草木がなく、吹き荒び痩せた大地に私は立っている。
人跡未踏という言葉がピッタリで今にも雨が降りそうな暗雲が立ち込めていた。
空間転移で人が生息していない惑星での訓練を行う事にした。
管理局がある座標が判らないので帰還できないと知ってから空間転移はしたくなかった。
しかし、とある事情からこの地でしか魔法の訓練ができない以上……やるしかない。

「……修行は厳しいぞ」
「……当然ネ」

私の後ろにはバトルジャケットを装着した超 鈴音が立っている。
インナーのスーツを着て、サイドに大きくスリットが入ったチャイナドレス風のジャケットを羽織り、手甲型のインテリジェントデバイスを装備している。
こちらに来て、二番目に作ったインテリジェントデバイス――フレイムロード。
本来は剣状にする筈だったが、超が北派少林拳を用いた格闘戦を得意とするために設計を変更して作り直した。

「私が知る魔法とは別物だたヨ」
「……後悔しないのか?」
「……しないネ。全てを懸けて、ここまで来たネ」

超の目的は聞いたし、その危険性も全部話して翻意を促してみたが……頑固というか諦める素振りさえない。
あれは覚悟を決めた人間だと知った以上は言葉ではなく、力尽くで止めさせるしかない。
だが、私は止めようとは思わないので……味方として協力しようと決めた。
負け戦になるかも知れないのに、それでも一縷の望みを懸けて足掻く人物は嫌いじゃない。
ならば、友人として私に出来る事をしようと思う。


生きる事は戦いだ。


奇麗事など所詮現実の醜さを理解しない甘ちゃんのセリフだ。


正々堂々戦うのが悪いわけではない。


だが、弱者が手段を選べるような戦いなど……無いのだ。


肉体年齢では私のほうが年下だが、精神年齢なら遥かに年上のはずだから年長者の責務を果たそう。


この少女に生き抜ける強さを与え、最後まで駆け抜けさせる事を以って……友情の証とする。


……この日より、私の魔導師育成の日々が始まった。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 五時間目
By EFF





「魔力値はBランクか……才能は十分だ」
「そう言てもらえると嬉しいネ」

本日の訓練を終えて、へたばっている超を見ながら今後の訓練内容を考える。

「……呪紋処理は開放のキーワードを言わない限りは大丈夫みたいだな」

超の身体に施された呪紋処理に顔を顰めるが、迂闊に外させるわけには行かないので現状維持とする。
正直、ここまでするかと突っ込みたいが、超の覚悟を見せ付けられた気がする。
自身の命を削るような強制リミッター解除はたった一人で運命に戦おうとする少女の力になればと思い……仕込んだらしい。
仕込んだ本人は「絶対にギリギリまで使うな」と厳命して送り出した。
通常の状態がBランクで、リミッターを切ればSSランクまで増幅するのだから無茶苦茶だ。

「こんな処理をせずとも、鍛え方次第では十分強くなれるというのに……」
「余裕がなかたネ」
「はぁ……とりあえず直ぐにマルチタスクは使えるようになったのはラッキーだ」
「これでも天才少女と言われたヨ」

自信満々に話す超は確かに天才と呼ばれるだけあって遺憾なく才を発揮しているが、

「一点突破型なら教えるのも楽なんだがな」
「それを言われると痛いネ」
「攻撃、防御、補助、回復……バランスが良過ぎるから時間が足りるかどうか?」
「どれか一つに集中するのは不味いのカ?」
「ダメだ。それはかえって弱体化しかねん」
「それは困るヨ」
「まずは魔力総量を上げつつ、基礎を一通り覚えてもらう。
 大○ーグ養成ギブスならぬ、魔導師養成ギブスを付けるところからだ」

魔力に負荷をかけて、日常での一挙手一投足に魔力を消費して、一日を終えて回復。
これを繰り返す事で魔力を増大させて全体の底上げから始める。
一気にパワーアップとは行かないが、長い目で見れば悪くないはずだ。
私の推測だがおそらく超の魔力値はAランクに到達するだろう。
見た限り一般の魔法使いがC〜Eランクの魔力量を持ち、木乃香が推定でAAランクくらいと判断する。
どちらも伸び代は十分にあるが、なんの訓練もしていない木乃香のほうが伸ばすのは難しいだろうと考えている。

「……分かたネ」
「キツイようなら軽めに変更する。良いか、絶対に我慢するなよ。身体を壊すまで頑張っても意味がないからな」
「無理はしないヨ」

我慢強さという点では誰よりも強いかもしれない超だけに注意が必要だ。

「教えるからには最強を目指してもらう」
「委細承知ネ」

超は力を欲しているし、私も教えるからには強くなってほしいと願っている。
この点だけは互いに納得していた。






古の後ろに回り細い首に手を添える。
常態で蒐集行使が出来るというか、自身の技の一部として組み込まれているのは何度も不可解に思う。
本来は書を展開した状態でなければ使用できない筈なのに……ごく自然に使用出来た。
つまり蒐集した技をプログラムとしてインストールした状態なのかと思うしかない。
とりあえずは不都合が出ない事を祈るだけだと割り切っても居たが、

「ん……ふぁ……」

しかも気功法を何時、何処で、何故、蒐集したのかも思い出せない。
前世というか、主はやてとの生活と契約は覚えているが、それ以前の事は霞んでしまって上手く思い出せない。
漠然とした嫌な思い出としか認識できない点はありがたい反面、幸運だと思って浮かれそうになる自分が嫌になる。

(絶対に忘れてはならない……同じ過ちを繰り返さないために省みる事は必要なのだ)

首から気を通してチャクラと経絡を活性化させる。
特に経絡を活性化させるのは重要だ。活性化させた気を効率良く全身に回すには細い糸より、太いパイプのほうが多く流せる。

「一つ目のチャクラから順に気を流して行くから感覚を掴むように」
「任せるアルネ」

下から順にチャクラに気を流して活性化させる。
元々内気功が使える古だから気の循環を掴むのは直ぐに出来ると思う。

「………身体がポカポカと温かいアル」

ほんのりと上気した顔で話す古。
まあ、気を流す事で内側から温めているという感覚は間違いではないかもしれない。

「まず一つ目……行くぞ」
「……アイ」

一歩間違えば非常に危険な行為なので、ここから先はお互い無駄口はしない。

「……ん…………」

下から順番通りに気を通してチャクラを活性化させると同時に経絡を少しずつ広げていく。
ここで一気に広げると全身に痛みを伴ったダメージがくるので、少しずつゆっくりと時間をかけて広げる。



今日一日の鍛錬を終えて、古が日課の型の稽古を行っている。
動きはゆったりとしたものだけど、力強さは以前とは桁が違う。
どうもこの世界ではチャクラの運用方法が未熟な気がする。
話を聞く限り丹田で気を練って高めているが、他のチャクラを回す事は考えていない。
本来は全てのチャクラを回す事を考えるのだが、この世界ではたった一つのチャクラを回すだけで十分な力が発揮できると考えているのか……チャクラに対する 運用方法が甘い。
実際に古に第八のチャクラを意識して回すように指示したら、

「んーアイヤー♪ 気の流れが分かたおかげで動きが良くなたアル♪」

震脚によって生じる力が無駄なく上半身に流れて、重く鋭く拳へと繋がって行く。
飛び出すように放たれた拳からは風切り音が発生して、力が十分に乗った打撃を予感させる。
まだ不十分だが気の密度が一気に高まっていた。

「リィン老師のおかげで更なる高みへと行けそうアルヨ♪」

純粋に強くなりたいと願う古は嫌いじゃないから、手を貸してみたが……強くなった分、裏に係わる可能性が増えたので困る。
力と力は惹かれあう性質があるので厄介事に巻き込まれないか今更だけど心配だ。
エヴァは、「あいつは強さを求め、強敵と戦う事に生き甲斐を感じるタイプだから心配するだけ無駄だ」と言う。
実際にそういう意味合いの言葉を口にしていたので……少し良いかなとも思ってしまった。
まあ勢いに押されて教えてしまった事を反省しつつ、厄介事に立ち向かえるだけの力を持てるようにしようと考える。

「……ところで楓は何故ここにいるのだ?」

何故かは知らないが、クラスメイトの長瀬 楓が見学に来ているのを不思議に思ったので聞く。

「フフフ……古 菲だけに教えるのはズルイではござらんか」
「は? つまり……楓も教えて欲しいと?」
「然様でござるよ」
「オー、楓もアルカ♪」



「……ぶっちゃけ勘弁して」

嘘偽りない気持ちを込めて呟き、

「こ、これ以上……私の食べ歩きマップ作成の邪魔をしないでェ――――――ッ!!」

弟子が増えた事による弊害が目に見えてきたので魂からの叫びをシャウトする。
リィン作成 満腹手帳のページが埋まらない事実にリィンは計画の修正が必要となった事を実感していた。



尚、長瀬 楓の弟子入りによって、麻帆良戦隊マホレンジャーなるものの結成が鳴滝姉妹の手でクラスに囁かれた。

マホレンジャー司令 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル (マホゴールド兼任)

マホレッド 超 鈴音
マホブルー 長瀬 楓
マホイエロー 古 菲
マホブラック リィンフォース・夜天
マホグリーン 絡繰 茶々丸

武器開発及びメンテナンス主任 葉加瀬 聡美

またサポートメンバーとしてマホシルバーが未確認ながら居るらしいと噂されるようになる。



「こうなると巨大ロボ……ダイマホラを作るべきアルか?」
「語呂が悪いですね。なんて言うか……大魔王?」
「悪の戦隊なら問題ないだろう」

超、葉加瀬の発言にエヴァが投げやり気味に答えているが、内心では本気で作る気なのかと若干焦ってもいた。

「茶々丸がロボの動きを制御」
「モーショントレースシステムを組み込めば、長瀬さんや古さんの動きもトレースできますね」
「内装火器はリィンのフ○ースで決まりアル」

巨大ロボ――ダイマホラの完成はマジでありえるかもしれない。
エヴァはこの二人がマッドサイエンティストだと改めて実感していた。



そして問題児ばかりが集まったクラス担任の高畑は今日も胃薬を飲む。
一日に一回はトラブルが発生し、担任の自分が解決に奔走しなければならない。
今までは比較的おとなしかった超 鈴音、葉加瀬 聡美の二人が「科学に魂を売った」と宣言して巨大 ロボ開発を始めると宣言したのを皮切りに爆発イベントが増えた。
そして、古 菲、長瀬 楓の武闘派両名も日々パワーアップしている為に注意が必要になった。
この分では他の生徒も更に悪い方向に進化?する可能性も否めない。

「ネギ君……早く来てくれ……だが、しかし……」

日に日にクラスに馴染んで行く元凶たるリィンフォース・夜天のおかげでクラスの暴走は活性化し自身の胃が壊れるのが先か、大事な友人の息子であるネギ少年 を生贄に捧げるべきか……今日も苦悩する。



麻帆良男子高等部の校舎裏で男は過酷な修業を開始する。

「……リィンさん」

日を追うごとに思いを募らせる慶一。

「お、俺は強くなってみせますから!!」


「茨の道に入ったな?」
「骨は拾ってやるぞ」
「山ちゃん……強くなれよ」

惚れた少女のほうが遥かに強いと知って激しい特訓を行う慶一を生温かく見守る友人達。

「オオォォォッ! やってやるぜっ!! まずはお茶に誘う事からだァァァッ!!」

「「「真面目にせんか――――ッ!!」」」

友人のナンパな様子にツッコミを入れる男達だった。




イギリス――ウェールズ
緑に囲まれた静かで穏やかな街の一画に一般人には知られずにある教育機関があった。
魔法使い……魔法を以って人知れず社会に貢献する人物を目指す少年がこの地を出立しようとしていた。

「ええ―――ッ!! 日本で先生なんて!?」

赤毛の利発そうな少年の声が廊下に響くと同時に一人の女性が慌てて走り出している。
その隣には少女が同じように慌てながら詰め寄ってくる。

「校長先生! これはどういう事でしょうか!?」
「ほう、先生か……」
「そうよ! ネギッたら、チビでボケで……」

白く染まった長い髪に豊かに伸ばした髭を持つ老人は手渡された卒業証書を見つめる。

「しかし、卒業証書に書いてある以上は決まった事じゃ。
 ネギ、お前がマギステル・マギ(立派な魔法使い)を目指すなら、この試練に立ち向かうしかあるまいて」
「あ、ああ……」

既に決定事項と断言されて女性――ネカネ・スプリングフィールドは今にも倒れそうな様子で頭を抱えている。
彼女にとって、少年――ネギ・スプリングフィールドは大切な弟でまだ10歳だから……異国の地で教師など心配で堪らない。

「安心せい……修業場所には私の友人が居る。
 彼なら、そう無碍に扱う事もないじゃろう……多分」

多少悪戯好きというか、愉快な事を行ったりする人物ではあるが信頼は出来るし、ネギには外の世界を見せる必要もある。

(六年経っても、父の面影を追う以上……トラブルに巻き込まれる運命じゃ。
 ならば、今のうちからトラブルに対する対処法を学ばせねばな)

英雄ナギ・スプリングフィールドには味方も多数存在する反面、敵も同じように存在していた。
父親の背中を追うからには遠からず敵との遭遇もあるかもしれない。
安全な場所でじっくりと育てたいが、本人がそれを望まない以上は……少々危険が伴っていても外の世界で鍛えるのが一番だと判断する。

「良いか、ネギ……」
「は、はい」
「この試練を見事乗り越えてみせよ」
「はい!」

才能だけなら父親に匹敵するが、まだ未熟な魔法使いネギ・スプリングフィールドの試練の旅の幕開けだった。
目的地は日本 麻帆良学園都市。
修業内容はその地で教師を行う事だった。





一般人が就寝中の麻帆良学園都市。
普段の喧騒がなく、静まり返った街の一画では現実にはない光景がある。

「シスターシャークティ、こっちは制圧しました」
「ご苦労様です」

修道服に身を包んだ女性――シスターシャクティにリィンは声を掛ける。
二人の足元には魔法で作られた合成生命体キメラが倒れ伏している。

「侵入した魔法使いの位置も特定しました……先に行きます」
「……お願いするわ」
「では」

魔力で強化された身体機能で駆け出すリィン。
その姿は弾丸のようであり、あっという間に小さくなっていく。

「本当に優秀な子ね……ああいう子が弟子なら楽なのに」

自身が教育中の魔法生徒を思い浮かべて、吐息を零していく。
初等部に在籍している少女はまだ良い。これからきちんと育てていけるが、問題は中等部に在籍している少女だ。
本人にやる気がないので注意しても……反省する兆しがない。
その場その場では反省しているが、すぐに忘れてしまうからタチが悪い。

「―――っと今はそんな事を悩む時ではありませんね」

合成魔獣の咆哮を耳にして、即座に意識を切り替える。
自身の手に持つ十字架を魔獣に向けて、術式を展開する。
魔獣の周囲に魔力で編まれた十字架が浮かび……包囲する。

「貫き……切り裂きなさい!」

包囲した十字架が刃となって魔獣の体を貫き、切り裂いていく。

「ふぅ……これで魔獣は全て片付きましたね。
 後は死体の隠蔽工作を行い、夜天さんに合流するだけです」

現れた魔獣の数は八体。うち五体をリィンが葬り、残りがシスターシャークティ。

「多少反抗的な部分もありますが、優秀な魔法使いなんですから見習いではなく一人前と認めてあげないと」

戦闘に特化している気がしないわけではないが、一人前の魔法使いといっても過言ではない。

「高音さんも頭ごなしに注意してもダメで……もう少し肩の力を抜けばよろしいのに」

生真面目というか、規律を重んじるのも間違いではない。
しかし、押し付ければ反発するのも確かなのだ。

「うちの美空も、もう少しやる気を出してくれると……」

高音の半分でも真面目さを出せば、教え甲斐もあるけど……遊びたい盛りで、しかもイタズラ好きだから目が離せない。
それなりに才能も有るはずだから、頑張って欲しいと常々思うが、本人は何処吹く風。

「……はぁぁ〜、さっさと隠蔽しよう」

シスターシャークティは諦め気味の空気を纏って作業に入る。

「やる気のない生徒に押し付けても無駄なのよね」

トホホと言わんばかりに泣きが入るシスターシャークティ。
それでも彼女はコレも試練と割り切って、明日は久しぶりに説教して活を入れようと決意していた。





この学園に仕掛けたサーチャーを起動させて敵の位置を捕捉する。

「図書館島への侵入と見せかけて……式神を使って近衛木乃香の拉致か」

女子寮に向かう式神の数は三体。

「今夜は龍宮と桜咲の二人が常駐しているし、古も楓も居るから……手が足りないぞ」

強力そうな式神に見えるが、あの四人の相手をするには役不足だ。
実戦経験者三名に、その三人に匹敵するレベルへと足を踏み込んだ少女にはまず勝てない。

「ふん、影に隠れているようだが……私の目は誤魔化されない。
 次元を超えての位置すら特定できるこの目から逃れられると思うなよ」

旅の鏡を展開して、術者のリンカーコアを摘出する。
騎士甲冑を持たぬ術者など私から見れば無防備そのものだ。

「蒐集開始」

身体の一部を奪われて苦痛に悶える男を見ながら……男が持つ魔法技術を蒐集する。

「……ハズレくじを引いたな」

単独で動いている今なら、こちらの魔法を使って自身の強化を図れると思ったが……そういう時に限ってスカが多い。
式神作成スキルは、使い魔を作る技術があるので必要性を感じられない。
陰陽術も知識として蒐集するだけで使用する確率は低い。

「今回は一つだけ一等賞じゃないけど……三等くらいの当たりを引いただけか」

襲撃犯四人のうち、一人だけ西洋魔法使いが居た。
石化系の呪文とその術式が手に入っただけで良しとする。
エヴァは火力を優先したのか、攻撃呪文は多数あったが、回復系は自身の身体能力を頼って碌に覚えていない。
結局、こうやって侵入してくる連中から蒐集する事で取り込むことしか出来ない。

「一級品の魔法使いって中々来ないもんだな」

二流三流は来るのに一流どころはやって来ない。
高畑先生クラスの強者が来れば、得られる物も多いのだが。

「そうそう来るわけないし、文句を言ってもしょうがないか」

出来る限りこの世界の魔法で対処しながら、緊急時のみ本来の力で戦うスタイルで行くしかない。
蒐集を終えた人物のリンカーコアにダメージを与えて、魔力を生成できないようにして捕縛する。
ノーテンキというか、裏の事情を何も知らない木乃香を利用しようとする連中に慈悲の心など不要。
戦いたいのなら、自身の力を以って戦うか、仲間を集めて力を結集すれば良い。
誰かを利用するなど……何も知らない人物を巻き込むなど許しはしない。

(主はやてが泣いたように、木乃香が泣くのはどうもな。
 ジジィや木乃香の両親がが泣く分には問題ないけど)

何も教えないという事は緊急時の対処法を知らずに非常時に備えろという暴挙だ。
親の娘に対する愛情なのかもしれないが、そのツケは娘に全部回ってくる。

(そう言えば、来年の修学旅行は京都か、ハワイだったな。
 最悪は護衛の仕事が回って来そうだが……面倒だし、拒否するか)

関西呪術協会の本拠地へ魔法使いが行くとなれば、間違いなくトラブルが発生する。
特に近衛 木乃香が行くとなれば、権力争いも兼ねた誘拐事件も発生するだろう。

(エヴァの登校地獄の一時解呪調整で魔力ダウンで仕事が出来ないという方向で拒否しよう)

エヴァとの意見交換で京都に行く場合は近衛 詠春の手を借りてナギ・スプリングフィールドの日本滞在時の住居にある魔道書関係の資料を貰い受ける手筈だ。
アンチョコがなければ強力な呪文が唱えられない魔法使いである以上、そこに何らかの資料がある可能性は高い。
なによりも、個人的にはハワイも捨てがたいが……京懐石料理も非常に魅力的だから困る。

(いや、はっきり言おう……私は京都の懐石料理が食べたい!!

茶々丸が一見さんでも入れる名店をネットで調べている(本当にエヴァには勿体無いくらいイイ子だ)
修学旅行の夜は旅館を抜け出して、エヴァと二人で祇園へと行こうかと計画中だ。
気絶中の侵入者を拘束しながら、私は来年の修学旅行という名の食べ歩き旅行に思いを馳せていた。






朝の麻帆良学園中等部で少女の叫び声が轟く。

「ええ――ッ!! こんなガキんちょが高畑先生の代わり!?」

神楽坂 明日菜(かぐらざか アスナ)は学園長室で突然の担任交代を聞いて咆哮していた。

「うむ、高畑君に代わって、彼が2−A組を担当する事になる」
「ネ、ネギ・スプリングフィールドです」

アスナの叫びに腰を引きつつ、ネギは自己紹介する。

「ネギ君か〜ウチは近衛 木乃香言います。よろしゅうな〜」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

にこやかに二人が会話する側でアスナは学園長に詰め寄る。

「説明してください!!」
「ふむ。そうじゃな、彼はイギリスはウェールズの学校を卒業し、この学園に教師として赴任してきた天才少年じゃ。
 実はな、君達の担任の高畑君の負担を軽減したいと常々思っていたので彼の赴任を期に変える事にしたんじゃ。
 なんせ2−A組は何かと問題ばかり起こすのでな」
「うっ! そ、それでもガキんちょは!!」

憧れの高畑先生がトラブルの解決に奔走している姿を見ているだけに反論が苦しいアスナ。

「すまないね、アスナ君」
「た、高畑先生のせいじゃないですよ」
「僕の代わりにネギ君のことよろしく頼むよ」
「う…………わ、分かりました」

高畑に頼まれたアスナは深い葛藤を抱えながら承知せざるを得なかった。

(う、うう……いきなり失恋の相が出てるなんて言うガキんちょの世話なんてゴメンよっ!!
 でも、高畑先生の頼みを嫌だなんて言えないし……)

二律背反に苛まれ苦悩する少女アスナ。
だが、彼女の試練はこの日から始まったのだ。



アスナと木乃香の二人に案内されて教室に入ってきたネギ。

『エヴァ……』
『何も言うな』

いきなりトラップ回避で魔法を使い、アスナに不審に思われるネギにリィンは呆れている。

『子供だな。魔法というものに頼りきりだ』
『まだ10歳です。仕方ないのでは』

念話を使って、エヴァ、茶々丸と会話を行う。

『当面は監視で行くのか?』
『うむ。お手並み拝見という事だ』
『承知しました、マスター』
『じじいが言うには一年の予定だ。まあ、三学期の間は手は出さんよ』
『ふむ、手の内は見せずにお子様先生の力量を見定める気か?』
『そういう事だ。私が動く時は介入するなよ』
『分かった。茶々丸がピンチの時以外は何もしないさ』

経験という点に於いては三人の中では茶々丸が一番足りない。
見た限りは卑怯な手段を使うような人物には見えないが、一応の注意だけはしておこうと思う。

『茶々丸がダメージを受けたら……我が家の食卓はどうしようもないからな』
『……お前という奴は』
『お褒めに預かり光栄です』

この後、問題なく?今日の授業を終えて帰宅する。
だが、いきなり初日からアスナに魔法使いだとバレて、記憶操作しようとしてパンツを消し飛ばすシーンを映してエヴァが大爆笑するのを見て、アスナを憐れに 思ったのは秘密だ。

「やっぱり魔法使いは脇が甘いと思うのは間違いじゃないと思うぞ」
「そうかもしれませんね」

子供ゆえに自分の力を過信というか、魔法に頼るのは仕方ないと思うが初日からバレるという失態にネギ少年の未来に不安を感じる。

「この分だと来年の卒業までにクラス中にバレるかもな」
「オコジョ確定ですね」
「ナ、ナギが見たら……絶対爆笑するぞ。あいつ、性格悪いからな」
「ゴ主人モ変ワランケドナ。シカシ、ナンデ、アノガキハ記憶ヲ消シ損ナッテ、パンツヲ消シタンダ?」
「「「さあ?」」」

チャチャゼロの疑問に全員が首を傾げる。

「慌てて武装解除と間違えたのではないでしょうか?」
「かもな。不運なのはアスナか……不憫な子だ」
「確かにな。神楽坂も運がない。聞くところによると朝も同じような目にあったらしいぞ」
「セクハラ小僧ジャネエカ。見テイル分ニハ面白イケドナ」

チャチャゼロの意見に茶々丸はよく分からない様子だが、私とエヴァは納得していた。

「どうする? 予定を繰り上げて早めに仕掛けるか?
 この分だと強制帰国の可能性だって見えてくるぞ」
「いや、今動くと魔法先生どもを刺激しかねない」

一応、魔法先生の事は安易に頼られると困るので高畑先生以外は内密になっている。
それでも他の先生方も結構気にしているから今動くと介入されて面倒な事になる可能性もある。

「今しばらくは動かずに油断を誘うさ。
 こっちは既に登校地獄の解呪の目処が立っているからな」

ネギ少年と違い、エヴァのほうは余裕が十分にあるので慌てる必要性がない。
強者の余裕だと思いたいが、魔法使いがヌケている点を考慮すると非常に心配である。
様々な二つ名を持つエヴァも……魔法使いなのだ。

(大ボケかまさないと良いんだが……)

まさかエヴァほどの者がそんなマヌケな事をするとは思いたくないが……世界が違うという点がある。
大丈夫と思いながら、心の片隅ではうっかりヘマでもするんじゃないかと考える自分が居る。

「アスナも不憫な子だな。恋する先生の前で丸見えとは……」
「確かに少々かわいそうな気がしますね」
「見ている分には面白いがな」
「ゴ主人モ脱ガサレネエヨウニナ」
「そんなドジはせん!」
「武装解除ってセクハラだよな?」
「「「全くだ(ですね)(ジャネエカ)」」」

安全面を考えれば、相手の武装を剥ぎ取る魔法は悪くはないと思うが……如何せん人前で使うと非常にまずいどころか、犯罪者呼ばわりされかねない。

「騎士甲冑には通用しないから、どうでも良いけど」

かなり強力に魔力を投入すれば、魔力で編まれた騎士甲冑を掻き消す事は出来るかもしれないが……そんな無駄遣いするよりは攻撃でダメージを与えるほうが楽 だと思う。
ミッドチルダ、ベルカのどちらもこの世界の魔法使いと違い、手順は掛かるが杖という魔法を発動させる媒介がなくても使用できる。
この違いは非常に厄介ではないかと私は思うし、騎士甲冑装備時は常時防御している状態なので〈魔法の射手〉でも数がなければ突破するのも難しい。

「当面は監視だけに留めて……放置だな」

とりあえずの方針を決めてから一つ考えていた提案を出してみる。

「チャチャゼロサイズの人形一体用意してもらえないか?」
「……なんに使う気だ?」
「ウチのクラスの幽霊少女に使う予定だ。
 念積体……つまり肉体を持たない精神生命体のような存在に使える術式がある。
 妙に秘匿性があるのか、それとも力不足で見えにくいのかは分からんが、教室に一人ぼっちというのもなんだしな」
「……良かろう。こっちとしても魔力があれば、何とかなるが今の状況ではどうにも出来ん。
 代わりにやると言うなら任せるさ」

エヴァも見えていたので何とかしたいと思っていたのかもしれない。
しかし、登校地獄という呪いのおかげで本来の力を発揮出来ずにいる以上は手を出せなかったのだろう。
自分を悪の魔法使いと宣言しているが、女子供を手に掛ける気はない点は……悪人になれていない気もしない事もない。
そういうところは嫌いじゃないし、いざ弟子を取ったりすればスパルタ形式の鍛え方をするとも考えている。
厳しい方が弟子のためにはなる。甘やかすだけでは弟子のためにはならず、成長を阻害するとエヴァは知っているのだ。




挿絵数日後、真っ白な髪に赤い瞳のチャチャゼロより優しげな表情をした人形を エヴァから譲り受けた。
コレを元に守護騎士プログラムを参考にした仮想ボディーを作り、その身体の人格部分をさよにさせる事で新たな命を吹き込む。

「はわわ〜〜あ、ありがとうございます」

フワフワと浮く全長40センチほどで三頭身サイズのさよをクラスに紹介する。
今はまだそのサイズでしか身体を維持できないが、魔力を取り込みきちんと制御できるようになれば、人の姿も取れると説明している。
魔法を秘匿するように説明して、みんなには秘密で時々教えながらいずれは元の人の身体になれるように教育する予定だ。

「と、隣の席に幽霊少女がいたなんて……」

スクープネタがすぐ隣にあったのに気付かなかった事にショックを受けている朝倉 和美(あさくら かずみ)を放置して説明する。

「これぞ、ベルカの秘儀のスピリッツアイ――ぶっちゃけ霊視だ。
 そして! 謎のアイテムを使う事により、こうして動ける身体をさよは得たのだ!!」

「謎ってなんだ謎って!?」

人知れずポツリと呟く長谷川 千雨(はせがわ ちさめ)の声は聞かなかった事にする。

「おお――――!!」

クラスの大半が感心する声を聞きながら、

「さよ、みんなに挨拶を」
「は、はい、出席番号一番の相坂 さよです。
 み、皆さん、お友達になってくれますか?」

さよに自己紹介を促して、クラスの一員として認めさせようとする。
まあ、このクラスなら幽霊少女くらいはごく自然に受け入れるだけの肝っ玉は十分にある。

「よろしくね、さよちゃん」

一部の途惑うクラスメイトも居たが、概ねさよの存在は受け入れられた。

「ゆ、幽霊が受け持つ生徒の中にいたなんて……」

魔法使いのくせに常識人みたいなネギ少年は私の今回の行動に愕然として……授業どころではないみたいだ。



尚、相坂 さよの身元引き受けはその愛らしい容貌に多数のクラスメイトが引き受けようとしたが、

「よ、よろしくお願いしますね、朝倉さん」
「こっちこそよろしくね、さよちゃん」

隣の席同士で意気投合したらしい朝倉が引き受ける事になった。

「身体が壊れた時や、トラブルがあった時はすぐに連絡するように。
 後は卒業後は私が面倒をみるつもりだから」
「オッケー」
「よろしくお願いしますね」

こうして、この日から2−A組はネギ少年の持つ出席簿通りにクラスメイト全員が勢揃いした。


「ぼ、僕、先生なのに幽霊のクラスメイトが居たのを察知出来ないなんて……」
「だ、大丈夫やでネギ君。ウチも気付かんかったし」



「よくやったぞ、リィン♪」

教師として、自信が無かったところへ追い打ちを掛けられて自信喪失気味のネギ少年の姿にエヴァの溜飲が下がっていた。


「……ネギ君、強く生きるんだよ」

廊下からネギの様子をそれとなく見ていた高畑先生は、ネギに降りかかる試練の重さに人知れず涙していた。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

ネギ着任早々リィンフォースの嫌がらせを受ける。
相坂 さよ……いきなり出番です。
エヴァ、アスナのパンツ消し飛び事件に大爆笑って感じですね。
最大のポイントはリィンフォースの持つ魔法科学を超 鈴音が学び始めるですが。
彼女が魔法科学を手にする事で何が起きるか?……自分で書いていて不安になりますな(汗ッ)

それでは活目して次回を待て!

えっとWeb拍手で指摘された点を一部修正しました



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