目指す頂に辿り着く

やっと辿り着いた先には何があるのか

そこで終わりになるのか

否……更なる高みへと目指す

それこそが修羅たる我の生き様



僕たちの独立戦争  第百一話
著 EFF


漆黒の宇宙空間を移動する機動兵器群――夜天光と九郎、そして飛燕とジンシリーズ。

周囲を慎重に索敵しながら、アステロイドベルトを進んでいる。

『今のところ、動きがないですね』

「そうだな」

烈風に相槌を打つ北辰。機雷原を回避する為に大きく迂回している南雲とは逆方向から北辰達は回廊に侵入を開始する。

予定されている時間には間に合いそうだが、

「甘くはなかったな。高杉殿、部隊を任せる。

 奴等は我らが引き付ける」

『判りました……気を付けて』

「承知」

眼前に現れた飛燕改に北辰はどうしようもなく昂ぶる感情を抑えきれずにいた。


目の前に近付く夜天光に閻水は獣じみた笑みを浮かべている。

「きやがったか……そうこなくてはな。

 いいかっ! 邪魔はするなよ」

閻水もまた北辰との戦いを待ち望み、仲間に自分の楽しみの邪魔はするなと告げる。

部下達も承知しているのか、「応」とだけ返答すると一気に機体をそれぞれの相手に肉迫させる。

集団戦ではなく、機動兵器の一騎討ちという木連らしい展開に男達は高揚していた。


雷閃は接近戦を仕掛ける為に九郎を加速する。

「行くぞっ!」

振り下ろす小太刀に相手も斧で受け止めている。

「今日はきっちりと決着をつける!」

叫びながら攻勢に出る雷閃と、攻撃を流して反撃に出ようとする男との一騎討ちが始まった。


雷閃が戦闘を開始すると同時に烈風も同じ相手と対峙していた。

「お互い手の内は知っているから……先に動いた方が負けかな?」

一人呟きながら烈風は僅かに機体を動かしながら牽制する。相手も同じように牽制しながら隙を窺っている。

技量は五分、一瞬の隙が命取りという心理戦が始まろうとしていたが、烈風は笑みを浮かべている。

「隊長に毒されたかな……こういうやばい時に笑えるなんて」

師が師なら、弟子も弟子というように烈風も強敵の出現を楽しみにしていたようだった。


『くくくっ、こうでなければな』

「貴様の言いたい事は分かるぞ。

 我らは修羅だ……戦いこそが全てよ」

『全くだ。救い難い性だな』

飛燕改と夜天光が戦場を駆け巡る。アステロイドベルト内を……周囲の状況を一瞬で見極めて動く。

一瞬でも判断を間違うと隕石に衝突という状況でも二人の動きには躊躇いはなかった。

互いに隙を突こうと虚と実を組み合わせた動きで牽制しあうが、一撃で相手をしとめる技量を持つ者同士、緊張感が高まる。

両機ともフィールドは解除して機動している為に時に隕石を掠めるよう回り込んで盾代わりにする。

無論、激突すれば機体は大破して死ぬ事になるが、その恐怖も強敵との戦いの前には霞んでいる。

鋼線を拳大の岩塊に絡めて夜天光に飛ばすと同時に岩塊を影にして接近する。

視界を一瞬遮られるが相手の動きを読むようにして紙一重で避けて一撃を加えるが、相手の武器に防がれる。

銃を使うなど無粋の極みと二人の考えは一致している。従って所持する武器もまた接近戦用になっていた。

『この程度の攻撃ではお互い死ねんな』

「我を殺したいのなら、ぬるい手は使わぬ事だ」

『安心しろ、ここからが本番だぜ』

「そうでなくてはな!」

そう告げて夜天光は連撃を繰り出す。巧みに上下左右に分散させて息吐く暇を与えないようにする。

閻水は両手に鉈を持ち、北辰の連撃を防ぎながら、

「ぬっ!」

一瞬の隙を突いて一撃を出して牽制すると攻守を入れ替えるように攻勢に出た。

『気を付けるんだな……隙だらけだ』

「ぬかせ! 貴様も隙だらけだ」

北辰も閻水の連撃の癖を見切って一撃を出すと両機は一旦距離を取って睨み合う。

『く、くくくっ』

「ふ、ふふふっ」

命の遣り取りは愉しくて仕方ないと言ったふうに笑みを浮かべる二人。

この緊張感がたまらない……背筋を流れる冷たい汗さえも二人には心地好かった。


「追撃はないな……全機、気をつけろよ。

 何処に罠があるか分からん」

北辰達に任せて、三郎太達は目標地点まで進軍していた。

『副長!』

「ああ、見えてる。各機、散開せよ!」

おそらく妨害用に配置していた無人機が三郎太達の行く手を阻む。

「さっさと終わらせて、艦長達に合流する。

 手間取るなよ」

三郎太の声に全員が了解と応えて、機体を動かす。

「ジンを前面に出して重力波砲で対応する。

 ジンが囲まれないように援護しろ!」

三郎太の指示に従ってジンは重力波砲で無人機を蹴散らしていく。

生き残った無人機がジンに接近しようとするが九郎が近付けさせない。

「ちっ、数が多いな」

時間通りに行ける可能性が少なくなったと思い、三郎太は舌打ちする。

対艦兵器を所持している自分達が行かなければ、艦長が苦戦するのは明白だ。

「邪魔するな!!」

ジンに取り付こうとする無人機を破壊しながら叫ぶ三郎太であった。


旗艦の艦橋で閻水からの通信を聞き、通信士が第一報を入れる。

「頭が接触しました!」

「よし、こっちも来るぞ!

 全員、気合を入れろよ!!」

副長の声で艦橋が活発化すると同時に艦隊に戦闘準備の指示を伝達する。

艦隊の火器管制を解放し、まもなく現れる敵艦隊を待つ。


「どうやら、北辰殿達が接敵したようだな」

敵艦隊に動き有との報告を受けて秋山はそう結論付ける。

大きく迂回する南雲の部隊が接敵すれば、もっと派手に動く筈だと秋山は知っている。

「時間は?」

「まだです、艦長」

作戦開始時間の再確認をする秋山。

「よし、時間通り突入する!

 全艦戦闘準備急げ!」

「「「「「了解、艦長!」」」」」

秋山の宣言に俄かに艦橋が慌ただしくなり、艦隊も呼応するように動き出す。

戦艦の機関に火が灯り、その熱が艦を包み込み一個の生命体のように命を吹き込む。

そして一つ一つの命が集まり、より大きな生命体へと成る。

艦隊の準備が整い……時間が来る。

「時間だ……全艦発進!」

秋山の号令と共に艦隊は獰猛な牙を剥き、回廊へと突入する……戦い、そして木連に仇成す敵を噛み砕く為に。


もう一つの部隊――南雲の分艦隊は大きく迂回し、敵艦隊の後方に位置を取っていた。

「秋山中佐も大胆な策を考えたな」

目の前の機雷原を睨みながら南雲は秋山の策の大胆さに呆れるというか、感心するべきかという意見を述べる。

「艦長、準備完了しました」

「おう」

無人戦艦の制御を行っている部下からの報告に南雲は頷く。

「艦長! 始まりました!!」

索敵を担当している部下が叫ぶように報告すると南雲は、

「俺達も動くぞ!

 各艦、主砲斉射! 同時に例の艦を突入させろ!」

「「「了解!」」」

南雲の指示を受けて艦隊が主砲を機雷原に発射する。重力波砲を浴びた機雷が一斉に爆発する。

目の前が爆発によって激しく光り、衝撃波が艦を揺らすと同時に三隻の戦艦が等間隔を維持して機雷原に突入する。

爆発を免れた機雷が戦艦目掛けて殺到するが、その前に戦艦が白く発光すると周囲の物を相転移して……消滅する。

「……相転移爆弾だな。こいつは迂闊に使うと……やばいな」

爆発の範囲内に存在していた全てが消滅した光景には豪胆な南雲でさえ冷や汗が止まらなかった。

「秋山中佐が忌避する訳だ。

 こんな物を使えば……どちらも生き残れんぞ。

 全艦に伝えろ……今作戦は第一級秘匿情報とする。

 詳細は秋山中佐と閣下にのみ報告して、許可なくば誰にも閲覧出来ぬようにする」

「……了解しました」

南雲の指示に従い全ての情報に制限を掛ける。相転移機関は木連だけのものではない……地球も火星も所持している。

万が一相手に知られ……使用されると一大事なのだ。

パンと手を叩いて、南雲は呆けている乗員の意識を自分に向けさせる。

「行くぞ! 秋山中佐が苦戦している筈だ。

 俺達の手で勝利を掴み取るぞ!」

南雲が一喝すると乗員達も目の前の光景から意識を外して指示を艦隊に伝達する。

「機雷原は消滅した筈だが生き残った物があるかもしれない。

 各自警戒は怠るなよ」

秋山の侵入開始と同時に作業して時間差を持って注意を分散させるのが本作戦の第一段階だ。

突入後、包囲殲滅が第二段階になる。

南雲達は急速に艦隊を向かわせて秋山の負担を軽くしようと考えた。


同じ宙域に艦隊決戦を冷静に見つめる目が在った。

『相転移砲ではありませんが危険な使用方法を見つけたようですね』

黒く塗装を変更し、形状を若干変更した無人戦艦がヒメの制御下で火星に情報を送信中だった。

木連の内乱には参加する気はないが兵器開発に関しては別である。

戦場で生み出される兵器を分析して逸早く対応策を考えるという目的が火星にはあった。

ウィルスに汚染された艦からも情報は送信されるが、

視点を変えて送られる情報も必要だと考えてステルスタイプの戦艦が多数木連に潜んでいる。

無人戦艦同士なら識別コードによって発見しても機密扱いになり、存在を消してしまう。

その為、人の視認による索敵という手段でしか発見できない状態であった。

『この分では相転移砲に類似した武器は木連が先に開発するかもしれませんね』

相転移機関に関しては木連に一日の長がある。無駄に技術を蓄積している訳ではない筈だと火星宇宙軍は考えている。

木連の有人機――飛燕の台頭によってネルガルは機動兵器の開発に力を注ぐ結果になった。

クリムゾンは火星宇宙軍から与えられた新型機――九郎の情報からストライカーシリーズの強化を優先している状況だ。

ロバート自身は相転移砲の開発はあまり乗り気ではない……大量破壊兵器を生み出す事は相互破壊に繋がると懸念している。

企業として発展させるなら戦争を誘導する手も有りだと知っているが相互破壊では再建が大変だと理解しているのだ。

人の感情が左右される戦争をコントロールするのは非常に難しいとロバート自身は思っているのも確かだった。

「もはや……戦争で儲ける時代ではないのだろう。

 兵器開発が進み過ぎて自身さえも滅ぼすような兵器が出る時点で軍需はお終いだと思うな。

 開発して自滅では冗談にもならんよ」

以前ミハイルにそう語った事があった――本心かどうかは判断し難いが。

そんな訳でクリムゾンは相転移機関の研究を進めているが兵器開発ではなく、技術力の強化を優先していた。

火星が生き残れば大航海時代が始まる可能性が高まり、ボソンジャンプを活用する時代の幕開けになると読んでいるのだ。

少し話が脱線したが火星は相転移機関の兵器転用を警戒している。

ヒメから送られる情報は宇宙軍、開発局で分析される。

『どうせなら兵器の分析より日用品や医療器具の研究結果の分析がしたいですね』

そう話すヒメに開発局のスタッフも頷いている。

人を殺す道具よりも、活かす道具を生み出す事の方がやる気は出る。

早くそんな時代になると良いなと思いながら働くスタッフとヒメであった。


「やるな……損害を与えているが最少にされている。

 盆暗ではない、本当の名将になれるかもな」

回廊に侵入する秋山の艦隊をそう評価する。

艦をぎりぎりまで近付けて歪曲場を固めて突き進む。歪曲場の傘と言うべきかのように強固な盾を持って怖れずに進むのだ。

砲火を集中させて防壁を削り取っているが、損害は少なく回廊に入り込んでくる。

蛮勇ではない、生き残る為に最善の方法を選択して真の勇気を持っていると判断する。

「面白くなってきた」

数では同数、後はお互いの器量が物を言うと思うと高揚する。

「副長! 後方で大規模な爆発がありました」

「どうやら頭も切れる男か……こうでなくてはつまらん。

 こっちも予定通り艦隊を動かすぞ」

報告を受けて副長は艦隊の陣形を変更する。


「ほう、判断が素早い……こういう人材がいれば楽できるんだが」

陣形が変わり始めた敵艦隊を見て秋山が呟く。

南雲率いる分艦隊が動き出したと同時に陣形を変えるという事は読まれていたか、瞬時の判断力が優れているという事だ。

僅かに砲火が緩んだ隙に回廊に侵入したが相手に損害を与える事は出来なかった。

「こっちの損害を考えると五分になって、振り出しに戻ったという事だな。

 やれやれ……楽に勝たせてはもらえんか」

相手の力量を認める言葉を誰にも聞こえないように呟きながら秋山は指示を出す。

「攻撃に転ずると同時に南雲の艦隊の突入の支援をする。

 次の場所に砲火を集中させろ!」

秋山が指示した場所に艦隊は砲火を集める。

火線は一直線に敵艦隊に突き刺さり爆発による衝撃波で艦隊を揺らして陣形を乱す隙に南雲の分艦隊が突入する。


「行くぞっ! さげつの同胞の敵討ちだ!

 彼らの無念をぶつけてやれ!」

秋山の支援を受けて南雲は攻撃を開始する。秋山の戦い方を見て憶えたのか、砲火を集中させて歪曲場の防壁を打ち崩す。

牙を剥いて襲い掛かる猛獣のように南雲の艦隊は苛烈な砲火を持って突き進む。

だが相手も南雲の艦隊の鼻面に砲撃を集めて怯ませる。

「ちっ! やってくれる……だが負けんぞ!」

足並みを乱されて舌打ちする南雲だが、すぐに艦隊を立て直して右舷方向に広げて秋山の艦隊と合流しようとする。

秋山の艦隊も左舷方向に広げて行き二つの艦隊は合流して鶴翼の陣形になる。

『南雲、思ったより早かったな』

通信を繋げて開口一番、秋山はそう話す。

「何を言うかと思えば……それよりあれですけど胆冷やしましたよ」

相転移機関の暴走による機雷撤去を思い出して冷や汗を流しながら南雲は話す。

『そうか、とりあえず機密扱いにして封印してくれ……危ない物は表に出さない方が良いだろ?』

「一応その心算です」

神妙な顔で告げる南雲に、そんなにやばい物だったのかと秋山は今更ながらに思っていた。

『後ろに気をつけろよ。大丈夫だと思うが機動爆雷を伏せているかもしれん』

「撤退する時にですか?」

『そうだ、はっきり言うと手強い相手だ。

 ここは相手の陣地だからな……罠の一つや二つくらいはあると考える方が即座に対応できるだろ』

「了解……気をつけます」

この場所を戦場に決めたのは自分達ではないと南雲に告げる秋山に納得する。

「機動部隊は?」

『交戦している……それ以上は分からんが、必ず来てくれると信じている』

秋山は北辰達が負けるとは思っていないとはっきりと告げる。

ここまで有言実行で戦ってきた北辰を信じずに何を信じるという思いがあるのだ。

「なるほど……ではこちらも派手に行きますか?」

『ああ、遅いと文句を言うか?』

「それ、いいですね」

ニヤリと笑いながら南雲は自分達で決着と行きたいと言う。

二人は笑い合うと艦隊を前進させ、苛烈な砲火を持って進軍する。

徐々に秋山達は敵艦隊を押し込み始めていた。


足止めに現れた無人機を掃討中の三郎太率いる機動部隊は隊列を整えて進軍しようとしていた。

目の前に無人機を撃破して、一息吐いた三郎太は部隊の状態を確認する。

「損害は?」

『九郎、四機小破。ジンは全機無事です』

「作戦行動は可能か?」

『何とか出来ます』

『自分も大丈夫です』

『俺もいけます』

『自分もです!』

破損しているがまだ行けると操縦者が勢い込んで告げる。

「よし、小破した四機は後方から支援だ。

 ジンに掴まって目標宙域まで付いて来い……作戦行動が難しい場合は大きく迂回して艦隊に戻れ」

『『『『了解』』』』

「対艦兵装用意! こっからが本番だが功を焦って艦長に迷惑かけんじゃねえぞ」

三郎太の指示に九郎が対艦兵装を構えて進む。

「艦長、獲物は残していて下さいよ」

艦隊戦ではない、機動兵器を用いた戦いにようやく自分の出番だと意気込んでいる三郎太であった。


後方からの攻撃を受けて秋山の艦隊の足並みが乱れる。

歪曲場のおかげで被害は少ないが無数のミサイルによって秋山の艦隊に接触して艦隊を揺らす。

同じように南雲の艦隊も後方からの攻撃で攻撃の手が緩んでいた。

「ちっ、やはり潜んでいたか。

 無人機で対応する! 浮遊砲台を沈めろ」

「了解、艦長!」

『秋山中佐、自分は前に集中しますので後ろは?』

「こっちの無人機で片付けるから手を緩めるな」

『承知!』


「……豪胆な男だな」

潜ませていた浮遊砲台を無視して進む艦隊を見て、その大胆さに感心している。

損害はあるがそれ以上にこちらに被害を与えようとしている姿勢を評価しても良いが、

「大胆さと繊細さが艦隊運用には必要なんだが……もう少し頑張りましょうってとこか。

 もう一皮剥けないと駄目だな」

等と大胆さだけでは駄目だと南雲の艦隊指揮を分析していた。

「さて、もうそろそろ起きるかな?」

暢気に南雲の艦隊が進んでくるのを見ながら呟く。

「副長、始まります」

「よし、備えろ。さぞ、驚くだろうな……だがこれも経験だ」

にやりと笑うとこれから起きる事に対して備える閻水の艦隊だった。


最初におかしいと気付いたのはかんなづきの操舵手だった。

「ん? これはどういう事だ?」

「艦長! 僅かずつではありますが艦が流されています!」

操舵手の反応と同時に索敵を担当している部下が周囲の異変に気付く。

「しまった! これが狙いか!!

 南雲聞こえるか! 艦を急速に下がらせろ。敵の正面に出るぞ!」

『やってます!』

「ちっ、艦の爆発で生じたエネルギーと木星の引力が重なって宇宙潮流が出来たのか?」

膨大な爆発のエネルギーと重力波の歪みが限定された空間内で戻ろうとするのか、まるで潮の流れのように引き寄せられる。

「艦長、これを!」

部下の一人が画面に現在の状況を映し出す。丁度、秋山と南雲の艦隊が風下のような状態になり流されている結果が出る。

しかも流された先には敵艦隊の火線が集中する場所になっていた。

「周囲の環境さえも利用するか……南雲、今は我慢しろよ。

 三郎太達が来るまで耐える時だ!」

流れに揺れる艦隊の指揮を執りながら秋山が叫ぶ。小さな隕石が歪曲場に接触して艦の制御を狂わすのを必死で押さえる。

『りょ、了解……いいか、流れに逆らう事になるが今は耐えるんだ』

『は、はい』

南雲も状況を理解して艦隊に指示を出し続けている。

機動兵器による対艦攻撃という第三弾が起きるまで我慢だと二人は流されながら考える。

防御を固める為に密集していた事が仇となった秋山達であった。


雷閃はこのまま押し込んで倒すと決意していたが、

「こいつ、後の先が専門なのか!?」

カウンターのように時折冷やりと感じさせる攻撃に後一歩が届かずに苦戦していた。

優勢なのだが……後一歩という場面で反撃を受けて態勢を立て直すと展開が続いている。

「……うおっ!」

今も隙を突くように一撃が出て来るが、辛うじて回避する。

「ジリ貧だな……このままじゃあ……」

逸る自分を落ち着かせようとするが、相手のほうが上手なのか、

「ちっ! 休む間もなしかよ!」

間合いを詰めて反撃してくるのだ。

「焦るなよ……ここで焦るから何時まで経っても隊長に及ばないんだ」

自分に言い聞かせるように雷閃は呟く。

血気盛んに飛び込む自分は嫌いじゃないが、それだけでは更に上を目指すのが難しいと感じている。

目の前に大きな壁がある事を雷閃は自覚しつつ戦っている。

そしてその壁を乗り越えなければ、烈風や水鏡に追い着けず……北辰に近付く事も出来ない。

「負けらんねえ。隊長に追い着いて……追い越してみせる!

 その為にもお前に負ける訳にはいかねえんだ!!」

気合を入れて一気に相手の間合いに飛び込み、得意の型を出す。

相手はそれを読んでいたかのように避けて一撃を決めようとするが、

「……引っ掛かったな。俺だって、毎度毎度同じ手ばかりじゃねえんだ!!」

途中で型を無理矢理変えて不意を突き……相手のお株を奪うようなカウンターを決めた。

小太刀は敵、飛燕改の操縦席に吸い込まれるように突き刺さった。

「……勝った。もう一回やれと言われても……絶対無理だな。

 運が良かったとしか言えねえが……勝ちは勝ちという事にしておくか」

勝つには勝ったが……素直に喜べない。一か八かの賭けに出て、勝っただけなのだ。

まだまだ足りないものだらけだと実感した雷閃だった。


烈風も目の前の相手を睨みながらジリジリと焦りを感じていた。

烈風の九郎は相手の槍が掠めて装甲が傷だらけになっている。そして相手側の機体も同じような状態で構えていた。

互いの隙を突いて一撃を繰り出すが……これまた互いに読み合って紙一重で回避しているのだ。

「技量は五分か……ったく、こういう時に手強い奴が出なくてもな」

ぼやくように呟いているがその顔は楽しんでいるようにも見える。

「こうやって戦い続けているのも悪くはないんだが……成すべき事があるんで終わらせないと」

同じ技量を持つ者同士だ。この瞬間も自分の技量が高まっているのが分かるだけに……惜しいと感じる。

「自分と相手の差は無いな……唯一つを除いては。

 …………それに賭けるか?」

たった一つだけ勝てる可能性がある事に気付いていた……というよりこれしかないと考える。

チャンスは一度きり……次はなく、失敗すれば膠着状態のまま第三者の介入で終わる。

「そんな事になれば……つまらんな」

次の一撃で決めると決意する……もう少し楽しんでいたかったという感情を捨てて。

相手との距離をジリジリと詰める。相手も烈風の様子に気付いたか、僅かな動きを加えて牽制しながら詰める。

互いの制空権とも言える間合いに侵入して、同時に必殺の一撃を放つ。

「掛かった!」

相手の攻撃に対して烈風は機体の持つ姿勢制御のバーニアを噴かしてギリギリの処で回避すると同時に一撃を決めた。

槍は真直ぐに烈風の九郎の脇を貫くが、

「ホント、正確な……突きだった。

 来る場所が分かっていたから勝てたけど……勝ったとは言えんな」

傀儡舞を使用する為に微妙な動きが出来る九郎(改)だからこそ……勝てたのだと実感する。

「機動兵器じゃなく肉弾戦なら相打ちだ……つくづく運がいい」

自嘲するように呟く烈風。勝ったが素直に喜べないという心情だった。

『……み………見事だ……』

「来る場所が分かれば、何とか避ける事は出来る……あんたが強かったから勝てた」

『ふ……紙一重だが……俺に………勝ったんだ……喜べ……』

相手の機体から通信が入る。操縦席を貫いたから相手はもうすぐ……死ぬだろう。

「言い遺す事はあるか?」

『……特に……ない。先に……逝って……待ってるぞ』

「地獄で会おう。その時は……」

『……また…な………』

それが相手が遺した最期の言葉だった。烈風は相手の最期を見つめて、

「さて、次に会う地獄で負けないように鍛えておかないとな……楽しかった、そして半分は怖かったぞ。

 後にも先にもこんな気持ちになるのはあんたくらいかもな」

好敵手を失った一抹の寂しさを吐露するが、気持ちを切り替えようとする。

「……何とか動けるか?

 ほう、雷閃は勝ったか……隊長が勝てば全員の士気も上がって勝てるだろうな」

技量は五分なら士気が高い方が勝つ事を烈風は知っている。

後は隊長が勝って秋山達の援護に向かうだけだと烈風は考えていた。


北辰達は高機動を維持しながら互いの隙を窺っていた。

(もう一歩だ……もう少しでこの手に届きそうだ)

この緊張感に北辰は自分の感覚が極限まで高まっている事を感じていた。

唯一点に研ぎ澄まされていく感覚に不安はない。寧ろ、更なる高みに至る瞬間が早く来ないかと思っていた。

『だんまりかよ……つまんねえな』

面白くないと言った感じで閻水がぼやいているが……どうしても気になる。

師が到達できなかった領域に入るのだ。

強敵との戦いで胸躍る感情ではなく、未知の領域へ突入する好奇心という滅多にない感情が湧き上がる事に途惑いもあった。

夜天光と飛燕改が交差していく度に火花が飛び散る。急制動を掛ける度に二人の身体に抑えきれなかった慣性が圧し掛かる。

それさえも二人には心地好い刺激だった。

「……一つ聞く、貴様は更なる高みに至りたくはないのか?」

『はあ?……くだらん。勝ちゃあそれで良いさ。

 口伝でしか遺っていない奥義など使える物とは思えんな』

「そうか……では、我は貴様を葬って奥義へと至る事にしよう」

『幻想にしがみつくようじゃ終わりだぞ』

「幻想か……我もそう思っていたがな」

呆れを含む閻水の物言いに北辰は苦笑しながら、新たに身につき始めた感覚に意識を向けて研ぎ澄ませて行く。

『もう飽きた……テメエなら楽しめると思ったんだが、期待外れだ』

閻水は北辰に興味がなくなり、この戦いを終わらせる事にした。

機体を加速させて北辰に攻撃を仕掛ける。北辰は閻水の攻撃を紙一重で避ける。

閻水の動きを目で追うのではなく、身体に叩き込んだ経験という名の感覚で対応する。

集中し過ぎて、頭が痛くなるほどに感覚が研ぎ澄まされて……音さえも失い、目に映るものさえ色を失っていく。

(……見える、奴の動きの全てが……)

音と色を失った事さえ気にならないほど、北辰は自分が師を超えて……更なる高みに到達した事に歓喜して行動する。


『『た、隊長!!?』』

二人の戦いを見ていた雷閃と烈風は北辰の動きが止まったように見えて、やばいと判断する。

だが、北辰が何気なく突き出した錫杖に閻水の飛燕改は吸い込まれて行った様に見えた。

『『え、ええっ!!?』』

ゆっくりと突き出された錫杖に閻水が自分から突き刺さったように見えたのだ。

『な、何で?』

『どういう事だ?』

二人には信じられない光景であった。閻水の腕なら容易に避ける事が出来た筈なのに現実は違った。

まるで自分から刺さりに行ったとしか思えないほど自然な動きだった。

『て、手前……何をした?』

『さて、終わりにするか……もはや貴様は我の敵ではない。

 我は師を超え、木連武術の真髄に至った』

『ふ、ふざけるなよ……まぐれ当たりで勝ったつもりか!!』

通信機越しに二人の会話を聞いている。

閻水は再び攻撃を行うがその攻撃は当たらず……北辰の突き出される攻撃に自分から当たりに行っている様に見えた。

『ば、馬鹿な?』

自分の持てる限りの攻撃方法を繰り出すが……その全てを避けて一撃を簡単に叩き込んでくる。

来ると分かっているのに……避けられない。閻水は北辰が自分より遥かに高い領域に到達したと肌で感じてしまった。

迫り来る死の恐怖を実感すると同時に、

(やっと死ねるか……これで解放されると思うと嬉しいような残念なような)

戦いから解放され、自由になれるという気持ちを心の何処かで受け入れていた。

『くっくく、貴様では我の相手にはならん。

 さらばだ……地獄で会おう』

北辰の声と同時に操縦席に錫杖が突き刺さり閻水の飛燕改は爆発する。

手抜きが出来るほどの相手ではないと二人は知っている。

だが北辰は手抜きのような戦いであっさりと勝った様にしか見えなかった。


「これが天閃……なるほど極めなければ届かぬ訳だ」

夜天光の操縦席で北辰は一人呟く。木連の武術は打、極、投、全てが存在している。

それを全て極めれば身体がどう動くか熟知出来るのだ。

極限まで集中して相手の動きを見極めて、動いた先に攻撃を割り込ませれば避けられずに自分から攻撃に飛び込んでくる。

「天から閃くような一撃に見えるな」

天啓のような攻撃としか言い様がないと北辰は思う。文章で遺しても……感覚的なものでは伝わらないだろうと理解する。

操縦席で一息吐いて師の言葉を思い出す。

《焦るな……焦りは全てを台無しにする。

 ただ感じるままに身を委ねれば、自ずと答えは出る》

《そうは言いますが師匠。そう簡単に出来れば苦労しません》

《当たり前だ、出来ぬから苦労するのだ。

 わしとてなかなか上手く出来ぬのだ……簡単にされては立つ瀬がないわ。

 だが、出来た時こそ木連武術の真髄を極める……日々精進だな》

《……はい》

在りし日の師匠と北辰の会話が頭の中をよぎる。

(師匠……私は貴方を超えて、更なる高みを目指す)

脳裏に浮かぶ亡くなった師は答えずに笑みだけを浮かべていた。

自身を超えた北辰を喜ぶかのように……。


『隊長、無事ですか?』

過去を回想していた北辰に烈風が話しかける。

「ああ、無事だ。

 部隊はどうなった?」

『中破が三、小破が四、他は無事です』

烈風が簡潔に報告する。

「中破した機体は動かせるなら持って行く……駄目な機体はこの場で廃棄する

 操縦者は少々狭いが二人乗りだな」

『全機、補助すれば持って行けます』

「よし、損傷した機体も佐竹にとっては資料になるだろう。

 では行くぞ」

『『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』』

北辰は閻水の飛燕改の残骸を見て呟く。

「貴様は安易な道を選び……負けたのだ。

 我は貴様を糧として更なる高みへ行く……さらばだ、地獄で会おうぞ」

もう振り返る事はないだろう。自分は木連の未来の為に鎮護の鬼にならんとする。

北辰の戦いはまだ続く……修羅は最期まで修羅として生きるだけと思いながら。










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EFFです。

北辰レベルアップという一幕が書けました。戦闘シーンって結構大変でしたけど。
敵になるかどうかは分かりませんが、クロノだけ強くなるのは面白くないかなと思っていたので。
数多の実戦を潜り抜けた先に得られた未来予測とも言える究極の後の先……天閃。
ナノマシンによる身体強化から得られた超高速攻撃……アクセラレート。
能力的には五分くらいにしたいです。

それでは次回は艦隊決戦の続きとしましょう。


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