いつもは賑やかな仮面ライダー部であったが、この時ばかりは重苦しい雰囲気に包まれていた。
まず、いつもより人が少ないというのが上げられるが、これは致し方無かったりする。
真耶は今回の戦いで怪我を負って医務室にいる箒の容態確認の為。
千冬、楯無、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪は今回のIS使用理由の説明を国際IS委員会に通信で報告する為。
本音と虚は今回の戦闘でダメージを負ったパワーダイザーの状態確認の為。
それぞれ、それらの理由でこの場にはいなかった。
で、結城は関根とオーリスと共に何かを話し合っており、一夏は泣き続けている束を励ましている。
 今回の戦いで出た被害は物損の方こそ楯無が出した学校と路地のごく一部の破壊のみ。
しかし、箒の負傷やIS使用による罰則の可能性など、仮面ライダー部に掛かる人的被害が大きくなりかねなかったのである。
「なんというか……本当に困ったわね」
 こんな中、衛理華はため息を吐かずにはいられなかった。
今まで危うかったことはある。それでもここまで危うくなることは無かった。
今回の事で国際IS委員会も深く関わってくるだろう。緊急事態だったとはいえ、ISを使うことになったのだから。
それがどのようなことになるのか……それを考えるだけでも衛理華としては頭痛を感じずにはいられなかったのだ。
「あ、千冬。どうだったの?」
「最終的な決定は下されてはいないが、お咎めは無しと見ていいだろう」
「それは良かったわ」
 楯無らと共に戻った千冬の返事に、声を掛けた衛理華はほっと息を吐く。
衛理華の意志では無かったとはいえISを使い、それで彼女達に処罰が下るのではと心配していた。
それ故にそれがないとわかり、一安心といった思いだった。
「ただ、その一方でフォーゼやゾディアーツはかなりの注目を浴びてしまったがな」
「そっちは……本当に頭が痛いわ」
 もっとも、次に出た千冬の言葉に衛理華はため息を吐くはめになったが。
ちなみにこれは報告の時に何かと聞かれたことで千冬がそう察したのだが、この事態はある意味当然とも言える。
ゾディアーツがIS代表であるIS纏った楯無と互角以上の戦いをした上、不意打ちだったとはいえ戦闘不能に追い込んだのだ。
それに前回では暴走したISをフォーゼが止めている。ISに関わる者がこのことに興味を持つなと言う方がおかしいだろう。
「何かしら言われるだろうな。お咎めが無いのも、それを盾にというのもありえる」
「ま、そうなったらその時で考えましょう」
 千冬の言葉に衛理華は再びため息を吐いた。その一方でゾディアーツの行動に疑問を感じた。
ゾディアーツもコズミックエナジーを使っているはずなのだ。なのに、あまり重要視してないように見える。
その能力を考えれば自分達のように問題になるはずなのに……
(なにか大きな後ろ盾があるというの? それとも知られても問題無いというのかしら?)
「あら、織斑先生。戻っていたんですね」
 衛理華がそのようなことを考えていると真耶が戻ってくる。
気にはなったが情報が少なすぎる故に考えるのを一旦やめ、衛理華はもう1つ気になることを聞くことにした。
「それで篠ノ之はどうなんだ?」
「幸い、大きな怪我はしてないそうです。
ただ、脳しんとうの可能性がありますから、傷の手当てを含めて今日と明日は治療に専念した方が良いそうですよ」
「あ、あぅぅ……」
 千冬の問い掛けに真耶は苦笑混じりに答えると、その返事に誰もがほっとする。
逆に束は更に泣きそうになっていたが。
「今、戻りました」
「お帰り。それでパワーダイザーはどうなの?」
「あちこち壊れちゃっててぇ、もう大変だよぉ。フレームまで壊れてる所があるからねぇ〜」
「幸いなのは動力部が無事だったことですけど……あの状態だと、直すよりも新しく造った方が早いと思います」
「あちゃ〜……」
 作業着姿の本音と挨拶をした虚が戻ってくる。
その2人に衛理華が問い掛けると本音はやれやれといった様子で答え、虚も困った様子で答えていた。
その内容に衛理華は頭を抱えてしまう。なにしろ、戦力が半減したといっても過言でないからだ。
破損内容を聞くとすぐに直る物でもない。そうなると一夏1人だけでとなるが、あのサソリのゾディアーツが加わるとかなり厳しくなる。
ISは諸々の事情で使うことが難しく、直そうにもお金も掛かるし……そんなことに衛理華は悩んでしまうのだった。
「ただ、気になることが……」
「なんですの?」
「あの……伝達系が戦闘の破損とは別の壊れ方をしていたんです。あれだとパワーダイザーの動きが鈍っていたと思います。
やられてしまったのも、それが原因かと――」
「でも、おかしいんだよねぇ。パワーダイザーのパーツはジャンクをレストアした物だけど、すぐに壊れるような物じゃないしぃ。
一昨日見た時はまったく問題無かったんだけどなぁ〜」
 セシリアの問い掛けに言い出した虚が説明し、本音が補足する。
そのことに一夏達の間に戸惑いが生まれるが、その中で千冬は確かに見た。
本音の言葉に束がビクリと体を震わせるのを。
「そういえば、昨日はお前がパワーダイザーを見ていたよな。その時、何かおかしな所はなかったか?」
「そ、それは……それは……」
 睨むように問い掛ける千冬。そう、昨日は束がパワーダイザーを見ていた。1人で――
箒の為というのと1人の方がいいというのが理由だが、今の束は明らかに狼狽している。
その様子に千冬の眼が鋭さを増した。
「貴様、何をした!?」
「あ、あうう!?」
「ち、千冬姉!?」
 襟首を締め上げる千冬に明らかに怯える束。そのことに一夏だけでなく、誰もがうろたえる。
だが、ここで結城はあることに気付いて、眼を細めていた。
「だ、だってぇ〜……あれが壊れたら、箒ちゃんはISを使ってくれるって思って――」
「何を考えている!? 貴様の馬鹿な考えのせいで篠ノ之は下手をすれば大変なことになっていたんだぞ!?」
 泣きそうになりながら反論する束だが、千冬は逆に怒気を強めていた。
束としては悔しかったのだ。ISが役立たずのように言われてることが――
だから、パワーダイザーに細工をし、戦えなくなった所にISを使わせる。
そうすればみんなはISが一番だと思うようになると考えたのだが……この時の束は勘違いをしていた。
いや、勘違いというよりは認識があまりにも薄かったと言った方がいい。
ISがゾディアーツとの戦いで中々使えないのは、IS自体の制約がありすぎることに起因する。
しかし、束はその認識があまりにも薄く、その為にISが役立たずに思われていると勘違いしてしまったのである。
もっとも、束の考えは思惑通りに行ったとしても、失敗に終わっただろう。
先程言った制約もあるが、サソリのゾディアーツ相手ではISだとしても相手が悪すぎるのだから。
「お前のその馬鹿な考えがどんなことになったのかわかって――」
「ひっ!?」
「待ちたまえ」
 怒りで右手を振り上げる千冬を見て、怯えから顔を背ける束。しかし、それを結城が制止していた。
「なんですか?」
「いや、今まで私達は彼女のISに関してのやり方に疑問を感じていてね」
 睨みながら振り返る千冬に結城は気にした様子も無く答える。
実際、本当に疑問だった。束がISを世間に認めさせたかったのは事実だろう。
 『白騎士事件』と呼ばれる事件がある。
ISが開発されて間もない頃、世界中の軍事基地がハッキングされ、二千発以上のミサイルが日本に向けて発射されたのだ。
そのミサイル群を白騎士と呼ばれるISが半数以上を迎撃。
更に白騎士を捕獲、もしくは撃破しようと出撃した各国の軍の戦闘機や軍艦も撃退。それらによる死者は皆無とされている。
その後、白騎士はどこへともなく去ってしまい、犯人は不明となり――それが元で『白騎士事件』と呼ばれるようになった。
その事件を結城や結城が所属している所では、少なくともハッキングの犯人は束であろうことを推測していた。
その事件を切っ掛けにISが注目されたのだ。また、束には世界中の軍事基地をハッキング出来るだけの技量があるのも確認されている。
束がISを注目させようと事件を引き起こしたと考えるのは妥当だろう。だが、一方で腑に落ちないこともあった。
束が限られた数しかISコアを造らなかったことや、その後に姿をくらましたことなど。
 まぁ、姿をくらましたのはある意味当然とも言える。
なにしろ、ISが注目された当時は、世界中がISコアの秘密を探ろうとしていたのだ。
それで身の危険を感じて姿をくらましたとしてもおかしなことではない。
だが、限られた数しか造らなかった方は様々な憶測は出たものの、結局はわからずじまい。
故に結城や結城が所属している所の者達も気にはなっていたのだが――
「少なくとも彼女は精神的にはまだ子供なのだろう」
「子供……ですか?」
 結城の言葉に楯無が疑問を漏らす。確かに束の行動を見てると子供っぽいように見える。
しかし、結城は子供っぽいのではなく、ある意味子供と変わらないと感じたのだ。
「ああ……そうすると彼女の今までのISの扱い方に関して理解出来るんだ。
ISコアを限られた数しか造らなかったのも、あまり好き勝手に弄られたくはなかったか、周りを困らせようと思ったのかもしれないな」
 未だに泣き続ける束を見つめながら、結城は静かに答えながらも内心は前者の方かもしれないと感じていた。
ISコアを多く造ればそれだけ余裕が出来る。余裕があればブラックボックス化しているISコアの構造を解析しやすくなる。
そんなのは嫌だ。IS、特にコアは自分だけの物。ただ、それだけの思いから、束は限られた数しか造らなかったのではと結城は考えたのだ。
 その一方でここで話すつもりは無いが、『白騎士事件』も子供っぽい考えから起こされたのではないかと考える。
IS開発当初、その性能をまゆつば物扱いされていた為に、ほぼ無視された状態であった。
それが束には耐え難かったのだろう。だから、『白騎士事件』を引き起こした。
問題だったのは精神的に子供だったが故に加減がわからず、後に大問題になりそうなやり方をしてしまったのではないか?
結城はそう考えていたのだ。
「ですが、だからといって――」
「むろん、それで彼女を許せと言ってるわけではない。だが、今は彼女を追い込むようなマネはしない方がいいだろう。
子供が思いがけない行動をするように、今の彼女もそのような状態と言えるからね」
 それを聞いて反論しようとする千冬であったが、それを遮る形で結城が答えた。
確かに束になにかしらの事情があったとしても、それを理由に今までやってきたことを許すわけにはいかない。
なにしろ、犯罪と言われても言い逃れ出来ないこともしているのだから、当然とも言える。
 その一方で追い込むマネをするのは危険な状態であった。
犯罪を犯した者が追い込まれることで人質を取ったり自殺をしたりと思いがけないことをする。
束の場合、精神的に子供故に追い込まれることで何をしでかすかわからない。
逃げるだけならまだいいが、『白騎士事件』のようなことも起こしかねないのだ。
結城としてはそれを避けたかったのである。
 その話を聞いて誰もが複雑そうな表情を浮かべるが、一夏だけは心配そうに泣き続ける束を見つめるのだった。


 その日の夜――
「そっちのベッドは空いてるから、自由に使ってもいいよ」
「う、うん……ありがと……」
 自室に束を招いた一夏は、笑顔でそんなことを言っていた。
なぜに束が一夏の部屋に来ているかというと一夏が言い出した為である。
一夏としては束には世話になることもあったので、今の束が心配でならなかったのだ。
それで今日は自分が預かると言い出したのである。そのことに結城は賛同し、衛理華も肩をすくめながらも同じく賛同していた。
反面、虚を除いた女性陣は白い眼を向けていたが……ちなみに楯無や真耶も一緒にである。
「あのね、いっくん……やっぱり、私……大変なことをしちゃったのかな……」
「え? う〜ん、そうだな……」
 恐る恐るといった様子で問い掛ける束。それに対し、一夏は困ったように後頭部を掻いていた。
答えるならYESとしか言いようがない。確かにゾディアーツとの戦いには危険を伴う。
しかし、今回はそれとは別に危険な状態になってしまったのだ。その原因を作った束は悪くないとは流石に言えない。
だが――
「確かに束さんはやっちゃいけないことをしたんだと思います。
まぁ、俺も人のことは言えないんですけど……良く考えて行動しろって、いつも怒られてますし――」
 一夏は苦笑しながら、そんなことを言い出していた。
実際の話、一夏は感情的になりやすい面がある。以前、千冬とラウラが誘拐された時などはそれを表してると言ってもいい。
それ故に千冬と衛理華にはそのことで小言を言われることが良くあるのだ。
「何かがあったからと言ってすぐに動くな。すぐに動いたからといって、必ずしもいい結果を生むとは限らないって――
だから、時には色々と考えろって言われてますよ」
 苦笑混じりに話す一夏だが、このことは千冬が特に強く言い聞かせていたりする。
なまじ、前回のことで今までの自分を反省し、それ故に一夏に同じ過ちをして欲しくないという思いからだった。
 そんな一夏の言葉が束の心に響くような感じがしていた。
束は一夏や箒、千冬以外の者達は基本的に無関心であった。家族も基本的に身内だとしか見ていない。
理由は一夏達以外の者達に基本的に相手にしてもらえなかったのが起因している。
束は幼少時代から天才であった。しかし、当時の知り合いからしてみれば、それはある意味気味悪がっていた。
なにしろ、自分達が理解出来ないことを話したりしたりするのだ。それ故に怖かったのである。
それによって、その頃の知り合い達は束を無視するようになった。そうすれば、訳のわからないことをされることは無かったのだから。
しかし、それが束が他人に無関心になるようになった環境となってしまう。家族としてはその状況をどうにかしたかったのかもしれない。
だが、道場をやっていたことから武闘派であり、その為か束の扱いに悩んでしまったのだろう。
結果として、何も出来なかった……この辺りは詳しい状況がわからない為に推測の域を出ない。
その一方でそのような環境であってもおかしくなかった状況に束はいたのだ。
もし、千冬と出会わなければ、束は他人とは意思の疎通すらしない人物になっていたかもしれない。
もっとも、今でも他人には基本的に無視するか、話すとしても一夏達とは違って冷淡な態度を取るかなのだが。
 そんな束であるが、一夏や箒、千冬のことは大事に思っている。
なにしろ、唯一自分を受け入れ、優しく接してくれているのだから――
確かに今日の千冬は怖かった。なぜ怖い態度を取ったのかわからなかったが、今の一夏の話でわかった気がする。
自分はしてはいけないことをしてしまった。だから、千冬は怒ったのだろうと……このことに関して、束は複雑に思う。
もっとも、自分が本当に悪いのか? 千冬がそう思ってるだけでは? と、困った解釈をしてはいたが。
でも、一夏の話を聞いていると、その解釈も違うのではないかと思えてきた。
一夏は本当に優しく話してくれたから……そんな彼を見た為か、束の心に暖かい何かが出来たような気がしたのだった。


 それから3日後。箒を除く全員が仮面ライダー部に集まっていたが、誰もが気難しそうな顔をしている。
というのも――
「なんというか……私達の知らない所でそんなことが起きてたなんて――」
 そんなみんなを代表する形で衛理華が思わずぼやいてしまう。何があったかと言えば――
先日の一件でロシアに起きたことを報告していた楯無だが、本国の方はそのような調査員を送っていないという。
しかし、戦闘データでクララがそのようなことを話していたのは確認されている為、本国の方もおかしいと思い調査。
その結果、上層部の一部がフォーゼやゾディアーツに興味を持ち、あわよくば自分達の権力の底上げの材料に使おうと考えていたそうな。
なので、本国には極秘裏に進め、クララにも表向きは本国からの要請ということで協力させていたそうなのだ。
それでこの日本にクララとその上層部の手の者を送り込んだのだが、そこで彼らにとって予想外のことが起きた。
クララと同行していた者の話によると、ゾディアーツから接触してきたというのだ。
ただ、接触してきたのはサソリのゾディアーツではなく――
「変な顔したゾディアーツねぇ〜」
「ですが、これで他にも仲間がいることが判明いたしましたわね」
 鈴の漏らした一言にセシリアが神妙な顔付きで漏らす。
なんでも、クララ達に接触してきたのは、マントを纏い黒いお皿を上下逆さまにして合わせたような顔を持つゾディアーツだと言うのだ。
で、そのゾディアーツが自分達に興味があるなら使えとスイッチをクララに渡し――
ゾディアーツとなったクララはなぜか勝手に行動し、先日の一件が起きてしまったのだという。
なお、その一部の上層部とクララと一緒に来た者達はすでに拘束されている。
「問題はクララです。彼女はこのようなことをする者では無かったのですが……」
 どこか落ち込んだように話す楯無。クララは騙されていたとはいえ、IS学園での一件は彼女らしくない行動であったのだ。
楯無の知るクララは無意味に人を傷付けることを嫌う人物のはずだった。それ故にあの行動が不可解に思えてならないのである。
「そちらは本人に直接聞くしかないだろう。もう1つの問題は――」
「やっぱり、動いてくるわよねぇ……」
 結城の言葉に衛理華はため息を吐いた。
何のことかというと、国際IS委員会がフォーゼとゾディアーツのデータ提供を求めてきたというのだ。
ただ、これはある意味予想出来たことではあったのだが――
「問題は騒がしくなりすぎているという所か……特に反体制派が何かと接触しようとしている」
 ため息混じりに話す千冬。国際IS委員会といっても一枚岩では無い。中には否定的な意見を持つ者も参加している。
ISの登場で損害を被った者もいないわけではないので、ある意味当然ではある。
そんな者達がフォーゼとゾディアーツはISに対抗出来る物として注目を向けてもおかしくはなかった。
先程、通信で反体制派の者からそれとなくそのことを聞かれたことで、千冬はそう判断したのだが。
「いっそのこと、コズミックエナジーのデータ、提供しようかしら?」
「しかし、それでは――」
「わかってる。それで済めばいいんだけどね」
 結城の言葉にそんなことを言い出した衛理華はため息を吐いた。
確かにコズミックエナジーの事を教えられれば楽なのだが……問題はそれが持つ能力。
なにしろ、あらゆる装置のエネルギー源となり、性能を向上させたり物質化も可能という存在自体がありえない物。
その力自体は弱いので活性化させなければならないが、どのように行うかまったくの不明。
それどころか、コズミックエナジー自体がどんな物かすらわかっていない。
こんなことを伝えたら混乱どころか、とんでもないことになりかねない。なにしろ有用性は確認されているのだ。
だから、なんとか使えるようにしようとなにかしらのことをしてくるだろう。
下手をすれば人道的に無視されたことをしてくることもありえる。
衛理華としてはそれ故にコズミックエナジーのデータを渡すわけにはいかなかったのである。
(もしかして、クララの目的はこれ? でも――)
 そんな中、楯無はそんなことを考えていた。
クララが言っていたISが終わるという言葉。それはフォーゼやゾディアーツがISに取って代わるということだろうか?
ありえなくはない。ラウラの一件でその兆しがあったとはいえ、それを目的に動いている者達は確かにいた。
クララがそうさせるように行動したというのなら、あの言葉も理解は出来る。だが、一方で腑に落ちない。
というのも、クララは代表になれるようにと努力してきたのは楯無も知っている。
そんな彼女がなぜISを終わらせようとしているのか? それがどうしても気になるのだ。
「あれぇ? あれって箒ちゃんかなぁ?」
「え?」
 そんな中、本音がそれに気付き、それを聞いた束が顔を向ける。
みんなが見てみれば、パワーダイザーを置いている部屋へと続くドアが開いており、その先にパワーダイザーを見つめる箒の姿があった。
ちなみに現在の箒は頭に包帯を巻いている。傷自体は大した物ではなかったが、大事を取って包帯を巻いているのだ。
そして、パワーダイザーの修理の目処は立っていないものの、いつ修理してもいいようにバラしている最中である。
そんなパワーダイザーを見つめる箒はどこか悔しそうな顔をしていた。本人としては本当に悔しかったのだ。
あの時、何も出来ずにやられたことが――
「ほ、箒ちゃん……あ、あのね……」
「あの……パワーダイザーは直りますか?」
「え? あ、すぐには……無理ね……新しく造った方が早いくらいよ」
 話し掛けようとする束であったが、箒はそんな彼女を見てから問い掛ける。それに対し、虚が戸惑いながらも答えた。
実際の所、パワーダイザーの修理の目処が立たないのは虚が言った理由もあるが、資金繰りの問題もあった。
なにしろ、かなりの金額が掛かる。いくら更識家がスポンサーになっているとはいえ、ポンと出せる金額ではなかったのだ。
 そんな中、束は震えていた。もしかしたら、箒に嫌われたのではないかと思って。
なにしろ、自分はそうなってもおかしくないことをしたのだ。だからこそ、怖い。
もし、本当に嫌われたら自分は――
「え?」
 だが、次に箒が取った行動は自分に対して頭を下げるというものであった。そのことに束は目を丸くする。
「姉さん、お願いします。どうか、パワーダイザーを直してください」
「え、えっと……」
 頭を下げながら箒はお願いする。そのことに束はうろたえていた。
箒がこんなことをするのはまずパワーダイザーの修理にお金の問題が絡んでることを知らないからであった。
修理が簡単ではない為、時間が掛かるのだろうと考えていたのだ。でも、束なら短い時間で直せると思ったのである。
もう1つは先日のパワーダイザーの不調に最後まで気付かなかったことだ。
それ故にそれが束の仕業であることを知らない。でなければ、いかに箒とてこのようなことをしなかっただろう。
「ちょっと、箒。あれは――え?」
 そのことに気付いた鈴がそれを告げようとしたのだが、誰かに肩をつかまれて遮られてしまう。
顔を向けるとそれは結城であり、首を横に振ってそのことを言わないように指示していた。
「あ、えっと……その……」
 一方、うろたえている束は思わず一夏を見てしまう。その一夏はといえば、笑顔でうなずいていた。
それを見て、束の瞳に決意の色が宿る。
「うん、わかったよ。この天才、篠ノ之 束さんにまっかせなさ〜い!」
「あ、ありがとうございます! 姉さん!」
「あ……う、うんうん! この束さんが箒ちゃんの為に腕を振るっちゃうからねぇ!」
 それを聞いて嬉しそうに手を握る箒。
答えた束は箒に手を握られたことに戸惑うが、すぐに嬉しそうな顔をして胸を叩いていた。
一夏はその様子に嬉しそうにしていたが、他の者達は複雑な顔をしていた。なぜなら――
「本当のこと……言わなくていいのかな?」
「真実は時には知らない方がいい時もある。今の彼女達はそのような状態だ」
「どういうことですか?」
 シャルロットの疑問に結城が答えるが、意味がわからずにラウラが問い掛ける。
衛理華や千冬らも同じ思いで顔を向ける中、結城はため息を吐き――
「篠ノ之 束があんなことをしたのは箒君を傷付けようとしたのでは無く、彼女にISを見て欲しかったからだ。
だからといって許していいわけではない。しかし、そうすることであの2人に決定的な溝を作ることにもなりかねないんだ。
それは時として悲しい事態を引き起こすことにもなるかもしれない。むろん、これがいいことだとは言わないさ。
だが、今の2人にはその方がいいのかもしれないと思ってね」
 どこか遠い目をしながら結城は答えていた。
この時は言わなかったが、結城は同時に束が精神的に不安定だと見ていたのだ。
そのような彼女がもし箒に嫌われるようなことになったらどうなるのか……下手をすればとんでもない事態にもなりかねない。
なまじ、束にそれが出来る力があるだけに、結城としてはそのような事態を避けたかった意図もあった。
その話を聞いて誰もが複雑そうな顔をする。そんな中で一夏は心配そうな顔で束と箒を見ていたのだった。


で、早速パワーダイザーの修理が始まったのだが――
「え〜、私1人でいいのにぃ〜」
「だけど、みんなでやった方が早いだろ?」
 パワーダイザーの修理は1人でやると言い出した束を一夏がなだめていた。
事の発端は本音や虚、結城らが修理を手伝うと言い出したことだった。それを束が拒否したのである。
束としては他人との関わりを拒否したいというのもあるが、箒の為に1人でやり遂げたいという想いがあったのだ。
が、パワーダイザーの早期復帰は必要だし、束に無理はさせられないと一夏がなだめていた。
「でもぉ〜……あ――」
「箒の為にがんばりたいんだろ? だったら、みんなでやった方がいいよ」
「あ、う、うん……」
 それでもふてくされている束であったが、一夏に頭に撫でられたことに赤くなり、急にしおらしくなる。
そのことに衛理華や結城、関根やオーリスらは苦笑する。その一方で箒達はなぜか睨んでいた。
というのも、凄い危機感を感じたのである。なにか……とは言わないが――
ちなみにその中には楯無も混じっており、そんな箒達に真耶と虚は顔を引きつらせるのであった。


 更に3日後。楯無は学園の外を1人歩きながら、ため息を吐いていた。
パワーダイザーの修理は早ければ今日中に終わるかもしれないというのに。
なんでそんなに早く終わるかと言えば、束が持っていたパーツをパワーダイザーに使ったからである。
ちなみにどれくらい持っていたかと言えば、ISにすると数機分だ。これには衛理華達は驚いていたが。
まぁ、そのおかげで修理が早く終わるのはある意味助かることである。
では、なぜため息を吐いていたかというと――
「まったく、知らないからって無茶を言ってくれるわね」
 国際IS委員会からフォーゼやゾディアーツに関する詳細な情報提供を求められたのである。
それこそ、どのような形で使われているかなど。自分やセシリア達のIS使用や学校の破壊のことをそれとなく盾にしながら。
このことに楯無は思わずぼやいてしまったのだ。まぁ、今回はなんとか誤魔化すことは出来たが。
しかし、このままだと誤魔化し続けるのは無理だとも考える。一刻も早く対策を施さないと――
と、そのことで考えていた時だった。
「どうしたのかしら? 難しそうな顔をして?」
「……クララ」
 その先に立っていたクララに声を掛けられたことに楯無は驚き、立ち止まってしまう
だが、すぐに楯無の眼が鋭くなる。というのも、先日の一件から楯無はクララを捜していたのだ。
彼女の意図を探る為に。だが、今までその足取りがつかめなかった。
「まさか、あなたから会いに来るなんてね。それで、なんの用かしら?」
「私の言ったとおりになった……それをあなたに再確認させたかったのよ」
 問い掛ける楯無にクララは嘲笑を浮かべながら答えた。
確かにあの一件から、フォーゼやゾディアーツが注目されているのは確かであった。
だが――
「なぜ、そんなことをするの? 代表になろうとがんばってきたあなたが……なぜ?」
 そう、それがわからなかった。クララは代表になることを夢見て努力していたのは楯無も知っている。
そして、楯無が代表に選ばれた後も負けないと良きライバル関係を築きつつも諦めていなかったのに。
それがわからなかったから楯無はクララを捜し、理由を聞こうと思っていた。
「そうね。確かに昔の私だったら、こんなことはしなかったでしょうね。
でも、あの時。私はISの存在に疑問を持ってしまったの……」
 先程とは変わって自嘲気味な笑みを浮かべるクララは、その時のことを話し始めた。
それは楯無が代表に選ばれ、日本に戻ってからしばらく経った時のことであった。
その頃のクララは予備員とはいえ、それなりに忙しいながらも充実した日々を送っていた。
なにしろ、実力を示せれば今度は自分が代表になれる可能性があるのだ。それ故にクララは慢心せずにがんばってきた。
だが、ある日。クララの両親と兄がクララの金で遊んで暮らしているという話が出てきたのである。
むろん、そんなのは根の葉もない噂であり、なんでそんな話が出てきたのかまったくわからなかった。
確かに両親に楽をさせてやりたいという思いはあった。だが、それ以上に代表になった自分を見てもらいたくてがんばってきたのだ。
だからこそ、クララは否定したかったのだが、両親や兄は気にするなと言ってきたのである。
いずれ、そんな噂なんてなくなると言って……だが、噂は無くなるどころか、エスカレートしていくばかり。
ついにはマスコミまで動くことになり、クララは強い口調で否定することとなった。
だが、それが逆に憶測を呼び……ついには父と兄は仕事をやめさせられるはめになってしまった。
このことにクララは愕然とした。なんでこうなってしまったのか、わからない。
自分はただISのことをがんばってきただけなのに……そのISが両親や兄を不幸にしてしまった。
なにしろ、噂のほとんどがIS絡みだったのだから。そのことがクララにISの存在意義への疑問を抱かせる結果となってしまう。
「ISってなんだろうって思ったわ。何の為にあるのかって……そんな時だった――」
 遠い目をしながら語るクララ。そんな彼女を楯無はどこか呆れを含んだような顔を見せる。
そんな疑問に悩んでいたある日、クララは例の上層部の者と接触し、フォーゼとゾディアーツの存在を知った。
その時に感じたのはISの時とは違う疑問。こんな物が存在するかということであった。
しかしながら、その時は本国の命令と聞かされていただけに仕方無く日本に来て――そこでゾディアーツと出会い、スイッチを受け取り――
「ゾディアーツになって、凄いと思った。ISには無い開放感と力強さ……これならISなんて必要無い。
ISが無くても、それ以上のことが出来る。人を不幸にしかしないISなんていらないって思ったわ。
あなただってわかるはずよ? フォーゼを間近で見て、ゾディアーツと戦ってきたあなたなら」
 話し終えたのか顔を向け、問い掛けてくるクララ。
それに対し、楯無はため息を吐いた。彼女の疑問に対する答えは持っている。
だが、問題はそれをクララが受け入れるかであった。そのことに不安に感じたものの、楯無はそのことを告げることにした。
「クララ、あなたは勘違いをしているわ」
「勘違い? 何をよ?」
「ISは結局の所、物でしかない。物が人に何かをしてくれるわけでは無いのよ」
 問い返すクララにそのことを言い出した楯無は見据えながら答えていた。
楯無の言葉は極端な物だが、ある意味当然でもある。ISは結局の所、人が動かさなければ何も出来ない。
そんな物が人に何かをするわけでは無い。その一方でISには特異性と限られた者しか動かせないという優位性を持つ。
それが時にはいらぬやっかみを生み、クララは不幸にもそれに巻き込まれてしまったのだ。
本来はそのことで本国が対処を取るべきなのだろうが、結局の所予備員でしかないと知らん顔をしたか、もしくは――
「それに知ってる? フォーゼやゾディアーツがどのように動いているのか?
エネルギー源となる物はわかってる。でも、そのエネルギー源は限られた者で無いと使えないの。
IS以上に限られた者にしかね……それは時にはあなたが経験した以上の不幸を呼びかねないわ。
そんな物がISに取って代われると思える?」
 見据えたまま楯無は語り続け、話を聞いていたクララはうろたえ始める。
衛理華の話だとコズミックエナジーは人の何かに反応している可能性は高いという。
だが、その何かがわからない。それにフォーゼとゾディアーツはその何かがまったく違う可能性もある。
そのせいで解析がほとんど進まないのだ。そのような状態でコズミックエナジーが知れ渡ったらどうなるのか?
なんとか使えるようにしようと、いらぬ犠牲も出かねなかった。
「う、嘘よ……そんなの……」
「じゃあ、聞くけど……そのスイッチを渡した奴はなんで使えるのか話してくれた?
何を言われたかは知らないけど、あなたも今までの人達のようにいいように使われただけよ」
 うろたえるクララだったが、楯無の言葉に眼を見開く。
確かに言われたのはこれを使えば願いが叶うとかそういうことだけ。詳しいことは聞いていない。
それと共に戸惑いが生まれる。じゃあ、このスイッチを受け取ってから自分がしてきたことはなんだったのか?
自分がしてきたことはいったい――
「でも……でも、私はISが許せないのよ!」
『ラスト・ワン』
「な!? 待ちなさい! それを使っては――」
 叫びながらスイッチを取り出すクララ。それと共にスイッチが凶悪な形へと変貌する。
それを見て眼を見開いた楯無は止めようとするが――
「う……」
 クララはすでにスイッチを押しており、クモの糸のような物にくるまれながら気を失い倒れてしまう。
そして、その横では狼のゾディアーツが姿を見せていた。
「私は……ISを終わらせるんだ!」
「だからって、暴れてもいいわけじゃないだろ!」
「え? 織斑君?」
 叫ぶゾディアーツだったが、そこにやってきた一夏が叫び返す。そのことに楯無は目を丸くしていた。
というのも、なぜここにいるのがわかったのか、わからないからだ。まぁ、理由としては偶然としか言いようがない。
パワーダイザーの修理が終わり、試運転をしようと移動しようと外に出たら、2人を見かけたのだ。
もっとも、詳しい事情はわからなかったものの、直感で先日と同じことをしようとしていると思ったのである。
 故に一夏は止めるべくフォーゼドライバーを装着し――
『スリー――ツー――ワン――』
「変身!!」
 すぐさまフォーゼへと変身し――
『エレキ』
「今回は最初から全力で行かせてもらう!」
『エレキ・オン』
 すぐさまロケットスイッチをエレキスイッチに交換し、エレキステイツへと変身してロッドを構えた。
「うわあぁぁ!!」
「くぅ!」
「ぐっ!? くぅ!」
 それを見届けることなく襲い掛かるゾディアーツだが、一夏は右腕の刃をロッドで受け止める。
それによって電撃がゾディアーツに伝わるが、それに耐えて押し込もうとしていた。
「お前は……お前はその力をなんとも思わないのか!?」
「思わない訳じゃ無いさ! でも、誰かを守りたくて、この力を使っている。だから俺は……仮面ライダーになったんだ!」
 ゾディアーツの叫びに一夏も叫び返す。
一夏が仮面ライダーとして戦うのはかつて自分が仮面ライダーに助けられたように、自分もまたそのようになりたいと思ったからだ。
だからこそ、一夏は戦っている。以前の自分のように不幸に巻き込まれた誰かを守れるようにと。
そんな一夏を楯無は静かに見守っていた。だが、その眼差しはどこか羨望のようにも見える。
「くぅ!?」
「おわっと! なん、って、おわ!?」
 電撃を受け続ける事に危うさを感じたゾディアーツは一夏を押し返す。
その一夏はといえばバランスを崩しながらも立ち直し、立ち向かおうとして飛んできた光弾に足を止められる。
かろうじて当たらなかったものの、何事かと顔を向けると――
「こんな時にサソリかよ!?」
「いい加減邪魔だ。貴様にはここで消えてもらう!」
 サソリのゾディアーツがマントを脱ぎ払い、そんなことを言っている所であった。
このことに一夏は渋い顔をする。いかにエレキステイツといえど、2対1は厳しすぎる。
それにサソリのゾディアーツの実力も知っているだけに苦戦は必死かと思ったのだが――
「お前の相手は私だ!」
「なに?」
『ダイザーモード』
 上空から聞こえる声にサソリのゾディアーツは顔を向ける。すると戦闘機のような物がこちらへと飛んでくるのが見えた。
その戦闘機のような物はサソリのゾディアーツの近くまでくると電子音を響かせながら変形をし、パワーダイザーへと姿を変えて着地する。
しかし、そのパワーダイザーは以前のようなどこかいびつな人型では無く、ちゃんとした人型――
それこそアニメに出てくるロボットのような堅牢さを持つ姿と顔になっていた。
「箒ちゃ〜ん!! がんばれぇ!!」
「箒! ここで火器を使うな!」
「わかっています!」
 そこに応援する束を始め、衛理華達もやってくる。
そして、千冬の指示に箒は答えるとパワーダイザーの翼を取り外し、組み合わせて1本の大きな剣にしていた。
「まずはお前から消えたいらしいな」
「遅い!」
「なに!? く!」
 呆れたように言い放ってから襲い掛かるサソリのゾディアーツだったが、箒は素早い動きで避けて剣を振るった。
それは流石に避けたものの、箒の予想外の動きにサソリのゾディアーツは軽く戸惑っていた。
箒の――というか、パワーダイザーのこの動きは束が修理にISのパーツとシステムを使った為だ。
パワーダイザーの動力部は束なりの改修を加えた後、ISのパーツを組み込む形で直していったのである。
 ちなみにだが、フレームは元の物をほぼそのまま流用している。
流石に壊れた箇所は交換しているが、元のフレームがISの使用にも耐えられる物だったから可能だったのだ。
そうして修理されたパワーダイザーは束の手によって人の形に近い姿に改修されたのだった。
 むろん、改修されたのは姿だけではない。
ISのパーツを使うことにより飛行が可能になり、なおかつフライトモードという新たな形態も手に入れた。
武装も強化及び追加され、ISにも使われる思考制御によって素早くなめらかな動きが可能となっている。
「多少動きが良くなっただけで!」
「なんの!」
 それでもサソリのゾディアーツは倒そうと星座のように並ぶ体中のレンズ状の物からいくつもの光弾を放ってきた。
それに対し箒は左腕を前に出すと、左腕から少し離れた所に光の膜が現れ、光弾を弾いてしまう。
そう、今のパワーダイザーはISのパーツを使ったことでバリアも展開出来るようになったのだ。
ただ、ISの時の反省を生かし、バリアは常時展開では無く任意展開にされている。
また、それと共に束の手によって強化も施されていた。
それにより全体を覆うことは出来なくなったものの、より強固なバリアを張ることが可能になったのである。
しかも、燃料切れか動力部がやられない限りはエネルギー切れの心配はまず無い。
「馬鹿な……なぜ、短期間でこれほどの物が――」
「ふふん! それはもちろん、天才束さんがやったからさ! やっちゃえ、箒ちゃん!」
「はい! はあぁぁ!!」
 このことにサソリのゾディアーツは戸惑う中、勝ち誇りながら応援する束。
箒はそれに返事をしながら地面を滑るように飛び、サソリのゾディアーツへと斬り掛かった。
箒が――パワーダイザーがここまで戦えるようになったのは確かに箒の手による強化もある。
だが、それとは別の要因もあった。それは――
「凄い……パワーダイザーのコズミックエナジーの出力が上がってる……箒に何かあったというの?」
 モバイルPCに映されるデータに驚きを隠せない衛理華。
なにしろ、パワーダイザーのコズミックエナジーの出力は一夏には及ばないものの、それでも以前と比べれば遙かに高くなっている。
コズミックエナジーの出力上昇はパワーダイザーの性能向上に繋がる。
それがサソリのゾディアーツに対抗出来るまでの力を得ることが出来たのだった。
 だが、一方で衛理華の疑問は消えない。なぜなら、コズミックエナジーの出力が上がる理由がわからないからだ。
箒に何かあったと見るべきだが、彼女に特別なことは無かった。しいて言うなら、束との仲を取り戻したくらいなのだが――
あくまでも推測にすぎない。どうにかして確かめる方法は無いかと考えてしまう。
「く! 厄介な!?」
「くそぉ、動きが速すぎる!」
 一方、一夏の方は狼のゾディアーツの動きに苦戦を強いられていた。
狼のゾディアーツの方もエレキステイツによる電撃で思い切った攻撃が出来ていないが、その素早さに一夏が追いつけていないのである。
「ん? そうだ!」
『ウインチ』
 どうすればいいかと一夏は考えていたが、あることを思い出してレーダースイッチを別のスイッチに交換する。
『ウインチ・オン』
 そして、そのスイッチを引くと、左腕にフックが付いたパーツが装着される。
「ごちゃごちゃと出して――そんな物でどうしようというの!」
「こうするんだよ!」
「な!?」
 色んな物を出してくる一夏に苛立った狼のゾディアーツが飛びかかってくる。
それに対し、一夏はフックを飛ばしたかと思うと、狼のゾディアーツに負けない素早さで跳んで逃れていく。
そのことに驚いた狼のゾディアーツは着地して振り返ると、左腕のパーツから伸びるロープに引っ張られるように上昇していく一夏の姿であった。
ウインチスイッチ。フックとロープが繋がれたパーツを装着するスイッチである。
そして、一夏は学校の屋上にフックを伸ばして引っかけ、ロープを素早く巻き戻すことで素早く動いたのだ。
「おおりゃ!」
「きゃあ!?」
 それでも一夏の動きは止まらない。
学校の壁を蹴ってターザンのように跳ぶと、すれ違いざまに狼のゾディアーツをロッドで打ち払う。
直後にフックを外して着地する一夏だったが――
「くぅ!」
「逃すか!」
「な! あぐ!?」
 逃れようとする狼のゾディアーツを見てフックを跳ばし、その体にフックを巻き付けて動きを止める。
「こいつはオマケ!」
「きゃあぁぁ!?」
 更にロープにロッドを当て、ロープに電撃を伝わらせて狼のゾディアーツに喰らわせていた。
その後、フックを外してから、エレキスイッチをロッドに装填しようとして――
「く、うぅ……私は……ここでぇ!」
「て、だから逃すかって!」
 逃げ出そうとする狼のゾディアーツを見て、すぐさまフックを跳ばして学校の屋上に引っかけ、高く跳び上がり――
『ドリル・オン――エレキ・ドリル・リミットブレイク』
「ライダー雷光ドリルキーック!!」
 ウインチスイッチを解除し、すぐさまドリルスイッチを入れてからレバーを入れる。
それによって一夏の体が電撃を纏い、それと共に左足のドリルが高速回転を始めた。
そして、背中の噴射によって逃げようとする狼のゾディアーツへと向かい落ちるように飛びかかり――
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 電撃を纏った高速回転するドリルに貫かれ、狼のゾディアーツは爆発の中へと消えていったのだった。
その間にドリルスイッチを解除した一夏は着地をし、振り返って飛んできたスイッチを受け止める。
その時、フォーゼのスーツの下では待機状態の白式が輝いていたが。
「く、役立たずが……だが、私が選んだわけではないから当然か――」
「待て!」
「行くな、箒! 今は無理をする時じゃない!」
「あ、わかり……ました」
 それを見たサソリのゾディアーツはそんなことをぼやきながらどこかへと去っていく。
箒はそれを追いかけようとしたが、千冬の制止に立ち止まるはめとなった。
まぁ、パワーダイザーは修理を終えたばかりで試運転もせずにいきなり戦ったのだ。
騒ぎに駆け付ける必要があったとはいえ、それは不具合を出すことにもなりかねない。
もし、そうなれば逆に窮地に陥ることにもなる。それを避ける為に千冬は止めたのである。
もっとも、箒としては確かな手応えを感じていた。なにしろ、あのサソリのゾディアーツと互角に戦えたのだから。
「やったね、箒ちゃん! 大勝利ぃ!」
「はい」
 喜ぶ束に箒もパワーダイザーの中で嬉しくうなずくのだった。


「クララ……」
 その後、スイッチを解除されたことで意識を取り戻したクララだが今はただ落ち込み、うつむいていた。
そんな彼女を楯無は心配そうに見つめる。それは束を除いた一夏達も同じであったが。
「ねぇ……楯無にとって……ISってなんなの?」
「そう……ね……私にとっては、私がやりたいことが出来る物……かな?」
「え?」
 苦笑混じりに答える楯無に、かすれるような声で問い掛けたクララは思わず顔を上げる。
そんな彼女に楯無は微笑み――
「織斑君が誰かを守る為に仮面ライダーになるように、私もやりたいことがあってISを使ってるのよ。
そのやりたいことというのはここではちょっと言えないんだけど……でも、さっきも言ったけど、ISが何かをしてくれるわけじゃないわ。
ISを使う人がいて、初めてその役割を果たすのよ」
 そんなことを言い聞かせる。これはなにもISに限ったことでは無い。
あらゆる道具はただそれだけでは意味を成さない。使う者がいて、初めて道具としての意味を持つのだ。
「それにね、あなたにツライことがあったのはわかるわ。だからこそ、相談して欲しかったわね。
なんでもってわけにはいかないけど、力になれたかもしれないから」
「楯無……う、うう……」
 苦笑しながらクララの肩に手を置く楯無。そのことにクララは泣き出してしまう。
実のところ、クララは楯無に起きたことを話す勇気が無かったのだ。そのことで楯無にどう思われるか怖くて……
なまじ、楯無のことを良きライバルと見ていただけに、それがクララにとっての不安だったのである。
そして、楯無は変わらなかったことがクララには嬉しくて、それ故の涙であった。


 その後、クララは本国の者の手によって連行されていった。
騙され、そそのかされたとはいえ、事件を起こしてしまったのだから当然とも言える。
故に処罰は免れなかったが、その後の楯無の助力によってクララは予備員を続けることが出来――
以降、クララは楯無の良きライバルとしてあり続けることとなった。


 さて、それはそれとして――
「行って……しまうのですか?」
「うん、束さんもいたいんだけどね。流石に騒がしくなってきちゃったから」
 仮面ライダー部の部室の外。不安そうな箒の問い掛けに、束は少し困った顔で答えていた。束としても箒と別れたくはない。
だが、自分を探している者達が騒がしくなったことも察知している為、ここに居続けることが出来なくなったのである。
その為、束はここを去ることになり、箒達は見送る為に全員外に出ていたのだった。
「そうだ! 箒ちゃんにプレゼントがあるんだった!」
「プレゼント……ですか?」
 と、いきなりの束の言葉に首を傾げる箒。そんな時、上空から何かが落ちてくる音が聞こえてくる。
なんだろうと誰もが顔を上げると何かが落下してきていて――
2つの四角錐の底を合わせたような硬質の素材の物が束の横に轟音と共に落ちてきていた。
いきなりのことに誰もが声を失う中、落ちてきた物が開いたかと思うと星やら月やらハートやらのエフェクトを出しながら消えていく。
そして、その代わりにあったのは1機の赤いISであった。
「束さんお手製の箒ちゃん専用機、『紅椿(あかつばき)』! この紅椿は全スペックが現行ISを上回ってるの!
なぜなら、紅椿は天才束さんが造った第4世代型のISなんだよぉ〜」
「第4世代!?」
「各国でやっと第3世代型の試験機が出来た段階ですわよ」
「やれやれ、これは問題になりかねないな……」
 嬉しそうにしている束の説明にラウラとセシリアが驚く。
セシリアが言っているとおり、現在各国で進められている第3世代のISはまだまだ研究段階だ。
燃費の悪さや装備されている武装のコントロールの難しさなどがそのもっともな例と言えるだろう。
なのに、束はそれをすっ飛ばした物を造ってしまったのである。
いかに束が天才にしてISの開発者だとしても、とんでもないことには変わりない。
 その一方で結城がぼやいたように問題にもなりかねなかった。まぁ、第3世代で各国がしくはっくいってる中で第4世代の登場。
第3世代の完成型どころか、その上を行く技術が使われている第4世代ともなれば、注目を浴びるだけではすまない。
故に結城は問題になると考えたのだ。むろん、それは千冬も感じてはいたが。
「もらってくれるかな、箒ちゃん?」
「え? あ、ありがとうございます!」
 先程とは打って変わってしおらしくなる束に、箒は嬉しそうな顔をしていた。
箒としてはISでも一夏の手助けをしたかった。だが、専用機を持たない彼女は、ISの訓練時は面倒な手続きをして借りねばならない。
それ故にこのISがあれば、その手間が省けるだけでなく、一夏の手助けが出来ると実感したのである。
「良かったぁ〜。じゃあ、早速初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)をしちゃおう! 箒ちゃんのデータはある程度入れてあるから、すぐに終わるよぉ〜」
「はい!」
 その返事を聞いて嬉しくなる束に箒は嬉しそうにうなずく。
その後、束が用意したISスーツに着替え(なぜか、サイズがピッタリだったことが気になったが)、紅椿を装着。
初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を早々に済ませて、試運転の為に軽く飛んでみることにし――
「なにあれ……凄く速い……」
「あれが第4世代の加速……なの?」
 その動きに鈴とシャルロットが驚くが、一夏やセシリアなど、ISを扱う者達も驚いていた。
なにしろ、自分達のISではあの速さは早々に出せない。しかも、動きも良かった。
このことには一夏達も感心しっぱなしだったのである。
 その後、試運転を終えた箒は戻ってきて、紅椿を待機状態にする。
なお、紅椿の待機状態は左手首に巻かれた赤い紐に金と銀の(すず)が繋がっている物だった。
「武装とかのマニュアルはデータの中にあるから確認しておいてね。あ、そうだ。いっくん、ちょっとこっちに」
「え? なんですか?」
 説明していた束の手招きに首を傾げながら近付く一夏。そんな一夏に束は普段は見せないような真面目な顔をしていた。
「あのね、コズミックエナジーなんだけど……もしかしたら、エネルギーじゃ無いかもしれないんだよ」
「え?」「なんですって!?」
 が、束のいきなりの言葉に一夏は再び首を傾げるが、逆に衛理華は驚いていた。
それもそうだ。エネルギーだと思っていたコズミックエナジーがエネルギーでは無いと言われたのだ。
それが衛理華には信じられなかったのである。
「いや、悔しいことに束さんにも良くはわからないんだけどね。でも、エネルギーとしては明らかにおかしな点が多すぎるんだよ」
 どこか悔しそうに話す束。事の発端はパワーダイザーの動力部を改修していた時のこと。
パワーダイザーの動力部は特殊加工した水を燃料に動くエンジンとコズミックエナジーの供給装置から成り立っている。
コズミックエナジーの供給によってエンジンの性能を上げ、それによって高出力を得ているのだ。
エンジンはあまり普及こそしていないものの、一般にも使われているので別段おかしな物ではない。
逆にコズミックエナジーの供給装置は何かがおかしいのだ。
束から見ると装置から供給しているというよりは、ただエンジンと繋がっているようにしか見えない。
これではコズミックエナジーを供給することは出来ない。なのに、その役割を果たしているのだ。
それがどうして行われるのか、束にもわからなかったのである。
「だから、私の方でも調べてみるね」
「お願いするわ。正直、私だけじゃ手一杯だったから」
 束の言葉にため息を吐く衛理華。衛理華の方でも解析は進めてはいるのだが、色々とあって進んで無いのが実情だ。
だから、束のような天才に調べてもらえれば、解析が進むかもと期待してしまったのである。
 実は束にはもう1つ気になることがあったが、この時は大した問題ではないと考えて忘れていた。
それが後に大問題になるとは気付かずに――
「それとぉ〜……ちゅ」
「え?」「「「「「「「「「ああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!!?」」」」」」」」」
 で、いきなり束が照れだしたかと思うと、いきなり一夏の右頬にキスをしてきた。
そのことに一夏は一瞬何が起きたかわからなかったが、それを見ていた箒達から悲鳴が上がる。
なお、悲鳴を上げたのは箒の他にセシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、本音、楯無、簪、千冬である。
一夏と束を除いた全員は悲鳴の大きさに耳をふさいでいたが……なお、真耶と虚はその後にどことなく羨ましそうな顔をしている。
「これはお礼だよ。じゃあねぇ〜。また、会おうね、箒ちゃん! いっくん! ちーちゃん!」
「え、あ、はい……」
 で、束はといえば顔を赤くさせながら元気に右手を振りつつ去っていくのだった。
それを呆然と見送る一夏。もっとも、束がしたことがわかってくるとこちらも顔を赤くさせていたが。
そんな彼を悲鳴を上げた箒達は睨んでいたりする。一夏は呆然とするあまり、気付いてなかったが。
「やれやれ、嵐のような人でしたね」
「というか、嵐の種を投げていったようにしか見えないけど」
 その様子に結城は苦笑し、衛理華はこめかみに指を当てながらため息を吐いていた。
こうして、騒がしくもなんとか今回のことを乗り切った一夏達。だが、束が去り際に起こしたことで気付いていなかった。
自分達から少し離れた所を水色のジャケットを着た青年が歩いて行ったのを――




 あとがき
というわけでなんとか乗り切った一夏達。箒も束との仲を取り戻せました。
それに束のおかげでパワーダイザーもパワーアップし、一夏達も戦う力が整っていきます。
その一方でコズミックエナジーの謎は深まるばかり。はたして、コズミックエナジーとはなんなのか?
そして、謎の青年はいったい何者なのか? それはいずれ語ると言うことで。

拍手、いつもありがとうございます。今回は拍手に寄せられた質問などにお答えしますね。
まずはライダーマンの活躍はいつかという質問ですが、基本的に戦闘には参加しません。
というのも、年齢に関して明記してませんでしたが、結城氏は50代後半です。
なので、体力的には厳しく、結果として戦闘には参加しないのです。
ま、この辺りは物語でも書いているのでお確かめください。
じゃあ、なんでいるかといえば、突発的な事態が起きた時に関係各所に連絡したり対処したりする為です。
でも、ライダーマンが出ない訳じゃないですよ?(え?)

2つ目。メテオに変身するのはあの人ですか? というご質問。
これは3分の1くらい正解だと言っておきます。いや、3分の1だったかな?(おいおい)

3つ目。パワーダイザーのパイロットはラウラが適任では? というご感想。
実は今回のネタの為に箒になってました。

4つ目。「宇宙キタァー!!」が無いのは残念。
これは一夏のイメージを大きく崩したくないのでしていません。
ただし、まったくしないわけじゃないですよ?

5つ目。こちらはディケイドの拍手ですが、ディケイドととのクロスはあるの?というご質問。
予定はあくまで予定です(え?)

次回は騒乱編のラスト。タッグ戦を行う一夏達。そんな中で蠢く者達。
そして、新たな問題勃発? というようなお話です。
ではでは、次回またお会いしましょ〜。



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