手に入れたつかの間の安らぎ

再び歩き始める 見えない道を手探りで

恐れと不安はあるが 一人じゃない

二人ならば怖くない その手の温もりを信じ

再びその安らぎの時がくる事を願いながら歩む



僕たちの独立戦争  第四話 
著 EFF



風を切り裂くような音を立てて、まるで舞うように動くクロノの動きにアクア達は目を瞠っていた。

マリー・メイヤだけが一人静かにお茶の給仕をしてクロノに声をかけた。

「クロノさん、お茶の用意が出来ました。

 一息つきましょう」

マリーの声にクロノは動きを止め、呼吸を整えながらアクア達のもとに歩いて来た。

「ありがとうございます、マリーさん。ではいただきます」

「はい、どうぞ召し上がってくださいクロノさん」

「マリーさん、いつも通りクロノでいいですよ」

「ダメです。

 アクア様の大事な方ですから本当はクロノ様と言いたいんですが、

 そう呼ばれるのはお嫌でしょうからこれで我慢して下さい」

楽しそうに話すマリーにアクアは恥ずかしそうに声を出した。

「マ、マリー、いきなり何を言うんですか!」

「事実でしょう、アクア様。

 散々振り回されて来たんですから、たまにはいいでしょう」

「…そんなに振り回されたんですか、マリーさん。」

「ええ、そうなんですよクロノさん。

 小さい頃はお転婆でそれはもう「マリー!!ダメ!!」」

「……そのうち聞かせて下さい、内緒で」

「ダメです!

 マリー絶対言わないように、クロノも聞いちゃダメです!!」

アクアの狼狽する姿に驚きながらグエンが話題を変えようと動いた。

「……しかしクロノ判っていたが実際見ると、とんでもないなお前の動きは」

「そうか、あれでもまだ半分くらいだぞグエン。

 やっぱり五感があると違うな」

五感が戻って前以上に動く身体をクロノはそう評価した。

「ちょちょっと待たんか?

 アレで半分じゃと、ではアレ以上に動けるのかクロノよ」

「あぁドクター、その通りだ。

 昔はこの程度だったが今はもっと動けるようだ」

「…………なぁ、昔はどの程度五感があったんだ、クロノ。

 言いたくなければいいが」

「……臭覚、味覚は全滅。

 視覚は明るさと輪郭が分かるくらい、聴覚は殆どダメ、触覚も殆どダメ、

 IFSを通してのバイザーで視覚、聴覚はかろうじて回復したが、

 感覚を補助するスーツがなければ立つ事も出来なかった」

当時の状態を話すと全員が驚いていた。

「そこまで酷かったのか……スマン、悪い事をきたな」

「気にするな、昔の事だ。

 ……アクアもそんな泣きそうな顔をしないで、もう大丈夫だから」

「ごめんなさい、クロノ。

 ……その、これからどうします」

「ん、前に言った通り計画を進めるつもりだが、

 何か問題があるかな、アクア」

「いえ、それは分かっていますが、

 ラピスちゃんをどうするつもりですか?」

アクアはクロノの家族の一人であった少女を思い出して聞くとクロノは悩みながら話した。

「……ラピスか。俺の知っているラピスとは違うんだ。

 だから迷ってる、会った時に傷つけてしまうんじゃないかと、

 ……助けることには違いないが」

記憶の中にある少女とこれから救出する少女の違いにどう対応するべきかクロノは悩んでいた。

「でも今なら間に合います、私は笑顔のラピスちゃんに逢いたいです。

 ここならアクア・クリムゾンの名で護る事も出来ます。

 それに早ければ他の子供達も救えます。

 ならばここは先手先手を打つべきです。

 それにアカツキさんに情報をリークすれば助けになるでしょう」

クロノの迷いを吹き飛ばすように話すアクアにクロノは決断する。

「……そうだな、笑顔のラピスか。

 確かに一番大事な事はそれだな」

「アクア様、そのラピスちゃんとはどんな方なのですか。

 クロノさんの妹さんですか?」

初めて聞くクロノの家族らしい人物にマリーは尋ねた。

「違うわマリー。

 ネルガルの秘匿研究所で生まれたマシンチャイルドでクロノの養女でいいかしら」

「まぁそんな感じかな。

 俺の知っているラピスは度重なる実験で感情をなくして人形の様になりかけていた所を救い出したんだ。

 結局笑顔のラピスは見れずじまいだが」

自分の無力さを自嘲気味に話すクロノに四人はクロノの無念さを感じていた。

「……悲しい事ですね、でも今なら間に合うんですよね、アクア様」

「ええ、間に合うはずです、間に合わせてみせます。

 クロノ、ダッシュさんに会わせて下さい。

 場所の特定が出来ないなら捜すまでです。

 その為にダッシュさんの力が必要なんです。

 私にはこのオペレーター用IFSがあります。

 ダッシュさんの元で訓練して使いこなせるようになります。

 そして必ず見つけてみせます。

 その時はクロノ必ず救い出してください」

「なぁアクアお嬢ちゃん、そのダッシュはたかが船のコンピューターじゃろう。

 そんな力があるのか、ちょっと信じられんのじゃが」

「いや、それだけの力はある。

 正確には『人工知性体オモイカネ・ダッシュ』。

 自ら考え、自ら行動もでき、マシンチャイルドがいれば、

 電脳世界のおいては絶対者になれる程の存在だ。

 今は土星軌道上で俺の仕事をサポートしてくれているがな」

「そっそんなにスゴイものなのか、クロノ。

 マシンチャイルドってそんなに一般人とは違うものなのか」

「……そうだな。

 この時代ではそんな認識だが、未来では優秀な兵器と扱われるかもしれないな。

 戦争がなければ、彼女らも不幸にならなかった」

目を伏せてやり場のない憤りを見せるクロノに、

「そうじゃな、人はどうしようもない馬鹿共がほとんどじゃからな。

 じゃがクロノ、お前はそれを何とかしたいんじゃろ。

 わしは協力してやるぞ、そんな未来はみとうもない」

「……ドクター。

 みんなにも言っておくが、俺はこれ以上未来の事を言う気はない。

 未来を知る事は非常に危険な事なんだ。

 だから聞かないでくれ、アクアもそのつもりでいてくれ」

「そうじゃな、確かに危険じゃな。わしはもうこれ以上きかんよ」

「知りたい事もあるが私も聞かない事にするよ、クロノ」

「アクア様にはいい未来ではないので興味がありませんよ。

 それよりラピスちゃんは可愛い女の子ですか、クロノさん」

「……みんな、ありがとう。

 マリーさん、ラピスは色白で薄桃色の髪で多分今は五歳位の可愛い女の子ですよ」

「そうですか、アクア様。

 可愛いお洋服を用意しなければいけませんね。

 義理とはいえ、アクア様のお子様ですから」

「そっそうですね、マリー。

 きちんと育てて立派なレディーにしてみせますわ、クロノ」

「…………とりあえず、ダッシュに相談しに行くか。

 アクアも一緒に行くかい」

「はい、ぜひ紹介して欲しいです。

 クロノの大事なパートナーですから会いたかったんです」

「そうかそう言ってくれると、ダッシュも喜ぶよ。ドクター達はどうする」

「わしは残るよ、生体ボソンジャンプは危険じゃろうから」

「わたしは島の警備の見直しをしなければなりませんし行けません。

 ラピスちゃんが来る事でよりいっそうの警戒が必要ですし、

 二度とあのような事が起きないようにしなければなりませんし」

「私はラピスちゃんの身の回りの準備をしますので、

 クロノさん、アクア様をお願いしますね」

「はい、アクアは俺が護りますので大丈夫です。

 さぁアクア、俺の隣に立ってくれ」

「……クロノ、

 ディストーション・フィールドがないと私は危険ではありませんか」

「大丈夫。ダッシュが新型のディストーションフィールド発生装置を用意してくれたよ」

「さすがですね。ダッシュさんは」

「あぁ最高の相棒さ、ダッシュは。

 よしアクア、ジャンプするぞ」


クロノとアクアの周りにボソンの光が輝き消えた時には二人の姿はなかった。



―――ユーチャリス・ブリッジ―――


ブリッジにボース粒子反応が検出され、ダッシュはアキトが来た事を知り、

現在の状況を報告すべく準備を開始した。

『マスター、おかえりなさいませ』

「ただいま、ダッシュ。

 こちらは俺のパートナーのアクア・クリムゾンさんだ」

『はじめまして、私はユーチャリスU管制制御コンピューターのオモイカネ・ダッシュと言います。

 ダッシュとお呼び下さい、アクア・クリムゾン様』

「はじめまして、アクア・クリムゾンと申します。

 私の事はアクアと呼んで下さい、ダッシュさん」

『ダッシュで結構ですよ、アクア様』

「……私の事もアクアでいいですよ。ダッシュ」

『いえ、マスターの大事な方を呼び捨てには出来ません。

 お許しください、アクア様』

「……分かりました、ダッシュ。

 長い付き合いになりますから、よろしくね」

『はい、こちらこそよろしくお願いします、アクア様。

 マスター、今日は何かありましたか?

 連絡ならば、リンクを使えばよろしいのに』

「…………実は、ラピスの事で相談に来たんだ。

 それにアクアをお前に紹介したかったんだ。

 俺の最高の相棒としてな」

誇るように話すクロノにダッシュは嬉しく思っていた。

『ありがとうございます、マスター。

 ラピスの事ですが、既に場所は特定し監視しています。

 後はマスターに報告するだけでした』

「そうか、実はアクアに言われたんだ。

 ラピスをどうするのか?

 アクアにラピスの笑顔を見たくはないのかと聞かれてな。

 …………間に合うか、ダッシュ」

『はい、間に合います。

 他にも子供達がいますし昔のラピスではありませんが、

 私はラピスを救いたいです』

クロノ問いにダッシュはかつてのパートナーの少女を救う事に異論はなかった。

「そうですよ、クロノ。

 私達は未来を変えるんです。

 全てを救う事は無理ですがせめて手の届く限り救いましょう」

『そうですよ、マスター。

 救える限り救いましょう。

 それとマスターは今はクロノと呼ばれているのですか?』

「あぁ、アキトがいる以上その名を名乗る気はない。

 一度死んだと思ってクロノと名乗る事にした。

 ダッシュ、これからはそう覚えてくれ。

 それと過去の記録、とくに俺とラピスの記録は厳重に封印してくれ。

 知っているのはここに居る俺達だけでいい。

 特にラピスには知られたくない……知る事であの娘を傷つけさせたくない」

『……分かりました、マスター。

 これから幸せになるラピスには私も見せたくはありません、厳重なロックをかけます』

「すまんな、ダッシュ。アクアもそのつもりでいてくれ」

「はい、ラピスちゃんの幸せが最優先ですね。

 ダッシュには心苦しいけれどラピスちゃんの為にお願いね」

『判っております、アクア様。

 私にとってラピスは宝でした、ラピスの幸せが第一です』

(どうやら仲良くやっていけそうだな、二人は)

『マスター、報告したい事がありますので少しよろしいですか』

「あぁ聞かせてくれダッシュ、アクアも聞いて意見を聞かせてくれ」

隣にいるアクアが頷くのを待ってダッシュが報告を開始した。

『まず私の事ですが、現在はユーチャリスを搭載しているドック艦にいます。

 ユーチャリスにはリンクによる遠隔操作のような状態です。

 いずれは枝分けしてユーチャリスには新しいオモイカネに替わるつもりですので、

 新しい名を与えて下さい。

 ドック艦の名前ですがユーチャリスUにしましたので問題があれば変えてください。

 機動性はユーチャリスの約2倍、グラビティーブラストは4門あります。

 相転移エンジンは10基あり、ナデシコAと同程度の相転移砲があります。

 ディストーションフィールドを優先したのか、ユーチャリスの4倍はあります。

 そしてナデシコCを上回るシステム掌握、『ハーメルン・システム』と名付けましたが、

 マシンチャイルド無しでも掌握可能です。

 マスターがいれば火星全域は楽勝ですね♪。

 そして小型ですがプラントがあり、大型、中型、小型の相転移エンジンができます。

 これは私のデーターを基にしてあるのでこれを解析すればすぐに地球でも量産できます。

 はっきり言って太陽系を征服出来ますよ、マスター♪』

告げられた事実に二人は唖然としていた。

「……………………………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………………」

「いっその事やりますか、クロノ♪」

クロノをからかうように話すアクアに、

「……やらないよ、

 そんな事したら、静かな生活はダメになるアクアはそれでいいかい」

「……いやですね。」

「なぁ、古代火星人は何を考えてここまでしたんだろうな。

 分かるかダッシュ」

『………おそらく太陽系を脱出、

 又は絶滅の時期に落ちた為に準備が出来なかったんじゃないかと思います』

「……そう考えると納得出来ますね、クロノ」

「アクア、どうしてそう思うんだ。

 俺には分からんぞ」

「プラントですわ。時間があれば廃棄もしくは別の場所に移動出来たはずです。

 それが出来ない状況にあったからこういう形になってしまったのではないでしょううか」

『私もそう推察します、マスター。

 やり方が杜撰的すぎるのです』

「……そうなら、感謝しないとな。無理してくれたんだろうな俺たちの為に」

「クロノ、彼等の為にも失敗は出来ません。

 精一杯頑張りましょう、未来のために」

『そうです、チャンスをくれた彼らの為に幸せを掴みましょう、マスター!』

「……そうだな、やるだけやってみるか」

「『はい! クロノ(マスター)』」


ダッシュは嬉しかった。
マスターが生きる為の希望をみいだした事に。
アクアはクロノと共に生きていける事に。
これで未来が変えられると思った。

クロノは正直不安だった。
未来を変える事に。
だがこの二人と一緒なら良いかと思った。
過去は一人だった、今はアクアがいる。
ドクター、グエン、マリーさんもいる。

俺はここに誓おう。
今度は間違えない、復讐者にはならない。
家族と共に行きていこうと。


『それでは、マスター。ラピスを助けに行きますか♪』

「あっ、待って下さいダッシュ。実はお願いがあるんです」

『なんでしょう、アクア様。

 私に出来る事なら何でも言ってください』

「オペレーターの訓練がしたいんです。

 折角IFSがあるのに使えないのは困るので」

「いや、無理に訓練する事はないよ、アクア。

 正直キツイよ、慣れるまでは」

「でもひとつやりたい事があるんです。そのためにはどうしても必要なんです」

『何をなさるのですか、アクア様。

 出来れば教えて下さいませんか』

「……ナデシコに乗りたいんです。ルリちゃんに会って仲良くなりたいんです」

「ダメだアクア、危険すぎる。

 歴史を変える以上ナデシコがどうなるか分からない、絶対ダメだ!!」

『私も反対です、アクア様。

 危険が大きい上、確固たる理由がない以上は協力できません』

「……ルリちゃんを軍に入れないためじゃダメですか?」

「そっそれはシステム掌握のことか、アクア」

「はい、このままいけばルリちゃんはシステム掌握の為の道具になりかねません。

 でもルリちゃんが途中で降りられたらどうでしょうか?」

このまま行けばルリの将来は兵器として扱われる危険性をアクアは示唆した。

「だけど、俺じゃダメなのか。

 俺が乗れば……」

クロノがアクアの危険を無くそうと話すと、

「ダメですよ、クロノ。

 貴方は火星に必要な人物ですから、

 火星に人材が育つまでは貴方は無理が出来ないんです。

 それに条件付で乗りますから」

アクアの反論にクロノは何も言えず、ダッシュもこれからクロノが行う事を考えてアクアの意見を採択した。

『アクア様、条件とは何ですか?

 それ次第では協力する事をお約束します』

「ダッダッシュ、何を言ってるんだ!

 絶対にダメだ!俺は反対だ!!」

『マスタ−、アクア様も本気でしょう。

 ならば私も全力でサポートしますので信じて任せましょう』

ダッシュがアクアについた事でクロノは仕方なく諦めた。

「……分かった、無茶はしないでくれ頼むよ」

「ええ、クロノ。無理はしません。信じてくれますか」

「信じているよ、アクア。

 でも心配なんだよ、失いたくないんだ、アクアを」

失い続けてきたクロノの言葉にアクアは不謹慎だと思いながら嬉しく思っていた。

「……ありがとう、クロノ」

(いい雰囲気を邪魔したくはないんですが、このままでは話が進みませんね。

 しかしマスターは相変わらず歯の浮くようなセリフをさりげなく言いますね。

 しかも自覚がないから困ります。

 アクア様の為にも火星では注意が必要ですね)

こうしてクロノの知らない所でダッシュの苦労が増えていく事になる。

『……申し訳ありません、アクア様。先ほどの条件を教えて下さいますか』

「えっええ、条件ですね。ちょっと待って下さいね」

「ん、どうかしたのか、アクア。顔が赤いが」

「いえ、何でもありません(気がついてないんですね、クロノのバカ)」

(アクア様も、苦労しますね。これから大変ですよ)

「まずこれからクロノが行く研究所に偽の情報を残します。

 それからアカツキさんの秘匿回線にクリムゾン・ウィッチ『紅の魔女』として研究所の場所を教えます。

 その際、現在生存してる子供達の情報を死亡扱いにしてこちらで保護します。

 その後、スキャバレリプロジェクトでスカウト中のプロスさん接触します。

 昔、研究員の方が命懸けで私とクロノを助けて、クロノが火星にいることを知り、

 火星までの片道で良いから乗せてくれと頼み、

 最悪ダメな時は『紅の魔女』を出して脅して、

 ナデシコに乗り込むというのはどうでしょうか?」

「……………………………………………………………………………………」

『……………………………………………………………………………………』

「…………ダッシュ。ダメでしょうか、このプランは」

『いえ正直驚いてます。

 マスターいい人に出会いましたね。

 アクア様がいれば確実に成功しそうです』

「……そうだな、出来ればこんな世界にはいて欲しくないんだが」

「…………ただこの計画にも問題があります。

 研究員を含むスタッフは全員殺す事になります」

「それについては問題ない。

 アクアも見ただろ、俺の記憶をあの実験を……」

あの光景を思い出してアクアは悲しそうしていた。

「……はい、それでも私は」

「アクア……君はそのままでいい優しいままの君でね」

「違います! 私が怖いのはクロノがあの頃のクロノになる事です。

 命を弄ぶ人が死んでもどうでもいいです。

 クロノの心が傷つくのが悲しくて怖いんです!」

アクアが泣き叫ぶように答えながら震える体をクロノは優しく抱きしめ囁いた。

「俺には帰る場所があり、護るべき人達がいる。だから大丈夫だよ、アクア」

「……信じていいですね。

 必ず私の側にいてくれますね、クロノ」

(アクア様がいればマスターは大丈夫ですね。

 しかしどうしましょう。

 昔の殺伐とした雰囲気よりはいいんですがコレはコレでなんかイヤですね。

 声をかけ難くてどうしたらいいんでしょうか)

ダッシュの苦労は続きそうだった。

どうやら状況に気が付いたアクアが慌ててクロノから離れた。

「ごっごめんなさい、クロノ。

 みっともない所をみせちゃって」

「……気にしてないよ、アクア。泣いてる顔も可愛いよ」

「あぅ、(どうしてそんなセリフがさらりと出るんですか)」

(自覚がないのも罪ですよ、マスター。それよりアクア様のフォローを)

『マスター、アクア様のお体の検査と研究所襲撃の準備の為、

 2時間ほどかかりますのでシミュレーターで訓練していただけませんか』

「検査とは何ですか?

 別におかしな所はありませんよ、ダッシュ」

『いえマスターのナノマシンが入った事も気になりますし、

 オペレーターの適正も調べないと計画はできません』

「確かに俺のナノマシンの事もオペレーターの適正も大事だな」

アクアの様子が変わらなかった事で安心していたクロノだが検査の必要性を感じていた。

『はい、お体の方は大丈夫だと思いますがこの際一通り検査したいと思います』

「どういった検査をするんですか、ダッシュ」

『IFSを使いナノマシンによる全身の走査を行います。

 その際オペレーターの適正も調べます』

「別に痛くはないよアクア。

 オペレーターシートに座って操作端末に触れるだけだよ」

『はい、それだけですがIFSを使うのが初めてですのでゆっくりと時間をかけてやります』

「わかったでは俺はシミュレータールームにいる。

 五感が戻った事による操縦の違いを確かめるよ」


『ではアクア様、こちらのオペレーターシートにお座りください』

「はいここですね、お手柔らにねダッシュ」

クロノがブリッジを出るの確認してアクアはため息を吐いた

『苦労しますね、アクア様。マスター自覚がありませんから』

「わかりますか、ダッシュ。私の苦労がどれ程のものか」

『はい、アクア様。アレはどうにもなりません。

 ですが出来うる限りのフォローはしますのでご安心して下さい』

「ありがとう、ダッシュ。

 ここに手を置けばいいのかしら」

『はい、手のひらを下にして下さい。

 検査自体は1時間程ですがアクア様にお話する事があった為時間を取りました』

「……そうクロノには聞かせたくない話ですね。

 じつは私もあるの聞いてくれる、ダッシュ」

『それは後ほどに、それでは始めます。

 よろしいですか、アクア様』

「ええ、いつでもいいわ。ダッシュ」

『……………………………………………………………………………………』

「……………………………………………………………………………………」

『……………………………………………………………………………………』

「……………………………………………………………………………………」


1時間後

『終わりました、アクア様。

 訓練次第ではラピス位の実力が発揮できますね』

検査の完了を告げてアクアの能力を簡潔に話した。

「そうやっぱり純粋のマシンチャイルドには敵わないのね。

 ちょっと残念ですわ」

『いえオペレーターでは劣りますが、身体能力では上になります』

「そうなんですか?

 ……クロノのナノマシンのせいかしら」

『はい、骨格、筋肉、神経、内臓系全てが強化されています』

「そうそれが問題なのね、ダッシュ。

 他には何かあるかしら」

『はい、アクア様もまたA級ジャンパーとしてのお力が付きました。

 この意味が分かりますか?』

「ええクロノのナノマシンのどれかがジャンパー化の鍵になるのね。

 ……どうしてあの人ばかり背負う物が増えるのかしら」

この先の事を考えて憂いを見せるアクアにダッシュが慰めようと語りかける。

『……アクア様、イネス博士ならなんとかしてくれるかもしれません。

 それまでは秘密に』

「そうね、アイちゃんなら任せられるわね。強敵だけど浮気してもいいですわ」

『…………やはり記憶を見られたのですね、アクア様』

「ええ見てしまったわ、あの人は見られたくなかったはずね」

『ではマスターに武術を教わって下さい、アクア様。

 ご自身の今の状態で、マスターのように動かれるとお体が壊れます』

「経験はあるけど体が付いていけないということですね。

 強化されてもダメなんですか?」

『いえ強化されているために無理が出来るから危険なんです。

 いつ破綻するか分からないのです』

「どの程度動けるか?

 知る事が大事なんですね。

 いざ反射的にクロノの動きを真似するからですね」

『はい、マスターと同じ動きを覚えたらそれだけ負担は小さくなりやがては負担はなくなります』

「つまり私自身でリミッターを付けられるのですね。

 時間はどのくらいかかりそうですか?」

『半年から1年と見てください。

 パイロットとしてもその頃には対応できますがそれまではマスターにも秘密に』

「……ありがとう、ダッシュ。」

『いえマスターはアクア様が戦場に出る事をご自分の責任と思われますから』

「そうね、優しいから何でも背負ってしまう人だから困るのよ。

 すこしは私が背負いたいのにね、ダッシュ」

『ナデシコ出航時には間に合います。

 予備のジャンプユニットをお渡ししますので万が一の時はこれをお使い下さい、アクア様』

「そうね。

 ついでにアキト君も鍛えようと思いますの。

 主に精神面をそれとネルガルの事を話そうと思うのどうかしら」

『そうですね、このままいけばネルガルのジャンプ実験の実験体になるでしょう。

 ご両親の事、ボソンジャンプの事を話して、危険性を訴える事ですね。無駄かもしれませんが』

「………信頼を勝ち取ってからならどうかしら。

 それにミスマル・ユリカは許せないわ、女として」

『そうですね。マスターは気にしてませんが私も許せません、アクア様』

「それは大丈夫よ、ダッシュ。

 ブリッジにいて注意し続ける私に対して危害を加えるのならクルーの信頼をいずれ失うわ。

 そんな人間をアキト君が好きになるかしら、ダッシュ」

『アクア様がアキト様に信頼を得る事が全ての鍵になりますね』

「そうね、ちょっと怖いけどなんとかするわ、ダッシュ」

『そうですね、自覚のない方ですから心配ですね、アクア様』

「…………そうね、みんなが治らないって言われてますわ」

『……前途多難ですね、アクア様』

「……やるだけやってみますわ、ダッシュ」

『……………………………………………………………………………………』

「……………………………………………………………………………………」

『……………………………………………………………………………………』

ブリッジに沈黙が続く中、ダッシュが今日一番の過酷な発言をした

『…………アクア様。

 これが最も重大な事になるかもしれませんので心に留めて置いて下さい』

「…………何でしょう、ダッシュ。

 貴方がここまで言うならかなりの事ね、話して下さい」

『いずれ生まれるだろう。マスターとアクア様のお子様のことです』

「ちょっちょっと待ってダッシュ!

 確かに私とクロノはそういう関係ですがまだ出来ていませんわ」

動揺するアクアにダッシュは落ち着かせるように話しかける。

『いえ今ではなく未来においての事です。アクア様』

「そっそうですよね、ダッシュ。

 ……未来ですよね、何か問題でもありますか」

『はい、マスターとアクア様はIFS強化体質、つまりマシンチャイルド同士です。

 その為お二人のお子様は人工のものではなく、

 自然体の存在で飛躍的に能力の向上があるかもしれません。

 その場合、地球ではなく火星で育てる事を進言します』

「……ナノマシンに偏見がないからですね、ダッシュ」

『はい、その場合12歳までは単独でオペレーターにはさせないで下さい。

 必ず私か、私から枝分けされたオモイカネシリーズを使わせて下さい。

 お願いします、アクア様』

「……善悪の区別を判断できるまでは、危険なんですね。ダッシュ」

『そうです、アクア様。

 倫理観の定まらない状態では悪意ある誰かに操られるかもしれませんが、

 私や私から生まれるものにはお子様を守るように深層部にプログラムします。

 マスターには言えないのでアクア様の負担になる事をお許し下さい』

「………………………………………………………………」

『………アクア様!

 なっ泣かないで下さいアクア様!

 申し訳ありませんアクア様』

「……ありがとう、ダッシュ。

 よく言ってくれましたね、この事は時が来るまでクロノにも秘密です。

 いずれ言わなければならない日がくるまで、私とダッシュの秘密です。いいですね」

『はい、アクア様。

 ここにお約束します。

 私より生まれしものはお子様達と永遠の友誼を誓います』

「ふふ、そうですね。

 忠誠よりもその方が何倍もいいですね。

 改めて宜しくね、ダッシュ」

『はい、こちらこそマスター共々宜しくお願いします。アクア様』


それから暫くしてクロノがブリッジに戻ってきた

「ん、楽しそうだなアクア。オペレーターの適正が良かったのか」

「ええ、訓練次第ではラピスちゃん位にはなれるそうです」

「それはすごいな、ダッシュそうなのか」

『はい♪、マスター。

 これならユーチャリスUも動かせますし、マスターが出撃しても後ろは万全です♪』

「そうか、でもアクアは戦場には出さないぞ。ダッシュ」

「ダメですよ♪、クロノ。もう決めましたから、何といっても聞きませんよ」

「……どうしてもかいアクア」

「はい、こう見えても貴方と同じで頑固者なんです♪」

『マスター私からもお願いします。

 ユーチャリスUを万全に動かしマスターをお守りするにはアクア様が必要です』

「……すっかり仲良くなったんだな、二人とも」

「ええダッシュと楽しい未来図を描けました、その為にはこの戦争をさっさと終わらせたいです」

『当然です! とっとと戦争終わらせてアクア様の元でノンビリ暮らすんです♪』

「………はぁ、しょうがないな。

 ダッシュ、アクアの事護ってくれよ」

『当然です♪、私は例え世界が敵に回ってもマスターとアクア様の味方です♪』




未来図は描けた、後はただ進むのみ

道は険しく、先は長い

でも何処までも行ける、この二人となら

いつか終わりが来る、その時まで

そう思える事を誇りに、突き進もうとダッシュは思う







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです
これからアクアさんが動き始めます
クロノ=アキトと一緒に未来を変える為に
この作品ではヒロインがアクアさんなのでミスマル・ユリカの出番はありません
ファンの方には悪いですが諦めて下さい

いよいよ本格的に行動を開始するアキト
未来は変わるのか、ご期待下さい

追記事項

あまり変わっていない(汗)
おかしいとは思いながら次の話へと進みます。
大丈夫なのか(爆)



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