回避可能な戦いが始まる

過ちを認める事が出来れば起きない戦い

戦いが始まる

様々な思惑がある

だが始まったものを止める事は出来ない

因果応報という諺があるように……いつかは報いが来る

巻き込まれた者は冗談じゃないだろうが



僕たちの独立戦争  第百十七話
著 EFF


無事、ビッグバリアを通過してシャクヤクは予定通りの進路を取る。

「ギリギリ間に合うって感じですね、提督」

連合軍のホストコンピューターから得ている情報をスクリーンに映し、状況の推移を確かめたジュンがムネタケに話す。

「そうね。これ以上急いで行くと乱入する事になるから、現状維持のペースで進めばいいわよ。

 直接対峙するのは……かなりヤバイしね」

「そう言ってくださると助かりますよ、はい。

 やっと試運転に漕ぎ着けたばかりなんですから」

プロスが複雑な顔でブリッジクルー全員に聞こえるように話す。

「いきなり撤退戦の殿なんて……キツイなんてものじゃないわね。

 対応一つ間違ったら孤立してドカンって寸法よ。

 そんな事になったら……ネルガル本社にしてみたら蒼白ものね」

「いや〜〜真にもってその通りですよ、グロリアさん」

何度も頷いているプロスにクルーは中間管理職の悲哀を感じている。

敏いクルーは壊さずに還って来いという本社の意向があるんだと理解しているし、これから行う事の難しさも承知していた。

「まだ火星宇宙軍の艦隊は現れていないのが気に掛かるわね……向こうもギリギリに乱入かしら?」

ムネタケが地球、木連両陣営の動きを見ながら、火星の動きを予想している。

「そうでしょうな」

「問題は火星と木連が核にどう対処する点では?」

ジュンがこの艦隊戦の最重要課題を挙げている。

「全ての核弾頭を封じる事が出来るのでしょうか?」

「そこが問題よ……もし封じ込める事が出来るなら、その二国は地球に対して非常に有効な武器を手に入れる事になるわ。

 今の地球はどの国も核動力でエネルギーを賄っている以上はライフラインを完全に破壊できる事に繋がるのよ」

核以外の方法で電力を賄っている国もあるが殆んどの国が核に変わる物を実用化できていない事をムネタケは指摘する。

「火星も木連も相転移エンジンによる電力供給なら……活動に不備は出ないわ」

ムネタケの考えにジュンもユリカも顔色を変えている。

連合宇宙軍の艦艇は核パルスエンジンが主流で、ようやく艦艇が相転移エンジンへの換装が始まっている状態だ。

そこから導き出される答えは唯一つ……満足に動けぬ艦艇を次々と撃沈して行く火星、木連軍の姿を想像したのだ。

『ちょお―――と待て―――ぃ!?

 この艦だって補助に核パルスを使っているんだぞ――!!』

ブリッジの会話を聞いていたウリバタケがウィンドウを開いて叫ぶ。

『補助動力とはいえ核パルスがトラブったら、ディストーションフィールドもグラビティーブラストも満足に使えんぞ!』

その意見にグロリア、ムネタケと除いたクルー全員の顔が青くなっている。

『相転移エンジンだけでも動くけどよ、補助が使えない時は連射速度もフィールドの強度の維持も大変だぞ』

「だからギリギリまで行かないんじゃない。

 有効射程も効果範囲も知らないから参加しない方向で動いたのよ」

ムネタケがあっさりと実状を告げると、

『なるほどな……だけどよ、かなりヤバイと言わせてもらうぞ』

ウリバタケが常にギリギリで動こうとするムネタケの真意に納得していた。

「艦長に言っとくわよ。

 この戦いは相当ヤバイものだから、含むところがあろうがクルー全体の命が懸かっているから油断したら……死ぬわよ」

ムネタケの混じりっ気なしのマジな視線にユリカは息を呑んでいる。

「今回は一瞬の判断の狂いが自身とクルーの命を危険に晒すから……火星降下時の馬鹿な真似をするなら最初から外すわ」

与えられた戦艦の性能に過信する事なく、ちゃんと判断して戦えとムネタケの視線が語っている。

「だ、大丈夫です! ちゃんとやります!」

即座に同じミスはしないとユリカがムネタケに返答する。

「期待しているわよ」

「はい、ユリカにお任せ〜〜」

いつものように笑みを浮かべているが目だけはマジになっているユリカにクルーも気を引き締めている。

シャクヤクは速度を調節しながら右翼のナデシコ艦隊に近付いていた。



木連、地球の両艦隊はそれぞれの思惑通りに進んでいると感じていた。

地球側の総旗艦ユキカゼのブリッジでドーソンは自身の勝利を微塵も疑っていなかった。

「まもなく木星蜥蜴はこちらの有効射程に入ります」

オペレーターの報告にドーソンは勝利を確信した。

「よし、後方の核攻撃艦隊に射程に入り次第攻撃せよと伝えろ」

爬虫類のような歪みきった不気味な笑みを浮かべてドーソンは指示を出す。

艦のクルーはその様子に自分達のこれから行う核攻撃が異常な物なんだと思うが……ドーソンの狂気に逆らえなかった。


一方の木連艦隊は不安な様子で地球側の核攻撃後の火星の対応を思っている。

火星が第二撃を確実に防ぐと豪語していたが、実際に攻撃に晒されるのは自分達であり……火星が自分達を裏切る可能性も完全に消える事はなかった。

そんな乗組員の不安な様子を見て高木は艦隊全体に通信を開いた。

『オタオタするな! 俺達は火星を信じたんだ……なら最期まで信じきるのが木連男児の生き様だ!

 腹を据わらせて、木連男児の肝っ玉の太さを火星に見せてやれ!』

この一喝に浮き足出していた艦隊は不安を振り払うように艦隊の乱れを即座に修正した。

そして……運命の決戦の火蓋が切られた。



先手を取ったのは地球側だった。

ドーソンの命令を忠実に守り……後方の核攻撃艦隊から木連艦隊に向かって、忌まわしき核の火が発射された。

木連の前衛艦隊は対空迎撃を行うがその迎撃を上回る数の核弾頭がディストーションフィールドに直撃した。

爆発力とその後に齎される紅蓮の炎が持つ膨大な熱エネルギーを前衛艦隊は浴びていく。

その光景にドーソンは高笑いをもって宣言する。

「は、はぁははっ――! 見たか、蜥蜴どもよ。これが我らの力だ!」

まるで幼い子供が花火に喜んだように手を叩いて喝采するドーソンの姿のクルーは寒気を感じていた。

「続いて第二陣を攻撃すると伝えろ!」

一頻り笑うとドーソンは第二弾の攻撃を命令する。

間違っていると思うクルー達だけが……命令に背く事は出来なかった。


高木は目の前で起きた光景を絶対に忘れないと決めていた。

祖先を火星から追い出した核の火を睨みながら、戦況を見つめ続ける。

「前衛艦隊……九割が消滅、残りも大破しています」

索敵を担当している乗組員の報告の声には怒りが滲んでいる。

「落ち着け……ここからが本番だ」

自身も冷静さを失いかけていたが……その声に冷静さを取り戻し、第二弾に備える。

再び発射された核弾頭は……高木達の信じた気持ちを裏切る事なく……地球側の艦隊の上下で爆発し、艦隊は無傷だった。

「全艦、最大戦速で進軍する!

 火星は我々の味方として応えてくれた!

 今度は俺達が木連優人部隊の意地を見せる番だ!!」

高木の命令に応えるように第二陣の無人艦隊が牙を剥き出しにして地球側の艦隊に襲い掛かる。

「始めるぞ! 俺達の戦いを!!」

第三陣の有人艦隊も最大戦速で動き出し……木連艦隊の反撃が始まった。



100%負ける筈がないと確信し、悠然と構えていたドーソンは突如発生した爆発による衝撃波に揺れるブリッジで叫ぶ。

「何が起きた!?」

「説明しろ!?」

「早く答えんか!?」

喚き散らすドーソンに答えようにもクルーも何が起きたのか……理解出来ない。

判明している事は核攻撃を受ける筈の木連艦隊の第二陣は無事で、自分達が核攻撃の余波を受けている事だった。

「第三弾を発射しろ!!」

ドーソンが木連艦隊の動きを見て即座に命令を出すが、

「こ、後方の艦隊……消失しています!」

この一言が理解できずに叫ぶだけだった。

「さっさと第三弾を撃てと伝えんか!!」

「ですから! その艦隊が攻撃を受けて全艦撃沈されたんです!!」

怒鳴るドーソンの声を上回る声量でオペレーターが怒鳴り返す。

「な、なんだと!!?」

ようやく自分の切り札を失った事を理解したドーソンが顔を青く染めていた。

「敵艦隊来ます!!」

「迎撃せよ……か、数は五分だ!」

震える声でドーソンは命令を出したが、自分の勝利が遠のくを感じていた。



「NS弾頭、全弾……地球側の核ミサイルを自爆させました」

「後方の核攻撃艦隊も計算通り発射前の弾頭の暴走に巻き込まれ消滅しました!」

ファントムのブリッジでオペレーターからの報告を聞いてクルーはホッと一息を吐いていた。

火星で行ったテストの成功は知っているが実際に成功するまでは不安だった。

万が一の時は木連艦隊に二度目の核攻撃を受けさせる事になり……信頼を裏切る事になりかねなかったから成功に安堵する。

「ファントムは予定通り、地球連合艦隊の逃走ルートに待機して……総旗艦ユキカゼの撃沈の準備する」

木連を信用してない訳ではないが、万が一の取り逃しに備える。

生き残っても無事には済まないが……生き残られると面倒な事になりかねない。

クロノは無責任な人間を生かして帰す気はなく、クルーもその考えに賛同している。

ファントムは誰にも知られる事なく……次の行動に移った。


火星宇宙軍、旗艦ランサーのブリッジでゲイルは作戦の成功を受けてから、艦隊に号令を発した。

「全艦最大戦速で左翼カキツバタ艦隊を強襲する!

 超長距離砲撃艦サジタリアスは旗艦カキツバタを砲撃準備、射程に入り次第砲撃せよ!」

「聞いての通りだ、発進せよ!」

ワタライが叫ぶと同時に艦隊が速度を上げて目的の宙域に進軍する。

乾坤一擲、火星宇宙軍にとって、これが地球との最初の艦隊戦の始まりだった。


衝撃波で揺れるブリッジでウエムラは多少動揺していたが、落ち着いて対応する。

「砲撃しつつ、陣形を整えよ!」

この命令に艦隊は即座に攻撃を開始する。レールガンとミサイルの攻撃が木連に放たれる。

着弾して撃沈される無人戦艦と同様に自軍の戦艦も撃沈される光景を見ながら戦闘は始まった。

若干乱れた艦隊の態勢を整えながら、木連の無人艦隊に旗艦カキツバタの主砲を発射しようとした時に再び衝撃が走る。

側面から何か攻撃を受けたと気付いた時、横一列に並んでいた戦艦も何かに貫かれたように艦体に損傷を受けていた。

「相転移エンジン二番に被弾!

 出力65%にまで低下します!」

「左舷より艦影が出ました……か、火星宇宙軍です!」

最悪の報告がオペレーターからウエムラに届いた。

正面のスクリーンに映る艦隊――火星宇宙軍――に目を向ける。

「火事場泥棒が! 反撃しつつ、損害を報告!」

「ダメです! まだ射程に入っていません!」

砲撃手からのスクリーンに目を向けると射程外の距離から最初の一撃を受けたと気付く。

「二番エンジン修復不能……大破しました」

「エンジンブロック火災発生! 直ちに消火せよ!」

「出力不足で主砲連射出来ません!」

「敵艦隊、砲撃開始しました!」

絶望の淵へと突き落とす様な厳しい報告が行われると同時に艦隊を構成する艦が次々と撃沈されていく。

ウエムラは自分が火星を属国で格下と舐めていた事が自身の失策だとようやく気付いた。


旗艦ランサーのブリッジでゲイルは先制の一撃が左翼艦隊旗艦カキツバタに見事に命中した事に内心で安堵する。

「敵旗艦エンジンブロックに直撃!」

「各艦に通達、射程に入り次第砲撃せよ」

無人戦艦が悠然と進み……砲撃を開始する。

広域放射型のグラビティーブラストではなく、一点集中型のグラビティーランチャーは圧縮した分……射程は延びる。

周囲の全てを薙ぎ払う事は不可能だが……直撃すればナデシコ級戦艦のフィールドの半分は優に削り取る。

欠点をカバーするように並ぶ無人戦艦の砲撃は槍衾、もしくは剣山のように艦隊に突き刺さる。

まだそれ程強固なフィールドを有していない艦で構成されているカキツバタ艦隊には脅威になった。


「左舷三番艦、四番艦……大破!」

フィールドを展開出来るように改修された戦艦が目の前で轟沈する光景にウエムラは自身の油断を呪っている。

木連の艦隊と火星の艦隊に挟撃される形で左翼のカキツバタ艦隊は集中砲火を受ける。

「敵砲撃きます!」

オペレーターの声と同時に船体が大きく揺れる。

「フィールド出力47%まで低下!」

「出力を戻せ!」

「ダメです! エンジン出力が足りずに回復には時間を要します!」

「射程に入りましたが……砲撃後、連射は出来ません。

 フィールドに回す分を回せば連射可能ですが、フィールドを維持しながらでは主砲も満足には撃てません」

一基のエンジンの大破が響いている。フィールドを削られるので、その都度……回復に出力を回さなければならない。

「主砲を発射後、フィールドの出力を80%に維持しつつ……再度チャージする。

 カキツバタを前に出して乱戦に持ち込み……機動兵器で敵艦隊を攻撃せよ」

被害は甚大になるが……対艦フレームという極東の切り札の投入をウエムラは決断する。

カキツバタ艦隊は砲撃を以って敵艦隊の足止めを行うと同時に肉迫しようとする。

肉迫する途中で砲撃に撃沈していく僚艦を見ながら……乱戦の距離まで近付く。

「対艦フレーム発進せよ!」

艦隊の四割を失いながら起死回生の一撃を行おうとしたウエムラだが……火星宇宙軍は優しくなかった。


エース級のパイロット達で構成される対艦フレームチームを先鋒にして0G戦フレームの部隊が火星宇宙軍を襲う。

対艦フレームで幾多の勝利をものにしていたパイロット達は今回も有利に進むとばかりに思っていたが、

「バ、バカな―――ッ!!」

敵機動兵器――エクスストライカーが放つグラビティーブラストの前に0G戦フレームのフィールドは耐えられなかった。

数的には地球側の機動兵器エステバリスの方が有利だったが……性能では圧倒的な違いがあった。

フィールドランサーで敵機動兵器の防壁を打ち破って攻撃、またはディストーションフィールドを前面に展開してアタックを敢行するのがエステバリスの主戦 法。

対するエクスストライカーは相手の機体とディストーションフィールドを両腕に装備したディストーションブレードから収束された長い刃でまとめて切り裂く事 が可能だった。

高機動形態で両腕のディストーションブレードを長槍のように構えて貫くエクスストライカーは……かつて戦場で駆け抜けた中世の騎士の姿を連想させる。

更に追加兵装――アサルトパックを装備する事で防御力と攻撃力を強化されたエクスストライカーの性能は上昇している。

それは結果を残してきたエースクラスのパイロット達でもカバー出来るような僅差の性能差ではなかった。

勇ましく戦場に飛び込んできたエステバリスは……飛んで火にいる夏の虫のように次々と落とされていった。


「ま、分かりきっていた事だがな」

エクスストライカーのコクピットでレオンは対艦フレームを撃墜しながら呟く。

フィールドの強度、攻撃力の違い、運動性能など多岐に渡ってエクスはエステより上だと理解している。

エステは名機だと思うが、そのエステと未来で作られた機体を基に内部動力を備えて発展させた機体がブレードストライカー。

そのブレードを更に強化して発展させたのが……自分達が操縦するエクスなのだ。

「二世代も先の機体に勝つのは大変だと思うし……見せなかったから当然の結果か」

完全にその性能を見せずに《マーズ・ファング》は欧州で転戦し続けた。

対艦フレームのエステをロックオンして、トリガーを引く。

放たれたグラビティーランチャーはあっさりとフィールドを撃ち抜いて爆散させる。

情報の重要性を軽視した敵艦隊の提督に呆れながら、次の獲物を狙う。

「まあ、だからと言って手加減する気はないし……火星にした仕打ちを忘れる気はないぜ!」

火星に死ねと宣言した連合に従う謂われはないとレオンは考えている。

地球に見捨てられて、どれ程不安な日々を住民達が送ってきたのも知っている。

力が及ばずに死んでいった住民がいた事も知っているし、共に戦ってきた仲間の死を見取った事もある。

接近してきた二機の0G戦フレームを切り裂いて、追加兵装のレールガンで撃墜する。

「悪いが女を泣かせる男になる気はない……惚れた女に子供もいるんでな」

帰りを待つシャロンと生まれてくる子供の事を考えると負ける気はないし、油断など絶対にしない。

「各機、気を抜くんじゃねえぞ!

 俺達は生きて帰って、家族を仲間を守るんだからな!」

油断するような連中ではないと思うが、部下達の気を引き締める。

この戦いだけは絶対に勝たなければならない……火星の独立と家族の安全が懸かっている。

レオンはその名の如く獅子のように雄々しく戦場を駆け抜けて――仲間と同胞の無念を晴らすように敵機を撃墜していった。


虎の子の対艦フレーム部隊が火星の機動兵器の猛攻を支えきれずに全滅したとの報告を聞いたウエムラは声を失っている。

スクリーンに映る友軍機の光点が次々と消えていくのをオペレーターは蒼白な顔で見ている。

「左舷後方より敵機動兵器来襲、数12来ます!」

それでも警戒網に侵入してきた敵機動兵器の事を報告するのは軍人として有能なのだろう。

「対空迎撃! 艦を密集させて死角を減らせ!」

ウエムラは自身の動揺を押さえ込んで指揮を続けた。


「対艦攻撃隊ヴァルキリーチーム、突入するわよ!」

エリス・タキザワの声にヴァルキリーチームのメンバーから返事が来る。

新型の追加兵装――サレナユニット――を装着したヴァルキリーチームがカキツバタ艦隊の後方より対艦攻撃を敢行する。

高機動形態のエクスを填め込む形で繋げる巨大な追加兵装――対艦兵装サレナユニット。

小型相転移エンジン二基を搭載し、一門のグラビティーブラスト(ランチャー兼用)、そして新開発のフィールド透過型ミサイル――バリスタ――の4パック (1パック24発)を搭載するサレナユニット。

フィールドもエクス本体とサレナユニットの二層式の防御になっている。

特にサレナユニットのフィールドはエクスの二倍近い強度を有していた。

グラビティーブラストの広域放射で露払いを行い、突入した十二機の戦乙女はその強力な防御力を以って敵陣の奥深くまで侵入して……バリスタを展開した。

96発のミサイルが十二機のサレナユニットから撃ち出され、1152発のミサイルがディストーションフィールドを透過して艦体に突き刺さり……爆発する。

機関部に直撃した艦は船体を二つに割って轟沈。

機関部に命中しなくても数発のミサイルを艦体に命中されて蛇行して他の艦を巻き込みながら爆発する戦艦も存在した。

艦体にダメージがない戦艦は僅かだった。中破、もしくは小破した状態で航行する戦艦が大半だった。

旗艦カキツバタも対空迎撃が間に合わずにダメージを負い、ふらついた挙動を見せて航行している。

生き残った兵士達はサレナユニットを"マーズ・ジェノサイダー"と命名し……怖れた。

後日、その話を聞いたエリス達ヴァルキリーチームのメンバーはご機嫌斜めだった事は言うまでもなかったと記載しておく。


火星宇宙軍が参戦して僅か一時間ほどで左翼カキツバタ艦隊は崩壊の憂き目を見せていた。

「火星宇宙軍から入電!

 「左翼は我々が対応する。木連艦隊は中央と右翼をお願いする」と」

「……聞いての通りだ。お膳立てしてもらった以上は期待に応えるのが武人の意地だ!

 全艦、気合入れて進軍せよ!」

旗艦さくらづきの艦橋で火星からの通信を受け取った高木は艦隊に命令を下した。

木連艦隊は猛然と中央と右翼の連合宇宙軍に怒りの牙と爪と突き立て始めた。


「左翼のウエムラは何をやっておる!!」

ユキカゼのブリッジでドーソンは崩壊しつつある左翼のカキツバタ艦隊を罵る。

「絶対に勝つと豪語しておいてこの様か……役立たずが!!」

兵士達が必死に戦っている事を忘れて……ドーソンは悪し様に罵る。

オペレーター達はドーソンに言い様に反感を覚え……冷ややかな視線で見つめている。

「不味いです……左翼が崩壊すれば挟撃を受ける事になりかねません」

副官が青い顔で戦況を分析する……左翼の崩壊はほぼ確実だとブリッジのクルー全員の認識だった。

「……後方で待機中の艦を回せ」

苦々しい顔でドーソンが指示を出す。

予定では最終局面で投入して完全勝利に持ち込む筈の予備の二百隻の戦艦だったが、そんな余裕は既にない。

「……撤退も視野に入れますか?」

副官がドーソンにだけ耳打ちするが、ドーソンは血走った目で睨む。

「負けるわけにはいかんのだ……帰っても責任追及の軍事法廷しかない。

 なんとしても勝つ! 勝たねばならんのだ!!」

退いた処で待っているのは自身の破滅しかない……ドーソンは不退転の決意で狂気を含んだ視線でスクリーンを睨んでいた。


右翼を担当していたミスマル・コウイチロウは旗艦ナデシコのブリッジで戦況が不利な方向に進んでいるのを実感していた。

「むぅ……ここまでの差があったとは」

「まさか……カキツバタ艦隊がああも簡単に」

ムネタケ・ヨシサダも予想を上回る事態の進行に顔を顰めている。

ナデシコを上回る戦艦カキツバタを擁する左翼艦隊が……崩壊の憂き目を見せている。

「中央も押され始めているな……左翼からの部隊が中央に回り始めているぞ、ヨッちゃん」

「火星が左翼を受け持ったと見るべきだな」

「ドーソンが二百の予備を回したが……焼け石に水だよ」

スクリーンを見ながらコウイチロウは戦況を見ながら艦隊に指示を伝達している。

右翼のナデシコ艦隊は旗艦ナデシコの主砲を上手く活用して木連の猛攻を封じ込めている。

木連が押し出そうとすると砲撃で踏み留めて、少し下がる。

そして、飛び込んで来た頭を押さえてから……放火を集中させて怯ませて前に出る。

一進一退の攻防を続けているが、左翼が崩壊すれば……維持は難しくなると考えている。

「ヨッちゃん……消えた千隻は何処に出ると思う?」

「こちらの側面か、後方だな」

ヨシサダが告げた時にオペレーターから報告が入る。

「右側面に敵を確認! 数……推定千隻です!」

「いよいよ本番だな、コウちゃん」

ヨシサダに頷いて、コウイチロウは艦隊に命令を下す。

「後方に待機している艦に通達。

 側面に出現した敵艦隊に攻撃を開始せよ」

右翼ナデシコ艦隊は側面から現れた分艦隊と正面の本隊の挟撃から中央の艦隊を支える事になった。


三原、上松の分艦隊は右翼ナデシコ艦隊の側面を強襲したが……不意打ちにはならずに残念がっていた。

「どうやら阿呆じゃないようだな」

「そうでなくてはつまらんが、出来るなら楽な相手の方が良かったぞ。

 万が一の備えの事もあるからな」

万が一という言葉に三原は気を引き締める。

「偵察用に幾つかばら撒くぞ」

「既に撒いたぞ」

「おーい……話してくれると助かるんだが」

上松が事前事前に手を打つ所為で三原はちょっと困った顔で話していた。

「確かに……だが、お前を蔑ろにしたわけじゃないぞ」

「そんな事は言わんが……来ると思うか?」

「可能性はあるから困るんだよ。

 とりあえず……あの艦だけは沈めたいがな」

上松の視線の先にあるのは地球側の右翼艦隊旗艦ナデシコ。

「左翼の旗艦カキツバタは火星が落としそうだからな。

 後はあのナデシコを撃沈すれば……」

「こっちには有利に進むな」

上松の考えを呼んで三原が話すと上松が頷いている。

地球側の相転移機関の戦艦を宇宙に出さないようにする路線は今も変わっていないし、最重要事項でもある。

最優先で撃沈したいと二人は考えていた。



予定通りの進路を取ったシャクヤクはナデシコ艦隊の救援に向かっている最中であった。

「左翼はあまり長く持ちそうにないわね」

「……ですな」

艦隊戦の戦況を見つめていたムネタケはポツリと呟くと聞いていたプロスも同意していた。

「敗因はやっぱり火星を属国などと舐めて分析を怠った事かしら?」

「情報は近代戦に於いて重要なファクターですからな」

自社製品のエステが火星の機体に歯が立たなくて撃墜されているのを目の当たりに見てプロスは複雑な顔だった。

火星の機体――エクスストライカーの性能は知っていたが……ここまでの差があったとは想定していなかったのだ。

特に十二機の大型追加兵装の機体の攻撃には表面上は冷静にしていたが……内心で驚愕していた。

対空迎撃の砲火を物ともせずに突入して……極めつけはディストーションフィールドを無効化するミサイルの発射だ。

完全に技術力で大きく水を開けられたと実感してしまった。

「予想から……左翼が壊滅した直後くらいに宙域に入りそうですね」

ユリカが真面目な顔で分析している。

「左翼が瓦解すると中央も一気に崩壊しそうな感じです」

「そうね。右翼は善戦しているけど……全体を支えるのは無理でしょうね」

右翼のナデシコ艦隊は中央のフォローをしながら側面から強襲してきた分艦隊の猛攻を防いでいる。

だが、それも左翼が崩壊すれば一気に戦局が傾く事は誰の目にも明らかだった。

「ウリバタケさん」

『なんだ?』

「今、最大戦速ですけど……もう少し速くなりませんか?」

ユリカがウリバタケにスピードアップ出来ないか尋ねる。

『どうしてだ?』

「どうも想像以上にピンチなんで……早めないと不味い気がするんです」

ブリッジのクルー全員がウリバタケの返事を真剣な顔で聞こうとしていた。

『出来ん事もないが……予定時刻より30分ほど早くなるだけだぞ?』

「提督、よろしいですか?」

「おそらく途中で木連の無人偵察機と接触するけど無視して進みなさい。

 本当に時間との戦いになるわよ」

「ウリバタケさん……信じてますよ」

『任せな!』

ウリバタケがニヤリと笑うとユリカはクルー全員に告げる。

「これよりシャクヤクは連合宇宙軍の後方支援を行います。

 危険な任務ですが……出来る限り兵士の皆さんを地球に還したいと思いますので頑張りましょう♪」

ユリカの号令にシャクヤクのクルーが一丸となって戦場に赴く。

この判断が吉と出るか、凶と出るかは……まだ分からない。












―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

第一次火星会戦直後から独自の研究開発を行っていた火星の技術力をまざまざと見せています。
元が未来技術でも活用して、開発するのは人間ですから絶対に進歩してると考えます。
現代でさえ技術の進歩は早いですからね〜〜。
ちなみに追加兵装のサレナユニットのモデルはガンダムGP3のデンドロビウムだったかな。
あれを見た瞬間シビれましたよ。ステイメンはガンダムでしたがアームドベース・オーキスは……ゴツイな〜と思いました。
ああいう機体を出してみたいな〜などと思っていたのでエクスの追加兵装で出しちゃいました(核爆)

それでは次回でお会いしましょう。

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