フェイト・アーウェルンクスはバックアップの為に千草と月詠の様子を見ていた。

「どうでした? 偽者の正体は見えましたか?」
「……ダメだね。魔力で構成されたくらいは判ったけど……術者までは」

千草に聞かれたフェイトだが言葉を濁して答える事しか出来なかった。
そう、フェイトが途惑うのは当たり前の事だ。
何故なら、ベルカ式魔法など今日始めて見るのだ。その身体を構成する術式は今までに見た事がない以上は答えられるわけがなかった。

「そうですか……向こうは2チーム居ると言うくらいですな」
「そうだね。千草さんを追跡したチームと対象を警護したチームの二つは確定だ」
「では三日目の自由行動の際にこちらも対象を狙いましょう。
  確か、向こうの予定では三日目に本山へ行く予定みたいですし、戦力を分散した時が狙い目ですな」
「……親書はどうします?」
「二兎追うものは一兎も得ず言うますやろ……あれもこれも出来ませんし、本山前で足止めしますわ。
  どのみち親書が渡ろうが、こちらの目的が成就すれば意味もないですえ」
「……それもそうだね」

あっさりとフェイトは千草の意見を聞き入れる。親書を受け取って相互理解を行う連中とは既に袂を分かった状態で、こちらの策を実行すれば……意味をなさない事は明白なのだ。

「それよりも問題は雇い主がうちらを使い捨てにする気満々というのが厄介どすな」
「それも困った話だね」

表情を変えずに話すフェイトに千草は呆れながら会話を続ける。

「フェイトはんも大胆というか、度胸がありますな」
「まあ……協力しているうちは大丈夫じゃないかな?」
「ほな、うちらも帰りましょか。本番までに色々準備せんとな」
「そうだね」

千草とフェイトは次の襲撃計画の大まかな予定を決めて帰還した。




麻帆良に降り立った夜天の騎士 十六時間目
By EFF




宮崎 のどかは友人の早乙女 ハルナが製作したネギ先生人形を見つめながら二日目の自由行動のお誘いの練習をしていた。

「え、ええとネギ先生……きょ、今日のじ、自由こ、行動……一緒に行きませんか?」
『はい、いーですよー宮崎 のどかさん』
「よ、よし!」

一応練習で言えるようになったのどかは気合を入れて部屋を出て行く。
せっかくの修学旅行なのに一日目は何故か途中から記憶がないだけに今日は一緒に歩いて色々と話したりしたいのだ。

「のどか――朝食だよ」
「一階大広間に集合です」

ハルナと夕映の声を聞いて身支度を整えて恋の戦場へと赴く。

(ネギ先生……)

乙女の切なる願いが叶うかはまだ分からないが……のどかなりに自分に出来る第一歩を踏み出そうとしていた。




刹那は非常に緊張感溢れる空気を纏わせて木乃香に声を掛ける。

「お、お嬢さま……一緒に食べませんか?」
「せっちゃん……ええよ、一緒に食べよな♪」

刹那が声を掛けてくれたのが嬉しいのか……木乃香は幸せそうな空気を出して返事をする。

「えへへ、嬉しいわ。せっちゃん、うちのこと嫌いになったんやと思うてたんよ」
「そ、そんなことは……ありません」
「そうやね……リィンちゃんが言ってくれたんよ。
  "せっちゃんを大切な友人やと思うなら最後まで信じなさい"ってな」
「う、うちは……このちゃんを嫌いになんてならんよ」

目元に涙が混じりながら嬉しそうに微笑む木乃香の耳には入らないように刹那は自身の想いを呟く。

「ん? なんか言うた?」
「いえ、なんでもありません。
  それよりご飯が冷める前に頂きましょう」
「そやね、せっちゃん♪」

ぎこちなく笑みを浮かべて話す刹那に木乃香は微笑んで応える。
自分からわざと遠ざかり悲しませていた事に心を痛めつつ、刹那はなんとしても守り抜こうと今一度決意していた。




朝食を終えて、ネギ達はロビーで本日の予定を話す。

「今日は奈良か……フフフ、東大寺は外せないな」

観光ガイドを片手にエヴァンジェリンは本日の行き先に思いを馳せている。

「まあ京都じゃなく奈良だし、派手に動くとは思えないけど……ネギ少年は五班と回って側にいるようにしてね」
「あ、はい……そうですね」

親書は常に持ち歩いている以上は簡単に奪えないとネギは判断し、それならば木乃香の護衛を重視する事に決めた様子だった。

「ま、良いんじゃない。その方が刹那さんも動きやすいしね」
「班毎にサーチャー……式神か、使い魔みたいなのを用意したから緊急時の対応も出来るわ。
  何かあったら即座に転移して対処するから、そっちは護衛に専念して」
「わかりました。一応私のほうでも式神を用意します」
「一つよりも二つ目があるほうが状況を把握できるね」

刹那の意見にリィンフォースが賛同し、本日の予定が決定する。
修学旅行二日目の始まりだった。








天ヶ崎 千草は表面上は何事もなく落ち着いた様子でいたが、内心では、

(どいつも、こいつも……崖っぷちに晒されているのに……)

自分自身のミスを反省せずに叱責ばかりする連中に辟易していた。

「で、何名が壊されました?」

上座に座る高村 重然(こうむら じゅうぜん)に確認の為に聞く。
恰幅の良い体格で関西呪術協会の重鎮と言われるだけの空気を纏い、陰陽師らしく狩衣姿で騒ぐ幹部連中を手で黙らして告げる。

「監視役の五名がやられた……外傷こそないが術者としては死んだも同然だ」

普段は温厚そうな目付きだが、今は苦々しい表情で鋭い視線を虚空を睨んでいる。

「そうどすか……」

戦力の損失に高村が頭を痛めているのを見ながら千草が人事のように話すと、憤った顔で幹部の一人が叫ぶ。

「貴様がしっかりと確保すれば問題なかったのだ!!」
「そうだ! せっかく復帰の機会を与えているのに失敗するとはな!!」

尻馬に乗った男の声につられて他の連中も千草に嫌味と叱責の声をぶつけるが千草は顔色一つ変化なく聞いている。

(アホらしい……向こうのトップは抜け作みたいやけど、現場の人間は甘くはないで)

おそらく魔法で作ったダミーを用意して自分だけでなく、西洋魔法使いであるフェイトの目さえも欺いた魔法使いがいるのだ。
監視している連中と事前に打ち合わせ出来ていれば、自分達が陽動として動いている間に再度誘拐も可能だった。

「うちらが騙されている間に何故……他の方々を確認のために動かせばええ話かと思うんですが?
  確かに偽者に引っ掛かったうちらの不手際は詫びますが、監視していた連中の油断はどうなりますの?」

尻馬に乗っていた連中が一頻り喚いた後、千草が尋ねる。

「こちらは失敗しましたけど……戦力を失ったわけやあらしません。
  監視という重要な役目をしていたくせにも係わらずに何ら情報も得る事なく倒れるようではあきませんえ」

苦言を呈するという気もなく、ありのままの現実を言い聞かせるように話す千草。

「だ、黙らんか!」
「……もうよい。天ヶ崎の言うように油断をしていた者がいたのは事実だ」
「し、しかし!」

高村の制止を不服そうに見つめる者を視線で黙らせて、高村は千草に告げる。

「下がってよい。明日の仕事で結果を出せば、約束は守る」
「ほな、失礼しますわ」

高村に一礼して、千草はこの場から出て行く。

「……所詮使い捨ての駒なのだ。そう熱くなる事もないだろう?」

千草が出て行った後で不満そうに見つめる者達を宥める。

「それより例の手筈は整っているな?」
「はっ! 準備は整っております。これで本山の連中の足止めと牽制は万全です」
「うむ。我らの大願を果たす時は近い、本山の連中に気取られる事なく動くのだぞ」

全員が一礼して動き始める。
この一年近くで強硬派の面子は激減している。
麻帆良学園都市に侵入して無事に帰ってきた者はいるが、術者として再起できる者は限られている。
優秀な治癒術者に頼っても……結果は変わらずに恐れられている。
身体に異常がある筈だが原因が全く判明しない呪いとも制約による封じとも違う正体不明の魔法。
日和見な連中は穏健派へと鞍替え始め……忌々しい事になっている。

「近衛 詠春、近衛 近右衛門……」

ギリリと歯軋りして自身が座るはずだった席を奪った男と日本人でありながら西洋魔法に被れた裏切り者を憎む。

「貴様らの思う通りにはさせんぞ」

奪われた席を取り戻して、裏切り者に報復する事を誓い行動する。
高村はいずれ手にする権力と栄華を思い凶笑を浮かべていた。




『―――貴様らの思う通りにはさせんぞ』

耳に付けていたイヤホンから聞こえてくる高村の声に千草は虚しさを感じていた。
本陣に仕掛けた盗聴器から聞こえる阿呆共の声に憐憫の情と同調する感情に苦悩する。

「……抜け作ばかりやな」

魔法による盗聴は防いでいても機械による盗聴には注意を払っていない連中に呆れる。
おかげで自分の本来の仕事も順調に進んでいるので楽ではあるが、

「ほんま……外に出えへんかったら、うちもこうなったんやろうな」

魔法使いを憎む気持ちは今もあるが、だからと言って自分のように恨む事で生きている人間を増やすのはどうかと今では思うようになった。
外の世界を自身の目で見つめる事で世界の抱える矛盾と、それによって起こる悲劇を千草は知ってしまった。
ゆっくりと自分の手を胸の辺りまで上げて手の平を見つめる。

(…………うちはこの手で子供が死ぬ瞬間を見ながら……何もできんかった)

抱き上げた身体から熱が奪われ、生きる力を失っていく瞬間をつぶさに感じた。

(陰陽術師として学んだ技は何の役に立たんなんて……)

平和ボケしていた頭を重い現実という名のハンマーで殴られた。
憎しみから安穏とした場所から放り出された自分を慕ってくれた子供を守れなかった無力感は消える事なく、心に棘のように刺さったまま……人の罪深さを見せつけられた。

(何が正しいのかは今も分からんけど……誰かが死んでいくのは見とうないで)

このまま行けば関東魔法協会と関西呪術協会の戦争が始まりかねない。
死んでいくのは弱者からで……憎しみの連鎖がまた始まる。

(うちと同じ子を作るのは勘弁して欲しいわ)

矛盾を抱えていると思いながらも千草は何が正しくて、何が悪いのか、今一度考えようと思っていた。
悲劇を繰り返すのは嫌だと心が痛みを伴って叫んでいる気がしたのだ。




「のどかさん、綾瀬さん、今日は五班と一緒に回ろうと思っているんですが構いませんか?」

ネギに声を掛けようとしていた二人はネギから先に声を掛けられてビックリしていた。

「え、ええ?」
「あ、はい。構いませんです」
「ちょうど六班も奈良観光なので二班と同行しようかと思っていたんです」
「そうなのですか?」
「はい、綾瀬さん。昨日のイタズラの事もありますので」

昨日のイタズラと聞いて夕映は納得する。

(まさか滝の水に酒を混ぜるようなアホな事をする人がいるとは思いませんでした。
  おかげでというか、昨日は静かな夜を過ごせてラッキーでしたが)

同じ班ののどかとハルナがダウンし、他の班のメンバーもダウンしたおかげで昨日の夜はゆっくりと休めて満足した。
その代わりというか、昨日が中途半端に終わった事でのどかが一生懸命にネギを自由行動で誘おうとしているのを見て……これ幸いだとも感じていた。

「そういう事なら今日はよろしくお願いしますです」
「ネ、ネギ先生……そ、その一緒に回れて嬉しいです」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」

のどかがネギに好意を持っているのを夕映は知っている。

(良かったですね、のどか)

英国紳士らしく真面目でふざけた言動を行わないネギなら親友であるのどかも傷つく事はないと思う。
まだ早いような気もするが相手が十歳のお子様先生だから友達付き合いから少しずつ親しくなればと夕映は、はにかむように微笑む二人をそっと見つめていた。


この後、ネギが五班に同行すると聞いたあやかやまき絵が大騒ぎするが決定事項ゆえに歯噛みするのをため息を吐いて見ていた。

(のどか……ライバルが多いですがしっかりとサポートするです!)

夕映が親友の為に一肌脱ごうと決意した瞬間だった。






五班と六班の面子は予定通り東大寺へとやってきた。

「……素晴らしい。まさに日本文化の極みだな」

東大寺総門に立つ阿吽の金剛力士像にエヴァンジェリンは感嘆の声を上げる。

「スゴイ、スゴイですよ。アスナさん見てください……わあ―――!」

鹿煎餅を鹿に与えようとして逆に振り回され気味のネギにアスナは苦笑している。

「ハイハイ」

だがリィンフォースの次の一言で状況は一変する。

「……鹿鍋」
「え゛?」

据わった目で鹿を見つめるリィンフォースに鹿たちは一斉に身の危険を感じて逃げ出す。

「ア、アスナさ〜〜ん〜〜〜?」
「ちょ、ちょっと――ネギを連れて行くな!!」

捕食者の視線に怯えて混乱した鹿にスーツの襟首を咥えられて引き摺り回されていくネギにアスナが焦る。

「リィンさん、今夜の予定は牡丹鍋なので鹿鍋は次の機会に」
「そっか、そうだね」

茶々丸のフォローにならない発言が周囲に虚しく響いていた。


そんなこんなで幾つかのハプニングを巻き起こしながら五班と六班の観光は続く。

「えへへ……ネギ先生―――」

微笑みながらネギを見つめるのどかの手をハルナが取ってグループから少しだけ離れた位置に引っ張る。

「のどか、このチャンスを逃す手はないわ!」
「……確かに」

二人について来た夕映ものどかとネギの接点を増やすべきだと判断していた。

「え、ええっと……?」
「ライバルも多いみたいだし、ここはネギ先生に告白して一歩リードするのよ!」
「ええ〜〜〜!? そ、そんなの無理だよぅ―――!!」

キラリと眼鏡のフレームを輝かせながらハルナはのどかに顔を近付けながら説明する。

「ネギ先生の周りを思い出しなさい。
  いいんちょといい、まき絵といい、真っ向勝負みたいにぶつかってくる人もいるし!」
「ま、概ねその通りです」
「しかも最大のライバルになりそうなリィンフォースだっているのよ!
  忘れたわけじゃないでしょ……ネギ先生がリィンフォースに告白したのを!!」
「は、はうう〜〜〜」

四月最大のイベントだったネギ告白事件を思い出してのどかは慌てている。

「いい、幸いにもリィンフォースにその気がなかったおかげで何とかなったけど……いつ、他の対抗馬が動くか分かんないの!」
「……否定できませんです」
「あ、あうう〜〜ゆえ〜〜」

隣で聞いていた夕映も何度も頷いてハルナの指摘に異を唱えない。

「のどか、あんたならスペック的にそこらの連中には負けないし、恋の戦いは自ら動く者が勝者になるのよ!!」
「おお――!」
「そ、そうなの〜〜!?」

自信満々に話すハルナの言葉に親友である夕映が納得するのを見たのどかも徐々に引き込まれている。

「見ているだけじゃネギ先生の手に触れる事も出来ないし、ハートを掴む事も出来ないわ」
「まさにその通りですね」
「ハ、ハート……」
「そう、今告白できれば、明日の自由行動で私服で二人っきりのラブラブデートの可能性だってあるわ!」
「デ、デート……」
「幸いにもいいんちょもまき絵もいないし、ほかの面子は私と夕映で何とかするわ!」
「ファイトです、のどか」

ハルナの意見を半分程度に聞いていた夕映だが、この機会を逃すと次にのどかが告白出来る機会は何時になるか分からないだけに励ましの声を掛ける。

「よし、まずはネギ先生と二人っきりにしてあげようか?」
「ですね」

のどかに背を向けてハルナと夕映は一目散に駆け出す。

「そ、そんなこと言われも〜こ、心の準備が〜〜?」

思いっきり慌てた様子で二人の行動を止めようとするのどかだが……恥ずかしげに出た声に力なく、伸ばされた手にも力なく二人には届かなかった。



木乃香が腕を絡めて引っ張ってくるのが気恥ずかしくて刹那がか細い声で注意する。

「お、お嬢さま……こ、困ります……」
「せっちゃん!」
「は、はい!?」

なぜか不満げに刹那を見つめる木乃香に大いに焦る。

「お嬢さまなんていうのはダメやで!」
「し、しかし……」
「そんなにうちのこと嫌いなんか?」
「と、とんでもありませんが……」
「なら昔みたいに呼んでや、せっちゃん」

刹那にすれば、主家筋に当たる木乃香を馴れ馴れしく呼ぶのは不味いと思うだけに困惑する。
こうして久しぶりに仲良くできる事は感謝しているが、刹那は色々後ろめたい事情があるだけに途惑いを隠せなかった。



「…………微妙にラブ臭っぽい匂いがするわね」
「そーかな? 久しぶりに幼馴染が仲良くしているだけじゃないの?」

アスナを強引にネギから離して、三人は刹那と木乃香の様子を影から隠れて見ていた。

「いや、桜咲は引き気味だけど、内心では嬉しいはずだよ♪」

六班のメンバーをネギから引き離そうと画策した夕映とハルナだが気が付けば……ネギとアスナの二人っきりという状態になっていた。

「なあ……リィンフォースと茶々丸はいつもああなのか?」

ハルナの視線の先に居るリィンフォースと茶々丸の様子に夕映とアスナは微妙に途惑っている。

「あれじゃあ、まるで娘と母親って感じなんだが?」
「わ、私に聞かれてもね……」
「ですが微笑ましい気もしないわけではないです」

休憩所兼甘味処の茶店の前にあるベンチで茶々丸の膝に頭を乗せる……ありていに言えば膝枕をしているリィンフォース。
お昼寝と言わんばかりに目を閉じて休み、茶々丸はとても幸せそうな表情で優しく髪を撫でていた。

「昨日なんかあったのか?」
「ど、どうだろ?」

裏事情を知っているアスナは誤魔化すように明後日の方向を向きながら話す。

「邪魔するのも野暮ではないでしょうか?」
「ま、まあそうかもな。
  と、ところでエヴァンジェリンは何処?」
「……大仏拝んでいたわ」

真祖の吸血鬼が大仏を拝む姿に……非常に違和感を感じていたアスナが疲れた顔で話す。

「そういえばザジさんはどちらへ?」
「……鹿相手にジャグリングを披露中」

鹿を相手に自分の芸を見せるザジの姿に芸人魂を感じてアスナはツッコミを入れるべきか、褒めるべきか悩んでいたみたいだ。
奇しくも自分達の思惑通りに展開した流れにハルナと夕映は顔を見合わせて、のどかの告白が上手く行くように願っていた。




「皆さんとはぐれましたね」
「そ、そうですね」

ネギと二人っきりという状況に今にも心臓が爆発しような気がしながらのどかは会話を続ける。

「しかし、おみくじが大凶というのは複雑な気分です」
「そ、そうですね」

波乱万丈という格言が書かれた大凶のおみくじを引いたネギは顔に縦線効果を見せながら涙目になっている。
この学園に教師として赴任してから今までの事を思い出せば……まさに波乱万丈と言わざるを得ない。

「で、でも……思い出がたくさん出来るのは良い事だと思います。
  こ、こうしてネギ先生と出会えた事は……え、ええっと良い事だと(ここで上手く言えたら〜〜)」
「それもそうですね。僕も皆さんと出会えた事は嬉しいです」
「ネ、ネギ先生〜〜」

嬉しそうに微笑むネギの顔を見てのどかは幸せな気持ちになっていく。

「えへへ♪」
「あはは」

互いに楽しそうに微笑んで幸せな気分に浸る。
そして、のどかは自分が感じていたものを話しながら徐々に熱を帯びた顔になっていく。

「ネギ先生は時々遠くの何かを見つめてますね?」
「え、ええと……」
「何ていうか、とても大切な夢か、目標があって……それに向かって走っているような気がするんです」
「そ、そうでしょうか?」
「はい。そんなネギ先生を見ていると……勇気を分けてもらえた気がして頑張ろうと思うんです」
「の、のどかさん?」

真っ直ぐに自分を見つめてくるのどかにネギは自分でもよく分からない感情にドキドキしている。

「私、ネギ先生のこと出会った日から好きでした!」
「…………え?」
「わ、私……私、ネギ先生のこと大好きです!!」

真っ赤な顔で必死に自分の想いを告げるのどかだが、言われたネギのほうは思考停止している。

「え……え、ええと……?」
「い、いえ、急にこんな事を言われても……迷惑だと思いますが……私の気持ちを知って欲しかったんです!」

ネギが困惑しているのを見ながらのどかはありったけの勇気を出して告げた。

「失礼します、ネギ先生―――!!」
「あ……えぅ…………あぅ〜〜」

去って行くのどかに手を伸ばすのが限界だったみたいで頭の中をグルグルと駆け回る問題にネギはパニック状態に陥り、

「どうした、ぼーや?」
「ああああ……」

偶然通り掛かったエヴァンジェリンの声に辛うじて反応したが……力なく倒れていった。

「お、おい! ぼーや!?
  ちっ! 敵の攻撃か!? 感じからして精神攻撃の類か?」

状況が掴めずに一番起こり得る可能性を考えて周囲を警戒するが、特におかしな気配もなく……。

「エ、エヴァちゃん!?」
「む、神楽坂か? ちょうどいい……ぼーやを背負え」

ハルナ、夕映を伴って現れたアスナに指示を出す。

「……知恵熱という奴ですね」
「まだお子様に告白イベントは酷だったか?」
「告白? まさか宮崎 のどかがか?」

おおよその事情を察してエヴァンジェリンは心配した自分がバカみたいに思えていた。

「…………宮崎は子供好きだったのか?」
「違います。普段のネギ先生の可愛いところではなく、時折見せる真摯な……年上に見えるところが好きになったそうです」
「ふむ……確かにぼーやは大きな目標を持っていて、日々精進しているからな。
  なかなか人を見る目があるではないか」
「つまりエヴァンジェリンさんはネギ先生の事情を知っているんですね?」

エヴァンジェリンは浮ついた気持ちではなく、きちんとネギを見て告白したのどかを感心している。

「知ってるぞ……だが、ぼーやが話さないことを勝手に話すわけにも行かないから教えはせんよ」
「いえ、根掘り葉掘り聞く気はありません」
「ま、そのうちぼーやが話してくれるのを待つんだな」
「そうですね。ネギ先生は真面目な方ですからのどかの想いを踏み躙る事もないでしょうから教えてくれるでしょう」
「それより、そろそろ集合時間だからリィンちゃん達がいるベンチへ行くわよ!
  パルはこのかと刹那さんを探して連れてきて」

ネギを背負いながらアスナが帰る為の準備を整えようとする。

「オッケー探してくるよ」
「では私は「夕映ちゃんは本屋ちゃんのフォローをお願い!」……了解です」
「お願い……ネギがこの調子だから本屋ちゃんもパニックかも知れないから」
「否定できんな。宮崎も罪作りな事をしたものだ。
  ぼーやに色恋沙汰など十年早いと思うんだが……これも試練ということか、それとも父親譲りの才か?」

ヤレヤレと肩を竦めてエヴァンジェリンが誰に言うわけでもなく呟く。
ネギの父親であるナギも千人の女性と仮契約した男などと眉唾物の噂を持っているだけに変なところばかり似て如何するという気持ちになっていた。





なんとかホテルへと帰ってきた一行だが……、

「……重症だな」
「あ、兄貴ー」

エヴァンジェリンが端的に告げる言葉に反応してカモがネギの側に走っていく。
茫然自失――今のネギを一言で表現するのならピッタリだろうと関係者は思っている。

(……の、のどかさんに……告白された……)

(奥ゆかしい日本女性に告白された以上……せ、責任をって僕まだ十歳だし!?)

(ネギ、先生が生徒はそんな関係になっちゃいけないのよ)

脳裡に浮かぶ姉ネカネの注意に混乱の度合いは更に深める。

(うわぁ―――!! ぼ、僕は先生失格だぁ―――ッ!!)

考えが上手くまとまらず二進も三進も行かない様子でネギはロビーで全身で自身の苦悩を表現していた。



「もう一杯一杯よね」
「ええ(それにしても、宮崎さんは勇気があって……羨ましいかも)」

アスナがネギの様子を見ながら苦笑いし、刹那はのどかの勇気に自分の情けなさを痛感して複雑な気持ちになっていた。

「ま、こればかりはぼーやが自分自身で決断しないとな」
「色恋沙汰の対応は苦手だから放置よね」
「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られると言いますので、当事者同士で解決するのが一番だと判断します」

エヴァンジェリン、リィンフォース、茶々丸の三人は我関せずの方針を打ち出していた。



一方でネギの様子が変な事に何があったのか詮索するクラスメイトの存在もある。
ネギに「どうかしたのか?」と聞いたら……「告白が!」などと言いながら逃げたので、誰かに告白されて大混乱しているとの結論に到達していた。

「一体誰がネギ先生に告白を!?」

怪気炎を背負って叫ぶいいんちょこと雪広あやかを筆頭にネギが気になる面子と恋の鞘当てを間近で見たいと思う面子がある人物へと調査の依頼をしようとしていた。

「ええっ!? 先生と生徒の淫行疑惑だって!?」

麻帆良のパパラッチの異名を持つ朝倉 和美。

『ええ――っ!? ネ、ネギ先生がエッチなことをしたんですか!?』

そのパートナーを務める幽霊少女相坂 さよ。
リィンフォースがその隠密性が高く、なかなか気付かずにいて半年以上掛かってようやく発見し、ネギに対する嫌がらせを兼ねてユニゾンデバイス形式の魔力で編んだ仮想ボディを与えた人物。
……"二人は麻帆良のパパラッチ"と言いたい訳ではないが、なかなかの名コンビである事に間違いはなく。

「…………ふぅ、つまり誰かがネギ先生に告ったわけね」
『そうだったんですか……もうビックリしましたよ』

あやかから事情を詳しく聞いて肩の力が抜けたみたいだった。

「でもさー色恋沙汰はスクープするのはちょっとねー」
『ダメですよ。人の恋路を邪魔するなんて……』

スクープネタとしては面白いが、おおよその事情を察した和美は今ひとつやる気がなく、相方のさよも真面目な意見を出して注意するが、

「何を仰いますか! 充分許されざる行為ですわ!!」
「『そうかー(ですかー)』」

あやかを筆頭に知りたいという気持ちを押し出してくれる面子に和美とさよの注意は跳ね返されてしまう。

「とにかく! 誰が告白したのか、調査して欲しいのですわ」
「頼んだよ、朝倉!」
「お願いね!」

ネギ大好きのあやか、まき絵の二人と興味本位で突っ走る明石 裕奈の声援を受けて二人は調査に乗り出す羽目になったとさ。

「う〜ん……大体の見当もついてるし、正直気が進まないな」
『私はよく分からないんですけど……出来れば記事にしないほうが良いと思いますよ』
「だよねー。こういうのは大概表に出すと傷つく事が多いもんね」

ゴシップネタを記事にするのも嫌いではないが……誰かを傷つけるような記事を書くのは和美の本意ではない。

「……適当にお茶を濁してうやむやにしておくのがベターだね」
『リィンさんに相談するのはどうですか?』

さよにとっては頼りになる存在であるリィンフォースに相談するという選択肢が一番に思えたので和美に勧めてみる。

「それは最後の手段にして、まずは当事者に事情聴取しちゃうわ。
  上手く行った時の独占インタビューネタを仕入れてからね」

和美はのどか達の部屋に赴いて事情を尋ねる事から始めた。

『……記事には出来ませんね』
「……ゆっくり進む恋っていうのもあるさね」

一途にネギへの想いを恥ずかしそうに話すのどかを見た二人は記事としてはダメだと思いつつ、

「あとはもう一人の当事者にインタビューして……それでお終いかな」
『他の修学旅行の記事を探しましょうね』
「何か、血沸き肉躍るネタが出ると良いんだけどね……おっとネギ先生発見!」

肩透かしの気分でネギの後姿を見つけて追跡を開始した。

「…………煤けてるな〜」
『今にも倒れそうですね』
「やっぱ十歳の先生にはちょっと告白はショックだったかな?」
『みたいですね』

足取りも重く、フラフラと身体を揺らしながら歩くネギを見た和美は苦笑している。

「あららー何かお悩みみたいだね―――」
『あ、子猫さん♪』
「ホントだ」

自動ドアを抜けて外へと出て行くネギの足元にいる真っ白な毛並みの子猫をさよが発見し、和美も気付いた。
フラフラと歩くネギに構って欲しいのか、じゃれつくように周囲を回っていた子猫はネギの反応が無い事に気付いて道路へと飛び出して行く。

「ちょっ! ネ、ネコが!?」
『ダ、ダメですよ!?』

和美とさよが慌てて道路に飛び出した子猫を捕まえようと動き出す時、車が子猫に気付かずに向かってきた。

(し、死んだ―――!! ネギ先生!?)

子猫が危ないと気付いたネギが慌てて道路に向かって走り出すのを見て、和美は最悪の場面を想像して真っ青になるが、

――ラス・テル・マ・ステル・マギステル 風花風障壁!!

「へ!?」

ネギが何かを呟いて車を一回転させて飛ばす光景に唖然としていた。

『はわわ〜〜ネギ先生も魔法使いだったんですね〜〜』
「はい?」
『あ゛……今のは聞かなかったことに!!』

相方のさよがとんでもない事を口走っているのを耳にして……ぎこちなく顔を隣にいるさよに向けた。

『そ、それじゃあ……お風呂の時間ですからまた後「待ちなさい」で―――ふ、ふええ〜〜』
「さーキビキビ話してもらおうかな♪
  こんな大スクープネタを私に隠すなんて、さよちゃんもワルよね♪」
『はわわ〜〜』
「ネギ先生以外にも魔法使いがいるのなら知っておく必要があるのよ。
  さー洗いざらい聞かせてもらおうかな♪」

和美の肩から離れて逃げようとするさよを捕まえて微笑みながら尋問を開始する。
涙目になってさよはパニック状態へとひた走っていた。


この後、潜入スパイのようにネギへと近付いたが、更に問題を押し付けられたネギはパニック状態になって風呂場で風の魔法を暴発させて有耶無耶にする。
その隙にカモが朝倉に接触して味方へと引き込んだ。
この行動が更なる混乱を巻き起こすとはこの時点では誰も考えていなかった。

3−A組による一大イベント――"ネギ先生とラブラブキッス作戦"――へのフラグが立った瞬間だった。



活目して次回を待て!!(なんちって……期待しちゃダメですからね!! byさよ)








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

二人は○リキュアならぬ、二人はパパラッチ♪
ネギが魔法使いだという事がさよの自爆で見事に和美にバレました。
いよいよ次回はラブラブキッス作戦の開幕です。
ネギの可憐な唇を奪う強者は誰か?

活目して次回を待て!




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