「それで、どうなんですか?」
「織斑君のケガは大したことは無いそうです。ただ、過労なそうなので、しばらく休ませた方がいいそうですけど」
 仮面ライダー部の部室。そこにいた箒の問い掛けに部室に入ってきた真耶が答える。
それを聞いていた箒に鈴、セシリアと本音に簪、シャルルはほっとしていたが。
なお、本来は一夏のそばにいたかったのだが、邪魔になるからと千冬に追い返されていたりする。
それとシャルルがここにいるのは事情を聞く為だったりするが。
「で、ラウラって子は?」
「そちらは大した事はないそうですので、じきに目を覚ますだろうと。今は2人とも織斑先生が見ています」
「そっか」
 で、真耶の返事に問い掛けた衛理華はため息を吐く。
というのも今回の事は問題が起きすぎたのだ。まず、IS学園に多大な被害が出た。
幸い、休日で学校にあまり人がいなかった為に怪我人は出なかったものの、路地や建物の破壊が大きすぎる。
なので、その張本人であるラウラにはいずれなんらかの処罰が下されることになるかもしれない。
「ところで……ラウラに何が起きたんですか?」
 そんな中、シャルルは思わず問い掛ける。
思い出すのは流体化し、ラウラを呑み込んだ上に一夏に襲いかかったIS。
箒達は直接見てないが話を聞く限りではただ事でないのはわかるので、答えを知ると思われる真耶に顔を向けていた。
「それは……機密に触れるそうなので私も詳しくは知らされてないんです。
ただ、ラウラさんのISに何かが仕込まれていて、それが発動してああなったみたいなんですが」
「ありえそうな話ね。IS開発に至ってはどこもしのぎを削ってるようなものだし。危なそうな物を仕込んでいても不思議じゃないかも」
 すまなそうな顔をして答える真耶の話に、衛理華は肩をすくめながらため息を吐いた。
衛理華の言うとおり、現在IS開発は各国で躍起になって行われている。
理由としてはそれによって高いIS技術力を示せれば、高い発言力を持てるなどのメリットが出る為だ。
なので、時として非合法のようなことも行われることもある。まぁ、そういった物は大抵表には出てこないが。
「お待たせしました」
「待ってたわ。それで?」
「ラウラさんに関しては処分は保留のようです。緊急事態による対処と判断されたようですので。
幸いにも怪我人はいませんでしたしね。まぁ、どこかのごり押しもあったみたいですけど」
 そんな時に虚と共にやってきた楯無に衛理華が問い掛けると、楯無は開いた扇子で口元を隠しつつ呆れながら返答していた。
緊急事態というのはわからなくもない。実際、女生徒達がゾディアーツに襲われていたのだし、怪我人が出なかったのも幸いしていた。
まぁ、ドイツが責任逃れをする為に無理矢理そうしたというのが一番の理由なのだが。
「流石に修繕費の負担はしなければならないようですけどね。しかし、一番の問題はフォーゼが国際IS委員会に知られたことです」
「やっぱり、そうよねぇ……」
 続けて出た楯無の話に衛理華は深いため息を吐いた。
国際IS委員会とは大雑把に言うと各国のISの監視やISに関することを決める機関だ。
これがもし一夏だけで対処出来ていれば、フォーゼの存在がそこに知られることは無かったかもしれない。
だが、ラウラが騒ぎを大きくしてしまった為に隠し通すことが出来なくなってしまったのである。
で、フォーゼの存在が知られたことで一番の問題というのが――
「なにしろ、暴走していたとはいえISを倒してしまいましたからね。委員会はかなり興味を持ってしまったようです」
「本気で厄介な」
 楯無の言葉に衛理華は頭を抱えた。
そう、フォーゼ――コズミックエナジーはISに対抗出来る存在だと証明されてしまったのが問題なのだ。
暴走していたラウラのISを倒してしまったのだから、当然とも言える。
かといって、衛理華にとっては歓迎出来ることでは無い。むしろ、厄介ごとが降ってきたような物だ。
先程、ISで行われていた非合法なことがコズミックエナジーでも行われるだろう。
それにISの登場で損害を被った国もある。そういった国に狙われることにもなりかねない。
更には一夏も危ない。今、コズミックエナジーを活用出来ているのはゾディアーツと一夏だけなのだから。
まぁ、コズミックエナジーの研究者でもある衛理華も危ないと言えば危ないのだが。
「どうにか、ならないのですか?」
「織斑君はIS学園の特記事項で守れますが、星野先生はあるNPO法人の所属であるという形にしました。
本当はまだ先のつもりでしたが、こうでもしないと無用な接触が出てくると思いましたので」
「なによ、そのNPO法人って?」
「今はどんな所かは言えません。まぁ、世界平和の為の所であるのは間違いありませんので、その辺りはご安心を。
数日中にはそこから人が来ることになっておりますが……その辺りはご容赦頂けると助かります」
 心配そうな顔をする箒の問い掛けに楯無が答えるが、そのことに疑問に思った衛理華の問い掛けには困った顔をしてしまう。
まぁ、楯無が言うNPO法人の存在は表向きの話であり、裏ではある意味異なった活動をしてる。
ただ、世界平和というのは本当のことである。どんなことをしてるかは、今ここで詳しいことは言えないので誤魔化したが。
 後、IS学園の特記事項というのは、55ある内の1つに在学中の生徒はあらゆる国家、組織、団体に帰属しないことは明記されている。
これは1つの場所にIS操縦者が集まりすぎないようにするなどの対処の為の物だが――
幸いと言っていいかは不明だが、今回はその特記事項が一夏の身を守ることになっていた。
ただし、どこまでも有効とは限らないので、すぐにでも対処しなければならなくもあったが。
「ま、その辺りはしょうがないか。こうなると何か聞かれるのは避けられないでしょうしね。でも、その人達は本当に大丈夫なんでしょうね?」
「その点に関しましては私は保証します」
 視線を向けつつ問い掛ける衛理華に、楯無は笑顔で答える。
しかし、それにはシャルルを除いた一同が不安に駆られた。というのも、何をやったのか非常に気になったのである。
一方、シャルルは他のことを考えていたりする。あの戦闘で見たアストロスイッチの能力。
これがあれば、もしかしたら――今まで話を聞いた上でそう考えてしまう。
だが、その一方でそんなことをして本当にいいのかと思ってしまった。だって、あの時に一夏に助けられて――
そんな葛藤を抱えながら、シャルルは懐にあるエレキスイッチに服越しに触れるのだった。


「ん……あ?」
 その頃、医務室のベッドで寝ていたラウラは目を覚まし、辺りを見回す。
そこでここが医務室であること。横に千冬が腕を組んで座っていることに気付いた。
「何が……起きたのですか?」
「一応、重要案件である上に機密事項であるのだがな。VTシステムは知っているな?」
「ヴァルキリー・トレース・システム……」
 千冬の返事に問い掛けたラウラは驚いたような顔をする。ヴァルキリー・トレース・システム。通称『VTシステム』。
どんな物かというと、過去のモンド・グロッソ出場者の動き、戦闘方法をデータ化し、それを再現、実行させるシステムなのである。
しかし、これは操縦者に著しく負担を与えるシステムでもあり、IS条約で全ての研究、開発、使用が禁止されていた。
このシステムがラウラのISに巧妙に仕込まれていて、ISのダメージ状況や操縦者の精神状態――
千冬は操縦者の願望もあったのかもしれないがと漏らしていたが。それらがそろうことで初めて発動するようになっていたという。
それが国際IS委員会に知られ、ラウラの本国にすぐにでも査察に入ることも千冬は告げていた。
「私が……望んだからですね?」
 その話を聞いて、ラウラはそう思ってしまう。
あの時、聞こえた声。その声に従うように力を望んでしまった。その結果が――
そう考えるとラウラは自分が情けなくなってきた。確かに一夏を恨んではいた。
しかし、その恨みのままに行動し、その結果が……
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「は、はい?」
「お前は何者だ?」
「え?」
 千冬の問い掛けにラウラは声が詰まる。自分は何者なのか? そんなことを今まで考えたことも無い。
故にラウラは答える事が出来なかった。
「何者でも無いなら、お前はお前になればいい。私のような者になることはないんだからな」
「きょう……かん?」
 そう言い放つ千冬だが、その表情は自嘲気味な笑みであった。そのことにラウラは首を傾げてしまう。
「私は……何をしてるんだろうな……大事なことを教えていたつもりでいて……結局はこのざまなのだから……」
 少し震えながら、思わず本音を漏らす千冬。
彼女は大事なことをISの授業などで伝えていた。少なくとも本人はそのつもりだったのだ。
しかし、それを全ての者が受け取っているわけではない。中にはラウラのように思い込んでしまう者もいた。
そういった意味では衛理華の指摘は正しかったのだと千冬は思う。様子を見てと思った矢先に起きてしまった今回の事態。
それによって建物などが破壊され、一夏も倒れてしまう。建物の方は修復が可能であり、一夏も大事で無かったのは幸いだったが。
だからといって問題が無い訳では無い。むしろ、山積みとなった。フォーゼの存在が国際IS委員会に知られたなど――
そのせいで千冬は自分で自分を罵りたい気分であった。いったい、何をやっているのかと。
自分がすぐにでも対処していれば、こんなことは起きなかったかもしれないのに――
そのせいで一夏の立場は今まで以上に危うくなってしまった。守らなければならない存在なのに……
 そんなことを思うが故に震える千冬。そんな彼女を見て、ラウラは心が痛くなった。
自分のせいだと思った。自分が馬鹿なことをしたせいで、千冬はこんなことになってしまったと。
その思いで何も言えなくなる2人。その横では一夏が静かに寝息を立てているのも忘れて――


 一方、廃工場と思しき所。そこにユニコーンのゾディアーツ姿の孝がいた。
「くそ! くそくそ! あいつが……あいつが邪魔をしなければぁ〜!?」
 そこで悔しがりながら叫び続けていたのだが、その体に変化が現れる。
体が何かに変わろうとしている。しかし、映像の巻き戻しのようにすぐに戻ってしまうのだが。
「ほう、思ったよりも素質があったか。これは期待出来るかもしれんな」
 その様子を遠くから見ていたサソリのゾディアーツ。
今回スイッチを渡した者に起こった変化。最初からそれが起きるのを見越して渡してはいるが、起きたのが予想よりも早かった。
これならばと考えつつ、その変化が完全な物となるようにサソリのゾディアーツはある方法を考えつくのだった。


 日も暮れた時間になって、一夏は目を覚ます。
その後に居合わせた養護教諭の診断を受け、問題無いと言い渡されたのでそのまま自室に戻り――
「ただいま〜って、シャルルはシャワーか」
 そして、自室に入るもののシャルルの姿は無く、代わりに洗面室から水音が聞こえていた。
その音でそう判断した一夏は自分のベッドに向かうが――
「あ、そういやボディソープが切れてたんだっけ」
 そのことを思い出して洗面所に入り、ボディソープの詰め替え用パックを取り出し――
「シャルル、悪い。ボディソープが切れて――」
「え?」
 声を掛けようとした所でシャワー室のドアが開き、シャルルが姿を見せるのだが――
「きゃあぁ!?」
 実に女の子らしい悲鳴を上げるシャルル。それと共に両腕で自分の体を隠していた。
で、それを見ていた一夏は固まる。なぜか? それはシャルルの体付きに問題があったからである。
細身というか均整が取れた体付き。腰はくびれており、ISの待機状態であるペンダントを持ち上げるふっくらとした胸。
なんというか、明らかに女性にしか見えない。しかし、シャルルは男のはず。じゃあ、この人は誰?
と、こんな感じで一夏は混乱してたりするのだが。
「あ、えっと……これ、ボディソープ……じゃあ……」
「う、うん……」
 何が何だかわからないまま一夏はボディソープの詰め替え用パックを渡して洗面台を出る。
で、シャルルは赤くなってうつむいたまま見送り返事をしていたが――
「え、ええ!?」
 洗面所を出た所で一夏は事態を理解し、すっごく驚くはめとなった。
しばらくしてシャルルは学校のジャージ姿で洗面女から出てくる。顔は相変わらず赤いままだったが。
「あ、えっと……その、なんというか……ええと……」
 そんなシャルルになんと言えばいいか悩む一夏。
裸を見たことを謝るべきか、それとも本当に女の子なのかを聞くべきなのかを。
まぁ、一夏としては謝りたい所ではあったが。シャルルは隠していたが、一夏はバッチリと見ていたのである。
何を……とはあえて言わないでおくが。
「それで……なんで、男のふりなんかを?」
 しかし、なんと謝ればいいか思いつかず、別に気になっていたことを聞くことにしたが。
「実家からそうしろって言われて……」
「実家って……確か、シャルルの実家は――」
 どこか自嘲気味な笑みを浮かべるシャルルの言葉に、一夏はそのことを思い出そうとしていた。
ISメーカーであるデュノア社。それを思い出すと共にシャルルはその社長の子供であることを告げられる。
そして、その父親である社長の命令でここに来たのを告げてから、その経緯を話し始めた。
シャルルは社長の実の子供では無く、愛人との間に生まれた子供であった。
しかし、母親が2年前に他界。シャルルは父親に引き取られることとなったが――
検査でIS特性が高いことが判明し、非公式でデュノア社のテストパイロットをすることとなった。
ただ、そのせいか父親と会ったのは2回。数十分にも満たない時間でしか話したことがない。
そんな中、デュノア社は経営危機に立たされる。確かにISの売り上げは世界3位のシェアは誇っていた。
しかし、IS開発の遅れが看過出来ない物となり、このままではISの開発許可が剥奪されかねない状態になっていたのである。
そんなデュノア社が対応に悩んでいた時、一夏の登場がある企みを思いつかせてしまう。
それはシャルルを男としてIS学園に入学させて本国の広告塔にするというものだった。
更には一夏に近付きやすくして日本が開発しているISと一夏のデータを得ようとしたのだ。
まぁ、他国が開発してる第3世代型ISのデータもあわよくばと考えていたりもするが。
つまり、シャルルはスパイとしてIS学園に来て、一夏と白式のデータを盗もうとしたのである。
もっとも、シャルルとしては本意では無い。例え、父親の命令であったとしてもだ。
「ごめん……今まで嘘をついて……」
 それらを話し終えてから、シャルルは頭を下げる。
しかし、その顔には笑顔が浮かんでいた。本意で無いことをやらされた上、そのことを誰にも告げられない。
そのことで心苦しく思っていただけに、一夏に話せただけでも気分が楽になったのである。
 一方で一夏は考えていた。一夏も千冬に苦労して育てられたこともあり、千冬には強く出られない面がある。
シャルルもある意味似たような環境故に父親に強く出られなかったのはわからなくもない。
しかし――
「シャルルは、これからどうするつもりなんだ?」
 これでいいのかと考えてしまう。デュノア社の事情もわからなくもない。
かといって、娘にこのようなことをさせてもいいのかと思ってしまう。
だから一夏としてはやめさせたかったが、その為にはなんと言えばいいのかわからなかった。
わからず、思わずそんなことを聞いてしまったのである。
「女の子だって知られたから、本国に呼び戻されると思う。その後はわからないけど……もしかしたら、牢屋行きかな?」
 その問い掛けにシャルルは自嘲気味な笑みを浮かべながら答えた。シャルルがしたのは詐称だ。
本国フランスやIS委員会がそのことをどう判断するかはわからないが、少なくとも本国への強制送還は免れない。
逆にシャルルに命令したデュノア社はこんな場合も考えているだろうから、大して罰則を受けないかもしれないが――
「だったら……俺が言わなきゃ大丈夫、だよな?」
「一夏?」
 一夏の漏らした言葉にシャルルは思わず首を傾げる。
一夏としてはシャルルを助けたかった。でも、どうすればいいか思いつかない。
フォーゼの力でどうにかなる事でもない故に――
結局の所、自分がシャルルの正体を内緒にすることしか思い浮かばなかった。
もっとも、思惑も無しに思いついたわけではなかったが。
「確か、IS学園在学中はどこにも帰属しちゃいけないんだろ? それってどこからの干渉も受けないってことになるんだろうし。
だから、少なくとも在学中は大丈夫だと思う。その間に方法を考えればいいさ」
 そう、55ある特記事項の内の1つ。あらゆる国家、組織、団体に帰属しないというあれだ。
一夏は少し前までISの参考書を読みふけっていたこともあって、そのことを覚えていたのである。
「良く覚えてるね……確か、特記事項って55もあったと思ったけど……」
「あはは、ちょっと訳あって猛勉強しててさ。そのおかげで覚えてたんだけどな」
 苦笑混じりに問い掛けるシャルルに、これまた苦笑混じりに答える一夏。
一夏としては姉の千冬に言われたからだが、そのことが言いにくくて誤魔化ことにした。
(一夏……ありがとう……でも……)
 そんな一夏に感謝しつつもシャルルは心苦しさを感じていた。
懐に忍ばせてあるエレキスイッチ。シャルルはどんな物かわかっていないが、フォーゼの戦う所を見ていると凄い物だというのはわかった。
もし、これを持っていけば――でも、自分は一夏に助けられた。そんな彼を裏切るようなことをしても良いのかとも思ってしまう。
(ボクは……どうすればいいんだろ……)
 そのことに思い悩むシャルル。だが、その答えは簡単には見つからなかった。


「織斑先生やラウラのこと、どう思う?」
「確かに様子がおかしいよな」
 教室で箒の問い掛けに一夏は首を傾げながら答える。
次の日、授業を受ける一夏達だが、千冬とラウラの様子に首を傾げていた。
千冬は変わらぬように見えるが時折気落ちしたような様子を見せ、時には心配そうに一夏を見てる時もある。
で、ラウラはそんな千冬を心配そうに見ているし。このことに一夏達は首を傾げていたのだ。
「それで……なぜ、こんなことになるのだ?」
 で、ジト目で問い掛けるラウラ。先程とは時間と場所が変わって昼休みの食堂。
で、ラウラがなんでそんなことを聞くかというと――
「いや、なんか元気無さそうだったし。どうしたのかなと思って」
「それで無理矢理連行してきたのか」
 後頭部を掻きつつ笑顔で答える一夏にラウラはジト目を向ける。
そう、千冬とラウラの様子が気になった一夏が話を聞こうと、こんなことを考えたのである。
ただ、千冬は仕事があったのでラウラのみとなったが。なお、ラウラの連行をしたのは本音とセシリアであるのを言っておこう。
「それで何があったのよ?」
「昨日の事で少し……な」
 鈴の問い掛けにラウラはうつむきながら答えた。前日の暴走は国際IS委員会の本国査察という結果をもたらした。
禁止されているシステムをわからぬようにラウラのISに搭載していたのだから、ある意味当然でもあるが。
そして、ラウラは減給を含めた厳重注意処分を受ける。
なぜ、減給かといえばラウラはある部隊の隊長であり、それで給料をもらっているからこその罰則であった。
それはそれとして、ISの暴走がラウラに直接の原因が無かったとしても、この処分は破格の軽さと言える。
なにしろ、ISの無断使用。公共施設、というかIS学園施設の破壊。
怪我人こそ出なかったが、それでもラウラに下された処分としてはあまりにも軽すぎる。
その理由はすぐにわかった。昨日の通信で本国から処分と共に言い渡されたのだから。
フォーゼ、及びゾディアーツの調査。ラウラはすぐに気付いた。本国は欲してしまったのだ。
ISとも渡り合えるフォーゼとゾディアーツの力を。そして、その力を得る尖兵としてラウラを指名したのも――
この時、ラウラは自分の足下が崩れるような思いだった。本国が自分をその程度にしか見ていないとわかった為に。
彼女はある実験で生まれた少女だった。本国の兵器として――
本国の尖兵としてあらゆる戦闘技術などを体得していたが、ある実験の失敗によりラウラはそれを失ったような状態になってしまう。
それによりラウラは出来損ないのような扱いを受けたが、千冬の教えを受けたことでそれらを取り戻した。
そのことでラウラは千冬を尊敬するようになったのである。
同時に千冬が第2回モンド・グロッソ優勝を逃した要因を作った一夏を『千冬の汚点を作った者』として恨んでいたのだが。
だが、結果は一夏に負けを認めさせるどころかISの暴走から助けられる始末。それらも含めてラウラは自分が情けなく感じたのだ。
「お前は……なぜそんなにも強い……」
 だからだろうか? ラウラは一夏が羨ましかった。自分に無い強さを持っている彼を――
だから、思わず問い掛けてしまう。
「え? 俺って、強いのか?」
「へ?」
 が、首を傾げる一夏の言葉にラウラは思わず呆然としてしまったが。
「いや、ゾディアーツと戦えるのってフォーゼのおかげだしな。それにIS使わないと千冬姉にも敵わないし」
「それは対象にする相手を間違えてると思うぞ」
 考えつつ話す一夏だが、そのことに箒が呆れている。
ただ、千冬はIS無しでISの近接ブレードを使えたりするので、本当に人間かと思いたくもなるのだが――
ともかく、一夏は自分が強いという考えはあまり持っていない。
そのことをあまり意識していないというのもあるが、戦えているのはフォーゼやISのおかげだと考えているのもある。
それにゾディアーツとの戦いでは苦戦するのが多くなってるので、ちゃんと鍛えなければと考えてもいるのだ。
「な、なら、なぜお前はあんなのと戦っている……」
 震える声でラウラは問い掛ける。
一夏がゾディアーツと戦っているのは何か理由があると思ったからだ。
「まぁ、成り行きというか……後は危なくなってる人をほっとけないというか……」
「な!?」
 が、やはり考えつつ話す一夏の言葉に驚愕するはめになったが。
実際の所、一夏がこんなことをするようになったのは成り行きとしかいいようがない。
フォーゼになれたのもまったくの偶然であったのだし。
「ああ、仮面ライダーになりたいってのがあるな」
「仮面、ライダー?」
「そ。なんていうかさ、仮面ライダーって人助けしてるみたいだからさ。
仮面ライダーを目指してる身としては見習わなきゃって思ってるんだよ」
 手をポンと叩きつつ笑顔で答える一夏にラウラは呆然として更に問い掛け、それにも一夏は笑顔で答える。
仮面ライダーに助けられ、そしてその本人から話を聞いた。その影響が今の一夏となっているというのは過言では無い。
ただ、それは危ういことでもあるのだが……それは今語ることでは無いだろう。
ともかく、それが一夏に仮面ライダーになろうと思わせたのである。
それが目標であり、力は二の次のような物だったのだ。鍛えていたのも仮面ライダーになるのが目的だったのだし。
この時、ラウラは混乱していた。力にこだわっていないのもあるが、なぜ一夏がそうまで笑顔でいられるのかを。
実は深く考えていないだけなのだが、それがわからないラウラはただ混乱するばかりであった。
(一夏……)
 一方、同席していたシャルルはそんな一夏を見て心苦しさを強めていた。
一夏は優しすぎた。その優しさが嬉しくて……辛い……なぜなら、そんな彼を裏切るようなことをシャルルはしていたのだから。
本当にどうするべきなのか……シャルルは思い悩むのだった。


 それから時が経って放課後――
「織斑先生、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。だから、そう心配しないでくれ、山田先生」
 共に歩く心配そうな真耶の声に千冬は笑顔で答える。
しかし、その笑顔にいつもの覇気が無いのは真耶にもすぐにわかった。昨日のことが理由であるのも察することは出来る。
ただ、どうすれば良いのか真耶にはわからない。いつも千冬に頼りがちだった為に、こういう時の対処に弱かったのだ。
そんな時である。
「織斑先生?」
 不意に千冬が立ち止まったことに不思議に思う真耶。
が、その千冬が厳しい目付きで何かを見ていることに気付き、真耶は首を傾げながらも千冬が見ているものへと顔を向け――
「え?」
 それを見て、一瞬呆けてしまう真耶。だが、次の瞬間には凝視していた。
「う、うう……」
「ラウラ……」
 ユニコーンのゾディアーツの左腕に羽交い締めにされるラウラ。
その顔のそばには細身の剣が向けられている。その光景に千冬は鋭い目付きを向けていた。
「一緒に来てもらおうか、織斑 千冬」
「ふざけるな! ラウラ! ISを装着して、あ!」
 ユニコーンのゾディアーツの言葉に睨む千冬。
そのままラウラを脱出させようとして、それが無理なことに気付いた。ラウラのISは昨日の暴走により崩壊したままだったのだ。
幸い、ISコアは無事だったので修復は可能だが、昨日今日で元通りに出来る物でも無い。すなわち、ラウラは現在ISを使えないのである。
ISが使えなければラウラがいかに鍛えられた兵士であろうとゾディアーツと戦うのは難しい。
それにラウラを見捨てるようなことは出来ない。そのことに千冬は悔しそうにしながら両手を握りしめ――
「……わかった」
 ユニコーンのゾディアーツに従うしかなかったのだった。


「それは……まずいことになったわね」
 それから少しして、真耶はラウラと千冬がユニコーンのゾディアーツに連れ去られたことを仮面ライダー部にいた者達に伝えていた。
で、それを聞いた衛理華は腕を組みながら悩んでしまう。まさか、こんなことをしてくるとは思ってもいなかった為、自分の甘さを呪いたくなる。
かといって何もしない訳にもいかず、解決の為に考えを巡らせていたが。
「くそ!」
「待ちなさい。闇雲に飛び出したからって2人を助けられるわけでは無いわ。それでそのゾディアーツは何か要求していましたか?」
「あ、いえ……ボーデヴィッヒさんと織斑先生を連れ去っただけで、他には何も……」
 駆け出そうとした一夏を呼び止めてから楯無は問い掛けるが、真耶は困った顔で答えていた。
そのことに立ち止まった一夏や他の者達も怪訝な顔をする。
「どういうことでしょうか?」
「さてね。目的はわからないけど、もしかしたらマズイことになるかもしれないわ」
「マズイこと……ですか?」
「たぶんだけどね。でも、猛烈に嫌な予感しかしないのよ。早めになんとかしたい所だけど、2人の居場所がね」
 セシリアが漏らした疑問に衛理華が答えるが、その答えを聞いて箒が首を傾げる。
それに衛理華はどこか悩んでるような顔で答えていたが。
しかし、解決しようにもなんで2人をどこへと連れ去り、どこにいるのかがわからない。
その為、どのように対応するのかさえ悩む状態だったのである。
「あ、待ってください。確か、IS学園から支給されている携帯端末にビーコン機能があったはずです。
織斑先生も持っていますから、携帯端末が無事なら居場所がわかるかも――」
 そう言って、真耶は部室にあるPCの前に座り、PCを操作し始めた。
なお、なぜIS学園から支給されている端末にそんな物があるかというと、緊急時などで居場所を素早く知る為である。
まぁ、それだけではないのだが、今はあえてその辺りのことは語らないでおこう。
「あ、いました! ここです!」
「ここは……確か、廃工場になってる所ですね。何をする気でしょうか?」
「じゃあ、早く行かないと!」
「だから、待ちなさいって。ただ行っても助けられるわけじゃないのよ?」
 少しして2人を見つけたことで思わず指を差す真耶。
PCのモニターには千冬が持っている携帯端末がIS学園から数km程離れた廃工場にあるのを地図と共に示していた。
どうして、そこにいるのか疑問に感じる楯無。
一方、一夏は2人を助けなければという焦りで今にも飛び出しそうになっていたが、それを衛理華に止められていたりする。
「確かに……助けに行っても、人質に取られたりしたら……」
「あ、ありえそうね」
「そんなぁ〜。どうするのぉ〜?」
 そのことに気付いた簪の言葉に鈴は顔を引きつらせ、本音は心配そうな顔で問い掛ける。
確かにあり得る話であった。それに何をしようとしてるかはわからないものの、何かをしようとしてるのは間違い無い。
それ故にゾディアーツが2人に何もしないというのは考えにくかった。
「このままでは何も出来ませんね」
「だからって、見捨てるわけにはいかないだろ!」
「もちろんよ。それで聞きたいことがあるんだけど――」
「なんでしょう?」
 困った顔をする虚の言葉に一夏は過剰に反応してしまうが、一方で衛理華は楯無に問い掛けていた。
もっとも、その問い掛けは楯無だけでなく、その場の全員を驚かせることとなったが。


「それで……こんなことをして、どうする気だ?」
 一方、千冬はラウラと共に廃工場の屋上にある煙突に鎖で縛られていた。その状態で睨む千冬。
そんな彼女を鼻を鳴らしながら見ていたユニコーンのゾディアーツだったが、スイッチを切って元の孝の姿へと戻る。
「お前がこうなってるって知れば、どっかの奴らがIS使って助けに来るだろうよ。そいつらを倒したら、面白いことになるだろうさ」
「く……」
 孝の話に千冬は悔やみながらもある程度の事情を察することは出来た。
たぶんだが、彼はISに恨みを持ってるのだろう。IS学園を襲ったのもおそらくはそれが理由で――
だが、だからといって孝のやってることを許せる訳がない。どんな事情があるにせよ、やっているのはただの破壊なのだから。
そう考える千冬。しかし、これは孝の事情を知らないから考えられることだった。
むろん、千冬が思っているとおり、孝がやっていることは許せることではないのだが……
「なんだ?」
 ISを待っていた孝であったが、聞こえてくるエンジン音に首を傾げる。
空を飛ぶISにはありえない音だ。しかし、それもすぐになんなのかがわかった。
一夏がフォーゼの姿でマッシグラーに乗り、こちらへとやってくる所が見えたのだから。
「また貴様か!」
「よっと。黙って見てるわけにもいかないからな。千冬姉とラウラは返してもらうぜ!」
 屋上から身を乗り出し睨む孝に、マッシグラーから降りた一夏は握りしめた右手を向けながら答えていた。
「うるさい! ISの前にお前を倒してやる!?」
『ラスト・ワン』
「く……」
 それに対し苛立つ孝は変化したスイッチを押し、体に蜘蛛の巣のような物が巻き付きながら倒れてしまう。
もっとも、すぐ横ではユニコーンのゾディアーツが姿を現していたのだが。
「ふん!」
 そして、飛び降りたゾディアーツは一夏の前に降り立ち――
「おおぉぉぉぉぉ!」
「な!?」
 細身の剣を構えるが、その剣が装飾を施された物へと変化したことに一夏は思わず驚いてしまう。
「おおぉ!」
「くっそ、やるしかないか!」
 その剣を持って飛びかかるゾディアーツ。一夏も飛びかかっていく。
そんな2人から少し離れた場所で動いている者達の姿があったが。
「うう、高いよ〜」
「我慢して。もう少しでたどり着くから」
 その者達の1人であり怖がる本音に声を掛けながら共に歩く簪が声を掛ける。
「にしても、厄介な所にいますわね」
「本当よ。もう少し楽な場所にして欲しかったわ」
「でも、早くしないと一夏が――」
 その後ろではセシリアのぼやきに鈴もうなずいており、更にその後ろではシャルルが一夏のことを心配していた。
5人が何をしているかと言えば、千冬とラウラの救出に向かっている最中だったりする。
実は一夏がマッシグラーで向かったのはユニコーンのゾディアーツの気をそちらに向ける為だった。
で、ゾディアーツが気を取られてる間に簪達が千冬とラウラを助ける手はずになっていたのである。
なお、廃工場の近くでは衛理華と真耶、虚がバガミールを通じて様子を見ている。
シャルルがいるのは一夏への罪悪感から、手伝うことを名乗り出たからだ。
「わかってる。だから、早く行かないと――」
「どこに行こうというのかな?」
 そのことを簪が言おうとした時、彼女達の前からそんな声が聞こえる。
体を一瞬震わせた簪達がそちらへと顔を向けてみると、その先にはサソリのゾディアーツが立っていた。
サソリのゾディアーツがなぜここにいるかと言えば、孝の目的を発案したのがこの者だからだ。
もっとも、その目的に邪魔が入ることは目に見えていた為、フォローの為にこうしていたのである。
「やっぱり出た!?」
「あいにくだが、我々にも目的がある。邪魔はさせんよ」
「それはこちらのセリフでもありますよ」
「む?」
 驚く鈴。サソリのゾディアーツはそんなことを言いながら近付こうとするが、聞こえてきた声に顔を向け――
「はぁ!」
「ぬお!?」
 飛び込んできた何かに驚き、慌てて飛び退いて地面へと降りたってしまう。
「おお!」
「く!」
 更に何かが襲いかかってくるが、サソリのゾディアーツはそれも後ろに跳んで躱し――
「貴様らは!」
 人型のパワーダイザーとISを纏った楯無の姿に驚くはめとなった。そう、救出の邪魔が入るのは楯無達も予想していたのだ。
そこで衛理華は自分が今持っているコズミックエナジーのデータを餌にISの使用許可をもらえないかと考えた。
パワーダイザーだけでも戦えないわけでは無いが、操縦者に大きな負担が掛かるという欠点が未だに残ってる状態だった。
それにサソリのゾディアーツの動きを考えるとパワーダイザーだけでは対処しきれないと判断し、それでISの援護が出来ないかと考えたのだ。
 しかし、それは楯無の意志で却下される。衛理華の考えもわからなくはないのだが、後のことを考えると大きな混乱が起きると予想したからだ。
だが、このままというわけにもいかない為、今回はある程度融通が利く楯無のISが使われることになったのである。
「いいですか? 私達の目的はあくまでもあのゾディアーツの足止めです。無茶はしないように」
「わかっています!」
 しかし、サソリのゾディアーツの実力を考えても厳しいとしか言いようがなかった。
なにしろ、廃工場内はある程度の広さがあるが、それでも自由に動き回れる程では無い。
高機動が持ち味のISでは少々荷が重くなる場所とも言えた。
「ほう、どこで我らの名を知った?」
「え?」
「そう……ゾディアーツ。私達は自らをそう呼んでいる」
「ひょうたんから駒とは、このことを言うのかしらね」
 サソリのゾディアーツの言葉に思わず戸惑った楯無はため息混じりにそんなことを考えてしまう。
ゾディアーツという名は楯無としては皮肉を込めた比喩で付けた物だったのだが、まさかその通りだとは思ってもいなかった。
まぁ、驚きはしたものの、それ以外に情報を引き出せないかと楯無が考えて――
「はぁ!」
「ふん!」
 その間に箒が飛び出して殴りかかっていた。もっとも、パワーダイザーの拳は受け止められていたが。
「貴様ら……なんのつもりでこんなことをする!」
「そこまでは言えんよ。だが、お前達が考えているのとは違うとだけ言っておこう、か!」
「くぅ!?」
 答えながら押し返すサソリのゾディアーツ。問い掛けた箒はよろめきながらも、どうには倒れずには済んだが。
一方で楯無は考えを巡らせていた。自分達が考えていることとは違うというのはどういうことか?
自分達はゾディアーツに関して、何か勘違いをしてるというのか?
「どちらにしろ、聞いた方が早そうですね」
 が、楯無は考えを切り替えて、改めて構え直す。
気にはなるが、判断する為の材料が少なすぎた。なので、当初の目的を遂行することにしたのである。
それに気付いたのか、サソリのゾディアーツもマントを脱ぎ払うのだった。
「く、うわぁ!?」
 一方、楯無達の近くに来ていた一夏はユニコーンのゾディアーツに苦戦を強いられていた。
なにしろユニコーンのゾディアーツは以前よりも強くなっており、鉄球も簡単に避けられた挙句に剣の突きを受けていたのである。
「つ、なろぉ!」
 火花を上げながら倒れる一夏だが、すぐに立ち上がっていた。
「一夏!」
「く! 箒さん! 気持ちはわかるけど、こちらに集中して!」
 その様子に箒が焦るが、楯無はそのことを叫んでなだめながらサソリのゾディアーツの攻撃に耐えていた。
こちらもわかっていたのだが、サソリのゾディアーツが強い。それに箒との連携が上手く取れないのも苦戦に繋がっている。
「一夏……みんな……」
 その光景にシャルルは心が痛んだ。エレキスイッチを渡せば、もしかしたらどうにかなるかもしれない。
でも、それが怖かったのだ。そうしたことで自分が裏切っていると思われることが――
「お前達!? なぜここに?」
「話は後、って鎖じゃない!? こんなのIS使わなきゃ外せないじゃない!?」
「任せて。ポテチョキン、お願い」
 その間にたどり着いたセシリア達に驚く千冬に鈴が答えるものの、千冬とラウラを縛っている鎖を見て頭を抱えてしまう。
しかし、簪がすぐにポテチョキンを取り出してスイッチをセットし、変形させて千冬達の元へ向かわせた。
そして、ポテチョキンはスイッチの力で千冬達を縛る鎖を切っていく。助けられた。セシリア達がそう思った時だった。
「え?」「な!?」
「「「「「ああ!?」」」」」
 千冬とラウラが降り立った屋根がかなり痛んでいたらしく崩れてしまい、2人はそのまま落ちてしまったのである。
セシリア達が驚いた時にはすでに遅く、千冬達は廃工場の中へと落ちていく所だった。
「教官!?」「くぅ!?」
 そんな中、千冬はラウラだけでも助けようと彼女を抱き寄せる。
なんとか出来たが、すでに地面は目の前に迫っていて――
「え?」
「あ?」
「ふぅ……間一髪……」
 来るはずの衝撃が無く、代わりに誰かに抱きかかえられる感触に戸惑う千冬とラウラ。
で、その2人を抱きかかえる一夏はため息を吐いてたりするが。
何が起こったかというと、2人が落ちたことに気付いた一夏がユニコーンのゾディアーツを蹴り飛ばし、済んでの所で2人を受け止めたのだ。
「大丈夫か、千冬姉? ラウラ?」
「い、一夏?」
「え? あ、う、あ、あ?」
 心配そうに2人を覗き込む一夏。それに対し、ラウラと千冬の顔が赤くなっていく。
特に千冬は戸惑っているというか顔を引きつらせているというか、なぜかいつもは見せない様子を見せている。
まぁ、千冬は今まで男性に抱きかかえられるという経験が少なくとも物心付いてからは無かった。
それがお姫様抱っこに近い状態で一夏にされている。今まで自分が守らなければと想っていた一夏に――
それらが合わさってか千冬は一夏に『男』を感じてしまい、そんな自分に戸惑ってしまったのである。
ラウラの場合、改めて一夏に暖かさを感じ、それがなぜか嬉しく感じて戸惑っていたりするが。
「貴様ぁ! どこまで邪魔をするんだぁ!?」
「よっと。お前が何しようとしてるかわからないけど、千冬姉やラウラを傷付けるようなことはさせるわけにはいかないんだよ!」
「う……」
「あ……」
 叫ぶユニコーンのゾディアーツに一夏は千冬達を下ろしてから、握りしめた右手を向けつつそう言い放つ。
それを聞いた千冬は更に赤くなり、ラウラは嬉しそうな顔をしていたが。
「一夏ぁ!」
「え? おっと。ん? これって、エレキスイッチ?」
 そんな時、セシリア達と共に降りてきたシャルルが叫びながら何かを投げてきた。
一夏は戸惑いながらも受け取り見てみると、それは無くしたはずのエレキスイッチであった。
「ごめん……一夏、ごめん……」
「なんかわからないけど、サンキューシャルル」
 泣きながら謝るシャルル。シャルルとしては見ていられなかった。
誰かが傷付くことが……だから、どうにかなるならとエレキスイッチを返すことを決心したのだ。
もっとも、一夏はそのことに気付かず、拾っておいてくれたのだろうと感謝していたが。
なお、そばにいたセシリア、鈴、本音、簪は事情がわからずに戸惑った様子でシャルルを見てたりする。
「織斑君、大丈夫なの? それって制御出来なかったはずじゃ――」
「わかってます! でも、みんなの為にもどうにかしなきゃダメだから――」
『エレキ』
 真耶、虚と共に廃工場に入ってきた衛理華に答えながら、一夏はエレキスイッチをチェーンアレイスイッチと交換する。
『エレキ・オン』
「俺は……みんなを守る!」
 そして、その言葉と共にエレキスイッチを入れると、一夏の体に変化が起きた。
変身の際に現れるリングが一夏の胸の辺りで回転すると、フォーゼのスーツの色が変わっていったのだ。
それだけでなく、稲妻のマークが3つ入った円盤状のパーツがいくつも現れて、一夏の両肩に装着される。
「い、一夏?」
 その様子に正気に戻った千冬は、変わってしまったフォーゼの姿に戸惑っていた。
今のフォーゼは膝から下の両足と肘から下の左腕を除き、全身が金色になっていたのである。
しかも、マスクにも稲妻が描かれていたりする。そして、右手には前回も使用した剣の形をしたロッドが握られていた。
この姿にラウラも声には出さなかったが、千冬と同じように戸惑ってしまう。
「金ピカだぁ〜」
「まぁ、素敵ですわ!」
「あんた、あんなのが趣味な訳?」
 その姿に喜ぶ本音の横で、セシリアも目を輝かせながら喜んでいる。
そのことに鈴は呆れていたりするが――
「な、何が起きたんですか?」
「エレキ、ステイツ? もしかして、エレキスイッチって、フォーゼの能力を上げるスイッチだったの?」
 一方で一夏の姿に虚と共に戸惑う真耶だったが、衛理華はモバイルPCに表示されるデータに驚きを隠せずにいた。
モバイルPCのモニターには今のフォーゼがエレキステイツと呼ばれる姿であり、その姿がどのような物なのかが表示されていたのである。
そのデータに衛理華は驚いていたのだ。
「なんだ、あれは?」
「ふざけるなぁ!?」
 その姿に思わず動きを止めるサソリのゾディアーツ。
ユニコーンのゾディアーツは起きたことが理解出来ず、怒りのままに襲いかかっていたが。
「ふ! はぁ!」
「ぐわぁ!?」
 それに対し、一夏は素早くプラグをロッドの柄の左側に挿し、ユニコーンのゾディアーツの剣を打ち払い、突き飛ばした。
それを電撃と共に受けてよろめくユニコーンのゾディアーツ。しかし、以前のように一夏にも電撃が伝わることは無かった。
「まさか、もう使いこなしてる? いえ、何かが……変わった?」
 その様子に衛理華は困惑していた。一夏がエレキスイッチを使ったのはこれで2回目。
当然だが、訓練などはしていない。なのに、一夏はエレキスイッチを使いこなしているように思える。
そのことに衛理華は何かが変わったのではと思ったのだ。もっとも、何が変わったのかわからないままだが。
「おおぉ!」
「くぅ! はぁ!」
「がぁ!」
 その間にも戦いは続き、襲いかかるユニコーンのゾディアーツの剣を一夏は受け止めてから払い、斬り飛ばして距離を取っていた。
「と、織斑君、プラグを真ん中に挿して! そうすれば電撃を飛ばせるようになるわ!」
「あ、はい!」
 その時、データを調べていた衛理華の叫びに一夏は返事をするとプラグを柄の真ん中に挿し直し――
「うおおぉぉ!?」
「ええい!」
「くお!? おおぉ!?」
 そこにユニコーンのゾディアーツが跳んで襲い掛かってきた為に、一夏はロッドを振り回して電撃を跳ばした。
飛ばされた3つの電撃だが、その内の1つが当たってユニコーンのゾディアーツをよろめかせる。
しかし、威力が足りなかった為にそのまま飛んできていた。それを見た一夏はプラグを柄の右側に挿し直し――
「でりゃあ!」
「な!?」
 ロッドを振るうと大きな電撃が飛ばされ、それを受けたユニコーンのゾディアーツは縛られたような形になった。
そして、そのまま電撃を受けながら地面に落ちるように倒れてしまう。
「織斑君! プラグを左側に挿してロッドにスイッチを!」
「わかりました!」
 その間にデータを調べ続けていた衛理華の指示に従い、一夏はロッドのプラグを左側に挿し直し、エレキスイッチをロッドの柄尻に挿した。
するとロッドから警告音のような電子音が鳴り響き、今まで以上に大きな電撃を纏っていく。
「く、うう……」
『リミットブレイク』
「はぁ!」
 よろめきながらも立ち上がるユニコーンのゾディアーツ。
だが、一夏はそれを待たずに高く跳び上がり、頭の上にロッドを構え――
「ライダー100億ボルトブレェェェェェェェイク!!」
「ぐ! がああぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?」
 縦に切り裂くように打ち払い、それを受けたユニコーンのゾディアーツはよろめいたかと思うと、そのまま爆発してしまうのだった。
「やった〜!」「流石ですわ、一夏様!」
「一夏……良かった……」
 その光景に喜ぶ鈴とセシリア。その横にいた本音と簪も喜んでおり、シャルルも嬉しそうに涙を浮かべる。
「一夏……」
 千冬も顔を赤らめつつ、嬉しそうに一夏を見つめていた。それは横にいたラウラも同じであったが。
「あの程度のことに……」
「待て! く……」
「箒さん!」
 一方、ユニコーンのゾディアーツが倒されたことに何か悔しそうにしつつ、サソリのゾディアーツはどこかへと去っていく。
箒はそれを止めようとしたが、消耗していた為にパワーダイザーの膝を付くはめとなり、楯無が慌てて駆け寄っていた。
「良かったです」
「ええ……」
「織斑君……あなたはいったい……」
 真耶と虚も嬉しそうにしていたが、衛理華はどこか複雑そうな顔をしていた。
エレキスイッチを使いこなした一夏。しかし、その為に何かをしたわけでは無い。それが衛理華にはなぜか気掛かりだった。
 そして、一夏も気付いてはいなかった。フォーゼのスーツの中で待機状態の白式が輝いていたことに。


「くそ! くそぉ! なぜだ! なんで、ISは俺から何もかも奪っていくんだ!?」
 しばらくした後、楯無の手によって地上に降ろされた孝はスイッチが切られたことで意識を取り戻した。
だが、目を覚ますとすぐに悔しがり、喚き出していた。
「あんた、なに勝手なことを言って、って……千冬さん?」
 鈴はそれに怒鳴ろうとしたが、千冬が手を伸ばして止めて首を横に振る姿に訝しげな顔になる。
一方で衛理華は理解した。孝がISの被害者であることに。
「あなたに何があったかはわからない。でも、こんなことをして、誰が喜ぶっていうんだ?」
 一方、変身を解いた一夏は真剣な眼差しを向けながら問い掛ける。
孝に何があったかは一夏には何もわからない。でも、ISのせいで辛いことがあったのはわかった。
だからといって、こんなことをして誰が喜ぶのかわからず、それで思わず問い掛けてしまったのだ。
「それは! それは……それは……」
 それに反論しようとした孝は気付いてしまう。
喜ぶ者などいないことに。だって、自分の周りには誰もいないから――
「俺は……なんでだよ……なんで、こんなことになるんだよぉ!?」
 その事実とやるせなさに、孝は泣き出してしまう。
なぜ、こうなってしまったのかわからずに……ただ、泣くことしか出来なかった。
そんな孝の姿に一夏達は何も言えず、彼が泣き止むまで見守るしか出来ずにいたのだった。


「そう……そんなことがあったのね」
 あの後、泣き止んだ孝は沈んだ様子でどこかへと去ってしまう。
その姿を一夏達は見送るしか出来なかった。今は何を言ってもダメなような気がして――
見送った後はIS学園に戻り、孝のことを調べた楯無の話で彼の事情を知ったのだが。
そのことにやはりかと思いつつ、衛理華はため息を吐いていた。
「まったく、そんなことでISを恨むなんて。何考えてるのよ!」
「全くですわ!」
「あなた達ねぇ……」
 一方、話を聞いていた鈴とセシリアは憤っていたが、そのことに衛理華は呆れた顔をしてしまう。
「あなた達はいいわよ? ISの恩恵を受けれたんだから。
でもね、中にはそれを受けられない人もいるの。時にはそれで被害を受ける人だっているのよ?」
「え? そう、なんですか?」
「ええ……私がいた大学でも、それでやめることになった人もいるそうだしね」
 戸惑いがちに問い掛ける簪に、話していた衛理華は困った様子で答えていた。
孝がしたことは決して許されることでは無い。だが、孝はある意味一方的な被害者でもあった。
ISの登場によって夢を絶たれただけでなく、人との繋がりも断たれてしまった。
そんな彼がISを恨むのは仕方が無いことだったのかもしれない。
「覚えておいた方がいいわ。ISに限らず、どんなことにもそういうことはありえるってことを」
 そのことを言い放つ衛理華だが、セシリア達は何も言えずにいた。
孝のことは許せなかったが、そんなことがあるとは思いもしなかった。
それ故にどうすれば良いのかわからず、複雑な思いに駆られる。
一夏も同じであった。あの時、もっと別なことを言えていたらと考えてしまう。
(姉さん……あなたはなんの為にISを造ったのですか?)
 箒は似ているようで違うことも考えていた。
ISを造った姉。その姉が造った物が原因で孝のような者が出てしまったことに悩んでいたのだ。
だから知りたくなった。姉がISを造った理由を――
(束……お前はこんなことがしたかったのか?)
 千冬はそんなことを考えてしまう。
千冬もそれ程では無いが、ISによって被害を受けている身でもあった。
一夏の誘拐やラウラの経緯。そして、今回孝が起こした事件。それらは束が造ったISによって引き起こされた物だった。
故に千冬としては疑心暗鬼になってしまうのだ。親友である束が何をしたかったのかと思ってしまって。
「う……」
 その一方で真剣な顔をする一夏を見て、千冬は顔を赤らめていたりもするのだが。
(一夏……お前は……)
 ラウラはそんな一夏を見つめていた。孝のことはどうでも良かった。それ以上に気になったのだ。
一夏が持つ強さと暖かさを。それがなんなのか、ラウラは知りたかったのである。
(一夏……)
 シャルルは気にした様子で一夏を見つめていた。
エレキスイッチを隠し持っていたことを責められなかったが、本当に気にしてないのか不安に思ったのだ。
でも、今のところ一夏がそれを聞いてくる様子が無い。それがシャルルには気掛かりだったのである。


 こうして、いくつかの悩みを抱えたまま、事件を終えた一夏達。
それがどのような影響を与えるか……今はまだ、誰にもわからなかった。



 あとがき
そんなわけで事件解決……というのは微妙な所ですが。
ともかく、エレキステイツの登場になにやら反応を見せる白式。
そんでもって千冬の変化と色々なことが起こり始めてます。
それが一夏にどんな変化をもたらすのか――

さてさて、拍手のレス返しをば……うん、毎回やろうとして忘れちゃうんだよね。

>白樺さん
光太郎はRXですよ〜。後、この辺りのピックアップは私的見解が多分に含まれてます。
なので、後で原作で明かされて泣きそうなはめになりそうですが……原作の打ち切りはあくまで噂だよな?

>アマノアキマサさん ヒロさん
ありがとうございます。これからもがんばっていきますね。

>miniペンギンさん
コズミックステイツはまだ先ですのでなんとも言えませんが……まぁ、機会があったらということで。

>カーキスさん
ですねぇ。でも、CD発売が7月ってどういうことよ。
ああ、ご指摘の方ですが、間違いではなくサソリのゾディアーツにそそのかされてゾディアーツになった人を示してます。

>TAKAさん
原作の方はまだなんとも言えませんが、こちらの方は原作とは違う流れになるかもしれません。
ただ、原作次第ですので、必ずしもというわけでもないですが。
後、千冬が愚かというよりも大事なあまりに周りが見えてないといった感じはしますけどね。

>jokerさん
今はまだなんとも言えませんね。
というか、楽しみを今言っちゃまずいですし。

>大魔道さん
シャルルは次回になります。お楽しみに〜

で、次回は後日談的なお話。一夏、ラウラ、衛理華は呼ばれて倉持技研へ。
ラウラが壊した学園の修繕費をいくらか肩代わりした白式を造った会社がなぜ?
一方、シャルルはある決意をし、千冬は楯無にそそのかされ――
といったお話です。次回はISは出ないかも。では、次回またお会いしましょ〜



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