翌日の昼休み、ネギとアスナ、カモはエヴァンジェリンと茶々丸、リィンフォースの昼食の席を同席する。

「で、どうだった? 久しぶりに楽しめた?」
「ああ、なかなか面白い夜だった」
「こっちは必死だったけどね」
「もう一杯一杯でしたぜ」
「……まだまだ未熟だって解りました」

勝った事になっているが、実際の戦闘だと間違いなく敗北だとネギは判っているだけに今ひとつ素直に喜べない様子だった。

「エヴァ……予定通り、後は任していい?」
「ああ、面倒だがぼーやには興味があるから構わんよ」
「え、えっと?」
「この前の合宿で話した通り……ネギ少年はエヴァの弟子になってもらうの」
「い、良いんですか?」

リィンフォースとエヴァンジェリンの二人が決定事項とでも言うように頷いて話す。

「条件はぼーやが得たナギの情報をこちらに全部渡す事だ。
  あいつを見つけ出して一発殴りたいんでな」
「え、ええと……あんまり酷くしないで下さいね」

自業自得ではあるが、さすがに父親が殴られるのは嫌なのか……手加減を要求するネギだった。

「安心しろ、一発で勘弁してやる」
「……本当にお願いしますね」

弟子入り出来れば、今より強くなれる事が分かっているだけに日和ってしまったネギ。
この時点でナギの発見時に於ける彼の不幸度が上昇したのは言うまでもなかった。






麻帆良に降り立った夜天の騎士 十三時間目
By EFF




「しかし十年も行方不明の人物を探すとなると結構大変じゃない」

昼食を食べ終えたアスナがネギ達に相談する。

「何処から探すか決めないとね。
  ネギ少年は何か手掛かりは持っているの?」
「いえ、六年前にこの杖を貰っただけで……」

リィンフォースが今後の方針らしき話からネギに手掛かりがないかを尋ねる。
聞かれたネギは杖を見せるだけで他はないと言って……俯いてしまう。
父親の交友関係は高畑・T・タカミチだけでネギは他にどんな人物がいるか聞いていないし、聞けるような雰囲気ではなかったのだ。

「ふむ、可能性の一つなら京都にあるかもな。
  京都にはナギの友人が今も居るし、何年か滞在していたから何かしらの資料があるはずだ」
「え?」
「そうなの?」

聞いていたエヴァンジェリンがナギの交友関係を考えて一つの可能性を提示する。
ネギとアスナはそれを聞いて顔を見合わせている。

「う〜ん、京都か……これは結構大問題になるわね」
「まあ、そうだが……行かないわけには行かんだろうな」

リィンフォースが険しい顔で呟くとエヴァンジェリンも苦々しい顔で話している。

「京都って、今度修学旅行で行くからついでに行けるんじゃないの?」
「じゃ、じゃあ父さんの手掛かりも見つかるかも♪」
「兄貴、ツイてるぜ♪ この分じゃ、すぐに見つかるかもな」

アスナが不思議そうに二人に聞き、ネギとカモは手掛かりが得られる可能性が高まった事に素直に喜んでいる。

「そう簡単じゃないのよ」
「全くだ。裏の事情は非常に複雑でな」

表社会で生活していたネギとアスナは二人の話を聞いていく内に非常に嫌そうな表情に変化していった。

「―――とまあ、東と西で睨み合いというか馬鹿馬鹿しい喧嘩ばかりしているの」

リィンフォースが簡単に関東魔法協会と関西呪術協会の確執を説明して、更にエヴァンジェリンが現状を告げる。

「全く……関西の上層部が部下に舐められているのが悪いのかもしれんがな」
「そんな事情があったんだ」
「……僕、初めて聞きました」
「まだまだお子様の兄貴にはこういった泥沼の話は言えないんですよ」

三者三様?に感想を述べて、世間の裏事情を知って一つ大人になっていた。

「ちなみに私とエヴァはハワイ行きを望んでたんだけどね」
「面倒事はゴメンだからな」
「私はメンテナンスの都合上京都の方が望ましかったんですが……」

緊急時のトラブルがあった時、即座に対応できる点からの視点で茶々丸は話しているが、どちらも一長一短ゆえに微妙な気がしたネギ達だった。

((茶々丸さんって、金属探知機に引っかからないの(んでしょうか)?))

飛行機に搭乗の際にどうするのかが知りたいアスナとネギだった。

「でも、エヴァンジェリンさんって父さんの掛けた呪いの所為で……」

言葉を端を濁した言い方をしているネギ。
エヴァンジェリンが父親の掛けた呪いの所為で学園都市から出る事が出来ない事を気まずそうにする。

「ああ、それか……一時的に解呪というか、呪いを偽装する手段が見つかってな。
  もっとも力の方は今と変わらんがな」
「今回の修学旅行はマスターも参加できる事になりました」
「へー良かったじゃない、エヴァちゃん」

クラス全員が参加できると知ったアスナが喜んでいるが、

「まあ学園長がダメと言ったらダメなんだけど」

リィンフォースのこの一言にとても嫌そうな顔になっていた。

「木乃香のおじいさんって……あえてコメントしないわ」
「学園長さんって、いい人だと思うんですが?」

ネギがよく分からずに首を捻っている。

「狸じじいなんだよ、ぼーや」
「フォフォフォと嫌味な笑い方で仕事を押し付けるジジイなのよ。
  どうせ、今回の京都行きでも私に面倒を押し付けてくるんだから」

エヴァンジェリンとリィンフォースがうんざりした表情で話す。

「ネギ少年は多分東と西の関係改善の親書を携えた特使あたりでお仕事を押し付けられるわよ」
「全くだな。ぼーやは大戦を終息させたナギの息子という肩書きがあるから、向こうも受け入れ拒否出来んよ」
「え、えっと……僕で良ければ、尽力を尽くしますけど?」

二つの組織が手を取り合えるなら、ネギは構わないという感じで二人に告げる。

「……スレていないぼーやには言っても仕方ないか」
「利用されるという自覚がないのも困ったものだよ」
「兄貴はまだまだお子様だからな」

エヴァンジェリン、リィンフォースの二人が肩を竦め、アスナ達の中では一番の大人であるカモが裏事情を理解していた。

「なによ? またトラブルでも起きるって言うの?」
「「そうだ(よ)」」

アスナが嫌な予感を感じつつ聞けば、二人は忌憚ない意見で返していた。

「親書を預かれば、当然狙ってくるし……西の本部へ行こうとするのも妨害されるの」
「そういう事だから、ぼーやは修学旅行までにある程度鍛えてやる。
  私も同行するが、力が封じられている所為で助けにはなれんから……今度は本当の意味で本番だぞ」

身体の動きを止めたネギが息を呑んでエヴァンジェリンを見る。

「派手な事になるかは分からんが……短期間でもないよりはマシだね」
「人生、いつも準備万端という事態などそうはない……今あるカードで生き残るんだな」
「マスター、今からなら"別荘"を使えば一つくらいは呪文を実戦レベルで使えませんか?」

茶々丸がエヴァンジェリンに聞いてみる。

「私達は今回の修学旅行では手を貸す事は出来ません。
  また力を貸してくれと言われても……私とリィンさんは動けますがマスターは……」

万が一の時、リィンフォースとエヴァンジェリンを頼られる前にネギ達の手で解決させたいと茶々丸は考えている。
リィンフォースはエヴァンジェリンを気遣って麻帆良から外に出るのを避けている節がある。
そんな理由から今回のような三人で仲良く外出の機会を瑣末事で壊されるのは避けたいと思っていたので、ネギの強化を行うべきではないかと進言していた。

「ふむ、修学旅行から帰ってきてから修業と考えていたが……」

ちらりとネギのほうを見て、エヴァンジェリンは熟考する。

(別荘を使えば一日2時間として……10日は確実に使える。
  日曜日はリィンフォースと買い物に出掛けるから完全にオフとして、土曜日は泊り込みで鍛えれば……行けるか?)

「ぼ、僕のほうは大丈夫です!
  力不足なのは分かっているので、時間的に厳しいのも承知してますが……お願いします!!」
「……よかろう。やるからにはきちんと覚えてもらうぞ」
「は、はい! よろしくお願いします、先生!」

真っ直ぐにエヴァンジェリンを見つめて頭を下げるネギに照れくさかったのか……、

「先生ではなく、マスターと呼べ。
  本日から放課後、私の別荘で修行を始める! 良いな!?」
「はい! マスター!」

赤い顔でそっぽを向いてエヴァンジェリンはネギに告げた。

「茶々丸、帰宅後に手配しておけ」
「承知しました、マスター」

ネギは短期間ではあるが、自分の力を高める機会が出来て嬉しそうにする。
隣で見ていたアスナもネギが嬉しそうな顔になるのを見て我が事のように喜んでいる。
だが、ネギは知らない……彼女が実はスパルタ系の指導者で、これから行うのが修業という名を借りた苦行である事を。
そして従者である茶々丸がネギを自分から大切な娘のような少女を奪おうとしている少年だと思い、マスターであるエヴァンジェリン以上に厳しく接しようとしている事も知らなかった。
後に誤解は解かれて、リィンフォースのようにネギも可愛い子供みたいに思われるかは不明だが。

「ネギ先生はどちらかと言えば、小犬系ですね。
  素直で可愛らしく尻尾を振っているようで構いたくなる気持ちにさせられて……好いものです」

との意見にあやかが思いっきり頷いて……種を超えた友情に目覚めるかはまだ分からない?





エヴァンジェリン達がネギの指導に入った頃、リィンフォースは学園長の近衛 近右衛門からの呼び出しで学園長室に来ていた。
室内には高畑とガンドルフィーニ、シスターシャークティが待機してリィンフォースが来るのを待っていた。

「すまんが仕事を一つ頼もうかと「拒否権ない依頼なんだから奇麗事言わないでよね」……」
「どうせ修学旅行でのゴタゴタでしょ?」

嫌だと言っても同じ宿に宿泊して団体行動する以上……巻き込まれるのは明白なのだ。

「言って置くけど……木乃香の護衛ならお断り。
  ネギ少年を特使として派遣する際の護衛なら条件付で承諾するわ」
「……何故か聞いていいかな?」

高畑が近右衛門の代わりに口を開いて問う。

「そんなの簡単でしょ。木乃香が狙われると知ってて、京都行きを決定したんだから自分の手で守るのがスジじゃないの?
  なんで私が他人で面倒事ばかり押し付けてくるジジイ様の不始末を片付けなくちゃ行けないのよ」

あっさりと告げるリィンフォースに高畑は顔を顰め、ガンドルフィーニとシスターシャークティは正論に口を閉ざす。
今も木乃香を取り戻そうと関西からこの地に侵入する術者がいるのはこの場にいる者達全員が知っている。
そんな状況下で最小人員の護衛で本拠地に危険を自覚せずに向かう以上……どうなるかは明白だった。

「最初から相手を刺激するのなら、最悪のケースだって覚悟しておいて。
  現場で動くのは学園長じゃない……私達でしょう。
  対象を二つも抱えて守れるほど器用じゃないの」
「フォフォフォ、優秀な魔導師の君ならば……何とかならんかね?」
「一般の生徒を見殺しにしていいなら……考えても良いわ」

学園長室の温度が下がるような発言を平気で行うリィンフォース。

「この状況下で動く連中なんて過激な連中ばかりでしょう。
  巻き込まれる可能性だって少なくないし、瀬流彦先生だけで全ての生徒を守れと?」
「むぅ……」
「確かに5クラス全てを守るのは難しいな」

瀬流彦の実力を疑っているわけではないが守備範囲が広がる以上カバーには限度がある事をガンドルフィーニは苦い顔で話す。

「無論、向こうが一般人を狙わないという絶対の確証があるのなら話は別だけどね」
「しかし、京都行きは決定事項なんじゃ……決定を覆す事はできぬよ」
「あ〜あ、せっかくの旅行が台無しにされるのは何でだろうね」

きっちり嫌味を口にして、今回起こり得るトラブルの始末を強制参加させられる事を誰の所為か仄めかす。

「孫娘は過保護に守られて、何も知らずに幼馴染の少女を犠牲に暮らしてます……木乃香が知ったら、どう思うかしら?」
「そうは言われても、本人が志願したんじゃぞ」
「そうね。その点は刹那にも問題はあるけど……親の我侭で危機管理体制が不十分になるのは如何かと思うけど?」

リィンフォースは親の方針で魔法についてバレないようにしている点は大いに不満があった。
危機管理――緊急時に対応できない対象を影から見守るなど……馬鹿馬鹿しい話だとリィンフォースは思っている。

「刹那が距離を取らざるを得ない状況にして"守れ"なんて都合の良い事言うもんじゃないわ」
「いや、魔法がバレんのなら構わんと言っておるんじゃが」
「それこそ論外よ。木乃香の資質なら遠からず覚醒して解放されるのよ。
  無作為に力をばら撒く状況になった時の方が魔法の隠匿が難しいじゃない。
  偶然、その場に居合わせた一般人全ての記憶を消去するほうが危険性が高いわ。
  そんなリスクを抱えるより、自覚させて制御できるように教育するほうが安全性が高いし、緊急時の対応だって不備はない。
  護衛だって刹那一人じゃなく交代制で配置できるじゃない」

リィンフォースと近右衛門の両者の言い分を聞いている三人はリスクの低いリィンフォースの意見に耳を傾けている。

「ま、人様の家庭の教育方針に口出すのもなんだし……好きにすればいいわ。
  私は何かあっても手出しもしないし、刹那に任せるから」

部外者だしね、と呟きながらリィンフォースは話を本筋に戻す。

「条件はシスターシャークティには既に話しているから知っていると思うけど、今回の修学旅行はエヴァも参加させるから。
  もっとも力は使えないから、知恵を借りたりするくらいだけど」
「それは構わんじゃろう。ただしじゃ「で、交換条件で木乃香の護衛?」――」

近右衛門の話の続きを切るようにして、リィンフォースが冷え切った視線を向ける。

「いや、木乃香の件はこちらで何とかする。
  君にはネギ君と彼の担当する3−Aのフォローを頼もう。
  無論、報酬もきちんと出す」
「了解。じゃ、契約書を出してくれる。
  何度もこの部屋に呼ばれると怪しまれるし」

正式に文書化して契約を交わした後、リィンフォースは学園長室を退室する。

「わしは嫌われているみたいじゃのう」
「いえ、学園長だけではなく、彼女は魔法使い全体の危機管理体制の甘さを嫌っているんですよ」

リィンフォースが出て行った後、黙って聞いていたシャークティが口を開く。

「まあ学園長の権力の乱用も嫌われる原因の一つではあります。
  そして、まだ十歳のネギ先生を使う事で手を出しやすくさせたんじゃないかと邪推してましたよ」
「……そういう事はないんじゃが」
「ですが、まだ子供である少年に特使などという重要な立場にしてしまうのは……見方を変えれば、挑発とも取られますよ。
  向こうは魔法使いを嫌い、更に子供先生を使いに出すとは侮られているとも思われても仕方ありません」

まだ十歳の子供を利用する点をシャークティは指摘して、今回の一件に批判的な気持ちを見せる。

「じゃがのう……ネームバリューでは彼が一番である事は確かだしのう」
「お忘れなのですか、六年前の悲劇を……ナギ・スプリングフィールドを快く思わぬ者もまた存在しています」
「ぬぅ……忘れとらんよ」

六年前の悲劇を出されて近右衛門は唸るしかなかった。
当時三歳のネギが住んでいた村が下級悪魔から中級悪魔で構成された集団に焼き討ちされた事件は忘れようがない。
村一つが壊滅し、生存者はネギと姉のネカネ・スプリングフィールドのみという惨事が起きたのだ。
後は彼らの幼馴染の少女が魔法学校で就学中だった為に助かったくらいだった。
そして、今もその村の住民は石化された状態で保存されている事実は消える事がなく……記録として残っている。

「彼を公式の場に出すという事は、彼、もしくはナギ・スプリングフィールドを憎む者を呼び寄せる可能性もあります。
  ネギ・スプリングフィールド君はまだ未熟で自分の身を守れるだけの力を有していると思われるのですか?」

公式の場で名を残す以上、敵対者の目に止まる可能性だってある。

「学園長はそれも試練と言うのかもしれませんが……彼女の言うように悪趣味ですね」
「シスターシャ−クティ、それ以上は……」

高畑が困った顔で言葉を濁しながら注意する。

「…………確かに少し言い過ぎました。申し訳ありません」
「いや、構わんよ。君の言い分も間違ってはおらんしのう。
  どちらにせよ、決定事項として決まっている以上は全ての責任はわしが取るよ」

やや疲れた顔で近右衛門は責任の所在を明確に告げる。
シャークティはため息を吐き、ガンドルフィーニも今度の修学旅行で起き得るトラブルを想像して複雑な顔でいる。
学園長室は重い雰囲気に包まれていた。





翌日からリィンフォースは精力的に動いて修学旅行対策のスタッフ集めに入る。

「そういう理由から何かあった時、仕事を依頼してもいい?」
「危機管理がなてないネ」
「ま、報酬が出るのなら仕事として引き受けるさ」

麻帆良工科大の一室で超 鈴音と龍宮 真名の二人に声を掛けて協力を仰ぎ、緊急時のスタッフへと引き込む。

「刹那はどうする?」
「木乃香専属を外すわけには行かない。二人もギリギリまで動かす気はないよ。
  特に超は魔法を見せるわけには行かないし……後方支援か、私がフレイムロードのセイバーモードで出てもらうから」
「ン、分かたネ」
「エヴァンジェリンは?」
「彼女もギリギリまで戦力に入れない。というか……全開のまま旅行に参加なんて……計画が頓挫しかねない」
「アイヤー、そんなにもカートリッジ使うカ?」
「十五分で一本……真祖ってキャパ大きいのよ」

トホホという苦笑いでリィンフォースが溜め込んでいるカートリッジの数を思い出して涙目になっている。
前回のネギVSエヴァンジェリン戦での全開時の魔力量を計算し、呪いを解く際のカートリッジの数を再計算してからリィンフォースは使用するカートリッジの量で頭を抱えていたのだ。

「こっちに来てから材質から術式から全部再調整して組み立てた新型のカートリッジで……これだよ。
  旧タイプのカートリッジなら十分で一本だ」
「何処ぞのウルトラヒーロー並みの燃費の悪さだね」
「師父が一日五本作ていても……足りるカ?」
「……ギリギリだよ。最悪は別荘に数日入ってカートリッジの作成をする予定」
「異常気象がなければ……来年の予定だたナ。
  私もこれは計算外の出来事で修正中ネ」
「前倒しの計画になりそうだな」
「エヴァ曰く「準備不足こそが人生の常だ」……そうよ」
「……手厳しいネ」
「何事も楽には事を成し得んというさ。それとも世界が……邪魔をしているのかもな」
「それでも諦められないナ。
  この二年、積み重ねてきた物を無駄にするわけには行かないネ」

カートリッジの話から多少横に逸れているが超は普段見せるノンキな顔から一変して引き締まった表情へとなる。

「計画は続行……お二人には本番で力を貸してもらうネ」
「途中までは良いよ。こっちにしても都合がいいし、場所を貸してもらう以上は働きで返すね」
「仕事だからな。きちっと報酬が頂けるなら文句は言わんし……どちらかというと"革命"には反対じゃない」
「……多謝ネ♪」
「持ちつ持たれつだよ」
「私はプロだ。ただ働きでなければ問題ないさ」

リィンフォースと真名はマジな顔つきで超が計画するイベントの参加を表明する。
この計画が発動する際に様々な妨害が起こる事になるが……それは後日に語られる話だった。





アスナは寮の部屋でカモからコピーカードを受け取っていた。
カードには制服姿で所々に包帯を巻いたアスナが大剣を持っている姿が書かれている。

「へ〜綺麗なカードね」
「綺麗なだけじゃなくて……いろいろ機能がついてますぜ」
「ふぅん」
「まずはカードを持って「来れ(アデアット)」って言ってみな」
「……アデアット」

アスナがカードを手にしながら口に出した言葉に反応してカードが輝き……形を変える。

「……ハ、ハリセン?」
「お、おかしいっスね……普通は絵柄にあるアイテムがアーティファクトなんだけど?」
「へ? じゃあ、でっかい剣がなんでハリセンになるのよ」
「俺っちに聞かれてもこんな事は初めてだし……」
「初めてなの?」
「そうなんですよ。普通は所持している道具の姿で出るのに……どういう事だ?」

カモも何が起きたのか分からずに何度も頭を揺らして考える。

「ちなみにコレどうやって戻すの?」
「それなら「去れ(アベアット)」でカードに戻りますぜ」
「……アベアットね」

アスナがカモに言われた通りに唱えると手にしていたハリセンが輝いてカードへと戻る。

「……隠し芸の一発ネタには丁度いいかな」
「いや、ちゃんと使ってくれよぉ。
  今度行く京都で何かあった時に姐さんの力が必要になるかもしれないんだぜ」
「そうね……京都で何かあった時は使うわ」

カモが前足を振ってアスナに注意すると、アスナもカードを見ながら真面目に答える。

「で、何かあると思う?」
「わかんねえけど……真祖の姐さんとリィンの姐さんが気をつけるように言うからには保険はあったほうが」
「そうね。ないよりはマシか」
「他にもカードを額につけて念話したり……マスターカードを持つ兄貴が召喚する事も可能ですぜ」
「携帯の代わりにもなる……でもネギだけじゃ意味ないか」

アスナの感想を聞いたカモはパクティオーカードが携帯電話より劣るような言い方に複雑な気持ちで一杯だった。








国際空港から一人の女性が久しぶりに日本の地に足を着けた。
着物を少しラフな着方で身に付け……すこし憂鬱な表情で歩いて行く。

「はぁー、仕事とはいえ正直……気が進みまへんなぁ」

ため息と共に出る声もどこか力なく、足取りも重そうに見える。
腰まで伸ばした艶やかな黒髪に纏う空気がアンニュイな和装の美女をイメージさせて振り返る男性もいるが、声を掛ける者はいない。
それは女性の持つ隙のない雰囲気に……恐れを察知しているのかもしれない。
女性の名は天ヶ崎 千草(あまがさきちぐさ)……かつて関西呪術協会に席を置いていた陰陽師だった。
現在はフリーランスの陰陽師として活躍中で、それなりに名前も売れてきて今回の仕事の依頼で日本に帰還した。

「五年前に反乱の濡れ衣を着せられて追放されて……今になって帰ってきなさいか?
  明らかに捨石にするつもりやろが……そうは問屋が卸しませんて」

五年前はまだ現実の重さを知らずに過激な言動で周囲に危険人物と思われていた千草。
しかし、追放されて世界を見る事で多少は道理というものが見えてきた千草は思う。

(近視眼ちゅうのはホンに危ないもんやな……ええ勉強させてもらったわ)

追放された時に持っていたのは僅かなお金と今も使っている道具のみ。
生きて行く為に金を稼ぐのがどれほど大変な事か理解し、危ない橋を何度も渡る事で世間が見えてきた。

(父様、母様の死は忘れられんけど……原因が原因なだけに何処へ憎しみを向ければ、ええんやろか?)

大戦の元凶は時代の流れを認められなかった一部の術者の暴走のせいでもあり、安易に東洋の陰陽道から西洋の魔法へと鞍替えした魔法使いどものせいでもある。
日本古来の技を大切にするのは悪い事ではないが、世界に出ようともせずに日本だけで活動して、魔法をバカにするような事では話にならない。
そんな事情の積み重ねが二つの組織を険悪な関係にして争う事になり……自分の両親が亡くなった。
外に出る事で魔法使いとの協同の仕事もあり、食い扶持を稼ぐ必要もなったので共に戦った事もある。
嫌悪感はあったが、命を懸けた実戦の前には文句など言えるはずが無く。
間近で西洋魔術を見る事で本物の魔法を知り、偏見もかなり薄れた。

(今の長はそういう意味では立派方どすな……高村はんとは器が違いますえ)

自分を呼んだ関西呪術協会の高村 重然(こうむら じゅうぜん)には多少の借りがあるが……最後まで付き合う義理はない。

(あん人が長になれへんかった理由は、うちと同じで陰陽道に拘り過ぎた事や。
  もう少し外に目を向ければ……今の長の対抗馬になれたんやろな)

名門中の名門の家に生まれ、結果を出してきた人物ではあるが……日本でしか活動しなかった。
陰陽の技を絶対の物と考え、魔法を毛嫌いしてきた所為で大戦が起きた時に世界に名を轟かす事が出来なかった。

(ホンに世界は広いどすな。近衛 詠春はんの名は世界にあり、高村はんは……日本の半分しか聞こえてません)

世界に出てみて分かったのは陰陽道は世界最高峰の技術ではなく、海外には東洋のマイナーな技術という認識だと知った。

(もっと術者を外に出さへんとあかんのに、未だに日本だけで満足する……小さい器やな)

技術的には優劣などそうはないと千草は思っているが、技術を取り込もうとする意欲は魔法使いのほうが遥かに上だと考える。

(危機感が足りんと言うか……井の中の蛙なんやろな)

「どちらにしても仕事ですので、行くしかありませんな。
  ま、鬼が出るか、蛇が出るか……派手な出入りにならんことを祈りますえ」

荷物を持って千草はかつて暮らしていた京都へと向かう。
天ヶ崎 千草――裏の世界で徐々に台頭してきた若き陰陽師が舞台に上がる。
古の都 京都を舞台に決戦の準備が整えられ始めていた。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

事前準備ができているネギ一行。
そして、原作とは若干違う境遇の千草。
新しい舞台が整いつつ、修学旅行編が始まります。
さて、虚数空間による次元断層……これが今回のキーワードの一つになるかもしれません(おっと、これ以上は秘密ってことで)

それでは活目して次回を待て!



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