みんなは何も知らずに行動する

自分達が火星を救うのだと思っているが

彼らは現実の過酷さを知らないだけ

それを知った時に彼らはどう行動するのか

混乱しなければいいのだけれど



僕たちの独立戦争  第二十話
著 EFF


「まもなくサツキミドリに到着しますな」

「そうですね、問題なく到着しそうなので良かったです。

 相転移エンジンにトラブルが無かった事が分かり安心しましたよ」

プロスの声にアクアが答えると、

「大丈夫ですってユリカに任せて下さいよ〜」

「でも万が一戦闘になったらナデシコは勝ち目はないですよ。

 0G戦フレームのエステバリスがありませんから」

脳天気に話しているユリカにアクアがナデシコの状況を告げた。

「ほえ、そうなんですか?」

「ちょっと待ちなさい!

 何でアンタが知らないのよ。スケジュール表を見てないの?」

ムネタケがユリカに慌てて聞くと、

「……そんなのありましたっけ?」

首を傾げて話した。

「おかしいですな。艦長と副長にはお渡ししましたが?」

プロスが二人を見ながら聞くとジュンは不思議そうにユリカに聞いた。

「ええ、目を通しましたよ。ユリカは見てないの?」

「え…えっと……見てません」

クルーの視線に耐え切れなくなってユリカは気まずそうに答えた。

「悪いけど副長に資材の搬入も立ち会ってもらうわ。

 艦長一人任せるのは怖いから」

「……分かりました」

諦観した様子のムネタケにジュンも従った。

「じゃあジュンくんが立ち会ってくれるから私はいいですね」

「好きにすれば」

冷めた口調で話すムネタケにユリカは気付いていなかった。

「よろしいのですか?」

これにはプロスも気にしたがムネタケはユリカに聞こえるように話した。

「自分の仕事も満足に出来ない艦長なんて必要ないわよ。

 いつでも切り捨てる準備をしておくわ。

 悪いけど副長の仕事を増やすけど我慢してね。

 構いませんね、提督」

「うむ、構わんよ。人事権は私にあるが君に一任するよ」

「て、提督!?」

これにはユリカも驚いていたがフクベは静かに告げる。

「艦長としての仕事を放棄するのなら仕方のない事だろう。

 違うかね、艦長」

「そ、それは……」

フクベに一瞥されてユリカも反論出来ないでいる。

「それでいいかな、プロス君」

反論できずにいたユリカを無視してプロスに聞くフクベに、

「いや〜できればもう少しだけ長い目で見ていただけないでしょうか?」

「ふむ、少し性急過ぎたかな。ムネタケもそれで良いか?」

「仕方ないですね。ですがアタシは艦長を信用していない事をお忘れなく」

肩を竦めて話すムネタケにフクベは頷くとそれ以上は何も言わなかった。

「艦長、自分の責務はきちんとして下さい。……いいですね」

「は、はい。プロスさん、気をつけます」

プロスとムネタケは顔を合わすと頷いていた。

《アクアさん、これって》

《そうよ、少し艦長を反省させる為に仕組んだのよ》

《この先、火星でいい加減な事をされるのは避けたいと副提督がプロスさんに話して一芝居したの。

 でもこれで反省してくれるといいけど……》

《難しいと思いますよ》

《そうかもね。んっ……きたわね、ルリちゃん》

「前方に敵勢力を確認、サツキミドリに向かって侵攻中です」

ルリが説明と同時にスクリーンに表示した。

「サツキミドリを挟んで向かい合っています。

 最大船速で木星蜥蜴より先に合流可能です、艦長」

アクアの報告にユリカは瞬時に答える。

「では最大船速でサツキミドリへと向かいます。

 メグミちゃんはサツキミドリに連絡、0G戦フレームを出撃させてもらって。

 アクアさんはヤマダさんと一緒にサツキミドリで0G戦を受け取って迎撃を手伝って下さい」

普段の様子とは一変して指示を出すユリカにクルーは途惑いながら作業する。

(普段からコレなら良かったんですが)

極端すぎると思いながらアクアは席を立つ。

「仕方ないですね、今回限りですよ。

 パイロットが揃ったら私はオペレーターに専念しますからね」

「はい、ではお願いしますね」

ユリカにそう言うとアクアはブリッジを出て格納庫に向かった。

『こちらサツキミドリです。ナデシコ聞こえますか?』

「はい、そちらにパイロットを二名送りますので0G戦の予備を渡してもらえますか?」

『了解しました。

 こちらもテストパイロットを含む6名を出撃させますので重力波ビームの供給をお願いします』

「ルリちゃん出来るかな?」

「はい、まもなく供給エリアに入ります」

そう言って通信を終えると今度はサツキミドリから出撃したエステバリスから通信が入ってきた。

『俺はパイロットのスバル・リョーコだ。

 いきなりだけど作戦はどうすんだ。

 こっちとしてはテストパイロットの三名はサツキミドリの防衛に回したいんだけど』

「いいですよ。こちらからパイロットを二名送りますので、

 協力してナデシコの防衛とグラビティーブラストへの誘導をお願いします」

『分かった、出来るだけ急いでくれよ』


「という訳だ。ヒカルとイズミは俺と一緒に行くぞ」

リョーコはテストパイロットのメンバーの負担をなくすようにしていた。

腕は悪くはないが、戦闘向きではないと判断している。

実際に緊張して硬くなっているように見えていた。

そんな状況で前線に出せば、パニックを起こして足手まといになると考えていた。

『オッケー、ナデシコが早めに着てくれて良かったね』

ヒカルがラッキーだよねと告げるとリョーコの頷く。

予定より早く到着していなければ、サツキミドリは陥落していただろう。

「そうだな(運がいいのか、それとも悪運なのか、どっちだ)」

これから乗り込む戦艦ナデシコにリョーコは思いを巡らせる。

(無人機なんて、どうって事ねえよ。

 火星には腕のいい奴がいるといいよな)

『おしゃべりはそこまでよ。来るわ』

リョーコの考えを中断させるようにイズミが声を掛ける。

「おう」

『オッケー』

三人は木星蜥蜴の無人機に攻撃を仕掛けてサツキミドリから引き離してナデシコへと誘導していった。


「ダイゴウジさん、準備はいいですか?」

0G戦からアクアはガイに注意する。

骨折から治ったばかりだから、少し心配だったのだ。

『おう、いつでもいいぞ』

「言っておきますが、ちゃんと銃を使うんですよ」

『銃など無用、俺にはこの必殺技があります』

「一つ聞きますが必殺技って雑魚に使うものなんですか?」

アクアの質問にガイは一瞬硬直した。

「必殺技ってここ一番とか、強敵に使うものでしょう。

 それともあの程度の強さの無人機が強敵なんですか?」

『そ、それは』

「雑魚を相手にするのに必殺技を使うなんてヒーローのする事じゃないですね」

『た、確かにその通りだ。お、俺は……』

アクアの一言に動揺しているダイゴウジ・ガイだった。

「真面目にお仕事しましょうね、ダイゴウジさん」

『……はい』

二人はサツキミドリから出撃すると無人機を破壊しながらナデシコへと合流していった。


「艦長、グラビティーブラストのチャージが完了しました」

「ルリちゃん、戦艦とかは周辺に潜んでいない」

「いえ、サツキミドリに到着する前から索敵レベルを最大にしてましたが敵艦の反応はありませんでした」

初めて聞いた説明にユリカが尋ねる。

「どうして最大レベルにしてたの?」

「アクアさんの指示です。

 艦長の指示がない以上無断でするのは不味いけど艦の安全を考えると必要だから、と言われてました」

ルリが告げた言葉にユリカは拗ねていた。

「でもね〜、一応ユリカが艦長さんだから聞いて欲しいの」

「そうですね、では主砲の発射ポイントに来ましたので指示を出してください」

「えっ、ではメグミちゃんはエステバリス隊に連絡して、

 主砲の射線から回避するように、ルリちゃんは回避が完了したら教えてね」

ユリカの指示に従って射線から回避したエステバリスの後にナデシコは主砲を発射した。

「敵勢力90%消滅、再チャージしますか?」

「いえ、エステバリスにお任せします、よろしいですか?」

『おう、いいぜ』

『プロスさん、サツキミドリに連絡して下さい。

 ナデシコの相転移エンジンに反応してまた襲撃するかもしれないので警戒を怠らないようにと』

「そうですな、分かりました。伝えておきます」

アクアの指示にプロスは賛成して答えている。

「あの〜アクアさん。

 そういう事は艦長の私に言って欲しいんですが」

自分を無視されて会話するアクアにユリカが拗ねるように話す。

『それもそうですね。

 ではお願いしますね、艦長』

アクアはそう話すと通信を切って無人機の掃討を始めた。

そんなアクアに何処か不満そうにしているユリカにムネタケが話す。

「まあ、今のアンタじゃアクアちゃんは従わないわよ。

 艦長の職務を放棄しようとする人物など不要だと思っているでしょうね。

 アンタが艦長としてきちんとすれば従うけど、このまま馬鹿な事ばかりしてると排除されるかも。

 プロスも気をつけるのよ。

 無理に動かそうとしても動かないし、逆に従っている振りをして土壇場で背後からバッサリといかれるわよ」

身の蓋もないムネタケの言葉にユリカは絶句していた。

プロスもムネタケの意見に何処か納得している。

底が知れないというか、一癖も二癖もありそうな雰囲気の人物だと勘が告げているように思えるのだ。

「ご存知なんですね、彼女の事」

「まあね、アタシが火星にいた頃の僅かな時間だったけど……それでも強烈な印象があったわ。

 部下がね、ラピスちゃんに暴言を吐いて泣かせたのよ。

 どうなったと思う?」

聞いていたクルーに尋ねるムネタケは愉快に笑っていた。

「言葉で言い負かされたのかしら〜」

その場面を想像して楽しそうに話すミナトにムネタケも笑って答えた。

「それは後でしたのよ。

 部下達全員ね、叩きのめされたの。あの子にね。

 見ていたアタシも吃驚したわ、か弱い女性だと思っていたら実は白兵戦のエキスパートなのよ。

 それ以来彼女を見ると全員最敬礼で従っていたわよ」

「あらら〜綺麗な薔薇には棘があるって言うけどホントにいたのね、そういう子が〜」

楽しそうに話すミナトと対照的にユリカは怖がっていた。

「うう〜大丈夫かな、ジュンくん」

「だ、大丈夫だよ、ユリカがきちんと艦長として行動すればアクアさんは何もしないよ。

 そうですね、副提督」

不安がるユリカにジュンが慌てて話すとムネタケは答えた。

「副長の言う通りね。

 アンタがきちっと仕事をしてれば指示にも従うわよ」

「……気をつけます、副提督」

(どうやら私が考えているより、出来る方かもしれませんな。

 こちらも警戒するべきですが……先に手を出すのは不味いでしょうから、どうしますか)

一歩下がってブリッジの様子を見ていたプロスは迷っていた。

サツキミドリで無理矢理降ろす事も出来るが、オペレーターが一人になるのだ。

ホシノ・ルリだけにさせるのはクルーの反発も予想される。

(オペレーターが一人じゃなければ良かったんですが。

 このまま監視を続けながら行くしかないですか)

悩むプロスを乗せたナデシコは無事にサツキミドリへ入港しようとする。


「一つ聞きたい事があるんだが良いか?」

格納庫でウリバタケと話そうとしていたアクアにリョーコは聞いてきた。

戦闘中だったからきちんと見てはいないが、相当な腕前だったとリョーコは感じていた。

パイロットの中では自分が一番だと自負していたリョーコは対抗意識が出ているようだった。

「確かスバルさんでしたね、ちょっと待って下さい。

 ウリバタケさん、エステなんですけど壊しちゃいました。

 申し訳ないですけど修理をお願いします」

アクアの声を聞いてウリバタケとリョーコの二人はアクアの操縦していたエステバリスを見るが、

その機体には被弾した痕は何も無かった。

「どこにも被弾はした所はないぞ、アクアちゃん。

 問題なさそうに見えるんだが」

ウリバタケの意見にリョーコもそう感じていたが、

「いえ、IFSインターフェイスの故障です。

 私の処理に追いつかなくて、負荷をかけ過ぎたみたいで全損しました」

「あっちゃー、アクアちゃんの処理に追いつかなかったか?

 じゃあIFS周りは交換しないと不味いな」

(おいおい、そんな事があるのか?

 そんな事は一度もなかったぞ……こいつ、何者だよ?)

アクアの報告を聞いて、リョーコは驚き見つめ、ウリバタケは唸っている。

IFS周りの破損となれば再調製も含めた大仕事になりそうなのだ。

アクアもウリバタケの仕事を増やした事に申し訳ないように身を縮めて話している。

リョーコは目の前の人物の瞳を見て、

(金色って……カラーコンタクトじゃねえなら…もしかしてマシンチャイルドって奴なのか?)

初めて見るマシンチャイルドを興味深く見ていた。

(あれ……おかしいぞ?

 確か…ホシノ・ルリって子が最初だから……年齢が合わないぞ)

自分の知っている情報と違う事に気付いてリョーコは不思議に思う。

「ええ、抑えたはずなんですけど……ダメでした。

 まあパイロットの皆さんが揃ったので、私の仕事はもうないですよ。

 これからはオペレーターに専念しますから」

二人の会話を聞いていたリョーコは慌てて聞く。

「ちょ、ちょっと待てよ、こいつはパイロットじゃねえのか?

 それにその…瞳だけど、カラーコンタクトか?」

「ん、ああそうだよ。アクアちゃんはサブオペレーターだよ。

 今まではパイロットがいなかったんで臨時でしてくれたのさ。

 瞳の色に関してはアクアちゃんがIFS強化体質だからさ」

「そうなのか?」

気まずそうにウリバタケが状況の説明をするとリョーコはアクアに確認する。

「はい、サブオペレーターのアクア・ルージュメイアンと申します。

 まあ、プロトタイプのマシンチャイルドだと思って下さい。

 スバル・リョーコさんでしたね、よろしくお願いします」

「おう、よろしくな。

 それにしてもパイロットじゃねえのにいい腕してるな。

 それとも訓練でもしたのか?」

事情を詳しく話したくなさそうにしているアクアにリョーコは聞かない事にして話題を変える。

誰だって聞かれたくない事の一つや二つはあるだろうとリョーコは思っている。

だから無理に聞く気はないとそれとなく二人に感じさせるように言葉を匂わせていた。

(口調こそ男みてえだが、意外と気配りも出来るみてえだな)

ウリバタケが感心していると、

「一応火星宇宙軍に所属するオペレーター兼パイロットですよ。

 やっぱりノーマルの機体じゃダメですね……ブレードなら問題なかったんですが」

「なんなら専用機に改造するか?

 IFS周りを強化して使えるように改造しようか?」

残念がるアクアにウリバタケが聞いてきた。

「う〜ん、無理にパイロットする気はないんでやめときます。

 この艦にはオペレーターが必要ですから、ルリちゃんなら一人でも大丈夫ですけど」

「ああ、オペレーターはルリちゃんだけだったな。

 そういう事なら仕方ねえか」

「それに対艦フレームの製作があるでしょう。

 仕事を増やす気ですか?」

折角の改造の機会を逃して悔しそうに話すウリバタケにアクアが尋ねた。

「対艦フレームってなんだよ。

 そんなの聞いた事がねえぞ、新型か?」

二人の会話を聞いていたリョーコが質問すると、

「おう、アクアちゃん設計の新型の対戦艦用のフレームだぞ。

 こいつぁ今までのエステと違って出力が倍増するから火力もスピードもアップするから訓練が必要だぞ。

 アクアちゃん、シミュレーターの設定はどうする?、こっちでやるか?」

「私が言い出した事ですから私がしますよ。

 ついでに新兵器も設計しますから」

「新兵器ってなんだよ」

「フィールドを中和する武器ですよ、リョーコさん。

 これがあると戦艦を撃破する事だって楽にできますからね」

「ほう、俺も考えていたんだけど干渉させて中和するのか」

「ええ、基礎設計が出来たんでウリバタケさんのほうに送っておきますね。

 ウリバタケさん好きでしょう、こんな事もあろうかというの」

アクアが楽しそうに話すと、

「か――!、

 良く分かってんじゃねえか、その通りだぜアクアちゃん」

ウリバタケも楽しそうに笑っていた。

「私の場合は周囲がパニクっているのを見るのが好きなんですよ。

 周りが慌てているのを見るのはいいですね、ここしばらく遊べませんでしたから。

 クロノのせいでストレスばかり溜まってきましたからね……ふっふふ…」

火星でのクロノの行動を思い出して黒いオーラを吐き出すアクアに周囲が退いていた。

「お、おい大丈夫なのか、あいつ」

「た、多分大丈夫だ」

不安になって側にいたウリバタケに聞くリョーコにウリバタケも少し不安な様子で答えていた。

ナデシコはサツキミドリでの戦闘を終えてサツキミドリに寄港した。

物資の搬入を予定通り終えたナデシコは再び出航する。

……サツキミドリは無事生き残った。


―――オセアニア 海上にて―――


「艦長、準備は完了しました。いつでも発進出来ます」

オペレーターの弾んだ声にアルベルトは指示を出した。

「全クルーに告げる、二ヶ月の訓練を終えて我々は木星蜥蜴に反撃を始める。

 そろそろ殴り返すぞ、ブレードストライカー発進せよ」

アルベルトの命令で空母からブレードストライカーが発進していく。

それを見てアルベルトは思う。

(この戦争の真実か………知りたくはなかったが俺は全力で市民を守るぞ。

 そして軍を立て直す、時間は掛かるが本当の正義を守ってみせる)

あの後、ロバートに聞かされたこの戦争の真実を知りアルベルトは絶望しかけたが、

ロバートの願いを聞いて腐敗した軍を変える為に力を貸す事にした。

その顔には迷いはなく、前をまっすぐに見ていた。

「艦長!まもなく敵と接触します」

「作戦通り前衛部隊は無人機と乱戦に持ち込み、後衛は上空からチューリップに攻撃せよ。

 チューリップがなければ増援もないぞ、無人機などブレードの敵ではない!

 勝って市民を守るぞ」

アルベルトの宣言にブリッジは状況をパイロットに伝えていく。

モニターにはブレードが無人機を一方的に破壊していく姿が映り、

その数分後には対艦装備のブレードに撃沈されたチューリップが映りブリッジに歓声が沸きあがる。

「本部に連絡を『我らオセアニア機動部隊がチューリップの撃沈に成功した、反撃の時は来た』以上だ」

「はい、直ちに連絡します」

「部隊の被害はどうだ、敵の戦艦はどうなった」

「部隊に被害はありません、全機無事帰艦します。

 戦艦は全艦撃沈に成功しました」

状況を確認した副長の報告にアルベルトは頷き、全員に告げる。

「これからが本番だ、まずはオセアニアから木星蜥蜴を駆逐する。

 それから地球全域から駆逐し、火星と合流し木星に反撃するぞ」

アルベルトのセリフに全員が来るべき作戦を思い、未来を考え始めた。

地球の反撃が今始まった。


―――ネルガル会長室―――


アカツキは目の前の報告書に渋い顔になっていた。

「困ったね、エリナ君。

 ……想像以上にいい機体だね、まさか対艦攻撃力を保有してチューリップに勝てるなんて」

「……そうね。でもIFSを使ってだから、試作のEOSだと性能を全て引き出せないわね」

報告書を読んで悔しそうに話すアカツキにエリナもまた悔しそうに答えていた。

「まだテスト段階だけど空母を使った実験部隊がどの程度活躍するか……心配だね」

「クリムゾンも大盤振舞いね。

 テストとはいえ30機を無償で貸すなんてやってくれるわ」

「こちらが火星に出発するのを待っていたように思えるんだけど、ナデシコの情報が漏れているのかな」

状況を考えてアカツキが訊ねると、

「それは無いわね。だって火星に行くのは極秘のはずよ。

 あ……もしかしたらアクア・ルージュメイアンが教えたのかしら?」

「そうかも知れないね。

 彼女はクリムゾンに技術協力する為にきたわけだし、だとするとこの戦艦も火星の技術で作られたのかな」

もう一つの報告書に書かれているクリムゾンの戦艦に関する資料を見て話す。

「でもどうやって火星は相転移エンジンの開発に成功したの。

 ……もしかしたら他にも遺失船――ロストシップ――があったんじゃないかしら。

 それを独自で分析して開発した……不味いわ、このまま火星に行っても逆に追い返されるかも知れないわね」

「それはないよ。火星全域を調べたけど船は一つだけ残っていただけだ」

「そうね、ちょっと調子に乗りすぎたわ。甘く見すぎたわね」

「どうも火星とクリムゾンに嵌められたみたいだね。

 後は……ナデシコが火星で上手くやってくれるしかない」

「それこそ無理よ。あの艦長に期待できないわよ、プロスの報告を聞いたでしょ」

「……ホントに主席なのかいこの人物は、精神面は子供だよ。

 まさかミスマル家の人間だから贔屓されたんじゃないかな……でもそれはないか」

「ありえるわ。ミスマル提督にゴマスリしたとか……実力じゃ無いのかもしれないわね」

「……アクア・ルージュメイアン、彼女の方が艦長に相応しいね。

 状況を把握して的確に判断し無駄が一切なく行動している。

 彼女なら大船に乗った気になるけど、今の艦長は泥船で今にも沈みそうなんだけど。

 それと調査しているけどクリムゾンにはマシンチャイルドは存在してないようなの。

 だからプロスの懸念は大丈夫なんだけど」

「だが実在している」

エリナの言葉を引き継ぐようにアカツキが言う。

「そうなのよ。ホシノ・ルリより年上のマシンチャイルドが実在するという事自体がおかしいのよ」

ありえないとエリナは考えている。

(実験体が生き残ったかもしれないけど……でもどうやって生き残ったのよ。

 脱走……誰が手引きするの。科学者達がする筈がないし。

 単独でなんて不可能だからおかしいのに)

どう考えても答えが出ないのだ。

アクア・ルージュメイアンなる存在自体が不可解な存在だと言わざるを得ないのだ。

「答えは出ないわ」

エリナの思考が袋小路に陥っているとアカツキは見ている。

「とりあえずクリムゾンに存在しないと分かった事で良しとしておこう。

 今更戻って来いとは言えないし」

「そうね。順調に航海しているようだから、機動データーも出ているわ。

 製作中の二番艦以降の改修も進みそうよ」

話題を変えたアカツキにエリナは状況を報告する。

ナデシコの機動データーを基に新型艦の製作に入る予定なのだ。

「とりあえず、軍と和解するのを早めるわ。このままじゃどうにもならないしね。

 とりあえずムネタケ中佐のおかげで大きな問題にはなっていないから助かっているわ。

 ただ相変わらず賄賂を要求してきているわ、あの馬鹿司令官達」

呆れるように話すエリナにアカツキも嫌そうに話す。

「またかい、いい加減切り捨てるべきかな。

 都合のいい事ばかり言っては金を要求するからね」

「そうね、そろそろ見切りをつけるべきね」

エリナもその意見に賛成する。

「二番艦コスモスの改修の準備を急がせよう。ナデシコから情報は出ているしね」

「そうね。もう少し時間が欲しいけど、このままじゃクリムゾンが戦艦を出してくるわね」

「それなんだけど、これ見てくれるかい」

アカツキは手元の資料をエリナに渡すと、それを見たエリナが驚いていた。

「なっ何よ、これがクリムゾンの戦艦なの!?

 ナデシコより良いじゃない。

 連装式グラビティーブラストなんてコスモスで装備したものだし、出力も違うわ」

「実はプロス君の報告に彼女から言われたみたいなんだ。

 試験艦で死ぬ気かとこれを見たらそう言われても仕方ないかな」

「……そうね。イネス博士のプロットで大丈夫だと判断した私達のミスね」

「ナデシコとこの戦艦では比較にならないよ。機動性、武装、出力全てにおいて負けてるし、

 こちらが先に造ったけどシェアを奪えるか、問題だね」

「確かにね。完成はまだ先だけど、問題はそこじゃないの。

 この技術は火星から与えられたものか、それとも火星の技術を基に独自で製作したのか……それが気になるわ」

火星から与えられたものならナデシコに対して十分戦える戦艦が火星にある事になる。

クリムゾンが独自で生み出したなら大丈夫だが。

「……分かるのはナデシコが火星に着いた時になるね。

 火星がナデシコをどう扱うかで全てが分かるような気がするんだ、黒幕もね」

アカツキの意見にエリナは疑問を出したが、

「クリムゾンじゃないの……そうね、クリムゾンは火星の事をよく理解してないか」

「そう言う事だ。

 火星にいるはずだよ……もしかしたらボソンジャンプも含めてね」

アカツキの発言にエリナは、

「向こうがボソンジャンプを実用化したとでも言うの?

 私達でも出来てないのに」

「可能性はあるよ。テンカワ博士が何か遺したかもね」

「それこそ大問題よ。ネルガルの事を許すかしら……今回の事も知られたらどうなるか」

エリナの声にアカツキは何も言えなかった。

……その答えはもうすぐ分かる。


―――火星 アクエリアコロニー ―――


「ねぇパパ、今頃ママはどの辺りかな。火星にはいつ来るの」

「そうだな。……地球を出てコロニーサツキミドリに着いた頃かな」

「そうなんだ。早く帰ってきて欲しいな、ママ」

クロノの膝に座るラピスはそう呟いた。

「やっぱり寂しいかい、ラピス」

「……うん。ママがいて欲しいな、パパ」

「いつも側にいてくれたからな、帰ってきたらいっぱい言う事があるかな」

「うん♪たくさんあるんだよ。

 あとナデシコの事も聞きたいな、ルリお姉ちゃんに会いたいな」

「そうか、お父さんも聞きたいな、みんなの事を。

 元気でやっているかな」

楽しそうに話すラピスにクロノは考える。

(良かったなラピスの笑顔が見る事ができて、少しはよき未来になったんだろうか)

「あ―――ラピス!

 ずるいよーパパと一緒にいるなんて」

「えへへ、いいでしょう〜セレス♪」

クロノの膝に座るラピスはご機嫌だったが、セレスが睨んでいた。

「む―――、いいもん代わりに今日の夕飯はわたしの好きなのでいいでしょう、パパ」

「ああいいよ。セレスの好きなのを作ってやるか」

「うん。約束だよ、パパ♪」

「いいな〜じゃあ、次はわたしね」

「クオーツはどうしたんだ、セレス。マリーさんの所かな」

クロノがセレスに聞くとセレスはなんともいえない様な顔で話す。

「……うん、サラちゃんと一緒にいたよ。クオーツもたいへんだね」

「どうしてだい、セレス。ケンカでもしてたのかい」

「ちがうよー、サラちゃんの手作りクッキーを食べさせられたんだよ。

 アレはちょっと……」

セレスが話すとラピスも納得して頷いていた。

「……クオーツ大丈夫かな。アレはキツイよね」

「そうなのか、これから上手になっていくよ。

 初めはみんなうまくできないさ」

自分の事を思い出して二人に話すと、二人は不思議そうに聞く。

「パパもそうだったの、いつもおいしいよ。パパの御飯は」

「パパのご飯は私も好き♪」

「そうだよ、最初はみんな上手くできないさ。何度も練習して上手になるのさ。

 セレスもラピスもいきなりは無理だからそのうち練習しような」

「「うん、一緒にね、パパ♪ ママが帰ってきたら驚かそうね」」

「そうだな、それもいいな」

クロノは二人を抱きかかえ、マリー達の元に向かった。

火星はつかの間の平和を迎えていた。

次の戦いはより過酷なものになるがクロノは子供達の為、アクアとの未来のために守り抜く決意を固めていた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


「俺がパイロットのダイゴウジ・ガイだ。よろしくな」

「操舵士のハルカ・ミナトよ、よろしくね〜〜」

「通信士のメグミ・レイナードです。よろしくお願いします」

「オペレーターのホシノ・ルリです。よろしく」

ブリッジ要員が自己紹介するとパイロットの三人が応えた。

「おう、スバル・リョーコだ。よろしくな!」

「アマノ・ヒカルで〜〜す。よろしくね〜〜」

「マキ・イズミよ。ところで艦長はどこかしら」

イズミが訊ねると最後に話そうとしていたジュンが答えた。

「艦長は副提督とプロスペクターさんとサツキミドリに挨拶に行っています。もうすぐ帰ってこられますよ。

 僕は副長のアオイ・ジュンです」

ジュンが話すと同時にブリッジに三人が帰ってきた。

アクアがプロスに尋ねる事にした。

「プロスさん、補給は順調ですか?

 もし出来るならサツキミドリの人達は地球に避難させたほうが良いかも知れません。

 ナデシコが離れれば大丈夫だとは思いますが、また狙われる可能性があるかもしれません」

「そうですな、本社と連絡をとって判断を仰ぎましょうか?」

アクアが話す事を考えてサツキミドリの作業員の安全を考えて話した。

「あの〜アクアさん、そういう事は私にも相談して欲しいの」

自分を蔑ろにするアクアにユリカは不満そうに話しているが、アクアは気にせず告げる。

「すいませんが自分の職務も満足に出来ない艦長に他人の命の心配など出来ますか?

 残念ですが私はあなたを艦長とは認めていません。

 大体この艦の仕事をしないのにサツキミドリの心配をするのですか?

 まず自分の仕事を満足にして下さい」

毅然とした様子で話すアクアにクルーは驚いていた。

これにはムネタケは彼女の性格を知っているので頷いていたが、クルーにはキツイ言い方だと思っていた。

「あ〜アクアちゃん、そこまで言わなくてもね〜」

「そうですよ、アクアさん。

 艦長は確かにいい加減なとこがありますけど、そんなに言わなくても」

ミナトとメグミがユリカを慰めようと話すと、

「そうですよ〜。

 もう少し私を信じて下さいよ〜アクアさん」

ユリカも二人の援護でアクアに話していく。

アクアは溜め息を吐くとユリカに真剣な様子で訊ねてくる。

「一つ聞きますが乗員名簿は見ましたか?

 こちらの三人の事は知っていますね」

それを聞いたユリカは三人を見ると誰か分からずに聞いてきた。

「えっとどちら様ですか?

 あっサツキミドリの方ですね、ご苦労様です」

「ユ、ユリカ!

 この人達はここで合流するパイロットの皆さんだよ」

焦って叫ぶジュンにアクアは冷めた声でユリカに告げる。

「乗員名簿は見ていないみたいようね。

 時間はあったのですが仕事を放棄していたのですか?

 この分じゃ火星でナデシコは撃沈される事は間違いないです。

 皆さんも遺書の準備をして下さいね。

 火星は地球の横暴に怒っていますから慎重な態度で臨むようにして欲しいので注意をしてきましたがもうしません」

そうアクアは告げると自分の席に座って仕事を再開した。

「大丈夫ですっていくらなんでも火星の人が私達を攻撃しませんよ。

 アクアさんも心配性ですね」

ユリカは笑って話すとクルーも安心していたが、アクアはみんなの楽観的な態度を見て呆れるように話した。

「いいですね、火星の状況も知らないのに暢気な事を言いますね。

 火星は地球に見捨てられたんですよ。

 軍の援護もなく残された人々は不安な毎日を送っているのに。

 皆さんには理解できないのですか?

 火星は殲滅戦を仕掛けられたんですよ、木星に。

 しかもあなた達は安全なビッグバリアに守られて生活しているのに火星が怨まないというのですか?

 戦争をしているんですよ、私達は。

 この瞬間も人が死んでいるのにそんな気楽に話すなんて不謹慎ですよ」

火星の状況を話すアクアにクルーは初めて聞かされる火星の実状に驚いていた。

「だからナデシコが行くんですよ。

 この艦は地球最強の艦なんですよ」

負ける筈がないとユリカは話すとクルーもナデシコの性能を信じているので危険だと認識していない。

「確かに地球最強ですが火星で通用すればいいですね。

 なんせあそこは最前線ですから戦艦一隻で勝てるなんて楽観視しているネルガルの上層部は愚か者しかいませんね。

 都合のいい事ばかり考えている人達ですから。

 どれだけ犠牲を増やし続けているかも知らない集団なんですよ。

 ルリちゃんには言ったけど知らない事は恥じゃないの、だけど」

「知ろうとしない事は罪なんですね」

アクアの後に続くように話すルリにアクアは微笑んでいる。

ルリはアクアが話している内容をきちんと受け止めている。

「ルリちゃんは大丈夫なようね。

 火星の状況を考える事が出来るわね」

「はい、おそらくナデシコは艦長の行動次第で攻撃を受けると思います。

 その時、火星の実力を自ら味わう事になりますね」

アクアの質問にルリが答えるとアクアは嬉しそうに微笑んでいた。

「そういう事よ、火星には対艦攻撃力を保有する機動兵器があるの。

 ナデシコが地球最強でも火星では最強などと言えないと思っていてね。

 ナデシコには劣るけど木星の戦艦が何隻も既に撃沈されているから、当然ナデシコだって落とせるわよ」

アクアが楽しそうにルリに火星の保有する戦力を話す。

クルーもすこし楽観的に考えていた事に気付いて注意しようと考えていた。

(会長、火星は危険な場所かもしれません)

プロスは一歩下がってブリッジの状況を見つめている。

アクアの話が事実ならナデシコも火星で沈む可能性があるのだ。

「大丈夫ですって」

ユリカはクルーに話すがアクアから聞いた火星の状況を考えると不安だと感じていた。

ナデシコは補給を終えて無事に出航した。

目指すは火星、そこに待っている現実をまだクルーは知らなかった。


「あっアキトだぁ―――!

 何でユリカに会いに来てくれないのよ―――!」

(……失敗したかしら、乗員名簿の事を話したの)

アクアに言われて乗員名簿を見たユリカはそこにアキトの顔があった事に気付いて叫んでいた。

この後、ユリカのアキトの王子様発言にジュンは燃え尽きるがアクアのただの幼馴染発言を聞いて立ち直っていた。

ミナトは面白い状況になりそうだと楽しんでいたが、アクアは未来の事を知っているので不安になっていた。

かくしてテンカワ・アキトの受難の日々が始まろうとしていた。









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EFFです。

ナデシコ編はもう少し続きます。
アキトとユリカを「君の名は」状態にしようかと思いましたがこの先の展開を考えてやめました。
俗に言うユリカへイトにする気はないのですが(汗)
悪い人ではないんですがヒロインは決定しているので仕方ないですな。
次の話は火星と木星の状況も入れながらの予定です。

では次回でお会いしましょう。

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