると感じたのだ。
一方でフェイトは不安そうな顔をしていた。母であるプレシアの身を案じていた為に。
「そういうわけで今すぐ向かうんだが、フェイトに話しておくことがある」
「話しておく、こと、ですか?」
「ああ、プレシアの元に行ったら、お前は残酷なことを知るかもしれない。それを言っておこうと思ってな」
「え?」
 士の言葉に問い掛けたフェイトは首を傾げた。
残酷なこととはなんなのか? 不安もあったが、どういうことなのかわからない為に疑問の方が強かったのである。
「そうかもしれないって話だ。だがな、もしそうだとしたら、どうするべきなのかを考えておけ」
「は? あ、はい……」
 士の話が理解出来ず、フェイトは戸惑いながらもうなずいた。
今の話に不安を感じないわけではない。ただ、実感が無いだけに疑問の方がやはり大きかったのである。
一方でアルフは「話してくれてもいいじゃん」と頬を膨らませていたが、「確信が無いのを話せるか」と士に突っぱねられて睨んでいたが。
「そういや、アルハザードだったか? プレシアはそこへ行こうとしてるみたいだが、どんな所なんだ?」
「そうね。『忘れられし都』とも言われている古代ベルカ……といっても、あなた達にはわからないでしょうけど。
ともかく、その古代ベルカ時代よりも前に存在したと言われる世界よ。
そこでは時を操り、死者をも蘇らせる秘術があったとされてるけど、次元断層――
巨大な空間の穴の一種と考えてくれればいいわ。そこへと落ちたと言われてるの。
まぁ、今はそんな世界は存在しないというのが通説だったのだけど、プレシアのあの様子では存在すると確信しているようね」
 リンディの説明に問い掛けた士はあごに手をやりながらなにやら考え込んでいた。
一方で海東はそんな所があるのかと、なにやら想いをはせていたりするが。
「存在したとしても、プレシアが望む物があるとは限らないんじゃないか?」
「なぜです?」
「時を操ったり、死者を蘇らせたり、そんな凄い事が出来るんなら、次元断層に落ちることなんか無かったんじゃないのかと思ってね」
「一理あるな」
 話を聞いて問い掛けたユーノに話していた士が答える。
士が言うことは極論ではあるが、それだけの技術があるならば防ぐなり逃げ出すなりのことも可能だったと考えられる。
それ故にクロノは納得したかのようにうなずいていたのだ。まぁ、あくまで可能性の話でしかないが。
「もう少しでプレシアがいると思われる座標に到着します」
 そんな中、エイミィがそんなことを告げる。現在、アースラはプレシアがいると思われる空間へと移動中だった。
事前確認では座標が示す所は開けた空間があるのみというのがわかっている。
リンディ達はその空間にアースラのような(ふね)か何かに乗り、その座標にいるのでは? と思ったのだが――
「見えました……って、何あれ!?」
「何かあったの?」
「あ、いや、その、とにかく見てください。モニターに出します!」
 エイミィの慌てた様子に訝しげになるリンディ。エイミィは慌てながらも機器を操作し、空間にモニターを投影するのだが――
「し、島?」
 そのモニターに映る物に望は目を丸くする。なのはや雄介達も同じ様子だったが。
モニターには何も無い空間に自然豊かな島が浮かんでいた。正確には島では無いだろうが――
なにしろ、その島には建物や巨大な装置も見えていたのだから。
「あれ? 燃えてるのかな?」
「っ!? エイミィ! 拡大して!」
「は、はい!?」
 が、その島から煙が見えていることで麗葉が首を傾げるが、リンディは逆に不安を感じて指示を出した。
その指示にエイミィは慌てながらも機器を操作する。すると島の一部が拡大され――
「な!?」
「どうやら、一足遅かったようだな」
 怪人が左右から太いチューブを生やしたような樽のようにも見える丸っこい機械と戦っている所が見えた。
そのことに雄介は驚き、士は呆れたように呟く。士の場合は海東の話もあって、予測していたからの反応であったが。
「は、早くプレシアさんを助けに行かないと!?」
「いや、これはちょうどいいかもしれない」
 慌てるなのはだったが、士はモニターを見つつそんなことは漏らす。
「そんな!? あのままじゃ、プレシアさんが――」
「落ち着け。別に助けないって言ってる訳じゃない。ただ、どうやって話し合おうかと悩んでた所だ。
見る限り、まだ奥まで入り込んで無いようだし。今なら、話し合いが出来るかもな」
 怒りを見せるなのはに士はモニターから目を離さずに答えた。
前日の話し合いでプレシアを怒らせているだけに、どうやって話し合いに持ち込もうかと士は考えていたのだ。
そんな時に怪人達の襲撃。士はこれを渡りに船とし、話し合いに持ち込もうと考えていたのである。
そんな士を見てか、なのはの目に不安の色が出た。彼はいったい何を考えているのかと不安になったからだ。
「転送ってのはプレシアの所まで行けるのか?」
「あ、正確な座標がわからなければ……妨害もしてるようなので、建物の中への転送は無理だと思います」
「じゃあ、近くにしてくれ。フェイト、プレシアがいる建物はわかるか?」
「え? あ、これだと……思います」
 戸惑うエイミィの返事に問い掛けた士がフェイトに問い掛け、フェイトも迷いながらも1つの建物を指差す。
それは島の中で一際大きな建物であり、怪人達もそこへ行こうとしているのがモニター越しに見て取れた。
「いかにもって所だな」
「わかったんなら、早く行こうぜ」
「そのつもりだ」
 雄介の言葉にため息を吐いていた士はうなずく。すでに猶予は無いに等しかったから。


「なんなのよ、奴らは!?」
 時間は少しだけ遡り、フェイトが指差した建物の中にいたプレシアは悔しさのあまり顔を歪めていた。
空間に投影されるいくつものモニター。それらに映るのは士達が島と称する『時の庭園』を襲う怪人達の姿。
プレシアも士達が怪人達と戦う所は見ていた為、油断ならないと時の庭園の護衛である戦闘マシン『ガジェット』を送り込んだ。
それこそ、怪人達を殺すつもりで大量に。だが、中々倒せない上に逆にガジェットの方が倒されていく始末。
それに怪人達の数が多い上に広範囲に広がっているのでプレシアも魔法を使っての攻撃が出来ずにいた。
纏めて攻撃出来ればいいのだが、この状況では攻撃を当てることが出来る数が少ない。それでは焼け石に水のようなものだったのだ。
また、プレシアには攻撃したくても出来ない理由があったのだが――
「く……私は……ここで終われないのよ!!」
「それ以前の問題だと思うがな」
「え? な!?」
 悔しそうに叫んでいたプレシアであったが、聞こえてきた声に振り返って驚きの顔となる。
というのも、そこにいたのは変身した士達となのは達とクロノだったのだから。
実はプレシアは怪人達に気を取られ、アースラの接近に気付いていなかったのだ。
なにしろ、怪人達の数の多さに加えて広範囲に広がっていたので、それら出来る限り確認しようとし――
結果として、時の庭園の外側の監視がおろそかになってしまったのである。
 ちなみにだが、アリサとすずか、恭也と忍に美由希はリンディらと共にアースラにいる。
恭也は付いて行こうとしたがいくらなんでも無茶すぎた為に却下された。それでも付いて行こうとしたので魔法で拘束されたが。
ちなみにその指示を出したのは士だったりする。本人としては説得してる暇は無いという判断での指示だったが。
「あなた達も私の邪魔をする気!?」
「そりゃあんた次第だな。話次第じゃ、手伝ってもいいんだぜ?」
「なんですって?」
 睨むプレシアだったが、士の話に訝しげな顔をする。昨日の話した内容を考えると、士は邪魔をすると感じていたのだ。
それが手のひらを返したように手伝うと言い出す。話次第とは言ってはいるが、このことにプレシアは怪しんだのである。
「それを信じろと言うの?」
「俺達としてはあんたと戦う理由が無いし、お互いの得にもならない。
それに今あんたと戦っても、外にいる奴らに邪魔されるだけだ。そんなのはあんたとしてもごめんだろ?」
 再び睨み付けるプレシアだが、内心は士の話に半分ほど納得していた。
確かに今戦っても外にいる怪人達の邪魔が入るのは目に見えている。下手をすれば漁夫の利をされるだけだ。
その点では納得は出来る。だが、戦う理由が無いというのが納得出来ない。
前日はあれほどのことを言っていたのもあるが、時空管理局の局員と思われる者を連れているのだ。
だから、自分を捕まえに来たと考えたのだが――
「クロノ達のことは今は置いとけ。今はあんたと話がしたいだけだ」
 そんなことを考えていると士はそんなことを言い出すが、プレシアとしては信じられない。
なにしろ、士達は変身しているのだ。あの姿が戦闘用の物だとわかっている以上、それで話し合いするとは普通は思えない。
「なら、元の姿に戻りなさい。話はそれからよ」
「俺としてはそうしたいんだがな。この状況じゃ危なすぎてね」
 睨むプレシアに士は肩をすくめながら答えた。実際、士も変身した状態での話し合いはしたくはない。
プレシアが考えた通り、挑発にも見えるからだ。だが、いつ怪人達が襲ってくるかわからない状態でもある。
話し合いの為に元の姿に戻ってる時に襲われては本末転倒でもあった。故に士は変身したままで話し合いをするしかなかったのだ。
「ま、ともかくだ。あんたの目的はアリシア、かな?」
「っ!?」
「アリ、シア?」
 そんな中、士の問い掛けにプレシアは反応し、顔を歪める。
一方でフェイトは何のことかわからず訝しげな顔を見せていた。なにしろ、フェイトとしては初めて聞く名なのだ。
だからこそ、気になった。母であるプレシアがあそこまで反応を見せた名に。
「なぜ、それを……」
「ある程度までなら、あんたのことを調べることが出来たからな。
それに昨日の通信。あれのおかげであたりを付けることが出来たが、どうやら正解だったようだな」
 睨むプレシアに士は顔を向けたまま答える。
昨日の通信で確信はしていたが、やはりそうなのかと思うと複雑な想いではあったのだが。
その一方で海東とクロノを除いた全員は戸惑い気味に2人を見ていた。
「あの、アリシアというのは……」
「お前さんのお姉さんだよ。すでに亡くなっているがね」
「え?」
「そいつはアリシアの妹なんかじゃない!」
 士の言葉に問い掛けたフェイトは目を丸くするが、それを聞いたプレシアは叫んでいた。
同時に海東とクロノを除いた全員の戸惑いの色が強くなる。フェイトの姉とはどういうことなのか?
あの時、話を聞いていた雄介と麗華も理解出来ずに戸惑うしなかったのである。
また、アースラでもモニター越しに見ていたアリサ、すずか、恭也、忍、美由希も同じように戸惑っていたのだが。
「お姉さんって、どういうことだい!? 答えな!?」
 一方でいきなりの事実にアルフが戸惑いながらも叫んでしまう。
なにしろ、何も知らされていないのだ。一方で雄介と麗華は訝しげな顔をしていた。
アリシアのことは士とプレシアの通信の場にいたので知っている。
だが、その時の話を考えるとそれだけで無いような気がした。だから、他に何かあるのかと疑ってしまうのだ。
「これは俺の推測なんだが……あんたは死んだアリシアを生き返らせようとして、ある方法を思いついた。
クローンを創って、そのクローンにアリシアの記憶を移す。そうすればアリシアが蘇る……と、あんたは考えたんだろうな」
「え……」
 あっさりと話す士だが、聞いていたフェイトは呆然とした。
いや、嫌な予感がしたと言った方がいい。なぜか、そのクローンという部分が気に掛かったのだから。
「だが、なんらかの理由で失敗した。あんたのフェイトへの八つ当たりはそれが理由だろ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? そ、それって、フェイトちゃんは――」
 士がそこまで言うと、雄介は戸惑ったように問い掛けていた。
ここまで来ると雄介にも話がわかってくる。アリシアとあまりにも似すぎているフェイト。
そして、今のクローンの話……そこから導き出される答えに麗華と共に困惑していたのだ。
「フェイトはアリシアのクローンだろうな。俺の考えが間違っていなければだが」
 それでも士は変わらない様子で答えた。そのことに誰もが言葉を無くす。
クロノは知っていたのか顔をそらし、プレシアは士を睨んでいたが。一方でフェイトは震えていた。
話がわからない……いや、理解したくなかったのだ。してしまったら、自分の何かが壊れてしまいそうな気がして――
「なぜ……なぜ、わかったの?」
「あんたのことはある程度調べられたって言っただろ? アリシアが20年以上前に死んでいたのはその時に知った。
で、アリシアとフェイト。生まれた時期が違いすぎるのに双子みたいに似ている。偶然にしては出来過ぎてるとは思ってな。
それであんたが科学者みたいなことをしてたのを思い出してクローンのことを考えたんだが……俺としては当たって欲しくなかったよ」
 睨むプレシアに士は静かに答える。士としても今回ばかりは自分の考えがはずれて欲しかった。
当たったとしても何1ついいことなど無い。悲しい事実をフェイトに突きつけるだけなのだから。
しかし、士はそれでも指摘しなければならない。今後のフェイトの為にも――
「え、あ――」
「あれって――」
 そんな中、プレシアの横で床が開き、そこから何かがせり上がってくる。
それは大きな――大人が余裕で入れそうなカプセルが装置に繋がれた形で現れたのだ。
そのカプセルの中は液体で満たされており、その中に1人の女の子がいた。フェイトを幼くしたような女の子が――
 その光景にフェイトは呆然とし、なのはも困惑した表情を浮かべる。
士とクロノを除いた全員も似たような様子を見せていたが、そんな中でプレシアはその女の子が入っているカプセルに寄り添っていた。
「そう、この子がアリシア……私の唯一の子供よ……私はこの子を蘇らせようと色んな事をしたわ……
そう、この子が蘇るなら私はなんだってした。あなたがいるのも、その一環だったのよ」
 カプセルの中の女の子――アリシアを見つめながら、プレシアは語り始める。
誰もが黙ってその話を聞いていたが、フェイトだけは体をわずかながらに震わせていた。
そんなはずは無いと思いたかった。でも、今のプレシアのそばにいる女の子はどう見ても自分で――
だからこそ、怖くなった。自分という存在がなんなのかを。
「でも、あなたはアリシアなんかじゃ無かった!? 仕草はアリシアと違うし、アリシアは魔法なんて使えなかった!?」
 だが、プレシアは突然睨んできたかと思うと激昂しだしてしまう。
そのことにフェイトは怯えるしかない。怖かった。プレシアがでは無く、自分のことが……
自分という存在が、今のプレシアにしてしまったのではと思ったのだ。
「だから、私は他の方法を模索するしかなかった……あなたが……あなたがアリシアであれば……
だから、嫌いよ……私はあなたのことが嫌いだったわ」
「あ……」
「フェイト!?」「フェイトちゃん!?」
 やがて、自嘲気味な笑みを浮かべるプレシアの言葉にフェイトを崩れるように膝を付いてしまう。
そのことに慌ててアルフとなのはが駆け寄るが、フェイトは呆然としたまま震えるだけであった。
「クソババァ……」
「で、八つ当たりして、気が済んだか?」
「なんですって?」
 フェイトを心配そうに抱きしめながら睨むアルフの横で、前に出てきた士の言葉にプレシアは睨み付ける。
そんなことを言っていた士は肩をすくめていたが。
「何が八つ当たりですって?」
「俺にはあんたが言ってることは八つ当たりにしか聞こえないけどな」
 睨むプレシアだが、士から返ってきた言葉に更に睨むこととなった。
なぜなら、士が言ってることが的外れに思え、それが逆鱗に触れたからだ。
「ふざけないで!? そいつはアリシアでも、アリシアの妹でも無いのよ!?」
「人は物じゃ無いんだ。なんでもかんでもあんたの思い通りに行くわけが無いだろ。
なのに、自分の思い通りにいかなかったから怒るとか、かんしゃく起こした子供と同じにしか思えないがな。
これが八つ当たりじゃなくてなんだって言うんだよ?」
 叫ぶプレシアであったが、士は肩をすくめながら気にした様子も無く言い返していた。
確かにプレシアが言っていることは言い掛かりにも思える。また、士の言うとおり人は物では無い。
親は子供にこう育って欲しいと思い描き、その通りになるように育てる人は多いと思う。
だが、そのようになるのは希と言っていいかもしれない。様々な事情でそのように育てるのは難しいのだ。
現に一卵性双生児であっても、性格の違いが出るのは良く聞く話なのだから――
「それと前にも言ったよな? 自分がしてきたことをアリシアに話せるのかって?」
「そ、そんなのは関係無いわ!?」
 もう1つの指摘に言い返すプレシアだが、指摘した士は顔を動かした。
今のプレシアの言葉が気になったのだ。それ故に士の中でもしやという思いがよぎる。
「まさか、話さないつもりか?」
「ええ、そうよ……アリシアが蘇ったら、私はアリシアと2人で過ごすのよ……誰にも邪魔をされずにいつまでも……」
「呆れたもんだ」
 プレシアの言葉に問い掛けた士はため息を吐いた。その一方でフェイトの震えは強くなっていたが――
前日の話し合いの結果、プレシアは開き直ってしまったようなのだが……これがいいかと言えば、ある意味最悪であった。
というのも――
「同じ事をもう一度聞く。あんたは何をわかって、そんなことが言える?」
「ふざけるな!? 何も知らないガキが!?」
「当たり前だ。俺はあんたじゃないし、会ったのもつい最近なんだ。あんたのことをなんでも知ってるわけ無いだろ?」
 憎悪の顔で叫ぶプレシアに問い掛けた士は気にした風も無く答えた。
このことに海東を除く誰もが心配そうに様子を見守っていたが――ふと、士はプレシアに人差し指を向ける。
「じゃあ、質問を変えよう。あんたはアリシアの何を知って、そんなことが言える?」
「ふざけないで!? 私はアリシアの事ならなんだって知ってる!? アリシアのことなら、なんだって!?」
 その士の質問にプレシアは叫び返す。それこそ心外だと言わんばかりに。
なにしろ、自分はアリシアの為に今までこうしてきたのだ。知らないことなんか何も――
「じゃあ、聞くが……アリシアが蘇ったとしよう。どうやって蘇らせてくれたのか聞くとは思わないのか?
例え、それを聞かなかったとしても、あんたがさっき言ってた通り2人だけで過ごすとしたらだ。
どうして、自分達しかいないのか聞きたくなると思うんだが、その時はどうするんだ?」
「……え?」
 その指摘にプレシアは呆けてしまい、指摘した士はため息を吐いていた。
前にも士は言っていたが、プレシアは後先を考えていなかった。
半ば、アリシアを生き返らせることに心血を注ぎ込み過ぎた為の暴走なのだろう。
だから、そういったことに気付かなかったのかもしれない。
「これはあくまでも俺の考えだが、あんたはアリシアを蘇らせることに一応成功していたんだと思う。
だが、あんたはアリシアとの思い出にしがみつき過ぎた。そのせいで思い出とは違うことをするフェイトを全く違う者と思い込んだんだろうな」
 士の言葉にプレシアだけでなく、誰もが士へと顔を向ける。
その中でプレシアは士の今の言葉を否定出来なかった。確かにそうなのだ。
自分の中にある思い出と違うことをフェイトはしてきたのだし、それにアリシアは魔法を使えなかった。
これは検査もしたのでハッキリと言える。だからこそ、プレシアはフェイトをアリシアと……娘と見れなかったのである。
「だが、思い出はあくまでも思い出だ。決して、アリシアの全てなんかじゃない。
アリシアだって、あんたが見てない所であんたの知らないことをしてきたはずだ。
それでも言えるのか? あんたはアリシアの全てを知ってるって?」
 士の話にプレシアは何も言えなかった。否定はしたかった。
だが、出来ない。事実、アリシアが生きていた時は仕事などであまり会えなかったこともあったのだし。
それでも否定はしたかったのだ。そんなことは無いと。だから、必死に……必死にアリシアと過ごしたことを思い出そうとする。
そんなはずは無い。自分はアリシアの全てを知っているのだから――
『あのね、お母さん……』
 だが、そうしたことでアリシアの悲しそうな顔や何かを言いかけて、自分の都合で聞けなかったことなど――
そういった場面を思い出すこととなった。
『お母さん、私ね――』
 そして、アリシアのお願いを聞いて、苦笑したことなども思い出し――
「あ、ああ、ああぁぁぁぁ……」
 崩れるようにうなだれ、膝と両手を床に付き、涙を流し始めてしまい、そんなプレシアを見ていた士はため息を漏らすしかなかった。
プレシアが今までやってきたことはハッキリ言ってしまえば犯罪だ。それが例えアリシアを生き返らせる為だとしてもだ。
だが、プレシアはそれでもやってしまった。アリシアを生き返らせる。ただ、それだけの為に行動してきた。
それ故にそれ以外に何も見えていなかったのかもしれない。
その行動がアリシアを生き返らせるどころか、世界を滅ぼしかねないことにもなるとも気付かずに。
そんなプレシアを見てか、士はため息を吐くしかなかった。
「やれやれ、一心不乱になるってのは悪い事じゃないが、やり過ぎるのもどうかだよな」
「いや、そんな場合じゃ……第一、フェイトちゃんはどうするんだよ?」
「そうだな」
 そんな士の言葉に雄介がツッコムが、士はといえばフェイトに顔を向け――
「さてと、フェイト。今の話を聞いて、お前さんは何か変わったか?」
「あんた、何を言ってるんだい!?」
「……え?」
 士の不意な問い掛けにアルフは怒り出すが、一方でフェイトは震えながらも顔を向けていた。
そこでフェイトは思った。士が変わらずに自分を見ている事に。
「流石に考えとか想いとか、そういうのは変わるかもしれないが。だが、お前さん自身は何か変わったか?」
 士の問い掛けにフェイトは少し悩んでから自分の両手を見つめてみた。
そこにあるのは何も変わらぬ自分の両手。鏡を見れば、たぶんだがいつもの自分の姿を見れるだろう。
だが、それがどうしたと……私は……私は……
「お前さんはお前さんだ。当然だ。それはどうしたって変えられないからな」
 だが、士の次の言葉に思わず顔を向けてしまう。
周りを見てみれば、なのはやアルフが心配そうにこちらを見ていた。それはクロノや雄介達も同じだ。
それから、士を再び見てみるが、やはりいつもと変わらないように自分を見ているような気がした。
マスクで表情がわからないのに、なぜかそう思えたのだ。
 ただ、内心で士はそれは絶対では無いことも考えていたのだが。
実際の所、歳を取るなどして内面的な物が変わっていくのも良くある話なのだから。
だが、今すぐというのはまず無い。だからこそ、フェイトに聞きたかったのだ。
今の自分は何者なのかと――
「私は……」
 フェイトは考えた。自分はなんなのかと。自分は何をしたいのか……自分は――
フェイトがそんなことを考えていた時、爆発音と共に煙が流れ込んでくる。
何事かと誰もが顔を向けると、そこには破壊されて大きく穴が開いた壁と、そこから出てくる怪人達の姿があった。
「まったく、こっちの用事が終わってないってないんだが……ここまで保っただけでも良しとするか」
「けど、どうするんだ? 流石に数が多すぎるぞ?」
「海東にも手伝わせるが、確かにな」
 雄介の問い掛けに呆れた様子を見せていた士もあごに手をやって考えるような仕草を見せていた。
実際に怪人達の数は多い。士達の10倍――もしかしたら、それ以上いるかもしれない。
流石の士もこの数に正面から勝てるとは思っておらず、どうしたものかと考えていたのだ。
このことになのはやクロノ、麗華も身構える。事態は終演を迎えようとしていた。




 あとがき
そんなわけでなのは編も終盤を迎えました。本当ならこの話は最後まで書きたかったのですがね。
まぁ、なんというか……ノリが悪かったとしか言えません(なんじゃそりゃ)
それはそれとして、次回はたぶんなのは編最終回(たぶんって)
圧倒的な差に士はどうするのか? そして、なのはとフェイトはこの状況に何を思うのか?
次回は今度こそ本当になのは編必殺技登場。とりあえず、楽しみにしててください。
では、次回またお会いしましょう。

 追伸
シルフェニア8周年だそうで。記念をどうしようかと考え中。
ゾイド/ZEROのSSとクトゥルフ神話風SS。どっちがいいですかね?(え?)



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