生き残る為の戦いを始めよう

俺達は権力者の道具ではない

命を弄んだ事をこれから後悔させてやる

覚悟を待たずに戦争を始めた責任をとってもらおう



僕たちの独立戦争  第十一話
著 EFF


「予想外の事態になってきたねえ。

 エリナ君は予想できたかい」

オリンポスコロニーから送られてきた情報にアカツキは楽しそうに話していた。

「何、暢気な事を言ってるのよ!

 これがどういう事なのか分かってんの。

 火星はネルガルを締め出そうとしているのよ」

エリナは今回の事を深刻に受けとめていた。

火星はオリンポス、北極冠の二つ以外を除いて完全な協力体制を作り上げていた。

まるでネルガルがこの戦争を始めるように仕向けた事を知っているように。

「何処で知られたのかな。

 エリナ君は何処だと思う?」

アカツキが聞いてくるとエリナは不安そうに話す。

「それが……調べてみたんだけど皆目見当がつかないのよ。

 プロスに任せたいけど理由を話せないでしょう。

 だからこれ以上は……」

「確かにエリナ君のいう通りだね。

 プロス君に知られると不味いよね」

「ええ……」

アカツキは面倒な事になったと思った時にメールが秘匿回線から送られてきた。

「んっなんだ、どうしてこの回線にメールが来るんだ。

 また紅の魔女さんからかな」

そう呟くとメールの件名を見ると不愉快な顔をしたのでエリナはアカツキの隣にきて画面を見た。

「……おめでとう、ネルガルの後継者よ。

 何よ、祝いの事でも書いてあるの。

 会長、良ければ続きを見せて欲しいんだけど」

「……そうだね。

 悪質なイタズラだと思うが内容だけは見ておこうか}

アカツキはメールを開くと内容を読んで怒り出した。

「どういう意味だ!

 僕があの男を超えただと!」

エリナは内容を見て考えていた。

(内容は普通の祝いのメールだけど。

 会長にとっては傷口に塩を塗るようなものね)

《おめでとう、ネルガル会長殿。

 君の活躍でネルガルは大きく飛躍するだろう。

 君は立派な父親を超える会長になったみたいだな。

 兄上も天国で泣いて喜んでいるだろうな。

 これからも仕事に励んで父親以上の成果を上げて、血の海を泳ぎ続けるがいい。

 黒の復讐者より》

これではアカツキを挑発するようなものだろうとエリナは思っていた。

アカツキが父親を嫌悪している事を知って、こんなメールを送ったのだとすれば相手は誰なのだろうか?

エリナはその人物に興味が出てきた。

そこへプロスが入ってきた。

「おや……会長。何かありましたか?」

アカツキが怒っている事を感じたプロスは珍しいと思い聞く事にした。

アカツキは何も言わずにメールを見せると、

「プロス君、この人物を捜す事は出来ないか?」

プロスに命令してきた。

「難しいですな。

 会長の秘匿回線と知って送ってきた以上は、ばれないように擬装していますので捜すのは困難ですよ」

プロスは説明しながら答えた。

アカツキはプロスの説明を聞くと苛立ちを抑えていた。

「例の一件は確実に処理しましたので報告しておきます」

「そうか、ご苦労さん」

アカツキはそう告げると二人を部屋から出るように告げて一人になった。

「僕がいつあの男を超えたんだ。

 ふざけているね」

そう呟くと忘れようとしたが、頭の中は不安な気持ちで一杯だった。

自分がまだ父親の妄執を受け継いだ事を気づかずにいるアカツキであった。


―――テニシアン島 医務室―――


アリサ・メイフォードは考えていた。

助けてもらった青年――クロノ・ユーリ――から聞かされた事を。

ボソンジャンプ、過去へ飛んだ娘、記憶を失くした女性となった娘。

まるで夢のような出来事が彼女と娘に起こった事が信じられなかった。

だが現実はそれが事実だと告げている……だが心がそれをまだ認められない。

だから今は傷を治して火星に戻ろう。

そう考える事にした。


―――アクエリアコロニー 臨時作戦指令所―――


2ヵ月後、この場所に救援部隊を指揮したグレッグ・ノートン

その副官で作戦参謀レイ・コウラン

機動部隊隊長エリス・タキザワ、その父親、カズヒサ・タキザワ

輸送艦隊指令シュン・サワムラ

ユートピアコロニー市長コウセイ・サカキ

他前回のスタッフが集結した。

そしてマーズ・フォースのリーダーのレオン・クラストも同席していた。

まずエドワードがスタッフの労をねぎらった。

「皆さん、無事とは言えませんがご苦労様でした。

 ひとまずこれで作戦を終了します」

「ユートピアコロニーの住民を代表してお礼を申します」

コウセイが頭を下げ全員に礼を述べた。

「でも軍の暴挙がなければ、もっと救えたのに悔しいですね。

 結局どの程度の救出ができました」

エリスの質問にレイが答えた。

「コンロンコロニーから約240万人、アルカディアコロニーから約230万人、

 ユートピアコロニーが180万人になりました。

 また死亡が確認されたのが135万人になります」

「……酷い数になるな、しかも増える事になる」

改めて聞かされると最悪な現実にコウセイが呟き、全員が沈み込むがエドワードが否定する。

「コウセイさん、まだそうなるとは限りません。

 諦めたらそこでお終いです」

「そうだな、エドワード。

 気になっていたんだがそちらのお嬢さんは誰かな、初めて見るのだが」

「そうですね。

 紹介しましょう、彼女がアクア・クリムゾンさんです」

「初めまして、アクア・クリムゾンと申します。

 皆さんよろしくお願いします」

エドワードの紹介にアクアは微笑みながら答えたが、コウセイの疑問に皆がその意味を理解した。

「すまないが、どうやって火星に来たのか教えてくれんと信じられんのだが」

「そうです。………火星と地球の航路は閉ざされてるのにどうやってきたんだ」

シュンが専門家の意見を述べ、レイが訊ねる。

「開戦前から居られたのですか、アクアさん」

「いえ、先程クロノのボソンジャンプで地球からここまで5分もかからず到着しました」

「ボソンジャンプ?

 そんな物は此処にいる者は始めて聞くぞ」

コウセイの声にエドワードを除く火星のメンバーは頷いた。

レオンはその様子を面白そうに見ていた。

「そうですね。

 百聞は一見にしかずですから、これからクロノに来てもらいましょう」

アクアの声に従うようにその隣にボソンの光を輝かせてクロノが現れた。

全員が声も出せずにいる中でレオンだけが笑っていた。

それを見ながらクロノが声を出した。

「驚いているようで悪いが、この技術のせいで火星の住民の悲劇が始まる事になった」

「……クロノ、もう少し皆さんが落ち着くまで待ちましょう」

アクアの優しい声が全員を落ち着かせ始めた。

年長者のコウセイがクロノの言葉の意味を聞いた。

「もしかするとボソンジャンプが原因でこの戦争は始まったのか?」

「そうです。この技術のせいで火星の惨劇が起こりました。

 ここで生き延びた人もその後の悲劇のせいで」

何処か悔しさと自嘲するような複雑な声でクロノは話した。

「何だか、よく分からんがまるでそれを見たような言い方だな、クロノよ」

「……そうです、俺は全てを知っています。

 このまま行けば火星に何が起こるのか。

 あの地獄のような惨劇を止める為に此処にいます」

「……まさか未来から来たような言い方だが、お前さんはこんな嘘はつかんしな」

コウセイの言葉に全員がクロノに注目しクロノが重い口を開いた。

「そうです……俺は2203年からボソンジャンプの事故でこの時代に落ちた逆行者です」

「う、嘘ですよね、クロノさん。

 タイムスリップなんてそんなのあるわけ無いじゃないですよね」

エリスの声にグレッグが答えた。

「いや、知っていたからここまでの事が出来たんだな。

 それならば納得できる」

「そうですね、作戦参謀としてもこれで理解できましたが、

 何故ユートピアコロニーを助けられなかったんですか」

レイの問いにアクアがクロノに変わって答えた。

「ユートピアコロニーにこの時代のクロノがいたのです。

 そして偶然ボソンジャンプを行い地球に行ったのです。

 あのままコロニーにいれば死亡しクロノがタイムパラドクスを起こし消滅する危険があったからです」

「なるほどな、それではどうしようもないだろうな。

 自分の命が消えるとなれば、わしもできんな」

コウセイの言葉に全員がクロノの苦悩を知ったが、アクアが更に告げた。

「いえ、クロノのジャンプに女の子が巻き込まれたんです。

 それが無ければクロノは自分を犠牲にしたでしょうね」

「いや、アクア。……俺は自分の命が惜しかった臆病者だよ」

力無く呟くクロノに全員が何も言えなくなった。

「いい加減にしておけよ、クロノ。

 後ろばかり見てるな」

レオンが複雑な表情で話していた。

「アクアさん、貴方も逆行者なのかな」

コウセイの声にアクアがそれを否定した。

「いえ、私は事故でクロノの記憶を見てしまったんです。

 そのためクロノを支える為に協力しています」

「そうか、すまないがクロノ。

 お前には苦しい事かも知れんが、わしらは知らなければならない。

 お前の言う悲劇と惨劇を知り、火星に生きる人々を守らなければならない」

クロノがアクアの隣に座る。

「これから話すのはあるテロリストの足跡だ。まず火星の悲劇を……そして惨劇を聞いてくれ」

クロノが話す火星の悲劇を一言も聞き漏らさないように注意した。

クロノは語る。

かつてアクアが見た記憶を、

テンカワ・アキトの足跡を、

「………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 …………………………………ここまでがこの火星の悲劇である、蜥蜴戦争だ。

 戦争終了時には元火星の住民はわずか約400人ほどだった」

クロノが一息吐くように話を切った。

「信じられんな、陸戦協定を知らんのか木連は」

グレッグの声に軍関係の者が頷いた。

「奴等の目的は遺跡の確保による地球圏制圧。

 そのために火星の住民は邪魔でしかなかった。

 そして彼等は正義の言葉に酔わされていた。

 彼等は人を殺したと理解してなかったのかも知れないな、

 地球は悪で自分達は正義だから何をしても許されると思っていたのだろう。

 月臣が自分の手で白鳥を殺して始めて気が付いたのかも知れない」

「ま、クロノのいった通りになったな。

 やつらは無人機を使って自分の手を汚さずに火星でやりたい放題しやがった」

クロノが木連の状況を淡々と話し、レオンが先の戦闘の状況を告げると全員が怒りを感じていた。

「冗談ではないぞ、クロノ。

 これは独裁者による狂気の行動だぞ。

 人を殺す意味を知らずに銃を向ける殺人鬼と同じじゃないか。

 命の重さを知らんでは済まされんぞ」

ここにいるエリスの父親であるカズヒサ・タキザワが声を挙げた。

彼にとってはこのような行動は許せないのだろう。

「だがそれだけでは無いんだろう、クロノ。

 悲劇がこれなら惨劇はこの後起きたんだな」

コウセイの問いに全員が息を止め、クロノに視線で問うた。

『まだ続くのか、火星の住民の苦しみは』

アクアがクロノを抱きしめ、クロノは沈痛な声で語りだした。

「俺たちが遺跡の演算ユニットを外宇宙に放棄しその2年後に起きた。

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 …………………これが俺の正体A級テロリスト、テンカワ・アキトだ。

 この後、ランダムジャンプでこの時代に落ちて、アクアと出会い協力して此処に至った」

「ふっふざけるな!!

 人体実験、遺伝子改造だと私達火星の人間は道具ではないんだぞ」

カズヒサの声はここにいる全ての者の思いであり、見たくない未来であった。

「………………………俺は人を殺しすぎた。

 妻を取り戻すために失った未来に絶望し、復讐者となった」

テンカワ・アキトの告白に全員が耳を傾けた。

「だが古代火星人が俺を救い力をくれた以上、それに応えたいと思う。

 アクアが俺の心を救ったようにまだ間に合うと信じたい。

 だからみんなの力が必要なんだ。俺に手を貸してくれ」

クロノの願う声にエドワードが応えた。

「我々は悲劇も惨劇も見る気はない。

 だからもう一度言う。

 君が必要だ、クロノ。

 私達は君の力を借りたい、生き残る為に」

「そうだ、わしは火星の住民を救いたい」 コウセイ・サカキ

「私は奴等の行為を許す気はないからな」 グレッグ・ノートン

「私は生き残る為に力を借りますよ、クロノ」 レイ・コウラン

「娘の未来が掛かってるからな」 カズヒサ・タキザワ

「お父さん、恥ずかしい事いわないでよ。とことん付き合いますよクロノさん」 エリス・タキザワ

「乗り込んだ船から、逃げる気はないな」 シュン・サワムラ

他の者達もそれぞれに決意を述べた。

「俺も手伝うぞ。火星の独立は俺達の悲願でもあるからな」 レオン・クラスト

「私は最期まで付き合いますよ、貴方に」 アクア・クリムゾン

「ありがとう、俺は力の続く限り戦いますよ」

クロノの声が静かに全員に響いた。

「既に火星全域に放送で告げましたが、

 これより火星独立プロジェクトを立ち上げます。

 我々は地球と木連の道具になる事は無い、我々の未来は我々の手で作ります」

エドワードの宣言が全ての者に独立への道を感じさせた。

会議は続く、未来を創る為に。


―――連合軍 司令官執務室―――


「多少手違いがあったがフクベの発言力を低下させる事に成功したな」

「しかし火星が生き残った事は困りましたな。

 おかげで連合政府から文句が来ていますから」

「全くだな。

 抵抗せずに死んでくれれば良いものを、生き残りおって」

司令官と腹心の参謀長は苦々しく思っていた。

火星からの連絡で市民は軍が火星を捨てた事を知り、政府と軍を非難していた。

連合は宇宙で木星に負け続けて制宙権も奪われて地球を守るのがやっとの状態になっていた。

火星は連合が見捨てた事を非難して、連合に対して独立を宣言した。

連合はそれを認めない声明を発表すると、

火星は軍をこちらに寄越して防衛するように要請したが連合はそれを無視した。

火星はこの事を連合市民に発表して連合の非道さを公表した。

連合市民はこの事で火星に境遇を知り、政府に独立を承認するよう求めていた。

また何も出来ない軍を非難していた。

「市民達も偉そうな事を言いおって誰が貴様らを守っているのか、理解しとらんな」

「困った者達ですな、痛い目を見れば大人しくなるでしょう」

「それもそうだな」

二人は市民達の事を馬鹿にして笑っていた。


(いい加減にしろよ。

 どこまで市民を犠牲にする気だ)

クリムゾンSSのメンバーはこの二人の会話を聞く度に情けなくなり呆れていた。

自分達の都合のいい事ばかり考えて、市民の犠牲を減らそうとしない男達に怒りを覚えていた。

「会長はどうやら連合と軍を切り捨てる事を決めたみたいだな」

「ああ、そうらしいな。

 おかげで社長とひと悶着あったみたいだな」

「これで分かったが社長は後継者ではなかったようだ」

「会長は火星の独立に協力するのか?」

「その可能性は大きいぞ。

 ノクターンコロニーを助けてもらった借りがあるからな」

「あそこには友人もいたから助かってよかったよ」

友人の生存を喜ぶ同僚に、

「まだ分からんぞ。

 次の攻撃に耐えられるかどうか?」

「そうだな、生き残ってくれると良いんだが」

二人は火星の無事を願いながら仕事を続けた。

会長が火星に協力してくれる事を期待しながら……。


―――連合軍本部―――


「とうとう堕ちるとこまで堕ちたかしら」

ムネタケは閑職へ回された自分の境遇を少し嘆いていた。

「まあ提督よりはマシだけど」

フクベが敗戦を少しでも和らげる為の作られた英雄として針の筵のような生活を強いられている事を考えると、

まだ運が良いと思う事にした。

生き残った兵士達はムネタケとフクベに感謝しているが、

自分達の苦労を知らずに一方的に責任を追及する司令達には怒りを覚えていた。

ムネタケは部下達の責任を問わない条件で一人降格を受けて閑職に追いやられていた。

本人は部下達の無事を確認すると満足していた。

戦争が始まる前に避難した者達の嫌味を聞きながらムネタケは今後の事態の推移を考える毎日を送っていた。

火星の機動兵器の情報も極秘で手に入れたがムネタケはこの戦争の不自然さに気付き始めていた。

(おかしいのよね。

 どうして木星から来るのが判ったのかしら?

 しかも事前に部下達を戻す事も不自然だし。

 木星蜥蜴なんていうけど本当は人間なのかしら?)

ムネタケは閑職に回る事で少しずつこの戦争の真相を解明しようと考えていたが、

(この監視をどうにかしないとね)

自分を監視する連中のおかげで何も出来ずにいたが、この事で戦争には隠された何かがあると確信していた。

(まあ、気長にやるしかないわね。

 当面は馬鹿みたいにヒステリックになっていようかしら。

 ついでに監視の連中もからかってやろうかな)

ムネタケは今の自分の待遇を逆用して周囲に無能な士官と認識させて目立たないようにしてから動く事に決めた。

この事でネルガルはムネタケを扱い易い人材と判断してナデシコに入れようと考える事になった。

だが彼はこれが原因で隠された事実に近づくとは思ってもみなかった。


―――オリンポスコロニー 実験施設―――


「ドクター相転移エンジンの調整が終わりましたね」

技術者達の声にイネス・フレサンジュは苦笑しながら答えた。

「ええ、とりあえず完成かしら。まだまだ改良の余地はあるけどね」

「これがあればオリンポスコロニー全域にディストーションフィールドが張れますね」

技術者の一人が声をあげて喜んだ。

(無理ね、例えフィールドがあっても攻撃する手段がなければ生き残れないわ)

おそらく技術者も判っているのだろうが、空元気でも声にしないと耐えられないのだろう。

「そしたら地球からドクターの設計した船が来るまで持ち堪えられますね」

「……だと良いんだけど。

 あくまで試作艦だからちゃんと設計しなおすでしょうね」

「………………………………………………………………………………………………」

周囲の技術者が声を失っていた。

「まぁ本社の連中も馬鹿じゃ無いから大丈夫でしょうね。

 ……冗談なんだけど、面白くなかった」

「そっそうですよね。そんな馬鹿な事するわけないですよ、博士(……笑えません、博士)」

技術者の一人が場の雰囲気を変えるため話題を変えた

「そういえば、聞きました。火星コロニー連合政府の事」

「ええ、聞いてるわ。

 アクエリア、ノクターンを中心にマーズ、ヘリオスの二つに、

 コンロン、アルカディア、ユートピアの生き残りで創られた独立政府でしょ」

「はい、うちのプロトエステバリスを上回る機動兵器が有るみたいでかなりの戦果を上げたみたいなんです」

技術者の一人がイネスに告げると。

「……そう、逃げるならそこかもね」

「博士、何を言うんですか。」

驚く技術者達にイネスは楽しそうに、

「説明しましょう、……あれ、みんな聞きたくないの、もう失礼ね」

逃げ出す技術者を怒っていた。

(でも実際ここだとヤバイんだけどね、所長達のせいで)

そうオリンポスコロニーと北極冠コロニーは避難民の受け入れや救援に手を貸していない為に、

このままでは攻撃を受けても誰も手を差し伸べない事は明白なのだ。

それに火星はまるで木星からの攻撃を予測していたように迎撃した事も気にかかった。

ネルガルを信用していない事が逆に安心できていた。

おそらくネルガルのトップは火星を切り捨てたとイネスは判断していた。

理由はノクターンコロニーのバックのクリムゾンのせいであった。

(クリムゾンが気付くくらいならネルガルも気付くわ。

 だけどネルガルは動かなかった)

その為イネスは脱出の準備を始めていたのだが、先日送られたメールが何故か気になっていた。

(クロノ・ユーリ……初めて聞く名前なんだけど、どうしてあんなに私を知っているのだろう。

 私の知らない過去について何か知っているのかしら?

 アイちゃん、みかんのお兄さん………もう少しで何か思い出せそうなんだけど)

『イネス・フレサンジュ博士、至急ロビーまで来て下さい』

イネスを呼び出す放送が考えを遮った。

「イネス博士!

 火星コロニー連合政府が博士を含む俺たちを徴用すると言って来てます!!」

慌ててイネスに駆け寄ってくる技術者にイネスは指示を出す。

「そう、じゃあ話を聞いてくるわ。

 クシナダヒメを使ってエンジン解体の準備を始めて頂戴」

「博士、何を言うんですか?

 俺達の命が危ないんですよ」

イネスの指示を聞いた技術者達は驚いていた。

驚く技術者にイネスは説明したかったが簡潔に自分の考えを話した。

「だから家族の安全と移送を条件にここから避難する為の交渉を行うわ」

「ええっ、いいんですか?

 そんな事して本社に知られたらマズイですよ」

「私が責任を取るからいいわ。

 あなた達も理解してるでしょう……このままだと死ぬから生き残る為の方法はこれしかないわ。

 それにネルガルのトップは私達を……火星支社を切り捨てたわ」

イネスの言葉に技術者達は声も出なかった。

「とにかく私は死ぬ気はないから生き残る為の努力はするわ。

 後は自分で考えてみなさい」

イネスはそういい残すとロビーに向かった。

後に取り残された技術者達はイネスの言葉をそれぞれ考えていた。

「ドクター遅いぞ。いつまで待たせるんだ」

横柄な口調でイネスに告げる男がオリンポス研の所長だった。

「すみません、遅くなりました所長。

 用件は何ですか?」

「ああ、これを見たまえ」

イネスに渡された書類は政府の徴用令の書類だった。

「で、どうするんですか所長。逆らいますか」

イネスは試すように尋ねた。

「そんなことはできんな。表を見たまえ」

苦々しく言う声に外を見ると機動兵器が周囲を取り囲むように立っていた。

「……本気ですね、彼等は」

「ああ、返事一つで中にいる兵士たちも行動するだろう。

 交渉人が応接室にいるから君に任せる」

無責任なセリフを残し去って行く所長を見ながら、

(そう……条件次第でここから逃げる事にしましょうかしら)

と思いながら応接室へ向かった。

「イネス・フレサンジュです。失礼します」

部屋には一人の男が座りイネスを待っていた。

男の前にイネスは座り交渉を始めようとした時、男が口を開いた。

「こちらの条件は相転移エンジンと人工知性体の二つと、

 イネス博士と技術者達とその家族の保護を最優先にしています。

 そちらの要望があればお伺いしますので言って下さい」

(破格の条件かしらでも、どうしてこの二つを知っていたのかしら……まあ死ぬよりはマシね)

「問題が無ければ移動の為の解体の指示をお願いします、アイちゃん」

「!!あ、あなた、クロノ・ユーリね!

 私を知っているのどうなの!!」

驚き詰め寄るイネスを前にクロノはバイザーを外しイネスの手にみかんを乗せて、

「約束したろ、アイちゃん。今度デートしような」

と優しく微笑み頭を撫でた。

(デートしようお兄ちゃん………約束だよ、お兄ちゃん!!)

――――失った記憶が甦り、泣き始めたイネス抱きしめ、クロノは優しく髪を撫で続けた。

「思い出してくれたかい、アイちゃん。随分待たせたね」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、……会いたかった」

「……ごめんね、イネスさん。脱出の準備を初めて欲しいんだ」

頷くイネスの頭を撫でながらクロノは告げた。

「お母さんも無事だよ。

 いずれ会えるから楽しみにしてね、アイちゃん」

その言葉に驚きながらイネスは微笑んで、

「ええ、急いでするわ。

 みんな協力してくれると思うから時間は……5時間ほどかかるわ。

 オペレーターIFSの持ち主がいれば、もっと早くなるけど今の状態じゃこれが精一杯ね」

「大丈夫、俺がオペレート出来るから早くなるよ。アイちゃん」

「そう、じゃあお願いするわ。これからよろしくね、お兄ちゃん♪」

笑顔のイネスを見ながらまた一つ守るものが出来たなと思うクロノであった




運命を変える それが正しいかはわからない

出来る事は、最善を尽くすことだろう

それしか出来ないのだ俺達は






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EFFです。

ムネタケどん底に堕ちるがしぶとく生きそうです。
なんかネルガルが悪役みたいになってきてますね。

では次回でお会いしましょう。




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