修学旅行中の相談時の定番となったホテルのロビーでメンバーが集まり、

「ええっ! 朝倉にバレた―――!!」

困った顔で状況を報告するネギに聞いていたアスナが開口一番に叫んだ。

「ネギ! リィンちゃんに注意されたのに、何で安易に魔法を使うのよ!
 あんたさーそんなにオコジョになりたいの!!」

「困りましたね……よりにもよって朝倉にバレるとは」
「リィンちゃんとエヴァちゃんに相談したの?」
「で、できませんよ! そんな事したら……朝倉さんが危ないじゃ ないですか!」

アスナの質問にネギが思いっきり慌てた様子で返事をする。
ネギに言われたアスナも二人の考え方や行動パターンを頭に浮かべて複雑な思いに囚われていた。

「あ、ああ……あの二人なら口封じとかしそうね」
「たしかに……武闘派ですから否定できません」

アスナも刹那も二人の性格を知るだけに……祭壇に捧げられる子羊の如く朝倉 和美の最期をひしひしと感じている。

「あ、あの――……」
「朝倉……悪い奴じゃなかったけど……」
「命運ここに尽きたというべきでしょうか?」
「お葬式って学生服で良かったわね?」
「はい、学生ですから喪服でなくても良かったはずです」
「香典って要るの?」
「いえ、学生ですしクラス一同という形で出すのが一番じゃないかと」
「そっかー、一応苦学生というか、奨学金で学費とか出しているから出費は出来る限り避けたいのよね」
「私も出費はちょっと避けたいですね」
「あ、あの! 朝倉さん はまだ生きてますよ!」

朝倉 和美、暁に死す、もしくは闇に死すという予定が既に決定したかのように話し合う二人にネギが悲壮感を見せながら話す。

「ネギさー……あの二人が見逃すような甘い人物に見えるわけ?」
「え、ええと…………すみません」

アスナの問いに対してネギは沈痛な表情を見せて返答していた。
日頃の行いを知るものならではの諦観気味の意見だった。


そんな時に打開策を相談中の三人の元へカモを肩に載せて和美がやって来た。

「あ、朝倉! 無事だったの!?」
「へ?」
「朝倉さん! どうやって逃げ延びたんですか!?」
「は? ちょ、ちょっと?」
「まさか、あの二人の弱みを握って脅かしたんですか!?」
「ウソッ!? そんな事できるなんて、あんたも……もしかして人外の存 在?」
「いや、意味が分かんないんだけど?」

アスナ、ネギに刹那の声を聞いても、全然意味が分からずに和美は首を捻るばかりだった。

「……まあ、何となく事情は分かったぜ」

三人が何を言いたいのか分かったカモは人知れず一粒の涙を落としていた。


……ちなみにさよの方は涙目でリィンフォースに事情を話して泣き付いていた。

『ご、ごめんなさ〜い』
「あー気にしなくて良いから」
『あ、朝倉さんを殺さないでください〜〜』
「……さよちゃん、私をなんだと思っているのよ」

口封じに朝倉和美を殺すような人物とさよから思われてちょっとショックだったリィンフォースが居た。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 十七時間目
By EFF




「そ、そう(いや、マジでやばかったとは思わなかったわね)」

三人から事情を聞いた和美は額に冷や汗を流しながらやや焦った顔でいる。
まさか自分の命が風前の灯とは思わずに、何処か大丈夫だと安 易に考えていたのを否定されたので焦らない方が無理かもしれなかったのも当然だった。

「いやーエロガモにしてはいい仕事したじゃない」
「俺っちも兄貴の役に立つってとこを見せねえとな」

アスナが微妙に扱き下ろす言い方でカモを褒めているのを背景にネギは和美と話している。

「ま、独占インタビューして公表したかったけど、結構やばそうだし……個人的に知る事で我慢するわ」
「すみません。魔法の秘匿は義務付けられているので」
「しょうがないか……ホレ、今まで集めた証拠写真もあげるわ」
「わ、わぁ――い! よ、良かった―――ぁ、これで一つ問題が解決しました」

一つの問題の解決を諸手をあげて喜ぶネギ。
しかし、ここで終わるほど現実は甘くない事を彼は知らなかった。



カモは和美を連れて最大の難関の元に足を運んでいた。

「何? 仮契約を兼ねたイベントをしたいだと?」

既にラブラブキッス作戦という名のパクティオーカードゲット作戦は始まっている。
魔法陣は書き終えて、3−Aからの参加者も集まりつつある。
しかし、ネギの師匠であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの許可がなければ、本作戦の失敗は間違いなく……最悪は死あるのみなのだ。

「へい……ここらで兄貴の戦力強化をしておくべきかと思いまして」
「ふむ、確かにぼーやの戦力を強化するという意見は考慮する余地がある」
「それじゃあ「だが、今増やしても即戦力にはならんぞ」――」

腕を組んでエヴァンジェリンが現状を考慮して意見を述べると、

「それは承知してますが、兄貴には重石がないと危ない気がするんっスよ」
「なるほどね、ネギ少年が危ういのは事実だよね」
「否定できませんね。ネギ先生は自身の身を守る感情が希薄な時が見受けられます」

カモがネギの危うさを指摘し、リィンフォース、茶々丸からの同意が出た事にエヴァンジェリンは自身が今まで見てきた人間達を思い返して一考する。

(確かにぼーやはリィンフォースと同じようにアンバランスな部分が確かにあるな。
 リィンフォースの場合は成長する事で改善する可能性があるが、ぼーやの場合は難しいか……)

リィンフォースの精神面のバランスの悪さは成長する事で補える。
しかし、ネギの場合はそうも行かない。
一途にナギの背を見つめ……ナギになろうとしている点が確かに存在しているのをエヴァンジェリンは師匠として気付いていた。

(ナギはナギ、ぼーやはぼーやなんだが……ずいぶんとまあ歪に成長したものだ。
 なまじ賢い頭があるだけに妙に悩むというか、考え込む点はナギとは違うが……別の意味でナギとは違うアホだな)

思考が回廊のようにグルグルと回り続ける時があるネギ。
それとは正反対に何も考えずに突っ走るだけのナギ。
思考が硬直しがちな息子と何も考えない父親……極端に似てないくせに思い込んだら真っ直ぐに突っ走る点だけは似ている親子の姿を思いエヴァンジェリンは苦 笑している。

「……良いだろう。ただし六班は不参加で六班枠は参加したい奴にくれてやれ。
 ぼーやには足手まといが居る方が強くなれるからな」
「すんません、真祖の姐さん」

作戦のゴーサインを頂いた事にカモは頭を下げて礼を述べる。

「エヴァってイジメっ子だね?」
「……否定できませんね」
「何を言うか! ぼーやを強くするために心を鬼にしているのが分からんの か!!」
「あ、ああ……いけません、マスター……そ、そんなに巻かれては……」

茶々丸の肩に乗って頭のゼンマイを巻き始めるエヴァンジェリン。

「リィンフォースの姐さんは真祖の姐さんとパクティオーしないんですか?」
「やだ」
「なんだと!! 私の何処が不満なのだ!?」

カモのさり気なく尋ねた言葉にエヴァンジェリンが泣きそうな顔でリィンフォースに問い詰める。

「そんなの決まってるじゃない。私はエヴァの友人でありたいの……従者も悪くないけど、対等でいたいの」
「む……」
「それにさ、従者だったらこうして甘えたら不味いでしょ♪」
「コ、コラ、膝に頭を乗せるな」

エヴァンジェリンの膝に頭を乗せて甘えるリィンフォースにカモと和美はヒソヒソと小声で話し合う。

「カモっち、本当にエヴァちゃんって最強なの?」
「いや、マジな話だぜ。ああ見えても元600万ドルの賞金首だったんだよ」
「……全然見えないわよ」

和美の視線の先に映る光景にカモは複雑な気持ちになっている。

「髪が痛むからあまり動くな」
「エヴァの膝は茶々丸とは違う感じがする」
「当たり前だ。私のほうが茶々丸より良いだろ?」
「それはどうでしょうか?」
「…………嫉妬か、茶々丸?」
「そ、そ、そんなことは……」

エヴァンジェリンの指摘に茶々丸は動揺したのかカクカクとぎこちなく妙な動きで否定している。

「ホームコメディーに見えるのは気のせいかな?」
「……否定できねえな。だがよー真祖の姐さんの封印がなければ、あの三人が麻帆良学園最強チームらしいんだぜ」

カモの言い分を聞いても和美にはとてもじゃないが信じられずにいた。
しかし、カモも飛び抜けた強さだとは思っていない。
実際には麻帆良学園都市を灰燼に帰するほどの戦闘力があるとは目の前の光景を見ている限り想像出来ないのも事実だが。

「マスター、そろそろ外出用に着替えるべきではありませんか?」
「む……茶々丸よ、まだ急ぐほどの時間ではないだろう。いざとなれば空間転移で移動すれば良いだけだぞ。
 まさかとは思うが……本当に拗ねているわけではないだろうな?」
「…………め、滅相もありません」
「その微妙な間はなんだ?」

ジト目で睨むエヴァンジェリンに茶々丸は目を逸らして立ち上がり二人の着替えの準備を始める。

「あれ、二人ともお出掛けするの?」
「ああ、京懐石の店に食事にな」
「ええっ!? 木乃香の姐さんの警護はどうするんっスか!?」
「刹那とアスナに任せる。私達は食事のついでに関西呪術協会の強硬派の面子を狩ってくるから」
「ふぅ……面倒だな」
「何を言うかと思えば、仕事をしているのは私でエヴァは見ているだけじゃない」
「では一時的にも封じを解け」
「茶々丸〜ぅ、エヴァがいじめるよ」
「マスター、リィンさんを困らせないで下さい」
「お前はいつもリィンを庇うんだな!」
「マ、マスター、そ、そんなに巻いては……」
「ダ、ダメだよ。茶々丸をいじめないで!」

茶々丸の反抗に頭のゼンマイを巻いて黙らせようとするエヴァンジェリンを慌てて止めようとするリィンフォース。

「カモっち……ホントに強いの?」
「……俺っちも自信がなくなってきた」

ホームドラマの様相を見せ始めた三人に和美は脱力し、カモは今まで見てきたものが幻だったのかと考え始めていた。
エヴァンジェリンの承認を得た事で修学旅行のイベント――ネギ先生とラブラブキッス作戦――の開催が正式決定した。



ルールは巡回中の新田先生の目を掻い潜ってネギ先生にキスを する。
各班より二名ずつ選出し、各班対抗戦とする。

武装は各部屋にある枕を使用。
妨害あり……ただし派手に騒げば新田先生に発見される可能性あり。
なお新田先生に発見された場合はホテルロビーで正座によるリタイア。
死して 屍拾う者なし!!

また結果を予想するトトカルチョを開催予定。
班&個人の連勝複式形式。

また本作戦の成功者には豪華特典あり♪

なお六班は不参加表明のため……他班より更に参加したい者は朝倉まで。
先着の二名を以って六班枠として参加を認めるとの事。
開始時刻午後十一時、終了時刻は翌午前一時までの二時間とする。


第一斑
鳴滝 史伽&風香

「あぶぶぶ〜〜。お、お姉ちゃ〜ん……正座いやです〜〜」
「大丈夫だって。僕らにはかえで姉から教わっている秘密の術があるから♪」
「だ、だから〜そのかえで姉とぶつかったらどうするの〜」

涙目で逃げる事を訴える史伽に聞く耳持たずにこのイベントを楽しもうとする風香の姿がモニターに映る。


第二班
長瀬 楓&古 菲

「一位になったどうしようアルか〜〜。
 ネギ坊主は弟子とはいえ、強くなれる才を持ているから……このまま婿にするアルかな〜」
「ん―――♪」

嬉し恥ずかし初キッスを想像しながらも、さり気なく婿取りも考える古 菲。
そんな古を楽しげに見つめる楓の姿が画面に映っている。


第三班
雪広 あやか&長谷川 千雨

「うぐぐ……なんで私がこんな事を……(那波の奴〜〜逃げやがって! 大体、朝倉もこんなバカイベントをやるなよ)」
「何をブツブツ言っているんですか!
 ネギ先生の麗しい唇を守るという崇高な使命があるというのに!」

やる気無しという空気を纏う千雨に過剰なまでの使命感を胸に秘めて?突き進むあやか。
チームワークが見事に噛み合っていない二人の映像がそこにあった。


第四班
明石 裕奈&佐々木 まき絵

「よ―――し♪ このイベントに勝利するぞ!」
「エヘヘ―――♪ ネギ君とキスか――んふふ♪」

気合十分の裕奈と結構気になる少年との初キッスを思い浮かべるまき絵。
若干方向性は違うが勝つ事に集中しているチームが廊下を歩いていた。


第五班
綾瀬 夕映&宮崎 のどか

「ゆ、ゆ、ゆえ〜〜」
「まったく……うちのクラスはアホばかりです。
 のどかが勇気を振り絞って告白したばかりなのに……」
「あ、あのね……ゆえ、これはクラスのイベントだから〜」
「いいえ、勝つのです!
 ネギ先生は私が知る中でも最もマトモな部類に入る男性です。
 のどか、あなたの選択は間違っていませんです」
「ゆ、ゆえ……」

親友の為に勝利へと貢献しようとする夕映と、その彼女の為に恥ずかしくても頑張ろうとするのどか。
チームワークという点では最高かもしれない二人が出陣した。


第六班枠
村上 夏美&早乙女 ハルナ

「ち、ちづ姉のバカ〜〜」
「夏美も大変だね〜」
「そりゃさ……いいんちょには世話になっているし、力を貸すのは良いけど……なんで私なの?」
「ま、夕映がいれば大丈夫だと思うけど……のどかに賭けた食券の為に一頑張りしますか♪」

同じ班の那波 千鶴の心温まる説得という名の圧力に押し出された不遇な夏美。
友情と報酬を手にする為にサポートしようとするハルナ。
勝つ気はなく、友人のバックアップの為に動く二人が第六班の代わりに出陣していた。

『ネギ先生とラブラブキッス作戦!! いよいよスタ――トっ!!
 実況は報道部 朝倉がお送りします!!』

……運命の決戦の火蓋が切って落とされた。




―――少し時間は遡る。

ネギは教員用の部屋で休憩していた。

「は―――もうすぐ11時か……今日も大変だったな」

ようやく一日が終わると安心したネギは一息吐いていたが……、

―――ゾクっ!!
「な、何なんだろ……妙な寒気が?」

背筋を駆け上がってくる悪寒に一抹の不安を感じていた。

「ネギー周囲の見回り行ってきたよ」
「特に異常はありませんし、結界の強化も完了しました」
「あ、ご苦労様です」

ちょうどその時、部屋に入ってきたアスナと刹那に労いの声を掛ける。

「……どうかしたの、ネギ?」

ネギの顔色が悪い事に気付いたアスナが尋ねる。

「い、いえ……何て言えば良いのか?
 な、なんか異様な空気を感じて」
「そう?」
「た、確かにおかしな気を感じますね」

アスナは特に何も感じていない様子だが、刹那は周囲を見渡して自分なりの感想を述べていた。

「では、今度は僕が見回りに行きますからお二人は休んでください。
 この部屋から出たら大丈夫な気がするので」
「……それではネギ先生、この"身代わり紙型"をお使いください。
 これは簡単な命令を忠実に守る分身が作れますので、この部屋で休ませておけば怪しまれないでしょう」
「へー便利な物があるのね」

刹那が数枚の人型を模した紙をネギに私説明するとアスナが感心したように聞いていた。

「どうもありがとうございます、刹那さん」
「じゃあさ、刹那さん。木乃香を連れてお風呂に行こうか?
 ザジさんが木乃香と交代で今夜は三班の部屋で休むってリィンちゃんが言ってたから」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、その方が警護しやすいって話してたわ。
 一時くらいには帰ってくるって言ってたし、それまでは私と刹那さんで守ろうね」
「わ、わかりました」

事情を説明しながらアスナは刹那の手を取って木乃香のいる部屋へと向かう。

「と言うわけで何かあったら六班の部屋に来てね、ネギ」
「分かりました、アスナさん」

アスナは部屋を出て行く前に振り返ってネギに話しておき、ネギもきちんと頷いて返事を返していた。
この後、ネギは身代わりの紙型に何度か失敗しながらも自分の名を書いて紙型に寝る指示を出して部屋から出て行った。


だが……ここで一つのミスをネギは犯す。

「こんにちは、ぬぎです」
「みぎです」
「ホギ・ヌプリングフィールドです」
「やぎです〜〜」

失敗作の紙型の処理を刹那から教わっていなかった為に複数の分身を生み出していたのだった。
この事が事態を更に混迷させる一因となり、ラブラブキッス作戦を面白おかしくさせるとは……まだ誰も知らなかった。




慎重に周囲を警戒しつつ裕奈、まき絵のコンビはホテルの廊下を歩いていく。

「ゆーな、ゆーな」
「ん、はいな?」
「ネギ君は教師部屋に居るけど、そこには新田先生も居るけど……どうするの?」
「ふ、決まりきった事! 邪魔者は排除するのみ!」

まき絵のごく当たり前の質問に対して裕奈は雄々しく返事を返すが、よくよく考えると後の事は全く考慮してない意見だった。


意気込みだけはおそらく参加者一のあやかだが、もう一人の参加者の千雨は、

「な、なあ……部屋に戻っていいか?」
「往生際が悪いですわよ、千雨さん。
 私達がネギ先生の唇を守らずして、誰が守るというのですか!」

時間が進むに連れてテンションだけが下がって行き、

(さっさと帰りたいんだよ!!)

時間を無駄に使っているという気持ちだけが高まるばかりだった。
そんな状態で四人は接敵した。

「ん?」
「あ?」
「―――っ! いいんちょ!?」
「まき絵さん! 勝負ですわ!!」

最大のライバルとの遭遇に即座に反応したのはあやかだが、まき絵も反射的に行動して、

「も゛っ!!」 「ぷっ!!」

互いにその手に持った枕がほぼ同時に顔面へと叩き合う形になっていた。

「もへっ……」
「チャンス! でかした、まき絵! いいんちょ、トドメだよ!」

相打ち気味の状態で倒れゆくまき絵のフォローに裕奈が入ると、

「オイオイ……ガキの遊びにムキになんなよ」

気合十分の裕奈に呆れた目を向けながら千雨が足を出して体勢を崩していく。
二対二の状況下となるはずだったが、混迷の度合いを深めるように第三勢力の二人が乱入する。

「おおっ、エモノたくさん発見アル♪」
「ニンニン♪」

第二班の楓と古の二人が四人の戦いに介入。

「チャイナピロートリプルアタ――ック!!」

両手と右足の指で挟んでいた枕を投げてあやか、千雨、裕奈の三人にダメージを与えた。

「にょほほ♪」
「ぐぐ、やりましたわね」

膝をつきながらあやかは気迫を全身に漲らせて古を見つめる。

(ネギ先生! あやかに愛の力を!!)

脳裡に浮かぶネギの笑顔を胸に綾香は雄々しく立ち上がり反撃を開始する。

「ム、やるアル! いいんちょ!」
「当たり前です! 私のネギへの愛は不滅です!!」

あやかの気迫溢れる姿に古が楽しげに笑い、構えを取る。

「……楓、いいんちょは私がもらうアル」
「ならば、他の面子は押さえるでござるよ」

古とあやかの一騎討ちの邪魔をさせないために、楓は他のメンバーの牽制に回る。

『おお――っと! 開始早々三つ巴の大乱闘が始まった――っ!!』

各部屋にあるモニターには三つ巴の戦いが映っていた。



「これはチャンスね♪」
「そ、そうなの?」

三つ巴の戦いを影から見つめていたハルナと夏美。

「おそらく第一斑は楓直伝の忍術で天井から忍び込むはず」
「な、なるほど……」
「第五班は図書館島探検部の実力を発揮して屋根伝いに移動しているはず」
「そ、そうなんだ」

自信満々に移動方法を予測するハルナに夏美が感心したように聞いている。

「長谷川は運がないから新田に捕まるだろうから……」
「そ、それはどうかな?」
「いや、間違いないね」

ハルナが身に付けているメガネが放つ怪しげな輝きに夏美は気圧される。

「私達はこの場を大きく迂回してネギ先生の部屋の前で待機して援護でどう?」
「……あそこに乱入するのはヤだから行こうか」
「よし! 行こう」

体力面で自信がない夏美はハルナの意見に賛同してこの場を後にした。

「コラ―――っ!! 長谷川、待ちなさい!!」
「ギャアァァァ――――!!」


ハルナの予測通り新田の手に掛かった千雨の叫びをBGMにして……。


『おおっと長谷川選手! 新田先生に捕まったぁ――――!!』

モニターからの声に見ていた生徒が千雨の冥福を祈りつつ、俄然面白くなってきた展開にワクワク胸を躍らせている。

「逃げるでござるよ」
「そうアル」

新田の怒鳴り声を聞いて楓と古は即座に反応し、あやかとまき絵も反応したが、

「はぶっ!!」

即座に反応できず、四人に突き飛ばされる形になった裕奈は……、

「明石――――ィ!!」
「ヒィィィ――――!!」


背後から現れた新田の迫力に退路を断たれて捕縛された。


『三班、四班の長谷川選手、明石選手がリタイヤだ―――っ!!』

画面にはホテルのロビーで怒り心頭の新田の前で正座し、涙目の裕奈と理不尽な叱責に憤りを隠せない千雨の二人の姿が映っていた。



同時刻、夕映とのどかの二人はハルナの予想通りホテルの屋根を伝って移動していた。

「ゆ、ゆえ〜〜……」
「む、なんですか……急ぎますよ」

地図を片手に屋根を匍匐全身する夕映とのどか。

「な、なんでネギ先生のところに行くのにこんなとこを通るの〜……これって部活みたい〜」
「正規のルートでは新田先生の部屋と繋がります。ここは裏手の非常口から入るのが一番です」
「で、でも非常口の鍵はどうするの?」
「こんな事もあろうかと思って既に開錠済みです」
「す、すごいね……ゆえ〜〜」

非常口の前に立ち、ゆっくりと周囲を警戒しながら扉を開ける夕映。

「そこの304号室がネギ先生の部屋です。
 私がドアの前で警護しますのでそのうちに」
「え、ええっと……あ、ありがと〜〜」

夕映のフォローに感謝しながらのどかはドアに手を掛けた時、

「あ……五班?」
「やるですよ! 史伽!!」

天井から縄梯子で降りてきた第一斑の二人と更に、

「およっ! 見つけたアルよ――!」
「でござるな」

反対方向から現れた第二班の二人に挟まれてしまった。

「のどか、ここは私が何とかするです!」
「ゆ、ゆえ!?」
「は、早く入って!!」

のどかを突き飛ばしながら304号室へと押し込み夕映はドアの前を塞ぐ形で立つ。
一対四という逆境に夕映が立とうとした時、

「フフフ……親友の愛と友情を守るのは夕映だけじゃないわよ!」
「む、誰アルか!?」
「ハ、ハルナ!!」

古と楓の更に後方からハルナと夏美の第六班枠を使って参加した二人が現れた。

「……いいんちょはいないけど、まあ良いか」

気合十分といった様子で颯爽と現れたハルナとは別に夏美は投げ遣り気味の様子で枕を手にして立っていた。

「はっちゃけないとダメ……なんだね」
「そうそう♪ ここまで来たら腹括んないと♪」

この面子を相手に今更な意見を呟いて夏美は参加した事を悔やんでいる。

「ち……」
「ち?」
「ちづ姉のバカァ――――!!」

キレたのか、ヤケクソになったのか、夏美は両手に持った枕を駄々っ子パンチのように振り回して突貫する。


『おおっと村上選手がキレた―――ッ!!』
「夏美ちゃん……素敵よ♪」

那波 千鶴は実況の朝倉の声を聞きながら微笑ましく……夏美の暴走を見ていた。


一方、廊下での大乱戦とは別に304号室内ではのどかの戦いが始まっていた。

「ネギせんせー……その…キ、キスしますね?」

布団で眠るネギの顔をじっくりと見つめながらのどかは自分の顔をネギへと近付けるが、

「キスですか?」
「キ〜ス〜〜しても〜」
「それは命令ですか?」
「命令ならしなきゃ〜〜」

「……は、はい〜〜!?」

隣に誰かがいると知って慌ててネギから離れるのどかの前には……、

「ネ、ネギせんせー……が? ご、五人もいる〜〜!?」

「ネギです」
「ぬぎです」
「いえ、みぎです」
「ホギ・スプリングフィールドです」
「やぎです〜〜」

「キスしてもいいですか?」×5

「え、ええ――――!?」

サラウンドで問われたのどかは大混乱で叫び、近付いてくる五人の顔のアップに……失神した。




「ヒャ――――っ!?」
「の、のどか!?」

扉越しに響いてきたのどかの絶叫に廊下での戦闘は中断する。
慌てて入ってきた全員が見たものは布団に失神するのどかの姿だけだった。

「ま、窓から逃げたんだ!」
「追うよ、史伽!!」

夜風に揺れるカーテンを見た風香はすぐにベランダに出て史伽と一緒に飛び出して行く。

「ゆえ! あんたはのどかのフォローね。
 私はネギ先生を探すから!」
「了解です、ハルナ」

図書館島探検部の二人は気を失ったのどかのフォローとターゲットの発見に分かれ、

「ネギ坊主は逃げたアルか?」
「では拙者らも探しに行くでござるよ」

古と楓の二人は即座に行動を開始し、

「…………私はどうし「村上」……って――に、新田先生?」
「さ、ロビーへ行こうか?」
「あ、あうう……」

一人廊下に取り残された夏美は新田先生に肩を掴まれてリタイアしてしまった。


『おおっと! ここで村上選手も連行された―――っ!!』
「……夏美ちゃん、よく頑張ったわね♪」

十分に場を掻き乱した点を千鶴は評価していた。

「こうでもしないと夏美ちゃんの出番が減りそうだしね♪」
「ちづ姉ぇー……意味分かんないよ」
「ふふふ……作者の意向なのよ」
「全然わかんないから……」

後日、千鶴に尋ねた夏美が聞いた意味不明な言葉だった。



まあ二人の事情はひとまず置いておき……本編へと戻る。
あやかとまき絵の二人は自陣の戦力ダウンから同盟を結んでそれぞれに行動を再開した。
史伽と風香の二人もホテルの庭へと移動してネギの後を追跡。
古と楓の二人も304号室から移動してホテル内を調査していた。
そして304号室の夕映は、

「とりあえず……のどかの回復を待ってハルナと合流です。
 まさかハルナが協力してくれるとは思いませんでしたよ」

可能性としてはありえそうな話だが、罰ゲームがある以上進んで参加するとは思わなかったし……観客側に回ると思っていた。

(もしかしてトトカルチョにのどかで賭けて……儲ける為とか?
 いえ、友人をそんなふうに思うのはいけないですね)

参加者が賭けに参加するのは不味いが……朝倉だけに有りかもしれない点を夕映は考慮しなかった。

(だとすれば……のどかの援護だと信じておきましょう)

人を疑うなど良い事ではないと夕映は判断して気を失っているのどかに目を向ける。

「ハルナと私がきっちりとフォローしますから待っていて……」

のどかを安心させるように呟いて夕映はハルナと合流しようとした時、

――ガチャッ

ドアが開いて廊下の明かりが逆光となって背丈からネギらしい人物が部屋へと入ってきた。

「ネギ先生……ですか?」
「は、はい。えっと夕映さんだけですよね?」
「い、いえ、のどかが奥で休んでます」

チラリと背後を振り返ってのどかの様子を確認しながら夕映はこの機会を逃さないようにしようと考えるが、

「お休みのようですね……丁度良かった」
「え?」
「実は夕映さんにお話があるんです」
「な、何でしょうか?」

個人的な話とネギから言われて少し身構える夕映。
そんな夕映の様子には気付かずにネギが何処となく言い難そうな感じで話し始める。

「じ、実は色々考えたんですが……ぼ、僕、夕映さんのことが……」

とんでもない話を聞かされた夕映の身体がビクッと跳ね……顔が熱を帯びてくる。

「……キスしてもいいですか? 夕映さん……」

急転直下の事態に夕映の思考は硬直し、身体も合わせる様に動きを止める。
ラブラブキッス作戦はいよいよ佳境を迎えそうになっていた。



―――綾瀬 夕映の可憐な唇の運命は!?

―――活目して次回を読もう!!(いい意味で♪ byハルナ)









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

3−Aで生き残る方法ははっちゃけた者のみという独自の考えでした。
そんな理由で、ハルナ、夏美の参戦でした。
さて、次回はどうなることやら……それでは活目して次回を待て。




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