僕たちの独立戦争  外伝4
EFF


―――シオンの火星視察記―――


「火星か……思った以上に住みやすくなっていたのだな」

シオンは車から見える光景にそう呟く。

緑地化が進み、市内には多くの緑が存在している。移住先として順調に環境が整い始めていた。

「愚かな事をしてくれたものだ……せっかくの第二の星を失うところだった」

「全くです」

随行しているロベリアは火星を見殺しにしようとした連中に不快感を顕にする。

第一次火星使節団――後にそう呼ばれるメンバーは無事火星に到着し、アクエリアコロニーの連合政府に向かっていた。

「言っておきますが、エドワードを叱るのはいけませんよ」

釘を挿すようにロベリアが言うとシオンは苦笑していた。

公衆の場でそのような事をするほど自分は危ない奴と思われいたのかと考えると苦笑するしかなかった。

「お嬢さんが大事だというのは理解してますが、今のエドワードは火星の初代大統領なんですから」

部下の一人だとは思わないようにとロベリアが忠告する。

「プライベートならまだしも公の場で罵倒しようものなら周囲の者がどう思うか」

「……昔とは何もかも違うのだな」

一抹の寂しさを感じながらシオンはこれから会う人物の事を思い返す。

エドワード・ヒュ−ズ――見所があり、側で鍛え上げて自分の後継者と考えていた青年が立派に成長したのだ。

嬉しい部分と自分から離れていった寂しさがシオンの胸にあった。

「娘の目は節穴ではなかったな」

「どうでしょう……お嬢さんがいたから頑張ったのかもしれませんよ」

からかうようにロベリアが話してくる。

「それはそれで良い。娘を大事に思い……励むのなら悪くはない」

娘の為に奮起するなら文句などないとシオンは言う。

「そうですな(この人はどうしてへそ曲がりな言い方を……この分だと親馬鹿ならぬ孫馬鹿になるんじゃ)」

娘を大事に思っているくせに突き放す言い方をするシオンが孫の顔を見たら間違いなく孫馬鹿になりそうだと思うロベリア。

ややこしい事にならないと良いがと思うロベリアの考えとは裏腹に状況は進んで行く。


「お久しぶりです、先生」

「……立派になったな、エドワード。

 先生など呼んではいかんぞ。お前はもう立派な政治家として此処に居るのだ」

嗜めるようにシオンが忠告する。立場は対等な者なのだ……礼儀は大事だが足元を見られるぞと警告する。

「相変わらず手厳しい意見ですね」

「政治の世界にぬるま湯はない……何時だって真剣勝負だろう」

「そうですね。では、火星はあなた方の来訪を歓迎します。

 ようこそ火星へ、フレスヴェール議員」

「うむ、我々は今の地球の状況を快く思っていない。

 出来る限り早くこの拗れた関係を修復して三国の関係を新たに構築したいと考える。

 その為に我々が政権を手にした時は火星の独立を承認する事を約束しよう」

シオンの宣言にこの場に居る者からどよめきが湧き上がる。

「大盤振舞いをしてよろしいのですか?」

「構わん……第一次火星会戦後から地球は火星に対する責務を放棄したようなものだ。

 火星が独力で生き残った以上はその実力を認めて対等な関係にするべきだろう」

随行している人員は自分達の方に非があると承知しているので文句を言わない。

「今はそれを信じる事にしますよ」

「そうだ、それでいい。政治は結果が全てだ……空手形など安易に信じるのは愚か者のする事だ」

完全に信用していない言い方のエドワードにそれでいいとシオンが告げる。

政治の世界とは甘いものではないと二人は話しているのだ。そういう意味ではこの二人はよく似ているかもしれない。

エドワードもシオンも綺麗事では政治は成り立たないと理解した上で綺麗事を大切にしている。

(やはり似た者同士だな……全く惜しいものだ。こういう男がもっと地球にいれば大丈夫だっただろうに)

側で二人の会話を聞いていたロベリアは今の地球の現状が厳しい事に腹立ちを感じている。

「それではこちらへどうぞ。

 互いの事を理解するのは情報を交換する事から始めないと」

「そうだな、しばらく世話になる」

そう言って二人は歩き出す……新たな未来を構築する為に。


「―――以上が第一次火星会戦後から現在の火星の置かれている状況です」

スクリーンに映る戦艦群にシオン達は驚きの眼差しで見つめている。

「火星宇宙軍は現在ナデシコ級戦艦を用途別に再設計したものを配備しています。

 また、これらよりフィードバックされたデーターより次世代艦の開発も順調に進行しています」

空母を中心とした艦隊だが空母に搭載されている機動兵器は初めて見る機体だった。

「これは火星の主力機動兵器エクスストライカーです。

 我々は相転移エンジンの小型化に成功しました。

 これから開発される機動兵器は全て無限の航続距離を可能とする機体となります」

聞かされた地球側の人間は火星のテクノロジーに驚きを隠せない。

「更に火星宇宙軍は立場上、戦力差を考慮して行動しなければなりません。

 エクスストライカーは対艦攻撃機としてグラビティーブラストの改良品であるグラビティーランチャーを搭載しました。

 これにより単機でも木連の戦艦に対抗できる戦闘力を有する事になります」

「むう……」

ロバートから聞かされていた以上に火星の戦力は充実しているとシオンは考えている。

戦艦よりも小回りが利き、機動力のある戦力は地球側にとっても厄介な存在だった。

(地球で最高の戦闘力があるナデシコでも対抗できるか?

 数があれば対抗できるかもしれんが今は……無いな)

建造中の艦艇が前線に出るまではダメだとシオンは思っている。

素人の自分でも分かるのだ……専門家が知れば、絶対に火星との関係を改善しようと進言するだろう。

だが、自分の目で見ていない連中は報告しても信じないだろう。

火星を格下だと侮っているのだ。そんな認識しかしない連中には何を言っても無駄だとシオンは思っている。

火星から現在の状況が伝えられる中でシオンは自分の立場の重要性を感じていた。

(舵取りを間違うと大変な事態になる……責任重大だな)

何度か休憩を挟んで軍事から始まって火星の内状を正確に伝えられる。

(重要な部分は話していないと思うが来た甲斐はありそうだ)

火星の内状を詳しく知る事が出来て良かったとシオンは思う。

自身の立場を正確に把握して最善の方法を選択できると考えると非常に役立っているのだ。


定刻通りに会議が終わるとエドワードがシオンに聞く。

「どうします、ジェシカに会いますか?」

プライベートの問題だからシオンが止めておこうかと考えていると、

「行って来い……さっさと覚悟を決めて娘と対面しておけ」

ロバートが呆れた様子で告げていた。

「いや、だが……」

「それでは御好意に甘えまして行きましょうか、先生」

ロベリアがシオンの肩を押してエドワードと一緒に歩いて行く。

「お土産も渡さないと」

シオンはロベリアの声に観念したのか、自分から歩き出す。

「ロバート……使節団の方は任せて良いか?」

「構わん、この後は宿泊地に行くだけだ。

 明日の見学に合流すれば文句は言わんよ」

「分かった。礼を言う」

そう言うとシオンはロベリアと共にエドワード邸へと向かう事にする。

娘のジェシカと孫娘のサラに会う為に。


車に乗り込み、エドワード邸に向かう。

「家には他に同居人がいるんですが、今は地球に行ってますので寂しいのかもしれません。

 内気な引っ込み思案なところがありますから」

「……マシンチャイルドの子供達か……ふざけた事をするものだな」

エドワードの説明にシオンがロバートから貰ったサラの写真に写っていた少女を思い出して言う。

「そうですね……時々夜に魘されている時もありました。

 今は落ち着いてよく笑うようになっています。

 サラにとっては大切な友人であり、家族のような存在かもしれません。

 私が忙しくなった所為で寂しい思いをさせるかもと思ったんですが……感謝してます」

コロニーの市長の時も忙しかったが時間はそれなりに融通出来た。

だが、大統領ともなると簡単に時間を割く事も儘ならない日が続く。

ジェシカ一人に任せっきりというのは不味いだろうとエドワードは思っていた。

そういう意味では同い年の子供達が仲良くしてくれるのはありがたかった。

「そうか」

笑顔で写っていた少女を思い出してシオンは孫娘のいる環境が悪いものではないと判断する。

「しかし……人はどこまで馬鹿やれば気が済むのか。

 もう少し自分を省みてもいいと思うが儘ならんな」

「全くです。もう少し地球も冷静に動いてもらわないと」

「それについては私が必ず何とかしてみせよう。

 尤も一から始めるから時間が掛かるかもしれないが」

はっきりとシオンが告げる。このような状況などシオンには看過できるような事態ではない。

自分達、政治家を無視して進めるような事など許されるものではないと考えているのだ。

「それに関しては信じてますよ。自分の意志を曲げるような方ではないと側で見てましたから」

政治家とはかくあるべきだと常々話していたのをエドワードは知っている。

そして無責任な事をするような人物ではないという事も知っているのだ。

「一から再建するから時間は掛かるだろう……出来るだけ引き伸ばすようにして欲しい」

軍事行動は出来る限り控えて欲しいとシオンは告げている。

「そうですね。最終手段を簡単に使う気はありませんが……相手次第ですから」

まだシオンが指導者になっていないので何とも言えないとエドワードが告げる。

エドワード自身は抑える気はあるが議会を完全に掌握するのは難しい。

抑え込めば、当然反発が出るだろう。市民とて地球の事を良くは思っていないのだ。

こちらが弱腰であればあるほど、向こうは嵩に掛かって都合の良い事を言ってくるだろう。

エドワードもそういう事が続けば抑える事はせずに動く事になると考えているのだ。

「ままならんな」

車中の窓から見える火星の街は平穏だった。シオンはこれを壊すような事はしたくないと考える。

エドワードもシオンの心境を考えたのか、これ以上は何も自分からは言わなかった。

静かに車は目的地に走って行く……シオンの娘が待つ家へと。


「あら、今日は早いんです……お父さんにロベリアおじ様?」

エドワードの後ろに居る人物に気付いてジェシカは驚いて見つめている。

「パパ、お帰りなさい……誰?」

ジェシカが驚いて見ている人物が誰なのか知りたくてエドワードに聞くサラ。

シオンは間近で見る孫娘に目を細めて笑みを浮かべている。

「ママのお父さんでサラのお祖父ちゃんとその友人の人だよ」

「……お祖父ちゃん?」

不思議そうにシオンを見つめるサラだが、シオンはお祖父ちゃんと呼ばれた事に感動していた。

「(お祖父ちゃん……心の琴線に触れる響きだな)うむ、シオン・フレスヴェールという」

シオンがサラに顔を向けるとジェシカの背に隠れるようにして二人を見ている。

「……サラ・ヒューズです」

「お嬢さんの小さい頃に似てますな、私はロベリア、ロベリア・ザイツェフと申します。

 おっと、これは先生からのプレゼントですが……いいですか?」

「いいですよ」

ジェシカに一言聞き、許可を貰ってからロベリアは地球土産をサラに見せて渡す。

「えっと……ありがとうお祖父ちゃん」

おずおずと受け取ったサラはそれだけ話すと逃げるように部屋へと走って行く。

「……もう少し社交的になって欲しいんですけど」

内気過ぎる娘に困ったものだとジェシカは話している。

「母親の顔になったものだな」

シオンが娘が母親としている事に少し寂しそうにしている。

「何時までも子供のままでいられませんよ、お父さん」

二人の間に蟠りはない。ジェシカは父親が不器用な人だと知っている。

その気になれば幾らでも自分達を引き離す事が出来た。

だがそういう行為は一度もなく、父と娘という関係さえ断ち切ったように振舞っていたのだ。

夫であるエドワードの仕事にも妨害や嫌がらせのような行為は一切しなかった。

「さあ、どうぞ。今日は腕によりをかけてご馳走しますから」

「うむ、お邪魔するぞ」

「それではお邪魔します」

二人はジェシカの言葉に従って家に入る。


「お母さん、これもテーブルに置くの?」

「ええ、お願いね」

「うん」

お客さんが来たのでサラはジェシカの手伝いをしている。

「火星の野菜はあまり品質が良くないと聞いていたがそうでもなさそうだな」

「年々品質は向上してますよ。土壌が悪いのであれば土壌を使わない方法もありますから」

「水栽培方式ですか……それでも出来る物と出来ない物がありそうですな」

「土壌の向上も始まってますが……時間は掛かるでしょうね」

「そうだな……一朝一夕で出来る様なものではないな」

「ええ、予算を組んで長期的な視野で結果を出すようなものです。

 目に見えるような答えはすぐに出ないのが問題ですけど」

「しょうがなかろう……だが結果を求める連中が多いのは困ったものだが」

三人はその様子を見ながらテーブルの上の料理を見て会話している。

「もう、こんな時くらい政治の話はよして下さい。

 エドもお父さんもおじ様もサラが会話に入れないじゃないですか」

ひとり会話に入れずに寂しそうにエドワードを見つめるサラ。

「ごめん、ごめん。

 そうだな、じゃあ地球の四季の話でもするか」

「……四季?」

「地球には冬という季節があって雪というのが降るんだ」

「……よく分んない」

「寒い時期に降る雨の代わりだな。白い粉の様な粒が落ちてくるのだ。

 手に乗ると融けて水になるな」

エドワードとサラの会話にシオンが入ってくる。

「音もなく降ってきて、一晩で景色を白く染めるぞ。

 そうだな、銀世界に変わるな。

 日の光を反射して明るく輝く事もあるぞ」

シオンの説明にサラは興味津々と言った顔で聞いている。

「氷の粒だから冷たいけど自分の手で形を整える事も出来る。

 わしも小さい時はこんな大きな雪ダルマを作った事もあったな」

身振り手振りを交えて話すシオンにサラは目を輝かせて聞いている。

「他にも色々あるぞ……夏には海水浴も出来る。

 お祖父ちゃんが平和にするから、そのうちお友達と一緒に遊びに来るといい」

「うん、海って見た事ないから」

「それじゃあ、お話はそれまでにして食べましょうか?

 サラ、お話は食べた後でまたしましょうね」

「は〜い」

ジェシカの声を聞いてサラは自分の席に座る。

五人は食事を始める。ジェシカがサラに今日は何があったか聞いてくる。

サラは今日一日あった事を楽しそうに話す。

シオンはその様子に笑みを浮かべて、子供の視点から見た火星の日常を聞いている。

和やかに食事を終えるとシオンの元にサラが来て、地球の事を聞いてくる。

シオンはサラが興味を惹きそうな内容を考えて話している。


「あらあら、疲れて寝ちゃいましたか」

シオンの膝を枕にしてサラが眠っている。

「……テンカワファイルは読んだ。この子を犠牲にさせるような真似はさせん」

「信じてますよ、お父さん」

サラを抱き上げて、ジェシカは部屋に連れて行く。

「複雑な問題ですから舵取りが大変ですよ」

エドワードがボソンジャンプをどう扱うかという問題に苦心していると告げている。

「平和になると民間で使用したいと言うからどの程度まで許可を出すか……判断に迷いますね」

戦時下であるから政府で管理できる。

だが、戦争が終結すれば政府が管理するという事には変わらないが、ある程度の規制は緩和しないと不味いと考える。

緩和する基準の設定に悩みそうだとエドワードは言う。

「流通事情が一気に変わるだろう……慎重な対応が必要だな」

シオンも火星に来た時にその事を痛感している。空母に乗り込んで10分も掛からずに火星に到着する。

宇宙船で地球―火星間が一月という常識が崩れたのだ。随行している人員も声が出なかった。

「運輸を扱う企業は火星との契約をしたがるだろう……コストを下げるという考えは常識だ」

経済の専門家ではないシオンでさえ気付く事なのだ……企業が飛び付くのは当然の事になるだろう。

「先生の言う通りですよ。地球の資源は粗方取りましたので、今は宇宙から持ち込んでいるような状態です。

 火星に子会社を設立して其処で大量に生産して輸送するという考えは一気に進むのではないかと考えますよ」

まだ枯渇はしていないが、鉱物資源に関しては月や火星から持ち込む常識に変わりつつあった。

火星からの供給は今はクリムゾンが極秘で行っている状態である。一般の企業は月を中心にしているのだ。

どの企業も月の重要性を再確認しているところであるが、月が陥落した時の為に備蓄を集めようとしている会社もあった。

「戦争が長引くと企業から苦情が殺到するだろうな。

 一般市民も資源の値上げによる家電製品などの値上げはノーと叫ぶか」

しわ寄せは全部市民に返る。当然市民はこの戦争を始めた政府を非難するだろう。

「ロバート会長が情報操作しそうですし、連合の体質の改善は必至ですね。

 この分だとしばらく忙しくなりそうです」

やれやれといった感じでロベリアが苦笑している。

クリムゾンは連合の体質の改善を考えて行動する予定だとロバートが話していた。

何れ市民の意識を停戦から和平に向かわせるように情報操作を進める予定だと告げている。

シオン達もそれに便乗して先の読めない連中を排除する予定だった。

「もう、お父さんもエドもちょっと眼を離すと政治の話ばかりする」

サラを寝かしつけてきたジェシカが怒った顔で二人に文句を言う。

「久しぶりに会ったんですから、別の話をすれば良いのに」

骨の髄まで政治家なのと言わんばかりに二人を睨んでいる。

「おじ様も笑ってないで注意して下さい」

我関せずといった雰囲気で二人を見ていたロベリアにもジェシカは怒っていた。


三人はジェシカに謝り、話題を変える。

「しかし……少々内気過ぎないかサラは」

「仕方ないですよ、この家に来る人は大人の人が多いですから」

シオンの心配する声にジェシカがどうしようもないと言った感じで答える。

自分には理解できないような話ばかりする大人が多いから引っ込み思案になってしまうとジェシカは考えている。

「学校ではそうでもないと聞いているんですが、エドの仕事の関係でどうしてもご家族の方は遠慮するんでしょうね」

VIP扱いになるのだろう……大人が遠慮するように動けば、子供もどうしても同じようにしてしまう。

サラはまだ気付いていないが、サラ自身にも警護の人員が存在している。

コロニー内においてはオモイカネシリーズがサラのような政治家の子供達の安全に気を配っている。

狙われる対象として子供が一番危険なのだと誰もが知っているのだ。

ボソンジャンプを知っている者は子供の安全に気を配り、地域別に政府以外のマニュアルを作成して意見交換している。

学校も子供達には注意するように呼びかけている。

防止策の一環として刑法も誘拐に関しては重く罰せられるように変更されていた。

「もうしばらくしたら帰って来るのでそう心配はしてませんけどね」

「……同居していたのだな、IFS強化体質の子供達と」

「ええ、みんな可愛らしい元気な子供達ですよ。

 うちとしても仲良く遊んでくれますから助かってます」

姉妹のように側にいるというのはありがたいとジェシカは思っている。

一人っ子で寂しい思いをせずにいるのは感謝しているし、友達が増えている事も良い事だと感じている。

(その分、苦労もしているけど……まあ、その点はしょうがないかな)

優良株を押さえた様なものだとジェシカは考えている。

女の子に甘いという欠点はあるがクオーツは素直で優しい子供だった。

子供は親の背中を見て育つという……クロノもアクアも厳しくも優しい人物だとジェシカは思っている。

甘やかすだけの人ではない。時には厳しく注意する事もあり、きちんと向き合って話す事の重要性を理解している。

(躾けに関してはマリーさんがきっちりしているわ。

 うちとしても大助かりね)

一緒に教えてくれるのは非常に感謝している。サラ自身は望まなくても政治家の娘として見られる事は多々あるのだ。

そういう席で恥を掻く心配はなくなるだろうと思っている。

「……悪い虫が付かないといいんだが」

「何を言っているんですか、お父さん。

 言っておきますが、サラに相応しい人物はわしが見つけるなんて言ったら嫌われますよ」

ジェシカに釘を刺されたシオンは黙り込んでいる。

ロベリアはやれやれと肩を竦め、エドワードも困った顔で二人を見ている。

まあ、そんな感じで夜は更けていく。


翌日からシオンはエドワード邸から火星の視察を行うよう滞在場所の変更がなされていた。

これはロバートの配慮であり、内密で話す事もあるだろうと誰もが思っていたからであった。

一週間の視察を終えて地球に帰還する時、サラはシオンに泣くのを堪える様にしてまた来てねと話す。

シオンは今にも泣き出しそうなサラの頭を撫でて、また来ると告げる。

「先生、これから忙しくなりますね」

「ああ、こちらの課題は山ほどある……忙しくなる」

「サラちゃん……いい子でしたね」

「今度は失敗はしない……わしが見込んだ男に嫁がせてみせるぞ」

「……なに言ってんですか?」

ロベリアが呆れを含んだ目で見ている。聞いていたロバートも困ったものだと思っている。

孫可愛さに暴走気味の感のあるシオンに二人はどうしたものかと考えている。

だが、既にシオンの思惑は破綻している。

何故ならサラはクオーツにぞっこんだったからだ。


第一次火星視察団は無事帰還する。

これから地球と火星、木連の関係を改善する為に動き出すだろう。

だが、その事を知る者は地球では僅かであった。









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どうもEFFです。

時期的には六十八話の火星使節団の一部ですね。
結構書くのに苦労しました。
シオンの目から見た火星を書いてみたんですが……結局、なんか中途半端な気がしています(汗ッ)
まあ、ツッコミはなしという事でご容赦を。

それではまた本編でお会いしましょう。
追記として次の外伝はギャグになる可能性が高いです。




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