僕たちの独立戦争  外伝3
EFF


―――子供達の思いと希望?―――


「アクセラレート」

その言葉を口にする事で僕の身体のナノマシンが活性化する。

僕は心のままに身体を動かす……紅い光景を忘れようとして。

人を殺した――紅く染まる床を思い出す。その度に身体が震える。

「はぁ、はぁ、どうしてこんな力があるんだろう?、誰も傷つけたくない……ただ守りたいだけなのに」

疲れた身体でトレーニングルームに横になる。

「そうだな……思いだけでは何も守れないし、力だけでは傷つけるだけだ」

「お、お父さん!?」

いつの間にかお父さんが側に来ていた。普段は着けているバイザーを外して僕を見ている。

僕の隣に座るとお父さんは僕に聞かせる訳でもなく話し出す。

「お父さんも昔はそう思っていたよ。戦争なんて嫌いだと、コックになりたいって言ってた」

「どうしてならなかったの?」

「なれなかったのもあるけど、コックでは大切な人が守れなかったのさ」

寂しそうに話すお父さん。僕はそんなお父さんの顔を見るのは初めてだった。

「昔のお父さんはな、力が無かった所為で大切なものを全部失くしちゃったんだよ。

 守りたいって思いしかなくて、力が無かったから失くした……」

「……思いだけじゃダメなんだ」

僕はそう言うと悲しくなってきた……思いだけじゃ誰も守れないと分かって。

「じゃあ、力があれば大丈夫なんだ」

「それがな、力があっても大丈夫じゃないんだよ」

「どうして?」

僕は不思議に思ってお父さんに聞く。力があったから僕はマリーおばあちゃんとモルガを助ける事が出来た。

でも、僕より力のあるお父さんはダメだったと話す。

「お父さんは力に負けてたくさんの人を悲しませたんだよ。

 だから力だけじゃダメなんだ……心の強さが大切なんだよ」

「心の強さ?」

「そうだ、諦めない事、自分を信じて、仲間を信じて、間違った事をしたら間違っていると言える心の強さだな」

お父さんが大きな手で僕の頭を撫でる。お父さんの大きな手が僕は好きだった。

「クオーツはサラちゃんの事が好きか?」

「うん、大好きだよ」

「そっか、なら強くならないとな……お父さんみたいに大切な人が守れなくて、苦しまないようにしないと」

「お父さんは守ってくれたよ……僕達を」

悲しそうに話すお父さんに僕は話していく。

「あの暗い場所から僕達をお父さんとお母さんが出してくれたよ。

 みんな、お父さんとお母さんが好きだからそんな事言っちゃダメだよ」

「そうか……そうだな」

「僕、お父さんより強くなってみんなを守るから」

「強くなるって云うのは人を傷つける覚悟もないといけないんだ。

 クオーツはその覚悟があるかい?」

お父さんが僕を見つめながら聞いてくる。その言葉に僕は紅い光景を思い出して怖くなる。

「大丈夫だ、クオーツ。お前はまだ人を殺してはいない。

 あいつは遠隔操作した生ける屍だったんだ」

「……でも」

お父さんは僕の頭を撫でながら話してくれる。いつもお父さんは大切なことを僕達に教えてくれる。

「お前が気にするのは判る。お父さんも人を傷つけたり、殺してしまうのは好きじゃない。

 本当は仕方ないで済ましてしまうのが一番悪い事だけどな」

「仕方ない……」

「ああ、殺すしかなかった……戦うしかなかったと言って、それで済まして行くと人を殺す事が当たり前の様になるんだよ」

「それはおかしいよ。なんか変だと思う」

当たり前の事だなんておかしいと僕は思う。人を傷つけ、死に追いやる事が当たり前だなんて、それはまるで……。

「あいつらみたいだよ……そんなの間違っている」

僕達を苦しめていた人達と同じだと思ってお父さんに話す。

「そうだな」

「そうだよ」

お父さんは僕の出した答えに嬉しそうにしているけど、しばらくして困った顔で話す。

「人ってな、忘れる事が多いんだよ。戦いを続けて行くと段々と忘れて、傷つける事が当たり前になる時が来る。

 クオーツ、お前は今の苦しみを忘れずに大切な人を守るんだぞ。

 戦い続けると今日みたいに苦しい事や悲しい事もたくさんある。

 それを全部受け止めて、守り続けて行ければ父さんよりも強くなれるさ」

「それが覚悟なの?」

「そうだな、命を奪う事は良い事じゃないさ。どちらかと言えば、間違っているんだろうな」

お父さんが残念そうに話している。コックさんになりたかったお父さんはなれなかった事を後悔しているのかな。

「お父さんはコックさんになれなかったのは辛いの?」

僕の質問にお父さんは苦笑して答えてくれる。

「後悔はしてないよ。なれなかったおかげでアクアと出会って、お前達と出会ったんだ。

 お父さんはみんなが大好きだから辛くはないさ」

そう言って楽しそうに僕の頭を撫でるお父さん。僕はお父さんのように強くなりたいと思う。

大切な人を守れるような大人になりたいと……。



「大きくなったらさ、医者になりたいと思うんだ。

 イネスお姉ちゃんみたいに病気や怪我人元気にさせる立派なお医者さんになりたいんだ。

 ヘリオはどう思う?」

「いいじゃん。ドクターモルガ……格好いいと思うよ」

「へへ、サンキュー」

医務室のベッドで休んでいるモルガが僕に話す。

イネスお姉さん達、医療スタッフの頑張りを側で見ていたから、医者の仕事がとっても眩しく思えたのかもしれない。

「そっか〜、僕は科学者になって火星の地質の向上を研究したいな。

 美味しい野菜が出来るように火星を変えてみたいんだ」

「それもいいな〜。美味いご飯はみんなが喜ぶぜ」

「でしょう。お父さんも喜んでくれるよね」

お父さんが料理する時、火星の食材を使う時はいつも苦労しているから何とかしたいと思う。

「いい夢だな。叶える為には勉強しないと」

グエンおじちゃんが楽しそうに話すと僕達は笑って頷いていた。

「「うん!」」


いい顔で笑いながら未来を話す二人を俺は守れた事を感謝していた。

アクア様の弟だが、その生まれはシャロン様よりも酷かった。

シャロン様には母親が存在して、幼いシャロン様を死ぬ時まで側に居て支え続けていた。

だが、この二人には母と呼べる者が居なく、アクア様が引き取るまで家族の大切さも知らずにいたのだ。

(亡くなった方を悪く言うのは問題ではあるが、それでも一言問いたい。

 リチャード様、貴方は何がしたかったんだ……家族を苦しめた先には何があるんだ?)

あの方の行状はクリムゾンでも問題視されていた。仕事はそれなりに出来るが、それ以上に問題を起こすので困っていた。

SSでさえもあの方の我が侭に振り回される時があったのだ。

(特に女性関係は最悪だった。後始末に借り出される時もあったな)

ゴシップネタにならないように隠蔽工作をしなければならない時は部下達も嫌そうにしていた。

それなりに誇りを持って仕事している者はリチャード様を快く思っていなかった。

"なんでこんな事を"と思う者を宥め賺して仕事をさせるのは正直嫌だった。

(権力の使い方を履き違えた人間の典型だな。アクア様とシャロン様が似なくて良かった)

シャロン様の強引さは環境の悪さから来たものだと俺は考えていた。

自分の立場を少しでも良い方向に変えようと焦っておられたのだろう。

(父親が当てにならず、母親も失い。自分の身は自分で守るしかなかったんだろう……不憫な方だ)

今はそうでもないが、以前のお姿は痛々しいものがあったと同僚から聞いていた。

(シャロン様も立派になられた。少しずつではあるが強さと優しさを兼ね備えて歩き始めておられる。

 この先が楽しみな方になっっている。いずれはクリムゾンの屋台骨をアクア様と支えて行かれるのかもしれない)

ジュールもそういう意味では期待しても良いかもしれない。苦労人が大成する事は良くある事なのだ。

逃亡生活ではあったが、母親と呼べる人物がジュールには居た。

そういう意味ではマシンチャイルドと呼ばれる中では一番幸せな子供時代だったのかもしれない。

(ルリちゃんが一番不運かもしれんな。ナデシコに乗艦するまではモルモットと変わらない毎日だった。

 命の安全は保障されていたのかもしれんが、それでも多感な子供時代を迎える事は出来なかった。

 あの子のクールな部分はそんなところから来ているのかもしれない)

「……人生ままならんものだ」

「グエンおじちゃん?」

不思議そうに俺を見るヘリオに苦笑しながら俺は話す。

「なんでもないよ。ヘリオとモルガは今……楽しいか?」

「「当然だよ。アクアママが居て、クロノパパが居るんだよ」」

双子ならではというべき息の合った返事をされて、楽しくなって来る。

「そっか、そっか……じゃあ、火星に帰ったら学校行って友達を増やさないとな」

「「うん♪」」

友人が出来るのは非常に良い事だ。この二人にはなんでも言えるような親友が出来れば良いと思う。

(クオーツも居る。オニキスという弟も居るし、ジュールが兄貴として居る。家族構成としては非常に良い環境かもしれん)

喧嘩もするが次の日には笑い合っている四人だ。このまま仲良く成長していけばいいと思う。

(ただ問題はクロノみたいにならないといいんだが……)

今しばらくは成長を見守らないといけないと感じて、ため息が出る。

そんな時、オニキスがお菓子が載ったトレイを持って部屋に入ってくる。

「お兄ちゃん、マリーおばあちゃんが一緒に食べなさいって」

「「やった〜〜〜♪」」

二人はおやつを前に楽しそうにしている。そんな二人を見ながらグエンはまだまだ子供だと思い、目を細めて笑っている。

(早く平和になって、アクア様のお子様のお守りをしたいものだな)

「ふむ、オニキスは将来何かしたい事があるか?」

アクア様のお子様の一人のオニキスに同じような質問をしてみる。

「ぼく?」

「ああ、大きくなったらやりたい事はないか?」

「う〜〜ん……船に乗りたいかな」

「ほう、船乗りか?」

腕を組んで考え込んでいたオニキスはそう話すと楽しそうに笑う。

「うん♪ どこまでもプラスと一緒に星の海を飛んで行きたいな」

「あっ、それ面白いな」

「でしょ。お父さんも楽しそうに聞いてくれたんだ」

「そん時は呼んでくれよ。まだ見ぬ星の改造も面白そうだし」

「船医も悪くない。いっそみんなで旅をするのもいいな」

楽しそうに未来に夢を持つ子供達が生きていける世界が出来れば良いと心から思う。

(この子達は道具じゃない。自分の力で羽ばたく日まで守るのも悪くない)



「ママ、もう痛くない?」

「ええ、もう大丈夫よ」

私の身体を心配するカーネリアン達に微笑んで安心させる。

身体は治療用ナノマシンのおかげですぐに回復したが、しばらくは体調を整える為に休むようにレイとイネスに言われた。

二人に心配を掛けて、子供達にも心配させたのでおとなしくするしかないかと思っている。

私が側にいるだけで子供達は嬉しそうだ。

しばらく忙しかった所為で構ってやれなかった分、こんな時くらいは側にいようと思う。

正直、自分の未熟さが浮き彫りになって不安な気持もあった。だけど子供達の顔を見て、私は弱気な心を叱咤している。

(大丈夫、独りじゃないわ。皆を信じて、助け合えばいい。

 今回、力を借りた人に今度は私が力を貸す番よ……そうして生きて行けばいい)

たくさんの人の力を借りた。その人達の思いに応えるようにしよう。

「ママ、もう怪我しないでね」

涙目で私に抱きついて話すガーネット。

(子供に心配させるようじゃまだまだね)

そう思いながらガーネットの涙を拭い取ってあげて、優しく話す。

「ふふ、ガーネットは泣き虫さんね。大丈夫、ママはもっと強くなってあなた達を守るから」

「な、泣き虫じゃないよ〜」

拗ねるように頬を膨らませてガーネットは言う。

「あらあら、女の子が頬を膨らませちゃいけません。どんな時も優雅に可憐ですよ」

「は〜い♪」

優しく頭を撫でながら話すとガーネットは途端に拗ねるのを止めて笑っていた。

「じゃあ、外には出られないけど絵本でも読んであげましょう」

「「「ほんとっ!!」」」

「ええ、どれから読んで欲しいの?」

三人はそれぞれ絵本を抱えて私の側に来る。交代で膝の上に乗せて絵本を読んでいく。

本当に愛しいと感じる……私を信じて全身で感情を表現して甘えてくる子供達。

血は繋がっていないがそんな事はもうどうでもいい。私はこの子達の母親だと言えるし、誰にも反論などさせない。

(この子達の未来に幸多かりし事を願います……誰よりも幸せになりますように)

愛しい娘達の未来が幸せに溢れた日々になる事を切に願う。

「カーネリアンはね〜、大きくなったらパパのお嫁さんになるの〜〜」

「……はい?」

唐突にカーネリアンが楽しそうに話してくる。はにかんだというか、ちょっと恥ずかしそうに私に話す。

カーネリアンの発言にガーネットとサファイアも続く。

「あ〜〜ずるいよ〜カーネ。私もパパのお嫁さんになりたいよ」

「私も〜〜」

「……ダメです。クロノは私とイネスの大切な旦那様なの」

私は思わずNGを三人に告げる。心の端では子供相手に何を言っているのよと警告している。

例え娘と言えどクロノが絡めば一歩も引き下がる事はない。クロノに関しては娘にだって譲る気はないのだ。

「「「ええ〜〜〜〜。ずるいよ、ママ」」」

娘達が悔しそうに言う。その顔には明らかに不満がある。だけど手加減などしない……大人げないが。

「大丈夫、皆にもそのうち大切な王子様が現れますよ。クロノより格好良いかはわかりませんけどね」


側で控えているマリーは子供達とアクアの会話を耳にして頭を痛めている。

(何、子供みたいなことを言っているのですか? アクア様。

 ……私の教育方針に間違いがあったのでしょうか?)

娘相手に何を言っているのですかとツッコミを入れてお説教でもしようかと考える。

「大丈夫、皆にもそのうち大切な王子様が現れますよ。クロノより格好良いかはわかりませんけどね」

(まあ、出会いこそ突然でしたし、少々鈍い所もありますが優しい方です。

 アクア様の立場からすれば傍に居て守れる人物が理想的ですね。

 そういう意味ではクロノさんはその基準で言えばベストかもしれません)

クリムゾンの令嬢、そして次のクリムゾンを支える存在の一人でもあるのだ。

アクア自身も気を付けているだろうが、警護には万全という言葉はないとマリーは考えている。

(護衛というのはあくまで受身ですから、どうしても初撃を喰らう事があります。

 今回の件も万全とは言えませんでしたが、それなりの対策はしていたのにこの様です)

辛うじて水際で防いだ様なものだった……リチャードが内部情報を洩らさなければもう少しマシだっただろう。

(内通者が出る事はよくあります……今後の対策が必要ですね。

 この子達の安全を守る為に……そしてアクア様がいずれお産みになるお子様の為に)

平和になればアクアは火星でクロノと一緒に暮らして行く。

緊急時にリンクを通じて連絡を取れるのは非常に重要な事だった。

どんな時でも初動が早ければ早いほど防げる確率は高くなり、安全が保障されるのだ。

そして二人の子供は火星とクリムゾンにとって重要なファクターになるだろう。

(火星にとってはS級ジャンパーの可能性を持つ子供。

 クリムゾンにとっては直系の後継候補であり、ボソンジャンプ研究に欠かせない子供であり、

 現存するマシンチャイルドの誰よりも優秀な力を持つ可能性があるナチュラルボーンマシンチャイルド……か)

以前アクアがイネスとマリーにだけ話した事を思い出す。

ダッシュからの警告だが、アクアとイネスの二人は真摯に受け止めている。

(イネスさんも新型のオペレーター用のナノマシンに変更されました。

 火星の住民はナノマシンとの親和性が高いから生まれてくるお子様もかなりの能力を秘めている可能性があります。

 そして火星の住民よりも大量のナノマシンを体内に持っているアクア様ならそれ以上の可能性もある)

ナノマシンの補助ではあるが、自然出産という形で生まれてくるのだ。

受精卵を弄るのではなく、完全に調整された精子と卵子を使用するというリスクの少ない方法だとイネスは結論付けている。

(問題は山積みですね……頭の痛いことばかりですが、アクア様が幸せに暮らす為なら仕方ありません)

マリーにとってアクアは娘であり孫の様なものであり、幼い頃から慈しみ、大切に育て来たのだ。

(娘を守る為なら幾らでも苦労しましょう……それが母親の務めですから)

そんなふうにマリーがこれからの事を考えている脇でアクアと子供達はじゃれ合う様に話している。

「するいよ〜ママ〜〜」

「ダ〜メ、クロノはあげませんよ♪ そのかわりジュールで我慢してね」

「ええ〜〜ダメだよ〜。ジュールお兄ちゃんはルリお姉ちゃんがいるもの〜〜」

「そうだよ。ルリお姉ちゃんが怒ると怖いんだよ」

「そ、そうね。ルリが怒ると不味いわね」

アクアが顔を青くして話すと、三人もコクコクと頷いている。膝詰め談判を思い出したのか、アクアは困った顔でいた。

(やはり王者の風格がルリ様にはあるのでしょうか……正しく血は受け継がれたという訳ですね。

 アクア様ももう少し落ち着きがあれば良いのですが)

ルリがピースランド国王の一人娘という事は聞いている。物覚えの良い非常に教え甲斐のある少女だとマリーは思う。

(久しぶりに育て甲斐のある少女です……何処に出ても恥を掻く事のない立派な姫様にしてみせますよ)

アクアに関してはある人物のおかげで大きく手が掛かる子になってしまった。

(今度こそ、超一流のファーストレディーにしてみせましょう。万難を排して立派なレディーにしてみせますとも。

 そして生まれてくるお子様も立派に育ててみせますよ)

……意外と教育ママの一面を持つマリーであった。



「ん? ルリ姉ちゃん……どうかしたの?」

「いえ、別に何でもありません。寒気がしただけです」

身体を震わせたルリにラピスが聞いてくるとそう答えた。

食堂でルナさんとセレスとラピスを交えてお茶をしていた時に何故か嫌な予感とでも言うべき悪寒を感じただけなのだ。

「風邪でもひいたの?」

ルナさんが私の額に手を当てながら聞いてくる。ここしばらく忙しかったから体調を崩したのか心配になっているみたいだ。

「熱はないけど、気をつけるのよ。疲れた時は遠慮なく言うの、ルリちゃんはまだ子供なんだから」

「子供じゃありません……少女です」

一応、自己主張するがルナさんには通用しない。

「子供でも少女でも私より年下なんだからお姉さんの言う事は聞くように」

この人は少々強引にマイウェイで動く女性だった。無論、私の意思を無視している訳ではない。

私の事を認めた上で話すから困るというか、ちょっと苦手ではあるが好感が持てる人だった。

「ルリお姉ちゃんだけにオペレートさせなくてもいいのにね。

 私とラピスだって出来るのに」

セレスが頬を膨らまして話している。こんな時くらい頼って欲しいと思うのか、不満を身体中に醸し出していた。

「それはダ〜メ。軍は十六歳未満の子供は入れないの……ルリちゃんは特例だけどね」

私がオペレーターになれたのは臨時の措置だったと聞いている。

民間人が軍艦に乗ること自体が問題なのだ。

開戦当初は人手不足でセレス達も戦場に出ていた。

だがある程度、人手が揃い始めた今では不要とは言わないが戦場に出したくないと言う意見が出てきたのだ。

余裕が出て来たからだとシビアに考える者もいるが、子供を戦場に出すのは嫌だと思う者が多いのだ。

そういった意見を組み入れて緊急時以外の私達の協力は求めないようにしたらしい。

その為、本来なら密航してきた時点で強制送還だが、私がオペレーター見習いとして訓練を受ける条件で滞在を許可された。

子供達の精神状態を鑑みて許可したと聞いている。ラピスやセレスの能力を疑問視はしていない。

ただ子供を戦争に参加させるのが嫌だと誰もが思っているだけ。

私にオペレーターをしなくても良いとレイさんが話してくれたけど、それでは不味いと思うので強引に参加したのだ。

我が侭だという事は承知している……それでも力になりたいと思ったのだ。

「まあ、いいけどね。ルリ姉ちゃんはジュール兄と一緒だから楽しいかも知んないけどね〜」

「ラ、ラピス!!」

「ど、どうした「ほ、ほう……なかなか面白い事を言いますね、ラピス」の?」

セレスが地雷を踏んだラピスに注意を促すが時既に遅し、私の声に二人は凍り付いていた。

「私が仕事中にイチャつくと思ったのですか?」

「そ、そんなこと言わないよ〜〜」

「そ、そうだよ! お、お姉ちゃんがそんな無責任な事する訳ないよ」

慌てて話す二人。そうなのだ、ジュールさんは仕事中は無駄口一つ話さない人なのだ。

キッチリと公私の区別をつけるのか?仕事中は神経質なほど周囲の状況を調べている。

「そうね、ジュールは戦場に居るという事を誰よりも理解しているのよ」

「クロノ兄さんもそういう部分がありますね。力を抜く時はきちんと抜いていますけど」

「ジュールはまだ抜き方が下手ね。こればかりは経験がものを言うけどね」

「仕方ないですよ。ジュールさんと兄さんでは絶対的な差があります。

 それをいうのはいけないと思います」

私がフォローするように話すとルナさんは意地悪そうに微笑んでいる。

「な、なんですか?」

その笑みを見た瞬間、思わず失敗したと思ってしまった。

「ふ、ふ〜ん。いやいや、ルリちゃん……もう少し言葉に気を付けないとまる判りになるわよ」

「知りません……あんまり虐めるようならマリーさんに泣きつきますよ」

最終手段とも言える言葉をルナさんに告げるとルナさんは少々引き気味になっている。

セレスとラピスも楽しそうに笑っていたのが逃げ腰に変わっている。

「それは勘弁してマリーさんの説教はちょっとね〜」

「うんうん、マリーのお仕置きはちょっとね〜」

「お尻ペンペンはヤダよね〜」

「マリーさんって躾けには厳しいもんね。礼儀作法に関してはもうそれはそれは厳しいよね」

ルナの意見に三人は頷いて賛成している。礼儀作法に関してマリーは厳しくチェックしていた。

エチケットやマナーを分かり易いように詳しく説明する事は勿論だが、定期的に実践練習もさせているのだ。

「将来、ママと一緒に会食の席に座りたいのなら練習しないといけないんだけど……キツイよね」

「でも必要な事だし、ママとお出かけするにはどうしても覚えておかないと。

 ルリ姉ちゃんが一番チェックを受けているよね……どうしてなんだろう?」

ラピスの疑問に全員が考え込んでしまった。

「もしかしてルリちゃんはアクアさんのお供でそういう場面を迎える事が多くなるのかな?」

「それはどうでしょうか……私を連れて行くよりジュールさんを連れて行く方が便利なのでは?」

ルナが自信なく答えを出してみるとルリが反論する。

「う〜ん……でもさ〜ルリちゃんとアクアさんのペアとクロノさんとジュールのペアが効率が良いと思うけど」

「確かにその組み合わせが良いかもしれませんね。

 姉さんと私の交渉事のコンビ、兄さんとジュールさんの荒事の対処用のコンビか」

交渉の席に私を連れて行く事で相手を油断させる事も可能だ。女子供だと思って油断する人が多いのは事実だ。

(姉さんはそういう隙を逃さない人ですから。そう考えるとマリーさんの方針は姉さんの指示でしょうね。

 私に恥を掻かせない様に……気を遣っているのでしょうか。だとすれば感謝しないと)

姉さんは仕事に関しては無駄な事は一切しない。ただ人をからかう事には如何なる無駄な事でも平気でする人でした。

(そういう点だけは見習わないようにしないと)

「でもルリ姉ちゃんはママと一緒にお出かけ出来るから羨ましいな」

「退屈な席が多いと思いますよ、ラピス」

「それでもママと一緒なら我慢できるし、側に居たいの」

セレスがそう話すとラピスも同じ気持ちなのか、何度も頷いている。

「そっか〜〜二人はお母さんが好きなんだね」

「「うん♪」」

ルナさんが聞くと二人は楽しそうに話していた。

「えっとね〜大きくなったらお父さんのお嫁さんになるの♪」

「私もだよ〜、そしてママと一緒に暮らしていくの」

「「ね〜〜〜♪」」

「いや、それはちょっと……不味いんじゃ」

「「え――――!!? どうして!?」」

二人がいい気分で話していたのを邪魔されて憤慨している。ルナさんもちょっと困った様子で説得しようとしている。

「だって、アクアさんだよ。クロノさんの事に関しては絶対に引いたりしないと思うけど。

 それにイネスさんもいるでしょう……あの二人を相手にするのはどうかと」

「ああ、そうかもしれませんね。姉さんは兄さんの事となると大人気ない人になりますから」

「でしょう、ルリちゃんもそう思うよね」

「むぅ―――敵は強敵だよ、ラピス」

「だけど負けないもん、パパは譲らないから」

セレスとラピスが気合の入った様子で話している。これには私もルナさんも驚いていた。

「血の雨が降らないといいけど……」

ルナさんが心配した様子で考え込み始める。

「でも、ジュール兄はルリお姉ちゃんに譲るから安心してね」

「そうそう、ジュールはいまいち決まらないんだよね。

 詰めが甘いというか、ここ一番で頼りになんないから」

「ほっ、ほう……そんな事言いますか? ではマリーさんに伝えておきましょう。

 二人がこの前マリーさんが用意していたおやつを盗み食いしたことを」

「「ダッ、ダメッ――――!!」」

二人が切羽詰った様子で叫んでいる。それを見ていたルナさんは一言。

「……ルリちゃん、容赦ないわね」

「当然です。サーチアンドデストロイは戦いの基本です。

 そして姉さんはこうも言っていました「隙を見せた者が悪い、その隙をトコトン突いて撃破しなさい」と。

 そしてマリーさんは「躾けは最初の一歩が重要です……どちらが上か、はっきりと示すように」と」

「そ、そう(ホント、ジュールの事になるとルリちゃん……手を抜かないわね)」

「「ル、ルリ(お)姉ちゃんのバカ―――!!

 ジュール兄にフラれちゃえ―――!!」」

セレスとラピスが泣きながら食堂を後にする。

「フッ、虚しい勝利ですね。オモイカネ、マリーさんに連絡しておいて」

『りょ、了解だけど……いいの?』

「そ、そうよ、ルリちゃん。武士の情けって言葉もあるから……許してあげなさい」

「……しょうがないですね、今回はルナさんの顔に免じて我慢しましょう」

「それがいいわ。ルリちゃんもお姉さんなんだから懐の広さをみせてあげないとね」

少々不満だがルナさんの言葉にも一理ある。妹達を泣かした事で許す事にしよう。


(やっば〜〜、本当に気を付けないと。

 でもルリちゃんって意外と嫉妬深いというか、独占欲も結構あるんだ。

 う〜ん、アクアさんも似た所があるから似た者同士なのかな)

ルナはアクアとルリの共通点を発見して、注意しようと思っていた。

「でもさ〜、ルリちゃんってやっぱりジュールの事……気に入っているのね」

「そ、そんな事……ないです」

「ダメダメ〜〜、モロバレてるわよ。でもね、好きだからっていっても甘えすぎちゃダメよ。

 男って奴はす〜ぐ頭に乗るから。それにルリちゃんは意外と独占欲が強いからあんまり締め付けると……逃げるわよ」

その意見にルリは動揺している。そこへルナが更に注意する。

「クロノさんとアクアさんの場合はいいのよ。

 なんて言うのか……クロノさんって鈍いけど意外と包容力ありそうだし、アクアさんにベタ惚れだから。

 普段はアクアさんが押える所はきちんと押えながら甘えてるから……アクアさんって甘え上手だからね。

 でも、ルリちゃんの場合は甘え方がイマイチだと思うのよね。

 ほら、るりちゃんって環境の所為で人に甘える方法を知らなかったでしょう。

 やっとルリちゃんにも甘えられるお姉さんが出来たけど、いざ甘えるとなると恥ずかしがるから……」

ルナの注意にルリは肩を落としている。よく見ると肩が震えていた。

「だって……誰も教えてくれなかったです。気が付いたら独りでいる事に慣れてしまいましたから」

「ったく、本当にふざけた連中ね。子供は道具じゃないのよ……会ったらぶっ飛ばしてやる!

 そういう訳でアクアさん……教えてあげて下さいね」

『ええ、じゃあルリ、こっちへいらっしゃい。

 お姉さんが教えてあげるわ……大切な事をたくさんね』

コミュニケを通じてルナがアクアに会話を送っていた。それを聞いていたアクアは優しく微笑んでルリに来るように話す。

ルリは俯いた状態で食堂を後にする……パタパタと走りながらアクアの元に。


ルリが食堂から出て行くのを確認したルナは後ろで聞いていた二人に、

「そういう訳だからルリちゃんが我が侭言った時は出来るだけ聞いてあげるのよ、ジュール。

 あの子って強そうに見えるけどまだ子供と変わらないから」

特にジュールに警告している。

「分かっているさ……あの子は昔の俺と似てるからな。

 やっと年相応になり始めたところだろう。姉さんや同じ境遇の者がいるからこれから一緒に成長していくのさ。

 すぐには自立は出来ないから当面は頼りになる兄貴分ってスタンスで行く事にするよ」

「それでいいの?」

「いいも悪いもそれがベターだと思う。こんな捻くれた兄貴よりもっといい奴が現れるさ」

別段気にした様子もなく、ジュールは最善の方法だと話しているようだった。

そんなジュールにルナはからかうように話す。

「ふ〜ん……でも、ルリちゃんは捻くれ者のお兄さんがいいって言ったらどうするの?」

「ふむ…………その時はその時に考えるさ」

あっさりと答えるジュールにルナは不満タラタラと言った顔で聞いている。

二人の会話を聞いていたシンはジュールに真剣な顔で聞く。

「……まさかと思うけど、お前ってやっぱり○リなのか?

 もしそうならルリちゃんがヤバイと「たわけが!!」」

真剣に話そうとするシンにジュールは本気で叫んでいた。

その様子を見てルナは大丈夫だと思い、周囲で聞き耳を立ていた者も安堵していた。

ジュールは周囲の視線から自分がそういう趣味の人間と思われてショックを受けている。

(お、俺って……そんなに信用ないわけ……勘弁して)

ジュールの受難の日々は続きそうであり、それだけルリがクルーから大事に思われている事の証明でもあった。


「ルリは将来、ジュールのお嫁さんになるのかな♪」

「な、何を言っているのですか!?」

ルリを膝の上に乗せて抱きしめていたアクアが楽しそうに聞く。

聞かれたルリは顔を真っ赤にして焦っている。

(こんな日々が長く続くと良いわね……もう少し子供のままでいてね、ルリ)

「そう慌てなくてもいいわよ、ルリ。

 時間を掛けて外堀から埋めて逃げられないようにしましょうね」

「そんな方法があるんですか?」

「ええ、幾らでもあるから教えてあげるけど条件があるわ。

 それはね、「相手の気持ちを思いやるですね」……そういうこと♪

 じゃあ、お姉さんが薔薇色の鎖の付け方をレクチャーしてあげるわね♪」

クオーツに稽古をつけてから部屋に戻ったクロノは二人の会話を聞いて、

(フッ、幸せものだな、ジュール。ルリちゃんを幸せにするんだぞ。

 ど、どうしたんだ? 涙が止まらないぞ)

人知れずジュールに降りかかる受難を思い、現実逃避しながら涙していた。


……ジュールの最大の敵は身内かもしれない。

そんなふうに思わせるひとコマであった。










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EFFです。

時系列はゲオルグ事件後の話になります。
後半がぶっ飛びすぎた気もしますがまあ、これはこれで良しとして下さい(爆)
ジュールの災難はまだ続くかもしれません。
まあ、お姫様の寵愛を受ける男の受難と言う事で(核爆)
もしかしたら外伝4でジュールの受難編を書くかもしれないので期待して下さい。
それでは失礼します。





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