佐々木 まき絵はネギが頑張る姿を見ていて胸の鼓動がいつもより早くなるのを感じていた。

(やっぱ……好きな のかな?)

今ひとつ自分の中にある気持ちが整理できない。
嫌いじゃないという気持ちははっきりと分かっているけど……後一つ何かが欠けているような気分。

「ねえねえ、ネギ君は何で頑張っているの?」

ちょうど一旦休憩に入ったネギに頑張る理由を聞いてみる。

「え、ええっと……それは……そうですね。僕、憧れている人がいるんです」
「へ〜そうなんだ」
「はい、その人のようになりたいし、追いつきたくて……そのためにはどんな困難があっても頑張ろうって決めたんです」

普段よりも大人びた顔つきで何処か遠くを見つめているネギにまき絵の胸の鼓動が跳ねる。

「ネギ君って、結構……大人なんだね」
「そ、そうですか」
「うん、うん……カッコイイね(もしかして……やっぱり好きなのかも?)」

顔が赤くなっていると思うけど、頬に集まっている熱を止められないし……止めたくない。

「そ、そんな? ぼ、僕なんて、まだまだ未熟で……」
「最初っから何でも出来る器用な人なんて、そうそう居ないよ。
 頑張ろうって気持ちがあって、一歩を踏み出せる人がカッコイイんだよ♪」

才能があるって古 菲が言っていたが、本人には限りなく自覚が乏しい。
謙虚なところも大人だな〜と思いつつ、どんな結果になろうとも……最後まで頑張った事を褒めてあげようとまき絵は思った。

(くーちゃんが勝ち目は薄く、非常に厳しいって言ってたけど……頑張った事にも意味があるもんね)

ダラダラと無駄に時間を使ったんじゃない。
自分に精一杯出来る事に費やしたのは悪い事ではないのだとまき絵は思う。
ほんの少しの時間ではあったが、ネギはただひたすらに頑張っていたのを見ていた。

(やっぱり……好きな のかな〜〜?)

真面目に頑張っているネギを見ていると胸の鼓動がドキドキして早くなる。
意識しないようにしても気が付くとネギの姿を追っている自分がいて、恥ずかしいやら嬉しいやら感情が混乱する。
ほんの少し女の子から少女へと変わり始めたまき絵だった。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 四十時間目
By EFF





佐々木 まき絵がネギを好 きだと自覚し始めた頃、ちょうどリィンフォースと買い物をしているところにソーマ・赤と出会った釘宮 円(くぎみや まどか)は複雑な気持ちで向かい合っていた。

「あの〜この前はありがとうございました」
「気にすんな。俺は、俺の都合でやっただけだ」
「は、はぁ……(う〜ん、微妙に悪っぽいところはイイと思うんだけどな)」

不良っぽいところもあるが、微妙に真面目っぽいというか……、

「姫さん、俺が持ってやっから」
「え? いいよ」
「いいからいいから。まだ買うもんあるんだから、それじゃあ持って帰れねえぞ」

買い物途中で両手に物を持っているリィンフォースに……過保護っぽい。
ちょっと強引に手を出して荷物を持つ様子に円は首を傾げる。

(茶々丸さんも過保護っぽいけど……何でだろ?)

一緒に暮らしている事は既に聞いているが、その理由までは知らない。
茶々丸が主らしいエヴァンジェリンよりも、リィンフォースの事をビミョ〜に溺愛していそうな感じも不思議 だ。
複雑な事情がありそうな気配が漂っていたので、今までは無理に聞く気はなかった。
しかし、ソーマ・赤の事が気になる円は……知りたいという気持ちが増えている。

(う、うぅ……美砂の言うように惚れちゃったのか な?)

ムカムカとまでは行かないが……他の女性と一緒に居るのが気になって仕方がない。
リィンフォースとはベタベタとカップルみたいにしているわけでもなく、一歩引いた感じで付き従う部下みたいな関係にも見えるから……色恋沙汰ではないは分 かっているが……目に入るたびに気になる。

(な〜んか嫉妬しているみたいでヤダな〜。私って、結構……嫉妬深いわけ?)

気持ちがハッキリしていれば……行動に移れるが、今ひとつ分からない。

(相手は二重人格だ し……どうすればいいんだろ?)

もう一つの人格であるソーマ・青さんも結構面白くて嫌いじゃないから……困る。

(う、うぅぅ……私って惚れっぽいの?)

二人の人間を同時に好きになったみたいな気分で自分が自分でもよく分からずに苦悩する。

「……どうしたんだろ、釘宮さん?」
「俺にもよくわかんねえな……悩んでるっていうのは態度で分かるんだが?」

あぁ〜〜とか、うぅ〜〜とか、時折口から漏らして百面相みたいに表情を変えて悩む円を不思議そうに見つめる二人。

(二人ともそっち方面はダメだな〜。ま、これはこれで面白いけどね♪)

ソーマ・赤の視線から事情を察して、傍観者らしい立場で円の苦悩を見つめるソーマ・青。
ここで一言アドバイスをすれば二人ともフォローすると分かっていても、それでは面白くならないから……する気がない。

(人というものは誰かを好きになる事で悩み、恋の痛みを知って……人に優しくなれる。
 頑張って、魅力溢れる可愛らしい乙女になるんですよ)

思っている事は悪くはないが……円が悩む姿を楽しげに見つめるのは趣味が悪いとも言える。
それでも悩み、傷付いても立ち上がれる強さを得て欲しいという親心はあるかもしれなかった(多分)




天ヶ崎 千草は現状を把握して最初に放った言葉がこれだった。

「こりゃ……難物やな」
「う、うぅ……」
「ま、まあ初めてですから」

縮こまった姿で椅子に腰掛ける木乃香。
事情を知っていて同席していた刹那も複雑な顔でフォローしている。

「ほんまになんも知らんとは……(詠春はん、甘やかし過ぎやわ)」

実家が神社でもあるから祝詞の一つくらいは知っていると思っていたが……知識ゼロときた。

(つまりは一から全部仕込まなあかんのや な)

占いに関する知識はあったが……西洋系で趣味から講じたもの。
九字は知っていたが、あくまでアニメとかマンガなどの俗に言う空想産物のお話からのもので専門知識ではなく……印の切り方などは知らない。
梵字も知らない以上はいきなり御札の書き方を教えるのもダメときた。

「ま、最初は誰でもそんなものですわ(あ んまり凹ませ過ぎるとあかんし)

あまりボロクソに落 とすと自信喪失で落ち込んだままになって……面倒だ。
しかも、忠犬み たいに木乃香に従う刹那が抗議してくるのが目に見えてくる。

「そやけど……はよう覚えなあかんし」
「無理に教えたって……右から左へ出て行きますえ」

頭の中に知識が入っても、ちゃんと噛み砕いて自身の血肉にしなければ意味はない。
逆にうろ覚えで使う術の方が非常に危ない。
特に呪い系ほど、安易に使えば……返しでしっぺ返しを喰らい易い。
一応、師として教えるからにはそんなおバカな真似をさせる気はないので、きちんと言い含めていた。

「あぅ……」
「まずは魔力の出し方から始めて、お札を起動させるところからやりましょな」
「……うん」
「ほな、とりあえずこれを手に持ち。
 これは五感を鋭くさせて……力の流れを感じやすくさせる札なんや」
「初めて見るタイプですね」
「そうなん?」

千草が取り出したお札を刹那が珍しそうに見つめている。

「海外放浪した時に知り合った大陸の術者に教えてもろたんよ」
「……そうですか」
「そうやで、特に夜道を歩く時は夜目が利いて足元とかよう見える」
「便利なんやな〜」

日常でも使い方次第で非常に役立ちそうなお札に木乃香も刹那も感心するも、

「そうでもないんよ。五感全部が鋭敏になるんで……鼻とかもようなるから体臭とかがとっても気にな るんえ」
「そ、それはまた……」
「微妙やな〜」

女性である以上、汗の臭いと かは気になるのは確かだ。
これを持っているとそういう臭いに敏感になると聞かされては複雑な気持ちになる。

「向こうは汲み取り式のお手洗いも多かったから……慣れるまで大変やったわ」
「……慣れたんですか?」
「命のやり取りしている最中に臭いなんて気にしてられへん」
「……そ、そうですね」
「ほな、刹那も試してみぃや。気の流れを正確に把握する事で効率よく使えるようになるわ」
「あ、それええわ。せっちゃんも一緒にやろな」
「は、はあ、このちゃんがそう言うんなら」

一緒にと頼まれた刹那は千草の方に顔を向けると千草は了承して頷く。
刹那は五感を鋭敏にさせるお札を持つのは正直……嫌な予感がしてならないが、木乃香の期待する目に逆らえるはずもなく。

「それでは一緒に」
「ま、普通に楽にしてやれば、ええしな」
「は〜い♪ ほな、始めよか、せっちゃん」
「は、はい」

刹那の隣に座って、目を閉じて息を整える木乃香。

「そうや……目を閉じて、耳を澄まして、息をするように自分の中にある力を感じるんや」

千草の助言に頷きながら木乃香が自身の裡へと意識を向ける。
刹那も木乃香が真剣に修行を始めるのを見ながら、自分の同じように目を閉じて集中する。
気を扱う修行に瞑想があるので手馴れた様子で裡に意識を向けていく刹那だったが、

(ん?……これって?)

ほんの少し吹いたそよ風に乗って、すぐ隣にいる木乃香の髪が揺れて……シャンプーの匂いが鼻に届く。

(こ、これはもしや……お、お嬢様の?
 お、落ち着け、刹那! い、今動揺した ら……お、お嬢様に気付かれるぞ!?)

女同士で別段焦る必要もないのだが……何故か激しく動揺する刹那。

「はい、ストップ。二人とも少し距離とってやり直しや」
「へ? 何でなん? 千草さん、うち、失敗したん?」
「そやない。刹那の方がこういう修行に慣れている所為か……木乃香の匂いを敏感に嗅ぎとったんえ」
「ち、千草さん!?」
「刹那……動揺しすぎやえ」

慌てて千草に抗議しようとした刹那だが、千草から呆れた様子で言われて……真っ赤な顔になって黙り込む。

(……修行が足りんというか、精神 面の……やな。
 刀子はん、もう少し修行をつけな……あかんやろ)

剣技に関しては何ら不足はないが、情緒面には非常に不安材料が多いと分かった刹那。
師匠の葛葉 刀子は技だけを教えて、をしっかりと鍛える事 を置き去りにしたのかと邪推したくなる。

「な、なぁ……せっちゃん」
「は、はい(う、うぅ……みっともない所をお見せしてしまった)」
「うち、そんなに匂うん?」

真剣な表情で自分の体臭を 気にする木乃香。
同じようにしていたけど……別段刹那が匂ってきたわけじゃなく、自分だけが臭ったというのはかなり痛い。

「め、滅相もない! そ、その偶々ですね、シャンプーの匂いがあって!」
「そうなん?」
「え、ええ! その匂いを感じて……私も同じやつを使ってみようかと余計 な事を考えたんです!」
「そやったら……今度一緒にお風呂入った時に使ってみる?」
「え゛?」
(物の見事に……自爆やな)

本当はほんの少し距離を取って護衛したい刹那らしいが、明らかに木乃香のペースに振り回されて……自爆しているように千草には見 えた。

「おしゃべりはそこまでや。
 ほな、二人とも少し距離を取って再開するえ」
「は〜い♪」
「……はい(う、うぅぅ……また失敗した)」

刹那を見ているともう一人の使い手でちょっと人斬りっぽい月詠を思い出し て……神鳴流そのものの未来を不安視してしまう。
まさかとは思うが、刹那の師匠である刀子も精神面の修行が足りないのではないかと想像して……暗澹たる気持ちになる。

(ほんまに神鳴流は大丈夫なんやろか?)

関西呪術協会の中で最も活躍して欲しい前衛役の一派の次世代に不安要素が多過ぎるのは何故かと問いたくなった千草だった。
この分だと想定外で、しかも専門分野ではない……神鳴流剣士の精神修行も見なければならないかもと思って、どうしたものかと悩んでいた。





ハイスピードバトルと言う様なネギと古 菲の稽古にまき絵は、

「ふわ〜〜すごいんだね」

ありきたりな感心した声しか出せなかった。

「まず基本は手数を出して、自分のペースで戦うアル!」
「は、はい!」
「そうそうチャンスは来ない! たった一度のチャンスを上手く見出すアル!」

古 菲は繰り出されるネギの拳を捌きながら、アドバイスを出す。
週末の試合は、はっきり言って……ソーマの胸一つに掛かっていると古 菲は考えている。

(相手が悪いアル。本気にさせないようにして……一発当てるだけ。でも、その一撃を当てるのが難しいアル!
 私だて、出来るかどうか分からないのに、ネギ坊主には不可能に近いヨ)

油断していれば、当たるかもしれないが……そんな美味しい話があるとは思えない。
元々ネギ坊主にを 持たせるわけじゃなく、危険な場所をうろつこうとしているのを止めさせるために仕組んだ試合なのだ。
最初から最後まで気を抜く事なく試合に臨むのは分かりきった事だ。

(……ネギ坊主は諦めていないアル。
 もしかしたら何か秘策があるのかもしれないネ)

ネギは聡い子供だから、おそらく今回の試合の意味を理解しているはずだと古 菲は考える。
諦めている気配がない以上は、とっておきの切り札でも用意した可能性も否定できない。

(面白い……期待するアル♪)

ネギが自分の想像しない何かをしてくれるのではないかと……古 菲は期待したくなった。





週末の夜、世界樹広場の階段にソーマ・赤は腰掛けて気が抜けたような顔でネギを待つ。

「……緊張感がないな」

見物客の一人のエヴァンジェリンが呆れたような口振りで見つめている。

「まあな……小僧の性格を考えると手の内が見えてくる。
 俺としては、いきなり奇襲で もしてくれねえかと期待したんだが……ダメっぽいな」
「はっきり言うが、ぼーやは毛ほども考えていないだろうな」
「……さっさと黒く染めろよ。ああいう小僧ほど早死にしやすいぞ」
「分かっちゃいるが、別に死んでも構わんし……いっそ死んだ方が楽かもしれんぞ」
「親の尻拭いに奔走して早死にすると睨んでんだが?」
「……それに関しては否定せんよ」

始めの言葉なんか戦場にはないと嘯くソーマ・赤の物言いに聞いていた見物人の千草はやや呆れた様子で二人を見つめている。

(あのぼーやに奇襲を 求めても無理ですえ。
 多分やけど、頭の中身は真っ向勝負で正面から殴り合うが基本やと思いますわ)

"マギステル・マギを目指しているんだから、正々堂々戦って勝つんだ"……そんな純真な気持ちしかないネギが不意打ちなどする筈がないと千草は思う。

(ま、子供のうちからスレた事するよりはええんとちゃうか)

子供のうちから卑怯な手段を平気で使うのは先が見えるから……見たくない。
安易に楽な手段で勝ち続けては進歩しなくなり、強者を相手にした時に死を迎える。
罠や搦め手などという戦法が生き延びた強者に通用すれば勝てるかもしれないが、そんな戦いも経験済み強者なら罠毎を噛み砕いてしまう可能性だってある。

(ほんまは真っ当な戦いを積み上げて生きて行くのが、遠回りなようで一番強くなれる方法かもしれんな)

経験を積み上げるのは悪い事ではない。
自身が得た経験を血肉に変えて、有効活用すれば……予測、経験則から得た直感等という部分が磨き上げられる。
予測から危機を回避したり、ギリギリのところで避けられたら、その分だけ生き延びられる。

(子供のうちはそんなギリギリな場面にそうそう出会う事はないんやけど……難儀な子やな)

あの学園長の下にいる限り……ネギが良い様に扱き使われるのは間違いないと千草は思う。
純真無垢な子供を平和の使者として危 険地帯に放り込んだ経緯があるだけに……少し心配だった。
せっかく小太郎の麻帆良で出来た友人なので、面倒事に係われば……義理堅い小太郎も巻き込まれるのは必然だと感じている。

(小太郎自身は面白いの一言で終わるかもしれへんけど……うちは巻き込まれたないんやけど)

小太郎繋がりで自分も巻き込まれそうな予感がするのは正直……勘弁して欲しい。

(あの嬢ちゃんらとケンカするような事態になったら……尻尾巻いて逃げよ)

封じられていた鬼神を撃破した二人を相手に戦うなど……正気の沙汰ではないと千草は思う。
魔法使いだと思っていたが実際は魔法使いとは一線を隔した存在らしい。

エヴァンジェリン曰く……悪のラスボス。
リィンフォース曰く……隠れクラスのエンカウントの低いキャラ?

(なんや納得できるような、出来ひんような……レアカードとかに分類されるんかな?)

実はラスボスと思わせて、実はそれを裏で操っていた真のボスキャラみたいなもんかなと思う事にした。

(つまり、あのぼーやは鉄人○8号系?)

ネギを見て、千草はエヴァンジェリンがコントローラーを持って、背後から指示を出して動かすのかもしれないと……想像する。

(力関係を見てると……なんやピッタリやな)

糸を使う人形遣いならば、その手の操作は手馴れたものだろう。
見ている限り、確固たる信念や覚悟完了でもなく、耳触りのいい人の意見を耳にして迷いそうな甘さが過分にある。
ミスリードさ せれば、面白いように罠に嵌って自 爆しそうな予感があった。

(あのぼーやも不幸の星の下に生まれたもんやな……ふ、不憫や)

「千草姉ちゃん……なんやけったいな顔してんな」
「……そうか、うちは今……人生の儚さについて考えてたんよ」
「いや、意味わかんねえ?」
「大人になったら、嫌でも分かるえ」
「……そ、そうなんか?」

全然意味が分からずに途惑った顔で千草の言い分を聞く小太郎。

「あ……夏美姉ちゃんも来たんか?」
「あれ、小太郎くん……ネギ先生と知り合いだったの?」
「なんや小太郎も隅に置けんな〜。ちょ〜と目ぇ離したら、可愛らしい子と友達になったんか?」
「そ、そんなんやないで! あれは夏美姉ちゃんと……誰やったかな?
 え〜と……千草姉ちゃんと同い年くらいの人が変な連中に絡まれてたんを青の兄ちゃんと助けただけや!」
「そうやったんか……しかしソーマはんって、どっちも人助けが趣味なんか?」
「違うわ! あれは手加減攻撃の練習やった」

微妙に頬を引き攣らせて話す小太郎に夏美もやや青褪めた顔で何度も頷いている。
明らかに挑発とも言えるような口調でおバカな連中を激発させて……正当防衛扱いに持って行った。

「……キレる少年って怖いねぇ。これも現代社会の歪みか……」
「…………(絶対に嘘や! 最初からその気だったくせに!)

小太郎は悲しげに目を伏せて話すソーマ・青に内心でしっかりとツッコミを入れる。

「いいかい? こういうのはね、先に手を出す前に口を使うものなのさ」
「んで、先に手を出せば……こうなるんやな」

死屍累々と言わんばかりの様子のK.Oされた連中に二人は目を向ける。
仲間の数を頼りに舐めて掛かってきた時点でこうなる運命だった。

「後は骨を砕かず、血を流さずに……叩くだけ。
 そうだね、後は……一月か、二月先ぐらいにポックリ逝かせるのが上手いやり方なんだよ」
「そら、やり過ぎとちゃうんか?」

言葉通り……顔への打撃は最低限にして、腹に痣が残るようなボディーブローが中心。
全員苦悶の表情を浮かべて……唸るような声を漏らしてゲロを吐いていた。

(赤の兄ちゃんは楽にしたんやけど……青の兄ちゃんは鬼やな)

その気になれば、一撃で意識を奪う事が簡単なくせに態と楽にはさせないようなやり方に小太郎の顔は引き攣っていた。
同じように周囲で見物していた人も立ち込める異臭(ゲロ)で距離を取って……やり過ぎに注意しようかと悩んでいる。

「しかし、女の子が困っているのを分かっていて助けようとしない……心の貧しい人間が増えたもんだ。
 昔は貧しい生活の中で助け合う……優しい人間が結構居たんだけど」
「そうなんか?」
「そうさ、物が豊かになると人というのはダメになる生き物かもね。
 こういうふうに人が断っていても、平気で自分達の都合を優先させるなんて……腐り始めているとしか言い ようがない。
 そして、困っていると分かっていても助けようとしないのは……これもまた腐っているのと同じなんだよ」

周囲を見渡す視線は限りなく見物人を見下すような蔑んだ視線。
そんな視線を向けられるのが嫌なのか……早足で逃げ出すような見物人も居た。

「情けないやつもいるもんやな」
「自分が可愛い弱者……違うな、理由をつけて自分を正当化する卑怯者さ。
 君はそんな情けない男にならない様にね」
「俺はみっともない男にはならんで!」

ソーマ・青の意見に対して、声を大にして小太郎は告げる。

「それで良い。強い男っていうものは弱者に対して優しく思いやれるくらいの度量がなくっちゃね。
 弱いというのは悪い事じゃない。自分の弱さを知って、強くなろうとするのは正しい。
 自分が抱える弱さを認められない男は……それなりにしか強くなれないさ」
「ふ〜ん。俺には分からへんわ」
「壁にぶつかれば、否応なく見えてくるさ。
 その時にどうするかで、犬上 小太郎という男の格が決まるのさ」

説教みたいな話に小太郎は顔を顰めて聞いている。
そんな小太郎にまだ少し早かったかなと苦笑しながら、ソーマ・青は話題を変えていく。

「それにしても彼らは女性の扱いがなっちゃいなかったな」
「しつこい連中やったわ」
「全く以って分かっちゃいないよ……ナンパというものは相手の女性が断ったら、後腐れなく引くのが礼儀なんだよ。
 力任せにやる時点で自分達も力で踏み躙られても……文句を言うのは筋違いなのさ」
「なんや納得できるような……出来ひんような……モヤモヤするわ」
「ま、これは僕の流儀だから、自分なりの流儀でやれば良いさ。
 君はこれから自分の流儀を作って行くんだからね」
「それもそやな。青兄ちゃんの流儀に文句を言うよりも、バカをぶちのめして満足した事を良しとするわ♪」
「それじゃ、どこかで茶でも飲もうか……奢るよ」
「サンキュー♪ ちょうど喉が渇いてたんや」

とりあえず意見調整のような形で話を終えて、二人は陽気さを振りまいて歩いて行く。

「ちづ姉……お礼言うの忘れてるよ」
「そうね……すっかりペースを取られたみたい」

呆気に取られてお礼を言うのを忘れていた夏美と千鶴の二人が後に残されていた。



「―――というわけや」
「そうなんです。小太郎くんとソーマさんにはお世話になったんでお礼を兼ねて来ただけです」

この場に居ない千鶴が散々夏美をからかっていたので、これ以上あれこれ言われたくない様子で千草に話す。
何故、千鶴が居ないのかというと、ボランティアで面倒を見ている幼稚園の子供達とその母親達と一緒にハイキングに行く約束をしていたために寝坊しないよう に就寝中だったからだ。
この場に居たら、絶対に千草に合わせるようにからかうのが間違いないので夏美は内心でこの幸運に感謝していた。

「ま、別に文句言うわけやない。これを機会に小太郎と仲良うしてくれると嬉しいわ。
 こっちに越して来たばかりで知り合いが少ないんよ」
「まあな、急やったしな」
「ふぅん、じゃ、よろしくね」
「おう、よろしくな」

自分達の担任であるネギの知り合いらしいし、助けてもらった礼の意味もある。

「ちなみにさ……ネギ先生って勝てるの?」

この一点が妙に気になって、夏美は小太郎に聞いてみる。

「……キツイな。相手が悪いというのが正直な話や」
「そ、そうなんだ」

いよいよ手合わせが始めるのか、二人は申し合わせたように広場の中央に向かい合う形で立つ。
それに合わせるように全員の視線が二人の間に立つリィンフォースへ向かい、一応のルールらしいものを聞くために耳を傾ける。

「とりあえず時間は十五分「え゛?」…… 何よ?」

いきなり説明に異議があるような声を上げるネギにリィンフォースがネギを睨みつつ全員に聞こえるように告げる。

「まさかと思うけど、僕が一撃入れるまでダラダラと戦いましょうとか言いたいの?」
「……んな面倒なこと、絶対しねえぞ」
「ネギ少年って負けず嫌いだから、当てるまでやるとかは無しよ。
 断言しても良いけど……気を失うか、大怪我するまでなんて付き合う気はないから」

ネギに同行していたアスナ達は肩を落として聞いている。

「ネ、ネギ坊主……同門の稽古じゃないから、それは不味いアル」

何か策があると思っていた古 菲はソーマを相手にそのやり方は絶対に不味いと考えて注意する。

「俺はメンドくさくなったら……両足でも叩き折って終わらせても良いよな?
 ちょっとは期待したんだが、肩透かしされちまったから……どうでも良くなった」

肩透かし……格上の自分に奇襲す るわけでもなく、真正面から戦う気概は男としては悪くないとソーマは思うが、

(幾らなんでも……そんな甘えを持ち込むなよ。
 茶々丸なら、手加減してダラダラと相手してくれるが、俺がそんな甘い事を許すと思ってんのか?)

稽古という形ではあるが、実戦形式に近いので遊び半分でするようなものではないと少し苛立っていた。

「エヴァ……何を教えてきたんだ?」
「……ぼーや、ちょっと来い」
「え゛?」
「いいから早く来い!」
「は、はいっ!」


呆れた目でエヴァンジェリンの指導に何か言いたそうなソーマ・赤。
目を向けられたエヴァンジェリンは誤魔化すように咳払いをして……ニッコリ笑ってネギを呼び寄せる。

「このアホォォ―――ッ!!」
「へぶぅ―――っ!?」


恐る恐る近付いたネギにエヴァンジェリンの腰の入ったストレートが炸裂する。

「し、師匠に恥を掻かすとはイイ度胸だ!!」
「はわわ……」

完全に怒りで頭に血が昇っているエヴァンジェリンの睨みに、ネギは恐怖で思いっきり脂汗を流している。

「まったく……なに考えてんだろ?」
「期待して損したアル」

何か、我に秘策ありかと思っていたアスナと古 菲が肩を落としている。

「ネギくん……それはあかんのとちゃうやろか?」
「…………(エヴァンジェリンさんを怒らせるとは……ネギ先生、心中お察しします)」

アスナ達とは違う場所(千草の付き添い)で見つめていた木乃香と刹那が深いため息を吐いて見ている。

「どこの世界に敵に手加減して戦ってくださいなどと言うのだ!!」
「そ、そうじゃありません!
 ぼ、僕は手加減なしで最後までやりたかったんです!!」
「それこそ論外だ!
 戦いの本質は刹那の拍子にある! ダラダラやるのはドシロートだけだっ!!」


相手の隙を突く、相手の動きを封じて、最大の火力で葬るのが戦いの本質だとエヴァンジェリンは理解している。
それだけにダラダラと戦いを繰り広げるようなやり方は愚か者のする事だと思ってしまう。

「赤! もし、ぼーやのやり方で戦う場合、お前はどうした?」
「面倒臭くなったら、内臓破壊の技を使うか……それとも首の骨でもへし折るかな」

聞いていた一般人の面子が一斉に後ずさる。
情け容赦ない意見だが、エヴァンジェリン、リィンフォースに、千草と小太郎はあっさりと同意して頷いている。

「良いか、ぼーや。非情な言い方ではあるが、戦場ではそこら中に死が転がっている」
「…………は、はぁ」

何か言いたげではあるが、ネギはエヴァンジェリンの経験からくる重い言葉に耳を傾ける。

「勝てる時にきちんと敵を倒すのは当たり前の事だ。
 今回は手合わせではあるが、実戦ならアイツは……即座に殺しに掛かってくるぞ」
「ま、否定はしねえよ」

エヴァンジェリンの残酷で無情な意見をあっさりと肯定するソーマ・赤。

「小僧は納得できねえかもしれんが、敵を殺す事で自身の命を繋ぎ留めるのは戦場の習いだ」

そんな事はないと言いたそうな顔でネギは二人を見つめる。

「自然界に於ける天敵って存在は知っているな?」
「……知っています」

突然、別の話に変わったのをいぶかしながらネギは真面目に答える。

「人の天敵はなんだと思う?」
「……人の天敵ですか?」
「自然の脅威……ある種だけに対して優位を保つ存在が天敵。
 何故、人間には天敵がいないか……考えた事はねえだろ?」

ソーマ・赤の問いにネギは考え込む。

「エヴァは知っているでしょ?」
「……まあな。そういうお前も分かっているだろう?」
「少し考えれば、答えは出るんだけどね」
「……そやな。人の天敵なんて……答えはすぐに出るやろうな」

エヴァンジェリン、リィンフォースは別段悩む事なくあっさりと答えを導き出し、千草もやや疲れた顔で呟く。

「せっちゃんは分かる?」
「…………(もしかしたら……そうなんですか?)」

穿った意見の多い三人が導き出す答えを想像して刹那は黙り込む。

「ま、今の小僧には出せない答えだな」
「……それは一体、どういう意味ですか?」
「小僧がぼーやだからさ」
「……からかっているんですか?」

舐められている、子供扱いされているとネギは感じて、ソーマ・赤へときつめの視線を向ける。

「気にすんな。姫さん、そろそろ始めるか?」

ネギの視線に怯む事もなく、ソーマ・赤はリィンフォースに開始の合図を求める。

「そう――「ちょっと待った―――ッ!!」……今 度は何?」

リィンフォースはさっきから思うように話が進まない展開に苛立ちつつ声が聞こえた方に顔を向ける。

「ネギ君! 水臭いじゃないか!」
「山下さん!」
「オォ、慶一アル!」
「ホント、山下さんだ」

男性版"麻帆良四天王"とも言われている四人が広場に現れる。

「すまんな……乱入して」
「許せ、慶一の暴走を抑え切れなかった」
「面白ければイイじゃん♪」

事情をそれとなく告げる二人(豪徳寺 薫と大豪院 ポチ)に軽いノリで挨拶する一人(中村 達也)

「ま、良いですけどね」

何故かソーマに対して敵愾心を持つ慶一を見ながらリィンフォースは不思議に思う。

(山下さんって……ソーマと相性悪いの?)

初顔合わせでは特に問題ないように感じたが、しばらくしてから妙に対抗するように突っかかる。
ソーマ・赤は意味が分からないが半ば面白がり、ソーマ・青のほうは何となく事情を知りながらからかっている雰囲気だ。

(やっぱり……柔術系だから対抗心があるのかな?)

同じ技とまでは行かないが山下が独自に研鑽している3D柔術と日本古来の武術を使うソーマをライバルだと感じているのかもしれないとリィンフォースは考え ていた。

だが、真実は好きな女の子の手料理を横から奪われた嫉妬心とは思わない。

そして、夜天の書、闇の書の記憶を受け継いでも経験としてではなく……記録として持っている生後一年程度の少女に男女間の心の機微など分かりようがないの も確かだ。
全く以って自分が原因だとは気付かないリィンフォース。


どこまでも空回りしている二人だった。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

流石に原作通りの時間制限無しの試合はしません。
はっきり言って、アレは優しい茶々丸だから勝てたというのが私の見解です。
少なくとも茶々丸がその気なら……意識を奪いK・Oする事は簡単に出来ましたから。

そしてリィンフォースに鈍感のスキルらしいものがある事が判明しました♪
一応、生後一年の経験不足のお子ちゃまとは言いませんが、幼い点は多々あります。
そしてその鈍感スキルによって空回りする慶一です。

それでは次回も刮目してお待ち下さい。





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