どんより濁った灰色の雲が世界を覆っている。
粉雪が降り積もり、街を白く染めて、公園をどことなく静かな空気を纏わせている。
私の最期にはお似合いの空の色かもしれない。
自身の名をを忘れ、人の欲望のままに幾多の血を流し続けてきた魔導書「闇の書」の最期には相応しいかもしれない。
今までの主達も最期は褒められたものじゃなく、私もそうなるだろうと思っていた。
ただ……最後の最後で心優しい主を得られたのは本当に運が良かった。
それだけで十分だ……もし心残りがあるとすれば、この先に主はやての力になれない事だけだった。
幸いにも守護騎士たちは主の元に残せるので不安はない。

「始めましょうか……」

立ち会ってくれる二人の少女に声をかける。
どちらの少女も魔導師としての才能は主はやてに勝るとも劣らず……そして心優しい。
彼女らが主はやての側にいるのなら大丈夫だ。

「本当に良いんですか?」
「他に方法もない」

一度は敵対したというのに私のことを思って悲しんでくれる少女……高町なのはにフェイト・テスタロッサ。
彼女らが主の側に友人として居てくれるのなら間違いを犯す事もない。

「……シグナム、後のことは任せた」
「ああ、主のことは最後まで守り抜いてみせる」

烈火の将たるシグナムの言葉に嘘偽りはない。
彼女らが居る限り、主はやての身は最後まで守られ続けるだろう。
もう迷う事もなく、終わりを迎えられることが出来る。

「さて、そろそろ始めよう。これ以上、話していると未練が出来てしまう」

魔方陣を展開して、自身の消去を開始しようとした時、

「リィンフォース!! みんな!!」

泣きそうな顔で私を引き止めようとする主はやてがこの場に現れた。
ここまで一生懸命に車椅子を動かしてきたのだろう……息を乱しておられた。

「破壊なんてせんでもええ! 私がちゃんと抑える!!」
「主はやて……もういいのです」
「私が主なんやから話を聞いて」

私のために悲しんでくれる主はやてを見ていると未練が出てしまう。
しかし、それは許されない。
防御プログラムの暴走を止める事は誰にも出来ない。

「お願いやから話を聞いて!」
「随分と永い事彷徨っていましたが……最後の最後に素晴らしい主と出会えました」
最後なんて言わんといて! これから、みん なと一緒に」

主はやてに泣かれるのは困る。
私は最後まで主を困らせるダメな魔導書だと思うと苦笑するしかない。

「私は主のおかげで綺麗な名前と心を頂けました。
それだけで十分です。私は笑って逝きます」

私を繋ぎ止めようと駆け寄って車椅子ごと転ぶ主はやて。
慌てて助け起こそうとする守護騎士となのは、フェイトを止めて、主の元に近寄る。
本当に最後まで私の身を案じてくれる優しさに感謝する。

「もしよろしければ、私の名を次のデバイスに与えてください。
私の思いと魂は必ずその子に宿ります」

最後のわがままを告げて、魔法陣の中心に戻る。
儀式が始まり、身体を構成するプログラムが少しずつ消えて行く。

「主はやて、守護騎士たち、そして小さな勇者たち……ありがとう」

崩れていく身体。まもなく死ぬというのに、心は落ち着いて揺らぐことはない。
何故なら本当に心残りはない……この結果に満足している。

「……さようなら

皆に祝福がありますように……消えていく者が最後に願う事としてはありきたりのものかもしれないが。


この日、闇の書と恐れられていた魔導書がこの世界から消滅した。

二人の少女と四体の守護騎士が見届け、一人の少女に最期を看取られながら。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 一時間目
By EFF







深夜零時を過ぎて、日付が変わった麻帆良学園。
漆黒のドレスに身を包んで夜を闊歩するエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはちょうど夜間巡回の途中で異変に気付いた。

「これは一体?」
「マスター、世界樹から膨大な魔力が検出されています」

自身のパートナーである絡繰 茶々丸(からくり ちゃちゃまる)からの報告に顔を顰めている。
この地にある巨大な大樹から突然膨大な魔力が放出されていく事態など想定外の事だ。
学園長のじじいが言うには何年かごとに魔力を放出することがあるがそれは定期的に起こる現象と聞いている。

「……何が起きているか分かるか?」
「正直、判断できません…………いえ、何者かが転移による侵入でしょうか?」

茶々丸のセンサーが急遽捉えたのは世界樹の上空に人らしき反応が検出されたのだ。

「随分と派手な奴だな」

こんな派手な侵入を行う人物にエヴァは呆れた感じだった。
目立ち過ぎるとしか言い様がなく、周囲に巡回している魔法使いたちにも気付かれてしまうなど無駄だらけだと判断していた。

「……どちらにしても、この時間は私の管轄か」
「はい、マスター」

一応ローテーションを組んで巡回は行われている。
しかもこの時間は自分の持ち場である以上、面倒だがやるしかない。
ゆっくりと降下してくる光の球体の落下地点へと二人は駆け出す。

「マスター」
「なんだ?」
「一部訂正します。世界樹が魔力を放出している様子ではなさそうです」
「……みたいだな」

茶々丸の指摘がある前にエヴァは状況を把握している。
世界樹ではなく、目の前に落ちてくる球体からの魔力に自分達は反応したみたいだった。
偶々世界樹の側に出現した所為で勘違いしたのだ。

「あの男以上だな」

苦々しい顔でエヴァは呟く。
登校地獄というふざけた呪いで自分をこの地に縛り付けたナギ・スプリングフィールド。
吸血鬼としての力は封じられ、いい様に扱き使われる今の状況にエヴァは納得しているわけではない。

(この侵入者の魔力を使えば……自由になれるかもな)

三年ごとに自分は忘れ去られていく今の環境にエヴァはうんざりとしていた。
籠の中の鳥などという不本意な状況から抜け出したい。
……その為には如何なる犠牲があっても構わないと思うようになっている。
もう一度逢いたいと思っていた男はもう居ないので、他人がどうなろうと知った事ではない。
そんなふうに湧き上がる暗い感情にエヴァは流されそうだった。



舞い降りてきた人物をどう扱うかエヴァは迷っていた。
銀色の腰まで届きそうな髪を持ち、見掛けだけで判断するなら中学生くらいの少女が目の前に倒れている。
顔を見ると目元は濡れており……泣いていたのではないかと考えられる。
自分は悪の魔法使いなどと言っているが、女子供に手を掛けた事はないエヴァはどうしたものかと悩んでいる。

「じじいに引き渡すべきか……それとも」
「マスター?」

気を失い、意識のない少女を学園長に渡しても碌な事にはならないとエヴァは考える。
どうせ都合のいい様に扱うか、遊び感覚で新たな波紋を巻き起こすようにするに決まっているとエヴァは思っていた。
学園長、近衛近右衛門(このえ このえもん)に対するエヴァの信用度は非常に低かったのだ。

「茶々丸」
「はい」
「こいつを私の家に連れて行け。客人として扱うように」
「承知しました、マスター」

エヴァの指示に従って、茶々丸は少女を抱き上げて連れて行く。
ちょうど茶々丸がエヴァの視界から消えた頃に高畑・T・タカミチが姿を見せる。

「やあ」
「なんだ? 状況なら見ての通りだ」
「侵入者は?」
「あれは侵入者とは言えん。意識のない状態で無理矢理飛ばされ来たようなものだ」
「……そうか」
「しばらく私が保護して監視するとじじいに伝えろ」

とりあえず監視という名目で自分の手元に置くことにする。
こう告げておけば当面はあれこれ言われる事はないし、若干の時間的猶予を得ることも出来る。
その間に件の人物の協力を得て、呪いに対する解呪を模索すればいいとエヴァは考えていた。

「じじいの事だから、またくだらん事をやりかねないからな」
「……分かった。お任せするよ」

学園長に振り回された経験があるタカミチはエヴァの意見に文句を言う気はなかった。

「他の連中も振り回されるのはゴメンだろう?」
「……そうだろうね」
「事情が判明したら報告する。それまでは余計なちょっかいをさせないようにしろ」
「ふぅ……信用してないのかい?」
「信用できるとでも?」
「いや、まあ…………すまない」
「ふん」

若干の間を置いてからタカミチが苦笑しながら返事をする。
やはりタカミチもエヴァ同様に学園長への信用度は低いみたいだった。
日頃の行いが如何に重要か……よく分かる瞬間だった。





客室のベッドに寝かせて、茶々丸は監視のために部屋に待機する。
エヴァは客人扱いと言っていたが、茶々丸はまだ安全の保障が出来ていない状況で自宅に置くのはどうかと考えていた。
自身のマスターであるエヴァは信頼している。
しかし、本来の力を封じられた状況では大丈夫だと言われても心配になってしまう。

「……主はやて…………」

少女の呟きを茶々丸の集音センサーが捉える。

「……泣かないで……これで……良いんです」
(誰かの従者でしょうか?)

主と言う以上は彼女は自分と同じように"魔法使いの従者(ミニステル・マギ)"だったのではないかと想像する。
悲しいという表情ではなく、何処か満足した様子で呟く声に警戒する必要はないのかもと思う。
悪意は感じられない……純粋にマスターの事を思う人物であるならばと。

「すべては目を覚ましてからですね……私の憂いが杞憂である事を願いますよ」

マスターを大切に思う気持ちは自分にもある。
機械仕掛けの冷たい身体でも、ただプログラムかも知れないが、それでも今の自分があるのはマスターのおかげなのだ。

(全てはマスターのために)

眠る少女のように自分の役目だけは必ず全うすると茶々丸は決意していた。






深く沈んでいた意識が浮かび上がる。

(…………手違いでもあったのか?)

消えて行く筈だったのに……何故、目覚めようとする。

「……ここは?……これは一体?」

自身の身体の異常性を認識する。
プログラムによって魔力で構成されていたはずの身体が……人と同じ構成パターンで再生されている。

(防御プログラムは消失。いや、切り捨てられて……完全に個体として確立しているなんて)

老いる事のない身体が、寿命を持つ生命体に変わったなど……異常すぎた。

(しかも魔力レベル……Sだと、これではまるで主はやてと変わらないではないか?)

もしや主はやての身体を奪って生き延びたのかと考えてしまったが……違うみたいだ。

(主はやてのリンカーコアを模した……蒐集機能が勝手に動いたのか?)

数多のリンカーコアを蒐集する事でその力を強化してきた"闇の書"
永い時を経て、その機能を幾つも書き換えられた所為でおかしなプログラムでも出来たのかと邪推する。

(座標探査…………おかしい……この世界は……全く知らない)

全く別の次元に跳ばされたとしか判断できない。
原因不明でしかも元の座標が見つからない。

(平行世界にでも跳んだのか?)

再び主はやての元に帰り、お仕え出来るかと思ったが……どうやらそう甘くはないようだ。

「……未練だな。どうして……私は……消えなかったのだ」

生き汚く……死に損なったという思いがこの身に溢れていく。
また運命に踊らされるのかと思うと……嘆きたくなった。



茶々丸の集音センサーが微かな声を拾う。

「マスター、目を覚まされた様子です」
「そうか」

自宅のリビングでティータイムとしゃれ込んでいたエヴァに報告する。

「とりあえず状況の説明と行くか」
「はい」

椅子から立ち上がり、歩き出すエヴァの背後に控えて、部屋へと向かった。



コンコンとドアを叩く音に気付く。

「入るぞ」
「誰だ?」

主はやてとそう変わらなさそうな年頃の少女とロボットらしい従者が部屋に入ってくる。

「とりあえず状況の説明がしたいが構わんな」
「……承知した」

年齢よりもはるかに重みのある声に見掛け通りの歳ではないのかと考える。
そんなふうに思っていた時に背後に控えていたロボットが説明を開始する。

「昨夜、この麻帆良学園都市に膨大な魔力が発生しました。
そこでこの都市の警備を担当する私達が現場に急行し、貴女を保護いたしました」
「で、何があったのか……説明できそうか?」
「自分にも判断できない点が幾つもある」
「ふむ。とりあえず推論でも構わんが」

そう言われては答えないわけにも行かないだろうと判断し、自身に起きた事を告げる。

「……ベルカ式にミッドチルダ式ねぇ?」
「人に転生ですか?」

金髪の真祖の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは何とも言えない様な複雑な顔付きでいる。
ガイノイド、絡繰茶々丸は表情こそ変わっていないが途惑っているみたいにも見える。

「広い場所に変えてから、ベルカ式でもミッドチルダ式でも良いから魔法を見せられるか?」
「構わない」
「マスター、今すぐでなくもう少し時間を置いてからの方が良くありませんか?」
「……確かにそうだな。茶々丸、食事の用意を」
「承知しました」

そう告げると二人は部屋から出て行く。
このまま、去っても問題はないかもしれないが、一応助けて貰ったかもしれない以上は逃げ出すのは不味かろうと判断する。

「異世界……いや平行世界に落ちたのか」

自分が何故ここに存在しているかは全く理解できない。
この世界で自分は何をするべきなのか……今後の事をきちんと考えなければならない。

(同じ事を繰り返して……誰かを不幸にするわけには行かない)

二度と誰かを悲しませるわけには行かないと私は決意していた。




正直、どう扱うべきかエヴァは決めかねていた。
異世界からやって来たと言われても証明出来るわけがない。
魔法科学という文明があったいうのもちょっと信じにくい。
魔法と科学のミックスなど、おそらくこの地にしかない筈なのだ。

「茶々丸はどう判断する?」

そう自分のパートナーであるガイノイドがおそらく魔法と最先端の科学のミックスされた成功例なのだ。

「体温、脈拍をチェックしていましたが変化はありませんでした。
その点を考慮すれば……虚偽発言ではないと」
「……そうか。ますます判断に苦労しそうだな」

嘘発見器みたいに少女の状態をチェックさせていたのに何ら変化はないと言われた。

「とりあえず食事を用意してやれ。
その後で体調が万全の状態で下の別荘で異世界の魔法とやらを見てみるか」
「分かりました」

判断材料が少ないのなら増やすのが一番無難な線とエヴァは判断する。

「じじいを出し抜けるチャンスになれば……」
「マスター……彼女を利用するおつもりなのですか?」
「……さあな」

言葉を濁しているが、自分のマスターは今の状況を快く思っていないのは知っている。

(余計なトラブルが起きなければ良いのですが)

エヴァが先に手を出した場合、自分はどうすれば良いのか?
正直、彼女の話を聞く限りは誠実な人物だと考えているし、主のために死を選んだと聞かされたので……敬意を払いたいと思う。
茶々丸は複雑な気持ちで食事の用意を行っていた。




翌日、場所を移して私が使う魔法の調査を行う。

「申し訳ないが今の私にはそれほど多くの魔法を使うことが出来ない。
いや、使えない訳ではないが……デバイスを作成しないと手間が掛かる」
「デバイス? 何だそれは?」

空間を歪めて作られたような広大な城の一画でエヴァンジェリンに告げる。
エヴァンジェリンは意味が分からなかったのか、怪訝そうな顔で問い掛けてくる。

「魔導師が使用する武器兼サポート用のシステムだな。
大まかに分けて四つに分類される。
一つはインテリジェントデバイス、人格を持ち魔導師のサポートを行うデバイス。
一つはストレージデバイス、人格を持たないサポート用のデバイス。
一つはブーストデバイス、対象となる魔導師の力を増幅するデバイス。
一つはアームドデバイス、文字通り魔導師の武具となり、戦闘でその力を発揮するデバイス。
後は特殊なデバイスとしてユニゾンデバイスがある。
これは魔導師と融合する事で内部からサポートを行うのが主目的だ。
しかし高性能ゆえに誰もが使えるような都合のいいデバイスじゃないのが欠点だな」
「ほう、ではそれがなければ何も出来ないということか?」

感心しながらも侮るような言い方をされて反論する。

「そうではない。手順を省かなければ使える。
単純に言えば、デバイスは呪文を唱えるのも行うので戦闘時に於ける高速化に繋がるだけだ」
「無詠唱魔法か……便利なものだな」
「個人的には早めに作っておきたいというのが本音だ。
平和な時間というのは次の戦闘のための準備期間だと私は思っているのでな」

異世界に来た以上、何が起きるか分からない。
その為の備えは必要だと私は考えている。

「私は最後の主に出会うまで人の醜い欲望に踊らされ続けた。
持ちつ持たれつならともかく……利用されるのだけは耐え難い。
貴女が何らかの理由で私を利用しようというのならきちんとした説明を求める。
その上で判断して協力するかどうかを決めさせてもらう」
「なるほど……それは尤もな意見だな」
「今回、私の世界で使われていた魔法を見せるのは部屋を借りて、世話になっているからだ」
「等価交換、理由としては十分だ。では見せてもらおうか、異世界の魔法をな」
「承知した」

海が見えるバルコニーで魔法の試射を行う。
どうやら蒐集した記録が私の記憶の中に残っていたので納得できるものが見せられると思う。

「来よ 白銀の風 天よりそそぐ矢羽となれ  フレースヴェ ルグ!

右手をかざし、足元にベルカ式の魔方陣を展開して呪文を唱え、高密度に集束した魔力弾を解き放つ。
超長距離砲撃魔法フレースヴェルグ――大出力時は複数の弾を一気に発射、着弾(目標)地点から周囲を巻き込んで炸裂、一定範囲を完全粉砕する魔法。今回は 一発だけだが、その威力は十分だと考える。
着弾して吹き上がる水柱と大気を震わせる衝撃波を感じて、その威力に満足する。
私自身が使用する砲撃魔法の中で高威力の魔法を見せてみると、エヴァンジェリンは複雑な表情で呟く。

「……威力があり過ぎだ」
「そうなのか? デバイスがあれば、フレースヴェルグの一言で可能だぞ。
デバイスが呪文詠唱と魔力のチャージをサポートしてくれるからな」
「本当に便利な道具だな」
「魔法を一つの技術体系として定着させた所為でしょうか?」
「使う時は威力を抑えて使用しろ……そのまま使えば、悪い意味で目立ち過ぎるぞ」
「……承知した」

誰かに利用されるという意味合いを込めての忠告を素直に受け止める。

「今のは砲撃魔法として分類されるものだ。
他には広域攻撃魔法、射撃魔法、近接魔法、そして様々な分野で区別されてある」
「なるほど体系付けている以上、攻撃、防御、補助、回復というように分類別があるのは当然のことか」
「出来れば、違いを知るためにこの世界の魔法というものが見たいのだが」
「すまんがそれは出来ん。私は呪いによって魔力を封じられている。
他の魔法使いのを見せてやっても良いが……貴様の力を他の誰かに見せるべきか悩んでいる」

そう前置きしてエヴァンジェリンは自身の過去を私に話す。

「――――そんなわけで自業自得かもしれんが今の私は籠の中の鳥のようなものだ」
「……随分といい加減な魔法使いもいるものですね」

思わず呆れるしかなかった。
呪いを掛けておきながら、解呪方法を残さずに放り出すとは……この世界の魔法使いというのは後先考えない無責任でいい加減な連中なのかと考えてしまう。
そんな輩ばかりでは色々面倒な事が起きそうな気がしてならない。
私の知っている魔法科学を利用しようという連中が出てくる可能性が高く……また人の醜さを見るのかと思うと辟易する。

「私個人としては解呪の協力を要請したい。
個人的な伝手になるがデバイスの作成の協力を友人に頼んでもいい」
「ふむ……」

デバイスを作る場所が得られるのはありがたいと思う。
しかし、異世界の科学技術をおいそれと見せて良いのか判断に苦しむ。
聞く限りでは魔法というものは秘匿されているみたいだし、安易に見せることで魔法使い達を刺激して敵対するのは面倒事になりかねない。

「魔法を表に出しても良いのか?」
「出したところで意味はないさ。
お前さんのいた世界とこの世界では条件が違うからな」
「そうでもないと思うが、魔法はあくまで個人の能力に左右される。
当然、格差というものがそこには存在する事は言うまでもない」
「なるほど、その点はどこの世界でも変わらないということか?」
「そうだ。優れた技術として体系付けられているが、人の欲望の醜さは変わらん」
「く、くく、どこの世界にも悪の魔法使いというのは居るもんだな」

エヴァと思いが重なって互いに苦笑する。
彼女は自身を悪と断定し、それらしく振舞っていたが為に……罪人の如くこの地に縛り付けられている。
私も欲望に塗れた魔導師達にいい様に使われて……『闇の書』などと恐れられた結果、流刑とも言えるような状況に陥っている。

「……悪人は悪人らしく、好き勝手に振舞うべきか?」
「今更、綺麗事を言っても誰も信じんよ。お前さんを知る者はこの世界には居ないから大丈夫かもしれんがな」

自嘲めいた笑みを浮かべるエヴァンジェリンを見ながら今後の事を考える。
エヴァンジェリンの様子からこの学園の長はかなり愉快な性格をしているみたいだ。
信用できるかどうか……判断し難い。

「前途は厳しいものがありそうだな」
「断言しても良いぞ。あのじじいは間違いなくお前を利用する。
生活に必要な場所、金を提供する代わりにこの街の警護を依頼して扱き使うな」

行き場がない以上はそれも構わないかと思うが、愉快犯を相手にするような状況は正直面白くない。

「何処に行っても……振り回されるのか?」

思わず天を見上げて唸ってしまう。

「嫌になったら、出て行けば良いさ。
まあ、その際にはこの身を縛る呪いを解放してくれる助かるがな」
「……等価交換で良ければな」

肩を竦めて話すエヴァンジェリン。
条件としては、それで十分だと思う。
彼女のように自分を悪だと言う存在は嫌いではない。
かつて自分と契約していた主達は欲望のままに他者を害し、自分達は間違っていない、正しいのだと傲慢に告げていた。
そういう意味では自身を悪だと告げていながらも、女子供を手に掛けていないだけエヴァンジェリンの方がはるかにマシだった。
差し出されたエヴァンジェリンの手を握り、契約の証とする。


時は2002年四月 本編の主人公?になると思われるネギ・スプリングフィールドの来日する前の出来事だった。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

いよいよ新作を出す事になりました。
しかもネギまというまだ完結してない原作からの二次というチャレンジです。
更にクロスという無謀極まりない暴挙をしてます……大バカ野郎かも(大核爆)

予定では隔週で行きますので次回は来週です。
構想では20巻のウェールズに向かうまでか、そこから完全なオリジナルにするか、どちらかまだ決めかねています。
ウェールズで第一部完で、その後、ネギまが完結した後に第二部を書くのがベターかなと今は思ってますが。

それでは次回も楽しみして頂けたら嬉しいです。


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